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Channel: ゆうちゃんの日記
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前進あるのみ 第47話

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7月、世間ではとうの昔に衣替えが済み、学校でも夏の制服に代わっていた。
昼休み、いつものメンバーの男性陣は、中庭の木陰でグッタリとしていた。
 
「あちぃ・・・何で、女たちはあんなに元気なんだ?それにシン、ユル、冬服着てんのに何でそんな涼しい顔してんだ?暑くないのか?」
「・・・・・」
「ギョン、愚問。暑いに決まってるじゃん。でも法度で決まってるから、脱げないんだよね。口を開いたら不満を言ってしまいそうだから、シン、無口だろ?」
「だからか・・・何で、機嫌悪いんだろと思ってたんだ」
「・・・それは、ギョン、お前が『暑い、暑い』と連呼するからだ。聞いてるだけで、イラつく」
「シン、す、すまん」
 
眉間に皺を寄せて不機嫌そのものだったシンの顔が、突然穏やかな顔に変わり、笑顔を見せた。
 
(((????)))
 
「チェギョン、どうした?顔が真っ赤だぞ?!」
「うん。ソウルの夏って暑いんだね。何もしなくても汗が出てくるなんて、久しぶりかも・・・」
「ヨーロッパに比べたら、そら暑いだろうな。冷たいお茶あるけど、飲むか?」
「うん♪」
 
(((やっぱチェギョンがいるのと、いないのとでは全然違うよな・・・)))
 
シンから水筒を受け取り、ゴクゴク一気飲みしたチェギョンは、おもむろにスカートの下に穿いていたジャージを脱ごうとしだした。
 
「「「!!!」」」
「チェギョン!お、お前、人前で脱ぐんじゃない!!」
「大丈夫!ジャーン、下にスパッツ穿いてるだよね。ふふふ、ビックリした?」
 
イン達は脱力し、シンだけはホッとしたが、チェギョンが制服の上着を脱ぎかけた瞬間、シンは声を荒げた。 
 
「チェギョン、脱ぐな!!」
「へ?やだよ、汗びっしょりなんだもん。見てよ、背中なんて肌に引っ付いてるんだよ」
「ダメだ!脱ぐなら、帰るぞ。ユル、俺とチェギョンの荷物、頼む」
「えっ!?あっ、うん・・・」
 
シンはチェギョンの腕を掴むと、もう片方の手で翊衛士に連絡を入れるため携帯を弄りながら、裏門へ向かった。
ユルを含む男性陣が、呆然と見送っていると、ガンヒョンが駆け寄ってきた。
 
「ユル君、チェギョンと殿下、どうしたの?」
「・・・僕らも分かんないんだよね。急に怒鳴ったかと思うと、チェギョン連れて帰っちゃった」
「はぁ?殿下がチェギョンに怒鳴った?そんなの、あり得ないでしょ?」
「だろ?でもチェギョンが、暑いからって突然服を脱ぎだしたら、急に。。。ほら、あそこにジャージあるだろ?」
 
インが指さした方に目を向けると、チェギョンのジャージが脱ぎ捨てられていた。
 
「・・・ひょっとしてブレザーも脱ごうとした?」
「えっ、おお。汗びっしょりだって、背中見せてたけど?ガンヒョン、それが何か?」
「・・・殿下は知ってたのね。ユル君は、気づいてなかったの?」
「えっ!?何が?」
「チェギョンよ。あの子、ブラしてないのよ」
「「「えっ、えーー!!?」」」
「ご両親といつから離れて暮らしているのか知らないけれど、その辺無頓着なのよね。美術科は女生徒が多いけれど、男子生徒がいないわけじゃないし・・・だから、焦って連れ帰ったんだと思うわよ」
 
シンの行動がやっと理解できた男性陣は、笑いたい反面、チェギョンの孤独を知ったような気がした。
 
「ユル君、チェギョン、課題全然できてないんだけど、大丈夫だと思う?」
「ハァ・・・だよね。僕が、画材一式持って帰るよ。ガンヒョン、チェギョンの道具、揃えてくれる?」
「分かったわ」
「あの~、お話し中、ごめんなさい。画材一式って、何の話?あの二人は、どこに行ったの?」
 
突然、声を掛けられ振り向くと、そこには不思議そうな顔をした女性が立っていた。
メンバーたちは、顔を見合わせた後、代表してユルが答えることにした。
 
「彼女、美術科なんですが、課題ができてないのに帰っちゃったみたいなので、家で描かないと間に合わないんです」
「美術科?チェギョンは、美術科なの?」
「えっ、あ、はい。あの・・・失礼ですが・・・」
「あら、ごめんなさい。チェギョンの母親イ・スンレです。ビザの更新の為、主人と一緒に一時帰国したの」
「「「!!!」」」
「あ、あの、はじめまして。僕、イ・ユルと言います。父から、チェギョンのお父さんと親友だと聞いています」
「えっ!?じゃあ、あのユルちゃん?」
「えっ!?」
 
突然、スンレがユルにハグしたので、ここにいる全員が固まってしまった。
 
「あの小さかったユルちゃんが、こんなに大きくなったのね」
「あ、あの・・・僕の事をご存じなんですか?」
「勿論!だって私が、ユルちゃんにオッパイあげてたんだもの。ユルちゃんとチェギョンは、乳兄弟ってやつなのよ」
「「「!!!」」」
「そうなんですか?知りませんでした。その節は、色々とお世話になりありがとうございました」
「クスクス、ユルちゃん、礼儀正しい子に育っちゃって。。。それよりチェギョンは、本当に舞踊科じゃなく美術科なの?」
「はい。バレエは、趣味程度で良いって言ってました」
「えっ!?そうなの?」
「アジュマ、はじめまして。チェギョンとクラスメートのイ・ガンヒョンと申します。チェギョンが一番したかった事は、友達をいっぱい作って、青空の下でお喋りすることだと言っていました。今、それが実現できて、すごく嬉しいし楽しいって言っています」
「そう・・・そうよね。ガンヒョンさん、教えてくれてありがとう。それよりさっきチェギョンを連れていったのチェギョンのBF?すごくイケメンみたいだったけど、どんな子なの?」
 
スンレの問いかけに 全員が顔を見合わせ、言葉に詰まってしまった。
 
「ユルちゃん?ガンヒョンさん?」
「アジュマ・・・アイツは、僕の従兄弟のシンです」
「えっ!?じゃあ、皇太子殿下?」
「はい、そうです。アジュマ、詳しくはアジョシとご一緒にご説明させていただきます。今、アジョシは?」
「主人は、帰国したら絶対に顔を出すように言われてたらしくって、先輩が務めている病院に行ってるの」
「それって、王立病院の心療内科医のアン医師ですか?」
「よくご存じね。そう、アン医師よ」
 
ユルはスンレに確認を取ると、父親のスに連絡を入れ、シン・チェウォンが帰国していることを告げた。
 
「アジュマ、この後のご予定は?」
「ええ。本当は、ここでチェギョンを拾って、主人と待ち合わせるつもりだったの。今、どうしようか思案中!」
「じゃあ、僕と一緒に徳寿宮までお越しください。今、父に連絡したので、待ち合わせ場所は間違いなく徳寿宮に変更になると思います」
「クスクス、昔も思ったけれど、皇族の方って皆、強引よね。分かったわ。ユルちゃん、早退してくれるの?」
「ええ。ファン、悪いけど、シンの荷物持ってきてくれる?ガンヒョンは、チェギョンと僕のをお願い」
「「了解!!」」
「アジュマ、行きましょう」
 
ファンとガンヒョンが校舎に駆け込んで行き、ユルはスンレと一緒に玄関へと向かいながら、シンの携帯を鳴らした。
 
(シン、何で出ないんだ?こういう時は、当事者がいないと話にならないってば・・・ホント、頼むよ)
 
 
 
 

前進あるのみ 第48話

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公用車に無理やり乗せられ膨れているチェギョンを見て、シンは心の中で大きな溜め息を吐いた。
 
(ハァ、チェギョン、男は俺みたいなヤツばっかじゃないんだぞ?!もう少し危機感、持とうぜ・・・)
 
チェギョンのマンション前で車を降りると、シンは公用車を帰してしまった。
 
「シン君、帰りはどうすんのよ?」
「隣のパン翊衛士に頼む。それより部屋に行くぞ」
 
シンはチェギョンの手を引っ張り、マンションに入ると、エレベーターを目指した。
機密性の高いマンションの玄関扉を開け、部屋に入ると、ムッとする熱された空気が体に纏わりつき、汗が噴き出してくる。
シンはすぐにベランダに出る窓を全開にし、空気の入れ替えをした。
 
(何なんだ?この暑さは・・・マンションって憧れてたけど、夏は勘弁だな・・・)
 
シンはソファーに上着を脱ぎ捨てると、振り返った。
 
「!!!チェギョン、お前、な、何やってんだ??!」
「えっ!?何って・・・暑いから、脱いだだけじゃん。私しかいないんだし、シン君も脱いだら?」
「・・・・・」
「ところで、シン君、何で帰ってきたのか、説明してくれるかなぁ?訳分かんないんだけど・・・」
 
スカートをパタパタさせながら、聞いてくるチェギョンにシンはマジで頭が痛くなった。
 
「・・・制服の上着を脱ぎたいなら、付けろ」
「付けろ?何を?」
「ブラだ!芸校は、女子高じゃないんだぞ!女なら、もう少し危機感を持て!!」
「へっ!?ケラケラ・・・お子ちゃま体型の私だよ?あり得ないって・・・ブラウス、汗で引っ付いて気持ち悪いから着替えてくるね」
 
チェギョンはブラウスのボタンを外しながら、クローゼットのある部屋へと入っていった。
扉を閉めることなく、スカートを脱ぎ、ショーツ一枚でウロウロする姿が目に入った瞬間、シンの中で何かが切れた。
部屋に入ると、チェギョンを背後から抱きしめ、両方の胸を手で覆った。
 
「///えっ!?シン君?」
「お前は、男という生き物が分かってない。ひょっとして、俺を誘ってるのか?」
「ち、違う・・・」
 
シンは、そのままチェギョンの胸を揉みしだきながら、指先で先端を摘まみ、弄っていく。
チェギョンは必死に逃れようとしたが、シンは容赦なく、感じて尖ってきた先端を刺激し続けた。
 
「シン君、やめて・・・あっ・・・」
「チェギョン、感じてんだろ?こっち、向けよ」
 
片方の手を胸から顎に移動させると、グイッと自分の方に振り向かせ、シンはチェギョンの唇を貪った。
息苦しさからチェギョンの口が開くと、シンは舌を潜りこませ、チェギョンのそれと絡めていく。
そして小さい布に覆われた秘所に手を伸ばし、布ごしから撫でだした。
 
「///!!!あっ・・・んっ・・・」
「気持ちいいか?チェギョン・・・胸が小さかろうが、こうして触られれば感じてしまうもうれっきとした女性の体なんだと自覚しろ」
 
シンが布の中に手を入れ直接触れると、秘所はすでに潤んでいる。
敏感な個所を円を描くように執拗に撫で続けていると、チェギョンは足をガクガク震わせ、目の前にあったベッドへと倒れ込んでいった。
シンは、グッタリとしているチェギョンの隣に寝転び、汗で額に張り付いている髪の毛を撫で上げ、梳いてやった。
 
「ちょっとお仕置きのつもりがスイッチ入っちまった。怖かったか?」
「・・・・・」
「女性も男性の好みが人それぞれのように 男も人それぞれだ。それに触れてみて思ったんだが、チェギョン、お前の胸、そんなに小さくないぞ。キレイな形だし、俺的にはストライクど真ん中の大きさだな。うん」
「・・・変態」
「クスクス、男って、こういう生きもんなんだ。チェギョン・・・いつか俺の許から飛び立っていくのは分かっている。それまではオッパとしてでもお前の傍にいたいと思ってる。だから、もうこんなことしないから、今日の事は忘れて、今まで通り接してほしい」
 
シンが言い終えた瞬間、向こうを向いていた顔をシンの方に向けると、ガバッっと上半身を起こした。
 
「ちょっと、待ってくれる?その私が、シン君の許から飛び立つって、どういうこと?」
「・・・・・」
「シン君、この前、俺の事を考えてくれって言ったよね?昔の約束を守ろうって・・・あれって、私の体の為を思って吐いた嘘だったの?」
「チェギョン・・・それは・・・違う」
「どう違うのよ?薄々感じてたけど、シン君にとって私は、手のかかる妹なんでしょ?あ~あ、真剣に悩んで損した」
「そんな訳ないだろ!俺がどれ程お前を愛してるか・・・本心は、今すぐにでもお前を俺のモノにしてしまいたい。でも俺がそれを望めば、あの窮屈な宮に縛り付けてしまうことになる。折角、自由を手に入れたお前をまた檻の中に入れてしまう事になるんだぞ。そしてお前は、俺の大好きな笑顔を失う。それが分かってて、手を伸ばせるか?」
「シン君・・・」
 
シンの悲痛な本心を聞いたチェギョンは、シンの体の上に跨った。
驚いてチェギョンを見上げたシンは、チェギョンが目を潤ませながら怒っていることに気づいた。
 
「誰が、宮は窮屈でイヤだと言った?シン君の目には、私が窮屈そうに映った?」
「チェギョン・・・」
「ストレスと緊張の連続の毎日の中で、心の支えはシン君との楽しい思い出とあの約束だった。行き場を失くした時、一目シン君に会いたくて、例えシン君が私の事を忘れていても同じ空気を吸えるだけで良いと思って帰国したのに・・・シン君に言われて、やっと私の夢が叶えられると思ったのに・・・」
 
そこまで言うと、チェギョンはポロポロと涙を流しだした。
 
「チェギョン・・・じゃあ・・・チェギョンの夢って・・・俺のお嫁さんだったのか?」
「もう、いい。アメリカのアッパとオンマの許に帰る。シン君、出てって!」
 
ベッドから降りようとしたチェギョンをシンは後ろから抱きしめ引き留めた。
 
「チェギョン・・・ゴメン。俺、臆病だった」
「もういいから、放して!」
「放さない!俺、自信がなかった。でもチェギョンの気持ちが俺にあると分かった以上、手放すことはできない。チェギョン、愛してる。もう我慢しない。このまま俺のモノになれ」
 
シンは、そう耳元で囁くと、そのままチェギョンの首筋に唇を這わせていくのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

前進あるのみ 第49話

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隣でグッタリとしているチェギョンを見て、シンは自分の暴走ぶりに苦笑してしまった。
最初は、怖がらせないように何度も【愛してる】と囁いていたシンだが、触れたときに気づいていたはずなのにいざその幼い秘所を目にすると、下半身に血が集まりだし、理性をかなぐり捨ててむしゃぶりつき、がっついてしまった。
 
(参った・・・すべてが俺のツボだし・・・前にギョンにロリコンなのかと言われてムカついたけど、これじゃあ、俺、否定できそうにない。。。)
 
「チェギョン、大丈夫か?」
「///うん・・・何とか・・・」
「俺だけ気持ちいいのは悪いと思って頑張ったんだけど、どうだった?最後の方は、気持ち良くなってたよな?」
「///そんなこと聞かないで!」
「・・・ゴメン。なぁ、動けそうか?」
「無理・・・」
「だよな・・・俺もちょっと辛いかも・・・」
 
窓から吹いてくる風が当たり、全身にかいた汗が引いてきて、気持ちいい。
シンとチェギョンがベッドでまったりしていると、開け放たれたリビングとの間のドアの影から、声を掛けられた。
 
「殿下、落ち着かれましたでしょうか?」
「えっ!?ぱ、パン翊衛士か?」
「はい、さようでございます。4時までに宮にお戻りになるようにと私に連絡がございました。そろそろお帰りの準備をお願いします」
「///分かった。パン翊衛士、俺が服着るまでちょっと待っててくれ。呼んだら、クローゼットからチェギョンの服を出してやって。チェギョンも宮に連れ帰る」
「えっ!?何で、私まで・・・・?」
「このまま俺一人帰って、ヤリ逃げみたいに思われても困るからな。初めて愛し合った日ぐらい一緒にいよう」
「///オンニがいるのに 恥ずかしすぎる・・・」
「開き直れ!」
「ギャ~!急に立ち上がって、そんなもの見せないで!」
「ハァ?今さら・・・」
 
シンはパンツと制服の下だけ穿くと、チェギョンの上にシーツを被せ、パン翊衛士を呼んだ。
恥ずかしいのか、チェギョンはシーツを頭から被ってしまっている。
 
(現場を目撃されてんだし、今さら誤魔化せないよな・・・)
 
パン翊衛士は、部屋に入る前にシンをリビングの方に呼び出した。
 
「殿下、避妊されましたか?」
「///・・・してない」
「殿下、私も一応、主人も子どももいますので、気になさらずとも結構です。では、チェギョンが下着を穿く前に ご自分の出したモノをティッシュかタオルでキレイに拭いてさしあげてください。これは、男性の仕事です」
「わ、分かった。あとは?」
「特には・・・ただ回数を重ねますと、男性は自分本位なセックスになりがちです。いつまでも初心を忘れず、愛してあげてください。これは、口には出せないですが、多くの女性が不満に思っている事だそうです」
「・・・パン翊衛士も?」
「うちはまだ新婚ですので、ご心配していただかなくても結構です。では、お着替えを用意します」
 
(・・・パン翊衛士、真面目な顔して・・・クククッ・・・)
 
クローゼットから着替えを出して、部屋を出て行こうとするパン翊衛士を、シンは慌てて呼び止めた。
 
「パン翊衛士、こいつの下着ってこんなのしかないのか?」
「はい。探してみましたが、スポーツブラお一つとショーツは、おそらくレオタード用のものだと思いますが、この種類しかございませんでした」
「マジか・・・すまない、制服も持って帰る。袋に詰めてやって」
「かしこまりました」
 
パン翊衛士が部屋を出ていくと、シンはパン翊衛士の言われた通り、綺麗に始末して、まだ動けそうもないチェギョンに服を着せてやった。
そして自分もワイシャツと上着に袖を通すと、チェギョンをひょいと抱き上げた。
 
「パン翊衛士、待たせた。すまないが、戸締りを頼む。行こうか」
「かしこまりました」
 
後部座席に乗り込むと、パン翊衛士は宮に向けて、車を走らせた。
 
「チェギョン、ソウルの夏は暑いでしょ?だからって、冷たいものばかり飲んでたら、夏バテしてしまうわよ」
「うん。それは、分かってるんだけど・・・」
「夏は、反対に熱いものや辛い物を食べて、汗をかいて、暑さを吹き飛ばすのよ」
「は~い」
「それから、薄着をしたいなら、世の男性に犯罪を犯させないためにもブラジャーをするかニップレスを貼りなさい。分かった?」
「さっきシン君にも言われたんだけど、やっぱりしないとダメ?」
「ダメ!チェギョン、最近のブラはすごく良いのよ。正しいつけ方をすれば、待望の谷間ができるわよ」
「えっ!?ホント?」
「ホント!チェ尚宮さまなら、チェギョンも聞きやすいでしょ?今日、付け方を教えてもらったら?」
「うん♪そうする~。オンニ、ありがとう」
 
パン翊衛士は、バックミラーでシンと目を合わすと、パチンとウインクをした。
 
(パン翊衛士、有難いけど、一体いつから俺たちの話を聞いてたんだ?流石に俺でも恥ずかしいぞ・・・)
 
東宮玄関に車を乗りつけると、パン翊衛士は一緒に降りてきて、シンの横に立った?
 
「ん?何か?」
「一つ、言い忘れておりました。部屋に戻られましたら、上着のポケットをご確認ください」
「・・・分かった」
「では、私はこれで失礼いたします。チェギョン、明日も迎えに来るから、ここで待っててね」
「は~い。オンニ、ありがとう」
 
シンはチェギョンを抱っこして東宮殿に戻ると、チェギョンをバスルームに押し込み、直ぐにチェ尚宮を呼んだ。
 
「///チェ尚宮、チェギョン用の下着は用意してあるのか?」
「クスクス、はい、用意してございます」
「そうか・・・すまないが、もう数組、マンション用に買い足してやってほしい。アイツ、持ってなくてビックリした。それからブラのつけ方を教えてやってくれ。アイツ、谷間に憧れてるらしい」
「クスクス、かしこまりました」
「俺もシャワー浴びてから、執務に入る。今日は、ここで執務をするから、必要書類を持ってくるようコン内官に頼んでほしい。じゃあ、頼む」
 
私室に戻り、制服の上着のポケットに手を入れてみると、小さな箱とメッセージが書いた紙切れが入っていた。
 
【我が家は当分必要ございませんので、うちのストックですが遠慮なくお使いください。殿下、避妊は男性の義務です!儒教の国でのデキ婚は、女性が肩身の狭い想いをしますよ。経験者は語るです】
 
(プッ・・・パン翊衛士、面白すぎ・・・でもあの真面目そうなハン内官が・・・ダメ、俺、腹イタイ。。。)
 
クローゼットの中で、一人大爆笑するシンだった。
 
 
 
 
 

前進あるのみ 第50話

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シンとチェギョンがマンションで愛し合っている頃、チェギョンの母親スンレは、ユルと一緒に徳寿宮に降り立ち、スの熱烈な歓迎を受けていた。
 
「スンレさん、ようこそ。イヤ~、昔と全然変わってない。ホント、会えて嬉しいよ」
「殿下、お久しぶりです。クス、殿下もホントお変わりなく、相変わらず強引ですよね」
「クスクス、お蔭さまでね。ユルや、お帰り。スンレさんを連れて来てくれて、ありがとうな。ん?その鞄は・・・シンとチェギョンのかい?」
「父さん、ただいま。今日の昼休み、シンがチェギョン連れ帰っちゃって・・・あとで届けないといけないんだよね」
「クククッ、シンの奴、我が儘全開だな。スンレさん、もうすぐチェウォンも来ます。奥でゆっくりお茶でも飲んで、待ちましょう。ユルも着替えておいで」
「はい。アジュマ、少し失礼します」
 
リビングで腰を落ち着けたスとスンレ。
何か聞きたそうにしているスンレを制し、スは口を開いた。
 
「スンレさん、あなたが仰りたいこと、また聞きたいことがあることは分かっています。チェウォンが来たら、一緒に説明します。どうかそれまで待ってくれませんか?」
「・・・分かりました」
 
リビングにユルが来て、3人で昔話をしていると、廊下が突然騒がしくなってきた。
 
「クククッ・・・相変わらず騒がしい男だ。ユル、あれがチェギョンの親父だ」
「クスクス・・・はい」
「こら~!!俺の都合も考えず、拉致するな!!お前の所為で、アン先輩に会えなかっただろうが!!」
「アン医師も呼んだ。もうすぐここに来るだろう。だから、安心しろ」
「相変わらず、強引なくせに細かい事まで気がつく奴だ。ス、久しぶり。色々、頼んで悪かったな」
「構わん。私も娘ができたようで喜んでる。チェウォン、紹介しよう。息子だ」
「アジョシ、ユルです」
「お~~、あの小さかったボンか?大きくなったなぁ・・・ボンが乳離れするまで、俺らはここに住んでたんだけど、仕事から帰ったら、お前の親父、ボンとスンレとチェギョンと4人で川の字で寝てんだぞ。初めて見た時は、俺まで離婚の危機かと一瞬目の前が真っ暗になったよ。ス、一人寝が寂しかっただけみたいでホッとしたけどな」
「クスクス、結局、毎晩、5人で雑魚寝してたのよねぇ~。あの時は、楽しかったわ」
「///チェウォン!スンレさん!ユルの前で恥ずかしい話をするな!!」
「ふん、俺らを拉致した罰だ!!」
 
豪快で、父親のスに対して、ズケズケ言うチェウォンをユルは、一発で気に入ってしまった。
だが、これから話しするだろうチェギョンの事を知ったチェウォン夫妻は、どういった反応をするのか分からず、ユルは不安を感じた。
 
「・・・で、俺を拉致した理由は何だ?チェギョンの事か?」
「ああ、そうだ」
「まさかお前以外の皇族と関わっているんじゃないだろうな?」
「あなた・・・チェギョン、舞踊科じゃなく美術科に通っていて、ユルちゃんとクラスメートなんですって」
「何だって!!?ス、これはどういうことだ?」
「アジョシ、僕から説明させてください。父さんが出した願書は、間違いなく舞踊科に印がついていました。チェギョンが土壇場で、美術科に変更したんです。『10年ぶりの祖国で話せるが、読み書きができないので、美術科だと思って適当に〇を付けてしまった』と先生に言い訳していました。担任の教師に確認を取ってもらっても結構です」
「チェギョンがなぜ・・・」
「ユルからその話を聞いて、私は驚いて、チェギョンをここに呼び出した。チェギョンは、プリマは父の夢であって、自分の夢ではない。バレエは嫌いじゃないが、趣味程度で良いと言ったよ」
「あれだけ頑張っていたのに趣味程度で良いって・・・」
「チェウォン、それも聞いた。今まで得た賞賛や名声を捨てるのは勿体ないのではないかってな。チェギョンは、『あれが名声なら、私は要らない』って断言したよ」
「あの親孝行なチェギョンが・・・今まで一度も私たちに逆らったことなかったのに・・・ス、チェギョンに一体何があったんだ?」
「・・・チェウォン、スンレさん、チェギョンはどんな子だと思ってるんだ?」
「えっ!?」
「チェギョンは、死んだチェジュンの分まで親孝行して、二人分生きようと頑張っていたんだと思ってます。そして何かの切欠で、その糸が切れたんじゃないかしら。あなたは親孝行だと言うけれど、渡米してからのあの子は私には子どもらしくない子に見えたわ」
「スンレ・・・」
「アジュマ、アジョシ、僕から見たチェギョンは天真爛漫で元気いっぱいのお転婆娘です。シンは、昔と全然変わっていないと言ってます」
「ユル君・・・チェギョンは、シン坊と再会して、まさか宮に出入りしてるのか?」
「あなた・・・学校に迎えに行ったら、チェギョンは殿下に手を引かれて、早退して行ったわ」
「ス・・・あれだけ頼んだのに・・・どうして・・・」
『チェウォン、お前のその意地が、チェギョンをボロボロにしたのが分からないのか?』
「えっ!?」
 
背後から聞こえた声に振り向くと、そこにはアン医師が立っていた。
 
「チェウォン、やっと帰ってきたか・・・」
「はい、やっと一時帰国できました。トンボ返りですが・・・先輩、一体、何の話です?俺が、チェギョンをダメにしたとでも言いたいのですか?」
「・・・チェウォン、このカルテを見て、お前の意見を聞きたい。目を通してくれ」
「カルテ?心療内科は、俺は専門外だから、見ても何のアドバイスもできませんよ」
「チェウォン・・・チェギョンのカルテだ」
「えっ!?」
 
アン医師の手からカルテをふんだくると、チェウォンは真剣な眼差しで読みだしたが、徐々に顔色を失っていった。スンレも不安そうにチェウォンを顔色を窺っている。
 
「先輩・・・事実なのか?」
「ああ、事実だ」
「専門外だが、完治には最低3年はかかると診た。間違いないか?」
「俺の所見では、最低5年だった。でもな、体重も順調に増え、もうほぼ完治に近い。あとは月経が始まるのを待つばかりなんだ」
「えっ!?それは、どういう・・・」
「殿下だよ。食事管理から体調管理まで、すべて殿下がしてチェギョンを支えておられるよ。チェギョンが体調を崩したら、宮に連れ帰って寝ずの看病までしておられる」
「あのシン坊が?」
「ああ。殿下もな、俺の患者なんだ。お前たちが渡米してからこの10年、俺以外とは誰とも口をきかれなかった。俺もカウンセリングの時だけだった。殿下のカルテも持ってきた。読んでみるか?」
「・・・読ませてくれ」
 
読み進めていくうちに チェウォンの目に涙が滲んできた。
 
「先輩・・・俺がここまでシン坊を追い詰めたのか?」
「そうじゃない。殿下にとって、チェウォン、お前とチェギョンは心の支えだったんだ」
「アジョシ・・・シンは、チェギョンと再会した時、『生きてたんだ』と言って泣いてました。ずっと自分の事を人殺しだと思ってたみたいです。またアジョシのことは、アジョシの子になりたいと思ってたと言ってました」
「チェウォン、殿下もチェギョンと再会して、カウンセリングする必要がなくなった。サイボーグが人間に生まれ変わったんだ」
「は?」
「チェウォン、それだけじゃない。チェギョンを守るために目覚めた。権力を得ようと画策していた王族たちに牙を向けたんだ。王族会を改革し、公務にも力を入れ始めた。今、宮を引っ張っていってるのは、間違いなくシンだよ。チェギョンが宮に出入りするようになってから、宮も明るくなった」
「・・・ス、何が言いたい?」
「チェウォン、シンとチェギョンは、お互いがお互いを必要としている。チェギョンを宮にくれないか?これは、皇族だけじゃない、宮で従事している職員全員の願いなんだ」
「・・・少し考えさせてくれないか?」
「チェウォン!!」
「ス・・・俺は尊敬する親父の跡を継ごうと医学の道に入り、宮に出入りしてたのは知ってるよな?そこで俺が見たものは、ス、お前の苦悩とミン妃の涙、そしてシン坊の孤独だった。あとヒョンの非情さか・・・お前や先輩の言いたいことは、分かる。分かるんだが、心がどうしても付いていかないんだ」
「チェウォン・・・一つ、聞いていいか?それほど宮を嫌っているのに、なぜこの私にチェギョンを託したんだ?」
「・・・親父だよ。死ぬ間際に手紙を送って寄こしてきた。『殿下を助けてくれ!儂の最後の頼みだ』ってな」
「チェウォン・・・なぁ、折角、ソウルに来たんだ。チェギョンたちを呼びだして一緒に食事をしよう。シンもチェギョンと一緒にいる筈だから、ユルに連絡を入れさせよう」
「いや、有難いが、今回は止めておく。スンレ、後でちゃんと説明するから、今回だけは俺のいう事を聞いてくれないか?」
「ええ、分かったわ。その代り、今晩はチェギョンはいないけれど、4人で川の字になって寝ること。いいかしら?」
「「「えっ!?」」」
 
ス、チェウォン、ユルが固まる中、スンレ一人だけがニコニコと笑っていた。
 
(アジョシもアジュマも 流石チェギョンの親って感じ・・・クスクス・・・)
 
 
 

前進あるのみ 第51話

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チェウォンは、アン医師に補足をしてもらいながら、スンレにチェギョンの病気の話をした後、別の医師に会いに行くと言って、帰るアン医師と共に王立病院へと出かけていった。
チェギョンの話を聞き、自分を責め、泣き続けているアジュマに ユルはそっと寄り添った。
 
「アジュマ、気分転換で僕に付き合ってください。ドライブしましょう」
「・・・ユルちゃん・・・」
 
憔悴しきっているスンレを助手席に乗せると、ユルは黙って車を走らせた。
チェギョンの事で頭がいっぱいだったスンレは、車が地下駐車場に入って、ふと我に返った。
 
「ユルちゃん、ここは・・・」
「チェギョンが住むマンションです。シンはきっと宮に連れ帰っている筈ですから会えませんけど、チェギョンの暮らしぶりだけでも見てみませんか?」
「・・・ありがとう。是非、見てみたいわ」
 
車を降りると、二人はハン内官から預かったカードキーを取り出し、エレベーターに乗り込んだ。
 
「このマンションはセキュリティーが厳重で、このカードキーがなければエレベーターにも乗れないんですよ。今日は、チェギョンの隣に住んでいるハン内官に借りてきました。普段はハン内官の奥さんであるパン翊衛士が、学校の送迎と夕飯の準備、あと出かけた時の護衛をしてくれています」
「そうなの?じゃあ、お礼言わなくっちゃね」
「アジュマ、ここです。あれ?鍵が開いている。パン翊衛士がいるのかな?」
 
扉を開け、中に入ったスンレは、リビングというよりレッスン室のような部屋を見て、愕然としてしまった。
 
「チェギョンは、本当にここに住んでいるの?」
「驚きましたか?寝室もベッドと机があるぐらいです。赤ちゃんがいるってことは、パン翊衛士がいるみたいですね。パン翊衛士、掃除してるの?」
 
ユルが声を掛けると、シーツを持ったパン翊衛士が寝室から出てきた。
 
「ユルさま・・・いらっしゃいませ。チェギョンは、先程殿下とご一緒に宮にお送りしました。何か御用でしたでしょうか?」
「うん、チェギョンの鞄、届けに来たんだ。パン翊衛士、こちら、チェギョンのお母さん」
「えっ!?はじめまして、パン・ソルミと申します」
「イ・スンレです。あの・・・チェギョンは、いつもあなたに部屋の掃除までさせているのでしょうか?」
「えっ!?い、いえ・・・今日は特別です。殿下より部屋の戸締りを頼まれましたので、来たついでにしておりました」
「・・・パン翊衛士、なんか怪しいんだけど?一旦、シンとチェギョンはここに戻ってきたんだよね?で、シーツを取り替えているってことは、そういうことなの?」
「・・・ユルさま、何の事でございましょうか?」
「パン翊衛士、隠してもダメだよ。血痕見えてるし・・・シン、やっと覚悟決めて、一線越えたんだね?」
「ユルさま・・・」
「えっ!?パン翊衛士さん、それは本当の事なのでしょうか?」
「奥様・・・立ち話は何ですので、とりあえずお茶をお出しいたします。ソファーにお掛けになって、お待ちください」
 
冷たいお茶を出した後、パン翊衛士は子どもを抱きながら、口を開いた。
 
「奥様は、チェギョンの事をどこまでご存じでしょうか?」
「摂食障害とそれに伴う低体温症を患っていると、先程、王立のアン医師より聞きました。あとバレエを辞めたいという事も・・・」
「初めて出会った時、チェギョンはこの子と同じ量のお粥しか食べられませんでした。それほど胃が小さくなっていました。でも食べることが好きなチェギョンは、直ぐに食べ過ぎて胃痛を起こしていました。学校で胃痛を起こされた時、ユルさまに私の存在がバレましたので、学校ではユルさまと殿下にお願いすることにしました」
 
スンレは、パン翊衛士が何を言いたいのか分からず、黙って聞くしかなかった。
 
「殿下が体調管理されるようになって、チェギョンは胃痛を起こすことなく順調に回復していたのですが、突然、胃痙攣を起こしたことがありました。ユルさまもご存知ですよね?」
「うん。シンがプロポーズした一週間後ぐらい後だったよね」
「はい。チェギョンは、女として生まれたからには女の幸せを掴みたいとよく言っていました。でもこのままでは、殿下の申し出を受けるわけにはいかなかったのです」
「あの、それは、一体・・・」
「倒れた後に聞きました。チェギョンは、ヨーロッパを転々としているうちに 気づけば月のものが来ていなかったそうです。気づいたのは、2年ほど前だと言っていました」
「「!!!」」
「アン医師より、体重が増えストレスを溜めなければ自然と復活すると言われたそうで、暴飲暴食をした結果、胃痙攣を引き起こしてしまったようです」
「パン翊衛士、シンはそれを知ってるの?」
「勿論でございます。自分の事を前向きに考えてくれている事が分かっただけでも嬉しいと仰っていました。そして薬ではなく、副作用のないホルモンバランスを整える薬湯を毎日ご用意され、チェギョンに飲ませておられます」
「殿下はそこまでチェギョンの事を・・・」
「奥さま・・・前振りはここまでにして今日のお話をさせていただきます。チェギョンはずっとバレエ漬けの日々だった所為で、かなり服装に無頓着なところがあります。帰国当初は、レオタードとジャージしか持っていませんでした」
「えっ!?うそ・・・」
「本当でございます。それに気づいた殿下が、チェ尚宮さまに頼んで普段着をご用意されました。ですが、男性ですので恥ずかしくて、下着までは注意することはできなかったと思われます。で、この暑さです。おそらく学校で上着を脱ごうとされたのではないでしょうか?」
「クスクス・・・当たり。シン、慌てて、連れ帰ったんだよね」
「帰宅してすぐ、殿下の怒鳴り声が聞こえました。『芸校は女子高じゃない!上着を脱ぎたいなら、ブラを付けろ!!もっと危機感を持て!!』だったと思います。それでもチェギョンさまは気になさることなく、ケラケラと笑われた後、殿下の前で平気で半裸になり、着替えはじめられたようで・・・」
「えっ!?じゃあ、シン、それで襲っちゃったの?」
「いいえ、少し懲らしめようと思われたようでございました。途中で止め、もう少し男という生き物を警戒しろと仰っていました。その後、いつか自分の許を飛び立つまでオッパとして、傍にいることを許してほしいと・・・」
「「えっ!?」」
「うちの主人曰く、バレエを辞めると言いつつ、バーレッスンを続けているチェギョンを見て、殿下はチェギョンがいつか自分の許を去るだろうと諦められてるのではないかと・・・」
「・・・確かにあの舞台を見た人間は、辞めるのは勿体ないと思うよね」
「話を戻します。殿下のお言葉にチェギョンがキレました。『俺の事を真剣に考えろとか、昔の約束を守ろうとか、全部、体の為を思って吐いた嘘だったのか?帰ってくれ』と。またチェギョンは、ストレスと緊張の毎日で殿下との思い出が心の支えだった。殿下に一目会いたくて帰国したと言って、泣いていたように思います。それを聞いて、殿下は一線を越える決意をされました。報告は以上です」
 
長い沈黙の後、ユルはパン翊衛士に疑問を投げかけた。
 
「ねぇ、何でそんなに詳細に知ってるわけ?ひょっとして盗聴器仕込んでるの?」
「クスクス・・・ユルさま、違います。確かにこの部屋は防音がしっかりしていますが、窓を開ければ防音の意味はありません。ベランダで洗濯物を取り込んでいたら、痴話喧嘩が始まってしまったのです。音をたてるわけにもいかず、ジッとしておりましたら始まってしまったものですから・・・その後すぐにコン侍従長さまより殿下への伝言を頼まれ、仕方なく事が終わるのを耳を澄ませて、待っておりました」
「プクククッ・・・パン翊衛士、お疲れさま」
「いいえ。これも仕事ですから・・・殿下は、初めての日ぐらいずっと一緒にいようと仰り、動けないチェギョンを抱き上げて、宮に連れ帰られました。奥さま、安心して殿下にお任せして大丈夫だと思います」
「・・・ええ、そうみたいですね。チェギョンは、私達親にも甘えることはない子でした。それが、殿下には心を許し甘えている。殿下には感謝しかありません。主人は分かりませんが、私はチェギョンの選択を応援したいと思います。パン翊衛士さん、これからもチェギョンをよろしくお願いします」
「奥さま、こちらこそよろしくお願いします」
「ユルちゃん、今日はここに連れて来てありがとう」
 
徳寿宮へ戻る車中のスンレは、行きとは違い何か吹っ切れたようで、笑顔が戻っていた。
 

前進あるのみ 第52話

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用事を済ませたチェウォンが戻ってきて、賑やかな夕食が始まった。
ユルは、チェウォンと漫才のように言いあう父親に驚いたが、そんな父親を見て、楽しくてしかなかった。
夕食後、父親二人は書斎に場所を移して酒を飲み始め、ユルはスンレと一緒に客間に4組の布団を運び、敷いた。
 
「アジュマ、先にお風呂にどうぞ」
「私は、ちょっと厨房をお借りして、呑兵衛二人のためにおつまみを用意するわ。ユル君、お先のどうぞ」
「じゃあ、先に入ってきますね」
 
風呂で汗を流し、さっぱりしたユルは、父親たちに一言声を掛けようと書斎に向かった。
ドアをノックしようとした時、二人の会話が聞こえ、思わず手を止めてしまった。
 
「チェウォン、今回の帰国の目的は、本当にビザの更新だったのか?」
「・・・スンレは、そのつもりだったろうな」
「じゃあ・・・」
「ああ、アメリカに帰化するつもりで必要な書類を取得しにきた。チェギョンのもな」
「チェウォン!」
「ス、落ち着け。申請はしていない。一旦、保留だ。チェギョンに対して親らしいことをしたことがない俺らが、勝手に決めていい問題じゃないことに気づいた。電話とメールのやり取りだけで、チェギョンは元気だと信じていた自分が恥ずかしいよ」
「仕事が忙しかったんだ。仕方ないだろう」
「それでもスンレに様子を見に行かせ、マネジメントする信頼できる人を付けるべきだった。そうしたら、あそこまで衰弱する事も無かったろう」
「ストーカーとパパラッチのことか?」
「それだけじゃなかったようだ。パートナーを盗られたと思い込んだ自称彼女の団員から執拗な嫌がらせを受け、チェギョンを出演させたい演出家が一人のSPを買収し拉致・監禁したらしい・・・今日、カルテを見て初めて知った」
「・・・だから、あれが名誉や賞賛なら私は要らないか・・・」
「だろうな・・・ス、シン坊とチェギョンは、どんな感じなんだ?」
「シンは、本当にチェギョンを大事にしてるよ。俺が見に行ったときは、膝の上に座らせ薬湯を飲ませてたな。その後、客を放置したまま、抱き上げて散歩しに行った。相変わらず振り回されているが、そんな自分が嫌いじゃないらしい。可愛くて仕方がないそうだ」
「そうか・・・ス、俺たちは明日アメリカに戻るよ」
「えっ!?」
「正直、チェギョンに会わす顔がないし、問題は俺の中にある。少し俺に時間をくれないか?と、上皇さまに伝えてくれ。きっと上皇さまが、一番乗り気だろうからな。クククッ・・・」
「確かに。。。上皇さまに、そう伝えておこう。なぁ、やっぱり俺の所為か?」
「知らなかったんだ、お前の所為じゃない。ただ分かった時点で、ファヨンさんに真実は告げるべきだったとは思うけどな。皇太子妃のプレッシャーが、あそこまで変えてしまったんだろうな。今から思えば、あの人も可哀想な人だな。なぁ、チェギョンもファヨンさんと同じ運命を辿るような気がしてならないんだ。あのカルテを見る限り、妊娠は難しいと思う」
「大丈夫だ。シンはすべてを承知でチェギョンを望んでいるし、一緒に治そうと励ましてもいる。俺とは違う」
「・・・シン坊は、いい男になったな。ヒョンと大違いだ。ミン妃は、元気にしてるか?きっとあの人も俺と同じ勘違いをしてるはずだから気になるんだ」
「勘違いとは?」
「これだよ」
 
チェウォンは、財布を取り出すと、そこから一枚の写真を取り出した。
 
「これは・・・まさかチェギョンは、ファヨンと知り合いなのか?」
「みたいだな。イギリスでは、整体と気分転換を兼ねて、友人とヨガに通っているらしい。一緒に写っているお前の息子にそっくりな人は、そのヨガの先生の恋人らしい。俺は、今日、息子に会うまでヒョンとの子だと思ってた」
「・・・コイツだったのか・・・昔、東宮殿の翊衛士をしてた奴だ。退官したのは知っていたが・・・彼女が幸せそうで良かったよ」
「ス・・・大丈夫か?なぁ、息子は、この事を知っているのか?」
「俺とファヨンでは、AB型のユルは生まれないからな。学校で遺伝の勉強をしたときに聞かれて、正直に話した。道徳上、皇位継承権は放棄したが、お前は私が育てた自慢の息子だと説明した」
「そうか・・・悩んだろうが、本当に真っ直ぐに育ったな。特に笑顔がいい。もっと自慢して歩いてやれ」
「勿論、そうするつもりだ」
 
ユルは、とうとう声を掛けそびれてしまい、部屋に引き返そうと踵を返したところで、目を見張った。
 
「アジュマ・・・」
「ユルちゃん、部屋で私と少しお話しましょうか?」
 
スンレに手を引かれ、部屋に戻ってきたユルは、俯いて顔を上げることができなかった。
 
「ユルちゃん、ご両親の離婚の理由は知ってる?」
「・・・母の浮気ですね」
「う~ん、ちょっと違うかな?ス殿下ね、ファヨンさんに出会う前に病気で高熱が一週間以上続いたことがあるの。婚約が決まった時、うちの主人が冗談で生殖機能があるか調べてみろって言ったんですって。で、ス殿下、念の為って調べたらしいの。で、ないことが分かったの」
「えっ!?」
「その時には、もう婚約を発表した後でね。さっきの話では、殿下はファヨンさんに真実を話せなかったみたいね。。。ファヨンさん、本当に可愛い人だった。でも皇太子妃に対する世継ぎのプレッシャーは相当なものだったはず。特に後から結婚したヒョン殿下の方は、すぐに妊娠されたし。それも立て続けに・・・自分を守るには、皇太子妃として虚勢を張るしかなかったんじゃないかしら?それに不妊治療もしてたはず。自分に問題がないのにできない。それで殿下を疑ったのかもしれないわ。だから、一概にファヨンさんだけが悪いわけじゃないと私は思うわ」
「アジュマ・・・」
「ファヨンさんの懐妊が発表された時、私たちはアメリカにいたんだけど、主人は一人ですぐに帰国したわ。アメリカに戻ってきてすぐ、主人は私の出産を待ってス殿下の傍にいてやりたいから帰国するって。帰国してすぐユルちゃんが生まれたの。ス殿下は、全てを胸の内にしまって、ファヨンさんとユルちゃんの3人で幸せに暮らすつもりだったの。皇太子を廃位してね。でもファヨンさんは反対したの。皇太子妃で在りつづけ、あなたを皇帝の座に就けようと思ってた。皇太子妃のいう座が、ファヨンさんを狂わせてしまったのね。これが、離婚の真相」
「・・・・・」
「あなたを手元に置いたのは、あなたとファヨンさんを守るため。ファヨンさんと一緒に海外追放になったら、一生あなたは不義の子、ファヨンさんは世紀の悪女として生きることになったと思うわ。殿下は、上皇さまにも真実を告げていないわ。知っているのは、当事者と私たち夫婦だけ。どうか殿下を許してあげてちょうだい。本当に悩んで出した結論だと思うから・・・」
「はい、僕にとっても父さんは自慢の父ですから」
「・・・ユルちゃん、あなたは私にとって息子同然よ。何かあったら、必ず相談してちょうだい」
「アジュマ、ありがとう」
「・・・ユルちゃん、今日だけ私の息子になってくれない?チェジュンは、ずっと機械に繋がれていて、一緒に寝る事ができなかったの。それだけが心残りで・・・」
「アジュマ・・・ええ、一緒に寝ましょう」
 
電気を消し、隣同士の布団に入ると、ユルはそっとスンレの手を握った。
隣の布団から、声を押し殺した嗚咽が漏れてくる。
 
「ユルちゃん、ありがとう。チェギョンは、ヨガの先生があなたのお母さんだとは知らないわ。でもかなり懇意にしてたみたい。気になるようなら、チェギョンに連絡先を聞きなさい」
「・・・・・」
「ユルちゃん、おやすみなさい」
 
(アジュマ、母の温もりを知らない僕にもアジュマは母のような人です。色々悩みは尽きないけれど、今日だけはアジュマの温もりに浸って寝よう・・・アジュマ、おやすみなさい)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

前進あるのみ 第53話

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東宮殿でも 大事に愛されたチェギョンは、シンにすっぽり包み込まれて眠っている。
朝の儀式の為、先に目を覚ましたシンは、甘えて擦り寄ってくるチェギョンの頬に唇を寄せた。
 
(・・・俺、もう抑え効かないかも・・・もう絶対に手放さない。いや、手放せない。チェギョン、覚悟しろよ)
 
「ううん・・・シン君、もう朝?」
「ああ・・・おはよう。体、大丈夫か?」
「えっ!?///あっ・・・うん。大丈夫」
「シャワー浴びて、朝の挨拶に行ってくる。チェギョンもその間にシャワー浴びて、着替えてて。戻ってきたら、飯にしよう」
「うん♪」
 
シンは、昨夜脱いだバスローブを羽織ると、バスルームへと入っていった。
 
(いつものシン君だった。さぁ、私もシャワー浴びよっと・・・)
 
 
2人で料理長が作った朝食を食べると、チェギョンはパン翊衛士の車に シンは公用車に乗り込み、学校へと向かった。
2台の車が連なって学校に到着すると、玄関前でユルが待っていた。
 
「あっ、ユル君だ~♪おはよう」
「チェギョン、おはよう。今日も元気だね」
「うん♪見て、見て。ブラしたら、谷間ができたんだよぉ♪」
「クスクス・・・良かったね。チェギョン、少しシンと話があるから、先に教室に行ってて」
「うん♪じゃあ、お先にね」
 
チェギョンが校舎に入っていくと、今まで苦笑していたシンがユルに向かって話しかけた。
 
「俺に話って、何だ?」
「どうしようか悩んだけど、やっぱりお前は知ってた方が良いと思う。行きたいところがある」
「・・・分かった。俺が乗ってきた公用車で良いか?」
「構わない。話は、車の中でする。時間がないんだ」
 
シンがUターンしてきて、ユルと車に乗り込んだため、翊衛士たちは慌てて運転席と助手席に乗り込んだ。
 
「悪いけど、仁川国際空港の出発口まで急いで行ってくれる?」
「はい、かしこまりました」
 
車が動き出すと、シンはユルに質問しようとしたが、ユルはそれを手で制し、携帯を取り出した。
 
「父さん?今から、僕もシンを連れて見送りに行くよ。シンが行くから、チャン総裁にVIPルーム使えるように頼んでくれない?じゃあ、お願いね」
「ユル、一体、誰の見送りなんだ?」
「・・・チェギョンのご両親」
「えっ!?」
「昨日、お前たちが早退した後、アジュマがチェギョンに会いに学校に来られたんだ。で、僕が徳寿宮に連れ帰った。アジョシは、父さんが病院から拉致してきて、そのまま泊まってもらったんだ」
「なぜ、連絡しなかった?」
「二人とも携帯切ってたくせに僕の所為にしないでよね。それとアン先生が来て、チェギョンの病気の話をされたんだ。アジョシたち、何も聞かされてなかったみたいでかなりショック受けられてた。で、今回、チェギョンに会わす顔がない。会わずに帰るって・・・でもシン、お前は会っておいた方が良いと思ったんだ。また一歩、前に踏み出しただろ?」
「えっ!?」
「昨日、鞄持って、アジュマとチェギョンのマンションに行ったんだよね。パン翊衛士が、ベッドメイキングしてたよ」
「///あっ・・・!!」
「クスクス・・・そういうこと!アジュマがアジョシに話したかどうかは知らない。でもアジョシに会って、言う事があるんじゃない?」
「だよな・・・サンキュ、ユル。俺、あの天真爛漫なチェギョンを窮屈な宮に閉じ込めるべきじゃない。いつか手放さないとって思ってた。そう言ったら、馬乗りになって怒鳴られた。『いつ宮が窮屈だって言った?』ってさ」
「クスクス・・・パン翊衛士から、詳しく聞いた。で、前に進んだんだ。シン、いくら暑くても窓は閉めてやれ!隣までまる聞こえだったらしいぞ」
「///なっ・・・どうりで・・・グッドタイミングというか、終わって汗が引いたころに、『殿下』って声かけられた」
「クスクス・・・合房の予行練習したと思いなよ。でもさぁ、チェギョン、思ってたより元気だったね」
「///な、何の話だ?」
「あのシーツ見たらさぁ・・・シン、相当無茶したでしょ?」
「///うるさい!暴走しないように 必死に抑えたっつうの!!・・・・でもさぁ、俺、アイツにフラれたらダメかも・・・」
「はぁ?そんなこと、二人を知ってる全員がそう思ってるけど?」
「///ムカつく・・・」
「クスクス・・・で、どういう意味?」
「チェギョンと再会する前にさ、ファンとギョンが勝手に俺の女性の好みはロリコンだって話してて、ムッとしたことがあるんだけど・・・あながち外れてなかったなって・・・俺、成熟した女性は多分無理・・・」
「プッ、マジ?じゃあ、大事な従兄弟殿が犯罪者にならないように宮が総力上げて、嫁取りでもする?」
「・・・フラれそうになったら、お願いするかも・・・」
「クククッ・・・シンとこんな会話できるとは思ってなかった。本当にチェギョンと再会できて良かったよね」
「///俺もそう思う。アジョシにあったら、ちゃんと申し込むよ。チェギョンをくれって」
「アジュマは、チェギョンの選択を応援するってさ。昨日の感じでは、随分、壁は薄くなってる気がする。シン、頑張れ」
「ああ、ありがとうな」
 
公用車が空港出発口に着くと、空港関係者に案内され、館内へと入っていった。
空港利用客たちは、制服姿のシンが突然現れたことで、何事かと息を呑んで見守っていた。
シンとユルは、特別に出国ゲートの中に入らせてもらい、チャン航空のエグゼクティブクラスのラウンジに案内された。
 
「父さん、連れてきたよ」
 
ユルがスに声を掛けると、3人が振り返って、シンとユルを見た。
 
「アジョシ?」
「えっ!?シン坊か?」
「アジョシ~~!!」
 
シンは駆け寄ると、立ちあがっていたチェウォンに抱きついた。
 
「・・・アジョシ、会いたかった」
「こら、大男になった癖に泣くんじゃない!・・・昨日、アン先輩に怒鳴られた。シン坊、寂しい想いをさせて悪かったな。それから、チェギョンを支えてくれて、ありがとうよ」
「アジョシ・・・」
「シン坊、俺たちはチェギョンの意志を尊重するよ。ただな、一つ気がかりがある」
「気がかり?」
「あるトラブルが原因で、チェギョンは契約を途中放棄して帰国してるんだ。その契約がどうなったのかは、俺も知らないんだ。ひょっとしたら、もう一度舞台に立つ必要があるのかもしれない。チェギョンが決断を下すまで、待ってやってくれないか?」
「じゃあ、チェギョンを嫁に貰ってもいいってこと?俺、アジョシにくれって頼みに来たんだ。チェギョンなしじゃ、もう俺ダメみたいなんだ」
「お前は、昔からホント変わってないな。シン坊、今度帰国したら、久しぶりにキャッチボールしよう。練習しておけよ」
「うん・・・」
「じゃあ、そろそろ行くよ。シン坊、チェギョンを頼む」
「任せといて」
「チェウォン、近いうちに完全帰国して来い。待ってる」
「ス・・・考えておく。ユル君、君に会えて良かったよ。君もいい人を早く見つけて、俺たちに紹介しておくれ。楽しみにしている」
「はい、アジョシ。アジュマ、色々とありがとう」
「ユルちゃん、私の息子。また会いましょうね」
 
チェウォンとスンレが係員の誘導で搭乗口へと向かうのを ス、シン、ユルはそれぞれの想いを胸に抱いて、見送るのだった。
 
 
 
 
 
 

開眼 第1話

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シンは、突然陛下から呼び出され、コン内官と正殿居間へと向かっていた。
 
(毎朝、10分程顔を合わせるだけの人たちを家族と呼べるのか、考えもんだよな・・・)
 
居間に入っていくと、陛下だけでなく皇后と皇太后まで顔を揃えて、シンが来るのを待っていた。
 
「・・・お待たせいたしました」
「太子、お前の進学の話なんだが・・・ソウル芸術高校を受験してみないか?」
 
陛下の申し出にシンは驚いて、陛下たちを凝視してしまった。
 
「ヒョンや、初めから話さないと。。。シンがビックリしていますよ。シン、あなたには許嫁がいるの」
「えっ!?許嫁・・・ですか?」
「ええ。言っておきますが、先帝が勝手に決めたお相手ではありません。あなたの強い希望で整った縁組です」
「!!!」
 
陛下や皇太后の口から出てくる衝撃の事実に シンは頭が真っ白になりそうだった。
 
「シン、聞いていますか?」
「はっ、はい、皇太后さま。で、その許嫁と芸術高校への進学とどういう関係があるのですか?」
「母上、ここからは私が話します。実は、先方から断りの連絡が入ったのだ。孫が幸せになるならと一度は了承したが、今の無気力なお前では孫が幸せになるとは思えないとな」
「・・・・・」
「先日、偶然会ったのだが、本当にいい子だった。だから、諦めたくはない。聞けば、芸術高校へ進学すると聞いた。幸い、芸校は私の出身校でもあるし、お前が興味ある映像コースもある。芸校は私を受け入れた事もあり、セキュリティーは万全だ。一緒の高校に通って、お互いを知ってから婚姻のことを考えてみないか?私達も太子には、幸せな婚姻をして欲しいからな」
「・・・少し考えさせてください」
「分かった。。。シン、もし受けるなら受験勉強はした方が良い。舞踊科以外は、かなり狭い門だからな」
「はい」
「シン、あなたが婚姻できないと言うなら、ユルを呼び戻します」
「えっ!?」
「私達の話は以上です。もう下がりなさい」
「・・・はい」
 
シンは、混乱したまま正殿を出ると、執務室には戻らず、そのまま東宮殿に戻った。
私室のソファーに座ると、シンはコン内官を見た。
 
「・・・コン内官、俺の許嫁が誰か知っているか?」
「お忘れになられたのですね・・・先帝さまのご親友のお孫さまで、殿下が皇太孫に封冊された後、何度か仲良くお遊びになられておられました」
「・・・5歳頃のことか・・・なぁ、陛下たちは、俺にどうしろと仰ってるんだ?」
「先程のお言葉のままではないでしょうか?先帝さまは、遺言でお二人のことを書かれておられます。ですが、無理やり婚姻されても お二人が幸せになられるとは思えません。殿下がどうしてもお相手をお気に召さないのであれば、あの時の殿下のお願いは子どもの戯言にされようと思われておられるのではないでしょうか?」
「・・・では、ユルの帰国は?」
「もし殿下が固辞されるなら、殿下は王族会が推薦するご令嬢と婚姻されることになりますので、ユルさまにお話をもっていかれるおつもりなのでしょう。私もお嬢さまの事を聞いておりますが、明るくて良いお嬢さまだそうです」
「なぜ、コン内官が知ってるんだ?」
「お嬢さまは、殿下の許嫁だと知らずに幼き頃より訓育を受けておられますので、侍従長の私にも報告が上がってくるのです。。。殿下、あなたはお忘れかもしれませんが、あなたの一言で約10年、そのお嬢さまの大事な時間を奪ったことは覚えていてほしいと思います」
「コン内官?」
「・・・出過ぎたことを申しました。殿下、陛下や皇太后さまのお話をよくお考えください」
「ああ。コン内官、その彼女の名前を教えてくれないか?」
「殿下、知ってどうされるおつもりですか?先方は許嫁解消を申し出てきているのですよ」
「それは・・・」
「お知りになりたいなら、行動を起こしてください。まずは芸術高校に入学なさることです。そしてご自身でお探しになり、親交を深めてください。お二人に縁があるのなら、必ずまた惹かれあわれるはずです。では、私はこれで失礼いたします」
 
コン内官が出て行った後、シンはベッドにダイビングして、天井の一点を見つめた。
 
(ハァ・・・許嫁か・・・俺が強く願ったって、一体、誰なんだ?もしその許嫁との縁がなければ、王族のあの傲慢な令嬢たちの一人と婚姻!?あり得ない!!残された道は一つしかないじゃないか!とりあえず王立から離れられ、好きな映像が勉強できるんだ。一石二鳥じゃないか。この話に乗る手しかないか・・・)
 
翌日、シンは陛下たちに芸術高校へ進学すると報告したのだった。
 
「分かった。太子、言っておくが、例え入学しても今のままではお前は受け入れられないだろう」
「えっ!?」
「意味が分からないか?ミンや、娘を持つ母として聞く。もし太子のような男をヘミョンが連れてきたらどうする?」
「・・・絶対に許すことはないでしょう」
「皇后さま?」
「シン・・・このまま抜け殻のような皇太子のままだったら、皇太子妃になりたい王族の令嬢と婚姻することを勧めるわ。それが嫌なら、シン、もっと視野を広げなさい」
「・・・はい、皇后さま」
 
東宮殿に戻ったシンに コン内官は芸術高校のパンフレットと過去の入試問題を持ってきた。
シンは、パラパラと入試問題を見た後、パンフレットに目を通しだした。
 
(へぇ、あの有名カメラマンや映画監督も芸校出身だったんだ。で、何々?大半が留学希望で、その為の授業カリキュラムを組んでるって、どういう事だ?!入試問題を見た限りでは、大丈夫そうだけど、合格ラインが高そうだよな・・・で、噂の許嫁殿は、一体どのコースなんだろ?)
 
「コン内官、特別な授業カリキュラムって何だ?」
「はい。1年次より毎回テストの成績が貼り出され、2年次より成績順にクラス分けされます。留学してその道で生きていきたい生徒と趣味程度に思っている生徒では、授業を受ける姿勢が違うからだと聞いています。また挫折した生徒には、3年次に大学進学コースも設けられています」
「ホント、至れり尽くせりですね」
「・・・殿下、入学時の新入生代表の挨拶は、本来主席合格の生徒が行うそうです。ですが、殿下のご入学がお決まりになれば、主席合格でなくても殿下が挨拶をすることになります。テストの成績が貼り出された時に恥をかかぬよう、頑張って受験勉強をなさってください」
「わ、分かった」
「では、私はこれで失礼いたします」
 
(主席入学しないと辞退しても恥だし、譲られても恥ってことだよな。。。)
 
入試を軽く考えていたシンだが、コン内官に言われ、生まれて初めて必死で勉強することなった。
 
 
 
試験日から合格発表まで、シンは胃が痛む思いで過ごした。
発表当日、胃を押さえながら、朝の挨拶の為、正殿へと向かった。
 
「クククッ、太子、コン内官から相当プレッシャーを掛けられたみたいだな」
「陛下・・・正直、こんなに勉強したのは初めてかもしれません」
「気持ちは分かるぞ。私もそうだったからな・・・太子、これが3年間続くと思ったほうが良い」
「えっ!?本当ですか?」
「ああ、経験者は語るだ。クスクス、周りの生徒たちは向上心に溢れている者たちばかりだ。いい刺激になるぞ」
 
シンは、考えただけでも眩暈を起こしそうだった。
 
「クククッ、太子、芸校を止めて、王立に進むか?王立なら、皇族は顔パスだから、今からでも遅くないぞ」
「い、いえ。頑張って、芸校に通います」
「そうか・・・おめでとう、合格だそうだ。今から、新入生代表の挨拶を考えておきなさい」
「!!!」
「どうした?嬉しくないのか?」
「あの・・・主席合格だったのでしょうか?」
「クスクス、コン内官の脅しが相当効いたようだな。太子を含む3名が満点で、主席合格だったそうだ。胸を張って、挨拶しなさい」
「はい!ありがとうございました」
 
居間を出て行くシンを見送った陛下たちは、シンの変わりように目を細めた。
 
「ヒョン、ミンや、あのように生き生きとしたシンを見るのは、何時ぶりのことでしょう。本当にいい笑顔でしたね」
「はい。母上の助言通り、芸術高校の進学を勧めて正解でした。あとは、芸校で良い友人に恵まれれば、言うことがないのですが・・・」
「そうですね。それと一番重要なのは、許嫁との仲です」
「母上、2年に上がれば、間違いなく同じクラスになる筈です。満点合格の一人が、彼女なのですから・・・」
「そうでしたか・・・本当にうまくいってくれれば、良いのですが・・・確か、あの子の専攻は美術コースでしたね?」
「はい。絵画コンクールの表彰式で出会いましたから、間違いないでしょう。絵の才能も素晴らしかった」
「ミン、シンの親として入学式に行きたいであろう?」
「えっ!?」
「私も スやヒョンの入学式や卒業式に行きたかったから、そなたの気持ちもそうではないかと・・・違いますか?」
「はい、もし許されるなら行きたいと思っています」
「では、行ってきなさいな。ヒョンと二人なら学校も恐縮するでしょうが、ミン一人なら大丈夫でしょう。シンの晴れ姿を撮ってきてくださいね」
「お義母さま・・・ありがとうございます」
 
皇后が涙するのを 陛下と皇太后は優しい眼差しで見つめるのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 

開眼 第2話

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初めて、母親同伴の入学式に臨んだシン。
少し照れ臭かったが、堂々と新入生代表の挨拶をし、皇后と一緒に宮へと戻ってきた。
正殿へ戻る前に 皇后は東宮殿でシンと一緒にお茶をすることにした。
 
「皇后さま、お疲れさまでした」
「ふふふ、母親としては当たり前のことです。シン、立派な挨拶でしたよ」
「ありがとうございます。あの・・・皇后さま・・・」
「何かしら?ひょっとして、許嫁のお嬢さんの話ですか?」
「はい。皇后さまは、誰かご存じなのですか?」
「残念ながら、私も知らないの。昔、昌徳宮に住んでいた頃、【親友に会いに行ってくる】と言ってはよく先帝さまがあなたを迎えに来ておられたわ。おそらくその親友のお孫さんだと思うんだけど・・・あなたにどこに行ってたのか聞いても、先帝さまと男の約束をしたから言わないって。ただウサギさんみたいな女の子と遊んできたって言ってたわ。多分、その子じゃないかしら」
「ウサギ?・・・ですか・・・」
「ええ。あなたもまだ3~4歳だったし、それ以上は聞き出せなかったの。とりあえず可愛い女の子と遊んできたんだなって思ったことは覚えているわ」
「そうですか・・・ハァ・・・一体、誰なんだろう?」
「ふふふ、そんなに気になる?」
「///気になると言うか・・・王立に通う王族の令嬢とだけは婚姻したくないと言うのが本音です。中身が無さすぎる」
「クスクス・・・分かる気がするわ。でもあなたも性根を据えないと、同じに見られるわよ」
「えっ!?」
「皇太子という座の上に胡坐をかいて、何の努力もしない無能男?」
「皇后さま!!」
「クスクス・・・だって事実でしょ?何の感情もなくただ流されているだけの人間なんて、何の魅力もないもの。いつまでもそんなだと、あなたの肩書に好意を持っている女性しか集まらないと思うわ。恋愛は無理ね」
「・・・・・」
「シン、幸い同じ趣味の生徒さんが集まっている学校だもの。友人と切磋琢磨して、もっと自分を磨きなさいな。そして本当のあなたを見てくれ、理解してくれる友人や女性を探しなさい」
「・・・はい、頑張ります。母上、ありがとう」
「クスクス、いいえ。じゃあ、とっておきの情報を教えるわね。あなたと同じ満点で主席入学した美術コースの女生徒ですって。陛下は、絵画コンクールの表彰式で偶然お会いになったみたいよ」
「えっ!?」
「クスクス、あなたが一番欲しい情報だと思ったんだけど?あともうすぐ女官の人事異動があって、東宮殿に一人尚宮が配属されるわ。一応、皇后が女官の統括者だから報告が上がってくるんだけど、その尚宮、前の部署が不明なのよ。多分、今まで皇太后さまの密命を帯びて、許嫁のお嬢さんに訓育をしていたんじゃないかしら」
「その尚宮の名前は?」
「チェ尚宮よ。機会があったら、そのお嬢さんの事を聞いてみればいいわ」
「そうしてみます。色々とありがとうございました」
「大学は王立に戻ることになるだろうし、高校生活を有意義に過ごしなさい。この3年間でどこまであなたが成長するか、楽しみにしています。さぁ、いい加減私も正殿に戻らないと、陛下に怒られちゃうわ。じゃあ、頑張ってね」
 
皇后はそう言うと、東宮殿を出て行った。
シンは、皇后が言ったことを思い返し、己の行いを振り返ってみた。
 
(ハァ・・・一人殻に閉じこもって、流されていただけだったかも・・・情けないよな。それと美術コースで成績優秀な奴か・・・俺のウサギさんは、どんな子に成長したんだろ?)
 
その夜、シンは、長い髪の毛をウサギの耳のように二つに括った目の大きな女の子と手を繋いで、庭を走りまわっている夢を見た。
 
(思い出した!あの子だ・・・名前は・・・ダメだ、思い出さない。おじい様に勉強頑張るから、結婚させてくださいって、必死にお願いしたんだった。あの子なら・・・絶対に探し出してやる!)
 
 
 
芸校の授業は、必須科目はかなりハイペースで進んでいき、英才教育を受けていない生徒たちはかなり大変そうだった。
そして選択授業は、カメラや映像の専門知識を色々と教えてもらえ、シンにとってはとても楽しい時間だった。
ただ意見を出しあい、作品を仕上げる作業だけは苦手で、シンはグループの生徒たちの意見を聞くだけだった。
そんなある日、シンは映像コースの教師に呼び出された。
 
「殿下、自分の考えを口にするのは苦手ですか?」
「えっ!?あ、はい・・・」
「殿下は、映画をご覧になることはありますか?」
「はい。陛下が好きですので、よく一緒に映画鑑賞をします」
「クククッ、ヒョンは相変わらず映画バカのようですね」
「えっ!?」
「失礼しました。私と陛下は同級生で、いつも同じグループでした」
「そうだったのですか。知りませんでした」
「殿下、映画を見る時、自分ならこの場面はこういうアングルで撮りたいとか、そういう風に見てごらんなさい。そうすれば、自然と意見が言えるようになる筈です」
「はい」
「クスッ、ヒョンは、ホント言いたい放題でしたよ。冬の寒い時期にヒロインを入水させろとか・・・あの時は、あまりにムカついたんで、ヒョンに女装させてヒロインの代役をさせましたよ。案の定、次の日からヒョンは1週間ほど風邪で寝込んでましたよ」
「プププっ・・・そんなことがあったのですか?」
「はい。殿下、その時のヒロインが皇后さまです」
「えっ!?」
「皇后さまは、自分の所為でと情に絆されたようです。私達からすれば、自業自得なんですがね。二人の婚約が決まった時、グループの全員が自分が代役をすれば良かったと後悔したことは、ヒョンには内緒にしていてください」
「プッ、はい」
「よし、いい笑顔だ。カメラのセンスは良いものを持っていると聞いています。映像にもどうか興味を持ってください。これは、私からのプレゼントです。DVDに落としてきました。宮に帰って一人で見てください。かなり笑えますよ」
「はい、良いお話をしてくださり、ありがとうございました。明日からも宜しくお願いします」
 
その日を境に シンはグループ活動も楽しく参加できるようになり、そのままそのメンバーといつも一緒に行動するようになった。そして気づけば、クラスメートの女生徒が一人、仲間に加わっていた。
シンは、選択授業の時は楽しく付き合えたが、友人としては何かが違うような気がしていた。
唯一、ビデオオタクのリュ・ファンとはウマが合うようで、お互い口数は少ないが分かりあえるような気がしていた。
 
「シン、アイツらに無理に付き合うことはないよ。僕は、将来必ず顔を合わすことになるだろうし、縁は切れないけどね」
「どういう事だ?」
「一応、僕たち、それなりの会社の御曹司なんだ。周りは、僕たち自身を見ずに、後ろにいる父親や会社ばかり気にする奴らばっかりでさぁ。で、僕はビデオに逃げ込んだけど、インとギョンは捻くれちゃったんだよね」
「・・・その気持ち、嫌ってほど分かる。俺もそうだし・・・」
「確かに皇太子なら、僕ら以上かもね。シン、同情するよ」
「・・・ファン、同情されても嬉しくないぞ」
「クスクス、だよね。ただね、インの遊び友達だと思うんだけど、あのヒョリンは解せない。僕らが毛嫌いしてる女たちと同じ匂いがするんだけどなぁ・・・シン、ヒョリンには気をつけた方が良いよ」
「分かった。。。ファン、美術コースに知り合いはいないか?」
「美術コース?どうして?」
「名前を思い出せないんだけど、幼馴染がいるらしいんだ。どうしてもその子に会いたくって、この高校に来たんだ」
「ひょっとして女の子?宮では教えてもらえないの?」
「ああ、色々事情があって、教えてもらえない。探したいなら自力で探せってさ・・・去年の絵画コンクールで入賞して、入試テストは俺と同じ満点で入学したってことだけ、母上がこっそりと教えてくれた」
「めちゃくちゃ優秀な子なんだね。それだけの情報があれば、分かるかも・・・僕に少し時間くれる?」
「ああ、頼む。あと、この事は誰にも言わないでほしい。特にギョンに知られると、煩そうだし・・・」
「クククッ・・・確かに。まぁ、任せといて」
 
数日後、絵画コンクールで入賞した女生徒は2人いて、1-Cのイ・ガンヒョンとシン・チェギョンだとファンが教えてくれた。
 
「入試テストの結果は分からなかった。あとお節介ついでに二人の事、調べたんだ。でもさぁ、二人とも情報操作されているみたいで、何も分からないんだ。うちの父さんの会社より大きな力が働いてると思う」
「・・・そんな事があるのか?」
「小さい子ならよくある話だよ・・・誘拐防止の為にね。僕達にはSPが付いたけどさ」
「宮でいう翊衛士みたいなもんか・・・とりあえず、今度の試験結果が貼り出された時、どちらか分かると思う。ファン、ありがとうな」
 
(イ・ガンヒョンとシン・チェギョンか・・・どっちなんだろう?でも分かったところで、どうやってお近づきになればいいんだ?ファンも女生徒と話すの苦手そうだよな・・・ハァ・・・)
 
 
 
 

開眼 第3話

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中間テストの結果が、掲示板に張り出された。
シンは480点の3位で、満点を取ったイ・ガンヒョンとシン・チェギョンが同点一位だった。
 
「ひぇ~、シンもだけど、あの二人凄すぎ!」
「俺は英才教育、5歳から受けてたからな。ファンだって、10位に入ってる。大したもんだと思うけど?」
「僕だって、それなりに受けてた筈なんだけど・・・結局、どっちが幼馴染か分からなかったね」
「まぁな・・・二人ともどんな子なんだろうな?ファン、今度見かけたら教えてほしい」
「クスクス、シンも見たことあると思うよ。昼休みにいつも中庭で喋ってる元気な4人組がいるよね。その中の2人だよ」
「えっ!?あっ・・・あの元気娘4人組のことか?」
「クスクス、そう!眼鏡をかけた子がイ・ガンヒョンで、髪を丸めて鉛筆や絵筆で留めてる子がシン・チェギョン」
 
シンは、イメージしていた子と違ったので、驚いてしまった。
 
(国母に相応しいと言うから、もっと物静かなタイプだと思ってた。でも一体、どっちなんだろう?どっちも個性的だよな・・・)
 
「おい、シン、ファン、何コソコソ話してんだ?」
「お前たちか・・・別に大したことは話してない」
「それより、シン、新入生代表で挨拶したことだけはあるよな。あのテストで、480点って・・・凄すぎ」
「上には上がいるさ。俺の事よりギョン、お前はどうだったんだ?インは名前あったけど、お前の名前無かったぞ」
「入学できただけでも奇跡なのに・・・30位以内なんて、夢のまた夢だって・・・」
「そうか・・・折角、クラスメートになれたのに今年限りだな」
「えっ!?」
「ギョン、知らないの?ここ、2年から成績順でクラス分けになるんだよ。頑張らないと、チャングループの後継者はバカだって噂流れるよ。クスクス・・・」
「嘘っ・・・マジ?!イン、俺、どうしよ?」
「俺に聞くなって!俺だって、ギリギリラインなんだから・・・ヒョリン、お前はどうだった?」
「わ、私?私は・・・そこそこってとこかしら。でも女があまり勉強できても仕方ないと思わない?ガリ勉タイプの女性って、魅力ないと思うけど?」
「それもそうだな・・・」
「クスクス、ヒョリン、負け犬の遠吠えみたい。この同点一位の二人って、全然ガリ勉タイプじゃないよ」
「///・・・・」
「ファン、言い過ぎだ」
「イン、ゴメン。でも折角入学できたのにさぁ、努力しないとこの学校に来た意味がないと思うけど?」
 
ファンの言う事は、正論だとシンも思った。
 
「ギョン、ここの生徒たちの大半は、将来その分野で活躍できるよう留学を目指している。できれば、国費留学したいんだと思う。だから、皆、向上心が高いんだ。親に恥をかかせたくなかったら、死に物狂いで勉強するんだな」
「庶民はホント苦労が好きだよな・・・お付き合いしたくねぇ~」
「ギョン!!」
「シン、話しても無駄。余計に腹立つだけだって!相手にするな」
「ファン・・・」
「シン、私には頑張れって言ってくれないの?」
「・・・クスクス、ヒョリン、E組にならないよう頑張って♪知ってる?2-E、3ーEは、別名舞踊科クラスって言うんだって♪」
「ファン!!」
「クククッ・・・そういう事だ。ファン、教室に戻ろう」
 
シンとファンが立ち去った後、イン達も場所を移動したが、多くの生徒たちがギョンの『庶民は苦労好き』発言を聞いていたことにシン達は気づいてなかった。
 
 
 
それから数日経ったある日、シンとファンは課題の被写体を探すため、カメラを持って教室を出た。
 
「シン、美術コースは写生みたいだ。彼女たち、探してみない?」
「うん。。。でもどう話しかけるんだ?」
「シン・・・女性と話したことないだろ?今、手にしてるものは何?」
「ん?手にしてるもの?・・・カメラ?」
「そ、カメラ!話しかけるきっかけぐらいにはなるんじゃない?今回の課題のモデル、頼みなよ」
「///あっ・・・うん・・・」
「クスクス、ホント大丈夫?とりあえず、探しに行こ♪」
 
美術コースの生徒たちが花壇に向かって写生しているが、その中にお目当ての二人はおらず、シンとファンは首を傾げた。
校内を散策しながら、二人を探していると、巨木の下でボーっとしているシン・チェギョンを見つけた。
シンとファンがチェギョンに話しかけようと巨木に向かって歩き出した時、突然現れたイ・ガンヒョンに呼び止められた。
 
「ちょっとあなた達、何をしようとしているわけ?」
「えっ!?あっ、ゴメン。彼女にお願いがあって話しかけようとしたんだけど・・・丁度、絵も描いてないようだし、大丈夫だよね?」
「あの子、ああ見えて、今、凄く集中してるの。ダメね。それにお願い?知らない人のお願いを聞くほど、あの子は暇じゃないの」
「知らないって・・・シンは、皇太子殿下だよ?!」
「知ってるわ。だから?ひょっとしてお願いと言いつつ、実は皇太子の命令じゃないでしょうね?」
「それは、違う。イ・シンとして、彼女と君の二人と話がしたかったし、お願いしたいと思ってる」
「・・・信じられない。苦労好きな庶民とは付き合いたくないんじゃなかったの?あなた方の言う庶民の基準がいまいち分からないけれど、あなた方のお願いを聞いて、周りからバカなお坊ちゃま達と同じと思われたくないの」
 
ガンヒョンの言葉を聞いて、掲示板の前での会話を思い出したシンとファンは、慌てた。
 
「それは、僕たちが言ったんじゃない!シンは、ギョンをその場で窘めてた」
「知ってるわ。でもその後も行動を共にしてるわよね?生徒たちは、皆、何も言わないだけであなた達に反感を持ってるわ」
「・・・・・」
「・・・彼女もそう思ってるのか?」
「彼女?チェギョン?あの子は何も知らない。多分、この学校にあなたがいることも知らないかも・・・」
「うそ・・・」
「ガンヒョ~ン、イメージ沸かない。どうしよう・・・」
「・・・チェギョン、あんた、イメージ沸かないって一体どうするつもりよ?!」
「ハァ・・・まだ時間はあるから、何とかなるでしょ。ところで、そちらのお二人は誰?」
「さぁ?私も今、出会ったばかりだから、よく知らないわ。チェギョン、ヒスン達が暇そうにしてたわよ。行って来たら?」
「うん、そうするね」
 
シンとファンは、全く自分たちに見向きもしなかったチェギョンを唖然としながら後ろ姿を見送った。
そんな二人をガンヒョンは、ジッと見つめていた。
 
「クスッ、言った通り、殿下の顔も知らなかったでしょ?殿下・・・もう私たちに関わらないでもらえます?お互いの為にもその方が良いと思うから・・・」
「・・・なぜだ?やっぱり君じゃなく彼女が俺の・・・」
「殿下!もう終わった話でしょ」
「始まってもいないのに終わらせて堪るか!やっと思い出したんだ。。。」
「そう・・・で、どうしたいわけ?あなたの我が儘で、友達ができたって喜んでいるあの子の翼をまた折るつもり?私は10年で十分だと思うけど?」
「・・・なぜ、それを知っている?イ・ガンヒョン、お前は何者なんだ?」
「チェギョンの幼馴染よ。だから、あの子の苦労をずっと見てきたわ。分かったら、あの子から手を引いてちょうだい。じゃあ、私もこれで失礼するわ」
 
ファンは、聞きたいことが山のようにあったが、シンの辛そうな顔を見ると聞くことができなかった。
 
(シン、一体、シン・チェギョンとどういう関係なの?ただの幼馴染じゃないよね?それにあのイ・ガンヒョンのオーラ・・・ただ者じゃないよね)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

前進あるのみ 第54話

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仁川国際空港からの帰り、シンは憮然として後部座席に座っていた。
 
「シン、アジョシに認めてもらったのに何でそんなに不機嫌なんだ?」
「・・・何で、アジュマはユルの事、私の息子って言ったんだ?俺が息子になるんだっつうの」
「クスクス・・・シン、拗ねるなって。僕も昨日知ったんだけど、僕とチェギョンって乳兄弟なんだってさ」
「乳兄弟~~!?」
「そう。うちの両親、僕が生まれてすぐに別居・離婚しただろ?で、帰国したアジョシ達は、僕が離乳するまで1年ほど徳寿宮に住んでたってさ。だから、アジュマは僕を息子のように思ってくれてるみたい。理解してくれた?」
「・・・ああ」
「言っておくけど、僕の所為じゃないからね。ところで、チェギョンへの言い訳、考えた?どうする?」
「・・・急な来客があって、ユルと宮に戻ったと言うしかないだろうな。バレたら、俺が説明するよ」
「分かった。じゃあ、その方向で・・・」
 
二人を乗せた公用車が学校に着くと、もう4時間目が終わる時間だった。
ユルは一旦自分のクラスに行って、チェギョン達を迎えに行くことにし、シンはそのまま特別室へと向かった。
シンが特別室に入り、エアコンをつけ、弁当を広げていると、にわかに廊下が騒がしくなってきた。
 
(クスッ、心配してたけど、チェギョン、元気そうだな。。。)
 
しかし部屋に入ってきたチェギョンを見て、シンは思わず駆け寄った。
 
「チェギョン、どうした?寒気するのか?エアコン、切った方が良いか?」
「へ?全然、大丈夫だよ」
「??じゃあ、なんでスパッツ穿いてるんだ?」
「あっ、これね。ちょっと事情があってね。それよりお腹減った。お弁当食べたい」
「事情?・・・とりあえず食べよう。お前らも座れよ」
 
シンの心配性ぶりに苦笑しながら、イン達もいつもの席に座ると弁当を食べだした。
シンは、いつもと変わらないチェギョンにホッとしながらも 何か引っかかるものを感じていた。
 
(ん?いつもより食べる量が少ない?やっぱ昨日の疲れが残ってるのか?)
 
弁当を食べ終わると、チェギョンはおもむろに制服のスカートを脱ぐと、床にベタッと座りストレッチしだした。
 
「チェギョン?。。。ガンヒョン、チェギョン、急にどうしたんだ?」
「あのね・・・長休みにヘジンが美術科に来たのよ。発表会のオーディションがあるんだって。先生から主役を目指してみないかって言われたみたいで、チェギョンにコーチを頼みに来たの」
「・・・・・」
「ちょっと殿下、眉間に皺が寄ってる。ひょっとして反対するとか?」
「・・・チェギョン、ちょっとおいで」
「へ?う、うん」
 
チェギョンが隣に座ると、シンは自分の腕の中に閉じ込めた。
 
「チェギョン、ガンヒョンから聞いた。またヘジンのコーチするのか?」
「うん♪ヘジン、高校最後の公演だから頑張りたいんだって。。。だから、応援することにしたの。明日からレッスンするんだけどね、最近、サボり気味だったから私もやらないと・・・だから、当分、宮には遊びに行けない。シン君、ゴメンね」
「チェギョン、辞めるんだろ?なのに 何で・・・」
「シン君・・・実は、トラブルで公演は中止になったんだけど、契約で今年いっぱい拘束されてるんだよね。ひょっとしたらお呼びが掛るかもしれないから、一応レッスンだけはしておかないとダメなんだ。黙っててゴメン」
「チェギョン・・・」
「でもね、先方に連絡先教えてないんだ。だから、このままフェードアウトできたらいいなって・・・」
 
チェギョンがレッスンを止めない理由が分かったシンは、ギュッと腕に力を入れた。
 
「チェギョン、もういい。分かったから・・・もし声が掛っても絶対に無理なダイエットはするな。それから、夏休みは宮で過ごして、体調を元に戻すよう努力すること。レッスンはしても良いが、これだけは譲れない。約束できるか?」
「うん、分かった。シン君、ありがとう」
「じゃ、体動かしてきな」
「うん♪」
 
チェギョンはシンから離れると、床に座り込み、柔軟体操をし始めた。
それを見ていたガンヒョンやヒスン達は、チェギョンの体の柔らかさにしきりに感心している。
そんな中、ファンが小声で話し始めた。
 
「シン・・・当分、チェギョンに会えないのにやけに簡単に許したね。前みたいにチェギョン不足になって、不機嫌オーラ出さないでよ」
「・・・アイツが宮に来ないなら、俺がマンションに行けばいいだけだからな」
「「「はぁ~??」」」
「やっとここまで順調に回復してきたんだ。また振り出しには戻りたくない。今が肝心なときなんだ」
「クスッ、シン、正直に言いなよ。チェギョンなしじゃ、もう寝れないってさぁ」
「///ユル、煩い!!」
「で、シン。チェギョンの親父さんに会ったのか?だから、朝、いなかったんだろ?」
「・・・ああ、空港でな。昔のまんまのアジョシだった。『チェギョンを頼む』って言ってくれた」
「えっ!?じゃあ、認めてもらえたってこと?」
「多分な・・・あとは、チェギョンの体調が戻るのを待つだけだ。だから、手を抜きたくない。少しでも早く体調を戻して、プロポーズする」
「「!!!」」
「シン、頑張れよ」
「勿論だ。という訳で、ユル、お前んとこの内官、チェギョンちのカードキー持ってたよな?俺にくれって頼んでくれ」
「え~!僕が頼むの?・・・ハァ、分かったよ。帰ったら貰って、東宮殿に届けるよ」
「サンキュ」
 
シンは、友人たちに宣言したことで、また一歩前に進めたような気がするのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

改訂版 開眼 第1話

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シンは、陛下に呼ばれ、コン内官と共に正殿居間へと向かった。
居間には、すでに陛下と皇后が座っており、陛下は珍しく笑顔を見せていた。
 
「太子、今から客が来る。失礼が無いように・・・」
「・・・はい」
 
シンは、コン内官の顔を見たが、コン内官も心当たりがないのか首を横に振っただけだった。
 
(客?陛下が嬉しそうにする客って・・・誰だ?)
 
しばらくすると、一人の男が入ってきた。
 
「陛下、皇后さま、ご無沙汰しております。お元気でいらっしゃいましたか?」
「チェウォン、お前らしくないぞ。普通に話せ」
「・・・なら、気を遣え!人払いしろよ」
「クククッ、分かった」
 
シンは、目の前の男性の言動に驚き、思わず凝視してしまった。
陛下が右手を挙げると、女官が全員出て行き、最後にコン内官と陛下付きのキム内官も部屋を出て行こうとした。
 
「アジョシ、久しぶり。アジョシは悪いけど残って。ヒョン、もう一人はお前の右腕か?」
「そうだ」
「じゃあ、あんたも残ってて」
「コン内官、キム内官、二人はここに残れ」
「「御意」」
「チェウォン、これでいいか?」
「・・・ヒョン、単刀直入に聞く。急な呼び出し、何の用だ?」
「帰国したそうだな」
「俺らは、犯罪者か!?監視を付けるんじゃねぇ!まさか親父たちの戯言の話じゃないだろうな?」
「その、まさかだ。突然、婚姻しろと言われても 太子もお前の娘も戸惑うだろう。だから、会わせたい」
「!!!」
 
シンは、突然の婚姻話に驚き、固まってしまった。
 
「はぁ?断る!今の時代、許嫁もクソもないだろが・・・見て見ろよ。お前の息子もビックリしてるぞ」
「先帝が、遺言を残した。皇族として、守らねばならない」
「断固、断る!死んだ祖父さんの戯言より、ヒョン、息子の幸せを考えてやれよ!好きな女と結婚させてやれって・・・大体、親父たちの所為で、娘はずっと留学させられててやっと帰国したんだ。当分、嫁には出したくねぇ。おい、坊主。好きな女はいないのか?」
「えっ!?い、いません」
 
シンは急に話を振られ、どもってしまった。
 
「ハァ・・・最悪だな・・・」
「チェウォン、アジョシの孫で、お前の娘だ。絶対に太子を変えてくれるはずだ。頼む。会わせてやってほしい」
「何で3代続けて、宮の面倒を見なきゃならないんだ!?ヒョン、俺が辞める時、俺は何て言った?どんなに忙しくても家族の時間を大切にしろって言ったよな?なぜ、しなかった?俺の努力を無にしやがって・・・」
「チェウォン?」
「昔のミンさんは、こんな貼り付けたような笑顔じゃなかった。とても輝いてたよ。坊主もだ。寂しそうな眼はしていたが、素直ないい子だったよ。今はどうだ?全てを諦めたような人形みたいな目をしてるぜ?きっと過去のことも記憶が曖昧で、何も覚えていないんじゃないか?息子をここまで追い詰めたのは、間違いなく父親であるお前だ。そんな舅がいるところに可愛い娘をやれるか!息子の嫁取りをする前に まずは家族の絆を繋ぐ方が先決だと思うのは俺だけか?」
「チェウォン・・・」
 
シンは、チェウォンの言葉に知らぬうちに頬に涙が伝っていた。見れば、皇后もハンカチで涙を押さえている。
 
(このアジョシは、昔の俺を知ってる?一体、誰だ?)
 
「ヒョン・・・今の王族会は腐ってる。まさか気づいてないんじゃないだろうな?」
「「えっ!?」」
「マジかよ!?アジョシとキム内官だっけ?二人は、薄々だが分かってんだろ?」
「チェウォン君・・・」
「チェウォン、どういうことだ?詳しく話してくれ」
「娘を皇太子妃にして実権を握ろうとする動きとス兄貴の息子を皇太子に擁立しようとする動きがある。後者には、ソ・ファヨンの影がちらついてる」
「「「!!!」」」
「ス兄貴は良いヤツだったが、女を見る目だけはなかったからな。クククッ・・・アジョシ、ファヨンの動向を見張った方が良いよ。坊主が帰国準備を始めたらしい」
「チェウォン君、すぐに指示を出すことにしよう。色々とすまない」
「ヒョン、何、驚いてるんだ?これでもあの親父の息子だからな。この位の情報は、簡単に入る。何時まで俺に尻拭いをさせるつもりだ?いい加減、しっかりしろよ!それで少しでも風通しを良くして、息子に譲ってやれ!」
「すまん・・・ヒョン、やっぱり諦めきれない。お前が無理なら、娘を太子にくれ」
「断る!それにあのオババは、まだいるんだろ?オババがいる限り、あり得ないね。娘が苛められる」
「それは・・・お前が私に悪さばかり教えるからだ。自業自得だな」
「ふん、悪かったな。おい、坊主。自分の人生を親に勝手に決められていいのか?このままじゃ、後悔と恨みだけで人生終るぜ。自分の未来は、自分で切り開けよ」
「・・・はい」
「アジョシ、これ、渡しておく。この情報をどう使おうが、俺は関知しない。好きにして。ヒョン、おば様は皇太后殿か?折角来たんだから、挨拶だけして帰るわ。じゃあな」
 
シンは、初対面だというのにチェウォンの温かさと聡明さに魅かれ、これで会えなくなるのは残念だと思った。
チェウォンが席を立とうと、腰を浮かせたとき、シンは意を決して声を掛けた。
 
「ア、アジョシ、僕にお嬢さんを紹介してくれませんか?」
「「「!!!」」」
「お嬢さんというより、アジョシに興味を持ちました。もっとあなたと話がしたい」
「坊主・・・悪いが、俺にはそんな趣味はない。一つ忠告をしてやろう。自分で選んだのか、宮が選んだのかは知らんが、あの学友はいただけない。友人だと思うなら、間違いは正してやれ。これ以上、自分の評判を落とすな」
「えっ!?」
「それとさっき好きな女はいないと言ったから噂なんだろうが、【秘密の恋人】と呼ばれてる女がいるだろ?違うなら、否定しろ。皇太子殿下は、女を見る目がないと噂されてるらしいぞ。クククッ・・・」
「「「「!!!」」」
「坊主・・・お前も親父に似て、周りに無関心なのか?最低な親子だな。益々、娘はやれんな。ミンさんの苦労が目に浮かぶ。ミンさん、良かったら気晴らしにうちに遊びにきてください。スンレが喜びます。では・・・」
「チェウォン!!」
 
陛下の呼び声にも振り向きもせず、チェウォンは颯爽と正殿居間を出て行ってしまった。
 
「クスクス、チェウォンさんは、本当にお変わりありませんでしたね。相変わらず、口が悪く、温かい・・・」
「・・・チェウォンだからな」
「陛下、あの方はどういった方なのですか?」
「太子もチェウォンが気にかかるか?皇帝にあんな口をきくのはアイツぐらいだからな・・・チェウォンは、先帝の親友チェヨンアジョシの息子で、私の悪友だ。兄上が亡くなった時、私を補佐するために一時期私付きの内官をしてくれていた」
「あっ!・・・では、あの方が、伝説のシン内官さま」
「キム内官、そうだ。太子も昔会っているというか、世話になっている。皇太孫にあがった頃、しばらくアイツの家で過ごしている」
「恐れながら、申し上げます。殿下が入宮された当初、チェヨン氏が度々お嬢さまを連れて参内されており、殿下はお嬢さまといつもお遊びになられておられました。チェウォン君は、お嬢さまの話を聞いて、先帝に直談判をし、問題が解決するまで、家で保護してくださったのです」
「コン内官、保護とは?」
「・・・当時、皇太孫宮の女官たちは、すべてユルさまにお仕えしていた者たちで、殿下を虐待していたようでした」
「「「!!!」」」
「チェウォン君は、当時の最高尚宮を馘にすると、今の最高尚宮と共に女官の改革を進め、ファヨンさまの息のかかった女官たちはすべて排除して、殿下の安全を確保してくれたのです」
「・・・なぜ、報告しなかった?」
「女官の統括は、皇后さまの役目。知ったとしても心を痛めるだけで、何もできない。なら、皇太子・皇太子妃の教育で余裕のないお二人に知らせる必要はないと、チェウォン君と先帝が判断されました」
「「・・・・・」」
「チェウォン君が宮内の不穏分子を一掃した時、先帝がお嬢さまを殿下の許嫁にされました。このまま宮に残れば、未来の府院宮として権力を振るっていると誤解されるかもしれないと、チェウォン君は陛下の行く末を心配しながらも退官したのです。チェヨン氏も同じ理由から財界の表舞台から身を引かれたと聞いております」
「チェウォン・・・コン内官、チェウォンの娘には会った事があるか?私たちは、一度もないんだ」
「ございます。明るくて、可愛いお嬢さまでございました。殿下はお嬢さまとずっと一緒にいる方法はないのかと先帝に相談され、許嫁の約束がなされたのでございます」
「えっ!?僕がですか?」
「はい」
 
シンが必死に思い出そうと頭を働かせている間に、コン内官はチェウォンが渡した封筒を陛下に手渡した。
封筒の中身を見た陛下の顔が、徐々に険しくなってくる。
 
「キム内官、今すぐ皇太后さまの許に行って、チェウォンを連れて来てくれ!帰ったのなら、翊衛士を動員してもいい。すぐに連れ戻すのだ」
「は、はい!!」
 
キム内官が慌てて居間を出て行くと、陛下は頭をかきむしって、天井を仰いだ。
 
「皇后、太子、私は今まで何をしていたんだろうな・・・本当にすまない」
「「陛下・・・」」
 
(一体、あの書類には何が書かれてあったんだ?)
 
 
 
 

改訂版 開眼 第2話

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しばらくすると、キム内官がチェウォンと皇太后を伴って、居間に戻ってきた。
 
「ヒョン、何の用だ?もう話は済んだ筈だろ?」
「チェウォン、この情報について、詳しく話を聞きたい」
「・・・話すことは何もない。その報告書が全てだ。このままでは、宮は国民のお荷物でしかない。存続させたいなら、王族会を立て直すか潰せ」
「「「!!!」」」
「チェウォンや、一体、何の話なんです?」
「おばさま、何でもありません。ヒョンの不甲斐無さに少し苦言を呈しただけです。ただス兄貴の追尊に関しては、慎重になさってください。賢帝と言われたおじ様が、なぜ無情にもファヨン妃とユルさまを国外追放にしたか・・・そのお心を汲んでいただけたらと思います」
「・・・分かりました。肝に銘じましょう」
 
チェウォンと皇太后の話が一段落するのを待って、ミンが口を開いた。
 
「チェウォンさん、お聞きしてもいいでしょうか?先程の話で、腑に落ちないことが多々ありました。なぜ太子の身辺を詳しくご存じなのですか?」
「ミンさん、宮の情報はいい加減で遅いからですよ。娘が帰国したのはもう半年も前で、今、殿下と同じ高校に通っています」
「「えっ!?」」
「娘は興味がないのか何も言いませんが、娘と一緒に帰国した子が色々と教えてくれるんですよ。そうだ、おば様、ユルさまの許嫁も白紙になさった方が良い。宮の事を思えばこの婚姻は危険だし、本人同士も望んではいません。良い友人みたいですよ」
「チェウォン、なぜそこまで知っておるのだ?」
「クスクス、ユルさまと娘たちは、留学先でクラスメートだったんですよ。だから、ユルさまの情報は、娘を通して筒抜けなんです」
「「「!!!」」」
「昔は我が儘放題だったユルさまですが、今は明るい好青年になったようですよ。娘曰く、娘の親友である許嫁がユルさまの性根を叩き直したそうです。そういう意味では、おじ様の目は確かだったのでしょうね」
「チェウォン、父上の目が確かだと思うなら、太子に・・・」
「ヒョン!!その前にすることがあると言っただろ。なぜ10歳にも満たない娘を海外に出さねばならなかったか、よく考えてくれ」
「チェウォン?」
「・・・娘を皇太子妃にして宮を牛耳ろうとしている王族にとって、うちの娘は目障りでしかない。親父が表舞台から姿を消した後は、危なくて学校にも通わすことができなかったんだ」
「「「!!!」」」
「最初はスイスの全寮制のミッションスクールに入れ、時期を待って渡英させた。イギリスでユルさまの傍にいる限り、悪さはできないだろ?すぐに宮に報告が行くからな。俺は、10年かけて王族全員を調べ上げ、万全の体制が整ったから娘を帰国させたんだ。ヒョン、どうする?お前が動かないなら、俺が王族会を潰すぞ」
「ま、待ってくれ。この件は、私に任せてくれ。絶対にお前の期待を裏切るようなことはしない」
「・・・じゃあ、お手並み拝見という事で・・・もし納得できない解決だったら、俺は国を捨てるからな。ヒョン、もう用はないだろ?いい加減、帰らせてくれよ」
「チェウォン、最後に一つ聞かせてくれ。まさか娘とユルは、付き合ってるのか?だから、太子には会わせられないと言ってるのか?」
「ハァ?そんなこと、ある訳ないだろ!娘にとってユルさまは、親友のBFでクラスメートだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「なら、なぜ・・・」
「さっき言ったろ?!ヘミョンちゃんが、お前の坊主みたいにただ流されて生きているだけの男と結婚したいって言ったらどうする?もろ手を上げて賛成できるのか?」
「「・・・・・」」
「そういう事だ。。。坊主、悪く思うなよ。地に足がついてない男は認めるわけにはいかないんだ」
 
シンは、チェウォンに正論を並べられ、返す言葉がなかった。
 
「チェウォンさん、お願いがあります。息子に外の世界を教えてもらえませんか?」
「は?ミ、ミンさん?」
「シンは、宮の中の世界しか知りません。目標を持ちたくても持てないのでしょう。地に足がついていないと言うなら、地に足がつくようあなたが教えてやってくれませんか?陛下に教えたようにです」
「はぁ・・・坊主、外の世界に興味があるか?平たく言えば、国民の暮らしや娯楽だな」
「教えていただけるのですか?」
「・・・おば様、殿下をうちでしばらく預かっていいですか?どうせ、もうすぐ春休みだ。殿下なら課題を出せば、進級はできるんでしょ?」
「ほほほ・・・コン内官、学校に連絡して手配しておやり」
「かしこまりました、皇太后さま」
「チェウォン、これで良いですか?」
「あと、未成年を如何わしい店に連れていくようなバカはしませんから、おば様の後ろで睨んでいる婆さんを説得していただけると有難いです」
「おほほほ・・・久しぶりに会ったというのに 相変わらずチョンは苦手のようね。最高尚宮、チェウォンを信じてあげましょう」
「・・・坊ちゃん、我が天を悪の道に導かないように頼みます」
「チェ、マジで信用してないよな。おい、坊主、東宮殿に着替えを取りに行くぞ」
「は、はい」
「ヒョン、心配しなくても、うちにはペク・チュンハ元翊衛士がいる。ス兄貴が可愛がっていたヤツだ。ファヨン妃に利用されそうになっていたから、俺が引き抜いた。ああ、最長老は白で、俺の協力者だ。今後の事は、最長老と話し合うんだな。じゃあな」
 
チェウォンがシンを従えて正殿居間を出て行くと、陛下はすぐに最長老と宮内警察長官を呼び出すようキム内官に命じた。
 
「ヒョン、一体何が・・・」
「チェウォンが、王族たちの不正している証拠を持ってきました。アイツが納得する解決をしなければ、宮どころか国自体が揺らいでしまう。早急に対処しようと思います。それから、ミン。長い間、寂しい想いをさせてすまなかった。これからは、できるだけ夫婦の時間を持とう」
「あなた・・・ありがとうございます」
「母上、お先に失礼します」
 
陛下が、キム内官とコン内官を引き連れて部屋を出て行くと、皇后と皇太后、そして最高尚宮だけが残った。
 
「ミンや、チェウォンにシンを預けるなんてよく考えましたね」
「ふふふ、はい。陛下は、今でもチェウォンさんと遊んだ日々が懐かしいとよく零されます。あの日がなかったら、きっと国民の気持ちを分かろうと思わなかったとも・・・そんな想いをシンにも味わってもらいたい。そうすれば、変わってくれるのではないかと・・・それに一度、チェウォンさんのお嬢さんにも会ってみたいですし・・・」
「チェギョン?昔は、いつもニコニコしている天使のような子でした。口数が減り、表情が乏しくなったシンがチェギョンの前では笑うのです。そうでしたね、最高尚宮?」
「はい、皇太后さま。あの悪ガキのお子さまとは思えないほど、可愛いお嬢さんでした」
「クスクス、最高尚宮、そんなにチェウォンさんはヤンチャだったのですか?」
「社会勉強と言っては、毎日のように外に連れ出して、当時の陛下付きの翊衛士は大変でした。ですが、皇帝に就かれた今、その経験が生かされているような気がします。きっと殿下もいい影響を受けられるのではないでしょうか?」
「ええ、そうであってほしいものです」
 
 
皇后、皇太后、最高尚宮が、しみじみと昔話に花を咲かせている一方で、東宮殿ではチェウォンが溜め息を吐いていた。
 
「坊主、この服はお前の趣味なのか?」
「えっ!?」
「公務の際のスーツは仕方ないとしよう。だが、この私服は何だ?ダサすぎるだろうが・・・一体、誰が選んでるんだ?」
「さぁ・・・気づけば置いてあるというか・・・」
「ハァ・・・お前ね、幼稚園児じゃあるまいし、私服ぐらい自分で選べ!」
 
チェウォンは、おもむろに携帯を取り出すと、どこかに電話を掛けだした。
 
「忙しいのにすまない。至急、男物の服を揃えたい。服から靴、コートに至るまで全てだ。お宅の息子が着るような服を適当に見繕って持ってきてくれない?悪いけど、社長のあんたが責任もって持ってきてほしい。今から2時間後でどう?頼んだよ」
 
シンは、どこに掛けたのかは分からないが、社長を電話一本で動かせることができるチェウォンを信じられない目で見た。
 
「何だ?」
「い、いえ・・・」
「ああ、言っておくけど、これは俺の裏の顔だから。本来の俺は、専業主夫だ。家に戻ったら、今の俺は忘れてくれ。良いな?」
 
(陛下に毒舌を吐くこの人が、専業主夫だって~!?ダメだ、全く理解できない。一体、何者なんだ?それより俺は、この先どうなるんだ?)
 
 
 
 

改訂版 開眼 第3話

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シンは、ボーっと車の助手席に座っていた。
 
「おい、ボケッとしてんじゃねぇ!俺は侍従じゃないから、お前に気を遣うつもりもないし、先回りしてお前の考えそうなことを考えることもしない。言いたいことがあるなら、何でも言え」
「あっ、すいません。あの、来られた時もあそこから来られたのですか?」
「悪いか?昔から、あそこから出入りしてる。ヒョンを黙って連れだしてたら、癖になっちまったんだ。坊主、たまにはいいが、あんまり抜け出すなよ。俺が、ババアに睨まれる」
「クス、最高尚宮のことですか?」
「ああ。あの婆さんだけには、昔から頭が上がらないんだ。俺を怒鳴りつけた人は、唯一あの婆さんだけだ。まぁ、コン内官と同じぐらい信頼できる人だな。覚えておいて損はない」
「はい・・・あのお嬢さんにも会わせてもらえるのでしょうか?」
「お前次第だな。会いたければ会わせるし、会いたくなければ会わなくていい。但し、会っても友人止まりで頼む」
「でも許嫁なんですよね?」
「だから、娘に興味を持つなって言ってんの!確かに許嫁だが、婚姻するには条件がある。二人の気持ちが通じ合った時のみ婚姻を認めるという条件がな。娘には何も話していないし、何も知らない。坊主もまだ結婚したくないだろ?だから、絶対に娘に関心持つなよ」
「・・・はい。多分、大丈夫かと・・・」
「・・・お前、俺のミニチュア版を想像してるだろ?顔はともかく、性格は俺の親父似だ」
 
(お祖父さんに似たから、どうだって言うんだ?!お祖父さまの親友だから、間違いなくいい人なんだろうけど・・・)
 
 
 
15分ほど走ると、シンを乗せた車は、大きな3階建のビルの地下駐車場へと入っていった。
エレベーターで1階に降り立つと、そこには扉はなく、ソファーセットが置かれていた。
 
「ここは、自宅じゃない。事業関係のビル。どうしても人と会わないといけないときは、ここで会うようにしてる。まぁ、ここ以外には行かせるつもりはないけどな。で、こっちが必要な情報が集まってくる部屋」
 
チェウォンの後をついて、隣の部屋に入っていくと、数人の若者がパソコンと格闘していた。
 
「親父、今日はまた大物を拾ってきたな。どこに落ちてたんだ?」
「拾ってねぇ!押し付けられたんだ。おい、皆、紹介する。ツレの息子。色々、教えてやってくれ」
 
パソコンに向かっていた若者たちが、シンをジッと見つめている。
 
「おい、我が国は礼儀を重んじる国で挨拶は基本だ。幼稚園児でもできることが何でお前はできないんだ?居候の分際で、偉そうにすんじゃねぇ」
「・・・すいません。イ・シンです。しばらくこちらでお世話になることになりました。皆さん、よろしくお願いします」
「クククッ、親父、半端ねぇな。ヒョン、俺、シン・チェジュン。この家の息子だ。多分、俺と行動を一緒にすると思う。よろしくな」
「あ、うん。よろしく」
「チュンハ、悪いが、こいつの護衛、頼む」
「・・・了解。クスッ、結局、断りきれなかったみたいですね」
「ふん。コイツが不甲斐無いせいだ。女の一人や二人、作っとけってんだ」
「クククッ、そりゃ立場上、無理でしょ」
「コイツの親父は、結構遊んでたぜ」
「それは、あなたが連れ出してたからです」
「そうとも言うな。。。おい、皇太子じゃなかったら、何がしたい?」
「えっ!?」
「考えたこともなかったか・・・?なら、諦めて皇帝の道を進もうとしてるなら、なぜ努力をしないんだ?」
「・・・・・」
「じゃあ、今から考えろ!どうしても皇帝になりたくなかったら、俺が宮を潰してやる」
「!!!」
「宮を潰せる材料なんざ、山ほどあるさ。それをマスコミにリークすれば良いだけだし、再建するより簡単なんだ。でもそうすれば、問題はお前の身の振り方なんだ」
「身の振り方・・・ですか?」
「その性格じゃ営業は無理だろ?まぁ、それ以前に元皇太子を雇う企業があるかだよな。例え、雇われても客寄せパンダ的に扱われ、今と変わりないだろうよ」
「・・・・・」
「大体、英才教育で帝王学を学んだヤツが、誰かの下で働けるとは思えねぇ」
「親父が雇ってやれば良いじゃん」
「バカな事を言うな!元皇族を雇うほど、俺の神経は図太くねぇぞ」
 
パソコンに向かっていた若者たちが、手を止めて肩を震わせている。
 
「おい、お前ら、笑ってんじゃねぇ!そうだ、ウソン、後でカンコーポレーションの社長が来る。あそこに任せたショッピングモールの資料、出しといて」
「わかりました」
「このままじゃ、チェジュンが独り立ちするまで持ちそうにない。今日、見込みがないと判断したら、ウソン、お前に任せる」
「ゲッ・・・」
「チュンハ、来客が来るまで、コイツに宮の問題点を説明してやってくれ」
「了解。殿下、こちらに」
 
部屋中央に置かれた大きなテーブルの一角にシンを座らせたチュンハは、シンの前にファイルを置い
「宮の問題点は、王族会です。王族会のことをどれくらいご存知ですか?」
「・・・王族は皇族に適切なアドバイスをし、皇族と共に国民を慈しむ義務がある」
「正解!ですが、殿下が見た王立に通う王族のご子息・ご息女はいかがでしたか?」
「・・・傲慢で、権力を振りかざすバカばかりでした」
「ですね。子どもがそうならば、親も間違いなく同じでしょう。チェウォンさんが陛下にお渡ししたのは、その王族たちの不正の情報です。一掃しないと、宮の存続は難しいと思ってください。殿下、王族は大きく2つに分けられます。皇族の流れを汲む宋親会と皇族と姻戚関係を結んで王族になった輩の2つです。最長老をはじめ宋親会の方々は、実直で何の問題もありませんでした。問題は、後者です。一度、美味しい想いをした輩は、もう一度と夢を見るのでしょう」
「・・・情けない」
「だから、外様の王族達は排除しても何の問題もありません。寧ろ、排除することによって、国民から大きな支持を得られるでしょう。これが、勢力分布図です。この中には、娘を皇太子妃にしようと動いている輩がいます。放置していれば、対岸の火事じゃなく間違いなく火の粉を被るでしょうね。性根を入れて、王族たちのプロフィールを頭に入れてください」
「・・・はい」
 
手渡されたファイルを見ると、王族会員だけでなくその家族まで詳細に調べられており、シンの興味を引く内容ばかりが分かりやすく整理されていた。
 
(へぇ~、あの娘で皇太子妃を狙ってるのか?親の欲目もここまで来ると病気だな。それにしてもこのファイル、凄すぎだろ・・・)
 
熱心にファイルを熟読していたら、チェウォンが隣に座ってきた。
 
「このファイルは、持ち出し禁止だからな。帰るまでに頭に入れろよ」
「えっ!?」
「分かると思うが、犯罪すれすれで集めた情報もある。クリーンな宮には似合わないだろ?」
「確かに・・・」
「それから、こいつらは覚える必要はない。ヒョンが最長老と近日中に処分するはずだ」
「・・・はい」
「それから、この派閥には気をつけろ!ファヨン妃と繋がっている。ファヨン妃は、お前さんを廃位にして、ユルさまを皇帝の座に就け、自分も皇太后の地位に上り詰めようとしている。その為には、手段を選ばない人だ。最悪、命を狙われるかもな・・・」
「・・・・・」
「だがな、ユルさまが皇位に執着してないことにファヨン妃は気づいていない。ピエロだな」
「では、先程仰ってましたよね?ユルが帰国するって・・・帰国の目的は何なんですか?」
「ユルさまのみぞ知るだな。ただ、目的の一つは、お前の補佐だと思う。娘の親友が、相当辛辣に意見したみたいだ。うちの娘に関わったら、確実にその親友とも関わることになる。そうしたら、坊主も間違いなくクソミソに扱き下ろされると思うぞ。クククッ・・・うちの娘に会いたければ、覚悟して会えよ」
「クスクス、ヒョン、あのヌナの毒舌に掛ったら、確実に3日は凹むぞ」
 
(マジかよ・・・どんな強烈な女なんだ??でもユルの元許嫁なんだよな?)
 
気持ちを切り替えて、再びファイルに目を通し始めたシン。
宮を出て、丁度2時間後、カン社長が来たとの知らせを受けた。
シンは、チェジュンに伊達眼鏡を借り、チェウォン、チェジュン、ウソンと共に応接間へと向かった。
 
(アジョシは、俺の服の購入は口実にして、カン社長の進退を見極めるつもりなんだろう。でもこれのどこが社会勉強なんだ?)
 
 
 

改訂版 開眼 第4話

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最初に入った応接間に足を踏み入れると、すでに夥しい量の服や小物が陳列しており、一人の男性が緊張した面持ちで鎮座していた。
 
「急に用を言いつけて申し訳なかったね」
「いいえ、とんでもございません」
「紹介しよう。倅のチェジュンと遠縁の子だ。おい、好きな服を選びなさい。特に坊主は、10着ぐらい選べ」
「親父、俺もいいのか?」
「進学祝いだ。その代り、入学したら小遣いはなし!自分でバイトして稼げ」
「ゲロゲロ・・・やっぱ親父は鬼だな」
「俺もそうだったんだ。これが、シン家の教育方針だ。悔しかったら、お前も自分の倅にやれ」
 
チェウォンの言葉に カン社長は驚いているようだった。
 
「カン社長、とりあえず店ごとに納品伝票をきってくれる?それを見て、ここにいる秘書が支払いに行くから」
「えっ!?」
「・・・カン社長、何か履き違えていないか?タグを見る限り、ショッピングモールのテナントから拝借してきたんだろ?うちは、各ショップからテナント料を貰って、場所を提供しているだけだ。うちからしたら、テナントに入っているショップはお客様なんだよ。オーナーだからって、タダでいただくわけにはいかない。この分じゃ、どうせバーター伝票も切って来てないんだろう?」
「申し訳ありません。すぐに納品伝票を用意します」
「気にするな・・・あんたに任せた俺の人選ミスだ。ウソン、返却と支払い、その他の手続き、すべて任せる」
「はい。早急に手続きに入ります」
 
ガックリと肩を落とすカン社長にチェウォンは憐みの眼差しを向けた。
 
「カン社長、お宅とは親父の代からの付き合いだ。俺が知っている親父さんは、実直で真面目一筋の人だった。あんたも根は良い人だと思ってる。だが、このままでは、あんた会社潰すよ。俺、任せておけないんだけど?」
「申し訳ありません」
「悪いけど、カングループは規模を縮小させてもらう」
「・・・はい」
「一つ聞いていいか?余所様の教育方針に口出す権利はないけど、息子の小遣いはいくらだ?洋服代は、別途支給してるとか?」
「えっ!?」
「お宅が持ってきた服の値段、見た?かなり高額だよ?被服費に毎晩のように遊び歩いている飲食代、一体いくら渡してるのか、前から不思議だったんだよね。お宅の息子、ひと月で間違いなく一般サラリーマンの月給数か月分を使ってるよね?」
「・・・・・」
「息子が改心しない限り、俺、お宅と手を切るよ。それから、息子がテナントから無断拝借していた場合、訴訟起こすからね。覚悟してよね。帰っていいよ。お疲れさま」
 
ガックリと肩を落としてエレベーターの中に消えていくカン社長の後ろ姿を見送ったシンは、バカな息子を持つと苦労するなと哀れに思った。
 
「ハァ、マジであり得ねぇ親父だな」
「チェジュン、苦労知らずの2代目のボンボンはあんなもんさ。きっと甘やかされて育ったんだろうよ。坊主、あれが世襲制の怖いところだ。俺から見れば、畑は違えど、あの社長のバカ息子と坊主は一緒だ」
「えっ!?」
「精進しないと、公務に行くたびに国民から石を投げられるぞ。因みにそのバカ息子、坊主のご学友だから」
「!!!」
 
(カン社長・・・じゃあ、さっきのはインの親父さん?)
 
「ヒョンのツレ、最悪だな。でも何で芸校なんだ?神話で英才教育受けさせたら、バカなりに経営のノウハウが身に付くだろうに・・・」
「・・・映像に興味があったのか、皇太子のご学友というステータスが欲しかったんじゃない?チェジュン、もし芸校に行きたかったら、行っていいぞ。学力だけなら問題ないから、どうにでもなる」
「冗談だろ!?俺には、芸術の才能はない。今のままで十分だ」
「チェジュン、どこに通うんだ?」
「俺?幼稚舎から、ずっと神話だけど?あそこ、セキュリティー万全だし英才教育バッチリだからな」
 
(神話だって?!国公立のソウル大の双璧と言われる神話に通ってるのか?かなりのセレブ校だと聞いたことがある。アジョシの会社のスケールって、想像以上かも・・・)
 
「おい、選べたか?」
「はい。これでお願いします」
「うん、なかなかセンス良いんじゃない?ついでにこれとこれも持っておくと便利だな。ウソン、あとこの服に合う小物や靴も支払いに行った時、調達してきてくれ」
「了解です」
「じゃあ、着替えて、母屋に戻るとするか・・・」
 
チェウォンが奥の部屋に消えると、ウソンは買い取る予定の服の値札のタグを切っていく。
 
「殿下、足のサイズは?」
「えっ!?28cmです」
「了解!値札を取った服は、母屋に持ってってくれていいから。後で、スニーカーと安全靴を持っていく」
「あの・・・安全靴って!?」
「親父さんは、間違いなく二人を建設現場に連れていくだろうからな。必要なんだよ。俺は、漁船にも乗せられたぞ。漁船に乗るなら、ゴム長も要るな。確認しておかないと・・・」
「ゲロゲロ・・・ウソンヒョン、湿布用意しといてくれる?」
「クククッ、了解!後で、一緒に持っていってやる。殿下、聞いた話じゃ、陛下も工事現場で働いてるぜ。おそらく漁船も乗ったことあるんじゃないか?」
「!!!」
「・・・恐るべしシン家の教育方針」
「チェジュン・・・アジョシが俺は専業主夫だって言ってたんだけど、本当か?全然、想像がつかないんだけど・・・」
「マジだ!こっちの事業は、ほとんど人任せで趣味みたいなもんだな。祖父さんは、時代もあったんだろうけど仕事第一主義で、あまり家にいなかったらしい。その反動か知らないけど、親父は家庭第一主義だ。見たら、ビックリするぜ」
「お袋さんは?」
「保険の外交員で、バリバリのキャリアウーマン!うちの家訓は、働かざる者食うべからずだからな」
 
その時、ドアが空き、着替えを済ませたチェウォンが戻ってきた。
 
(!!!)
 
チェウォンの姿を見たシンが唖然とする姿を見て、チェジュンとウソンはお腹を抱えて笑いだした。
 
「お前ら、何笑ってんだ?おい坊主、口開いてるぞ。ボーっとしてないで、さっさと服を紙袋に入れろ」
「あ、はい・・・」
 
(さっきまでのは、何だったんだ?只の中年のおっさんじゃないか。それより何で割烹着&健康サンダルなんだ?)
 
着替えを持ったシンは、チェウォンとチェジュン親子と一緒にエレベーターに乗った。
 
「おい、どこ行くんだ?こっちだ。車には乗らない」
「へ?」
 
チェウォン親子は、駐車スペースとは反対方向にある非常ドアの向こうに消えていった。
シンが慌てて後を付いていくと、そこは少し広いが普通の民家の庭先だった。
 
「ここが、シン家の母屋だ。ようこそ、我が家へ。シン君、疲れたろ?家でゆっくりしようじゃないか」
「いらっしゃい、シンヒョン」
 
目の前で、父子がニコニコと笑っている。
 
(さっきと全然顔つきが違う。この親子、絶対に二重人格だ。俺、ここでやっていけるのか?)
 
 
 

改訂版 開眼 第5話

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チェウォンとチェジュンに案内され、母屋に踏み入れたシンは、玄関で突然ストップを命じられた。
 
「一般家庭では、玄関で靴を脱ぐ決まりなの。これ、世間の常識だからね」
「///はい、すいません」
 
シンはチェウォンに指摘され、慌てて靴を脱ぐのだった。
 
チェギョン姫~、どこだ~?アッパが帰ってきたぞ~
 
チェウォンの大声に驚いていると、台所の奥から一人の少女が現れた。
 
「クスクス、そんなに大きな声出さなくっても聞こえてるって。アッパ、お帰り。チェジュンも一緒だったのね」
「ヌナ、ただいま」
「お帰り、チェジュン。ところで、そちらの方は?」
「・・・拾った。しばらくうちに泊めるから、仲良くしてやって」
「は~い。いらっしゃい。シン・チェギョンよ。よろしくね」
 
ニッコリ笑われ、右手を差し出されたシンは、無意識にその手を握り、自己紹介を始めた。
 
「イ・シンだ。分からないことだらけなので、色々と教えてほしい」
「シン君ね・・・・ん?ひょっとして、映像科3年のイ・シン君?」
「・・・うん」
 
チェギョンは、一瞬驚愕の表情を見せたが、すぐに元の笑顔に戻った。
 
「チェギョン、アッパは夕ご飯の用意をするから、祖父さんの部屋に案内してやって」
 
チェギョンに用を言いつけると、チェウォンは台所に消えていった。
 
「シン君、うちは働かざる者食うべからずなの。荷物を置いたら、楽な格好に着替えて、このリビングに戻ってきて。OK?」
「オ、OK・・・」
 
部屋に案内されたシンは、すぐにスーツから楽な服装に着替えると、リビングへと戻っていった。
チェギョンは、シンにサンダルを履くように勧めると、一緒に外に出た。
 
「ちょっと待ってね」
 
シンを外で待たせたまま、チェギョンは離れの部屋に入っていき、手に毛糸の帽子を持って戻ってきた。
そしてシンを屈ませると、その帽子を被せ、小さなビニールハウスを目指した。
 
「うん、我ながら丁度サイズ♪アッパに編んでた帽子なの。アッパには内緒ね。拗ねるとホント大変だから」
「あっ、うん。でもどうして帽子なんて・・・」
「アッパが拾ってきた人って、シン君が初めてじゃないのよ。だから、この先のシン君の運命が分かってるってことかな?クスクス・・・」
「・・・もしかして工事現場や漁船に乗せられる?」
「何だ、知ってるんじゃない。多分ね。シン君、これがサンチュ。根っこは残して、丁寧に葉っぱだけを摘んでいって」
 
シンは、チェギョンの言葉に軽い眩暈を覚えたが、チェギョンの隣にしゃがむと見よう見まねでサンチュの葉を摘みだした。
 
「シン君って、皇太子殿下なのよね?」
「・・・うん」
「うちでは皇太子殿下じゃなく、ただの同級生イ・シンとして接していいのかなぁ?」
「しばらく世話になるんだ。その方が助かる」
「分かった。改めて、自己紹介するわね。美術科デザインコースのシン・チェギョンよ。まだ帰国して半年だから、私もあまりソウルに詳しくないの。色々と教えてね」
「イ・シンだ。今まで、公務以外、学校と宮の往復しかしたことがない。だから社会勉強をしにきた。俺こそ分からないことだらけだと思う。よろしく頼む」
「マジで!?ホント生粋のお坊ちゃまね。どういう経緯でうちに来たのかは知らないけれど、多分宮では一生経験できないことができると思うわ。楽しんでいって」
「ああ。楽しめるかどうかは疑問だが、頑張るよ」
 
 
 
夕食が出来上がり、小さな丸いちゃぶ台には所狭しと料理の数々が載っている。
その中には、シンとチェギョンが摘んだサンチュもキレイに洗われて、載っていた。
 
「主人から聞いたわ。あなたがシン君ね。忙しくって、あまり顔を合わせないと思うけどよろしくね」
「宜しくお願いします」
「挨拶も済んだことだし、さぁ料理が冷めないうちに食べよう」
「「「いただきま~す」」」
 
シン家の4人は、マシンガントークを繰り広げながら、凄い勢いで料理を口に運んでいく。
シンは、4人の食べっぷりに呆気にとられてしまった。
 
「ほら、シン君も食べないと、食べそびれるよ。アッパの料理、最高なんだから」
 
チェギョンはシンの戸惑いを感じ、ご飯の上におかずをちょこんと載せた。
見れば、スンレもチェジュンやチェギョンに同じようにしていた。
 
「ほら、食べて」
「うん・・・美味い」
「でしょう♪じゃあ、次はこれね」
 
サンチュにご飯やおかずを乗せ包んだものを チェギョンはシンの口の中に放り込んだ。
こんな大きなものを口に入れたことがないシンは、目を白黒させながら必死で咀嚼するのだった。
それを見たシン家の家族は笑いながら、ごく自然に次々とシンの口に色々なおかずを放り込んでいく。
料理も美味しいが、それ以上に家族の温もりに触れたシンは、心が温かくなるのを感じた。
 
(これが、家族団らんというものか・・・アジョシが家族を大事にする気持ちが分かるような気がする)
 
食後、シンとチェジュンが夕食の後片付けをすることになり、二人が皿洗いをしている横で、チェギョンはコーヒーを淹れ始めた。
 
「へぇ、シンヒョン、皿洗いできるんだ。意外、意外・・・」
「チェジュン、バカにしてただろ。これでもボーイスカウト出身だ。皿洗いもできるし、辛ラーメンも食べたことあるぞ」
「辛ラーメンってインスタントの?」
「ああ。キャンプに行ったら、夜食に出たんだ。それが楽しみで、キャンプは欠かさず参加していた」
「うちにも買い置きがあるぜ。そこの戸棚に入ってる。腹減ったら、勝手に食べなよ」
「サンキュ」
 
後片付けが終わり、チェジュンとリビングに戻ると、グッドタイミングでチェギョンがコーヒーを持って現れた。
留学先で身に付けたバリスタチェギョンが淹れたコーヒーは、今まで飲んだどのコーヒーよりも美味しく感じた。
 
「ねぇ、アッパ~、スタバでバイトしていいでしょ?」
「ダメだ。チェギョンが淹れるコーヒーを飲むのは、家族だけの特権だ!それに男が纏わりついたらどうする?アッパは心配で、仕事が手に付かなくなるぞ」
「お小遣い稼げないじゃない・・・ウルウル」
「・・・じゃ、チェギョン、シン君が着る服のデザインすれば?デザイン料は、宮が払う。どうだ?」
「それは、いいけど・・・でも何でシン君のなの?」
「ラフな服をあまり持ってなさそうだし、それにセンス無さそうだろ?平気でドッド柄やフリフリのドレスシャツ着てそうな気がする」
 
チェジュンとチェギョンは想像したのか大爆笑をし、シンは事実を話され赤面してしまった。
 
「クスクス、シン君、私がデザインしてもいい?」
「あ、うん・・・」
「シン君専属デザイナー、シン・チェギョン、頑張ります!そうと決まれば、オンマ、メジャーある?」
「あるわよ。ちょっと待ってね」
 
スンレがメジャーを持ってくると、チェギョンはシンの至る所を採寸し、広告の裏に寸法を書き留めていく。
 
「これで良し!明日から頑張るね。そうだ、シン君。彼女さんが気を悪くするかもしれないから、私の事は秘密にしておいた方が良いわよ。じゃあ、おやすみなさ~い」
 
呆気にとられながらチェギョンを見送っていると、チェジュンとチェウォンがニヤニヤしていた。
 
「チェジュン、ニヤニヤ笑ってんじゃない!俺に彼女なんているわけないだろうが・・・」
「マジ?!ガンヒョンヌナは、ヒョンの彼女の事、クソミソに言ってたけど?」
「皇族は嘘は吐かない。今まで、女とまともに話したこともない。今日、チェギョンと話したのが初めてと言っていい」
「マジかよ・・・ハァ、ヒョン、俺が言うのもなんだけど暗いぞ。ヒョン、可愛いトンセンからアドバイスだ。同性からも好かれる女を選べ。ガンヒョンヌナ曰く、その噂の彼女、相当性格が悪いらしいぜ。」
「クククッ、シン君、チェギョンの誤解を解こうとしないでいいからね。少し早いが風呂に入って、明日に備えなさい」
「はい・・・」
 
(アジョシも言ってた【秘密の恋人】のことだよな?相当性格が悪い噂の彼女って、一体、誰なんだ??)
 
 
 

改訂版 開眼 第6話

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風呂から上がったシンは、部屋に戻ると、少し考えてからリュ・ファンに連絡を入れた。
 
『ヨボセヨ。シン?こんな時間にどうしたの?』
「・・・ファン、学校で噂になってる俺の【秘密の恋人】って誰だ?」
『ハァ?シン、何言ってんの?ヒョリンと付き合ってるんでしょ?』
「ヒョリン?ヒョリンは、インの女だろうが・・・ファン、何おかしなこと言ってるんだ?」
『ちょっと待って。シン、本当にヒョリンと付き合ってないの?』
「話したこともないし、二人で会った事もない。そんなのいつも一緒にいるお前らが一番知ってるだろうが・・・一体、誰がそんな噂を流してるんだ?」
『・・・・・』
「ファン?おい、何とか言えよ」
『ゴメン。最初、おかしいとは僕も思ったんだ。でもヒョリンが、『シンは照れ屋なのよ。二人の時はとても情熱的なんだけどね』って・・・噂が流れてもシンは何も言わないし・・・じゃあ、ヒョリンの嘘なんだよね?』
「全くの出鱈目だ。大体、俺は学校と宮との往復しかしたことがないし、傍には必ず翊衛士がいる。二人になることは、絶対にありえない」
『だよね・・・僕らが間違ってた』
「ファン、俺は進級するまで学校には行けない。それまでに噂を払拭しておいてくれ」
『うん、一応、やってみるけど、あまり期待しないで。正直、インとギョンは、完全にお前たちは付き合ってるもんだと信じてるからね』
「ファン、これ以上大ごとになれば宮が動く。皇族の婚姻は早い。今、この手の噂は非常に拙いんだ。ファン、何としてでも止めるんだ」
『分かった。じゃあ、シンも公務、頑張って』
 
電話を切ったシンは、床に敷かれた布団にゴロンと寝ころび、天井を睨みつけた。
 
(噂を流した犯人が、ヒョリン本人だって!?あり得ないだろうが・・・あの女、何を考えてるんだ?大体、俺よりインの方がいつも一緒に行動してるんじゃないのか?訳分かんない女だよな・・・)
 
慣れない布団で眠れそうもなかったが、オンドル(韓国式床暖房)が思いのほか気持ち良く、シンはスッと眠りに落ちていった。
 
 
 
翌日から、シンはチェジュンと護衛のチュンハと共に 工事現場に放り込まれた。
背負子を背負い、何個ものブロックを乗せられ、現場までを往復する単純作業。
ブロックの重みが肩に食い込み、体が悲鳴を上げるが、チェジュンが、シンを心配し励まし続けてくれた。
 
(俺より体力無いはずなのに、チェジュンの奴・・・)
 
現場で働くおっさん連中のワイ談には閉口したが、シンにとって聞く話すべてが新鮮だった。
そして生まれて初めて空腹を知り、労働の後の飯はとても美味しいと感じた。
最後に バイト代を手にしたとき、シンは震えるぐらい感動してしまった。
 
「初めて汗水たらして働いて手にした金はどうだ?」
「すごく感動してます。この5万ウォン、記念に取っておきます」
「オーバーな奴だな。ちょっとそこのレストランのメニュー表を見てごらん」
 
シンは、指さされたレストランに近づくと、看板のメニューに目を向けた。
 
「これが、ソウルの物価だ。ここは気軽に行ける店だが、そこそこのレストランなら一人10万ウォンは軽くする」
「えっ!?」
「サラリーマンの平均給料は、200万ウォン~300万ウォンの間ぐらい。国民は、その中から税金を払い、家族を養って生活している。この国は学歴社会だから、子どもの教育費はバカにならない。大変だと思わないか?」
「・・・思います」
「昨日、買い取った服の値札は見たか?」
「あっ・・・!!」
「明らかに贅沢品だろ?」
「はい、それもかなり・・・」
「有名芸能人や皇太子が着ているとなれば、宣伝にもなるし、店側も喜んで無償提供するだろう。だが、ただの御曹司なら何のメリットもない。勝手にお持ち帰りしていたなら、たかりという犯罪になる」
「・・・・・」
「今日、社長自ら出向いて、被害に遭っていたショップに謝罪と代金を支払ったそうだ。その額、1000万ウォン以上」
「!!!」
「坊主、宮は国民が納めた税金で維持し、生活が賄われている。国民がいるから成り立っているんだ。それを忘れるな」
「はい!」
 
家に戻ると、満面の笑みを浮かべたチェギョンに出迎えられ、そのままチェジュンと一緒に風呂に押し込まれた。
 
「はぁ、気持ちいい~!ヒョン、疲れたろ?肩、大丈夫か?」
「ああ、何とか。チェジュンは大丈夫か?」
「何とかな。。。どうせ3年間は、俺はこんな生活だろうし諦めてるさ」
「シン家の教育方針だもんな。。。なぁ、チェジュンから見た姉さんて、どんな奴なんだ?」
「ヒョン・・・ヌナに興味持ったか?どうと言われても・・・10年近く留学してて、俺だってヌナと住みだして半年だからな。いつも明るく裏表がない。悪く言えば、バカ正直?・・・親父、よく人拾ってくんだよ。来た当初はナイフのように尖ってんだけど、最後の方は優しい目になるんだ。それがさぁ、ヌナが帰国してから、そいつ等来た翌日から顔つきが変わるようになった。多分、ヌナの笑顔に癒されるんだろうな」
「・・・・・」
「ヒョン、それはヒョンにも当てはまると思ってるけど?俺、【氷の皇子】のヒョン、昨日から一度も見てないし」
「・・・シン家の人たち全員に癒されてるよ。アジョシは、ビックリの方が多いけどな」
「クククッ、親父は普通じゃないからな。祖父さんも俺は優しい祖父さんの記憶しかないけど、親父には厳しかったらしい。親父も2代目のボンボンだからな」
「で、チェジュンは3代目だな」
「ヒョン・・・俺は、お互いが好きならヌナとのこと反対しない」
「チェジュン?」
「ヒョン、俺、腹減ったよ。早く、身体洗って上がろうぜ」
「ああ、うん・・・」
 
風呂から上がり、夕ご飯を腹いっぱい食べたシンは、チェギョンに肩を借りて部屋に戻った。
そして全身筋肉痛で動けないシンは、チェギョンにクスクス笑われながら、全身に湿布を貼ってもらったのだった。
 
(この俺が湿布だらけになるなんて・・・)
 
 
工事現場の次は、漁師の家に泊まり込みで漁船に乗り、続いて農家に泊まり込んで野菜の収穫や苗の植え替えなどの手伝いをさせられた。
夜が明けきらないうちに出航して、漁場まで移動し、シン達は漁師たちに交じって網を引き揚げた。
波に揺られながらの作業は、かなり困難を極めたが、取れたての魚をその場で捌いてもらって食べた刺身は最高に美味しかった。
そして漁獲量によって、毎日日当が違い、魚が取れないと日当が0の時もあると聞き、漁業に従事する人たちの大変さを知った。
また農家では、老夫婦が温かく迎えてくれ、収穫作業の合間に色々な話を聞かせてくれ、シンは興味深く話をきいたのだった。
充実した日々だったが、全ての予定を終え、迎えに来たチェウォンを見た時は、なぜかホッとした。
 
「お疲れさん。ソウルに戻ろう」
「「はい」」
「坊主、この1週間、どうだった?辛かったか?」
「体力的にはきつかったですが、聞いた話はどれも興味深くて、とても有意義に過ごせました。また取れたての魚や野菜の味は、最高に美味しかった」
「だろうな・・・坊主、良い顔になったな。坊主、ここまでの体験はできないだろうが、宮に戻っても公務という形で色々な人の話を聞くことができる。お前は、恵まれた環境なんだよ」
「あっ・・・」
「皇族は、親身になって話に耳を傾け、手を握って励まし、言葉をかけるだけで、喜ばれる存在だ。俺的にはオイシイ職業だと思うけど?」
「オイシイ職業・・・ですか?」
「そう、職業!責任が人より少し重いだけだ。制約なんて、人それぞれ皆あるんだよ。チェジュンとチェギョンだって、誘拐防止の為、学校と自宅以外はSPが付いている。したくない勉強もしてるしな。坊主と一緒だ。それより究極の制約を強いられてるのは、女官だよな。今の時代に恋愛禁止って、人権侵害もいいところだろうが・・・」
 
チェウォンの話を聞いて、シンは目から鱗が落ちるような気分になった。
 
(俺だけが辛いわけじゃなかったんだな・・・)
 
「チェジュンは、疲れて寝てしまったようだな。坊主も着くまで、少し眠れ。チェギョンが、坊主の部屋着をバカ程作って、帰ってくるのを待ってたぞ。楽しみにしてろ」
「はい・・・」
 
目を瞑ると、チェギョンの笑顔が思い出され、シンはスーッと眠りに落ちていくのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

改訂版 開眼 第7話

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シンから連絡を貰ったファンは、インとギョンにどう説明するか悩んでいた。
不貞腐れ機嫌の悪いインとそのインを慰めている単細胞のギョンを見て、ハァと溜め息しか出てこない。
ヒョリンは、シンが登校してこないと、映像科には顔を出さない。
 
(今、話したところで、こいつらじゃ、反感を持つだけだろうな。仕方ない、僕だけでも動くとするか・・・)
 
ファンは、比較的話すことがあったクラスメートに話しかけ、シンとヒョリンの噂は根も葉もない噂で、噂が広まってシンが困っていると話した。
 
「やっぱりな・・・道理でおかしいと思ったよ。あんな女のどこが良いんだって、皆、噂してたんだ」
「あんな女って、ヒョリンの事?」
「ファン、君も案外鈍感なんだな。性格悪いから、友達がいないんだよ。舞踏科の嫌われ者で有名なんだぜ。殿下の前ではしおらしくしてるけど、いないとなると傲慢でキツイ、キツイ。。。最悪だな」
「・・・・頼みがある。ヒョリンに関しての噂はデマだって、周りに教えてやってくれないか?」
「そのぐらい、お安い御用さ。皆、あの女が皇太子妃になったら、宮廃止論者になるか、国を捨てるって言ってる奴が多いから、すぐに広まると思う。まぁ、任せておけって」
「ありがとう。よろしく頼む」
 
ファンはクラスメートの話を聞き、ヒョリンの本性に気づかなかった自分を情けなく思うのだった。
 
 
数日が過ぎ、例の噂がデマだと徐々に広まり出した頃、ヒョリンが珍しく映像科に顔を出した。
 
「今日もシンは来てないのね。イン、いつ、登校してくるか聞いてないの?」
「アイツが自分の事を話すと思うか?それよりシンがいないのにどうしたんだ?」
「う、うん、ちょっとね。。。変な噂が流れてるみたいで、周りが私を変な目で見るのよ」
「変な噂って?」
「シンとヒョリンが付き合ってるってやつでしょ?まったくのデマだからって、僕が否定しておいたよ」
「「「ファン!!」」」
「皆、何驚いた顔してるの?ヒョリン、何か間違ってる?」
「ファン、二人が付きあってるって、ヒョリンが言ってただろうが・・・」
「それ、シンに確認した?この間、シンから連絡があったんだよね。その時、【俺の噂の恋人】って誰だ?って聞いてきたよ」
「「えっ!?」」
「ヒョリンと付き合ってるんじゃないかって聞いたら、ヒョリンはインの女だろって言ってたよ。ヒョリン、どういう事?僕たちに嘘を吐いて、どうするつもりだった?」
「・・・・・」
「ファン、シンは照れてるだけなんじゃないか?ヒョリンが、二人の時は情熱的だって言ってただろ?」
「イン、よく考えなよ。シンは、学校以外は翊衛士が必ず付いている。学校では、絶対僕たちが一緒だ。いつヒョリンと二人になれる時があるんだ?」
「・・・宮中とか?」
「ギョン、ヒョリンが宮に出入りしてるなら、なぜシンは自分が登校するまでに噂を払拭しておいてくれっていう訳?あり得ないでしょ」
「「「・・・・・」」」
「シンからの伝言。宮が動き出す前に噂を鎮めておいてくれってさ。どういう意味か分かる?宮を甘く見ない方がいい。皇族の婚姻は早い。宮が知れば、ただでは済まない」
「・・・なら、噂を本当にすればいいのよ。どうせ私しかシンの傍にはいないんだから。登校してきたら、正式に付き合って、皇太子妃になるわ」
「そ、そうだよな。ヒョリンほど、シンに相応しい相手はいないもんな」
「ギョン、お前まで・・・僕は、お前たちにもう付き合いきれない。もう金輪際、僕に話しかけないでくれ。最後にヒョリン、皇族は嘘を吐かない。この時点で、君は失格だ。絶対に皇太子妃にはなれない」
「///なっ・・・ファン!!」
 
ファンがイン達の元を離れると、クラスメートとハイタッチを交わしだしたのを見たイン達は、初めて自分たちが白い目で見られていることに気づいた。
周りの生徒たちから嘲笑われているようで、居心地が悪くなった3人は逃げるように外に出て、中庭まで来た。
どうにも怒りが収まらないギョンは、落ちていた石を無造作につかむと思い切り投げつけた。
ギョンの手を離れた石は、楽しそうに話している女生徒の一人の頬をかすめてしまった。
 
「ちょっと、あんた、人に向かって石を投げるなんて、どういうつもり?!」
「煩い!!庶民が、ガタガタ文句を言うんじゃねぇ!!」
「ハァ?あんた、何さま?チェギョンに謝罪しなさいよ!!」
「イヤだね。これだから、貧乏人は嫌なんだよ」
「ちょっと!貧乏人には、頭が下げられないってこと?貧乏人が嫌って言う割には、何で芸校にいるわけ?そんなに金持ちを自慢したいなら、王立か神話に行けば?あんたと同類がわんさかいるわよ。ああ、ひょっとして王立では品がないから無理で、神話なら中の下ぐらいのセレブだから、ここで威張ってるとか?」
「///なっ・・・!お前、俺を誰だか分かって言ってるのか?」
「科が違うから、知る訳ないでしょうが・・・バカと知り合いになる気もないし、知りたくもないわ」
「俺様は、チャングループの御曹司だ!」
「ああ、噂のバカ御曹司4人組の一人ね。じゃあ、そちらはカンコーポレーション?それともリュ電子?で、そこの女性が、皇太子の性悪な恋人?どう、当たってる?」
「「「///なっ!!」」」
「ちょっとあなた、皇太子の恋人だと自慢するなら、もう少し品格を身に付けなさい。あなたの所為で、皇太子まで評判が落ちてるって自覚しなさい。尤も 恋人って言うのもあなたが吐いた嘘らしいわね。謝罪も聞けないようだから、これで失礼するわ」
 
踵を返した女生徒は怪我をした女生徒を連れて、校舎の方へ足を向けた時、ギョンは徐に文句を言った女生徒の前に立ちはだかり、思い切り腕を振り上げた。
 
【バチン!!】
 
しかし、ギョンが振り落した平手は、文句を言った女生徒には当たらず、彼女を庇った女生徒にヒットしてしまった。
 
「「「チェギョン!!」」」
「女に手をあげるなんて、ほんっと最低な御曹司ね!チェギョン、私の所為でゴメン。保健室に行こう」
「うん・・・」
 
その場に残されたイン、ギョン、ヒョリンは、そこでも一部始終を見ていた生徒たちから白い目で見られ、逃げるように校舎へ入っていった。
教室に戻ろうとした3人だったが、教師が待ち構えており、ギョンはそのまま校長室へと連れていかれてしまった。
 
「ちょっとギョンは、大丈夫なの?」
「親父さんが、何とかするだろうさ。心配するな。ヒョリンも教室へ戻れ」
「うん、じゃ、また・・・」
 
(ヒョリンにはああいったけど、一体、ギョンはどうなるんだ?)
 
 
何時間も校長室で監禁されたギョンは、イライラしながら座っていた。
ようやく校長室の扉が開いたと思ったら、父親と校長が並んではいってきた。
 
「校長、至急、来てほしいとのことでしたが、息子が何かしたのでしょうか?」
「ご子息は、女生徒に向かって石を投げられ、謝罪を求めた女生徒と口論になりました。そして口では勝てなかったようで、今度は暴力を振るわれました」
「なっ!!それは、事実でしょうか?」
「職員室前の中庭での出来事で、職員の多くが目撃していますし、中庭にいた多くの生徒たちも証言してくれるでしょう」
「申し訳ありません」
「親父、何で謝るだ?俺は、何も悪い事をしてない」
「ギョン、黙れ!!」
「ふぅ、お父さん、ご覧の通り、ご子息は何も反省をされておられません。生徒たちを貧乏人と見下し、暴言を吐くことは日常茶飯事です。ここは、教育の場であり、平等に教育を受ける権利があると考えています。他の生徒たちと調和の取れないご子息には、この学校は向いていないのではないでしょうか?」
「!!!」
「それは、自主退学をしろと仰っているのでしょうか?」
「・・・・・」
 
校長は、何も言わなかったが、それが無言の肯定であることは間違いなかった。
 
「校長、本当に申し訳ない。私の監督不行き届きです。息子には、趣味が同じ一般の生徒たちと交わりを持ってほしいと思い、この学校に入れました。もう一度、愚息にチャンスをいただけないでしょうか?お願いします」
「・・・親父」
「実は、被害女生徒の保護者から、こちらを預かっています」
「えっ!?」
 
見れば、神話学園の入学パンフレットだった。
 
「これは・・・」
「保護者の方は、謝罪の言葉はいらないと仰っておられました。よくお考えください。チャン・ギョン君、この学校に通いたければ、心を入れ替えなさい。進級する来学期まで、停学処分とします。万が一、外出していることが確認できた場合、即退学処分にします。それから今後、被害女生徒たちに関わることは許しません。いいですね?」
「・・・はい」
「では、お引き取りになって結構です。今学期の登校は認めませんので、学校に置いてある私物は全て持って帰ってください」
 
校長に一礼すると、チャン親子は校長室を出、ギョンは私物を取りに教室へと戻っていった。
先に車に戻ったチャン社長は、再度神話の入学案内を取り出し、目を通した。
 
(ん?何だ、この編入申込書の推薦者の名前は・・・ギョンはとんでもない相手に怪我をさせたんじゃ・・・)
 
 
その日の出来事は、目撃した生徒たちの手によって、【有名御曹司の愚行】としてインターネットに次々と載せられ、チャングループは避難・苦情の嵐となり、通常の業務が行えない事態に陥った。
当然、チャングループの株価は下がり、社長を筆頭に社員が奔走する羽目になった。
 
「ギョン、お前の所為で、社員とその家族まで路頭に迷いそうになっている。今度、何かしでかしたら、後継者から外し勘当する。覚悟しなさい」
 
ギョンは、今の生活が失われそうになって、初めて自分の行いを反省する事ができた。
ただ自分に文句を言ったあの女生徒だけは、許せそうになかった。
 
(アイツの所為で・・・・クソッ!!)
 

改訂版 開眼 第8話

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1週間の体験学習を終え、自宅に戻ってきたシンとチェジュン。
すぐにチェギョンのいる母屋へ行こうとするのをチェウォンに引き留められ、事業関係のビルの方に連れてこられた。
 
「親父、俺、疲れて腹減ってるんだけど?」
「悪いな。帰る前に話をしておきたい。坊主、これがお前が何事にも無関心だった結果だ」
「えっ!?」
 
チェウォンはそう言うと、立ち上げたパソコンの画面をシンとチェジュンの方に向けた。
そこには、ギョンが起こした事件が詳細に書かれており、今までの愚行・言動にも及んでいた。
またその余波として、チャングループの経営状態にも触れられており、かなり大変な状態だと思われた。
 
「親父、ひょっとして説教した女生徒ってガンヒョンヌナで、殴られたヤツはヌナか?」
「・・・そうだ」
「「!!!」」
「石が掠った跡はそうでもないが、殴られた跡は今も痣として残っている。坊主、チャングループのバカ息子は、いつも庶民や貧乏人と他の生徒たちをバカにしていたそうだな。なぜ、それを注意しなかった?」
「・・・・・」
「傍にいるお前は、国民をバカにする言動を容認していると周りは思っているだろうな。坊主、皇族として自覚はあるのか?」
「・・・・すいません」
「俺に謝られてもな。幸いお前は、その場にいなかった。おそらく大丈夫だと思うが、学校に登校しても一緒に行動しない方が良い」
「はい、そうします。色々と申し訳ありません」
「宮には報告していない。するなら、坊主からしろ」
「はい」
「・・・親父、親父がチャングループに圧力かけて、株価が下がったのか?」
「俺が掛けたのは、学校だけだ。バカ息子の親父に神話学園の入学パンフレットを渡すように頼んだ。推薦者の欄にカン・ヒスとソン・ウビンの署名入りの編入届付きでな。向こうの親父、かなり泡食ったんじゃないか?クククッ・・・株価の下落は、庶民からの制裁。自業自得ってヤツ」
「親父、鬼だな。神話とイルシムを敵に回す度胸のあるヤツは、この国にはいねぇよ」
 
(この国最大の財閥、神話グループもアジョシは動かせるってことなのか?それにイルシムって、あのアジア最大と言われているマフィアか?それって凄すぎるだろ!?)
 
「坊主、イルシムはマフィアと言われてるが、実際はそうじゃない。麻薬の侵入を瀬戸際で止めてくれているのが、イルシムなんだ」
「えっ!?そうなんですか?」
「中には、その筋の人間になろうと入ってくる者もいるが、全員更生させて、建設会社で受け入れているんだ。だから、強面が多いのは確かだな。まっ、そういう輩が多いから、裏事情にも通じている。俺にとったら、貴重な情報を寄せてくれる傘下の一つだ。世間には、マフィアと思わせておいた方が何かと便利だから噂はわざと放置してる。知っている奴が知っていたら良いだけだからな」
「でもホント、コイツ、救いようのないバカなだよな。喧嘩は相手を見て吹っ掛けないと・・・ガンヒョンヌナとうちのヌナが庶民の貧乏人だったら、国中の全員がそうだっつうの。クククッ・・・」
「チェジュン、そのチェギョンの親友の家も大企業なのか?」
「ヒョン・・・王族のプロフィール、ちゃんと見た?ガンヒョンヌナは、最長老さまの孫だよ」
「えっ!?」
「うちのヌナとの結婚が成立しなかったら、間違いなく皇太子妃候補筆頭だよね。家柄、教養、品格申し分のないご令嬢だと思うよ。俺は勘弁だけど・・・クスクス」
 
次々と事実を突き付けられ、シンは頭が真っ白になってしまった。
 
(最近、体しか使ってなかったから、頭の動きが鈍くなってる気がする・・・まずは正確に事実を掴まないと・・・インとファンも絡んでるのか?)
 
インターネットの記事を再度くまなく調べた結果、ファンはその場にいないことを知ったシンは、ファンに連絡を入れることにした。
1週間ぶりに携帯の電源を入れ、ファンのナンバーを検索する。
 
「ファンか?俺だ」
『シン!!ずっと連絡してたんだぞ』
「悪い。ずっと電源切ってた。今、ギョンの事件の事を知った。学校は、ギョンにどんな処分を下したんだ?」
『学校側は、父親を呼んで自主退学を勧めたみたいだ。だが、親父さんがもう一度ギョンにチャンスを与えてほしいと頭を下げたらしい。だから、校長は仕方なく、新学期が始まるまで停学処分とし、もし外出していることが分かった時点で、即退学処分を下すってさ。今、ギョンは、家でおとなしくしてるんじゃないの?あと復学してきても被害生徒たちには接近禁止らしい』
「・・・一つ、聞いていいか?なぜ、ファンは一緒にいなかったんだ?」
『ギョンがトラブルを起こす前に ヒョリンのことで口論したんだ。僕が何を言っても あの二人はヒョリンの肩を持つもんだから、もう付き合いきれないって引導を渡したんだ。ギョンがいなくなってインは、クラスで一人孤立してるよ』
「そっか・・・分かった」
『ところで、例の噂は、クラスメートたちに頼んで反対にデマだって広めてもらった。もう大丈夫だと思う』
「色々悪かったな。ファン、サンキュ」
『ねぇ、シン。シンが頼んでもギョンの処分の軽減は無理なのかなぁ・・・』
「・・・ファン、俺はギョンの処分の軽減の依頼は絶対にしない。もし軽減を依頼すれば、皇族の俺が、国民を見下した末の暴行を容認したと誤解される。死んでもできない」
『そっか、そうだよね。僕が軽率だった。ゴメン』
「いや、構わない。俺もギョンの暴言を今まで黙認してきたことに変わりはない。深く反省してる。ファン・・・俺はギョンとインとは距離を置くことにする。携帯のナンバーも替えるつもりだ。ファンには教えるが、あの二人には教えないでほしい」
『うん、分かった』
「・・・じゃ、新学期になったら会おう」
 
ファンとの電話を切ったシンは、コン内官に連絡を入れた。
話を聞いたコン内官は、一度宮に戻られ、陛下たちに直接話してほしいと言ってきた。
 
『殿下、そこにチェウォン君がいたら、代わっていただけますでしょうか?』
「分かった。。。アジョシ、コン内官が代わってほしいらしい」
「俺はいないと言えよ!融通の利かない奴だなぁ・・・アジョシ?殿下は、毎日楽しそうにしておられますよ。あはは・・・」
 
(この男だけは・・・俺とチェジュンの苦労を楽しそうだって!?)
 
「アジョシ、娘の心配はご無用です。俺は忙しいんでチュンハに同行してもらいます。では、明日」
 
携帯を切ったチェウォンは、そのままシンに放り投げた。
 
「明日、一番で宮に戻れ。その後、戻ってこなくても構わない。どちらかと言うと、その方が有難い」
「報告が済めば、すぐに戻ってきます」
「・・・俺は、オブラートに包んで、戻ってくるなって言ってんだけど?」
「クスクス、親父、それ以上、ストレートな言い回しはないと思うぞ?ヒョンは変わったよ。1週間行動を共にした俺が保証してやる。今回の事は、許してやれよ」
「・・・チェジュン、お前、坊主に甘すぎないか?まぁ、チェギョンの顔を見たら、お前も俺の気持ちが分かると思うぜ。そろそろ母屋に戻ろう。いい加減、俺も腹が減った」
 
母屋に入った瞬間、チェジュンは怒りに震え、シンは自分の不甲斐無さにギュッと拳を握った。
 
「ヌナ、親父に聞いた。大丈夫なのか?」
「大丈夫、大丈夫♪周りに心配掛けそうだから、学校に入ってないけどね」
 
シンは、チェギョンの腕を掴むと、自分が与えられた部屋へと向かった。
そして部屋に入るなり、シンはチェギョンをギュッと抱きしめた。
 
「ちょ、ちょっとシン君?どうしたの?」
「ゴメン、俺がもっと周りに気を配っていたら・・・こんなことには・・・」
「シン君?」
 
チェギョンは、シンの体が震えていることに気づき、そっとシンの背中に腕を回した。
 
「ガンヒョンを庇っただけだし、ガンヒョンが怪我しなくて、本当に良かったと思ってる。きっとあの人も痛いところをガンヒョンに衝かれて、思わず手が出ちゃったと思うんだよね。だから、こんな怪我ぐらい何てことないわ。それにシン君の所為でもない。ちゃんと分かってるから。ね?」
「チェギョン・・・」
「お腹減ってない?それとも先にお風呂に入る?そうだ、見て見て♪これ、作ったんだぁ~」
 
シンの腕の中を抜け出したチェギョンは、部屋に置いておいたスウェットをシンに差し出した。
 
「これ、チェギョンが作ったのか?」
「作ったというか、既製品をリメイクしたの。シン君の寸法じゃなかなかサイズが合う普段着って売ってないのよ。だから、ちょっと継ぎ足してみました♪どうかなぁ?」
「めちゃくちゃ嬉しい。俺、手作りのものって初めてもらった。ありがとう、チェギョン」
「ふふふ、気に入ってもらえてよかった。じゃあ、先にリビングに戻るから、シン君も着替えておいでよ」
「ああ、分かった」
 
(あれだけの跡が残ってるってことは、相当痛かっただろうに・・・親友が怪我しなくて良かったって喜んでる。アイツ、どこまで優しいんだ?それに凹んでる俺まで、優しく持ち上げてくれる。アジョシ、俺、アジョシの頼み、聞き入れられないかも・・・マジ、先帝に感謝だな。もっとチェギョンと近づきたい)
 
 
 
 
 
 
 

改訂版 開眼 第9話

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翌朝、朝食を摂ったシンは、チュンハの運転で宮へと戻った。
東宮玄関の車止めに着くと、コン内官が出迎えてくれた。
 
「殿下、お帰りなさいませ。お待ちしておりました」
「陛下は?」
「執務室でお待ちでございます」
「分かった。急ごう」
 
執務室に向かうと、陛下がキム内官と共に待ち構えていた。
 
「至急、報告することがあり、参内いたしました。お時間を取らせ申し訳ありません」
「構わぬ。一体、何があったというのだ?」
 
予め用意してもらっていたパソコンを立ち上げ、ギョンの事件が載っている記事を陛下に見せた。
陛下は、眉間に皺を寄せながら、記事をスクロールし、読み進めていく。
 
「太子、大変遺憾な事件ではあるが、この事件がお前にどう関係してくるのだ?」
「はい。加害者であるチャングループの御曹司は、僕がいつも一緒にいた友人です。そして怪我をした被害者は、チェギョンです」
「何だって!!」
「・・・ギョンが他の生徒たちに対して暴言を吐いていても何事にも無関心だった僕は知らぬ振りをしていました。僕の態度がギョンを助長させてしまったのかもしれません。昨日、アジョシに指摘され、初めて自分の愚かさに気づきました。申し訳ありませんでした」
「・・・太子、チェウォンは何と言っているんだ?」
「はい。皇族としての自覚がないと言われました。あと学校では、国民の反感を買うから一緒には行動するなとも言われました」
「キム内官、学校に連絡を入れ、この生徒の処分と対処を聞き、3年次のクラスは離してもらう指示を出しなさい」
「かしこまりました」
「陛下、アジョシが言っていた【秘密の恋人】についても報告してもいいでしょうか?全く身に覚えのない話なので、友人に確認したら、もう一人の友人が連れてきた女生徒のことで、その女生徒が僕と付き合っていると吹聴していると判明しました。その女生徒と関わりたくないので、陛下のお力をお借りできませんでしょうか?」
「自分で解決できないのか?」
「もう一人の友人リュ・ファンが、噂を払拭するよう動いてくれましたが、チャン・ギョンとカン・インはその女生徒の肩を持って僕とくっつけようとしていると教えてくれました。これ以上、誤解をされたくありません。早急に手を打ちたい」
「誤解?それは、チェウォンの娘が誤解しているということか?」
「はい。『彼女に悪いから、自分の事は黙っているように』と言われました」
「で、誤解を解きたいということか?太子、チェギョンさんが気に入ったようだな」
「///・・・とても温かい人です。それに僕を皇太子ではなく、イ・シンとして普通に接してくれます。アジョシには関心を持つなと言われていますが、宮に戻っても友人として関わりを持ちたいと思っています」
「だから、その女生徒がいると困ると言う訳か・・・キム内官、太子に協力してやってくれ」
「かしこまりました」
「ありがとうございます、陛下。ではシン家に戻ります」
 
シンが席を立とうとすると、陛下は慌ててシンを止めた。
 
「折角、来たのだ。社会勉強の感想を聞かせてくれ。チェウォンの社会勉強は、かなりハードだろ?」
「はい、全身筋肉痛です。チェジュンと一緒に工事現場、漁船、農家の手伝いに放り込まれました」
「「!!!」」
「クククッ、やっぱりな。私もさせられたよ。皇族なら、国民の苦労、金の大切さを知れってな」
「はい、正直大変ですが、良い経験をさせてもらっていると思います」
「太子、変わったな。実は、先帝の遺言とは関係なく、高校卒業後にでもチェウォンに太子を預ける気だった。アイツの影響力・人脈は、凄いからな」
「・・・人脈は、確かに凄そうですよね。神話グループやイルシムとも関係があるようですし・・・」
「詳しくは知らないが、ソウルの大企業の大半はアイツの息が掛っていると思って間違いない。あれで人望もあるようだし、益々拡大しているんじゃないか?」
 
シンは驚きすぎて、口を開けたまま固まってしまった。
 
「クククッ、太子、口が開いてるぞ。。。太子、チェウォンとの社会勉強もいいが、チェギョンさんとのことも忘れるなよ」
「///は、はい」
「脈なしなら、お前には送られてきた見合い写真から皇太子妃を選んでもらう」
「えっ!?」
「チェウォンの所で鍛えられ、一回りも二回りも成長して宮に戻ってくるだろう。そんな太子を見て、王族たちが黙っていると思うか?間違いなく婚姻を勧めてくるだろうな」
「・・・・・」
「まぁ、頑張りなさい」
「はい。では、アジョシの許に戻らせていただきます。キム内官、少し打ち合わせがしたい。東宮玄関まで見送ってくれ」
「かしこまりました」
 
シンと学校の問題の解決を命じられたキム内官が執務室を出ていくと、入れ替わりにチェウォンが入ってきた。
 
「クスッ、やっぱり来てたか・・・チェウォン、太子はどうだ?」
「どうって・・・少しは成長したんじゃないか?俺から言わせればまだまだだがな・・・明日から、チェギョンとボランティアに行かせる」
「チェギョンさんと?」
「ああ。イヤだが、仕方ないだろ。ボランティアは、手本になるヤツと一緒でないと身に付かないからな」
「チェウォン・・・お前も本当は太子との縁を望んでいるんじゃないか?」
「バカな・・・正直、シン・チェヨンの孫ではなく、チェギョン自身を望んでくれるヤツなら、平凡な奴でもいいと思ってるさ」
「おい、そんな奴は皆無に近いと思うぞ。例えいたとしても、バックにお前がいるのが分かれば、欲が出て人格が変わるか、逃げ出すだろうよ」
「・・・お前に心配されなくても分かってる。アジョシ、坊主のタキシード持ってきてくれる?」
「タキシード・・・どうするのかね?」
「うん。今度、うちのグループ企業の懇親会があるんだ。そこに俺が信頼する御曹司たちを呼ぶ。近い将来、必ず経済界を引っ張っていく有望な奴らだ。そいつ等と顔合わせしておいて損はないと思う」
「分かった。すぐに用意させよう」
「アジョシ、頼むね」
「・・・チェウォン、チェギョンも連れていくのか?」
「勿論♪俺が、これと見込んだ奴らだからな。それが何か?」
「・・・結局、良い所に嫁がせたいってことだろ?」
「少し違う。俺の力を必要としない奴らなら、チェギョン自身を見てくれるという事だ。まぁ、そこから恋愛に発展するかは、本人次第。チェギョンは俺の娘だ。決して、本物を見極める筈だ。クズは選ばない。坊主は、どっちに分類されるんだろうな」
「・・・・・」
「一つ、朗報がある。倅は、坊主を気に入ったようだ。王族の娘を皇太子妃にした時は、期限付きで倅を坊主に付けてやろう。おそらく賄賂が飛び交い、王族会は荒れるだろうからな。今度高1だが、いい働きをするぞ。俺の倅だからな。クククッ・・・じゃ、東宮殿で着替えを受け取って帰るわ。じゃあな」
 
チェウォンが出て行った執務室で、陛下はクスクスと笑いだした。
 
(クククッ・・・何だかんだ言っても、太子を気に入ってくれてるみたいだな。太子は、私の息子だからな。お前が気に入らない筈がない。あとは、当人同士の問題か・・・太子の話では、良いお嬢さんのようだ。一度、宮に呼んでみるとするか・・・)
 
 
 
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