翌日、正殿には、各紙の昨日の夕刊と今日の朝刊が、取り揃えてられていた。
各紙の第一面の見出しを見たシンは、驚いて目を見開いてしまった。
「これは・・・」
「私達も見て驚いていた所だ。ユン家は母系親族になるので、それほど重要視しておらなんだが、認識が甘かったようだ」
「チェギョンが可愛く写っておるではないか。これで、スアムには見合い写真が殺到するであろうな」
「皇太后さま!」
「太子、皇太后さまに八つ当たりは止めなさい。殺到しても断わればいいだけのこと。あなたは、気にせずチェギョンとの絆を深めたらいいのです」
「皇后さま、そうですよね」
「プクククッ・・・実に楽しい。太子が表情を崩すのは、いつもチェギョン絡みなのが笑えるではないか」
「陛下、いい加減にしてください」
「本日、ユン・ジフ氏が宮を訪れる。昨日の礼と報告のようだ。太子も同席するか?」
「えっ、はい、是非同席させてください」
「では、10時に謁見の間に来る。その後、こちらに案内してくれ」
「はい」
午前10時少し前、シンはコン内官を伴って、謁見の間に入って行った。
「おはようございます、ジフさん」
「はよ。あれ?陛下は?」
「はい。一応、公式の訪問なので謁見の間にお通ししましたが、これより先はプライベートで話がしたいそうです。私室の方にご案内します」
「ひょっとして、皇太后さまと皇后さまも一緒とか?」
「おそらく、そうなるかと・・・」
「ハァ、俺、また良い所のお坊ちゃんするのか・・・面倒臭っ。じゃ、案内して」
「クスッ、はい」
シンが正殿の居間にジフを案内すると、ジフは雰囲気が変わりにこやかに皇太后たちに一礼した。
「皇太后さま、陛下並びに皇后さま、ご無沙汰しております。その後、お変わりはございませんか?昨日は、殿下に当劇場にて観劇していただき、誠にありがとうございました」
シンは、ジフの変わり身をポカンと見つめ、その姿を見て陛下が笑いだした。
「クククッ、ジフ君、太子が驚いておる。皇太后さまも気にされる方ではない。前のように話してくれて構わないよ」
「クスッ、ありがとうございます、陛下」
「ジフさん、こちらに座ってください」
「ん・・・」
ジフは、一人掛けようのソファーに座ると、フッと息を吐いた。
「多分、聞きたい事があると思ったので、参内しました。シン君、何もない?」
「あります!なぜ、チェギョンが通訳だったのですか?」
「本当は、俺が通訳するつもりだったんだよね。でも誰かとは言わないけど、学校で派手に振舞うからチェギョンの身が危なくなってきたみたいでね、牽制のつもりで通訳をさせた」
「///・・・・」
「誰かとは、シンですか?」
「まぁ、ハッキリ言えばそうです。気を遣って特別室で会えって言ったのに 最近、堂々と中庭で会うようになっちゃって・・・よく手を繋いで散歩してるんです。で、ちょっとチェギョンが危ないかなぁと判断したわけです」
「///すいません」
「気にしてない。チェギョンも嬉しそうにしてるしね。でもシン君、デレデレしすぎ・・・お願いだから、学校でポッポは止めて!いい加減にしないと、俺がスクープ写真、マスコミに売るよ」
「ジフさん!!」
「「オホホホ・・・」クククッ・・・・太子、最近の上機嫌の理由がよく分かったよ」
「///・・・すいません」
「シン君、俺がパーティーに連れ出すからね、結構マスコミでは噂になってたから。だから気にしなくていい」
「なら、半分はジフさんの所為でしょうが!!」
「だから、気にするなって言ったじゃん。でも皇太子妃の座が欲しい人たちにとっても いい牽制になったと思うよ」
「そうであろうな。スアムに神話、ソングループが、チェギョンを庇護していると新聞に載っておった」
「はい。それに俺、殿下の同級生だと仄めかしたし・・・シン君の傍には、凄い後ろ盾を持ち、フランス語を話す女性がいる。結構、ハードルが上がったんじゃない?」
「フフフ・・・王族では、そこまでの女性はいないでしょうね。勿論、財界にも・・・」
「皇后さま、でしょう?シン君、君の気持ちは分かってるけど、結婚は年齢的に無理だよね?だから、もう少し禁欲してくれると嬉しい」
「ブハッ、ジフさん!何、言ってるんですか!?」
「あのね、親父からの伝言だから、『禁欲皇子万歳\(^o^)/』だってさ」
「あの、クソジジイ~!」
「ホホホ・・・太子、ウォンに振り回されておるのか?あの父子は、あの人にも言いたい放題だった」
「皇太后さま、ソンジョおじ様はシン父子と俺の爺さんの3人でしたが、シン君を弄る人間は倍増してますから、シン君の方が大変だと思いますよ」
「クスッ、思い出した。スが亡くなって、あの人がウォンにヒョンを支えてくれないかと頼んだのだが、『ヒョン殿下は真面目だから、俺と話せば発狂しますよ。俺、不敬罪で捕まりたくないから坊主だけで許して』と、断わりおった」
「///なっ・・・!!」
「クスクス、陛下、そろそろ本題に入っていいですか?」
「あ、ああ、構わぬ。ユル君は、完全に白です。但し、恵政宮さまは、宮というか権力に執着してそうです。ユル君に恵政宮さまが懇意にしている人物リストを貰って、一人ずつ消す作業中です」
「「「えっ!?」」」
「殺してないから、そんなにビックリしないで。企業家には忠告、政治家とは対話。一人で行動に移せない取り巻き程度のザコは無視」
「忠告や対話って・・・聞くの怖い気がするけど教えてください」
「ジュンピョ達は、『関わったら潰すよ』って電話一本、俺と爺さんは青瓦台で政治家1人と面会。大統領立ち合いで孝烈殿下の覚書のコピーを見せて、『動いても無駄。政治生命終わるよ。お仲間と相談してね』って言っただけ」
「それって、脅迫じゃ・・・」
「俺達は、忠告したつもりだけど?危ない人たちと取引したくないし、政治を任せられないでしょ♪」
「・・・はは、確かにそうですね」
「でしょ(ニコッ)」
「ジフ君、誰が恵政宮と組んでいたのだ?」
「孝烈殿下のご学友の一部と恵政宮さまの独身時代の人脈の方たちですね。陛下や宮が知って、介入すると大袈裟になる。政財界、経済界が混乱しかねない。俺らが監視します。まぁ、その方が今後便利なんで・・・」
(便利って・・・まさかビジネスや政治を裏から操るつもりなんじゃ・・・やりかねない)
「ユル君には、あちらが用意したマンションをすでに出てもらって、セキュリティーが万全の所に引っ越し済み。ユル君にもSPは付けています。夏休み、そのマンションで親父がユル君に講義する予定です」
「ズルイ、俺も受けたい」
「ダメ、無理。大人しく公務してて。ユル君に話を聞くか、映像科でしょ?頭、使いなよ」
「あっ、そうですね」
「クスッ、太子に頭を使えと言う人物がいるとは思いませんでしたわ」
「そうですか?もっと色々、分野外のことも勉強すればいいと思ってますけど?俺、医学部に籍を置きながら、経済学部の単位も取りましたよ。合間にバイオリンも習ってたし・・・」
「「「・・・・・」」」
「シン君、皇帝になる為に政経学部か国際政治学部志望でしょ?でも福祉や経済も齧ると公務の際、会話が弾む。あと危機管理能力を高めることも必要かも・・・目先の危険を守る翊衛士任せは危険すぎる」
「えっ!?」
「この間、ユル君がいたから話せなかったけど、手足を捥がれた恵政宮さまが最後の足掻きでシン君に刺客を送る可能性があるってこと。今の宮じゃ、皆目見当がつかないだろ?」
「ジフ君は、恵政宮が仕掛けてくると考えているのか?」
「可能性があると言う事です。チェギョンの爺さんのひき逃げ犯も捕まってませんしね。目撃者の証言で、明らかに故意だったようですし・・・シン・チェヨンが狙われた理由は、宮絡みしかないでしょ。恨みを買う性格でもなかったですしね」
「「「・・・・・」」」
「シン家の爺さんの日記に載っていた人物に親父が会いました。孝烈殿下は、彼に暗行御吏(アメンオサ)の任務を依頼してたみたいです」
「「「!!!」」」
「彼は固辞したみたいですが、彼なりに色々調べてくれてたようです。恵政宮さまの周りに一人危険人物がいます。彼が入国すれば分かるよう手配済みだけど、万が一の為二重チェックしたい。それで、宮を訪れたんだ。陛下、シン君の友達のチャン・ギョン君の親父さんに頼んで」
「あっ・・・陛下、チャン・ギョンは、チャングループの御曹司です。チャン航空の社長なら税関には顔が利く筈です」
「分かった。誰か、教えてほしい」
「孝烈陛下付きだったペク・チュンハ元翊衛士。恵政宮さま渡英後、退官して自分も渡英。彼の出入国記録を調べると、シン家の爺さんが事故に遭う3日前に帰国し、翌日に再渡英」
「「「!!!」」」
「証拠はないけど、心証は間違いなく黒。彼なら宮中も熟知してるし、シン君を狙うなら適任だよね。そんな険しい顔しないで・・・あくまでも仮定の話だし、万が一の為に準備するだけ。無駄足かもしれないし・・・いい?宮中でも絶対に信頼する翊衛士と行動して」
「ジフさん・・・」
「大丈夫。シン君が婚姻するまでに動かなかったら、もう恵政宮さまは一生動かない。それまでの辛抱」
陛下や皇后は、精神的重圧から解き放ってやるために早めに婚姻させてやりたいと思うのだった。
(太子にとって、一石二鳥になるんじゃないか?)