翌日から、チェギョン率いるSCグループが宮の再生に向けて本格的に動き出した。
シン宗家を支えるハギュンとドンヒョクが描いたシナリオは、ものの見事に嵌った。
ドンヒョクが庶民の味方で有名な『正道(ジョンド)』法律事務所を前面に出して、最長老と共にマスコミの前に立ち、宮の内部を徹底的に調査し、宮を貶めた者はすべて告発・排除すると発表したのだ。
この発表を受けて最長老も王族会の大幅な改革を行うと断言し、その手始めになる不祥事を起こした王族たちの処罰なのだが、一般人が想像もつかない刑罰だった。
「宮の法律『法度』に則り、王族の称号を剥奪。刑務所では、再び国民の税金を使い刑に服することになる。よって宮所有の地にて幽閉もしくは流刑に処す。これは、家族及び一族にも及ぶ。また王族たちの土地は宮が下賜したものであるから、当然没収。本人たちが所有していた会社や有価証券等の財産は、被害に遭った宮や国民の損害賠償に充てる。尚、未成年者なのだが更生の余地ありとし、矯正プログラムを受けさせせ、更生できたと認められない限り社会には出さない。それから暴走を止められなかった我々にもペナルティーを課し、再度宮に忠誠を誓い、盛り立てていく所存だ。厳しい意見は甘んじて受けるが、どうか我々に宮と王族の方々を守らせてほしい」
その後、コン内官がサラッと皇后の懐妊と静養を発表すると、マスコミはすぐに飛びつき、宮を批判する声は消えてしまったのだった。
(流石、シン・ドンヒョク氏だな・・・ここまで計算していたとは・・・経済界と政界は、あの方々に任せておいて大丈夫だろう。残るは、宮内部か・・・)
コン内官がホッとする前、早朝の東宮殿ではキム内官がチェギョンの我が儘で振り回されていた。
朝一番で届けられたチェギョン用のスマホ2台。
チェギョンは、そのスマホとアドレス帳をキム内官に渡すと、全件のメモリー登録を頼んだ。
「こ、これ全部ですか?」
「うん♪プライベート用は、ウビンオッパが一斉にナンバーを送信してくれてるから、掛ってきたら取って登録してくれればいい。問題は、こっちなのよね~。私が分かるように分類して、登録してほしいの。お願いね♡」
キム内官は、登録数ギリギリになるだろうアドレス帳を目の前にしてクラクラするのだった。
「それから、午後一番で人に会って、ある場所に連れて来てもらえる?」
「それは構いませんが・・・あのどなたでしょうか?」
「王族に脅されて、経理を誤魔化していた職員のご家族・・・」
「「えっ!?」」
今まで横でクスクス笑っていたシンもチェギョンの言葉に驚いた。
「職員寮に住んでるって。いつまでも居られないし、今も肩身の狭い想いしていると思うよ。奥さんとご子息には何の罪もないんだし、前向きに頑張ってもらいたいじゃない。私は、その手助けをしたいだけ」
「・・・分かりました。で、どこにお連れすればいいのでしょうか?」
「キムオッパは、昔、私とお爺ちゃんが住んでた家、覚えてる?そこなんだけど・・・」
「えっ!?し、知っています。あそこは、確か・・・」
「うん・・・ユルアッパが亡くなった所。今は、ハルモニが一人で住んでるんだけど心配なのよ。だから住み込みで、ハルモニの補佐をしてくれると有難いと思って・・・その話は私がするから、キムオッパはとりあえず連れて来てくれたらいい。あとご子息の成績表も一緒に持って来てもらって」
「かしこまりました」
「それから、この週末、職員の家族全員、宮に呼び出して宮の見学させて。それから陛下、もしくはシン君が、家族の心労を慰めてあげてほしい。特に子どもね」
「チェギョン、どういう事だ?」
「今回、職員が悪事に加担していたと報道されたから、父親が宮職員というだけで、ご家族は世間から冷たい視線に晒されていると思う。無実なのだから、正々堂々と胸を張っていいんだと言ってあげてほしい」
シンはチェギョンの職員の家族まで気遣う姿勢に驚き、キム内官は感動してしまった。
「姫さま、職員まで気遣っていただき、ありがとうございます。すぐに内官と手分けして、通達を出すことにします」
「うん、よろしくね。それから、その時に来週末、職員の家族と非番の職員対象にリクリエーションを行います。場所は、利川。それまでに参加用紙を作って、至急人数確認すること」
「えっ!?もしや・・・恒例のアレをされるのですか?」
「ふふふ・・・そう。恒例のアレをします。キムオッパにバスのチャーターや食材の確保は無理でしょう?仕方がないから、私がするわ」
「も、申し訳ありません。お願いします。ですが、なぜそこまでなさるのですか?」
「・・・今、職員たちは動揺してる。特に女性職員は大勢が抜け人手不足でしょ?すぐに人員が増えるわけないし、職員の士気を高めて少数精鋭でやっていくしかない。だから今いる職員を大事にして、働きやすい環境を作る。それが、アジョシが言った私の仕事みたい。大体、真言牌は大切だけど、時には臨機応変ってものが必要なのよ。ここは、風通しが悪すぎるの!」
チェギョンの力説にシンもキム内官も一瞬呆気にとられたが、納得できた。
「さぁ、ここまでがキムオッパの今日の仕事のスケジュールね。そろそろソオンオンニが来るころだから、迎えに行ってくるね。じゃ、お願いね~♪」
チェギョンが東宮殿を飛び出していくのを キム内官は呆然と見送ってしまった。
「クスクス、キム内官、大丈夫か?」
「は、はい、殿下。シン先輩が大変だと言った意味が分かりました。はぁ・・・とりあえず、一つ一つ片づけていきます」
「なぁ・・・利川で行われる例のアレって何だ?」
「はい。チェ尚宮がいた施設はリンゴ園でしたが、私がいた利川の施設は米作りでした。毎年、田植え前に豊作祈願が行われるのですが、その前日に水の張った田んぼで泥んこ祭りが開催されます。泥だらけになって全員で遊んだ後、温泉に入りバーベキューをします。子どもの頃は、本当に毎年楽しみでした」
「・・・キム内官、俺もそれに参加したい」
「え、え~~!!」
「その豊作祈願って、おそらく宮の行事だと思う。いつかは俺がしていく行事だ。後学の為にも参加し、見学したい」
「・・・まず皇太后さまにお伺いをして、許可を頂いてまいります。お返事は、その後でよろしいでしょうか?」
「多分、大丈夫だ。キム内官は忙しそうだから、俺が直接皇太后さまに許可を取ってくる。スケジュールは、コン内官と打ち合わせしてくれ」
「かしこまりました。殿下、そろそろ学校へ行かれる時間です」
「いや、休む。学校よりチェギョンといる方が勉強にもなるし、楽しそうだ。キム内官は、チェギョンの用で忙しいだろ?俺は暇なんで、これから皇太后さまと皇后さまのご機嫌伺いに行くよ。まぁ、頑張れよ」
「で、殿下~~(泣)」
キム内官の情けない声を背中で受け流すと、シンは皇太后が住まう慈恵殿に向かうのだった。
(チェギョン、凄すぎ。流石、10歳からシン宗家を率いてきただけはある。俺もチェギョンのようにこの宮を守っていけるんだろうか・・・)