昼食を摂った後、リビングに移動して、食後のコーヒーを飲むことになった。
シンは、いつものようにチェギョンを膝の上に乗せると、チェ尚宮が持ってきた薬湯を先に飲ませた。
その姿を始めてみるイン、ギョン、ジュンギュは、驚きのあまり口をポカンと開けている。
「クスクス、シン、イン達の口に虫が入りそうだから、そろそろチェギョンを下ろしたら?」
「ファン、煩いんだよ。そんなことより、チェギョン、さっきの話、どういう事なんだ?」
「ん?さっきの話って?」
「あの、あれだ。着ぐるみとか女装とかの話だ」
「ああ、あれね。皆で踊って、騒げたら楽しいだろうなと思って・・・シン君、ダメ?」
「///ダメって・・・チェギョン、一体、どこで騒ぐんだ?また病院か?」
「ううん。学校の学園祭だよ♪」
「「「学園祭だって~~~!?」」」
「うん♪有志が申し込めば、舞台を貸してくれるんだってね。そこにエントリーするの♪」
「エントリーするの♪って・・・チェギョン、それマジで言ってんのか?シンに人前でKaraを踊れって!?」
「うん♪私ね、学校に通ったことがないじゃない?だから、ホント楽しみにしてんの~♪」
「た、楽しみね・・・あはは」
「・・・チェギョン、残念だが、俺は学校行事は不参加なんだ」
「不参加?何で?」
「詳しく聞いたことはないが、警備上の問題なんだろう」
「そんなの、おかしい!学校には通えてるじゃない。ヘジン、ジュンギュ君、先にレッスンしてて。お爺ちゃまに直談判してくる」
「お、おい、チェギョン!!」
シンの膝から下りると、チェギョンは一目散で東宮殿を出て行った。
その後ろ姿を唖然として見送ったシンは、グシャグシャと頭を掻き毟ると、天井を仰いだ。
「・・・すまない。諦めて、チェギョンに付きあってくれ」
「「「えっ!?」」」
「チェギョンは、必ず上皇さまから許可を取ってくる。上皇さまは、俺以上にチェギョンには甘いからな」
「シン、俺はいいぜ。高校生活最後の学園祭にシンと一緒に羽目が外せるんだ。きっと一生の思い出になる。イン、ファン、やろうぜ!」
「ハァ、ポジティブなギョンが羨ましいぜ。シン、どうせするならユルも巻き込もうぜ」
「当然だ。というより、チェギョンは、最初から間違いなくユルも頭数に入れているさ。ハァァァ・・・執務に戻る」
シンが肩を落としながら出ていくと、突然ジュンギュがクスクスを笑い出した。
「ジュンギュ、いい根性だな。俺らの不幸を笑いやがって・・・」
「ゴメン、ゴメン。そんな意味で笑ったんじゃないんだ。チェギョンに振り回されている殿下を見たら、【殿下も普通の高校生じゃん】って思ってさ。。。」
「シンか?チェギョンと再会してからは、いつもあんな感じだよな。もう見慣れちゃって、少し前まで無表情だった事を忘れそうだ」
「クスッ、知ってる?王族会にとってシンは、恐怖の対象なんだ。会議の際、誰もシンの話をしたがらないらしいよ。そんなシンが、チェギョンの前ではオロオロするんだ。ホント、チェギョンて凄いよね」
「皆さん、殿下、あれでも結構、亭主関白なところもおありなんですよ」
「「「え~~~!!!」」」
「殿下のお着替えやお風呂の支度は、チェギョンがするんです。殿下、チェギョンにネクタイ外してもらったりして、かなり甘えておられましたよ。私、新婚家庭に居候するお邪魔虫の気分でしたもの」
「「「・・・・・」」」
「どうかされたんですか?ジュンギュ、チェギョンが帰ってくる前に少し体を温めておかなくちゃ。レッスン室に戻るわよ」
「お、おぅ。。。じゃ、お先」
ヘジンの爆弾発言に呆然とするイン、ギョン、ファンを部屋に残して、ジュンギュはヘジンの後を追ってレッスン室に戻るのだった。
(殿下が甘えっ子って・・・俺の中の殿下のイメージが、今日一日で崩れていくんだけど・・・)
「ジュンギュ、昨日も言ったけど、もうあなたはこちら側の人間なの。宮で見聞きしたことは、墓場まで持っていくこと。分かった?」
「わ、分かってる。それに言ったところで、誰も信じないさ」
「クスクス、確かに・・・じゃ、レッスンしましょうか」
一方、シンは、頭を切り替えて、執務室で長期の休暇を取る為に書類と格闘していた。
「シンや、頑張っておるか?」
「上皇さま?何かございましたでしょうか?仰ってくだされば、こちらから出向きましたのに・・・」
「気にするな。少しばかりお前さんの顔が見たくなっての。足を向けてみた」
「はぁ・・・チェギョンが、良からぬことを言ったからですね。チェギョンの暴走を止められずに申し訳ありません」
「シン、謝るでない。寧ろ、儂がシンに謝らなければならん。今まですまなかった」
「上皇さま?」
「チェギョンが、儂に聞きおった。シン君と他の生徒たちの違いは何だ?皇太子だから、皆が楽しみにしていることを我慢して、すべて諦めなければならないのか?国民の娯楽を何一つ知らない人間でないと、皇族は務まらないのか?とな・・・」
「チェギョンがそんな事を・・・」
「そうじゃ・・・色々な事情で、チェギョンは学校に通えなんだ。だが、忠誠を誓った翊衛士達に守られているシンは登校できている。それでも禁止するのは、翊衛士を信じていないのか?とも言いおったわい。。。チェギョンの言葉を聞いて、反省した。儂は、民と共に在るべきだと言いつつも、民と同じ視線に立とうとはせなんだ。シン、儂とお同じ過ちを犯すな。学園祭、楽しんでおいで。そして儂らに色々と教えておくれ」
「上皇さま・・・ありがとうございます。あの・・・ユルも良いですよね?」
「勿論じゃ。シン、お前からユルに伝えておやり」
「はい!あの。。。用を思い出しました。すいませんが、少し東宮殿に戻ります」
「ああ、行っておいで」
上皇にペコリと頭を下げると、シンは脱兎のごとく執務室を飛び出していった。
「コンよ、チェギョンは本当にいい子じゃな。チェギョンがいる限り、シンは間違った方向に行かぬじゃろう」
「はい、上皇さま。私もそう思います」
シンがレッスン室に飛び込んできた。
イン、ギョン、ファンもいたが、シンにはヘジン達のレッスンに集中しているチェギョンしか目に入らなかった。
チェギョンの背後にそっと近づくと、驚いて振り向こうとするチェギョンをギュッと抱きしめた。
「「「!!!!」」」
「チェギョン・・・チェギョン・・・」
「シ、シン君?」
チェギョンはシンの懐から抜け出すと、振り向きシンの顔を覗き込んだ。
「シン君、何かあった?」
「今、チェギョンとすごく愛し合いたい気分。でも仕事抜けてきたから、これで我慢する」
「えっ!?」
シンはチェギョンにそう告げると、思い切り唇を奪った。
「「「「!!!!」」」」
皆がいるにも関わらず、シンは何度も角度を変え、チェギョンの唇を味わい尽くす。
余りの苦しさにチェギョンがシンの胸を叩いたので、シンは仕方なく唇を離した。
「はぁ、はぁ、シン君、急に何なの!?死ぬかと思ったじゃない」
「ゴメン。チェギョン、俺、やっぱお前がいないとダメだわ。きっと生きていけない。婚約しよう」
「「「「!!!」」」」
突然のことにチェギョンが唖然としていると、シンは再びチェギョンに抱きつき、顔中にキスの雨を降らすのだった。
(俺、とんでもない場に遭遇したんじゃ・・・これも墓場までなんだよな?で、何で、殿下のツレは、ビデオを回してるんだ?まさかマスコミに売るんじゃないだろうな!?あんたらも墓場までなんだろ?)