丁度、実習時間だったシンは、授業を抜け出し、インを連れて校門までやって来た。
シンとインの後ろから、翊衛士が後を付いてくる。
シンは、ヒョリンの母親に軽く会釈をすると、チェギョンに話しかけた。
「前にも言ったが、俺は何も知らない。だからいつも一緒にいたインを連れて来た」
「えっ!?シン、何の話だ?」
「イン、この方はミン・ヒョリンのお母さんだそうだ。昨日の朝から連絡が取れないらしい」
「えっ!?親父たちの前でナンバー消去したから、俺も連絡先は分からない。家に戻ってこなかったんですか?」
「あ、あのミン社長宅を解雇になり、急遽ウィークリーマンションに移ったものですから、昨日の朝に出たっきりのヒョリンは私の居場所が分からないで困っていると思うんです」
シンはしばらく考えていたが、少し離れたところにいる翊衛士達を手招きした。
「ミン・ヒョリンが行方不明だそうだ。昨日の騒ぎの後、どうした?」
「あのユン翊衛士長に舞踊科まで送るように言われ同行したのですが、ミン・ヒョリン嬢は舞踊科の教室には向わず、学校から出て行きました。その後は、分かりかねます」
「あれって2時間目が終わってすぐだったよな?・・・お母さん、バレエスタジオには行かれましたか?」
「あ、あのどこで習っているのか知らなくて・・・」
「俺、いつも明洞まで送っていってました。あの辺りを探されたらいかがでしょうか?俺、今度ヒョリンに関わったら勘当なんです。協力できなくてすいません」
「い、いえ、手掛かりを教えていただきただけでも有難いです。今から明洞に行ってみます」
「ヒョリンオンマ・・・携帯貸してください。私の連絡先を登録しておきますので、見つかったら連絡ください。連絡待ってますから・・・」
「ありがとうございます」
ヒョリンの母親は、シンやチェギョン達に何度も頭を下げながら、帰っていった。
「チェギョン、なぜ連絡先を教えた?」
「だってアジュマ、心細そうだったし、何よりシン君たちの友達なんでしょ?友達なら心配して当然だもの。シン君たちは関わっちゃいけないのなら、私が連絡係になってあげようかなぁって・・・私は関わるなって言われてないもの。見つかったって連絡が来たら、教えてあげるね」
無邪気に答えるチェギョンを見て、正直ヒョリンを友達だと思っていないシンは複雑だった。
またインは、他人を気遣うことができるチェギョンを見て、自分やヒョリンの愚かさを痛感した。
「チェギョン、サンキュ。アジュマから連絡が来たら、俺に寄こせ。俺からインには伝えよう」
「それって面倒じゃない?イン君、ナンバー登録しようよ」
「チェギョン!お前は黙って、俺に連絡すればいい」
「はぁ?ホント横暴王子なんだから・・・分かったわよ。呼び出してゴメンね。じゃあね~」
チェギョンとガンヒョンは、シンを見て目をハートにしているヒスンとスニョンを引きずるように去っていった。
シンがその後ろ姿を見送っていると、隣からクスクス笑いが聞こえてきた。
「ん?どうかしたか?」
「シン、独占欲丸だし。幼馴染に惚れたか?」
「///煩い!授業に戻るぞ」
「クスクス・・・あの子が幼馴染ってのは否定しないんだ。あの子、いい子だな」
「ああ・・・昔から正義感が強くて優しかった」
「少し話しただけでも分かった。アイツがモテるの、何か納得!」
「・・・惚れるなよ。否、見るな。アイツが穢れる」
「はぁ?」
インがあげた素っ頓狂な声をスルーし、シンは授業に戻るのだった。
シンを追いかけるイン、そしてパク翊衛士。
一人その場に残ったユン翊衛士長は、コン内官に今の事を報告を行うのだった。
同じ頃、宮では、緊急の王族会議が開かれていた。
王族たちは、一体何があったのか分からず、急いで参内してきた。
最長老が王族たちの顔を睨みつけると、陛下に向かって跪いた。
『『!!!!』』
「陛下、私たち王族の所為で、苦渋の人生を歩まれたことを深くお詫び申し上げます。処罰に関しては、甘んじて受ける所存でございます」
「当然だな。今から呼ぶ者たちは、王族の身分剥奪した後、宮内警察にて取り調べを受けてもらう」
王族たちが唖然とする中、陛下は次々と名前を挙げていった。
「ま、待ってください。私たちが何をしたというのです?理由をお聞かせください」
「分からぬのか?あのような者を私の妃に推薦したことだ。本日、皇后を廃妃にした」
『えっ!?』
「今、名前を呼ばれた者は、ユン・ミンを妃に推薦し、王族会議に賛成した者たちだ。亡き兄上があれ程拒否したにも関わらず、性懲りもなく私にも強引に進めてきて、王族会議で婚姻を決議した。私が許せると思うか?」
「先帝は、『ミン妃が次に何か事を起こした際は廃妃にせよ』と勅命を残されておる。分からぬか?先帝は、『次に』と書いておられた。それまでにも我々にも知らぬ事が色々あったという事だ」
『まさか・・・王族の令嬢が、何かの間違いじゃないのですか?』
「・・・女官や侍従に対して、横暴な振る舞いは日常茶飯事だった。娘ヘミョンには、『庶民と触れ合うと病気が移る』と教えていた。皇族は国民を愛することが仕事なのにだ。娘の為にミンから離すべきと幼少から留学させたままだ。その他に女官を使って、甥のユルを虐待。ファヨン妃は、ミンから逃げるために海外に渡った。あと未遂に終わったが、殺人教唆もあった」
陛下の口から出てくる事実は、王族たちを驚愕させた。
「何かの間違い?これは、王族なら当然の振舞いなのか?一体、私がどれだけ我慢したと思ってるんだ!?太子が成人するまではと思っていたが、今回、実家の兄と結託して、暴力団と手を組み地上げに加担していたことが分かった。もう許せることではない」
『『!!!』』
「今回の件で、ミン妃の兄と顧問弁護士を拘束し、尋問した。お前たちは、ミン妃の父親から金を受け取って推薦者に名を連ねたらしいな。家宅捜索して、証拠も出てきた。妃の座を金で売るとは・・・どこまで皇族の方々をバカにしたら気が済むんだ?!」
陛下が合図すると、翊衛士達が入ってきて、項垂れる王族たちを引っ立てて行った。
「さて、残ったお前たちに言う。皇族の婚姻に関して、王族たちの意見は今後一切聞くことはない。『妃は王族でないと』等とふざけた意見を持つ者は、王族の称号を返してもらって結構。私のような想いをする皇族は、私で最後にする。以上だ」
残された王族たちは、今まで陛下がどれ程の苦汁をなめてきたかを知り、言葉を発することができなかった。
陛下が会議室から出ていくと、最長老は大きな溜め息を吐いた。
「残ったのは、わずかこれだけか・・・だが、陛下をはじめ皇族の皆様の信頼を取り戻す為、なお一層の精進と宮への忠誠を誓ってほしい」
『『はい・・・』』
「本当に分かっておるのか?そなたらの子どもや親戚縁者にミン妃のような者がおれば、即王族の称号を剥奪するってことじゃぞ?殿下や儂の孫が、なぜ王立を蹴り、違う高校に進学したか考えたことはあるか?同類に思われたくないからじゃ。儂の孫なぞ、王族であることすら隠しておるわ」
王族たちは、最長老から現実を突きつけられ、真っ青になった。
「『教室中、化粧と香水の匂いで授業を受ける気がしない。学生の分際で、化粧をしての登校を許す親の神経を疑う。おじい様も王族は周りに迷惑を掛けても構わないと思ってるんじゃないでしょうね?』と、孫が中学生の頃に言われたわい。そなた達、自分たちの子ども達をしっかり見てみることじゃな」
最長老も しっかり太い釘を刺して、会議室を後にした。
残された王族たちが、慌てて自宅に帰っていったのは言うまでもない。