お堅い経済誌の対談だと安易に考えていたが、普段の倍以上の部数が売れたようで大反響を巻き起こしていた。
爆弾発言連発の対談は、色々な方面に影響を及ぼしていた。
「ジフ、お前らいい加減にしろよ。俺がお前の叔父だってモロバレじゃねぇか。その所為で、大学で変な目で見られるし、引き籠りになりそう」
「引き籠った方が平和が訪れるんじゃない?クスクス・・・」
「ムカつく!でもソヨンちゃん、良かったな。自宅の嫌がらせも無くなったってさ」
「・・・親父、誰に聞いた?」
「えっ、ソヨンちゃんだけど?この間、交換してLINEで友達登録したんだ♪」
ジフは、叔父の能天気ぶりに頭を抱えた。
「そうだ!お前の暴露の所為で、チェギョンが大変なんだけど?どうしてくれるわけ?」
「俺じゃない!折角、誤魔化したのにチェイン小父さんが振ったんだ。文句なら、小父さんに言えって!で、宮はどうだって?」
「これを機会に発表しようって、小躍りしてる。ヒョン君、結構能天気・・・」
「プププ・・・親父に能天気って言われるって、どんな皇帝だよ!?チェギョンは?」
「・・・普通。宮に従うってさ。ハァ・・・」
「一番、しっかりしてるな。今度、財団のパーティーを利用するか?」
「・・・任せる」
「了解。明日、シン君の話を聞いてから考えるね」
翌日、ジフはシンを理事長室に呼んだ。
「俺らの対談が載った雑誌が出た後、宮はどんな感じ?」
「ん~、広報が、『事実です』というコメント出して終わり。コン内官が定例会見の時、オフレコで黙って見守ってくれって釘刺してたらしいんだ。だからマスコミは静かだね。ホームページは、色々コメント書き込まれてるみたいだけどさ」
「ふ~ん、王族の反応は?」
「特に・・・それに大企業がバックに付いてるスアムの姫君を非難できる王族がいたら驚きだし・・・」
「確かに・・・で、シン君はどうしたい?」
「へ?どうしたいて?」
「親父が言うには、陛下はこの機会に公表したいって話してたらしいんだ。親父は不貞腐れてたけどな。チェギョンは、宮の意向に従うらしい。で、シン君は?って聞いてる。どうしたい?」
「そんなの・・・婚約発表して、すぐにでも入宮してほしいに決まってる。でもアジョシ、泣くだろ?」
「親父は、早かろうが遅かろうが、どっちにしても泣くから、気にする必要なし。あのさ、今度、スアム美術館で、各分野の芸術家や名工と呼ばれる職人の作品展が行われるんだ。その期間中に彼らや彼らが推薦した人たちが集まって、食事会のようなパーティーを開く。宮が行う園遊会のちょっと派手バージョンだと考えてくれていい。それにチェギョンと一緒に参加しない?」
「えっ、いいの?」
「うん。宮が良いなら、エスコートしなよ。まぁ報道陣が皆無ってわけじゃないけど、大々的にパーティーをするって宣伝するつもりはないから少なめだと思う。少しずつ露出していったら?」
「宮に戻ったら、すぐに陛下に相談します」
「うん。映画監督は勿論、映像カメラマンや有名なカメラマンも来るらしいから、話聞くだけで勉強になると思う」
「絶対に行く!反対されても行くから!」
「ククッ、じゃ返事待ってる」
陛下と皇太后に話をすると、すぐにOKが出て、コン内官がジフと打ち合わせをする事になった。
打ち合わせの結果、午前中に美術鑑賞の公務をし、午後からの食事会はプライベートで参加することになった。
当日、公務に行くため公用車に乗り込むと、助手席に座ったコン内官にシンは話しかけた。
「・・・いつも公務前に資料を読んでおけって渡す癖に、今回何もないのは何で?」
「今回の美術鑑賞は、ただ目で見て、何かを感じてくれればいい。作者は後で紹介するから、余計な知識は入れるなとユン・ジフさまから厳命されました」
「ジフさん?じゃスアム美術館に行くの?」
「はい。午後からの食事会にご一緒する芸術家や名工の作品が展示されているそうです」
「それって・・・真剣に鑑賞しないと、後で会話できないじゃん。ジフさん、マジで鬼だな・・・」
「クスクス・・・頑張ってくださいませ」
スアム美術館の玄関前には報道陣が待ち受けており、その後ろにはシンを一目見ようと多くの国民がシンが到着するのを待っていた。
シンが到着する直前、美術館からユン・ソギョンが出てきて、報道陣は一斉にフラッシュをたきだした。
シンが到着すると、ソギョンは車から降りてきたシンに恭しく頭を下げた。
「あれ?お爺さん、今日はどうなさったのですか?」
「ふふ、一応、財団の理事長兼美術館の館長の肩書もありまして、偶には動けと孫に言われまして、殿下を出迎える役をしに来ました」
「クスクス、お疲れ様です。今日は、宜しくお願いします」
ソギョンと共に館内に入ると、スンレとジフ、そしてチェギョンが、シンを待っていた。
「チェギョン!」
「ふふ、シン君、おはよう。一緒に特別展、見に行こう♪」
「えっ!?」
「陛下の許可も取ってある。シン君、マスコミは気にせずチェギョンと行っておいで」
「はい。チェギョン、行こう」
「うん♪」
2人が手を繋いで特別展示場の方に向かうのを 館内の取材を許された記者たちは唖然として見送ってしまった。
(手を繋いでたよな?幼馴染だと公表されてるし、そう主張されれば言い返せないけど、高校生にもなって幼馴染は普通手を繋がないだろ?!)
記者たちは、皇太子の公務の取材をするため、戸惑いながらシンとチェギョンの後を追った。
人目が少なくなった展示室の2人は、顔を寄せ合って作品一つ一つについて感想を言い合ったり、微笑みあったりしている。
(おいおい、今、ポッポしたよな?!幼馴染以上の雰囲気出してんじゃねぇか!う~ん、俺たちの前でこうも堂々とされるという事は、婚約間近と踏んで良いのか?説明役の学芸員は目のやり場に困ってるし、後ろを付いて歩いているユン・ジフ氏とユン・スンレ氏も苦笑いしてるし・・・)
1時間以上かけて鑑賞したシンは、チェギョンやジフと一緒に休憩のため理事長室に入って行った。
エントランスでシンが出てくるのを待っていた記者たちは、コン内官を見つけて話を聞きに行った。
『コン内官さん、殿下とスアムの姫君とのロマンス、間違いないですよね?もう報道解禁と思っていいんですよね?』
「・・・宮の公式ホームページに国民から問い合わせが多数寄せられており、これ以上隠すことは得策じゃないと判断しました。徐々にオープンにしていき、国民の声や様子を見ながら婚約発表の時期を決めると陛下や皇太后さまは仰せでした」
『それは国民の声を聞いて、婚約がなくなる可能性があるということですか?』
「反対する理由が正当と思えれば考えますが、本当に宮を敬愛し、皇族方の幸せを願っておられるなら、あのお二人を見て反対できないと思っています。殿下が気にしておられるのは、政略結婚と思われないかです。ですから、今日あのような態度に出られたのだと思います」
『確かに想いあっておられるのが、良く分かりました』
「あなた方の記事一つで、国民から祝福されるか、反感を持たれるかは決まるでしょう。宮は、貴方がたに期待しています。では・・・」
記者たちは、コン内官の言葉にもの凄いプレッシャーを感じた。
(お二人の婚約を国民が祝福するような記事を書けって、今もの凄い圧力をかけられた気がする・・・)
しばらくすると、ビジネススーツからフロックコートに着替えたジフが現れ、車寄せに待たせていたリムジンに乗り込んで出ていった。
玄関前でシンの出待ちをしていた報道陣やソウル市民は、ジフの正装姿を見て、これから何か用事があって中座したのだろうと思った。
(何年も取材して見てるが、ユン・ジフ氏は昔からハッとするぐらい綺麗な顔立ちだよなぁ・・・それにしても殿下は何をしてるんだ?)
ジフが出て30分後、やっと控室から出てきたシンは、ジフ同様パーティー仕様のスーツに着替えており、上品なワンピースに身を包んだチェギョンをエスコートしていた。
取材陣やギャラリーににこやかに会釈した後、公用車に乗り込み2人して美術館から立ち去ってしまった。
『おい、あの女性は誰だ?殿下の恋人なのか?それより殿下は、どこに行かれたんだ?』
『ひょっとしてユン・ジフ氏と合流するんじゃないか?ユン・ジフ氏の今日の予定を知ってる奴はいるか?』
『中で取材した奴、どこいった~~!?』
玄関前の喧騒をよそに館内で取材していた記者たちは、宮からのプレッシャーと未だに闘っていた。
メディアがシンとチェギョンを報道する前に 美術館前でシンを出待ちしていた市民たちが写メ付きでSNSでUPしていた。
≪公務後の皇太子殿下、彼女とデート?≫
≪殿下のデレ顔、カワイイ~♪≫
≪殿下、可愛い彼女と手繋いで車中に消える!≫
SNSの画像が拡散して、世間を賑わせていることも知らず、シンとチェギョンは芸術家たちと楽しい時間を過ごしていたのだった。