新聞報道から2日、週明けの月曜日、もう騒ぎは落ち着いたと思ったが、芸術高校の校門前には、シンやチェギョンを取材しようとする記者が数人がいた。
しかしチェギョンはジフの車で裏門から登校したので、記者は完全な空振りに終わった。
校内は、チェギョンをジロジロ見る生徒もいたが、大半のクラスメートは普段と変わりない態度で、ガンヒョンはホッとした。ただ一部の女子生徒達の視線が気になる。
ガンヒョンとユルは、警戒を怠らないよう気持ちを引き締めるのだった。
そしてもう一人シンもチェギョンの周囲が気になり、登校後、そっと美術科が入る校舎に足を向けていた。
朝のHR直後、他科の化粧をした女生徒達が教室に乱入してきて、事件は起こってしまった。
『シン・チェギョン、親の力で殿下と仲良くなったわけ?』
「は?あんた、バカじゃない?そんな訳ないでしょうが・・・チェギョンの親にどんな力があるって言うのよ!」
『イ・ガンヒョン、貴女に聞いてないの。シン・チェギョン、親が金を持ってるからっていい気にならないで』
「えっ!?私んち、そんなにお金ないよ。アッパ、まだ家のローン払ってるもん。それに儒教社会のこの国じゃ父親の家系が重要視されるでしょ?だから昔から、『オンマはお嬢様だったが、貧乏人のアッパの子だからお前は庶民だ』って言われて育ったけど?」
『・・・・・』
「あんたの父親は、貧乏人というより変人でしょ?」
「ガンヒョン、酷い!反論できないけど・・・」
『で、でもフランス語なんて、庶民は話せないわよ!!』
「それは・・・うち、両親共働きで、祖父も2人とも現役バリバリだったから、小さい時オンマの実家に預けられてメイドさん達に面倒見てもらってたの。で、オッパがフランス語で話しかけるから、調子に乗ったアッパが英語で話しかけて、だからこの二つは自然に覚えたかも・・・」
「その所為で、ハングル話せるの遅かったわよね?小学校上がるまで、舌っ足らずだったし・・・」
「あはは・・・そうだった」
「言っとくけど、この子、小学校行くまで色鉛筆の存在知らなかったからね。絵は墨で描くもんだと思ってたし・・・」
「うん、うん。テレビの存在も知らなかったし・・・家からもほとんど出してもらえなかったし・・・」
『え・・・?』
「この子の伯父さん夫婦は政治の派閥争いに巻き込まれ事故死してるし、お爺さんもこの子を庇ってひき逃げされて亡くなってる。家族が過敏になるのは当たり前でしょ?中学の時、大怪我してからは特にね」
「そうなんだよねぇ~。公立の学校はもうダメって言われて、お嬢様学校に行ったけど、肌に合わなくて困った。ハァ・・・」
「この子のお小遣いは月5万₩。これで、絵の具買ってるけど?!まだこの子の環境が羨ましいかしら?」
『・・・で、でも殿下と仲良くしてるじゃない!!』
「あんたたちのようにバカみたいにキャーキャー言わないからよ!」
「ガンヒョン、言い過ぎだってば・・・」
『クククッ、ガンヒョンは男前だな。ギョンが惚れる訳だ』
「はぁ?殿下、チェギョンが心配で、見に来たわけ?バカじゃないの?」
シンの登場で、今までチェギョンを責め立てていた生徒達は、急に押し黙ってしまった。
「さっき 親の力で俺と仲良くなったとか言ってたが、それは俺の方だな」
『えっ!?』
「俺の爺さんとチェギョンの爺さんは、友人だ。で、父上や伯父上の恩師でもある。俺はチェギョンの父親に5年見てもらった。俺もチェギョンと一緒。初等部に上がるまで、宮から出してもらえなかった。で、不憫に思った爺さん同士が一緒に遊ばせた。だから俺たちは幼馴染だ。納得できたか?」
『・・・はい』
「昔は、お互い皇族なんて身分を知らなくて普通に仲が良かった。そして今も、一高校生として扱ってくれる数少ない友人の一人だ。まぁ、チェギョンの周りは、強烈キャラが勢揃いしてて、あの中に入れば俺も地味だもんな」
『クククッ・・・シン君、あの親父に対抗しようとしたら、もっと個性磨かなきゃね』
「「ジフさん!」オッパ!!」
「ねぇ、あんた達、チェギョンに文句があるなら俺に言って。俺が育てたようなもんだしね。それに気にいらないようなら、学校辞めてくれていいよ」
『!!!』
「オッパ!!」
「だって、そうじゃん。俺らは、色眼鏡で見られないよう、チェギョン自身を見てほしくて、素性を隠して見守ってきたんだ。皇太子妃になりたい変な王族が出てこなかったら、俺らまだ隠してたし・・・チェギョンがイジメられるなら、シン君助けるんじゃなかったな。おバカな王族とスクープされれば良かったんだ」
「ジフさん!俺、あんなド派手な女、興味ないですからね」
「そう?あの女だったら、すぐに解禁皇子になれるのに?」
「///ジフさん!!」
「クスクス・・・あんた達、シン君に近づく女生徒は誰でも許せないんだろ?俺らの学生時代にもいたんだよね、そういう子・・・大体が派手に着飾って、中身が空っぽだったな」
ジフの言葉に 教室中の生徒が爆笑した。
「一応、教育者として一言。人を妬む前に自分自身を磨きなさい。俺の教育方針が間違ってると思うなら、遠慮なく学校辞めて良し!誰も引き留めないから・・・俺の話は以上。教室に戻りな」
すごい剣幕で乱入してきた女生徒達は、肩を落として教室を出て行った。
「みんな、騒がせて悪かったね。それと俺の従兄妹だって、黙っててゴメンね。知ってると思うけど、チェギョンは天然で危なっかしいんだよね。これからも皆で守ってやって」
『ハイ!!』
「俺からも一言。俺、チェギョンが芸校に入学するから、ここに入学許されたんだ。俺が幼馴染に会いたくて、追いかけてきたんだ。でも話しかけるのに1年かかってさ、やっと話せるようになって、今すごく嬉しいんだ。映像科のクラスの連中は応援してくれてるんだけど、美術科の皆も見守ってくれないか?」
「俺がイヤ・・・チェギョンに手を出さないでよ」
「ジフさん!学校でそんなことしません!!」
「じゃ、宮でする?」
「「オッパ!」ジフさん、あんたバカでしょ!?」
シンとジフのやり取りに 教室は再び笑いの渦に巻き込まれた。
「///コホッ・・・そういう事で、俺も教室に戻ります。先生、お時間をお取りしまして申し訳ありませんでした」
「い、いえ、そんな・・・私も一緒に笑ってましたから・・・」
「なら、良かった。ほらジフさん、戻りますよ。ちゃんと自分の仕事に戻ってください」
「ヤダなぁ~。でも仕方ない。みんな、これからも皇太子じゃなくて、シン君と仲良くしてやってね。結構、からかい甲斐あるから楽しいよ♪」
「ユン・ジフ!授業の邪魔!!いい加減に帰りなさい!!」
ガンヒョンの罵声を浴び、ジフはシンに手を引かれ、スゴスゴと教室を出て行った。
理事長を怒鳴り飛ばしたガンヒョンに みんな唖然とし、目を丸くしている。
「先生、申し訳ありません。授業を始めてください」
「あの・・・イ・ガンヒョン?理事長とお知り合い?」
「ええ。本当に不本意で、できれば縁を切りたいぐらいの親戚です」
『!!!』
「ガンヒョン、酷い・・・(ウルウル)」
「チェギョン、あんたは良いの。でもあんたの変人家族と同類と思われたくないだけなの。気を悪くしないでね」
「そっか、そうだよね」
ガンヒョンのフォローは全くフォローになっていないし、そのフォローで納得するチェギョンもおかしいと、教室にいる全員が思ったのは確かだった。
(みんな、知らないからよ。あの人たち、本当に変なんだから・・・)