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Channel: ゆうちゃんの日記
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心の扉 10

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丁度、実習時間だったシンは、授業を抜け出し、インを連れて校門までやって来た。
シンとインの後ろから、翊衛士が後を付いてくる。
シンは、ヒョリンの母親に軽く会釈をすると、チェギョンに話しかけた。

「前にも言ったが、俺は何も知らない。だからいつも一緒にいたインを連れて来た」
「えっ!?シン、何の話だ?」
「イン、この方はミン・ヒョリンのお母さんだそうだ。昨日の朝から連絡が取れないらしい」
「えっ!?親父たちの前でナンバー消去したから、俺も連絡先は分からない。家に戻ってこなかったんですか?」
「あ、あのミン社長宅を解雇になり、急遽ウィークリーマンションに移ったものですから、昨日の朝に出たっきりのヒョリンは私の居場所が分からないで困っていると思うんです」

シンはしばらく考えていたが、少し離れたところにいる翊衛士達を手招きした。

「ミン・ヒョリンが行方不明だそうだ。昨日の騒ぎの後、どうした?」
「あのユン翊衛士長に舞踊科まで送るように言われ同行したのですが、ミン・ヒョリン嬢は舞踊科の教室には向わず、学校から出て行きました。その後は、分かりかねます」
「あれって2時間目が終わってすぐだったよな?・・・お母さん、バレエスタジオには行かれましたか?」
「あ、あのどこで習っているのか知らなくて・・・」
「俺、いつも明洞まで送っていってました。あの辺りを探されたらいかがでしょうか?俺、今度ヒョリンに関わったら勘当なんです。協力できなくてすいません」
「い、いえ、手掛かりを教えていただきただけでも有難いです。今から明洞に行ってみます」
「ヒョリンオンマ・・・携帯貸してください。私の連絡先を登録しておきますので、見つかったら連絡ください。連絡待ってますから・・・」
「ありがとうございます」

ヒョリンの母親は、シンやチェギョン達に何度も頭を下げながら、帰っていった。

「チェギョン、なぜ連絡先を教えた?」
「だってアジュマ、心細そうだったし、何よりシン君たちの友達なんでしょ?友達なら心配して当然だもの。シン君たちは関わっちゃいけないのなら、私が連絡係になってあげようかなぁって・・・私は関わるなって言われてないもの。見つかったって連絡が来たら、教えてあげるね」

無邪気に答えるチェギョンを見て、正直ヒョリンを友達だと思っていないシンは複雑だった。
またインは、他人を気遣うことができるチェギョンを見て、自分やヒョリンの愚かさを痛感した。

「チェギョン、サンキュ。アジュマから連絡が来たら、俺に寄こせ。俺からインには伝えよう」
「それって面倒じゃない?イン君、ナンバー登録しようよ」
「チェギョン!お前は黙って、俺に連絡すればいい」
「はぁ?ホント横暴王子なんだから・・・分かったわよ。呼び出してゴメンね。じゃあね~」

チェギョンとガンヒョンは、シンを見て目をハートにしているヒスンとスニョンを引きずるように去っていった。
シンがその後ろ姿を見送っていると、隣からクスクス笑いが聞こえてきた。

「ん?どうかしたか?」
「シン、独占欲丸だし。幼馴染に惚れたか?」
「///煩い!授業に戻るぞ」
「クスクス・・・あの子が幼馴染ってのは否定しないんだ。あの子、いい子だな」
「ああ・・・昔から正義感が強くて優しかった」
「少し話しただけでも分かった。アイツがモテるの、何か納得!」
「・・・惚れるなよ。否、見るな。アイツが穢れる」
「はぁ?」

インがあげた素っ頓狂な声をスルーし、シンは授業に戻るのだった。
シンを追いかけるイン、そしてパク翊衛士。
一人その場に残ったユン翊衛士長は、コン内官に今の事を報告を行うのだった。



同じ頃、宮では、緊急の王族会議が開かれていた。
王族たちは、一体何があったのか分からず、急いで参内してきた。
最長老が王族たちの顔を睨みつけると、陛下に向かって跪いた。

『『!!!!』』
「陛下、私たち王族の所為で、苦渋の人生を歩まれたことを深くお詫び申し上げます。処罰に関しては、甘んじて受ける所存でございます」
「当然だな。今から呼ぶ者たちは、王族の身分剥奪した後、宮内警察にて取り調べを受けてもらう」

王族たちが唖然とする中、陛下は次々と名前を挙げていった。

「ま、待ってください。私たちが何をしたというのです?理由をお聞かせください」
「分からぬのか?あのような者を私の妃に推薦したことだ。本日、皇后を廃妃にした」
『えっ!?』
「今、名前を呼ばれた者は、ユン・ミンを妃に推薦し、王族会議に賛成した者たちだ。亡き兄上があれ程拒否したにも関わらず、性懲りもなく私にも強引に進めてきて、王族会議で婚姻を決議した。私が許せると思うか?」
「先帝は、『ミン妃が次に何か事を起こした際は廃妃にせよ』と勅命を残されておる。分からぬか?先帝は、『次に』と書いておられた。それまでにも我々にも知らぬ事が色々あったという事だ」
『まさか・・・王族の令嬢が、何かの間違いじゃないのですか?』
「・・・女官や侍従に対して、横暴な振る舞いは日常茶飯事だった。娘ヘミョンには、『庶民と触れ合うと病気が移る』と教えていた。皇族は国民を愛することが仕事なのにだ。娘の為にミンから離すべきと幼少から留学させたままだ。その他に女官を使って、甥のユルを虐待。ファヨン妃は、ミンから逃げるために海外に渡った。あと未遂に終わったが、殺人教唆もあった」

陛下の口から出てくる事実は、王族たちを驚愕させた。

「何かの間違い?これは、王族なら当然の振舞いなのか?一体、私がどれだけ我慢したと思ってるんだ!?太子が成人するまではと思っていたが、今回、実家の兄と結託して、暴力団と手を組み地上げに加担していたことが分かった。もう許せることではない」
『『!!!』』
「今回の件で、ミン妃の兄と顧問弁護士を拘束し、尋問した。お前たちは、ミン妃の父親から金を受け取って推薦者に名を連ねたらしいな。家宅捜索して、証拠も出てきた。妃の座を金で売るとは・・・どこまで皇族の方々をバカにしたら気が済むんだ?!」

陛下が合図すると、翊衛士達が入ってきて、項垂れる王族たちを引っ立てて行った。

「さて、残ったお前たちに言う。皇族の婚姻に関して、王族たちの意見は今後一切聞くことはない。『妃は王族でないと』等とふざけた意見を持つ者は、王族の称号を返してもらって結構。私のような想いをする皇族は、私で最後にする。以上だ」

残された王族たちは、今まで陛下がどれ程の苦汁をなめてきたかを知り、言葉を発することができなかった。
陛下が会議室から出ていくと、最長老は大きな溜め息を吐いた。

「残ったのは、わずかこれだけか・・・だが、陛下をはじめ皇族の皆様の信頼を取り戻す為、なお一層の精進と宮への忠誠を誓ってほしい」
『『はい・・・』』
「本当に分かっておるのか?そなたらの子どもや親戚縁者にミン妃のような者がおれば、即王族の称号を剥奪するってことじゃぞ?殿下や儂の孫が、なぜ王立を蹴り、違う高校に進学したか考えたことはあるか?同類に思われたくないからじゃ。儂の孫なぞ、王族であることすら隠しておるわ」

王族たちは、最長老から現実を突きつけられ、真っ青になった。

「『教室中、化粧と香水の匂いで授業を受ける気がしない。学生の分際で、化粧をしての登校を許す親の神経を疑う。おじい様も王族は周りに迷惑を掛けても構わないと思ってるんじゃないでしょうね?』と、孫が中学生の頃に言われたわい。そなた達、自分たちの子ども達をしっかり見てみることじゃな」

最長老も しっかり太い釘を刺して、会議室を後にした。
残された王族たちが、慌てて自宅に帰っていったのは言うまでもない。












心の扉 11

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週末、チェギョンは、家族と共に宮に呼ばれた。
正殿居間に通され、緊張しながら待っていると、皇太后を筆頭に陛下と殿下が入ってきた。

「態々、時間を取らせてしまい申し訳ない。頭を上げてくれ。チェウォン、久しぶりだな」
「ご無沙汰しております、陛下」
「チェウォン、頼むから普通に話してくれ。私とお前の仲じゃないか」
「それは、もう昔の話。親父たちが疎遠になった時に僕らの縁も切れた筈です」
「・・・すまない。だが、その元凶をやっと排除することになった。チェウォン、待たせたな」
「えっ!?じゃ・・・」

陛下と父親の会話の意味が分からないチェウォンの家族は、ただ不思議そうに二人の顔を見ている。

「チェウォン、及びご家族の皆さん、この度の地上げの件、深く謝罪する。すべてミンの仕業だった」
「「「!!!」」」

チェギョンが驚いてシンを見ると、シンもシン家に向かって、深々と頭を下げていた。

「シン君、どういう事?なぜ皇后さまが、うちをそんな目に遭わせたの?」
「チェギョンさん、私から説明しよう。王族に無理やり押し付けられ、私はミンと婚姻することになった。婚姻する限りは上手くやろうと努力しようとしたが、受け入れることはどうしても無理だった。これは、私だけでなく亡き父上や皇太后さまも同じ気持ちだった」

陛下の告白を聞いて驚いたチェギョン達は、皇太后を見た。
すると皇太后は、悲しそうに微笑み、頷いた。

「チェウォンはチェヨンアジョシから聞いてると思うが、チェギョンがシンの許嫁に決まった後、それを知ったミンはチェギョンを亡き者にしようと計画していた」
「「えっ!?」」
「当然、未然に分かり阻止できたが、チェギョンの安全を考えて、シン家は宮と距離を取ることになった。先帝がミンを廃妃にする手続きをする直前、兄上が交通事故で亡くなってしまった。必然的に私が皇太子の座に就くことになり、これ以上のスキャンダルは宮の崩壊につながるとして、シンが婚姻するまではこのままでという事になった」
「シン、チェギョンに会えなくなって沈んでいくそなたを見るのは辛かったが、すべてチェギョンを守るためでした。どうか理解しておくれ」
「勿論です、皇太后さま。チェギョンを守ってくださり、ありがとうございました」
「ヒョン、なぜまたミン妃は、急にうちを攻撃してきたんだ?」
「太子が成人を迎え、婚姻問題が浮上してきたからだと思う。許嫁のチェギョンの存在が、気になったのだろう」
「・・・たったそれだけの事でか!?口で言えば、良いだけだろうが。。。どれだけ子供たちが怖い想いをしたと思ってるんだ?!」
「チェウォン、本当にすまない。今回の事でもう我慢は止めにした。あれを廃妃し、離婚する」
「「「!!!」」」
「・・・ヒョン、決定か?」
「チェウォン、待たせたな。これで、また酒が酌み交わせるぞ♪」
「そんな簡単な問題か?ミン妃の抜けた穴は、どうするんだ?おば様だけでは大変なんじゃないのか?」

チェウォンが、皇太后を『おば様』と呼んだので、チェギョン達家族はビックリしてしまった。

「チェウォン、そこでです。チェギョンを宮に嫁がせてもらえませんか?」
「「えっ!?」」
「・・・・・」

チェウォンは予想していたのか無言だったが、チェギョンと弟のチェジュンは驚きの声をあげてしまった。

「チェギョン、シンは貴女との婚姻を承諾しているわ。嫁いでくれるなら、全力で貴女を守ると約束するわ。どうか先帝とあなたのおじい様チェヨン氏が繋いだ縁を結ばせてくれないかしら?」
「皇太后さま・・・」
「おば様、それは許嫁のチェギョンが必要ということですか?それなら、僕が断ります。娘には幸せな結婚をして欲しいですから・・・」
「チェウォン!!」
「義父上さま、チェギョンが僕の許嫁になったのは、一生懸命勉強も運動もするから、チェギョンをお嫁さんにして欲しいと僕がおじい様にお願いしたからです。再会して、昔の想いが蘇り、益々強くなってきています。どうかお許し願えないでしょうか?絶対に悲しませることはしません」
「・・・チェギョン、お前はどうだ?殿下と婚姻したいか?」
「えっ・・・したいかって聞かれても・・・シン君の事は嫌いじゃないよ。一緒にいると楽しいし、数学教えてくれるから感謝もしてる・・・でもそんな気持ちで結婚したら、シン君に失礼でしょ」
「はぁ、お前は数学がからっきしダメだからな」
「チェギョン、今はその気持ちで十分だ。婚姻してから、俺を好きになってくれればいい」
「スゲェ、殿下、本当にこんなヌナでいいの?俺は、ヌナとガンヒョンヌナは絶対に無理だな。おっかないぞ」
「げっ!チェジュン、あんた、何言いだすのよ!?」
「クスクス、チェジュンだっけ?チェギョンは、昔から何も変わってない。正義感が強くって、優しいんだ。俺の中では、ずっとヒーローのようなお姫さまだった」
「シン君・・・何か、褒められてる気がしない」
「チェウォン、太子が心から望んでる。チェギョンに断られたら、私のような婚姻をするしかない。これ以上、息子に辛い想いはさせたくない。許してくれないか?」
「・・・アッパ、もう半分諦めてるんでしょ?昔、お義父さまとアッパが、皇族と友達になるもんじゃない。こっちが否と言わせないよう強引に話を進めてくる。でも許してしまうんだよな・・・と、よく話してたの覚えてるわ。半信半疑だったけど、こういう事なのね。クスクス・・・」
「お義母さん、認めてくださってありがとうございます。絶対にチェギョンを幸せにします」
「こら、俺は許してないぞ!・・・はぁ、チェギョン、これ、お前にやるよ」

チェウォンは、鞄の中から旧型のビデオテープを取りだした。

「アッパ?」
「これを見て、お前が判断しろ。正直、断ってくれて、家族で海外移住してもいいと思ってる」
「チェウォン!!」
「ヒョン、悪いな。だが、娘の幸せが一番だ」
「アッパ、何か分からないけど、これを見ればいいのね?」
「そうだ・・・アッパ達は、お前の判断を尊重する」
「コン内官、これを再生できるデッキを用意してくれ」
「殿下、すでに用意してございます」
「えっ!?」
「・・・アジョシ、謀ったな。どうせ先帝の親父のことだ。ダビングして、アジョシに保管をさせてたんだろ?」
「クスッ、流石、チェウォン君。先帝の性格をよくご存じだ。チェウォン君が悪足掻きするようなら、切り札として使えと命令されてね」
「はぁ、だから宮は嫌なんだ。くっそ~!」

チェウォンがブツブツ文句を言っている中、ビデオが再生された。
見終った瞬間、シンと陛下は抱き合って喜び、亡き先帝に感謝したのだった。
反対にチェウォン以外は呆気にとられながら2人を見たが、チェウォンだけは苦々しく睨みつけたのだった。

(こ、これって、もう決定って雰囲気?分別もつかない子どもが、軽い気持ちで言っただけじゃないの?)


心の扉 12

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狂喜乱舞する皇族とその姿を見て放心するシン家一同。
そんな中で、テレビ画面からはエンドレスで同じ映像が流れている。


『チェギョンや、爺の膝の上においで』
「うん♪・・・おじいちゃま、どうしたの?」
『チェギョン、シンは好きか?』
「うん、だいすき。チェギョンがよしよしするとわらってくれるから、まもってあげるねってやくそくしたんだ~」
『そうか。じゃあ、大きくなったらシンのお嫁さんになるか?』
「え~、アッパがね・・・アッパはおとこだから、オンマやチェギョンをまもるんだっていってるよ。
おおきくなったら、しんくんがチェギョンをまもってくれるの?」
『そうだ。今から勉強も運動もいっぱいして強い王子さまになるそうだ』
「じゃあ、しんくんのおよめさんになってもいいよ」
『本当か?この爺と約束したら、絶対に守らないといけないんだぞ』
「チェギョン、うそつきじゃないもん!やくそくはぜったいにまもるよ」
『よ~し、じゃあ指切りじゃ♪』
「うん♪」



「アジョシ、いい加減にしてくれ。こんなふざけたダビングをしたのは、一体誰なんだ?」
「はい。ダビングの指示を出されたのは先帝でございますが、加工したのは最長老さまのご子息でございます」
「アイツか・・・はぁ・・・」
「アッパ、ガンヒョンのアッパも知ってるの?」
「ああ、腐れ縁だ。何であの親父から、あんな軽い奴ができたのか未だに謎だ」
「クスクス、ガンヒョンのアッパが軽いって・・・何か想像つかない」
「知らなくていい。いいか、アイツには絶対に近づくなよ」

チェギョンが訳分からず頷くと、チェウォンは苛立ちの原因であるテレビの電源を切った。

「クスクス、陛下、殿下、そろそろ今後の日程について話し合いたいのですが・・・」
「おっ、そうだな。チェウォン、これから婚約発表をしてもいいか?」
「ふざけるな!発表したら、すぐに婚姻だろうが。少しは家族でゆっくりさせろ!」
「二人を婚姻させたら、毎日宮に遊びに来ればいいじゃないか?」
「できるか!民間人がツレの家のように宮に通える訳がないだろうが!」
「まぁ、私も公務があるし、不在の時もあるしな。だがな、母上も寂しい想いをしていたんだ。母上の為にも来いよ」
「なら、ヘミョンちゃんとファヨンさんとユル坊を帰国させたら良いだろう?そうしたら、おば様の負担が軽くなる。一気に賑やかになるぞ」
「そうだな・・・それも考えよう♪で、発表はいつがいい、太子?」
「えっ・・・僕としては今すぐでもOKです」
「シン君!!あのすいませんが、まだ頭が混乱しています。それに宮に嫁ぐには、それなりの教育が必要なんじゃないんですか?」
「チェギョン、最長老からその辺りは問題ないと報告がきておる」
「えっ?!意味が分からないのですが・・・アッパ?」
「最長老の親父まで噛んでたのか・・・おば様、ひょっとしてガンヒョンもグルですか?」
「ほほほ・・・人聞きの悪い。確かに昔、チェギョンとお友達になって、一緒に勉強してねとは言いましたが、グルだなんて。ねぇ?」

絶対にグルだ・・・ここにいる全員が、そう確信した。

「クスクス、グルなんですね。家庭教師の先生が怖いから、一緒に勉強してって・・・でも教えてもらうのは、全然学校では役に立たないものばっかりで、月謝を払ってるわけじゃないのにガンヒョンより私の方が熱心に指導されてました・・・私、先生に図々しい奴って嫌われているとずっと思ってました」
「おば様、親に内緒で、一体誰がチェギョンに訓育をしていたんです?」
「ふふ、長老たちです。自分の得意分野を担当してね。長老たちは、明るくて頑張り屋だと褒めてますよ」
「あああ、最初からその気満々だったんじゃないですか?チェギョン、良いか?これが宮の実態だ。皇族は、心許した者には、我が儘三昧、強引に周りを巻き込んでいくんだ。親父なんて先帝に、『あの土地をやるから孤児院を作れ』だぞ!?お蔭で、親父は孤児院のローンに追われ、俺が家を買うまでずっと借家暮らしだった」
「クスクス、アッパ、もう捕まったから諦めろって言ってるみたい。シン君、本当に私でいいの?」
「勿論!俺、チェギョンを思い出した時、飛び上がるほど嬉しかった。ただ懐かしいだけなのかとも思ったけど、やっぱり昔みたいにずっと一緒にいたいと思った。これからチェギョンを守れるようにもっと男らしくなる。だから、俺んとこに嫁いでこい」
「分かった。皇太后さま、陛下、よろしくお願いします」
「チェギョン、承諾してくれて礼を言う。私達と仲良く暮らそう♪太子、後は大人で話を詰めるから、チェギョンとチェジュンを連れて、東宮殿に戻りなさい」
「はい。チェギョン、チェジュン、行こう」

シンはチェギョンと手を繋ぎ、チェジュンに話しかけながら、東宮殿に案内した。
正殿とは違う洋館の東宮殿に入ると、チェジュンはやっと落ち着いたようだった。
お茶が用意され、一口飲むと、チェジュンはクスクス笑いだした。

「ヒョン、陛下ってテレビで見るのと大違い。かなりかっとんだ性格の人なんだね」
「いや、俺も初めて知って驚いた。2人の時はたまにニヤリと笑ったりするぐらいで、寡黙な人だと思ってた。俺だって、お義父さんにはビックリした。陛下にタメ口だし、面と向かって皇族の悪口を言うなんて、絶対にお義父さんだけだと思う」
「・・・ヒョン、間違いなくガンヒョンヌナも言うと思うぜ」
「確かに・・・陛下と皇太后さまの前で、最低と言われた」

チェジュンは、それを聞いてケラケラと笑い出した。

「ガンヒョンヌナ、最高だな。うちのデジが許嫁を辞退したら、間違いなくガンヒョンヌナが皇太子妃だったろうな。それはそれで笑える。クククッ・・・」
「チェジュン、勘弁してくれ!俺は、ガンヒョンを包み込めるほど器は大きくない。絶対に毎日凹んで、不眠に陥る自信がある」
「シン君、酷い・・・チェジュン、アンタもいい加減にしなさいよ。それよりあんた、シン君の事、『ヒョン』って・・・」
「別にいいじゃん。デジの旦那なら、俺のヒョンだろ?アッパなんか、陛下の事呼び捨てだったぜ?」

シンは、シン家の人たちが皇族を全く意識していないことに驚きより喜びの方が大きかった。

「チェギョン、俺に弟ができるんだな。俺も姉上がいるから、チェジュンとは気が合うかも・・・ヌナって、弟を子分だと思ってるとこがあるよな」
「ヒョン~、分かる~。やっぱ持つべきは、ヒョンだぜ♪」
「ふん、ヌナで悪かったわね。チェジュン、覚えてらっしゃい」
「クスクス、何かいいなぁ・・・俺、こんな会話したことなかったから、めちゃくちゃ新鮮。ホントお祖父さまには感謝だな」
「・・・シン君、皆さん、すごく喜んでくださってるのは嬉しいんだけど、皇后さまの事は本当にいいの?シン君、大丈夫?」
「チェギョン・・・」
「ヒョン、ちょっと待った!その話は、俺が帰ってからにしてくれ。ヒョンが本心を明かせるのは、ヌナの前だけだろうしな。またそうでないと困るし・・・」
「チェジュン・・・」
「じゃヒョン、また話そうぜ。ヌナ、施設に寄ってから帰るってアッパに言っといて」
「あ、うん。チェジュン、お願いね」

チェジュンは、チェギョンの言葉に頷くとそのまま部屋を出て行った。

「チェジュン、良いヤツだな。。。さっきの話だけど、あの人を母親と思ったことはない。小さい頃な、お祖父さまや皇太后さまが言う事とあの人が姉上に話すことが正反対で、俺は混乱した。だからお祖父さまに聞いたんだ。そうしたら、絶対にあの人の話に耳を傾けるな。これは皇帝命令だと言われた。それから間もなく、俺はお祖父さまの住む正殿に引き取られ、姉上は規律の厳しい全寮制のミッションスクールに留学していった。多分、洗脳しているあの人から引き離す為だったと思う。あの当時・・・ユル、覚えてるよな?」
「うん」
「あのユルより我が儘なお姫さまだった」
「げっ・・・」
「ユルは悪ガキだったけど、伯母様は俺とユルを分け隔てなく可愛がってくれる優しい人だった。伯父上が亡くなるまで、陛下も時間ができたらよく遊んでくれた。あの人を除く皇族で食事をしたり、団欒してたな。今から思えば、その時にはすでに夫婦関係は崩壊してたんだと思う」
「シン君・・・」
「伯父上が亡くなって、あの人が妃宮として入宮してから、ここ宮は変わっていった。俺は、チェギョンが来てくれるのだけが楽しみだった。でもチェギョンが来なくなって、裏切られた気分だった。で、殻に閉じこもってしまった」
「・・・ゴメンね」
「違う。チェギョンの所為じゃない。チェギョンが来なくなったのは、あの人の所為だと聞かされた」
「えっ!?」
「だから、あの人が廃妃になることに俺は賛成だし、今まで我慢してきた陛下には残りの人生を謳歌してほしいと思ってる。その為にも俺は早く独立したい。チェギョン、婚姻を急かすことになるけど了承してほしい」
「・・・分かった。すべてシン君に任せる」
「ありがとう。言った事なかったけど、5歳の時からチェギョンが好きだった。大事にする。ずっと一緒にいよう」
「うん♪」

シンは、本当に嬉しいんだと分かるぐらい満面の笑みを見せた。

選択 第46話

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オジジは約3週間ほど滞在して、各地を回ってから里に帰ると言い残し、嵐のように宮から去っていった。
それでもオジジが残した影響は多大で、宮職員たちの心構えは明らかに変わった。
それは陛下やシンも同じで、特に陛下は色々と考えさせられたようだった。
オジジが帰ってしばらくすると、東宮殿に一人の女性がチェギョンを訪ねてきた。

「チェギョンさま、お呼びと聞き伺いました」
「うん。シン君、ハギュンアジョシの右腕、ヨンエさん」
「はじめまして、ヘミョンの弟です。姉がお世話になっています」
「いえ、こちらこそ宜しくお願いします」
「ヨンエさん、ヘミョン公主さまとユン尚宮さまは、どう?」
「はい。公主さまは、歩みはゆっくりかもしれませんが、確実にご成長されておられます。ユン尚宮は、やっと女官と尚宮の違いや己の過ちが分かったようです。もう大丈夫かと思われます」
「そう、良かった。今日、貴女を呼んだのは、貴女の今後の事について話したかったからです」
「えっ!?」
「私たちは、もうすぐここを去ります。ヨンエさん、貴女はどうしたい?宮に残りたいなら、私がヘジャお婆ちゃんに掛け合います」
「「!!!」」
「私が知る限り、貴女はずっと後悔してた。でもその後悔が、何なのかは分からなかった。だから便乗して、ヨンエさんが宮に来る機会を作ったの。久しぶりに宮で過ごして、どうだった?うちより宮の方が水が合ってる気がしたなら、遠慮はいらない。宮に戻った方が良い」
「チェギョンさま・・・」
「はっきり言って、私は祖父ほど寛大な心は持ち合わせていない。過去の経験上、迷いのある人は傍に置いておく訳にはいかない。でも後悔・未練がすべて断ち切れたなら、シン家当主として貴女を受け入れる覚悟をします。話は以上です。シン君、皇后さまの所に行ってくる」
「あ、ああ、行っといで」

(また難題を・・・俺にこの人の話し相手になれってか?)

「・・・少し俺と話をしましょうか?」
「えっ!?」
「多分、チェギョンは俺にフォローさせようと、ここに呼び出したんだと思いますよ。俺としたら、人手不足だから宮に残ってくれることは大歓迎なんですけどね。実際、宮に復帰してどうでした?」
「・・・懐かしかったです。昔、このゆったりとした時間が流れている宮が大好きでした」
「宮を好きだったと言ってくれて嬉しいです。俺はチェギョンほど大人じゃないので、難しい事は分かりません。でももっとシンプルに考えたらどうですか?。宮とシン宗家、どちらの仕事の方が好きか。もしくは、遣り甲斐があるか。いくら悩んでも行きつく先はそこだと思いますよ」
「確かに後悔はありましたが、私の気持ちはもう決まっています」
「やはりチェギョンの所の方が働き甲斐がありますか?」
「それもありますが・・・昔、孝烈殿下が天と信じ仕えましたが、孝烈殿下以上の天を見つけてしまったようです」
「それが、チェギョン?」
「はい。ス殿下は、ファヨンさまに振り回されてお可哀想だとずっと思っていました。ですが、よく考えたらご自分の選択であの方を妃にした自業自得だと気づいたのです」
「クスッ、辛辣ですね」
「ふふ・・・チェギョンさまを知れば、誰もがそう思います。あの方は、ご自分の事には何の選択権も持たない方です。それでも一言も文句を言わず、人の為に動いておられる。私は、あの方こそ誰よりも幸せになるべきだと思っています。そんな天が幸せな姿をお傍で見届けたい。だから、SCに戻ります」
「チェギョンは、皆から愛されてるんですね。僕もチェギョンの様に国民に受け入れられるでしょうか?」
「・・・ご健闘をお祈りします。では、私はこれで失礼いたします」

イ女史が出ていくと、入れ替わるようにハギュンが入ってきた。

「アジョシ、いらっしゃってたのですか?いつから、ここに?」
「イ女史が、ここに来た直後。チェギョンが何を言うのか知りたかったから隠れた。お蔭で、イ女史の決意も聞けた」
「アジョシ、良かったですね」
「俺はな。チェギョンはそうは思ってないみたいだがな」
「えっ!?受け入れる覚悟をするって・・・」
「チェギョンは、自分の傍にあまり人を置きたがらないし、誰かが誘わない限り、外に出ようとはしない。何故だか分かるか?」
「・・・過去が原因ですか?」
「そうだ。ス殿下、最愛の祖父、イルシムのSP達。チェギョンを守る為とはいえ、目の前で命が消え、大怪我をしたらトラウマになっても仕方がないさ」
「えっ!?お祖父さんもなのですか?」
「ああ。身内の犯行だったため表沙汰にせず、心筋梗塞で急死としたんだ。勿論、犯人はシン宗家のやり方で処罰した。それ以来だ、チェギョンが人を寄せ付けなくなったのは・・・また誰かがと思うんだろうな」
「・・・・・」
「今回の事は、俺がイ女史にチェギョンの専属にしたいと言ったからだ。イ女史を試したのか、逃がそうとしたのかは分からんがな」
「逃がそうとするって・・・」
「うちは、宮以上に厳しい戒律を守ってる家系だ。チェギョンの実父が悪い前例を作った所為で、チェギョンには戒律を緩める術がない。可哀想だがな・・・」
「何とかならないんですか?」
「無理だな。。。だからシン宗家に深く関わる人を増やさないようにしたいようだ」
「小さな綻びを放置すれば、いつかは崩壊する。これが、今の宮だ。だから、好きなように改革ができる。だが、鉄壁に守られているのに変えた所為で歪ができたら、元に戻すしかない。変えたのはチェギョンの実父で、歪がチェギョン。何とかしてやりたいが、俺でも一族を説得できる材料がない。俺にできるのは、少しでも息が吐ける場を見つけてやるだけだ」
「・・・・・」
「・・・皇后さまと殿下だけだ。自分から誘って外に出たのは・・・」
「えっ!?」
「残り少ない日々だが、チェギョンをよろしく頼む。イ女史と今後の打ち合わせをしてくる」

ハギュンが東宮殿から出ていくと、シンは考え込んでしまった。

(チェギョンの闇は、これだったのか。。。今まで何度か話に出てきたチェギョンの両親。碌な話を聞かない。弟は、この複雑な関係をどう思ってるんだ?ご両親もだ・・・会う機会を作ってもらおうかな)



選択 第47話

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陛下の地方への慰問は、オジジの説教が効いたのか、国民からは高評価を得、信頼を回復しつつあった。
ヘミョンも自分なりに皇后さまの代役を一生懸命こなし、皇族の存在意義を感じていた。
何もかも順調に新生宮は始動しだしたが、一つだけ問題があった。
初夏になり、大きなおなかを抱えた皇后が、夏バテと病気で徐々に体力が落ちだしたのだ。
皇后の主治医とソオンが協議した結果、蒸し暑いソウルを離れ、避暑地で気分転換させることに決まった。

「問題は、静養する場所か・・・」
「はい、陛下。現在、全国にある離宮を調査・修復しており、使用できるのは温洋と夏の離宮の2か所です。それよりも同行する女官をどこから割くか・・・今も人手不足でギリギリの状態ですので頭を悩ませています」

ソオンから皇后の転地療養を勧められ、陛下とキム内官とコン内官が悩んでいるとソオンが口を開いた。

「もしよろしければ、この場に姫さまをお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「チェギョンか?それは、構わんが・・・」
「ありがとうございます。姫さまなら、簡単に問題を解決できると思います」
「キム内官、呼び出してくれ」

キム内官から連絡を受けたチェギョンは、シンと共に陛下の執務室にやってきた。

「お呼びと伺い、参りました。何かありましたか?」
「実は、皇后の事なのだ。最近、この暑さで体力が落ちておる。それで体調が戻るまで転地療養することが決まった」
「・・・で、私が呼ばれた理由は、何ですか?」
「チェギョン姫さま、私が呼んでくれるように頼んだの。里に皇后さまをお連れしてもいいかしら?」
「「「!!!」」」
「お、オンニ、それマジで言ってる?」
「この場で冗談は言いません。宮が提案してる避暑地は今の皇后さまには適さないのと、同行する女官が足りないそうなの」
「だから私が里に一緒に戻れば、問題はないという事なのね?」
「そういうこと。私が見る限り、宮の女官より里のアジュマ達の方が優れてる。姫には窮屈だろうけど、今の皇后さまにはあの位のケアがほしい。姫が戻れば、アジュマ達は喜んでお世話をすると思うわ」
「反対に皇后さまは、肩が凝るんじゃない?」
「その匙加減は、姫がすればいい」
「はぁ・・・分かった。オンニも同行するのよね?」
「勿論。あと主治医も連れていきたい」
「チェギョン、俺も行く!」
「げっ・・・私は良いけど、宮的にどうなの?」
「陛下、いいですよね?オジジの訓話も聞けるし、色々と学んできます」
「そう言われると、ダメだとは言えんな。行ってこい」
「ありがとうございます」
「オンニ、皇后さまに必要な医療器具は遠慮なく購入してくれて構わない。急に必要になる薬品類はソギョン爺ちゃんに手配してもらう。連絡を密にして」
「分かったわ」
「キムオッパ、イ女史を連れていきます。彼女が抜けた穴のフォロー、よろしく」
「は、はい。かしこまりました」
「シン君、ジテおじ様も誘ったら?前も帰りたくなさそうにされてたし・・・」
「そうだよな。連絡してみるよ」
「では、私は手配がありますので、これで失礼します」

チェギョンは、ぺこりと頭を下げると執務室を出て行った。

「ソオン君、了承してくれたのは有難いが、誰かに聞かなくても良かったのか?」
「クスッ、これが宮との違いの一つです。立憲君主国の現在、陛下の権限は限られてますが、扶余の里に限っては当主の言葉は絶対なんです。誰も異議は挿めません」
「・・・それで誰も不満を口にする者はいないのか?」
「おりません。姫さまがどれだけ精進して、皆の為に心を砕いているか知っていますから、不満など言えば罰が当たります。では、私も色々と手配がありますので、これで失礼いたします」

ソオンが立ち去ると、陛下は思う事があったのか腕組みをして考え込んでしまった。
そんな陛下をシンとコン内官は心配そうに見つめた。







数日後、東宮玄関前に大型のリムジンバスがやってきた。
チェギョンは、シンと一緒に臥せっている皇后の所に向かった。

「皇后さま、おはようございます。体調はいかがですか?」
「チェギョン、おはよう。夏バテしちゃって、何だか力が出ないのよ」
「じゃあ、無理かなぁ・・・避暑を兼ねた古(いにしえ)のお姫さま体験ツアーに出かけませんか?」
「古のお姫さま体験ツアー?チェギョン、どういう事なの?」
「ふふ、蒸し暑いソウルを離れて、山の中で森林浴&温泉ツアーです。勿論、お医者様も同行するから、安心してください」
「皇后さま、僕や伯父上も同行します。一緒に気分転換しに行きませんか?」
「兄上もですか?」
「クスッ、はい。一つ返事で、行くって仰いましたよ。どう考えても皇后さまの為じゃなさそうですけどね。行き先は、シン宗家の本邸、扶余の里です」

それを聞いた皇后は、目を輝かせた。

「チェギョン、本当に連れていってくれるのですか?」
「はい♪ソオンオンニが、皇后さまのお体には、扶余の里のような環境が一番だって。あそこなら安心だし、何かあっても30分ちょいでソウルに戻れますしね。ヘリですけど・・・へへ」
「行きます!寝てる場合じゃないですね。いつ、行きますか?」
「勿論、今からです♪皇后さま、さぁ行きましょう」

驚く皇后をチェギョンとシンに手を引き、リムジンバスまで案内した。
リムジンバスの前には、今回同行する主治医やソオン、そしてイ女史やジテの姿があった。
皇后は一言ずつ声を掛けると、シンに支えられバスに乗り込んだ。
バスに乗り込むや否や、シンと皇后は驚きの声をあげた。

「チェギョン、内装凄く豪華だな・・・ちょっと驚いた」
「一族のバスを借りたの。年に数回の往復だけど、高齢者にはかなり辛いらしいの。だから少しでも疲れないように設計してもらったの。皇后さま、疲れたら遠慮なく寝転んでくださいね」
「ありがとう、チェギョン。ねぇ、ハン尚宮や女官たちは同行しないの?」
「ハン尚宮には、陛下の事を頼みました。それに女官たちがいない方が、気楽ではありませんか?」
「シン君・・・古のお姫さま体験ツアーって言ったでしょ?シン君やおじ様は、古の皇子様ツアーになるから、今から覚悟してて」
「は?それ、想像つかないんだけど?」
「ん~、400年ぐらい前にタイムスリップした感じ?開き直れば、そのうち慣れるから。ウビンオッパ、そろそろ出発したいからSPは返してくれる?」
「でも・・・本当に大丈夫なのか?」
「うん。陸路は入り口が一つしかない秘境なんだ。その入り口も登録車以外は、通れないんだよね。やったことないけど、山の裏側から獣道を登ればひょっとしたら辿り着けるかもよ」
「・・・とりあえず入口までは護衛させる。そうでないと、俺が爺さんに怒鳴られる」
「分かった。じゃ、それで・・・アジョシ、出発して」
「はい、姫さま」

一度行った事のあるシンとジテ、そして皇后は、遠足気分でウキウキしていたが、ウビンやイ女史、主治医は初めて訪れる扶余の里に緊張していた。

「ホントに何もないただの田舎ですよ。村人もかなり個性的な家系な人が多いですが、皆気のいい人ばかりです。ただお邸は、ちょっと異空間ですけどね。クスクス・・・」

ウビンは、その異空間が緊張の元なんだと、心の中で毒づくのだった。



心の扉 13

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「話題が多い方が、ヒョンの離婚のダメージが小さくなるんじゃないか?それに殿下は、罰掃除中なんだろ?謹慎中に婚約発表は、流石にいただけないんじゃないか?」

チェギョンの父チェウォンの意見で、婚約発表はファヨン、ユル親子とヘミョンが帰国してから行う事に決まった。
その結果、それまではチェギョンは普通の生活を送れることになった。
早く婚約発表を行いたい宮は、すぐに3人に『1か月以内に帰国せよ』と帰国命令を出したのだった。



シン家にとっては怒涛の一日が終わり、家に帰宅すると、リビングには一人の見知らぬ女性が憔悴した面持ちでソファーに座っていた。

「あ、あのどちら様でしょうか?」
「・・・・・」
「アッパ、デジのお客様だ。俺が帰宅したら、玄関前で立ってらした。親父、デジは?」
「当分、帰ってこないんじゃないか?シン坊が、離さなさそうだった。責任もって、後で送ると言われたよ」
「クスクス、俺の前でもずっと手握ってたもんな。親父、帰ってくるように連絡してやれよ。何か深刻そうだぜ」
「・・・分かった。奥さん、戻ってくるよう連絡しますので、お名前を教えていただけますか?」
「ミン・イナです・・・ヒョリンオンマと言っていただけたら分かっていただけると思います」
「ヒョリンオンマですね?ちょっと待ってくださいよ」

チェウォンが連絡を入れると、チェギョンは『すぐに戻る』と言って電話を切ったようだ。
重苦しい雰囲気がリビングに漂う中、チェギョンがシンとコン内官を伴って戻ってきた。
ヒョリンの母親は、突然皇太子が現れたので驚いてしまったが、すぐに意識をチェギョンに向けた。

「アッパ、ただいま。ヒョリンオンマ、お待たせしてゴメンナサイ。まさかまだ連絡がないのですか?」
「・・・はい。もうどうしたら良いのか・・・お金も底をつき、誰にも相談するわけにもいかず、ご迷惑だと分かっているんですが、親切にしてくださった貴女にしか頼る人がいなくて・・・」
「ヒョリンオンマ、警察には届けましたか?」

ヒョリンの母親は、首を横に振った。

「捜索願を出せば、学校に知られてしまい退学になってしまいます。だから・・・」
「ちょっと待ってくれ。チェギョン、この奥さんの娘さんは行方不明なのか?お前と娘さんは、どういう関係なんだ?」
「う~ん、関係はない。アジュマが校門から心配そうに校内を覗いてらっしゃったから、声を掛けただけ。後は、成り行きで連絡先を教えて、見つかったら教えてって言った」
「・・・お金が底をついたとは?」
「うん、住み込みの仕事先を解雇されて、住むところがないんだって。今はウィークリーマンションで暮らしながら、お嬢さんを探す毎日みたい」
「・・・働くところも住むところもないし、娘さんは行方不明のまま。。。で、お前に相談に来たということだな?」
「うん、そうみたいだね」
「ところで、シン坊。何でアジョシまで連れて、家に上がり込んでるんだ?」
「お義父さん、すいません。コン内官が、何か知っているようなので連れてきました」
「まだお義父さんとは呼ばれたくないぞ。アジョシ、何か知ってるのか?知ってたら、教えてあげてよ」
「チェウォン君、すまないね。ミン・ヒョリンさんのお母さん、宮で侍従長をしておりますコンと申します。ミン貿易の社長にお話して、対処をお願いしたのは私です。まさか貴女がクビになるとは思わず、申し訳ありませんでした」
「いえ、娘の躾を怠った私の責任です。学校で、殿下の恋人だと吹聴し周りの生徒さんに暴言を吐いている映像を見せられました。また友人とパーティーに出席し、そこでもミン貿易の社長令嬢だと吹聴していたようです。その所為で、社長は愛人を囲っていると陰で噂が流れていたそうです」

ヒョリンの母親の告白に 全員が唖然としてしまった。
涙ぐみながら俯く母親に心を痛めるも コン内官は心を鬼にすることにした。

「奥さん、お嬢さんの持ち物で不審に思ったものはありませんでしたか?」
「はい。学校の先生にも言われたので、持ち出したあの子の持ち物を調べたのですが、高価な物やアクセサリーの類の物はありませんでした」
「・・・ヒョリンさんのお母さん、失礼ですが、ヒョリンはブランドものの時計や指輪、ネックレスをしてましたよ」
「えっ!?」
「それに僕やイン達と一緒に乗馬クラブにも通ってました。入会金もですが、月会費も滞ることなく払っていたようでしたよ」
「嘘…」
「奥さん、貴女や殿下の話から推察しますと、お嬢さんはどこかに部屋を借りていたと思われます。ですが、未成年が保護者や保証人なしで部屋は借りられません。もしかしたら、実の父親が裕福で、そちらに行かれたという事はないですか?」
「それは・・・絶対にあり得ません。娘は、実の父親が誰か知りません」
「では、どういう関係かは分かりませんが、パトロンがいるのではないでしょうか?」
「まさか・・・」

ヒョリンの母親は、コン内官の話に頭がついてこず、呆然としてしまった。

「アジョシ、話を現実に戻そう。奥さん、しっかりしてください。俺が思うに学校よりお嬢さんの身の安全確保の方が大事です。警察に届けましょう」
「・・・はい」
「アジョシ、さっきから奥歯に物が挟まった言い方してるけど、宮はこの女生徒の事何か掴んでるんだろ?はっきり言えよ」
「・・・彼女は、携帯を2台使い分けてたようだ。通信記録を辿ると、1台はお母さん用だと思われる」
「えっ!?」
「・・・アジョシ、もう一台は?」
「カン・イン君のナンバーもあったが、大半が年齢が30~40代の不特定多数の男性からだった」
「「「!!!」」」

その話を聞いたヒョリンの母親は、ショックから気を失ってしまった。

「ヒョリンオンマ!!アッパ、おば様が・・・」
「チェギョン、分かってる。スンレ、今日はここに泊まってもらおう。これからの事は、また明日考えよう」
「ええ、そうしましょう」
「アジョシ、シン坊、この人はうちが責任もって預かる。だから娘さんの捜索に必要な情報を提供してほしい」
「明日、宮が調べた情報をここに持ってこよう」
「よろしく頼みます」

宮に戻るシンとコン内官を見送るため、チェギョンは2人の後ろを付いていった。

「チェギョン・・・明日、学校でインにもう一度聞いてみよう。聞けば、何か思い出すかもしれない」
「うん。。。ねぇ、シン君は思い出すことはないの?」
「はぁ・・・前も言ったけど、インの女だとずっと思ってたし、会話と言われても相槌を適当に打ってただけで聞いてなかったし・・・」
「その割には、仲良さげに見えたけど?」
「ん、チェギョン、嫉妬か?」
「///バ、バカな事言ってんじゃないわよ!」
「クスクス、ゴメン、ゴメン。はぁ、プロポーズを受けてくれた最高の日だったのに 最後にとんだケチがついてしまったな。今度、この埋め合わせをしような」
「うん♪シン君、お疲れさま。宮に帰って、ゆっくり休んで」
「チェギョンも。また明日、学校で会おう」

シンを乗せた公用車が見えなくなるまで見送ったチェギョンは、家を振り返り大きく息を吐いた。

「はぁ・・・」

(ミン・ヒョリン・・・お母さんがこんなに心配してるのに 一体どこで何してるのよ?!)














選択 第48話

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ワイワイ騒いでいる内に 一行を乗せたリムジンバスは扶余の里に着いた。
初めて来た者たちは、皆一様にアングリと口を開けて固まってしまった。
門を潜り、里の女性たちが一斉に頭を下げて皆を出迎えると、チェギョン以外の全員が固まってしまった。

『姫さま、おかえりなさいませ。皆さま、いらっしゃいませ』
「皆さん、ただいま戻りました。急な帰京で、慌ただしかったと思います。とりあえずお客様を部屋に案内してください。おばあ様、お願い」
「かしこまりました。皆の者、手筈通り頼みます」
『は~い』

持参してきた荷物は女性たちの手に渡り、一人一人を各部屋に案内していく。
シンと皇后は、勿論チェギョンと同じ部屋で同室だった。

「皇后さま、お疲れになったでしょ?」
「全然。ここが扶余の里なのね。山の中だからか、ソウルより過ごしやすそう」
「それは良かった。もうすぐお茶が運ばれてきます。少しゆっくりしましょう」

しばらくすると、数人の女性たちが茶道具一式を持って現れた。
その中の一人の女性が、キレイな所作で茶を淹れていくと、もう一人が折角淹れた茶を違う茶器に移し飲み干していく。

「姫さま、お茶をお淹れします」
「チェギョン、今の所作は扶余独特のものなの?」
「いいえ、毒見です。宮では簡略され視膳ですが、ここではまだこの風習が残っています。ここはどこよりも安全だと自負してますが、これが決まりなので追々慣れていってください」
「え、ええ」
「さぁ、冷めないうちに飲んでください。美味しいですよ」

一口飲むと、熱いのに口の中がさっぱりし、実に美味しいお茶だった。
皇后は、こんな美味しい茶に出会ったのは初めてで、感動した。

「美味しい・・・」
「ふふ、でしょ?皇后さまの体調に合わせて、お茶をお出しするように言ってあります。家の者が皇后さまの体調を何度も聞くと思いますが、面倒がらずに答えてあげてください」
「分かったわ」
「チェギョン、伯父上やウビンヒョン達も同じもてなしを受けているのか?」
「うん、そうだよ。多分、ウビンオッパは緊張して正座してるかもね。クスクス・・・」

シンは、想像してしまい思わず笑ってしまった。

「姫さま、皆が姫さまのお言葉を頂戴したく待っております」
「・・・ご先祖様に拝礼を済ませ、着替えてから広間に行きます。1時間後に皆さんに集まってもらえるように言ってください」
「かしこまりました」
「その間に、ミン医女と同行したお医者様をお連れして、皇后さまの診察を。ところで、オジジはどうしてる?」
「お客様に美味しいものを食べていただくと仰って、山に入っていかれました」
「そう・・・ではオジジが帰宅を待って、昼食にします。オジジにそう伝えてくれる。そう言えば、何が何でも良い物を持って帰ってくるでしょう」
「クスクス、姫さまったら、ご隠居様にそんなプレッシャーをお掛けになって・・・では、後程お迎えに参ります」

女性達が退室していくと、チェギョンはウ~ンと伸びをした。

「皇后さま、今から扶余の姫かお妃になったつもりで楽しんでください。そうでないと、肩が凝りますから」
「確かに・・・」
「では、私は霊廟の方にちょっと行ってきます」
「チェギョン、俺も行く。皇后さまも一緒に行きましょう。あれは、一見の価値ありです」
「ええ、私も今から古の扶余姫だから、拝礼しないとね。チェギョン、連れてってちょうだい」
「クスクス、は~い。それからシン君、これから皇后さまは禁止!」
「えっ、何で?」
「ここは宮じゃなく扶余宮だから。。。おば様にもプライベートは必要でしょ?」
「・・・分かった。努力する。は、母上、伯父上たちを誘って、霊廟に行きましょう」
「クスクス、ええ、行きましょう」

チェギョン達は、部屋で放心しているジテやウビン達を誘い、霊廟へとやって来た。
やはり前回のジテやシン同様、皇后やウビン達は驚きで、立ち竦んでしまった。

「チェ、チェギョン・・・これは・・・」
「オッパ、煩い!今、拝礼中だから静かにして。説明は、後でおじ様から聞いてちょうだい」
「スマン・・・」

チェギョンが拝礼をしている間、ウビンは一番新しい位牌と遺影の前に立った。

(お祖父さん、ソン・スンホの孫のウビンです。覚えておいでですか?チェギョン、小さい体ですごい頑張ってますよ。見てて、こっちが辛くなるぐらいに・・・お祖父さん、俺、不安です。どうかチェギョンが、間違った道を選ばないようお守りください)

部屋に戻ると、廊下の前に年配の女性2人が待っていた。

「お待たせしました。着替えます」
『はい、姫さま』

部屋に入るとチェギョンは立ったままで、アジュマ二人がチェギョンの着替えをすべて整えていった。
着替え終えると、チェギョンの髪をキレイに編み込み、年代物のピニョをそっと挿した。

「チェギョン、変わった石が付いたピニョね」
「ふふ、これですか?夜明珠という扶余に伝わる石です。昔は、王の血を受け継いだ者が持つ石だったようですが、今はシン宗家の後継者だけが持つことができます。本当はペンダントなんですけど、お祖父ちゃんが特別ピニョも作ってくれました。昼間は普通の石ですが、夜になると名前の通り青白い光を放つんですよ」
「じゃ、夜にもう一度見せてくれる?」
『姫さま、医女さまをお連れしました』
「入ってもらってください。オンニ、皇后さまをよろしくね。おば様、ちょっと行ってきま~す」

チェギョンと入れ替わりに入室してきたソオンは、チェギョンの後ろ姿が見えなくなるまで、お辞儀していた。

「ふぅ・・・チェギョンは、根っからのお姫様なのね」
「クスクス、はい。でもまだまだ序の口だと思いますよ。ご気分はいかがですか?」
「ええ、冷房なしでも涼しいし、大丈夫よ」
「良かったです。お腹の赤ちゃんもリラックスしてるみたいですね。しばらくここでのんびりしましょう」
「ソオン医師、ありがとう」
「・・・皇后さまに無理を承知でお願いがございます。今回、エコーの機械を購入しました。姫さまに命の神秘さ・尊さをお教えしたいのです。是非、ご協力いただけないでしょうか?」
「えっ!?」
「・・・姫さまが命を絶たれるおつもりではないかと、シン宗家の一族の皆さんは危惧しておられます。事実、それらしい発言を匂わされることもあり、非常に心配しています。どうか皇后さま、お力をお貸しください」
「・・・分かりました。私にできることであれば、何でも協力しましょう」
「ありがとうございます。では、昼食の時間になりましたら迎えに参ります」

一人になった皇后は、チェギョンの明るい笑顔を思い浮かべていた。

(あのチェギョンが?シンは、何か知っているのかしら?)


選択 第49話

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昼食の時間になり、ソウルからやってきた一同が一室に集まった。
当然ながら、全員に毒見する女性が付き、全部確認してからの食事となった。

『皆さま、どうぞお召し上がりください。あとコチュジャンとニンニクを別に用意しましたが、これはどちらに?』
「回して使います。それから皆さん、落ち着かないようですから、下がってください」
『はい、姫さま』

女性達が下がると、緊張が解けたのか、部屋の空気が変わった。

「チェギョン、これがここの生活なのか?俺は、落ち着かないぞ」
「クスクス、SPのオッパ達、連れて来なくて正解だったでしょ?まだ序の口だから・・・お風呂も背中流す人が付くから」
「げっ、マジか・・・」
「言っとくけど、そこまでだからね。添い寝や夜伽の女性は居ません。オッパ、絶対に手を出さないでよ」
「バッ、バカにするな!めちゃくちゃ年上じゃねぇか!」
「だってオッパは守備範囲が広いって、イジョンオッパが言ってたもん」
「あんの野郎~!チェギョン、俺はアイツほど節操なしじゃねぇからな。信じるな!!」
「クスクス、は~い。オッパ、コチュジャンとニンニク、お好きにどうぞ♪ソ先生、ヨンエさんも良かったら使ってください。おそらく味が素朴すぎて物足らないと思いますので・・・」
「「ありがとうございます」」

食事をしていると、障子が開き、オジジが入ってきた。

「食事中、失礼いたします。姫や、おかえり。皇后さま、ようこそいらっしゃいました。どうぞ我が家だと思い、お寛ぎ下さい」
「お言葉に甘えて、寛がさせていただきます。ありがとうございます」
「姫、儂に頼みたい事とは何じゃ?」
「オジジ、ハギュンアジョシの下で働いているヨンエさん。これから本格的にうちに仕えてくれるって。うちの行事・しきたりをレクチャーお願い」
「あい、分かった。姫、お前さんにはしてもらうことが多々あるから、そのつもりでいておくれ」
「え~~!今回は、やだ!皇后さまの傍でのんびりする」
「クククッ、皇后さまに食してもらう食材の調達じゃ。それなら良かろう?」
「うん、やる♪」
「皆さん、この館から見渡せる場所は、すべてシン宗家の所有地です。ご自由に散策してください。ただし、山には一人で入らないようにしてくださいよ。ではヨンエさんとやら、食事が済んだら儂の部屋まで来なさい」
「はい、かしこまりました」
「姫よ、のんびりするのは構わん。じゃが、やることだけはやるようにな。では皆さん、お食事中失礼しました」

オジジが出ていくと、シンが不満そうにチェギョンを見た。

「チェギョン、オジジと話をする時間を取ってくれないか?」
「シン君、ここは宮じゃないから。アジュマにオジジの居場所を聞けば、オジジの所に連れてってくれるよ。夜中だろうが、早朝だろうが、オジジはOKだから」
「夜中だろうがって・・・本当に良いのか?」
「うん。オジジは、一族及びその関係者の相談役なの。要するにカウンセラー、悩み何でも相談所なの。宮にもそういう人がいると、職員の士気も上がるし、風通しも良くなるんだけどね」
「あっ、だからあの時、ヒスンをここに連れて来たんだ」
「そう・・・やっぱ年の功には勝てないしね。あっ、私からのお願いです。ジテおじ様、ウビンオッパ、シン君、ここは普段男手がない。今回の滞在中、2時過ぎに毎日輸送ヘリが来ることになってる。荷物の搬送を手伝ってください」
「了解。何が来るんだ?」
「へへ、私が食べたかった物がどっさり?」
「はぁ?!こんなことなら、アイツら連れてくるべきだった・・・」
「クスクス、チェギョンさん、一宿一飯の恩義だ。それぐらいさせてもらうよ」
「おじ様、ありがとうございます。では、そろそろ到着するので行きましょうか。おば様、オンニ達と散歩でもしててください」

チェギョン達が部屋を出ていくと、皇后もソオンの案内で主治医と一緒に森林浴に出かけることにした。
邸を出るまでに出会ったアジュマ達が、涙を浮かべながら皇后を見つめたり、頭を下げる。
不思議に思ったソオンが一人のアジュマに話を聞きに行ったが、何事もなかったように戻ってきた。
大きな木の下にベンチが置いてあり、そこに座ると村が一望できる。
ソオンは皇后にベンチを勧めると、村の事を色々説明しだした。

「クスクス、皇后さま。これから大変ですよ。古のお姫さま体験ツアーが、古の王妃体験ツアーになりそうです」
「えっ!?」
「姫さまが、昼食前に一同を集めた際、皆に頭を下げられたようです。皇族の方もそうでしょうが、ここもシン宗家直系一族が頭を下げることはありません」
「まさか、私の為ですか?」
「はい。『私は、親の愛情を知らずに育った。その分、先代が愛情を持って育ててくれたから、自分を不幸だと思ったことはない。でも自分はどこか欠けているという思いが、心の片隅から消えてはくれない。そんな私を皇后さまは、初対面から娘のように可愛がってくれ、母親の無償の愛というものを身を持って教えてくれた。その皇后さまが、今、大変苦しんでおられる。どうか皇后さまを私の母だと思って仕えてほしい』と仰ったそうです」
「チェギョンが、そんな事を・・・」
「ここの者は皆、姫さまの身に降りかかった不幸を知っています。その姫さまが、皇后さまを母同然の人だと仰った。その事が、皆どれ程嬉しかった事か・・・全員が、皇后さまに感謝してお仕えすると思います」
「お忍びで一緒にお買い物やプールに行ったぐらいで、そんな・・・」
「何気ない事でしょうが、姫さまにとって貴重な出来事だったようです。それにブラジャーを選んでくださったり、初潮を我が子のように喜び、祝ってくださった。普段、自分の事をお話されない姫さまが、私に『生まれてきて良かったと初めて思った』と嬉しそうに言っていました。今日の事は、全国に散らばる一族に伝わると思います。もう我が物顔で、もてなされてください」
「えっ、それはちょっと・・・」
「クスクス、皇后さま、ファイティン!」

皇后は、本当にチェギョンが可愛くて、シンやヘミョン同様我が子のように接していただけなのに、チェギョンがここまで喜んでくれているとは思いもしなかった。
そしてチェギョンの寂しさを改めて知り、胸が痛かった。
が、邸に戻ると、そんな感傷はどこかに消えてしまうほど、箸を下にも置かぬ丁重な扱いに困惑してしまうのだった。

(ホント、これは古の王妃体験ツアーだわ・・・)

毎日、チェギョンが全国から取り寄せる滋養のある食材を使った料理を食し、チェギョンやアジュマ達が古典楽器で奏でる音色に癒され、シンとも今まで取れなかった親子の時間を持ち、充実した日々を過ごす皇后。
そんな皇后の傍には、チェギョンやシン達がいて、邸中が華やいでみえた。
シンは、時間があれば、カメラ片手に里の至る所に出向き、里に人たちと交流を持った。


ある夜、チェギョンが、数人の里の男たちと邸から姿を消した。

「ふふ、心配なさいますな。朝方までには、戻ってきます。いやぁ、明日の夜は楽しみにしていてくださいよ」

オジジが心配するシン達にそう言うと、自室へと下がっていった。

(これもシン宗家の儀式の一つなのか?そうなら、一言言ってから行けよなぁ~、バカチェギョン!)






改訂版 開眼 第25話

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慌てて家の門を潜ったチェジュンは、目の前で繰り広げられてる光景に我が目を疑った。
大きな桜の木の下にアウトドア用のテーブルやチェアが置かれており、母スンレが皇后と談笑している。
そしてその横にあるバーベキュー用の東屋では、ユルが慣れない手つきで火を熾そうと四苦八苦していた。
チェジュンは、スーツの上着を脱ぐと、ユルのいる東屋へ向かった。

「ユルヒョン、どうなってんの?」
「チェジュン、おかえり。どうなってるって、見ての通りだよ。お前やアジョシが学校に向かってすぐ、皇后さまとシンが乗り込んできた。大量の食材を持ってね」
「はぁ?」
「クスクス、アジュマは、知ってたみたいだよ。飲み物が大量に用意されてたし・・・ほら、あそこ」

指さされた方を見ると、東屋で放置されていた大型冷蔵庫に電源が入って、動いていた。

「マジか・・・」
「クスクス、アジョシも帰ってきて、呆然としてたよ。その横で、陛下はお腹抱えて笑ってたけどね」
「で、親父たちは?」
「肉の味付けをしにキッチン。因みにシンとチェギョンは、畑で野菜の収穫」
「・・・はぁ、ユルヒョン、それじゃいつまで経っても火は熾せないぜ。貸してみろよ」

チェジュンは、手慣れた手つきで炭の上に丸めた新聞と着火剤を放り込むと、着火剤に火をつけた。

「炭に火が移るまで、団扇で扇いでて。俺、ちょっと着替えてくるわ」
「了解。早く戻って来てよ」

母屋に入り、着替えを済ませたチェジュンは、キッチンを覗いた。
キッチンでは、チェウォンがバーベキューの下ごしらえをしており、陛下は背後に置いてある椅子に腰かけていた。

「なぁチェウォン、お前ももう半分諦めてるんだろ?」
「ウルサイ!」
「言っておくが、あれ、私たちの独断じゃないからな。ちゃんとチェギョンも了承してくれてるんだ」
「・・・印鑑はどうした?」
「勿論、スンレさんに署名・捺印してもらった」
「お前ら、俺だけ蚊帳の外かよ!?ムカつく・・・」
「クスクス、お前、ここのところ忙しそうだったしな。いい加減、腹括ってくれよ」
「・・・おい、そこにあるビニールの手袋して、このタレを肉に揉み込んでくれ」
「おっ、久しぶりのシン家特製のタレだ。懐かしい・・・」

陛下は、慣れた手つきで、タレを肉に馴染ませだした。

(ククッ、おじ様は、昔、こんなこともやらされてたんだ。陛下がバーベキューの下ごしらえって、何か笑える・・・)

「チェウォン、確認したいんだが・・・父上が下賜した許嫁の証の指輪は、ちゃんと取ってあるんだろうな?どこにあるんだ?」
「どこでもいいだろ?」
「そういう訳にもいかないから言ってるんだ。スンレさんに探してもらったら、書状とメダルはあったが指輪がないそうだ。チェウォン、どこに隠した?」
「隠してねぇよ」
「嘘を吐け!チェウォン、どこだ?」
「・・・お前の下」
「は?私の下って・・・どういうことだ?」
「そのダイニングテーブルの足の下だ。ガタがきたから、高さを揃えるために咬ました」
「チェウォン!!」

陛下は、していた手袋を脱ぎ捨てると、慌ててダイニングテーブルの下に潜りこんだ。

(クククッ、腹いてぇ~~!!親父、半端ねぇな。陛下もよく親父と友達してるよな。ある意味、凄い人だ。否、奇特な人か!?)



チェジュンが母屋から出ると、シン、チェギョン、ユルの3人が視界に入った。
シンが採れたて野菜を洗い、チェギョンとユルがその野菜をカットしていた。
チェジュンは、シンの隣に座りこんで、一緒に野菜の泥を洗い流すことにした。

「おっ、チェジュン、遅かったな。おかえり」
「シンヒョン、ただいま。クスッ、かなり板についてきたな」
「当たり前だ。ここにいる間、毎日、アジョシの手伝いをしたのは俺だぞ!で、何でアジョシより帰りが遅かったんだ?」
「ヒョンの親父さんが、懇親会の後の集まりに乱入してきて暴走したからだ。ヒョン、頼むから俺に内緒は止めてくれ。親父はキレだすし、俺はどう対処していいのか分からずパニックになりそうだった」
「チェギョンの社会勉強の事か?実は、さっきまで俺も知らなかったんだ。ここに来る車中で皇后さまから聞いて、俺も驚いたぐらいだ」
「そうだったのか・・・親父、俺だけ蚊帳の外だったって、キッチンで拗ねてたぞ」
「クククッ、俺もだって、俺が慰めたら、今度は逆ギレされそうだから知らん振りしておく」
「賢明な判断だな。でも丁度、良かったと思うぜ。宮に避難できてさ。夏休みから、おバカな御曹司3人が家で合宿らしいからな」
「はぁ!?」
「ヒョンが春休みにやったヤツの強力バージョンだな。夏休みだけは、小学生からやらされてた。アイツら、絶対に音を上げるぜ。そうだ、シンヒョンもユルヒョンも参加するって聞いたぜ。今から、覚悟しとけよ」
「春よりきついのか!?」
「頑張りと天候次第で、日当が変わる。完全歩合制。早朝から約6時間だから、午後からは公務には行けるぜ」
「俺を殺す気か!?」
「クククッ、ボンクラ御曹司、心を入れ替えないと、間違いなく餓死するか熱中症で倒れる。ジュンピョヒョンは、確か5日目で倒れた。あの夏は、ジュンピョヒョンにとって今でもトラウマだと思うぜ。まぁ、慣れれば楽しいからさ」

シンは、過酷になりそうな社会体験に今から恐怖を感じてしまった。

「そう心配するな。俺が付いてるから、ユルヒョンとシンヒョンは死なせないって」
「・・・先に言っとく。サンキュ」

全ての下ごしらえをしたチェウォンと陛下が庭に出てきて、バーベキューパーティーが始まった。
チェウォンと陛下の掛け合いに最初は驚いていたシンとユルだが、すぐに慣れ、笑えるようになった。
こんなにリラックスしている皇后も初めて見て、昔から本当に家族ぐるみで仲が良かったんだなぁと改めて実感した。

「ユルは覚えてないだろうけど、時間が許す限り、兄上はユルを連れてバーベキューに参加してたんだぞ」
「えっ!?」
「そうそう・・・レジャーシートの上に3人並べて昼寝させてたのよ。懐かしいわ」
「今から思えば、何でファヨンさんを誘わなかったのかしら?」
「スンレさん、ファヨンはチェウォンを毛嫌いしてたから、どうせ誘っても来なかったよ」
「ヒョン、俺だけの所為にするな!!ユ、ユル、俺はお前の母親に意地悪したことないからな。それだけは信じてくれ」
「クスクス、分かってますよ。あの人の性格じゃ、庭先でバーベキューなんてバカにするのがオチです。誘うだけ無駄です」
「ユル~、お前はいい子だなぁ。どうだ、婿養子に来ないか?」
「「「チェウォン!(アジョシ!!)」」」
「冗談だって・・・でも見てみたくないか?ユルが俺の義息子になったと知ったファヨンの顔をさ。想像しただけでも笑える。クククッ・・・」

チェギョン以外の全員が、チェウォンの屈折した性格に呆れたが、自分も想像して思わず笑ってしまった。

「俺、会った事ないけど、何か想像できてしまうぞ。親父、チュンハに聞いたが、本当に東宮殿に殴り込みに行ったのか?」
「人聞きの悪い事を言うな!ちょっと確認をしに行っただけだ。その時、背中に視線を感じるなと思ったら、あの女が睨んでやがった。般若の顔のようだったぜ」
「クククッ、チェジュン、私まで巻き添えを食らって、その後しばらく東宮殿に出入り禁止になった」
「また俺だけの所為にするなって言ってるだろうが!お前も先帝の爺さんも寄り付かなかったじゃねぇか」
「父上は、お前の親父に怒鳴られたからだ」
「お蔭で、お前は最愛の嫁さんに出会っただろうが!お前に紹介しなかったら、俺が嫁にしてた」
「チェウォンさん、私にはシン家の嫁もだけど、チェウォンさんの奥さんは絶対に無理です。当時、チェウォン先輩のハチャメチャ振りは有名だったもの。スンレはよく結婚したと尊敬してるもの」
「えっ、私?何か気づけば、バージンロード歩いてたみたいな?」
「「「ぷっ・・あははは・・・・」」」
「あはは・・・この天然振りがチェギョンに遺伝したんだな。チェギョン、良かったな。お母さん似でさ」
「シン、ぶっ殺す!!」

家族で笑いあう事がなかったシンは、初めて両親とふざけ合え、楽しくて仕方がなかった。

(ホント、チェギョンに猛アタックして正解だった。。。許嫁にしてくださったお祖父さまに感謝だな)



楽しみながらも時計を気にしていたチェジュンは、2時前になると一人その場を離れ、自社ビルに向かった。

(さぁ、アイツらをどう脅そうか・・・次期会長の恐ろしさを教えてやる。クククッ・・・)

改訂版 開眼 第26話

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チェジュンが自社ビルに向かうと、地下駐車場前にファンとインが所在なさげに立っていた。

「時間前に抜けてきたんだけど、待ったか?」
「あっ・・・い、いえ・・・」
「ユルヒョンの部屋借りっから、付いてきて」

エレベーターに乗ると、初めて来たインにこのビルの説明をしだした。
一旦1階で降り、奥の部屋に消えたチェジュンは、携帯を2台受け取り、待たせていたエレベーターに乗り込んだ。
勝手知ったるユルの部屋に入ると、2人にソファーを勧め、水のペットボトルを前に置いた。

「リュ・ファン、カン・イン、親父さんからどこまで聞いてきた?」
「詳しくは何も・・・ただチェジュン君が新しい携帯を用意してくれるから、インを連れてここに行けとだけ・・・」
「・・・カン・インは?」
「突然、黒服の男に携帯を没収されて、自宅まで連行された。帰宅した親父から、ファンが迎えに来たら一緒に出掛けろって。あと夏休みは、ここで修業することになったと聞きました」
「えっ!?」
「リュ・ファン、何、驚いてるんだ?アンタも一緒だ。ついでにチャン・ギョンも預かる」
「「!!!」」
「カン・イン・・・さっきの部屋で、初めてアンタの親父に会った。正直に言っていいか?親父さん、商売に向いてねぇ。夏休みにアンタに見込みがないと踏んだら、俺はあんた等親子を即切る。なぜなら、アンタの代になる時は、俺がシンコンツェルンを継いでいるからだ」
「・・・・・」
「リュ・ファン、アンタにはこの前言ったから、くどくど言わない。ただ言われて動くなら誰でもできる。将来、会社TOPに立つなら、考えて動き、また人を動かさないといけない。夏休みは、考えて動くことに徹すること。アンタの場合、TOPの器じゃないと踏んだら、将来は俺の下で生涯平社員として働いてもらう。ただし、それも大学は韓国大以上のレベルに入学し、主席に近い成績を修めることが条件だ」
「・・・が、頑張ります」
「厳しいとか思うなよ。俺たちには、末端の社員とその家族、数万人の生活を守る義務がある。アンタらが無能だと、その社員たちが犠牲になるんだ。俺の所為じゃないのに、逆恨みされたくないからな」
「「・・・はい」」
「それから、これ、新しい携帯だ。しつこいようだけどカン・イン、絶対にミン・ヒョリンにナンバーを教えるな!教えたと分かった瞬間、ジ・エンドだから・・・」
「・・・理由を聞いていいか?」
「理由?反対になぜアンタがそこまであの女に肩入れするのか、俺はそれが知りたいね。どう考えてもあの程度の女なら、一晩限りの遊びの女だぜ?ヒョン達の遊び相手は、もっとプロポーション良かったけどな」
「///なっ・・・!」
「そんなカッカするなよ。事実だろうが・・・アンタの質問に答える前にシンコンツェルンの事業形態をアンタはどこまで知ってるんだ?」
「・・・ほとんど知らない」
「自分がどんな御曹司か分からずに偉そうにしてたんだ。アンタのツレが、うちのヌナ達に向かって『身の程知らず』って言ったらしいけど、その言葉そっくり返してもらうよ」
「・・・・・」
「我がシンコンツェルンは、祖父が忠実で信頼できる部下たちに任せた会社の集合体だ。俺たち本社側の人間は、利益が出るようにその経営を監視してるだけだ。だが親父に言わせれば、こっちは趣味の域。メインの事業は、福祉活動だ。親父は、仕事の大半をそっち側に費やしてる」
「「!!!」」
「あと祖父さん同士、親父同士が親友という関係で設けられた宮担当。宮が安泰であるように常に見守り、いざという時にはそっと手を差しのべる完全ボランティア。陛下の兄貴が死んだ後、陛下を支えるために親父が侍従として無給で補佐したぐらい俺んちと宮は関係が深い。親父は、あんた達の事を早くからマークしていたようだ」
「「えっ!?」」
「当たり前だろ?アンタらは、シンヒョンにいい影響を与えるどころか評判を下げる毒のような存在だったからな」
「「・・・・・」」
「詳しい事は言えないが、宮は色々な陰謀が渦巻き、ある意味崩壊寸前だった。俺たちは一つ一つ陰謀を潰し、やっと少し落ち着いてきたところだ。潰した陰謀の繋がりを辿っていくと、ミン・ヒョリンが関係する人物に行き当たった」
「「!!!」」
「だからカン・イン、俺も親父もアンタに散々警告したんだ。ミン・ヒョリンが家政婦の娘だろうが、もし良いお嬢さんなら、親父は後見人に立候補して皇太子妃に推薦しただろう。陛下は、親父に頭が上がらないからな。だが実際は、令嬢の振りをして人を見下し横暴な振る舞い三昧。推薦してみろ。親父の人格は疑われ、今まで築き上げてきたものをすべて失う」
「何もそこまで・・・」
「ここまで言ってもまだ庇うのか?カン・イン、アンタが3年次の授業料を出していないことは知っている。だがミン・ヒョリンはキャッシュで払った。母親には特待生で授業料は免除されていると嘘を吐いてた。ミン・ヒョリンは、バイトをしていない。なら、一体どこで金を工面したんだ?」
「それは・・・」
「・・・皇太子妃になる条件として、生娘でなくてはいけない。もしくは純潔を皇太子に散らされた者だな。ミン・ヒョリンは、この時点でアウトなんだ」
「「えっ!?」」
「調べるのに苦労したが、ミン・ヒョリンはセレブご用達のコールガールをしていた。だから推薦したら、親父の人格が疑われ、求心力は落ちる。そんな女をシンヒョンに宛がおうとして、陰でシンヒョンを笑おうとしてたのか、カン・イン?シンヒョンは、皇太子だぞ。下手をしたら、国際問題になりかねない立場だ。いい加減、己の愚かさに気づけよ」

チェジュンに辛らつに指摘されたインは、もう己の情けなさに俯くしかなかった。
ファンは、そんなインにかける言葉もなく、哀れな友を見つめ続けた。
言いたいことを言い切ったチェジュンは、ソファーから立ち上がると窓際に立ち、窓を開け放った。
すると窓の外から元気な声や笑い声が聞こえてきて、チェジュンはクスクスと笑いだした。

「アンタら、ちょっとここに来て見てみろよ。面白いものが見えるぜ」

ファンは薄々分かっていたが、インは何か分からず窓際に立ち、下を見た。

((!!!!!))

2人の視界にはいったものは、シンとユルの水鉄砲の集中攻撃に対抗して、チェギョンが水道のホースで応戦していて、3人ともびしょ濡れ状態で笑っている。
そして、その姿を陛下やチェウォンがビール片手に笑いながら見ていた。

「あの3人は幼馴染だ。特にユルヒョンが渡英してすぐ、シンヒョンはうちでしばらく生活している。俺は赤ん坊だったから覚えてないが、その頃から2人はめちゃくちゃ仲が良かったらしい。あれが、本来のシンヒョンの姿だ。俺はあの顔しか見たことはないけどな」
「・・・チェジュン、2人は結婚するの?」
「どうだろうな・・・親父が猛反対してるんだ。おじ様はシンヒョンに押し倒して既成事実を作れと唆してるみたいだけどな、ディープキスしたって俺に報告するヒョンができると思うか?絶対に童貞だぜ。賭けてもいいぞ」

チェジュンの話を聞く限り、シンと関係を持ったというヒョリンの話は出鱈目で、自分たちは騙されていた。
シンの表情を見れば、自分たちが完全に勘違いをしていたんだと改めて反省することができた。

「・・・親父が二人を認めない理由は、おそらく俺だ。俺には、堂々と表舞台に立たせたいんだろうよ。正直、俺はどっちでもいいんだけどな。やることは、一緒だしさ」

淡々と自分の立場を受け入れているチェジュンを見て、器の違いを感じたインとファンは、チェジュンに全面降伏するしかなかった。

「週明け、チャン・ギョンに言っておけ。最長5年預かって資質を見極めるとチャン社長に親父は言ったが、本心は5年の間にチャングループの解体の準備をするつもりだと思う。流石にチャングループを倒産させれば、経済は混乱するからな。この夏休みに改心できなければ、親父は間違いなく動く。生半可な覚悟で来るなら、今すぐチャングループの後継から外れた方が、チャングループの名前だけは残るぞってな」
「「・・・・・」」
「もう一度言う。カン・イン、これが最後の警告だ。陰謀を潰された黒幕が、悪足掻きでヒョリンを利用しようとしている。絶対に巻き込まれるな!」
「!!!ヒョリンに忠告してやらないのか?」
「あの女が、アンタや俺らの忠告を素直に聞くと思うか?大体、善悪の分別がついている女が、シンヒョンを皇太子の座から引きずり下ろす話を何度も聞きに行くか?犯罪だっつうの!」
「「!!!」」
「親父が夏休みにアンタらを預かるのは、アンタらを犯罪に巻き込まれないよう守るためだ。だから俺も連絡がつかないよう携帯を替える手配をした。宮絡みの犯罪は、生涯服役か海外追放と決まっている。いいか、俺と親父の配慮を裏切るような真似は絶対にするなよ」

自分一人では何の力もなく、何もできない無力さを痛感したインは、チェジュンの言葉に頷くしかなかった。

(一流プリマを目指して踊っているヒョリンは、誰よりも輝いていたのに・・・シンを失脚させる計画に乗ろうなんて、今は一体何を目指してるんだ?)







心の扉 14

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翌日、チェギョンは、両親にヒョリンの母親を任せて、学校へと向かった。
心配で仕方なかったが、傍にいても自分にできることは何もない。
なら、学生らしく学校に通う事が自分にできることだと言い聞かせ、学校に来たのだった。

「みっなさ~ん、おっはよ~♪」
『チェギョン、おはよう~♪』

いつも通り、元気に挨拶をしたチェギョンは、自分の席に向かった。

「チェギョン、おはよ」
「おはよう、ガンヒョン」
「聞いたわよ。とうとう押し切られちゃったみたいね」
「えっ!?あっ・・・そ、そうなのよ。完全に忘れてた。ヤバッ、それもあったのね」
「ちょっとチェギョン、それもあったってどういう事?ひょっとして無理やりでチェギョンの本心は拒否してるって事?」
「ち、違うから!ガンヒョン、落ち着いて」
「違うなら良いけど・・・後で、ちゃんと説明しなさいよ」
「うん。。。。あ~~、思い出した!ガンヒョンあんた、グルだったそうね。何年、私を嵌めてんのよ!?聞いた時、卒倒しそうだったわよ。通りでおかしいと思ったのよ。お爺ちゃんの家庭教師と訳分かんない勉強ばっかりなんだもん」
「ああ、その事。私からしたら、今まで気づかないあんたの方がビックリよ。アンタの所為で、私まで勉強させられたんだからね。王族の娘でも普通あそこまで勉強しないから・・・」
「げっ、マジですか・・・」
「マジです。もう完璧に仕上がってるって、おじい様が太鼓判押してたわよ」
「・・・ガンヒョン、褒めてもらってるのは分かるけど、全然嬉しくないのは私の性格が悪いせい?」
「チェギョ~ン、貴女は素直で良い子よ。その素直さが貴女の魅力なんだからね(汗)。そのまま変わらすにいたらいいのよ」
否!もう騙されるなんて絶対に嫌!これからはクレバーな女になってやる~~!!

チェギョンの絶叫にクラス中の生徒が振り向いたが、チェギョン=クレバーが想像つかない皆は大爆笑したのだった。

「な、何?ガンヒョン、皆どうしたの?」
「クスクス、チェギョンは天然が一番だって、皆が思ってるって事よ」
「うぅぅぅ・・・私の一大決心が・・・」


昨日の事が心配で、イン達を引き連れて美術科の教室に向かったシンは、チェギョンのクラスから突然大爆笑が聞こえ、イン達と顔を見合わせた。

「美術科って、いつもこんななのか?」
「騒がしいのはいつもだけど、今日は特別賑やかだよね。シン、幼馴染に会いに来たんでしょ?早く行こうよ」
「・・・ああ」

(この騒ぎの中、チェギョンを呼び出すのか?!絶対にチェギョン、絶叫して怒鳴るよな・・・)

シンが二の足を踏んでいると、お気楽ギョンがチェギョンのクラスの扉を開けた。
周りの生徒たちが睨みつけているのも気にせず、ギョンは教室内にズカズカと入っていった。

「あ~~、見っけ♪シンの幼馴染って君でしょ?」
「えっ!?」
「ちょっとアンタ、ここをどこだと思ってるの?前に言ったわよね?空気の読めなくて、お頭が可哀想って・・・周りを見てみなさいよ」

ギョンは周りを見渡し、思わず下を向いてしまった。

「イ・ガンヒョン、すまない。チェギョンに用があって、俺が連れて来たんだ。チェギョン、ちょっと良いか?」
「あっ、うん・・・」
「ちょっと殿下、それは授業より大事な事なのね?先生が、殿下の後ろで困ってるんですけど?」
「えっ・・・先生、申し訳ない。シン・チェギョンさんに話があります。少しの時間、チェギョンさんをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。どうぞ。シン・チェギョン、行っていいぞ」
「先生、本当にスイマセン。シン君、昨日の事でしょ?行こう」
「ああ。クラスの皆さん、お騒がせして申し訳なかった。ギョン、お前も謝れ」

ギョンがペコリと頭を下げて教室から逃げ出すと、シンはチェギョンと手を繋ぐと教室を出て行った。
その直後、教室からまたしても生徒たちの絶叫する声が、廊下まで響いた。

(美術科って、本当に騒がしいんだな。俺、慣れそうにない・・・)

シンとチェギョンは手を繋いだまま、シン専用の部屋にイン達3人と入った。
ソファーに座るや否や、インがシンに詰め寄った。

「シン、俺たちまでここに連れて来た理由は何だ?」
「・・・お前たちに聞きたいことがあったからだ。チェギョン、あの後、どうなった?」
「私が家を出てくる時は、まだ寝ておられたわ。ずっと不安で眠れずにいたみたい。アッパとオンマが、仕事を休むから後は任せなさいって・・・だから登校してきたの」
「進展せずか・・・」
「どういう事だ?まさか、まだヒョリンが見つかってないのか?」
「あっ、うん。おば様、一人で抱えきれなくなって、昨日、私を訪ねてこられたんだ。で、家に泊まってもらったの」

ヒョリンが行方不明という事実を初めて知ったギョンとファンは、ビックリしていた。

「多分、アッパが付いていって、宮が調べた情報を持って警察に捜索願を出すと思う」
「・・・だな。犯罪に手を染めていたら、案外早く見つかるかもな」
「シン君!!」
「事実だろうが・・・お前たち、ヒョリンのことで何か気になることとか、思い出したことはないか?」
「あ、あのさ・・・僕、この間、ヒョリン見たよ」
「「「どこで(だ)??!」」」
「えっと狎鴎亭(アックジョン)のロデオ通りにあるオープンカフェでお茶してたよ。道路の反対側の店だったし、関わりたくないから無視したんだけど、ブランド物の紙袋を横の椅子に置いてたよ」
「チェギョン、お義父さんに電話してやれ」
「うん」

チェギョンが家に電話をしている横で、シンはイン達にコン内官がした話を聞かせた。
話を聞いたイン達は、かなりショックを受けたようで呆然としていた。

「チェギョン、お義父さん、どうだって?」
「うん、それがね・・・捜索願は出すけど、宮からの情報は提出したくないっておば様が言ってるんだって」
「はぁ?」
「おば様の気持ちも分からないわけじゃないから、根気よく説得するってアッパが言ってた。見つかったと同時に警察に拘束なんて、ショックだろうしね」
「・・・おばさん、これからどうするんだ?住むところもないんだろう?」
「それは、大丈夫。うちが責任もって預かるって、アッパが昨日言ってた。幸い施設が無事に戻ったし、そこで働きながら住んでもらうって」
「そっか・・・何の関係もないシン家に負担を掛けさせてゴメン」
「そんなの宮も一緒でしょ?最初におば様に声かけたの私だし、まぁ乗りかかった船っていうか。困っている人を見捨てるわけにはいかないじゃない」

イン、ギョン、ファンは、ヒョリンに携帯を壊されたにも関わらず、その母親に手を差しのべるチェギョンの優しさとシンの両親の懐の深さに感動してしまった。
特にギョンは感極まって、チェギョンの手を両手でギュッと握った。

「・・・何かチェギョンってマリア様みたいだ。。。俺、惚れそう・・・」
「「ギョン!!」」
「へ?シン、イン、どうしたんだ?」
「クスクス、ギョン、チェギョンの手、離した方が良いんじゃない?シンの顔、見てごらんよ」
「えっ!?あっ・・・」

ファンの指摘でシンの顔を見たギョンは、慌ててチェギョンから離れた。

「ひょっとして、シン。そういう事なのか?」
「クククッ、ギョン、俺はシンに『見るな。チェギョンが穢れる』って言われたぞ」
「///イン!!」
「///シン君、何てことを・・・・恥ずかしい・・・」
「いいだろ?事実なんだから・・・」

恥ずかしがるチェギョンの肩を抱くと、シンは頬にチュッとポッポした。

「「「///シン!!」」」
「何だ?チェギョンは、昔から俺のもんだと決まってるんだ。誰にも文句は言わせない」
「いや、そう言う意味じゃなくて・・・人前でベタベタするなって、俺らは言いたいわけ」
「・・・ねぇ、スルーしてあげたいけど、できそうにないんだけど・・・昔から俺のもんってどういう事?本当に幼馴染なだけなの?」
「・・・チェギョン、いいか?こいつらには、ちゃんと言っておきたい。また誤解されると困るからな」
「///うん・・・」
「俺たちは許嫁の仲だ。5歳の時に俺が先帝に頼んで、許嫁になってもらった」
「「「えっ~~~!!」」」
「それから俺たちの罰掃除が済んだら、婚約を発表する。だから、お前らも性根を据えてトイレ掃除してくれ。俺の人生が掛ってるんだからな」

(おい、シン・・・トイレ掃除ごときに人生を掛けるなよな。でも迷惑もかけたことだし、トイレ、ピカピカにしてやるよ)


選択 第50話

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明け方に部屋に戻ってきたチェギョンは、シンの布団にもぐりこむと、すぐに寝息を立てだした。
心配で熟睡できなかったシンは、チェギョンの寝顔を見ながら溜め息を吐いた。

「クスクス、幸せそうな顔をして寝ちゃったわね」
「母上まで起きてしまわれましたか・・・ホントにこいつは・・・まだ夜が明けるには時間があります。もう少し寝ましょう」
「ええ、そうね。シンも安心したでしょ。ゆっくり寝なさい」

(バ、バレてる・・・)


数時間後、眠い目をこすりながら、シンはチェギョンからそっと腕枕を外し、布団から出た。
そして皇后の着替えを待って、朝食を摂るため、部屋を出た。

『ミンさま、シン坊ちゃま、おはようございます』
「おはよう。ごめんなさい、少し寝過ごしたみたい」
『お気になさいますな。姫さまが原因だと皆知っております。今、朝食をお持ちいたします』

この邸の者は、皇后の事は『ミンさま』、シンの事は『シン坊ちゃま』と、気づけばそう呼んでいた。
目の前で毒見をしている女性に 皇后は話しかけた。

「一つ聞いていいかしら?チェギョンは、夜通し何をしていたのかしら?」
『ふふ、夜までは内緒でございます。姫さまは、ミン様に喜んでもらうんだと張り切っておいででした。どうか黙って、夜までお待ちください。。。すべて大丈夫でございます。お待たせしました。どうぞお召し上がりください』
「ありがとう・・・何か分からないけれど、楽しみに待つわね。シン、朝食をいただきましょうか」
「はい、母上」


チェギョンが何を考えているのか気になったが、当のチェギョンはまだ夢の中で聞きだす事ができない。
シンは、チェギョンが起きるまで、書庫から見つけてきた昔の文献を読むことにした。
実は、皇后も見つけてきた文献に嵌り、かなりの時間読書に費やしていた。

「母上は、今、何を読んでおられるのですか?」
「ソオン医女のご先祖、内衛府の長をしていたミン・ジョンホの回想録。内衛府とは、王の警護をしていた今でいう翊衛士みたいね。そして女性初の王の主治医になった大長今(テジャングム)の夫でもある人。当時の陰謀やチャングムの苦難も書かれてる恋愛小説ね。王の女だった女官との禁断の恋・・・もう涙なくして読めないわ」
「はは・・・すごい嵌りようで・・・」
「そういうシンは、何を読んでいるの?」
「イ・ギョムが書き残したものです。義賊、一梅枝(イルジメ)も晩年はこの里で生活していたみたいですね」
「えっ!?シン、私もそれ読みたいわ。読み終わったら教えてね」
「クスクス、はい。でもソオン医女がいるなら、きっと一梅枝の子孫も実在するんでしょうね」

皇后と本の話を講じていると、チェギョンが身じろぎしだした。

「おい、寝坊助。目が覚めたか?」
「はぁぁぁ・・・うん。よく寝た。おば様、シン君、おはようございます」
「チェギョン、おはよう」
「この不良娘。昨夜は、どこに行ってたんだ?」
「へへ・・・山の中、駆け回ってた。今晩、良かったら一緒に行く?」
「今日も行くのか?」
「ご希望とあらば。ところでおば様と何を話していたの?」
「あのな・・・この里には、一梅枝の子孫もいるんじゃないかって話をしてたんだ。実際、どうなんだ?」
「う~ん、里にはいないけどいるよ。でも事実かどうかは誰も分からないんだよね。凄く身軽な奴だけどね」
「奴って、年が近い男なのか?」
「うん。機会があったら紹介するね。でもあんまり期待しないで。恐ろしく人見知りだから・・・」

一梅枝の子孫に会えると知ったシンは、興奮してしまってもうチェギョンの言葉が何も耳に入らなかった。

「ハァ、聞いちゃいないよ。だから、絶対合わせるとは言ってないってば・・・」
「クスクス、チェギョン、今はいくら言っても無駄よ。放っておきなさい」
「ですね(苦笑)」




夕食が済み、辺りが暗くなってくると、チェギョンは再び姿を消した。
しかし今日は、軽そうな段ボール箱を持って、すぐに戻ってきた。

「チェギョン、一体、何なの?」
「へへ・・・この時期限定、シン宗家の古の王妃体験ツアーのクライマックスです。まぁ、黙って見ててください」

チェギョンは、部屋の隅に置かれている昔の行燈に火を入れ、部屋の電気をすべて消した。
行燈の明かりのみの薄暗い部屋は、まさに400年前に逆戻りしたようだった。
チェギョンが座っている辺りからガサゴソと音がすると、小さな光がいくつも飛び出してきて部屋中に散らばった。
点滅を繰り返す光の一つが、シンや皇后の体に止まる。

「ホタル・・・!?」
「ふふ、正解。素敵でしょう?」
「ああ、母上、綺麗ですね」
「ホント、凄いキレイ・・・昔の王妃は、とても風流だったのね」
「それは、ちょっと違うかも・・・昔、お祖父ちゃんにしてもらったのを再現しただけなんです。可哀想なんで、そろそろホタルを逃がしますね」
「ええ、チェギョン、ありがとう」
「チェギョン、ちょっと待ってくれ。カメラにおさめたい」
「いいわよ」

シンが窓辺でカメラを構えると、チェギョンは窓を開け放った。
すると蛍は水の在り処が分かるのか、吸い込まれるように窓から出ていく。
皇后も窓際までくると、名残惜しそうにホタルを見送るのだった。

「おば様、これ、見てください。本当はこれが見てもらいたかったの」
「まぁ・・・」
「これは、ホタルブクロという野草の一種なんです」

ミンは、窓際に置かれた点滅する鉢植えを持ち、顔の近くまで持っていった。
シンは、月明かりの中で微笑む皇后に思わずシャッターを切った。

「花の中にホタルを入れてあるのね・・・チェギョン、ありがとう。この光景は、一生忘れないわ」
「喜んでいただけて良かったです。苦労した甲斐がありました」
「昨夜は、ホタルの捕獲に忙しかったのね」
「へへへ・・・この時期、裏山はいっぱいホタルが飛ぶんです。私も昨日久しぶりに見て興奮しちゃった」
「チェギョン、俺も見たい!連れていってくれ」
「げっ、マジですか・・・」
「マジだ!!伯父上やウビンヒョンも連れていって、見せてやろうぜ」
「それはいいけど・・・オッパは、ミスマッチじゃない?絶対にネオンの光の方が似合うよ」

チェギョンの表現は的を得ていて、皇后もシンも声をあげて笑ってしまった。

「チェギョン、残念だけど、私はパスさせてもらうわ。でも来年は、私も是非見に連れていってちょうだいね」
「はい、おば様。来年は、絶対に見に行きましょうね。約束ですよ。じゃあ、シン君を連れていってきま~す」

賑やかに二人が出ていくと、部屋は急に静かになった。
皇后は、2人がいなくなってもしばらく窓際から離れず、月を見ていた。

「失礼いたします。ミン・ソオンでございます」
「ソオン医女、どうかいたしましたか?」
「今晩、皇后さまがお一人になられるので、姫さまより宿直(とのい)を言いつかりました」
「・・・ソオン医女、チェギョンの優しさと気配りはどこから来るのかしら?」
「恐れながら、もって生まれた才能ではないかと思われます」
「そうね・・・ソオン医女、この私が来年の約束をしてしまったわ」
「皇后さま・・・」
「最後の最後まで、絶対に諦めたりしません。どうか私に協力してちょうだい」
「勿論でございます」
「それから万が一の場合は、以前話した通りに。皇太后さまには了承は得ました。ハン尚宮と貴女で説得してちょうだい」
「・・・かしこまりました」
「休みます。貴女も布団で休んでちょうだい。シンとチェギョンはいつも一緒に寝るから、大丈夫よ」

皇后は、布団に体を横たえると、静かに目を瞑った。

(先帝が、なぜたった7歳の少女にシンと宮を託されたのか、チェギョンを知れば知るほどよく分かる。若干13歳で、国母の器を十分兼ね備えている。チェギョンは、崩れゆく宮の為に天が遣わした天使。この可愛い天使がこれ以上傷つかないよう最後の力を振りそぼって動かなければ・・・)



選択 第51話

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翌日、寝ぼけ眼で起きてきたシンとチェギョンは、ソオン医女に言われ、皇后の診察に立ち会うことになった。
急遽作られた診察室は、急場しのぎで作られた物とは思えない程、完璧な診察室だった。

「へぇ、ソギョン爺ちゃんの診療所みたい」
「はい、参考にさせていただきました。来年、弟が里に戻ることになっていますので、丁度良かったと思います」
「ジニオッパには申し訳ないけど、オジジが心配なの。私からもよろしくと伝えておいてね」
「はい、姫さま。では、皇后さまの診察を始めたいと思います」
「何で俺らまで・・・」
「殿下、騙されたと思ってお付き合いください。では、皇后さま、ベッドに横になってくださいませ」

皇后が簡易ベッドに横になると、ソオンは大きくなったお腹を出した。

「すごい・・・ここに赤ちゃんが入ってるんだね」
「そうですよ」

ソオンは、皇后のお腹にゼリーのようなものを垂らすと、モニターと繋がった器具で伸ばしだした。

「殿下、姫さま、モニターをご覧ください」
「「あっ・・・」」
「許可を頂いたので、最新鋭の機械を取り入れました。分かりますか?赤ちゃんの顔、陛下と言うより皇后さま似のようですね」
「可愛い・・・シン君、可愛いね。弟かな?妹かな?」
「ふふ・・・皇后さまもお知りになりたいですか?」
「ソオン医女、私は2人も子どもを産んでいるのよ。シンがお腹にいた時と同じものが見えるのは私だけかしら?」
「お見それいたしました・・・姫さま、弟君のようよ。ほら、ここに可愛いのが映っているでしょう?」
「えっ、え!?か、可愛いのって、オチンチン?///」
「はい。私も3Dエコーで見るのは初めてだけど、ハッキリと見えてるわね。それから、この音は赤ちゃんの心音よ。小さいけど、力強く動いてるわ。はい、終了~」

お腹のゼリーを拭うと、服を整え、ソオンは皇后を起こした。

「一時期心配しましたけど、皇后さま、順調に成長されていますよ。もうご安心ください」
「これもソオン医女とチェギョンのお蔭よ。本当にありがとう」
「私は、おば様と遊びたかっただけ。毎日がこんなに楽しいなんて生まれて初めてかも・・・ちょっとシン君、ボッとしてないで、何か言ったら?」
「あ、うん。今まで実感なかったけど、本当に母上のお腹に赤ちゃんがいるんだなぁって・・・ちょっと感動した。ソオン医女、貴重なものを見せてくれてありがとう」
「私にではなく、お礼は皇后さまにお願いします。皇后さまがお許しにならなければ、実現できなかったのですから・・・」
「母上、ありがとうございます。元気な赤ちゃん、産んでくださいね」
「当たり前です。貴方の弟よ。子守りお願いね、お兄ちゃん♪」
「はい!」

シンとチェギョンは興奮が収まらず、昼食時にもウビンを相手に延々と話し続けた。

(何で俺が、胎児の話を聞かないといけないんだ?!俺としては、結果よりそこに至るまでの過程の方が興味あるし、好きなんだっつうの!)



昼食後のお茶を飲んでいると、チェギョンとウビンの携帯が同時に鳴った。
顔を見合わせ携帯を取る二人は、話を聞きながら徐々に顔が険しくなっていくのが分かった。

「えっ!?・・・・分かった。一旦、戻ればいいのね?」
「分かった。どうもチェギョンも戻るようだ。至急、ヘリを飛ばしてほしい」

同時に携帯を切ったチェギョンとウビン。

「水産加工業の爺さんの件だろ?」
「うん・・・」
「当事者はお前だ。お前は、ソングループに委託すると宣言するだけでいい。後は俺が取り仕切る」
「分かった・・・おば様、シン君、ちょっとソウルに戻ってきます」
「ええ、気をつけてね」
「チェギョン、俺も一緒に行こうか?」
「ううん。シン君は、おば様に付いていてあげて。すぐに戻ってくるから」
「分かった」

1時間もしないうちに 邸に隣接するヘリポートにヘリが到着し、チェギョンとウビンを乗せるとすぐに飛び立った。

「一体、何があったのかしら?」
『チェギョンが、莫大な遺産を手にしたんですよ。それも赤の他人のね』
「「えっ!?」」

皇后とシンが驚いて振り向くと、男の色気を滲ませた男がにこやかに立っていた。

「イジョンヒョン!!」
「ここが、憧れの扶余の里かぁ。。。やっと来れたぜ。皇后さま、初めてお目にかかります。ソ・イジョンと申します。シン、久しぶり」
「イジョンヒョン、どうしたの?」
「今日も偶々、ジフと一緒だったわけ。チェギョンの近況を聞いてたら、突然ジフに連絡が来て、扶余にヘリを飛ばすって言うからさぁ・・・慌ててジュンピョんちに行って、ヘリに乗せてもらってきた」
「そうだったんだ・・・で、さっきの話、一体どういうこと?他人の遺産を貰ったって・・・」
「詳しい話は、邸の中でしようぜ。皇后さまの体に負担が掛る」

邸に戻ると、イジョンの口から詳しい話を聞いた。

「病院で、チェギョンは手術で喉に管を通して呼吸してる爺さんと知り合ったらしい。爺さんにしたら、声が出なくても意思疎通できるチェギョンが嬉しかったみたいだ。息子夫婦は、見舞いにも来なかったらしいしな。爺さんは、優秀な弁護士と探偵をチェギョンに依頼したらしい。で、探偵に息子の嫁の調査、弁護士には遺言書の作成を依頼した」

イジョンは、そこまで話すとお茶を一口啜った。

「結果、嫁は息子の腹心の部下と結婚前から関係があり、孫はその部下の子だと判明した。爺さんは、自分亡き後の会社の行く末が心配で仕方なかったようだ。調査書を見た爺さんは、すぐに遺言書を書き換えた。『自分の財産は、SC財団にすべて移譲する』ってな」
「「!!!」」
「弁護士は、正道法律事務所の奴だったから、秘密裏に爺さんの会社をどうするか有閑倶楽部の面々が話し合いをしてたらしい。で、流通に精通してるソングループが傘下に入れることになったらしい。その爺さんが、今、危篤らしい。今日が峠だってさ。だから、アイツら戻ったんだ」
「「・・・・・」」
「チェギョンは、人が亡くなる間際によく呼ばれる。死にゆく人の最後の言葉を家族に伝えるためにな。喜ばれることもあれば、話によっては恨まれることもある。ホント可哀想な奴だよ」

チェギョンは、こんな事でも傷ついていたのかと思うと、シンと皇后は胸が痛んだ。

「さぁ、湿っぽい話はここまで。皇后さま、扶余のお宝はもう見ましたか?俺、それが見たくて潜りこんだんですよ。絶対、国宝級のお宝ばかりですよ。一緒に見に行きましょう」
「え、ええ・・・」

イジョンは、皇后をエスコートすると、アジュマに宝物庫まで案内させてしまった。
そして目を輝かせながら、皇后とシンに 一つ一つ分かり易く、ジョークを交えて説明していく。

(流石、イジョンヒョン、女の扱いに慣れてる・・・でも良く考えたら、俺の母親なんだよな。母上も何で頬を赤くしてんだよ!?妊婦だろうが・・・)









改訂版 開眼 第27話

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週明けの月曜日、登校したシンは、久しぶりにファン、イン、ギョンの3人に出迎えられた。

「・・・・・」
「シン、おはよう。話があるんだけど、ちょっと良いかなぁ?」
「・・・俺もアジョシから伝言頼まれてる。だが、昼休みにしてくれ。場所は、俺の部屋だ」
「分かった。イン、ギョン、そういう事だから教室に行くね。シン、待ってよ」

ファンがシンの後を追いかけていくと、インとギョンは教室ではなく屋上へと向かった。
そしてインは、ファンと一緒に聞いたチェジュンの言葉を包み隠さずギョンに伝えた。
聞いたギョンは、自分の置かれている状況が想像以上に厳しいと知り、顔色を変えた。

「そう凹むな。俺も似たようなもんだ。俺の場合は、親子共々会社から放り出される。それも2つ年下の奴にだ」
「あの始業式の日にいた奴だろ?アイツ、そんなに凄いのか?」
「ああ・・・俺らとは、次元が違う。ファンに聞いたが、もう高校3年間のカリキュラムはすでに終了してるらしい。傘下の会社の内情も把握し、会長の補佐もしてる。正直、俺らは足元にも及ばない」
「・・・そんなヤツがいたんだ。親父、シン会長に会って凄く落ち込んでた。今までの自分が恥ずかしいってさ」
「うん。何か独特のオーラがあった。口調は柔らかいんだけど、言う事は厳しいんだ。『俺、このままじゃ任せられないんだよね。潰すよ?』って感じ・・・」
「ファンも崖っぷちなのか?」
「ああ。放り出されはしないけど、見込みがなければ生涯平社員として扱き使うってさ」
「・・・それもキツイな。はぁ、俺ら、どうなるんだ?」



昼休み、ファンの案内で、インとギョンは、初めて皇族専用の部屋を訪れた。
部屋には、シンとユルが優雅にソファーに座って、3人を待ち構えていた。

「座れ!で、お前たちの話って何だ?」
「うん。あの僕たち3人、夏休みにシン家にお世話になることになったんだ」
「知ってる」
「えっ、あ、そうだよね。それでね、心構えっていうか、何を準備したらいいのか、経験しているシンに聞こうと思ったんだ」
「・・・俺の意見は、参考にならないと思う。チェジュンが春より過酷だと言ってたし・・・あと夜明け前からの作業らしいから、今から生活態度も改めた方が良いかもな」
「「「!!!」」」
「何、驚いてるんだ?あのアジョシの考えることだぞ?!普通なわけがないだろうが・・・俺があそこで学んだことは、『恐るべしシン家の教育方針』ってことだな」

イン、ギョン、ファンは、驚きすぎて言葉が出なかった。やっと出た言葉が・・・

「た、例えば?」
「建設現場に放り込まれて、1日中背負子を背負ってブロックを運ばされた。後は漁船に乗ったり、大根の収穫」
「・・・なぁ、辛くなかったか?」
「辛いに決まってるだろ。筋肉痛で全身湿布貼ってた。でも宮という狭い世界しか知らなかった俺には、どれも新鮮だったし、考えさせられた。だから、いろんな世界を教えてくれたアジョシには感謝してる」
「・・・僕も彼女たちに出会わなければ、ダメ人間のままだったよ。感謝してるもん」
「・・・アジョシからの伝言だ。動きやすく汚れても簡単に水洗いできる服を用意することだそうだ。アジョシがインのお父さんに頼んで持って来てもらった服は、全部労働には適さなかった」
「えっ!?」
「恰好じゃなく、機能性に長けた服を持って来いってことだ。俺の経験上、薄手の長袖のTシャツは用意した方が良い。畑仕事の時、虫に刺されるからな」

3人は、まさか畑仕事をさせられるとは思いもしなかった。

「それから、シン家には家政婦はいない。夏休みまでに自分の事は自分でできるようにマスターしておくようにだそうだ。俺も洗濯機の使い方を教えてもらってチェジュンと交代でしたし、夕飯の手伝いや食器洗いも俺の仕事だった。チェジュンは、忙しいからな」
「「「えっ・・・」」」
「クスクス、何、驚いてるの?あんた達、アジョシはそんなに甘くないよ。情に篤い人だけど、ここ一番では恐ろしいぐらい冷酷になれる人だよ。この間、大統領の前で『どれにしようかな~』って指さしながら、笑って会社を潰したんだって。ホント鬼だよね~」
「その位、平気だろ。宮のど真ん中で、陛下に向かって『先帝の爺さん』『てめぇのクソ親父』って言える人だ。神話とイルシムも笑いながら脅して、まんまと手中に収めたんだろうな」

ユルとシンは何気ない一コマのように話しているが、イン達3人には衝撃すぎた。
そのラスボスのような人物の本拠地で生活をするなんて、想像するだけで足が震えてきそうだった。

「ふふ、脅かし過ぎた?まぁ、僕たちも公務の間にするみたいだから、宜しくね」
「「「えっ!?」」」
「そうだ。チェジュンから、頼まれてたんだ。靴のサイズを聞いてきてくれってさ」
「クククッ・・・安全靴と長靴の支給だ。ギョンは、間違いなくゴム長も支給されるだろうな」
「それって、シンがやった仕事をやらされるってことか?」
「当然だろ?アジョシ曰く、基本メニューだそうだ。俺の父上もしてるし、神話のジュンピョヒョンは半年したそうだ」

皇帝陛下や神話の御曹司もしたと聞き、絶対に拒否できないと観念してしまった3人は、ユルに聞かれるまま靴のサイズを教えた。
用が済んだとばかりに立ちあがったシンとユルは、3人に退室を促すように無言で見つめた。
その視線に仕方なく立ち上がり部屋を出たイン・ギョン・ファンに シンは声を掛けた。

「俺からの警告だ。アイツの部屋には、絶対に近づくな。足を踏み入れた瞬間、お前たちの未来は俺が潰す」
「クククッ、シンが制裁を加える前に アジョシがするって。アジョシのチェギョンへの溺愛振りは、半端ないからね。それに口には出さないけど、チェジュンも絶対にシスコンだと思うよ。チェギョンを殴ったのどっちか知らないけど、相当の覚悟はしておいた方が良いよ。じゃあね」

シンとユルが教室へと戻っていくと、ギョンはその場に座り込んでしまった。

「ギョン、大丈夫か?」
「・・・大丈夫じゃないかも・・・俺、とんでもない相手に怪我させちまったんだな」
「ギョン、今さらだけど、相手じゃなくて誰にも暴力を振るっちゃいけないんだ。今回、チェギョンが被害者だから、チャングループは潰れなかったと僕は思ってる。随分前にチャングループの資料を見せてもらったんだ。表向きは、神話とイルシムがチャングループに手を差しのべたように見えるけど、実質はシン会長だった」
「えっ!?」
「ギョン、僕らもお前と一緒で崖っぷちだから大きな事は言えないけど、心を入れ替えて頑張ろう」
「ああ、これ以上、親父を失望させられねぇ。。。」

ギョンは、PTA総会から帰った両親の変化を思い出していた。
父親がシン会長の触発されたのは分かるが、母親の変化には疑問だった。

「なぁ・・・土曜、学校で何があったか知ってるか?親父は分かるが、お袋の様子も変なんだ。ずっと家にいるんだぜ」
「・・・言っていいのか分からねぇが、シン会長がギョンのお袋さんにやんわりと釘を刺したみたいだ。それも太っとい釘をな」
「釘?」
「多分、インのお母さんもお父さんから注意されていたと思うよ。僕んちもだったし・・・ギョンのお母さん、派手に遊んでるのを咎められたそうだ。シンコンツェルンはほとんどの事業を網羅してる。勿論、信販会社もある。だから、お母さんの行動は、会長には筒抜けだったみたいだよ」
「そういう事か・・・」
「それだけなら良かったんだけどね。シン家は、奥さんは保険の外交をして稼いだ給料で生活してるらしい。で、会長が事業の側ら、専業主夫として家計を切り盛りしてる」
「う、嘘だろ!?」
「本当だよ。どう?自分ちの親と比べて全然違うでしょ。これ聞いても変わらないなら、チャン家はもう終わりだと思うよ」
「・・・・・」

シン家の在り方は、今までギョンが思っていた家族の在り方を全否定しているた。
ギョンにとって、シン家は未知の世界。
そこに入っていくことに、ギョンはより一層の恐怖を感じるのだった。

(やるしかないんだ・・・親父の為にも・・・)




















選択 第52話

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シンは、チェギョンがいないこともあり、久しぶりのイジョンと話がしたくて男湯に入った。
背中を流す為、ソッパジ姿のアジュマ達が入ってくると、イジョンは男同士の話がしたいとアジュマ達に断った。

「ああ、久しぶりにのんびり湯に浸かれたよ。イジョン君、ありがとう」
「温泉は、やっぱ裸で入りたいですからね。シン、お前も脱いで裸で入れよ」
「クスッ、はい」

シンは素っ裸になると、腰のタオルを巻いて湯船に浸かった。

「シン、久しぶりにミンと風呂に入った感想は?」
「はぁ?お前、今までずっと皇后さまとチェギョンと風呂に入ってたのか?!」
「///仕方ないでしょ。身重の母上にチェギョンの世話はさせられないでしょうが・・・」
「えっ!?そうか・・・そうだな。チェギョン、まだ寝ちまうのか?」
「毎日じゃないですけどね。チェギョン、母上に背中洗ってもらって嬉しそうにしてましたよ」
「そっか・・・チェギョン、大はしゃぎしただろ?良かった。ホント良かった」
「イジョンヒョン?」
「俺も詳しい事は何も知らねぇ。ジフは聞いても言う奴じゃねぇしな。ただチェギョンの口から、母親の話は一切聞いたことがねぇのは確か。皇后さまは、チェギョンにとって理想の母親像なんじゃねぇの?」
「「・・・・・」」
「話変わるけど・・・俺さ、ちょっと気になることがあんだわ。悪いけど、ここに人呼んだ。付き合ってくれ」

ジテとシンは、何のことか分からなかったが、頷いた。
しばらくすると、一人の男が無言で風呂場に入ってきた。

「なぁ、あんた、よく似てるけどアイツじゃないよな?誰だ?」
「兄を知ってるんですね・・・」
「あの頃は、俺も派手に遊んでたしな。で、何でここにいんの?」
「・・・あなた方が逆上せてしまう。露天風呂の方に移動しませんか?」

男に促され、3人は露天風呂に入り直すと、男はイジョンに話しかけた。

「兄の事をどこまでご存知ですか?」
「ヤクの売人で、あちこちから追いかけられてたぐらいだな。一時期、ツレが血眼になって探してたし・・・」
「そうですか・・・兄をおびき出す為、拉致され半殺しの目に遭っていたところを助けられたのですが、その時、会ったのがイルシムのウビンさんと姫さまでした。ウビンに、兄は相当恨みを買っているから俺や両親の命の保証ができないと言われました。でも姫さまが保護してくださると、その代り世俗と離れた生活になるが構わないか?と聞かれ、両親と一緒にここでお世話になることを決め、ここでお世話になっています」
「そっか・・・でもさ、ここって何にもないだろ?満足してんの?」
「クスッ、平穏が一番ですよ。両親がいて、恐怖に晒されることなく足を伸ばして眠れる。これだけで十分幸せです」
「・・・良かったな。アンタもチェギョンに会えて・・・」
「はい。。。ここには、俺たちのような境遇の人たちが大勢いるんで、気兼ねすることもないですしね」
「「えっ!?」」
「・・・昔から、無実の罪を着せられそうになってる人を助けてたってチェギョンが言ってた。だから、ここの書庫には、ビックリするような人の文献があった」
「マジ?俺も読みてぇ~!!誰、誰?」
「ちょっ、イジョンヒョン、落ち着けよ!」
「クスクス、イジョンさん。ご心配されたようですが、俺らは感謝こそすれ姫さまを裏切るような真似は絶対にしません。どうかご安心ください。では、ごゆっくりお寛ぎ下さい」

男が出ていくと、イジョンはフッ~っと大きく息を吐いた。

(ヒョン、かなり緊張してたんだな・・・)

「扶余のお宝といい、ここに住む人たちといい、シン宗家、恐るべしだな・・・」
「それは、俺も思います。でも何でシン宗家は、今まで表に出てこなかったんでしょうね?」
「出てこなかったわけじゃねぇよ。実際、この国のTOPの奴らは知ってるしな。宮に遠慮してんじゃねぇの?ククッ」
「・・・そうかも」
「冗談だよ。爺さんの代はそうだったかもしんねぇけど、今は違うぜ。チェギョンを守るためだ」
「えっ!?」
「俺が言うのはアレだけど、アイツ莫大な資産貰っちまったんだよ。で、身が危ないってヤツ?」
「今も命を狙われてるんですか?」
「いや、そっちは片づいたと聞いてる。政略結婚のほうだ」
「政略結婚?まだ13なのに?」
「SCの姫さまは、全てがベールに包まれている謎の女性なんだわ。勿論、シン宗家との繋がりも極秘だしな。シン宗家やチェギョンにそのつもりがなくても欲に目が眩んだ輩なら、卑怯な手段に出てでもチェギョンをモノにしようと考えるさ。実際、見合いの申し込みもかなりあるって話だし、顔なんて晒したら想像しただけでも怖いぜ」
「・・・・・」
「まぁ、それもあと数年ってとこかな?2~3年したら、社交界に出る予定みたいだしな」
「えっ!?何で?」
「結婚相手を探す為だろ。最近、ハギュンさんがパーティーに参加しだしたしな。今から、チェギョンを任せられそうな男を物色してるんじゃねぇの?」
「チェギョンが、誰かが選んだ奴と結婚なんかする筈がない!」
「・・・聞いてねぇのか?代々シン宗家の当主は、一族が選んだ奴と結婚する決まりだそうだ。チェギョンの親父は、それを無視して自分の選んだ女と結婚したんだよ。だが、結果はご覧の通り。チェギョンだけが犠牲になった。だからチェギョンは、一族に逆らえない。可哀想だがな」
「「・・・・・」」
「そんなに驚くことか?お前だって、似たようなもんだろ!?俺の勘だが、チェギョンの相手、ジフが有力候補だ」
「えっ!?」
「逆上せそうだ。そろそろ上がろうぜ」

イジョンが風呂から出て行っても、シンはしばらく呆然としていた。

(だからチェギョンは、自分に対しては投げやりなのか?ジフヒョンか・・・チェギョンはそれで納得してるのか?俺ら、まだ13歳なのに・・・)



夕食が終わり、そのまま部屋に戻る気になれず、シンは庭に出た。
村を見下ろせる場所でボーっと立っていると、後ろから皇后に肩を叩かれた。

「あっ、母上でしたか?」
「チェギョンがいない所為?あなたが、物思いに耽るのは・・・ちょっと座って、話をしましょうか」
「母上・・・」
「入浴してからよね。お風呂で何があったの?」
「母上、俺も婚姻する相手はもう決まってるんですか?」
「俺も?お風呂で、チェギョンの事を何か聞いたの?」
「・・・シン宗家の当主は代々一族が決めた相手と婚姻するらしく、ハギュンさんがパーティーに出て物色し始めたと・・・」
「そう・・・それを聞いて、シンはどう思ったの?」
「ショックでした。13なのに全て周りに決められて・・・何とかしてやりたくても俺には何もできないし、もしかしたら俺もチェギョンと同じ運命なのかもとか考えていました」
「シン、貴方は大丈夫よ。王族からの変な横槍は、私が阻止します。だから、安心しなさい」
「母上・・・ありがとう」
「・・・シン、一つ聞いていいかしら?貴方はチェギョンの事をどう思ってる?仲の良い友達のままなのかしら?」
「えっ!?・・・う~ん、同志かな?俺の足らない部分を補ってもらって、俺は今は添い寝ぐらいしか役に立ってないけど、いつかは助け合えたらと思ってるけど・・・」
「そう・・・まだ貴方も13歳ですものね・・・でもこの機会を失ったら、私はもう言えないかもしれない。シン、心して聞いてちょうだい。シン、貴方には先帝がお決めになった許嫁がいるわ」
「えっ!?」
「いえ、正確には『いたわ』ね。先方から断られたの。お相手はチェギョンよ」
「!!!」
「皇后さまは、チェギョンを諦めておられないわ。私は・・・貴方にその気がないなら、残念だけど、私の出産を機にチェギョンとは縁を切りましょう。貴方には幸せになってほしいもの」
「・・・その気があるなら?」
「その気があるなら・・・出産後もチェギョンが宮に残れるように私が何とかします。その代り、婚姻に付いては貴方がチェギョンを説得すること。流石に何でも親がかりは見っともないですからね。どうかしら?」
「どうかしら?と言われても今まで考えたこともなかったので、どう答えれば良いのか・・・」
「そうよね・・・でもね、シンには申し訳ないけど、私には時間がないの」
「母上?」
「シン・・・私が病気をおして出産する話は聞いているのよね?」

シンは、皇后の目をじっと見つめながら頷いた。

「ガンなの・・・それもかなり進行してるわ」
「!!!」
「皇后として、愛する夫の妻として、どうすべきか悩んだわ。堕胎して治療をしても助かる確率は50%。なら、産もうと思った。きっとこの子は、シンを理解し支えてくれる筈。そう信じて産もうと私は・・・シン、泣かないで」

皇后に頬を撫でられ、初めてシンは自分が涙を流していることに気づいた。

「ショックよね。でも何も知らずに、私に万が一の事があった方が貴方は辛い想いをすると思うから。シン、私は諦めたわけじゃないわよ。この子を無事出産し、貴方が幸せな婚姻をするのを見るのが、私の今の目標よ」
「母上・・・」
「でもね、やはり万が一の事も考えてしまう。この子にはシン、貴方のような寂しい想いはさせたくないの。母親がいないだけでも辛い事なのに女官任せなんかにはしたくないわ。春に王族の令嬢と顔合わせをしたのもこの子のベビーシッターとして相応しいかを見たかったの。結果は、悲惨だったけどね。でもチェギョンに出会った。シン、貴方が許してくれるなら、チェギョンにこの子を託したいと思ってる。チェギョンなら、あなた達二人が嫌だと思う事は、絶対に阻止してくれる。きっといい子に育ててくれると信じてるの。シン、13歳の貴方に酷な選択をさせることは十分承知しています。でも良く考えてほしい。。。。先に部屋に戻るわね」

13歳のシンには、皇后の話はそう簡単に理解できるものでも 消化できるものでもなかった。

(考えろって・・・こんな話を聞かされて、何を考えろって言うんだ!?チェギョン、お前は知ってて、俺に言わなかったのか?)




選択 第53話

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皇后と話をして以来、シンは物思いに耽るようになり、口数が極端に少なくなった。
周りの者は心配したが、皇后が放っておくようにと言ったので、見守るしかなかった。
一人シンが庭で佇んでいると、オジジが隣にやって来た。

「何か、面白い物が見えますかな?」
「オジジ・・・チェギョンはいつ戻ってくるのですか?」
「・・・殿下、顔の相がよくないですな。チェギョンに会ってどうなさるおつもりです?」
「チェギョンに聞きたいことがあります。チェギョンなら皇后さまの事を知っていた筈。なのになぜ俺に言わなかったのか、理由が聞きたい」
「理由なんぞ儂でも分かりますぞ。皇后さま本人が隠してるのに第三者のチェギョンが言う訳にはいきますまい。それも皇后さまの命が危ないなど、口が裂けても言えるわけがなかろうの」
「あっ・・・オジジも知ってたのか?」
「姫ほどの力はないが、儂もシン宗家直系の出だからの。。。。少し前まで、皇后さまと殿下には溝が御有りだった。そんな時に聞かれても殿下はきっと『関係ない』とか『バカな選択をして』などと思われたと思うぞ。下手をすると、『厄介ごとが増えるな』と思われたかもしれん」
「・・・(確かにそうかもしれない)」
「チェギョンの事じゃ、きっとお二人の溝を埋めるようなメッセージを伝えていたと思うぞ。気づきませんでしたかな?」

シンは、チェギョンと出会ってからの事を思いだしてみると、確かに何度も思い当たることがあった。

「言われてました・・・」
「だろうの。。。皇后さまから、何を言われたかは想像がつきます。殿下、今から姫に拘る必要はない。殿下に相応しい素晴らしい女性がきっと現れる」
「オジジ?」
「さぁ、皇后さまの所に行きましょう。。。誰か控えておるか?ミン・ソオンを皇后さまの部屋まで連れておいで」
『かしこまりました、お館さま』

何処からともなく声が聞こえ、人の気配が消えた。

「ふふ・・・陰から守ってくれる者です。里では必要ないんじゃがの。あやつらは、慎重すぎてな。気を悪くせんでくだされ」
「・・・宮にいた頃も付いていたのですか?」
「ふふ、居りましたな。先々帝はお気づきではなかったが、先帝は気づいておられた気がします。因みにハギュンは拒否して、付けておらなんだ。それがス殿下の悲劇を防げなんだ原因の一端じゃと、あやつは後悔しとりますわい。あんな女子(おなご)に惹かれてしもうた本人の責任じゃのにのぉ・・・」
「・・・・・」

シンは、オジジの言葉に思わず納得してしまった。
シンと皇后が寝泊まりしているチェギョンの部屋の前まで来ると、ソオンが立っていた。

「待たせたかの?皇后さまに面会する。付いておいで」
「はい、お館様」

シンは、オジジが何のためにここに来たのか分からず、後ろに付いて部屋に入った。

「皇后さま、失礼しますよ。お体の方は、いかがですかな?」
「お蔭さまで、随分良くなりました。ホント、何とお礼を申し上げていいのか、言葉が見つかりません」
「それは、儂らの方です。皇后さまには、感謝してもしきれない想いでおります」
「チェギョンの事ですか?」
「いかにも。娘のように可愛がっていただき、また命の尊さを身を持って教えてくださった。。。ソオン、お前さんが皇后さまに頼んだのじゃろう?一か八かの賭けじゃったが、裏目に出てしもうたようじゃ」
「「「えっ!?」」」
「姫からの伝言じゃ。自分はもう戻らぬが、皇后さまがご出産されるまで誠心誠意お仕えせよ・・・じゃ」
「「!!!」」
「あ、あのお館様、裏目とはどういう事でしょうか?」
「・・・エコー写真や幸せそうな皇后さまのお顔を見て、自分は皇后さまの傍にいてはいけないと言うておった。心の傷が、開いてしもうたようじゃな」
「・・・申し訳ありません。命の尊さを知れば、ご自分を大事にしてくださるかと・・・考えが浅はかでした」
「一族でも一部の者にしか、姫の父親の勘当の理由を知らせておらぬからの。仕方あるまいと思っておる。姫が何度も命を狙われたのは知っておるじゃろ?」
「はい。今もその警戒を続けておられることも知っています」
「一番最初の未遂事件は、姫が話し始めてすぐの3歳の時。寝ている時に首を絞められた。犯人は実母じゃ」
「「「!!!」」」
「姫がどこまで覚えておるのか、正直分からぬ。じゃが、相当傷が深いとみえる。『悪魔の子が、天国に行くにはどうすべきだ?』。姫からよく聞こえる心の声じゃよ」

オジジの話に チェギョンの心の叫びが聞こえたような気がした。
皇后とソオンは、ただチェギョンを想い、涙を流している。

「ソオン。姫が、皇后さまに幸せをいただいた恩を返す。体調次第だが、皇后さまが臨月に入るまでここで静養していただけ。ソウルに戻れば、皇后さまは王立に入院していただく。こちらにいる主治医とお前さんを中心に医療チームを組む。メンバーは、ハギュンに揃えるよう指示を出した。万全の態勢で皇后さまのご出産に臨むんだ」
「はい、お館様・・・」
「では皇后さま、心穏やかにお過ごしくださいませ。殿下、同情からは何も生まれん。姫には余計な感情で無用じゃ。チェギョンからの伝言です。『ありがとう。楽しかった』。では・・・」

オジジが部屋をでると、ソオンも皇后とシンに一礼をして、部屋を出て行った。
残された皇后とシンは、其々がチェギョンの笑った顔を思い出していた。

「・・・シン、私はチェギョンを救いたい。私の決断はシンを困らせるかもしれないけど、どうか了承してちょうだい」
「母上・・・チェギョンをベビーシッターとして任命されるつもりですね?」
「ええ。何としてでもこの子を産み、私の生死に関わらず、チェギョンにこの子を任せます。シン、チェギョンとこの子を守ってちょうだい」
「母上・・・お約束します。必ず、2人を守れるよう努力します」
「・・・シン、私が昨日話した話は忘れてくれていいわ。チェギョンを家族の一員として迎えてあげて」
「はい・・・母上」

シンは皇后の想いを汲み取り頷いたが、頭の中は昨日から何も整理できていなかった。
そして今のチェギョンの悲話と皇后の決断・・・もうパニックになりそうだった。

(俺、落ち着け!とりあえず、母上を安心させることが第一だ。チェギョンが宮で過ごすことは賛成だから、問題ない。問題なのは、婚姻か・・・大体、シン宗家当主のチェギョンが誰かに嫁ぐことは可能なのか?)












心の扉 15

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授業中、ずっと悩んでいたインが、昼休みになるとすぐにどこかに電話を掛けだした。
しばらく話していたインは通話を終了すると、シンの所にやってきた。

「シン、ヒョリンの携帯のナンバー、教えてくれないか?俺がヒョリンに掛けてみる」
「えっ!?でも勘当されるんじゃ・・・」
「今、親父に許可取った。ヒョリンに酷い事されたチェギョンが親身になってるのに俺が見てるだけって、おかしいだろ?俺からの履歴だったら電話に出るかもしれない。だから・・・」
「・・・分かった。コン内官にナンバーを聞いてみる」

シンがコン内官に電話を掛けようとすると、チェギョンからメールの着信が来た。
そのメールを確認すると、折り返し返信をし、シンはイン達を誘って皇族専用の部屋へと向かった。
シン達が部屋で待っていると、チェギョンがガンヒョンを伴って、やって来た。

「チェギョン、イン達に頼みたいことがあるって何だ?」
「うん。まずお父さんたちに了解を貰えたらの話なんだけど、ヒョリンを見つけて保護してほしいの」
「どういう事だ?」
「えっとね・・・アッパから連絡があってね。アッパの携帯からヒョリンに繋がったらしいの」
「「「「何だって~!?」」」」
「こ、怖い・・・」
「ちょっとあんた達、チェギョンに怒鳴らないで!チェギョン、大丈夫だからね。私から話そうか?」
「・・・うん。ガンヒョン、ゴメンね」
「気にしないで。ヒョリン、アジョシからの電話を援交希望のエロ親父と思ったみたいね。すぐに金額交渉しだしたそうよ」
「「「!!!」」」

薄々とは感じていたが、ハッキリ言われると、やはりショックを受けた。

「まさかそんな話が飛び出ると思ってなかったアジョシは、携帯をスピーカーにしてヒョリンのお母さんに会話を聞かせていたの。お母さん、パニック寸前で電話に出る余裕がなくて、仕方なくアジョシは客の振りをして待ち合わせの場所と時間を決めたんだって。でもアジョシ、肝心のヒョリンの顔を知らないのよ」
「で、俺らに待ち合わせ場所に行けって事か?」
「ええ。ヒョリンが最後に登校した日、私とチェギョンはヒョリンとトラブってるのよ。だから二人が行っても逆効果だと思うの。お願いできないかしら?」
「トラぶった?チェギョン、コン内官が迎えに行った日か?」
「うん。コン爺が仲裁に入ってくれたの。シン君は警護があるから無理だろうけど、イン君たち、お父さんにお願いしてくれないかなぁ?これで失敗したら警察に届けるって事で、おば様が了承してくれたそうなの」

イン、ギョン、ファンは、顔を見合わせ頷くとすぐに父親に連絡を取りだした。

「ヒョリンのお袋さんは?」
「オンマが病院に連れていってるみたい。病院から帰ってきたら、連絡が来ると思う」

シンは、ヒョリンの身勝手さにほとほと愛想が尽きた。

(あの女は、どこまで堕ちれば気が済むんだ?たった一人の母親の職を奪い、心配をかけて・・・身勝手にも程があるだろうが・・・)




その日の夕方、父親の了解を取ったイン達3人は、新村(シンチョン)のデパート前に向かった。
そしてヒョリンが自分たちを見て逃げないよう、バラバラになり、物陰からヒョリンの姿を探すことにした。
宮もシンからの報告で、ヒョリンを知っている翊衛士2人を新村に向かわせた。
前もって紹介を受けたチェギョンの父親の周りを探していたが、インが少し離れた所でヒョリンが様子を窺っている事に気づいた。
インは、そっと気づかれないように移動すると、ヒョリンの肩を叩いた。

「えっ、イ、イン!」
「探したぞ。お前、お袋さんに心配かけて何やってんだ?」
「放っておいてよ。あの人は、私を捨てたのよ。だから私も捨ててやったの」
「はぁ?ヒョリン、また妄想か?お前、携帯2台使い分けてたらしいな。お袋さんは、連絡のつけようがなかったんだ」
「あっ・・・」
「お袋さん、お前の電話の会話を聞いてショックで倒れて、入院したそうだ」
「えっ!?ちょ、ちょっと待って。私の電話の会話って、何の事?」
「この待ち合わせの電話の事だよ。アジョシは、ただお袋さんを預かってるって連絡したのに お前は突然値段交渉しだしたらしいな。お袋さんは、それを聞いてたんだよ」
「えっ、嘘・・・イン、貴方があのエロ親父に私のナンバーを教えたの?」
「俺たちは、親の前でナンバーを消去させられた。だから連絡先は知らない。アジョシは、宮から聞いたようだ」
「宮から?ところで、そのアジョシって誰よ?」
「陛下の親友だってさ。お袋さん、お前がいなくなった翌日、学校まで来てて、その時偶々声を掛けたアジョシの娘さんに声を掛けたらしい。お前の所為で職と住まいを失い、1日中娘を探していて金が底をついたそうだ」
「私だけの所為じゃないわ。こんな境遇に産んだオンマが悪いのよ」
「ヒョリン、だからって見栄を張る為に嘘を吐くのか?俺らを騙し、援交までして、よく皇太子妃に相応しいと思ってたよな?その自信はどこから来るわけ?」
「///煩いわね!!」
「今、アジョシの奥さんが病院に付き添ってる。これ以上、全く関係のないシン家の人たちに迷惑を掛けるな」
「シン家?」
「ああ、お前が癇癪起こして壊した携帯の持ち主の家族だ。お前に携帯壊されたと言うのに 困っている人を見捨てることはできないってさ。ヒョリン、俺はそれを知って、今までの自分を恥じたよ。アジョシやチェギョンに謝罪して、母親の元に戻れ。たった一人の親なんだろ?」
「・・・嫌よ。あんな貧乏ったらしい生活なんて、もうウンザリなのよ」
「ヒョリン!!」
「放して!オンマには、私は死んだと思ってくれって伝えて」

ヒョリンはインの脛を思い切り蹴ると、掴まれていた手を振りほどき、人混みを掻き分けて走っていった。

ヒョリン、逃げるな!!

インの叫び声を聞きつけたギョンとファンが駆け付けたが、もうそこにはヒョリンの姿も影もなかった。

「イン!!」
「すまねぇ。少し話して、アジョシの所に連れていこうとしたら、思い切り脛を蹴られた」
「イン、大丈夫か?」
「ああ。それよりアジョシに逃げられたこと言わないと・・・」

ギョンの肩を借りて、インはチェギョンの父親の元に向かい、見失った事を話した。

「・・・少しは話したんだろ?彼女は、何て言ってた?」
「それが・・・あんな貧乏ったらしい暮らしは嫌だ。死んだものと思ってくれって・・・」

インの話を聞いたチェウォンは、グッと拳を握りしめ、怒りを抑えているようだった。

「アジョシ・・・アジュマにどう説明したら良いんでしょう?」
「・・・娘さんは現れなかったと言うしかないだろうな。奥さんの事は、俺に任せておきなさい。君たち、時間を作ってもらって悪かったね。うちで一緒に食事でもして帰りなさい」
「ありがとうございます」

チェウォンに連れられて、イン、ギョン、ファンはシン家のお宅を訪問した。
小さな家だが、家に入るとその温かさに驚いた。
気温ではなく、人柄からくる温かい雰囲気が、家中から溢れている。

「いらっしゃい。今日は、お疲れさまでした。アッパ、どうだった?」
「現れなかったみたいだ」

3人は驚いたが、チェギョンに気づかないようにチェウォンが目配せしたので、黙って頷いた。

「そっか・・・アジュマに何て伝えればいいんだろうね」
「チェギョン、アッパに任せておけばいい」
「うん、お願いね。あっ、さっきシン君から電話があって、もうすぐ来るって」
「はぁ?何しにシン坊は来るんだ?」
「もうすぐアッパが3人を連れて帰ってくるって言ったら、『俺も行く』って・・・もうすぐご飯の用意できるから、もう少し待っててね」
「アッパも手伝うよ」
「良いわよ。疲れたでしょ?・・・・アッパ、アッパまで巻き込んじゃってゴメンね」
「気にするな。早く飯作ってこい」
「は~い♪」

チェギョンがキッチンに消えると、チェウォンはリビングのソファーに座るよう3人に勧めた。
そしておもむろに携帯を取りだすと、どこかに掛けだした。

「ヒョンか?俺だ。今日の話、どこまで聞いてる?」
『・・・・・』
「えっ、そうなのか?それって、俺らが押しかけていってもいいのか?」
『・・・・・』
「分かった。お前に任すわ。それより奥さん、入院しちゃったんだよ。今日は嫁が仕事休んで付き添ってるが、俺も嫁も仕事しないと生活できない。人一人、貸してくれ」
『・・・・・』
「はぁ?俺らは、もっと関係ねぇっつうの!!頼んだぞ。それからお前の息子、もうじきここに来るそうだ。飯、食わせるぞ。じゃあな」

通話中から気にはなったが、『お前の息子が来る』と言うフレーズで、チェウォンの通話相手が皇帝陛下だと確信してしまった。
チェギョンが、朝のホームルームで、祖父同志、父親同士が友人だと告白したのは噂で聞いていたが、いざ目の前でやり取りされると実感が湧いた。

「ヒョンが、翊衛士を出してくれてたみたいだ。運よく尾行に成功したらしいが、高級マンションに入っていったらしい」
「「「えっ!?」」」
「警察に通報するより宮が探った方が早そうだから、ヒョンに任せることにした。まぁ、すぐに解決するさ」
「「「・・・・・」」」
「ん?どうした?」
「いえ、噂で陛下と友人だとは聞いていたんですけど、事実だったんだなぁと思って・・・」
「ああ、ヒョン?親父同士が戦友兼親友だったんで、幼馴染なんだ。ス兄貴が死ぬまで、いつも3人でいつもつるんでた」
「だから、許嫁になったんですか?」
「・・・それ、俺の前では禁句だから」
「「「えっ!?」」」

急に機嫌が悪くなったチェウォンに緊張していると、シンが現れ、イン達はホッとした。

「「「シン!!」」」
「何で、お前たちがここに招待されてるんだ!?」
「「「えっ!?」」」

救世主に思われたシンにも睨まれ、イン達は完全に委縮してしまったのだった。

(シン、俺らは誘われたから来ただけだ。だから頼むから、俺らにその氷の視線を向けるな!)








選択 第54話

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シンと皇后はいろいろ話し合い、宮へ戻ることにした。
朝食の際、一緒に里に来たジテ、ソオン女医と主治医、そしてソ・イジョンにその旨を話した。

「皇后さま、少し顔色がよろしくありません。できれば後2~3日こちらにご逗留して、体調を整えてからお戻りになった方がよろしいかと・・・」
「ソオン医女、私より今はチェギョンが心配なの。ジフ君が忙しい今、チェギョンの体調を整えられるのは、私とシンだけでしょ?だから、帰るの。オジジ殿にバスの手配、お願いしてもらえないかしら?」
「・・・分かりました。お館さまにお願いしてみます」
「お願いね」


皇后とシンが、チェギョンの部屋で寛いでいると、オジジがやって来た。

「失礼しますよ。ソウルに戻られるとお聞きしました。残念なことに、今、里にはバスを運転できる者は一人しかおらんのです。その者もソウルには疎い。ですから、その者に扶余宮まで送らせましょう。殿下、宮に連絡を入れて扶余宮まで迎えに来てもらってください」
「はい、すぐに連絡を入れ手配します。ありがとうございます」
「・・・それから儂からの頼みなのじゃが、皇后さま、ある者に皇族を代表して一言言葉を掛けて、心の重しを少し軽くしてやってもらえんか」
「皇族としてですか?それは構いませんが、宮と関係のある方なのですか?」
「ちぃとばかりですが・・・誰かすまぬが、ペクさん夫婦をここに呼んでおくれ」
『かしこまりました、お館さま』

廊下から声が聞こえ、立ち去る足音が聞こえた。

「オジジ、そのペク夫婦は、宮とどのような関係があるのですか?」
「・・・ペク・チュンハの両親です。」
「ペク・チュンハ?・・・聞いたことのある名前だけど、誰だか思い出せない。オジジ、誰だ?」
「殿下は、ハギュンの口からきいたかもしれませんな。うちの姫を殺そうとして、ス殿下を刺殺した翊衛士です」
「「あっ・・・!!」」
「・・・宮に仕える息子を誇りに思い慎ましく生活していた夫婦が、ある日突然拉致され、息子は自分たちを守る為に天であるス殿下を刺殺してしまった。。。何の罪もない2人ですが、今も後悔の渦の中で生きています。勿論、皇后さまやシン殿下にも罪はありません。ですが、皇族を代表して、何か2人に言葉を掛けてやってください」
「是非、話をしなければ・・・こちらこそ会わせてください」
「皇后さま、ありがとうございます」
「・・・オジジ、ペク夫婦がここに来た経緯を教えてくれないか?」
「簡単な事じゃよ。あの当時、ペク夫婦を監禁していたソ・ファヨンの弟をソ一族は血眼になって探しておってな、2人は身を隠すしかなかったんじゃ。で、チェヨンがここに連れて来た」
「チェギョンのお祖父さんが?」
「そうじゃ・・・家の事情とはいえ、中途半端な形で宮を退官してしもうた儂。ス殿下の婚姻を断固反対しなかったチェヨン。ファヨンの本性を知っていたにも拘らず放置して、ス殿下を殺してしもうたハギュン。儂らが宮の為にできる唯一の罪滅ぼしじゃと思って、里で預かった」
「この事をチェギョンは?」
「勿論、知っておる」
「・・・オジジ殿、ずっと気になっていたことがあります。孝烈殿下は、表向きは事故死になっています。その元翊衛士の処分はどうなったのでしょう?今、どうしているのですか?」

皇后の質問にシンはハッとした。

(そうだ。ハギュンやソ王族の証言・供述で伯父上が刺殺された事実を知ったが、真犯人の処分はどうなったんだ?)

「・・・処分は、ス殿下自らがお決めになったと聞いております。『自ら死を選ぶことは許さない。私の代わりに生涯チェギョンを守れ。チェギョンの為なら死ぬことを許す。死後は、また私に仕えよ。先にあの世で待っている』」
「「!!!」」
「チェヨンの友人たちが協力しましてな。その筋のプロになるようアメリカに修行に出しました。姫が公の場に出る頃に戻ると聞いております」

(その筋のプロって、どんなプロなんだよ!?それよりチェギョンが公の場に出るって・・・そんな日が来るのか?)

『失礼します、ペクでございます。お館さまがお呼びと聞き伺いました』
「おお、ペクさんか?入っておいで」

オジジに促され、夫婦と思しき男女が部屋に入ってきた。

「ペクさん、皇后さまと話がしたかったんじゃろ?許可はもらった。話して、心の重しを少し軽くしなされ」
「お館さま、ありがとうございます。皇后さま、7年前息子が大罪を犯してしまいました。ですが、息子の所為ではありません。すべて私たちの責任です。本当に申し訳ありませんでした」
「ペクさん・・・頭を上げてください。あなた方には何の罪もないし、寧ろ宮のいざこざに巻き込んでしまい、こちらの方が申し訳なく思っています」
「皇后さま・・・」
「今回、多くの王族の不祥事が露見し、あなた方を拉致したソ一族も王族の称号は剥奪され、刑に服しています。もう身を隠す必要はありません。私達と一緒にソウルに戻りませんか?」
「・・・皇后さま。大変有難い申し出ではありますが、もう息子の足手纏いになりたくはありません」
「足手纏いだなんて・・・」
「いえ、シン家の皆さんの好意に報いるためにも 息子は誠心誠意姫さまを守ると私たちに誓いました。その息子の不安要素は、私達です。ですから、ここで生涯お世話になります」
「皇后さま、それに私たちはここの穏やかな暮らしが性に合っています。ここにいる村人たちの大半は、私たちの様な者ばかりなのです。ですから、私たちの事は気にせず、どうか元気な赤ちゃんを無事にご出産ください。それから姫さまをどうかよろしくお願いします」
「分かりました。チェギョンは、本当の娘にしたいぐらいに可愛いし、愛おしく思っています。私も命ある限り、チェギョンに愛情を注ぐことをあなた方にお約束します。勇気を出して会いに来てくれて、ありがとう」

皇后の言葉に ペク夫婦は平伏し、涙を流していた。

「ペクさんや、良かったのぉ。それからスマンが、時間になったら呼ぶから、皆さんを扶余宮まで送って差し上げておくれ」
「はい、お館さま。では、私たちはこれで失礼いたします」

ペク夫婦が部屋から出ていくと、オジジが皇后に頭を下げた。

「皇后さま、シン殿下、うちの姫は頑固者でのぉ。決して自分からは、お二人に会おうとはせんじゃろう。それでも気を悪くせんでくだされ」
「勿論です」
「シン殿下、ここから扶余宮は近道を通ればすぐなんじゃが悪路での。皇后さまの体には良くない。よって迂回することになる。迎えの到着時間の1時間半前にここを出発すれば間に合うじゃろう。時間が分かったら、ソオンに言っておくれ」
「はい。何から何までありがとうございます」


ペク・チュンハの父親の運転で里を出た一行は、扶余宮前で宮の公用車に乗り替え、宮へと戻った。
イジョンを伴って東宮殿に足を踏み入れたシンと皇后は、私室を見て愕然となった。

(チェギョンの私物が何もない!!チェギョン、本当にもう俺たちと会うつもりはないのか?!)




改訂版 開眼 第28話

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明日から夏休みという日の夕方、イン、ギョン、ファンは、シン家所有のマンションにやってきた。
マンション前で3人を待っていたのは、チェウォンの右腕であるウソンだった。

「クス、逃げ出さずによく来たな。会長がお待ちかねだ。行くぞ」
「「「はい!」」」
「ああ、先に言っておくが、今日の会長は相当機嫌が悪いから、あまり刺激するなよ」

それでなくても会長に対して怖いイメージしかない3人にとって、機嫌が悪い会長はもう恐怖でしかなく足が竦んでしまい動けなくなってしまった。

「クククッ、すまん、すまん。脅かし過ぎたか?会長の機嫌が悪いのは、お前たちの所為じゃない。安心しろ」

インとファンはユル同様マンション住まいになると思っていたが、ウソンが案内したのは母屋の方だった。

「親父さん、3人を連れてきました~」
「ウソンかい?お疲れさん。悪いが、離れの方に案内してくれないか?流石に3人母屋で預かると、狭いからね」
「了解です。こっちだ」

初めて割烹着姿の会長を見た3人は、呆然としながらウソンの後に付いていった。

「クククッ、あれが母屋での会長の姿だ。会長は、家庭に仕事は絶対に持ち込まない主義だからね。だが、マンションでの会長は、君たちが知っている会長だ。ニッコリ笑いながら大鉈を振るう。気持ちいいほどにね」
「あ、あの・・・俺たちは、何をさせられるんでしょうか?」
「ふふふ、俺の口からは言えない。忠告をするなら、その根拠のないプライドは捨てないと、君たち死ぬよ。さぁ、ここが君たち3人の部屋。その扉の向こうが風呂とトイレ。洗濯機は外だから。他に質問は?」
「あ、あの、キッチンが付いているという事は自炊をしろってことですか?」
「ん~、どこに放り込まれるかで変わってくるから一概には言えない。でも親父さんがいる時は、夕食だけは母屋で食えるはずだ。チェギョンが居れば、確実に飯にありつける筈なんだがな」
「えっ、居ないんですか?」
「今日は居ると思う。でも明日から避難。親父さんが、お前たちと同じ屋根の下に住まわすと思うか?でもこの話は、親父さんの前では禁句だぞ。一気にブリザートが吹き荒れるからな。それから隣は、チェギョンの部屋だ。絶対に覗くなよ」
「勿論です。シンにも釘を刺されてますから・・・」
「クククッ、今もだけど昔から二人は仲が良かったからね。陛下も皇后さまもチェギョンを溺愛してるし、今度、チェギョンに怪我させたら、命がないかもね。気をつけな」

ウソンが立ち去ると、3人はヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
しばらく放心したように座っていると、再びドアが開き、チェジュンが顔を出した。

「ようこそ、シン家へ。クスクス、何、呆けてんの?俺、ここの息子のチェジュン。ヒョン達、よろしくな」
「「!!!」」
「えっ・・・あっ、俺はチャン・ギョンだ。こちらこそ、よろしく頼む」
「あのさぁ・・・何事にもメリハリは大事だと思うんだよね。俺と親父は、こっちでは普通の家族として過ごす。だからあんた達も居候先のアジョシとその息子として俺たちに接して。でないと、身体が持たないよ」
「わ、分かった。努力する」
「クスッ、もうすぐ飯だってさ。着替えたら母屋に来て。親父、歓迎会だって張り切ってたから、すげえ豪華だと思うぜ。じゃ、先に母屋に行ってるね」

チェジュンが母屋に戻っていくと、3人は慌てて着替え母屋へと向かった。
母屋の玄関に入った瞬間、エプロン姿のシンと鉢合わせし、3人は固まってしまった。

「よっ!ここでは、働かざる者食うべからずだ。飯にありつきたかったら、お前らも手伝え」
「「「あっ、おう・・・」」」
「クスクス、シン君、今日だけは許してあげたら?相当、緊張してるみたいだし・・・いらっしゃい。チェギョンオンマよ。忙しいからあまり家にいないけど、今日からあなた達のオンマ代わりよ。困ったことがあったら、私に言ってね。さぁ、上がって、上がって」
「「「はい!」」」

通された部屋に入ると、テーブルの上には所狭しと料理が並んでおり、ユルとチェジュンが座っていた。

「な、何で二人は手伝ってないんだ?シンは、飯が食いたければ手伝えって言ってたぞ」
「俺は、向こうで散々働いてきたから免除。ユルヒョンは基本マンションの住人だから、母屋に来るときは客扱いなんだ」
「クスクス、でも後片付けはしてるよ。でも明日からは、動かないとね」
「じゃ、シンは・・・?」
「シンは、ここの家族扱いだから手伝って当然。アジョシとの掛け合いは、いつ見ても面白いよ。とりあえず、座りなよ」

言われた通りユルの隣に並んで座ると、チェウォン、シン、チェギョンが料理を運んできて、全員が席に着いた。

「改めて、ようこそシン家へ。今日は、細やかだが歓迎会だ。明日から頑張ろうな。さぁ、料理が冷めてしまう。食べようか」

チェウォンの言葉を最後に全員が食事を始めたが、シンとチェギョン、そしてチェジュンが仲良くおかずをご飯に載せあって食べていて、3人は箸が止まったままだった。

「クスクス、何驚いてるの?ほら、これなんてお薦めよ。食べてみて」

スンレがそう言って、3人のご飯の上におかずを載せてくれた。
ギョンは家でそんな事をされたことがなく、戸惑いながらご飯と共にそのおかずを口に運んだ。

「・・・美味い」
「でしょう?うちのアッパは、料理の天才なの。リクエストしたら、何でも作ってくれるわよ。これはね、サンチュに包んでこうして食べると美味しいのよ」

そう言って、今度はサンチュに包んだご飯とおかずを口の中に放り込まれた。
口いっぱいのおかずを咀嚼していると、シンとチェギョンも笑いながら同じように食べさせ合っているのが目に入った。

「チェギョンが作ったのも美味いけど、俺が作ったのもなかなかイケるだろ?」
「うん、うん。シン君、上達したよね」
「まぁな。東宮殿に家庭用のキッチンを作ってもらうから、時間のある時は一緒に作ろうな?」
「こ、こら~!!何を先走ってるんだ?俺は、まだ許した訳じゃないぞ」
「親父、いい加減腹括れよ。明日からなんだぜ?」
「姫や~、今ならまだ間に合う。アッパと旅行に行かないか?何なら、もう一度留学してもいいぞ。ん?」
「アジョシ、勘弁してくれ。皆、明日という日をどれだけ待ちわびてたと思ってんだよ。古株の宮職員なんか、涙流して、喜んでるのにさ」
「・・・ふん。絶対に嘘だね。あのババアが涙なんか流すかよ」
「最高尚宮のことか?最高尚宮は、何でアジョシからあんな素直で良い子が生まれたか不思議だと言ってるらしいよ」
「あのクソババア・・・」
「あのシン・・・一体、何の話なの?」
「ん?ああ、ファン。チェギョンが明日から宮に来てくれるんだ。俗に言う花嫁修業ってやつでさ♪」
「「「えっ~~~!!!」」」
「お前たち、煩いってば・・・それでアジョシがチェギョンを手放したくなくて拗ねてるんだ」
「拗ねてるんじゃない。嫌がってるんだ。何でお前たちと姻戚関係にならないといけないんだ?一生、縁が切れねぇじゃないか・・・いいか、お前たち。宮と縁を作ると碌なことがないぞ。絶対に作るなよ」
「クスクス、アジョシは、父上や叔父上と幼馴染なんでしょ?シンとチェギョンの縁がなくても、アジョシと宮の縁は切れなかったと思うよ。それからアジョシ、さっきから家庭用の顔じゃなくなってるから・・・」
「今はいいんだ。最愛の娘を心配する父親してるからさ。帰国してまだ1年も経ってないのに何で嫁に出さないとならないんだ?あり得ないだろうが・・・」
「ゴメンな、アジョシ。俺が、チェギョンと一刻も早く一緒になりたいって、陛下に言ったんだ」
「坊主、お前の所為か・・・それから坊主、プライベートでは親父・お袋と呼んでやれ。まさか、自分の子にも『陛下』や『殿下』と呼ばせるつもりじゃないだろうな?」

チェウォンに言われて、シンはハッとしてしまった。

「お前たち親子は、ホント不器用だよな。先帝の爺さんは、ス兄貴とヒョンにプライベートでは『父上』と呼ばせてたぞ。俺なんか侍従してた時も『おじ様・おば様』だったし?あのな、父親を父親と呼べない所に娘を嫁がせたいと思うか?少しは、心配してる俺とスンレの事も考えろ!」
「アジョシ、ゴメン。俺が間違ってた。ちゃんと父上・母上と言うように努力する。それから認めてくれて、ありがとう。チェギョンを大事にすると約束する」
「認めたんじゃない、諦めただけだ。シン家の人間は、皇族に弱いとつくづく思うよ。チェジュン、絶対に俺のようになるなよ。苦労するぞ」
「クスクス、了解。あっ、あんた達、今の話、宮から正式発表されるまで口外禁止だから。OK?」

イン、ギョン、ファンがコクコクと頭を縦に振ると、今までの会話が嘘のようにまた普通の団欒に戻っていった。
3人は、こんな賑やかで温かい食事は初めてで、徐々に緊張も解れてくると、この雰囲気を楽しんでいる自分に気がついた。

(キス現場を見た時からそうじゃないかと思ってたけど、やっぱりチェギョンが皇太子妃になるんだ・・・シンもシン家のこの温かさにやられた口なんだろうな)
(前に会った時と会長もチェジュンも全然違う。これが素の2人なんだろうな・・・)
(これが、家族の団欒ってやつなのか?じゃ俺の家は、あれは何なんだ?!)













改訂版 開眼 第29話

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食事が終わると、ユルやイン達が率先して、後片付けを行った。
そして明日からの打ち合わせを兼ねて、男性陣全員で母屋の風呂に入ることになった。
イン達3人は着替えを取りに行き、風呂場に行くと、余りの広さに驚いてしまった。

「ヒョン達、何、驚いてんのさ。御曹司ならこのぐらい普通なんじゃないの?シンヒョンは、そんなことなかったぜ」
「俺か?ここ、御用邸の風呂に似てんだよ」
「当たり前。似せて作ったから・・・宮で一番気に入ってた場所だからな」
「アジョシ、まさか宮の隅々まで知ってるんですか?」
「イン、愚問だ。アジョシは、正面から宮に来たことがない。フラッと来ては、正殿で平然と茶を飲んでる人だ」
「坊主、人聞きの悪いことを言うな!小さい頃から出入りしてたら、どこの警備が手薄かそのぐらい分かるっつうの。言っておくけど、ヒョンだって知ってるぞ。いつも一緒に抜け出してたからな」
「クククッ、アジョシ、最高!父上は、抜け出さなかったんですか?」
「ス兄貴か?兄貴は皇太子だったろ。お付きの人数が、ヒョンと全く違ったんだ。それでも数回は、抜け出して遊んだかな?」
「親父、皇太子まで唆してたのか?はぁ、最高尚宮さまが親父の事を煙たく思うのも仕方ないと思うぜ」
「チェジュン、そのぐらいじゃ最高尚宮も眉を顰めるぐらいで済む。アジョシはな、父上を風俗に連れてったんだ」
「「「「はぁ~~~!?」」」」
「シン、それマジ?アジョシ、凄すぎ・・・」
「色々、事情があったんだ。ユル、ヒョンより先にお前の親父、連れてったから。それも一回ずつだけだ」
「えっ!?父上もなの?」
「・・・宮はな、あり得ない儀式が多い。坊主、お前も知ってるだろ。婚姻の最後の儀式。あれさ、結構克明に記録されるって知ってたか?不名誉な記録が後世まで残らないように俺は協力しただけ」
「えっ、親父。それって、初夜を記録されるって事か?」
「当たり。俺は、娘を皇太子妃にさせたい親が理解できねぇ。娘の情事が後世まで残されるなんて、想像するだけでも嫌だっつうの!」
「・・・親父、まさか反対してる理由はこれか?」
「悪いか?」

悪びれることなく肯定するチェウォンに 全員が声を出して笑った。

「アジョシ、まさかシンも風俗に連れていこうとしてる・・・・とか?」
「はぁ?ギョン君、何で娘婿になろうとしてる奴に俺が伝授しなきゃならないんだ?!うちの可愛い姫には、いつまでも純潔でいてもらう」
「親父・・・可哀想だが、もうシンヒョンはヌナに手を付けてるぜ。そうでないと、急に婚姻の話が出てくるわけないだろうが・・・」
「///チェジュン!!」
「えっ!?チェジュン、どういう事だ?坊主、チェジュンの言った事は本当か?」
「・・・アジョシ、ゴメン。言っておくが、レイプじゃないぞ。合意の上・・・あ、アジョシ?」
「親父!!ヒョン達、親父を風呂からあがるの手伝ってくれ」

6人掛かりでチェウォンを脱衣所まで連れていくと、チェジュンは母親を呼びに行った。
そしてスンレから冷たい水を飲ませてもらったチェウォンは、やっと正気に戻り、シンを睨みつけた。

「坊主、ヒョンを呼べ」
「あなた、少しは落ち着いてくださいな。とりあえず服を着て、場所を移しましょう」

スンレに促され、全員服を着て、居間に集合した。

「・・・スンレ、チェギョンは?それと、お前も知ってたのか?」
「チェギョンは、自分の部屋に行かせたわ。それから毎晩のようにシン君来てたから、あなたも知っているものとばかり思ってたのよ」
「来てたのは知ってたさ。だが、皇族には法度がある。まさか、それを破るとは思わなかった。坊主、ヒョンは何て言ってるんだ?」
「一度知ってしまったら、我慢できない気持ちは分かる。自分も婚姻を早めてもらったからな。だが妊娠だけは避けろ。必ず避妊するように」
「はぁ?アイツ・・・スンレ、チェギョンは何て言い訳してるんだ?」
「言い訳って・・・嬉しかったそうよ。あの子ね、シン君の事は忘れてたけど、写真の男の子と結婚の約束したことは覚えていたそうよ。留学中、その男の子と約束だけが心の拠り所だったって」
「・・・そうか、分かった。坊主、俺からも言う。婚姻までは、必ず避妊しろ。それからチェギョンをよろしく頼む」
「はい、必ず幸せにします」
「あとは、俺とヒョンで話をする。だから任せておけ。これで、この話は終わりだ」

収まるところに収まったようで、一同がホッとした時、チェウォンはニヤリと笑った。

「明日のスケジュールだが、4時半に庭に集合して作業してもらう。そして午後からは、受験勉強の時間に充てる。寝坊した時点でアウトだから、早く寝た方が良いぞ」
「「「げっ・・・おやすみなさい」」」

イン、ギョン、ファンが、慌てて離れの部屋に戻ると、チェウォンはお腹を抱えて笑った。

「クククッ・・・必死だな。チェジュン、2台用意した。お前は、坊主とユルと組め。で、あの3人に1台を任せろ」
「鬼だな・・・最初ぐらい手解きしてやれよ」
「明日は、宮にチェギョンを連れていく大事な仕事があるから無理だな。お前が、レクチャーしてやれ」
「マジかよ・・・アイツら、絶対倒れるぞ」
「ジュンピョは、飲まず食わずで5日はもった。3人で知恵を出し合えば、3日で稼げるようになるさ」
「・・・恐るべしシン家の教育方針。。。」
「ヒョンは当然だが、ス兄貴も早朝、宮を抜け出して手伝ってくれた仕事だ。2人とも気持ちを引き締めてやれ」
「「はい!」」

シンとユルが母屋を出て行こうとすると、チェウォンが呼び止めた。

「坊主、お前、今から宮に戻るつもりか?ここに泊まればいいぞ」
「えっ、初めから泊まるつもりだったけど?じゃ、チェギョンが待ってるから、アジョシお休み」
シン~~!やっぱり許さ~ん!!チェギョン姫や~、今なら間に合う。考え直すんだ~~!!

チェウォンの絶叫にスンレ達は耳を塞いだが、シンはクスクス笑ってチェギョンの部屋に消えていった。

(シンヒョン、俺がバラしちまったんだけど、これ以上親父を煽るような真似すんなよ。明日から虐められても俺は絶対に知らないからな)

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