合宿の日取りが決まったシンは、完全休養を取るため、朝から深夜まで執務室に籠るようになった。
またチェギョンも アンナたちとのレッスンに備えて、かなりの時間をレッスンにつぎ込んだ。
そんなある日、チェギョンの携帯に ヘジンから連絡が入った。
「ヘジン?」
『チェギョン?ちょっと先生に代わるわね』
『チェギョン、合宿先の別荘のカギを先輩から預かってるわ。近いうちに、スタジオまで取りに来てもらえないかしら?』
「先生、ゴメンなさい。この間、無断外出したから、外出禁止なんです。ヘジンに言付けてもらえませんか?」
『そう・・・困ったわね。実は、お願いもあって連絡したの。一度、ヘジンとジュンギュのパ・ド・ドゥを見てほしいのよ。随分とよくなったんだけど、あなたにアドバイスしてもらえたらと思って・・・』
「先生、じゃあ私のマンションに来てもらえますか?場所は、ヘジンが知っています。私も今から戻りますから、30分後にお待ちしています」
チェギョンはチェ尚宮に断りを入れ、シンにもメールを入れると、翊衛士にお願いしてマンションへと戻ってきた。
マンションの空気を入れ替え、床にモップを掛けていると、ヘジン達の到着を知らせるインターフォンが鳴った。
チェギョンは玄関のロックを外すと、パン翊衛士に連絡を入れ、自分も着替えはじめた。
しばらくすると、お茶を持ったパン翊衛士とヘジン達が一緒に入ってきた。
ジヨンとジュンギュは、レッスンスタジオばりの部屋に驚いている。
「先生、いらっしゃい。ヘジン、今日は私の部屋で着替えて。で、あなたは、そっちの客間を使ってちょうだい」
「は、はい」
ジュンギュが客間に入っていくと、チェギョンはキム・ジヨンにお茶を勧めた。
「しばらく留守にしていたから、何にもなくて・・・オンニ、突然帰ってきてゴメンね」
「これしきの事、いつでも構わないわよ。じゃ、私は部屋に戻るわね」
「オンニ、ありがとう・・・先生、お待たせしました。で、私は何をアドバイスすれば?」
「とりあえず、二人を見てほしいの」
「分かりました」
用意ができ、二人が出てくると、いつものようにバーレッスンを始める。
バーレッスンはジュンギュ中心に行われ、初めのヘジン同様、ジュンギュは悲鳴をあげ続けた。
1時間後、グッタリするジュンギュを笑いながら、チェギョンは2人に話しかけた。
「じゃ、少し休憩したら、ヘジンとあなた、踊ってくれる?お茶でも飲んで」
始めは、黙ってお茶を飲んでいたジュンギュだが、突然チェギョンに話しかけた。
「遠目でしか見たことがなかったから、この間は気づかなかったが・・・お前、美術科のシン・チェギョンだよな?」
「えっ!?へ、ヘジン?」
「うん・・・ジュンギュも芸校で、私のクラスメート」
「ヘジン、先に言ってよね。ハァ・・・ジュンギュ君?お願いだから、私の事は黙っててくれるかなぁ?あなたの事がバレると、マジで監禁されそうなんだよね。ははは・・・」
「「へ?」」
「クスクス・・・あり得るわね。チェギョンの為にリフォームしたんだって?」
「そうなのよ・・・レッスンするなら、ここでしろって。レッスンスタジオができた。ホント、この間以来だよ。外出したの」
「ぷっ!チェギョン、お疲れ。さぁ、レッスン再開しましょうか?」
チェギョンが窓を閉め、音楽を流すと、2人がパ・ド・ドゥを踊り出した。
ジッと見ていたチェギョンは、なぜジヨンが見てほしいと言ったのか分かった。
踊り終わった二人の前にチェギョンが立つと、一つのパをするように言った。
「ジュンギュ君、その位置でのサポートでは、ヘジンは窮屈に感じてると思うよ。あなたも演技が小さく見えるし・・・意識して、もう少し前でサポートしてみて。ヘジン、リフトの時、彼の1m先ぐらいを目標にジャンプする。あと前に見せたよね。ジャンプで移動する時は、上じゃなくて、着地する場所を意識して飛ぶこと」
「・・・・・」
「チェギョン、ジュンギュと踊ってあげてくれない?それでサポートする感覚を覚えられるでしょ」
「先生、私、最近、本当に踊ってないから、参考にならないですってば・・・」
「あなたなら、大丈夫よ」
「ハァ・・・じゃあ、ちょっと待ってください。準備しますから・・・」
チェギョンが軽く準備体操を始めると、ジュンギュはジヨンとヘジンに詰め寄った。
「ジュンギュ・・・もう薄々、分かってると思うけど?」
「じゃあ・・・」
「世界中の評論家が絶賛するプリマの実力を肌で感じてみなさい。で、できるだけ、今日で吸収すること」
チェギョンの正体を知ったジュンギュは、急に緊張しだしてしまった。
「ジュンギュ、緊張してる?チェギョンね、バレエ辞めるんだって。だから、こんな機会は二度とないわよ」
「えっ!?」
「幼馴染が過保護なうえに心配性でね。公演の度に栄養失調で倒れるチェギョンを見たくないんですって。。。だから、最初で最後のチャンスなの。緊張してたら、勿体ないわよ」
「あ、ああ・・・」
準備ができたチェギョンの前にジュンギュが立つと、チェギョンはプリマらしくポーズをとった。
「辞めるつもりだから、ベスト体重より5kgオーバーなの。ちょっと重いけど、我慢してね」
「あっ、う、うん。こちらこそ、よろしく」
音楽が流れだし、踊り出したジュンギュは、チェギョンの余りの軽さに驚いてしまった。
(ほとんど俺のサポートを必要としないし、俺が手を差し出す位置よりもっと先に手がある・・・【妖精エリーには、羽が付いている】、あの噂は本当だったんだ)
踊り終わったジュンギュは、感激のあまり呆然と立ちつくしたままだった。
「クスクス、ジュンギュ、世界レベルのプリマと踊った感想はどう?」
「先生、もう昔の話です。それにレッスン不足で、体、重いし・・・あまり参考にはならなかったと思いますよ。重かったでしょ?ゴメンね」
「///全然!!本当にウィリー(亡霊)と踊っているようだった。で、さっき言われた意味がよく分かった。チェギョン、ありがとう」
ジュンギュがチェギョンの手を握って、自分がいかに感動したか話していると、突然、玄関が開いた。
「「!!!」」
「げっ・・・来たの?」
「・・・チェギョン、忘れ物はどれだ?まさかお前の手を握っている男が忘れ物だと言わせないぞ」
(で、殿下?!殿下が、なぜここに???)