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Channel: ゆうちゃんの日記
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四獣神 第7話

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キム夫婦の歓迎パーティーは、食堂ではなく大広間で行われるようで、部屋には大小様々なテーブルや座卓が置かれ、その前には明らかに人でないモノが大勢座って、宴会が始まるのを待っていた。
そして裏庭で会ったソンによく似た子どもたちが、食堂から料理や酒を何往復もして運んでいた。

「大家、紹介する。妹に頼まれて連れてきた。俺の甥っ子とその友達のリュ・ファン君だ」

男はどう見ても40代で、チェギョンの祖父には見えなかったが、彼の胡坐を掻いた膝の上には青龍が乗っていた。

「おお、ソンジョの孫とリュ・ジュンスの倅じゃな?いらっしゃい。ここの大家です。すまんが、首がだるくなる。座ってくれんか」

シンとファンは、チェジュンの横に座るも 目の前の不思議な人物から目が離せなかった。
そんな2人を無視するかのように大家は、近くに座っていてオドオドしている夫婦に笑いかけた。

「キムさんや、すまんな、家の厄介事に巻き込んでしもうて。このままでは2人とも殺されそうだったでな、保護させてもろうた。ここは、人間に住処を奪われた神や妖(あやかし)と不器用すぎて人と上手く関われない人間が楽しく住まう下宿屋じゃ。追い追いと慣れていっておくれ」
「「はい、ありがとうございます」」
「それから倅と末長く仲良くしてくれると有り難い。ウォンはお前さんが大好きらしい」
「アジョシ、よく父からお話は伺っていました。はじめまして、娘のチェギョンです。私からも父を宜しくお願いします。ハラボジ、最初からここはキツイと思うよ。お二人には食堂に移動してもらって、オンマとご飯食べてもらうね」
「そうか?ああ、皇族が居ると緊張するわな。キムさん達、明日から宜しくな」

(俺の所為かよ!?それ、絶対に違うし!!それに俺、皇太子って紹介されてないし・・・)

チェギョンとキム夫婦が大広間を出ていくと、何の合図もなく突然宴が始まった。
人も人でないモノも酒を水のようにあおりながら、大笑いしている。
そんな姿に驚いていたシンだが、目の前の見知った人に話しかけた。

「ソンさん、昼にお会いした時、ちゃんと挨拶できずにすいませんでした。それとキム翊衛士のご両親を助けていただきありがとうございました。それにお子さんが大勢いらっしゃるとは思いませんでした」

シンがそう挨拶すると、周りから大爆笑が起こった。

「えっ?」
「ああ、ゴメンね。僕、ソンじゃないんだ。ほら」

そう言って、ソンに似た男は背後から尻尾を九本振って見せた。

「「うわっ!!」」
「分かった?僕は、九尾狐(くみほ)。九尾って呼んでもらって構わない。僕らって見本がないと変化(へんげ)出来ないんだよね。チェヨンでもそこにいるジンモでも良いんだけど、僕の美意識がそれを許さないんだよね。不細工でしょ?」
「九尾!てめぇ・・・」

ジンモが怒鳴ると 余計周りは囃したて、爆笑を誘い、益々盛り上がっていった。

「クスクス、毎日こんなだから。ソンと九尾の見分け方は目の色。九尾の目を見てみ」

チェジュンに言われ、九尾の目を見ると金色に光っていた。

「分かった?それから、さっきのガキは子どもじゃなくて九尾の分身。所謂、分身の術ってやつ。」
「「へ、へぇ~・・・」」

もう自分の日常では考えられない世界で、シンもファンも目の前の現実を受け入れることに必死だった。

「ジュン、もうバラしちゃったの?別にいいけどね。でもさ、三尾は何であの姿を選んだんだろうね。同じ狐族として、あり得ないんだけど・・・」
「クファ~、美味い!九尾や、三尾とマンソクは50年の付き合いで、マンソクが大好きだからな」
「僕とチェヨンだって、50年以上の付き合いで好きだし、信頼もしてるよ。でもチェヨンの姿は絶対に選ばない」
『クククッ、チェヨンと九尾は、昔から変わらぬの。三尾とは宮で会うのでな、マンソクの姿は知っておるが、マンソクの息子も大きくなったであろうな』
「おお、マンソクよりアクは強いが、良い子に育ったぞ。スンギや、ちょっとこっちおいで」

チェヨンが声を掛けると、一人の青年がチェヨンの許にやってきた。

「爺さん、何だ?」
「カメゾーとヨンがお前さんに会いたがっておったでな、呼んだ」
「お久しぶりっす。うわぁ、懐かしいけど何か縮んでません?」
『おお、立派になりおって・・・今は何をしておるのだ?マンソクの手伝いか?』
「親父の手伝い少々と、大学で勉強したことを生かして経営コンサルトしてます」
『幸薄いマンソクにとって、チェヨンと息子のお前さんとの出会いは最大の幸せじゃろうの。スンギや、孫を見せたらマンソクはもっと喜ぶぞ』
「あ~俺、女は勘弁っす。あの母親を見てきたんで・・・俺に寄ってくる女は、どうしても母親とダブるんすよね。スンレさんみたいな女性なら即OKなんすけどね」
「ブハッ、スンギヒョン、趣味悪過ぎだろ!?何であんなおっかないのが良いんだよ?」
『ハハ・・・スンレが理想とは・・・スンレほどの女子(おなご)でないと、この家の嫁は務まらぬかもな。チェヨンの孫、頑張って探せよ』
「僕は、チェジュンの嫁は優しい人希望。僕、チェヨンの式鬼(しき)の筈なんだけど、この家にいたらスンレの式鬼のような気がするんだよね」
「九尾・・・舅の儂も顎で使う嫁ぞ。ここにいる奴らは、全員スンレの下僕じゃわい」
『そう考えると、スンレを嫁にしたウォンは大したものじゃな。クククッ・・・』

真実を知っているシンとファン以外は、全員お腹を抱えて笑うのだった。

「人との接触を嫌がるハラボジとこの環境だろ?アッパ、学校に馴染めなくて浮いた存在だったみたい。それを助けてくれたのがオンマなんだって。ホント初恋って厄介だよな。皆にとって鬼でも アッパには天使に見えるらしい」

本物の鬼が、オンマに向かって『鬼!』って言うんだって、ケラケラとチェジュンが笑った。
そしてスンギの母親は、子どもを放置して遊びまわり、挙句に浮気が本気になり、妊娠を期に離婚届を置いて家を出ていったらしいとコッソリ教えてくれた。

「あ~、チェジュン!スンレさんの悪口、今言ってただろ?スンレさんと親父の悪口は、絶対に許さないからな」
「ここにもいた。オンマが初恋の人。ケラケラ」
「ちげぇよ。母親以上に母親してもらったからな。学校行事は全部参加してくれて、喧嘩したら相手の親に頭を下げてくれたり、時には怒鳴りこんでくれた。俺が腐らず真っ当な人間になれたのは、スンレさんがいたからだ。悲しませたくねぇからな」
「どこが真っ当だよ!?かなり腹黒いぜ?」
「阿呆、この環境ならまだマシだろうが!チェジュン、お前も相当性格曲がってるからな。ホント、真っ直ぐ育ったチェギョンは奇跡だよな」
「ふん、ヌナは溺愛されてるからな。タイゾーやピー助は勿論だけど、九尾達もヌナの前じゃ毒吐かないし・・・」
「・・・マンソクヒョンがスンギを連れて戻って来た時やチェジュンが生まれた時、ここの連中は大歓迎だった。でもチェギョンが生まれて、病院から戻って来た時は・・・あれは不思議な光景だったな」

今まで笑って話を聞いていたジンモがポツリと零すと、九尾が答えた。

「あの時、一気に空気が変わって気持ち良くなったんだよねぇ。より居心地が良くなって・・・だからチェギョンに穢れてしまわないよう大事に育て、今は見守ってるわけ♪」
「ほぉ~じゃスンギ、お前がチェギョンを嫁にもらって、ずっとここに住めばいいじゃん。戸籍上でもスンレさんと家族になれるし、チェギョンはずっとここに居られる。一石二鳥じゃね?」
「「えっ!?」」
「無理!ぜぇ~たい、無理!!神や眷属たちに溺愛されてる女だぞ!?荷が重すぎるつうの!泣かせた瞬間、間違いなく祟られるわ!!それにここで皆に見られて、新婚生活だって!?萎えるわ!!」
「「「ブハッ・・・あはは」」」

シンとファンは一瞬玄武の話が頭を過ったが、スンギの言葉が妙に納得でき、皆と一緒に笑ってしまった。

「俺のことより、コイツら、このまま帰せないんじゃねぇの?チェジュン、用意してやれよ」
「あ、うん。一人は多分大丈夫だけどね、こっちの人は要るよね。今、ソンの帰宅待ちって感じ?」
「えっ、僕?」
「上手く言えないんだけど・・・この家ってやっぱ異空間じゃん。この空気に触れた人間は、人の世に戻っても何某かの霊障を受ける可能性がある。見えるだけなら良いけど、ちょっかい出されたら困るだろ?だからお守りが必要なわけ」
「俺やスンギも肌身離さず持ってるぜ。忘れた日にゃ、エライ目に遭うからな」
「え~!お守りください」
「だからそのお守りには、護符と霊力が強い奴の髪の毛が必要なわけよ。ハラボジやアッパ、ヌナの髪でも良いけど、ヌナは嫌がってるし、ハラボジとアッパは天パだろ?知らない人が見たら、あらぬ誤解を受けかねない」
「クスクス、マンソクはね、憧れの女性に見られて、魔除けのお守りだと説明したんだけど、『女性の毛じゃない』って言った途端ドン引きされて、それ以来目も合わせてもらえなかったんだよね。それでも良いなら、俺がチェヨンの毛を毟ってきてやるけど?」
「い、いえ、ソンさんのお帰りを待っています」
「ん?こっちの坊主は、いいのか?」
「あ、うん。ヒョン、こっちの彼はヨンが付いてる。低級達も神憑きには何もできないよ。ヌナは低級達を一度も見たことないらしいしね。羨ましい限りだよ」
「ヨン?じゃあ、ひょっとして皇太子?」
「あ、はい。イ・シンです」
「そっか・・・今更だけど、爺さん残念だったな」
「は?」
「俺、ソンジョ爺さんに可愛がってもらってたんだ。俺、大好きだったんだ」

皇族ではなく素の祖父を大好きだと言ってもらい、シンは胸が熱くなった。

「・・・・ありがとうございます」
「ん?何がありがとうなんだ?それとな、気になったんだけど、ヨンを付けてる割りには食細すぎないか?料理が口に合わなかったか?」
「えっ、いえ、滅茶苦茶美味しいです。これでもいつも以上に食べてて苦しいぐらいです」

シンの返答に スンギやチェジュンが顔を見合わせ、溜め息を吐いた。

「あ、あの何か?」
「神様憑きは、滅茶苦茶食うんだよ。腹が減るらしい。宮に戻って聞けばいいけど、ソンジョ爺さんの食欲凄かったぜ。チェギョンも俺らの倍は食うよな?」
「うん・・・ハラボジ曰く、神は人の気を吸収して成長したり維持するが、気を与えた人は腹が減るんだってさ。反対に人が弱っていると神は我が身を削って気を与える。多分、ヨンのあの衰弱は殿下の食の細さも原因の一つだと思うぜ」

(ハァ・・・知らなかったとはいえ、俺、青龍に相当迷惑かけてたんだ)

シンが落ち込んでいると、ソンと天然パーマの男性と真面目そうな男性が広間に入ってきた。

(あっ、天パの人がチェジュン達の父親で、もう一人は誰だ?)









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