チェギョンがカヤグムを奏でる横で、ヒスンが涙を流しながら放心している。
チェギョンがこれからの事を考えていると、ウビンが顔を出した。
「チェギョン、客を連れて来た」
「えっ!?」
「入ってもらうぞ」
入ってきたのは、シンと皇后の兄だった。
「えっ!?どうして?」
「チェギョンさん、昨日はお疲れさまでした。今日は、隣の彼女に用があって来たんだ。あなたが、ユン・ヒスンさんですね?」
「へ?あ、はい、そうですけど・・・あなたは?」
「私は、ユ・ジテ。妹に頼まれ、代理で来ました」
「妹さん?」
「ヒスン、皇后さまの事だよ」
「えっ!?」
「ミン本人は直接来たかったようだが、立場上無理でね。それで私が頼まれたわけだ。ヒスンさん、ご両親の事、何とお悔やみを申し上げていいのか・・・同じ王族が人としてあるまじき行為をしていたなんて、知らなかったとはいえ何とお詫びすればいいか・・・大変申し訳ない事をしました」
「・・・王族?」
「ヒスン、王族の全員が、ご両親を殺した人みたいな人ばかりじゃないよ。確かに多かったけどね。でもおじ様は、数少ない品行方正な人だったよ。信頼していい」
「チェギョン・・・分かった。態々、来てくださりありがとうございます。ショックでしたが、事件が解決して良かったと思う事にします」
「・・・思ったよりしっかりされていて良かった。ちょっと待ってくださいよ」
ジテはスマホを取りだすと、どこかに掛けはじめた。
「私だ。今、会えて、謝罪したよ。ちょっと待ってくれよ。ヒスンさん、妹があなたと話したいようです。代わっていただけますか?」
「えっ、え~~!!」
スマホを渡されたヒスンは、テレビ電話になっているスマホに向かって挨拶し、皇后の言葉に涙を流しだした。
電話を切ると、ヒスンは少し心が軽くなったのか、笑みを漏らした。
「チェギョン、皇后さまに会った事がある?会ったら、『頑張って、両親の分も幸せになります』って伝言お願いできるかなぁ?」
「ヒスン、私よりそこにいる息子に頼んだ方が早いよ」
「えっ、息子?誰が?」
「さっきからおじ様の横に座ってるのが、皇后さまの息子の皇太子殿下だよ」
「はぁ?チェギョン、そういう事は先に言いなさいよ!!殿下、ユン・ヒスンです。態々、遠いところまで来てくださりありがとうございます」
「あっ、うん。。。俺・・・ゴメンな。何の力にもなれない」
「いえ、気遣ってくださっただけで十分です。。。ところで、そのボストンバックは何ですか?」
「あっ、これ?俺の着替えだけど?」
「はぁ!?ちょっとシン君、ひょっとしてここに泊まるつもりで来たとか?」
「ああ、チェギョンの安眠枕になりに来た♪」
「マジですか・・・ここは広すぎて、セキュリティー上、宿泊はお勧めできないんだけど・・・」
「チェギョン、午後7時から警視庁が緊急記者会見を開く。お前、警視総監、脅しただろ?」
「人聞きの悪い。少し確認を取っただけよ。オッパ、マスコミが動くよね」
「当然、動くだろうな。ここは危険だ。早く離れた方がいい」
「・・・ヒスン、マスコミの追い掛け回されないようしばらく雲隠れしよう。何泊かできる準備をしてきて」
「う、うん」
「おじ様、少しお尋ねしますが、お仕事は何をしておられるのですか?事業家じゃないですよね?」
「しがない大学教授だ。妹が宮に嫁くことになって、急に歴史に興味を持ち出してね。もっと勉強したくて、そのまま残ったんだ」
「史学ですか・・・はぁ、これも縁なのかも・・・おじ様、2~3日、私に付き合ってください。絶対に損はさせません」
「えっ、それは良いけど、私は着替えの用意はして来てないんだが・・・」
「そんなのは、気にしなくてもいいぐらいあります。シン君は付いてくるんでしょ?」
「勿論!皇太后さまと皇后さまの許可は取ってきてる」
「分かった。おじ様、車はソウルに帰してください。ここには戻りません。オッパ、ヘリの手配、お願い。帰る時は連絡するから迎えに来て」
「・・・分かった」
シンとジテは、ヘリをタクシーのように簡単に呼ぶチェギョンに驚いた。
「チェギョン、どこに行くんだ?」
「本家・・・今度の日曜が祭祀で帰らないと行けなかったから、長居はしたくないんけどそこに行く」
「本家って、昨日の家じゃないのか?」
「あそこは居候先。ソウルの別邸は違う場所にあるんだけど、そこでユルアッパが刺されたんだ・・・」
「「あっ・・・」」
「だから命日には手を合わせに行くけど、それ以外は辛くってあまり足が向かないんだ」
「チェギョン・・・」
「大丈夫。あのおじ様もシン君も本家の事は誰にも言わないでください。あまり知られたくないんで・・・」
「・・・分かった。伯父さまもいいですよね?」
「あ、ああ・・・」
30分後、施設の屋上にヘリが到着し、チェギョン達を乗せるとすぐに飛び立った。
(大邱より西の方角なのは分かるけど、一体、どこに向かっているんだ?)
30分も飛ばない内に ヘリは着陸の態勢に入った。
辺りはもう薄暗くなっていて、シンとジテ、そしてヒスンは、山間部だという以外どこか全く分からなかった。
ヘリを降りたシン達は、目の前の光景に驚かずにはいられなかった。
(何で、こんな山間に宮殿があるんだ!?ここは一体・・・)
「チェギョン、君は・・・そうなのか?」
「流石、大学教授ですね。ようこそ、当家へ。シン宗家当主、シン・チェギョンです」
「「!!!」」
「足元に注意してください。本家に案内します」
チェギョンがヒスンの手を引いてスタスタ歩いていく後ろを シンとジテは付いて歩いた。
「噂で耳にした事はあったが、本当に実在するとは・・・」
「伯父上、チェギョンは一体・・・」
「ここは、滅亡した扶余の残党が作った宮。彼女は百済王朝の末裔・・・扶余の姫君だ」
「えっ!?」