3人が大広間に入ってくると、チェヨンの傍に座っていたスンギ、ジンモが立ちあがり、ファンを誘って移動した。
シンの向かいに天パの男性、ソン、九尾の順に座り、ファンが座っていた所に初めて見る男性が座った。
シンがファンの行き先を見ていると、隣のチェジュンが教えてくれた。
「さっきから気にしてるようだったから連れてったんだと思うよ。あっちに映画評論家がいるからね」
「えっ!?」
「20年以上前は、映画の敏腕プロデューサーだったらしいけど、突然辞めて評論家に転身したんだってさ」
「へぇ~・・・陛下は映画好きだから、出会ったと言ったら羨ましがるかも・・・」
「あっ、そうだ。俺の隣に座った奴が三尾。三尾は人間にバレないようカラコンしてる。まぁ宮で会う方が三尾だと思って・・・」
「あ、そうか。スンギさんのお父さんに変化(へんげ)してるんだっけ?」
「そう。見比べるとよく分かるんだけどな。マンソクアジョシの方がダサいし、腹が出てる」
「殿下、遠目では拝見しておりましたが、初めまして三尾です。人間名ではホ・ジュノと申します。宮では、こちらの名でお願いします」
「あの、宮であなたの素性を知っている者はいるのですか?」
「いいえ。先帝陛下のみご存知でした。もしかすると皇太后さまは何かご存知かもしれませんが・・・」
「そうですか・・・」
シンと三尾が自己紹介をしていると、チェギョンが乱入して来て、突然ソンの髪の毛を1本引き抜いた。
「姫、何するのさ!?」
「ごめん、ごめん。お守り用に1本もらった。九尾から連絡貰って、慌てて作ってきたの。で、最後の仕上げにね」
髪の毛とお札を小さくクルクルと丸めるとシルバー製のチャームの筒に入れ、そのネックレスをファンに渡した。
すると、三尾がファンを家まで送る為、立ちあがった。
「このメンツの中では、私が一番信用できる風体と肩書なのでね。送っていくよ」
「おい、三尾。俺は、皇后の実兄だぞ!!」
「知ってるが、身なり的に胡散臭い。マンソクを知っている者なら、黙っていても私の方が信頼されるわ。さぁ行こうか」
「は、はい。今日はありがとうございました」
ファンはペコリと頭を下げ、シンに一度頷くと、三尾と共に広間から出ていった。
「スンギオッパ、オンマが呼んでたよ。新鮮なタコが届いたんだって。今ならサンナッチ(タコの踊り食い)食べれるけどどうする?って言ってたよ」
「やった!ついでに甘辛炒め(ナムクポックン)も作ってもらう!!ちょっと行ってくる~♪」
チェギョンとスンギが食堂に向かうと、シンの前に座った2人が真剣な顔をした。
「ミン製薬の家に行ったと聞いた。それほど深刻とは思わなんだが・・・何かあったのか?」
「ええ、少し。あの女生徒が帰宅した時、ソンとチェギョンに素性をばらされたことが原因で完全に負の感情で己を見失ってて・・・とりあえず邪念を祓って、合流したソンが病院に入れてきた」
「そうか・・・後は医師の対話でどれ程改善するかという事か・・・」
「ああ。これ、あの娘の携帯なんだけど、気になったから持ち帰って来た。親父、ファヨン先生という人と何度も通話してる。登録番号を調べたら海外だった。どう思う?」
「「!!!」」
「・・・ソンジョの孫、お前が宮に戻って調べたらいい。儂らには関係ない」
「・・・はい」
『チェヨン、ソンジョの孫には手に余る相手だ。青がこの調子では孫を守るので精一杯。手を貸してくれ』
「カメゾー、お前が護っておる息子がおるではないか。仮にも皇帝だ。あやつに丸投げすればよい」
『あやつは、気が小さい。それ故、体に支障が出て、己の体調維持で精一杯じゃ。ソンジョの愛した宮を潰しとうない』
「・・・・・」
「親父、もう一つ。あの娘の母親、娘の邪気の所為で、体調を相当壊していた。こっちは普通の病院に運んだが、ミン社長はもう家には置いておきたくない。解雇すると言ってた」
「だろうの・・・で、色々問題が出てきたということか・・・」
「ああ、まずは入院費。あと退院後の身の落ち着き場所」
「ここにはおかんぞ」
「分かってる。あの母親、マンソクヒョンの元奥さんだった。スンギの実母だ」
「「「!!!」」」
「は?お前、まさかマンソクに話したのか?」
「ああ。三尾と相談して話した。マンソクヒョンから元奥さんの実家に連絡をしてもらった。私達やヒョンが、入院の保証人になる義務はないし、行く当てもない。ホント八方塞だったんだ」
「・・・で、マンソクは?」
「今日は、マンションの方に戻ると言ってた」
『チェヨン、王族の中にはファヨンの手の者もおる。王族には追放の理由は伝えたというのにだ。それにこれから益々、チェギョンが標的になるだろう。チェヨン、これでも知らぬ振りか?』
「・・・儂が動いて、何の得になる?」
『チェヨン!』
「宮だけ無料奉仕というわけにいかぬ。小さな土地神でさえ季節ごとに何か礼をしてくる。カメゾー、お前達は何をしてくれるのだ?」
『・・・・・』
「よって儂からは倅とソンも動かせぬ。カメゾー・・・ボランティアでチェギョンを向かわせよう。娘の頼みならウォンもソンも手伝うかもしれぬ。それで勘弁せぇ」
『・・・かたじけない』
「それと儂からの提案じゃ。ソンジョの孫を少し修行させろ。己自身を守れる力がつけば、ヨンは宮を守る方に力を注げる」
『その申し出は大歓迎だ。だが、儂らの一存では決められぬ。パクとヒョンの許可がないと孫は動けぬ』
「相も変わらず面倒な所よのぉ・・・孫、お前から皇太后さまに話せ」
「はい」
「ハァ、ファヨンか・・・またその名を聞くとは思わなんだ」
『・・・息子は寂しそうな目をしていたが、良い子に見えたぞ』
「ヨン、起きたか?どうじゃ具合は?」
『随分元気になった。流石、チェギョンとチェヨンの気は美味い』
「それは良かった。ヨン、ファヨンの息子をよく知っておるのか?」
『俺じゃない。俺がチェギョンと遊んでいる時、朱があの子の傍に居たのを何度か見た。朱、良い子だったのであろう?』
『ああ、俺が見えていたよ。あの女が俺への供物の酒を飲んでいる間、可哀想でな。付き添ってた』
「思い出した。あの頃、チェギョンの菓子をよく持って出かけてたな。あの坊主にやってたのか・・・」
『ああ。あの日、俺が祠を焼き払った時、あの子は高熱を出していた。なのに無理やり連れてきて、自分は俺の寝床で男と乳繰り合って、あの子は外で放ったらかし・・・流石にキレた』
シンは朱雀の話を聞き、伯母の行状に言葉も出なかった。
『ソンジョに頼まれ消火をしたが、お前さん、阿呆2人の着物まで態と燃やしただろ?あの間抜けな姿は笑えたが、坊主は3日意識不明だし、あの時の騒動は今も忘れぬわ』
『朱、あの時、あの子の魂とどこに行ってたのだ?』
『青は知ってたのか・・・旅してた。おそらくソンジョは国外追放するだろうと思ったからな。この国の景色を色々と見せてやってた。楽しそうにしてたぞ。あのまま心が穢れてなければ良いが、あの女と一緒だ。期待は出来ぬ』
「・・・ピー助、心配か?心配なら、道を作ってやろうか?」
『は?チェヨン、異国だぞ!?いくらチェヨンでも異国は無理だろ・・・』
「確かにな・・・ずっと道を繋げたままは無理だな。親がどうであろうと、あの不憫な子もソンジョの孫。ソンジョはあの子の行く末を案じておった。で、勝手に儂の念が入ったモノを送っておいた。ピー助なら、その念を辿ってあの子を見に行けるぞ」
『・・・・帰りは?ちゃんと戻ってこれるのか?道を繋げられないんだろ?』
「ん~、ピー助が合図を送れば繋いでやる。そうだな・・・・合言葉は、『ボク、帰りたいの~。お願い~、ここを開けて~♡』でどうだ?そう言えば、扉を開けてやろう。但し、儂が寝ていたら聞こえぬ。その時は、異国の地で何度も儂を呼べ」
『///誰が行くか!!』
「鳳凰はつまらぬな。照れても元から赤いから分からぬわ」
チェヨンの媚びを売るようなセリフと仕草に大広間中、もう大爆笑だった。
深刻で良い話を聞いていた筈が、チェヨンに掛れば一瞬にして笑い話になってしまった。
(ホント掴みどころがなくて面白いお爺さんだな。周りに人が慕って集まってくるのが分かる。いや、人じゃないモノか・・・)
シンが笑っていると、少し酔っ払った老人が話に入ってきた。
「大家、あのソ・ファヨンの話か?」
「ああ・・・まぁ、そうだ」
「昔の知人に聞いたが、ソウルでセキュリティーのしっかりしたオフィステルを探しているらしいぞ。儂にマンソクを紹介してほしいと言ってきおった」
「・・・そうか。帰国準備をしておるのか・・・で?」
「当然、断わったぞ。昔、大根の癖に次々と映画のヒロイン役に抜擢されるから不思議に思って、同期の担当プロデューサーに聞いたことがある。事務所ではなく自ら枕営業しておった」
「「!!!」」
「何だ、その枕営業って?」
「性接待のことじゃ、チェジュン。己の体を提供して見返りに役を貰っておったんだ。また性接待を受けた奴は、全員骨抜きになるほど床上手だったらしい。世間知らずの皇太子なら一発だったろうと、あの当時思ったもんだ」
「・・・映画屋、お前も接待を受けた口じゃろう?」
「流石、大家。話を聞いた後で興味もあったし、儂も若かったからな。まぁ据え膳食わぬは男の恥だろって、味わってみた」
「クク・・・して、感想は?」
「フフフ、男の欲望を全て叶えられる体力と柔軟な体。申し分なかったぞ。ただ40代になった今の方が妖艶さが出て美味しいんじゃないかと思うがな」
シンは、伯母の奔放な性生活に気分が悪くなってきた。
(一体、伯父上はどこを見て、伯母上に決めたんだろうな。不思議だ・・・)
「バカ話はこれぐらいにして、ソンジョの孫、お前はそろそろ帰れ」
「えっ!?」
「そうだな・・・明日9時ごろ、使いを出す。パクさんや息子夫婦にも同席してもらえ」
「はい、お爺さん。あの青龍は・・・」
「一晩、儂に預けておけ。カメゾー、一緒に帰ってやれ。孫がいるから、特別に違う場所に送ってやる」
『また来ても構わぬか?』
「勝手に来ればよかろう。いつも道は繋がっておるわ」
『チェヨン、動くのが面倒だ。特別にここで頼む。孫、儂の尾を持て』
「はい?」
シンは何のことか分からず、言われたまま玄武の尾を握った。
その瞬間、明るく賑やかだった部屋が、真っ暗な部屋に変わり一人ポツンといた。
『おい、着いたぞ。ボサッとするな』
「えっ、あの、ここは?」
『水の匂いがするから、池の近くじゃろう』
シンはかすかに外が見える扉を開けると、そこは香遠亭の中のお堂だと気付いた。
(えっ、どうして・・・?これが、お爺さんの力なのか?)
我に返った時は、もう玄武の姿はどこにも見えなかった。