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Channel: ゆうちゃんの日記
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選択 第55話

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シンと皇后はしばらく唖然としていたが、すぐに気を取り直しコン内官に経緯を聞き出そうとした。
イジョンもその場から少し離れて、携帯でウビンに連絡を入れる。

「昨日の事でございます。突然、シン元内官が数人を引き連れてやって来て、チェギョン様の荷物を引き取っていきました」
「アジョシは、何か言ってたか?」
「はい。そろそろ潮時だから撤退すると。ただミン・ソオンだけは皇后さまのご出産が終わるまで宮に滞在させてほしいと言っておりました。後、手がけている工事に関しては、イルシム建設が責任を持って行い、神話がスタッフを連れてくるから心配する必要はないとのことです」
「シン、いいか?ウビンと連絡が取れた。ソウルに戻った件は、すべてソングループに引き継いで落着したらしい。ただ今回も逆恨みの対象になりそうだとは言ってた」
「・・・可哀想に」
「皇后さま、こんな事で同情するならアイツは支えられませんよ。逆恨みなんて日常茶飯事ですからね。実際、処分された王族たちも相当恨んでると思いますよ。宮に関わってからは、チェギョンのSPは厳戒態勢だそうです」
「宮の所為で・・・」
「皇后さま、チェギョンは宮を恨むような奴じゃない。寧ろ、皇后さまやシンに出会えて、感謝してるんじゃないですか?アイツはそういう奴だと思いますけど?」
「・・・イジョンヒョン、チェギョンが心配だ。今、どこにいるんだ?」
「シン、それを知ってどうする?」
「勿論、迎えに行く。ジフヒョンが付いてなかったら、多分3日寝てないと思う。倒れてないか心配なんだ」
「・・・迎えは無理だな。チェギョン、今、飛行機の中だし・・・当分、帰ってこない」
「えっ!?」
「ジフの祖父さんが同行して、毎年恒例の海外に行ったってさ。今年は、大人になった祝いも兼ねてるらしいから、長くなるかもって話だ」
「何だ、それ?」
「生理が来たんだろ?そのお祝いだってさ。アイツさ、昔、海外でも人助けしてんだわ。で、そこから毎年、招待されてるってわけ」

シンと皇后は、改めてチェギョンのスケールの大きさに驚いてしまった。

「シン、ウビンが家庭教師どうするか聞いてくれってハギュンさんから頼まれたらしい。今後も続けるのか、それとも学校に行くのかって事だな」
「えっ・・・家庭教師は、今後もチェギョンと一緒に続けるって伝えて。俺、頑張るからさ」
「分かった。それからお節介だけど、ウビンにチェギョンが帰国したらシンに教えてやれって言っておいた」
「イジョンヒョン、サンキュ」
「じゃ、俺行くわ。今、すっごく創作意欲が沸いちゃっててさ。しばらく利川に籠るわ。皇后さま、ご一緒できて楽しかったです。元気な赤ちゃんを産んでください。楽しみにしています」
「ええ、貴方もありがとう。素敵な茶器ができることを、心待ちにしています」

イジョンはニッコリと笑うと、東宮殿から出て行った。
そして皇后はシンを伴い、皇太后に帰宮の挨拶をするため、慈恵殿へと向かった。

「皇太后さま、ただ今戻りました。長い間、宮を空けてしまい申し訳ありませんでした」
「ミン、よく戻りました。体調も良さそうで何よりです」
「ありがとうございます。皇太后さま、以前お話させていただいた件ですが、実行に移そうと思います」
「・・・最高尚宮、皆を下がらせておくれ」
「畏まりました」

慈恵殿の皇太后の私室に 皇太后、皇后、シン、そして最高尚宮だけが残った。

「扶余の里でシンと色々話をしました。それでシンも私の意を汲み、了承してくれました。チェギョンをこの子のナニーに任命します。皇太后さまもどうかお認め下さい」
「それは願ってもない事ですが・・・シンにチェギョンとの縁については説明したのですか?」
「はい。その事なのですが、まだシンの成人の儀まで時間があります。それまでは、シンに考える時間を与えてやってほしいのです」
「では、考えた末、やはり白紙という結論も有るという事かえ?それでは、チェギョンが余りにも可哀想というものじゃ」
「皇太后さま、母上から聞きましたが、先方に断られもう白紙に戻っているのではないでしょうか?」
「それは・・・そうじゃが・・・諦めきれぬのじゃ」
「もし俺がこの婚姻を受け入れてもシン宗家は認めるとは思いません。正直、シン宗家当主、チェギョンと婚姻は相当な覚悟が要ります。はっきり言うと、荷が重い」
「シンや、そなたはこの国の皇太子じゃ。なのに・・・」
「おばあ様!中身の伴っていない名ばかりの皇太子で、シン宗家の皆さんが納得するとお思いですか?」
「それは・・・」
「それと母上とも話したのですが、チェギョンに必要なのは家族と過ごす心休まる時間です。だから生まれてくる赤ん坊を通して疑似家族になるつもりです。どうかご理解ください」
「義母上さま、シンもですが、チェギョンもシンを愛してくれるか分かりません。私は、2人には愛する人と幸せになってほしいと思っています。どうかご了承ください」
「・・・分かりました。私も2人には幸せになってほしい。シン、時間が許す限り考えなさい」
「はい、ありがとうございます」

その後、皇太后に扶余の里の話をしながら、お茶を飲んでいると、皇后付きのハン尚宮が挨拶に来た。

「皇后さま、殿下、お帰りなさいませ」
「ハン尚宮、ただいま。留守中、何か変わったことはなかった?」
「はい、陛下もヘミョンさまも恙なく公務に励んでおられました」
「ヘミョンが?」
「はい。イ元尚宮が、里に行く前に公務に必要になるだろう資料や情報をヘミョンさまに渡していたようです」
「イ女史がですか?」
「はい。外命婦の集まりの際は、季節の菓子から使用する器まで詳細に指示してあったそうです」
「・・・きっとチェギョンね」
「それから、先程イ元尚宮が、別れの挨拶をしに来ていました。本日付でシン宗家の方達は、宮を撤退するとのことです」
「「!!!」」
「・・・やっぱりね。そんな予感がしていたわ。ハン尚宮、正直に答えてちょうだい。チェギョン達がいなくなっても宮は機能していけると思う?」
「・・・シン元侍従長さまやハギュンさまが職員の意識改革をされ、皆意欲的に働いています。ですが、今のようにスムーズに事が運べるとは思えません。ユン尚宮とキム内官は、もうすでにパニックに陥っていると聞きました」
「はぁ・・・最高尚宮、女官はどうなのかしら?」
「はい、皆、精を出して頑張っております。ですが、人手不足とこの暑さで、皆、疲れが見えます」
「どちらも困った状態のようね。最高尚宮、女官たちのフォローを頼みます。私は、ユン尚宮とヘミョンのフォローに回りましょう。シン、貴方はコン内官と一緒に陛下の補佐に回ってちょうだい」
「はい」
「畏まりました」
「皇太后さま、では先程の件、よろしくお願いします」

皇后は、最後にもう一度、皇太后に念押しをして、慈恵殿を出て行った。

(元から聡明な女性じゃったが、何か強さまで加わったような・・・シンもじゃ。何を言っても暖簾に腕押しだったのにしっかり自分の意見が言えるようになった。扶余の里は、そこまで人を変える事ができる所なのじゃろうか?)













心の扉 第16話

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緊迫した居間の雰囲気を破ったのは、フラッと部屋に入ってきたチェジュンだった。

「ヒョン、来てたの?道理でデジが張り切って、料理してる筈だわ」
「チェジュン、いい加減にしないとその口縫うぞ」
「親父こそ、いい加減諦めろって。恨むなら、祖父さんにデジの子守りをさせた自分を恨めよな」
「あああ、クソッ。親父も先帝の親父に嵌められたんだよ。あの狸爺、いたいけな少女の言質まで取りやがって・・・お前たち、今なら引き返せる。絶対に宮に関わるな。苦労するぞ。経験者は語るだ」

チェウォンが、顔を顰め嫌そうに話す言葉は、明らかに皇族の悪口。
イン達は、シンの前で同意することもできず、ただ茫然と座っていることしかできなかった。

「クククッ、アジョシ、おじい様をそう責めないでください。俺のお願いを聞き入れてくださっただけですから・・・」
「先帝の親父は、シン坊を可愛がってたからな。ス兄貴が生きてる時から、シン坊には天が付いているって断言してたし・・・」
「えっ!?」

シンがチェウォンに問いただそうとした時、キッチンから皆を呼ぶチェギョンの声が聞こえた。

「飯の用意ができたみたいだな。移動しようか」

キッチン横の両親の部屋に大きめのテーブルが置かれ、テーブルの上には所狭しと料理が並んでいた。
テーブルの周りに腰を下ろすと、チェギョンはチゲの入った鍋を持って現れた。

「お待たせ♪口に合うか分からないけど、良かったら食べてね」
「デジ・・・何だかいつもよりあっさり系のおかずが並んでるような気がするのは俺だけか?」
「///えっ!?」
「チェジュン、ムカつくがシン坊の事を考えた料理だ。皇族はな、辛い物を食べ慣れてない。先帝の親父はそうでもなかったが、ヒョンもス兄貴もトウガラシが全くダメだった。シン坊も多分そうなんだろう?」
「///あっ、はい。辛味だけじゃなく味の濃い料理は、食べ慣れてないかもです。でもチェギョン、何でその事知ってるんだ?」
「ん~、この間、お昼ご飯ご馳走になった時、赤い色の料理がなかったから、こっそり女官のオンニに聞いたの。素材の味を生かす料理しか出さないって・・・だから苦手なんだろうなって」

シンはチェギョンの言葉に嬉しくなって、思わずギュッと抱きしめてしまった。

「シン坊、そういう事は2人の時にやれ!親の俺の前でするんじゃねぇ」
「すいません。つい嬉しかったもので・・・折角の料理が冷めちゃいますよ。早くいただきましょう」

チェギョンがシンがご飯をよそったスプーンの上におかずを載せると、シンは嬉しそうに口に運ぶ。
イン達は、学校とは全く違うそんなシンの姿に驚き、口をポカンと開けたまま箸が止まってしまっていた。
そんなイン達を苦笑いしながら見ていたチェウォンは、3人に食事を勧めるのだった。

しばらくすると、玄関の扉が開く音がし、女性の声がした。

「オンマが帰ってきたみたいだな。ああ、君たち、気にしないで食べな・・・ヒョン!!
「「「えっ!?」」」
「チェウォン、酒持ってきたぞ。久しぶりに飲もう♪シンを呼ぶなら、私も呼べよ。友達甲斐のないヤツだな」
「俺は呼んでねぇ。シン坊も勝手に来たんだ。ホントお前は、相変わらず我が儘だなぁ。チェギョン、グラスと箸を持って来てくれ」
「は~い♪おじ様、いらっしゃい。ゆっくりしてってくださいね」
「チェギョンは、昔から可愛かったが良い子に育ったなぁ。スンレさんに似て、ホント良かった。うん、うん♪」
イ・ヒョン、お前は帰れ!!
「クククッ、冗談だ。少しだけ真面目な話をする。先程の話だが、今日は最長老に頼んだが、宮が人を出すと例の子とシンが関係があると邪推されかねん。明日からは、完全看護にしてもらえるよう手配した」
「・・・分かった。明日から、学校帰りにチェギョンに病院に行かせる」
「役に立てなくて悪いな。おっ、懐かしいな、このおかず。誰が作ったんだ?」
「チェギョンだ」
「チェギョンは料理ができるのか?」
「うちは共働きだから、時間があればチェジュンも簡単なものなら作ってくれるぞ」
「・・・シン、東宮殿に家庭用キッチンを作って、チェギョンに料理を作ってもらおう♪う~ん、我ながらいい考えだ。楽しみが増えるぞ」
「ヒョン、ちょっとは落ち着け!!チェジュン、いつものお膳を持ってきてくれ」

チェジュンが持ってきたテーブルに数品のおかずとお酒、グラスを置くと、それをヒョンの前に置いた。
そして大きなテーブルはチェジュンとチェギョンによってリビングに持っていかれ、子ども達はそこで食事することになった。

「・・・シン、陛下ってとてもフレンドリーな人なんだな」
「イン・・・無理するな。最近の陛下は、俺でも付いていけない。かなりぶっ飛んでる」
「クスクス、ヒョン、この間、おじ様と抱き合って万歳三唱してたじゃん。俺からしたら、ヒョンとおじ様はよく似てるぜ」
「「「えっ!?」」」
「///チェジュン!」
「クスクス、陛下とアッパって、本当に仲が良いのね。ビデオを見て陛下の御爺ちゃまの顔を思い出したけど、御爺ちゃまはよく我が家でお酒飲んでられたわよ。御爺ちゃまの膝の上が、私の指定席だったの」
「本当に家族ぐるみの関係なんだな。。。でも何で今まで黙ってたんだ?」
「・・・忘れてた。宮で再会して徐々に思い出した」
「「「はぁ!?」」」
「クスクス、実は私もなの。男の子2人と遊んでた記憶はあるんだけど、それがシン君とは思わなかったの。だって全然印象が違うんだもの」
「なぁ、昔のシンってどんな感じだったんだ?」
「///チェギョン、言うな!」
「ふふふ、可愛い王子さまだったわよ。いつも手を繋いでた記憶しかないけどね」
「プクククッ、ヒョン、昔から変わらないんだ。この間、俺の前でもずっと手繋いでたもんな」
「///チェジュン!!」

シンとチェジュンの掛け合いのような会話を目の前にして、イン達3人は微笑ましく思った。

「シンもそんな表情するんだね。僕、初めて見たかも・・・」
「ん?そうか?・・・まぁ、シン家の人って俺たちを一人の人間として接してくれるから、楽なのは確かだな」
「それは、シンを皇太子って見てないってこと?」
「多分な・・・」
「ちょっと人聞きの悪い事言わないでよ。一国民として宮を愛してるし、皇族の皆さんを尊敬してます」
「そうか?初めて皇太后さまに呼ばれた日、俺と友達になってやってくれって言われて即断したのは誰だった?」
「「「えっ!?」」」
「それは・・・だってあの時は、本当にお友達なんて無理だと思ってたし・・・」
「クククッ、あの日のデジ、がっくり肩を落として家に帰って来てさ。親父は、デジに何があったのかってオロオロしだして、最後は俺が直接断ってきてやるって大騒ぎだった」
「・・・これも全部、お前たちの所為だからな」
「「「えっ、俺たち?!」」」
「お前たちの傲慢な態度を見てきたチェギョンは、俺も同じ穴の貉で絶対に友達にはなりたくないって思ってたんだ」

それを聞いた3人は、思わずシンとチェギョンに頭を下げ謝罪した。

「あのさぁ・・・あんた達、ヒョンの事、皇太子だって意識しすぎ。だから皇太子の学友だって自慢したくなるんだ。学校ぐらいイ・シンとして接してやれよ。ヒョンもさぁ、少しこの人たちに心を開いてたら、変な女に絡まれることはなかったと思うぜ」
「・・・なぁチェジュン、お前はシンを皇族と意識してないのか?」
「俺?俺にとったら、ヒョンは姉貴の未来の旦那でしかない。ただ姉貴やヒョンに迷惑を掛けないように心がけるのが面倒だなとは思ってる。おそらく親父が反対したのは、この辺りだと思う。俺らがバカなことをしたら、即マスコミにデジが叩かれるからな」
「チェジュン・・・ゴメンね」
「気にすんな。俺たちは、デジが幸せなら満足だ。ちょっと変わった所にビックリするぐらい早く嫁ぐだけだ」

にやりと笑うチェジュンと涙ぐむチェギョン。
そんな姉弟の姿を見て、イン達は己の間違いを改めて感じたのだった。




選択 第56話

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シンは、新しく作られたシン用の執務室にコン内官と向かった。
部屋には、大きな執務用のデスクとソファーセット、それからがら空きの本棚があった。

「コン内官、まず最初に何から始めたらいいんだ?」
「はい。まずは王族会の面々を覚えていただきます。それと同時に今、陛下が取り組んでおられた案件や放置されていた案件の把握をお願いします」
「・・・分かった。ところで、この机の上にあるボックス、チェギョンが100均で買った物だろ?何で、ここにあるんだ?」
「一番左から説明します。至急決済してほしい書類、至急目を通してほしい書類、決裁してほしい書類、目を通さないといけない書類を入れる箱でございます。今まで分類されておらず、書類が積み重なり雪崩を起こしていたようで、チェギョン様が置くように命じられました。お蔭で、陛下の執務も以前より捗るようになったようです」
「・・・たったこれだけの事で・・・他に執務で変更になったことは?」
「はい。資料や案件はすべてパソコンに入力されるようになり、必要な書類のみプリントアウトして保存することになりました。これで必要な書類を探す手間が省けるようになりました」

法度を重んじ、昔のやり方を通していたことが、現代の情報社会では後れを取って当たり前。
こんな事にも気づかずにいたのかと、シンは呆れて溜め息が出てしまった。

「殿下?」
「コン内官、歳をとると頭が固くなり、融通が利かなくなる。今の宮が、そうなんだろうな。良い物は、臨機応変に何でも取り入れていこう」
「はい、殿下」

それからシンは、宮が取り組んでいる案件の資料や王族たちのプロフィールに目を通す毎日を過ごすことになった。


一方、皇后も水面下で計画を進めつつ、ヘミョンのフォローにあたっていた。
ヘミョンにイ女史から渡された資料を見せてもらい、益々チェギョンが欲しくなった。

「ヘミョン、これからはあなたが指示を出し、全てを決めなければならないわ。もっと精進しなさい」
「えっ!?そんな無理よ。お母さま、イ女史を呼び戻してちょうだい。お母さまならできるでしょ?」
「無理ね・・・第一、イ女史はチェギョンの指示を渡してただけだと思うわよ。この外命婦の指示は、宮にある茶器を把握している者でないとできないわ。イ女史が、知っている筈ないもの」
「あっ・・・」
「チェギョンの故郷の食器庫は、もっと細かに分類されて宮の倍以上の食器が保管されていたわ。きっとそれも全て把握しているんでしょうね。それにチェギョンの人脈の広さは、計り知れないわ。こんな私的な事柄を知っているのもチェギョンだからだと思うわよ」

皇后が指摘した箇所には、赤十字の理事の一人に初孫ができ、難産だったため母親は未だに入院していると記されていた。

「ヘミョン、貴女は皇女ということに胡坐をかいて、いざ皇女の役割を果たせと言われるとできないと言う。未熟者と言われても仕方ないわね」
「お母さま、どうしてあの子と比べられないといけないわけ?」
「不満?チェギョンは、私達女性皇族が執り行う行事もおじい様亡き後一人でしてくれていたそうよ。皇太后さまに聞いて、シン家に任せている行事を聞いてきたわ。これがそうよ」

行事のリストを見せると、ヘミョンはあまりの多さに驚いてしまった。

「チェギョンは学校にも通わず、シン宗家を束ねながら行ってくれていたの。行く行くはシンの妃になる者が取り仕切るでしょうが、今は私の代わりにヘミョンが先頭だってしてほしいの」
「すべてを犠牲にしてでもですか?」
「貴女が何を犠牲にしてきたと言うの?国民の税金で遊学してきて、まだ権利だけを主張するの?我が娘ながら付き合いきれないわね。一度、シンと一緒に机を並べて勉強してみたら、チェギョンの凄さが分かるわ。ユン尚宮、明日シンのスケジュールを調べて、ヘミョンに同行させなさい」
「畏まりました」
「最後に言っておきます。己の未熟さをしっかり把握し、ありのままを受け入れなさい。そうでないと前に進めませんよ」

翌日、ヘミョンはシンと同じ時間に書筵堂で一緒に講義を受け、己のあまりの不出来さに落ち込んだ。

「クスクス、姉上、大丈夫?」
「シン、貴方を尊敬するわ。本当にフランス語で数学の勉強してたんだ。私なんてチンプンカンプンだった」
「数学はまだマシだよ。それに頑張らないと、チェギョンに追いつけないし・・・」
「嘘っ・・・チェギョンの方が進んでるの?」
「チェギョン、俺がフランス語をマスターするのを待ってくれてるんだ。次は、ドイツ語かポルトガル語だってさ。俺、こんなに必死に勉強するの初めて。でも学校で学ぶより楽しいよ」
「そう・・・」
「姉上、どうしたの?」
「昨日、お母さまに怒られちゃって・・・」

ヘミョンは、シンに昨日の皇后とのやり取りを話した。
最初は驚いていたシンだったが、コン内官にキム内官を呼びだすように言った。
しばらくすると、キム内官が陛下の執務を抜けてやって来た。

「キム内官、忙しいのに呼び出してゴメン。チェギョンのシン宗家のデータ、キム内官の事だから内緒でダビングしてるんじゃない?持ってたら、見せてほしいんだけど・・・」
「えっ・・・畏まりました。ですが、絶対に秘密でお願いします」
「チェギョンなら、知ってて黙ってた筈。さぁ、見せて。姉上、今からお見せするのが、チェギョン率いるシン宗家の全貌」

キム内官から渡されたUSBをパソコンに繋ぐと、シンはヘミョンに自由に見るように言った。
ヘミョンは色々なフォルダーを開くと、食い入るように見つめていた。

(たった13歳の少女が、これだけの施設を管理してるですって!?それにこの年間スケジュール、祭祀だけでこんなにも・・・)

「言っておくけど、チェギョンはお飾りじゃないよ。ここで3ヶ月近く一緒に暮らしたけど、寝る間もないほどあちこちに指示を出したり、勉強してた。俺が誘わないと、毎晩寝ようとしなかったよ。その合間に宮の再建もやり、皇后さまの体調を気遣ってた。チェギョンが居なかったら、皇后さまはここまで元気にならなかったと思う。それほど扶余の里では丁重にもてなされたよ」
「シン・・・これが、お母さまが言われた己の力量を知れって事なのね」
「多分ね。。。でもウビンヒョンに、チェギョンは別格だから自分と比べて落ち込む必要はないって言われたことがある。ヒョン達も高校までは後継者のプレッシャーから悪さ三昧だったみたいだけど、チェギョンに出会って覚悟ができたんだって。チェギョンは、3歳から当主の道を歩んでるから覚悟の程が俺たちとは違うってさ。今まで、チェギョンとその人脈で、宮は守られていた。チェギョンが居なくなったこれからが、俺たち皇族の力量が試される正念場だと思ってる。姉上も俺も性根を据えてお互い頑張ろうな」

ヘミョンの完敗だった。いや、次元が違い過ぎて、競う事もできそうにないと思った。

「・・・チェギョンさぁ、姉上がチェギョンに反感を持っている事知っていたよ。アイツ、人懐っこく見えるけど、実際は警戒心の塊のような奴だからさぁ、そう言うの敏感なんだ」
「私、シン宗家に宮を乗っ取られるんじゃないかって・・・」
「はぁ、何でそんな勘違いを・・・姉上、『企業との取引・契約商品』というフォルダーを開いてみろよ」

ヘミョンは、言われたフォルダーを開き、宮の一覧表を探し当てた。

「これ見て、どう思う?宮は、シン宗家に完全に依存してるのが分かるだろ?シン宗家が乗っ取るつもりなら、とうの昔に乗っ取っていたさ。でもその気がないから、今まで個人的に宮と関わろうとしてなかった。チェギョンを宮に引き込んだのは、最長老と皇太后さまだ。恨むなら、2人を恨め。でもチェギョンが動いてくれたお蔭で、宮の膿を取り除くことができたのも事実。姉上は、国民から疎まれ税金泥棒扱いの宮の方が気楽で良かったか?そう思うなら、皇籍離脱しろよ。迷惑だ」
「シン・・・」
「母上が、不甲斐無い姉上を見てどれだけ心を痛めてるか・・・皇女でいたいなら、いい加減その自己中な考えは捨てろよ。勉強の邪魔だ。出ていってくれないか?」

書筵堂から追い出されたヘミョンは、皇后やシンに怒られ、改めて己の不甲斐無さを痛感した。
でもいくら努力しても自分に皇后代理が務まるとは思えないし、自信もなかった。

(もっとしっかりしないといけないことは分かってる。でもユン尚宮だけでは・・・もう一人、イ女史のような信頼できる優秀な人が欲しい)



選択 第57話 

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海外から帰国したチェギョンは、宮で過ごす前の生活に戻っていた。
少し違うのは、チェジュンやカン・テジュンとの時間が増えたぐらいで、毎日点滴を受けながら各方面に指示を出していた。

(チェジュンも頭の良い奴だけど、チェギョンはけた違いだ。でも毎日点滴って・・・ここまでしないと当主は務まらないってことなのか?周りの人間ももっと気遣うとか、少し休ませるとか、何でしないんだ?)

テジュンが不満を抱えながら、ハギュン達の雑用をしていると、ハギュンの携帯が鳴った。
着信を見て顔を顰めながら携帯に出たハギュンだが、切った後は深刻そうにチェギョンを見た。

「チェギョン、ミン・ソオンからだった。産気づいて入院されたそうだ。お前を待っておられる」
「えっ・・・そう・・・」
「・・・チェギョン、後悔しないためにも行って会ってこい。最後の機会になるかもしれないんだぞ」
「・・・・・」
「チェギョン!!」
「アジョシ・・・分かった。行ってくる。車の用意してちょうだい」
「玄関でウビンが待っている」
「ありがとう」

チェギョンが玄関に走っていく姿を見送ると、チェジュンはホッと溜め息を吐いたが、ハギュンは険しい顔のままだった。

「やっと行ったね。。。アジョシ、顔が複雑そうだよ」
「個人的には、宮とはビジネス上の付き合いだけで、縁を切りたいと思ってるからな。だが、ジフがいない今、ここではもう限界が来てた。究極の選択ってやつだ」
「ふふ・・・でもさ、ヌナ、ずっと皇后さまの体調を気にかけてたよ。気になるなら行けばって言ったら、行きたくても行けないってさ。辛そうで、これ以上聞けなかったんだけど何で?」
「・・・そりゃ、ヒョンとスンレさんの所為しかないだろう」
「だよね・・・テジュンヒョン、ヒョンの疑問に答えるよ。ヌナは両親の所為で、心許した人間が添い寝をしないと眠れない。魘され、呼吸困難に陥るんだ。俺が知る限り、ヌナが安心できる人間ってジフヒョンと皇后さまとシン殿下ぐらいだと思う。だから最近、寝不足で点滴が欠かせないんだ」
「そんな・・・ハギュンさん、何で病院で治療しないですか?」
「それはカウンセリングを受けさせろって事か?」
「はい、そうです」
「信頼できる医師がいないから無理だな。チェギョンのトラウマの原因は、すべて犯罪絡みで内密に処理してある。警察に届けられたら困るんだ」
「そんな・・・チェギョンの体の方が大事なんじゃないですか?」
「3歳の時に母親に首を絞められた所為で、眠れないと告白させろって言うのか?」
「えっ!?」
「まだあるぞ。。。自分を庇って、2人の人間が目の前で刺殺された所為で眠れないと言ったところで、医師はどうアドバイスしてくれるんだ?それに医師がチェギョンに触れた瞬間、もうカウンセリングにならないだろうよ」
「・・・・・」
「刺殺事件の一つは宮絡みだ。絶対に世に出すわけにはいかない。そしてもう一つは、身内で被害者は先代だ」
「えっ!?」
「だからチェギョンには可哀想だが、自力で乗り越えてもらうしかないんだ。お前たちは、おとなしく勉強でもしておけ」

テジュンは、チェギョンの余りにも悲惨な過去を聞き、言葉を失ってしまった。
そして初めて会った時にチェジュンが、自分も犯罪者の息子だと言った意味をやっと理解した。

(チェジュン、お前も辛い立場なんだな。。。チェギョンは俺では役不足だけど、お前は俺が支えてやる)



チェジュンとテジュンが男の友情を分かち合っている頃、チェギョンは宮内病院の皇族専用入り口に着いた。
そこでハン尚宮が涙を浮かべながら、チェギョンを出迎えてくれた。

「ハン尚宮オンニ・・・皇后さまは?」
「今、陣痛に耐えておられます。皇后さまがお待ちです。急ぎましょう」
「はい。よろしくお願いします」

チェギョンは、病室に入るなり、陣痛で苦しむ皇后に駆け寄った。

「皇后さま!分かりますか?チェギョンです。頑張ってください」
「姫さま、皇后さまがお腹に力を入れないように深呼吸を促してちょうだい」
「分かった。ソオンオンニ、他には?」
「水分をこまめに摂るのと、陣痛が来たら腰を擦ってあげて」

陣痛が落ち着くと、皇后はチェギョンの手を握った。

「こら、家出娘!何も言わずにいなくなるなんて、どれだけ心配したと思ってるの?もう黙って、居なくならないでちょうだい。ホント心配で眠れなかったんだから・・・」
「おば様・・・ごめんなさい。シン君もゴメンね」
「本当だ。ちゃんと眠れてないんだろ。無理しやがって・・・母上の出産までは我慢しろ。後で、添い寝してやる」
「うん♪」

シンとチェギョンは、交代で皇后の腰を擦ったり、水分補給の手伝いをしたり、皇后を励まし続けた。
陣痛の間隔が短くなり、とうとう出産の時が来た。

「そろそろ出産準備に入ります。殿下と姫さまは退室してください」
「先生、2人には立ち会ってもらいます」
「「!!!」」
「えっ!?皇后さま?」
「シン、チェギョン、しっかり見届けてちょうだい。そして万が一の場合、この子に母がいかに愛していたか伝えてほしいの・・・うっ・・・」
「「皇后さま!!」」

皇后の意志を受け、特例でシンとチェギョンの立会いが決まった。
皇后の両脇に二人が陣取り、片方ずつの手を握ると、皇后と3人で出産に臨んだ。
陣痛が来るたびに手を握ってくる皇后の力にシンは、驚いた。

(凄い力だ。子供を出産するって、こんなに大変なんだな・・・えっ!?チェギョン?)

反対側にいるチェギョンがボロボロ泣いている姿にシンは一瞬気を取られたが、すぐにギュッと手を握られたため、意識を皇后に戻した。

「チェ・・・ギョン、泣いてちゃダメ。。。自・・・分の為にもしっかり・・見届けて・ちょうだい」
「皇后さま・・・はい」
『皇后さま、今度陣痛が来たら生きんでみましょう。もうすぐお会いになれますよ。頑張りましょう』

ソオン医女が声を掛けると、皇后は汗だくの顔で頷いた。
そこからは、出産がスムーズに進み、標準よりは小さめだが元気な親王が誕生した。

『皇后さま、おめでとうございます。元気な親王様です』
「・・・ありがとう。シン、チェギョン、この子の名前はイジュン。ジュナをお願い・・・ね」
「「「皇后さま!!」」」

突然意識を失ってしまった皇后。
廊下で待機していた医師団が部屋に入ってくると、すぐに皇后を別室へと移動していった。
部屋に残されたシンとチェギョンは、呆然と見送ることしかできなかった。
隣の部屋からは、何も分からないシンの弟イジュンが元気な産声をあげ続けていた。

(母上・・・最後まで諦めないで。俺にもチェギョンにも それから命を掛けて産んだイジュンにも母上は必要な人なんです)












選択 第59話

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シンがコン内官と病院に戻ると、皇后の手術は終わっており、さっき仮眠した病室は集中治療室化していた。
病室と控室の間にあるガラス窓から病室をしばらく見ていたシンだが、ソファーに座るとコン内官とハン尚宮にも座るように促した。

「ハン尚宮、お疲れ。侍従用の休憩室で少し休んで」
「いえ、私は大丈夫です」
「ハン尚宮に倒れられたら、母上を任せられる人がいない。だから無理をするな。先は長いんだ」
「ハン尚宮、人手が足らない。殿下の言われたように少し休みなさい」
「かしこまりました」
「あっ、ハン尚宮、チェギョンは?ジフヒョンと帰ったの?」
「チェギョンさまは、ユン・ジフさんと出掛けられました」
「ジフヒョンと?」
「はい、明日の朝8時までには戻ると仰っていました」
「明日の朝?8時って・・・分かった。休んで」

ハン尚宮が休憩室に消えると、シンはコン内官と明日からの打ち合わせをし、コン内官を帰した。
用意してあったブランケットを広げていると、ドアが開き、ミン・ソオンが入ってきた。

「ソオンヌナ、居てくれたんだ」
「はい、殿下。事後報告で申し訳ありませんが、このフロアーにもう一室ある皇族用の病室の使用許可をお願いします」
「チェギョンの指示?身元がしっかりしていれば構わない。一体、誰が使うの?」
「うちの姫さまと親王様、それから赤ちゃんとその母親です」
「えっ、何それ?」
「姫さまが入院中だけでも親王様に母乳を与えたいと・・・今、ユン・ジフさんと他病院を当り、依頼を受けてくれる人を探しておられます」
「そんなことまで・・・」
「殿下、姫さまが何をお考えなのか私には分かりません。ただ親王様が退院されるまでは、責任を持ってお世話すると仰せでした」
「・・・・・」

シンがチェギョンの事を考えていると、ソオンは徐に手にしていた紙袋をシンの目の前に置いた。

「これは、皇后さまがうちの姫さまに託されたものです。殿下からお渡しください」
「大学ノート?」
「皇后さまの育児日記です。妊娠初期から皇太子妃になられる日まで、ヘミョンさまや殿下の様子が書かれています。是非、殿下も一度目を通してみてください」
「・・・うん」
「では、私も失礼させていただきます」

シンは、表紙に『シン』と書かれているノートを開いた。
中には、シンの成長記録が事細かに書かれていて、母親の愛情がたっぷりと詰まっていた。
シンは、涙が邪魔をして読み進めることができなかった。

(母上・・・今夜は眠れそうになさそうだ・・・)



午前8時、ウトウトしていたシンは、肩を揺すられて覚醒した。

「お前だけズルい・・・眠い・・・俺も寝たい」
「ジフヒョン・・・寝てないの?」
「チェギョンと一緒に徹夜・・・アイツ、逞しすぎ。アイツの所為で、何人が徹夜したか・・・」
「クスッ、ジフヒョン、チェギョンは?」
「もう一つの病室。転院させたアジュマと旦那に挨拶してる」
「俺も礼を言ってくるよ」
「ククッ、礼は言った方が良いと思うけど、相手が恐縮すると思うよ。できるだけフレンドリーにしな」
「フレンドリーって、ジフヒョンにだけは言われたくないんだけど?」
「クスッ、ジュンピョも忘れないで。アイツは威圧しかないから・・・」
「確かに とりあえず行ってくる」

シンがもう一つの皇族用の病室に入ると、チェギョンが一組の夫婦と話していた。
シンの姿を見た旦那が、直立不動の体制に入った。

「あっ、シン君だ。おはよう」
「おはよう。チェギョン、話を聞いた。こちらの方達を紹介してくれないか?」
「えっ!?シン君、分からないの?ユン翊衛士オッパとその奥さんだよ」
「えっ、ユン翊衛士?!制服じゃないから、分からなかった。ユン翊衛士、奥さん、弟を頼みます」

シンが頭を下げたため、ユン翊衛士と妻のウネは慌てふためいてしまった。

「クスクス、シン君、オッパが驚いてるよ。頭、上げてあげて」
「でも奥さんには、相当負担が掛ったはずだ」
「殿下、僕たちは光栄に思っています。何よりチェギョンさまが、僕の悩みを解消してくれたので、こちらこそ有難く思っています」
「ふふ、退院後しばらく本宅で静養してもらうの」
「チェギョン、本宅って・・・爺さんたちが集まるあそこか?」
「違う。あそこじゃ落ち着かないし、却って気を遣うでしょうが!シン家のソウル別邸、宮の社宅と近いからユン翊衛士オッパも通勤しやすいし、ノ尚宮ハルモニやカン・テジュン先輩のオンマがいるから安心でしょ」
「・・・そこまでチェギョンにしてもらっていいのか?」
「・・・私がおば様にしてもらった事は、こんな事じゃ返せないぐらいなの。寧ろ恩返しの機会をくれて、こちらこそ有難いと思ってる。イジョンオッパからセキュリティーを上げろと散々言われてたから、この機会に上げる」
「イジョンヒョン?何でイジョンヒョン?まったく分野が違うだろ!?」
「うん、何かね。物置に放り込んでたガラクタが、博物館並みの逸品ばかりだったらしいの。で、セキュリティーを上げろって煩くって・・・旧家って、ホント面倒だよね」

シンとユン翊衛士夫婦は、ハァと溜め息を吐くチェギョンを信じられないものを見るように見つめたのだった。

「オンニ、後でミン・ソオンという女医が来ます。彼女は私の主治医で、助産師の資格も持っています。彼女から母乳マッサージを受けてください。あと食事も母乳が出るようなものを用意させます。それからオンニの赤ちゃんが優先です。オンニの赤ちゃんの授乳時間にジュナは合せます」
「それで良いのですか?」
「勿論♪日中は、皇后さまの病室の次の間でジュナを世話しますから、授乳時間になったら内線で連絡ください」
「はい。色々とありがとうございます」
「シン君、おむつの替え方や沐浴の仕方を覚えてね。私も手伝うからさ」
「ああ。俺の弟だしな」

その日から、日中は病室の一角でコン内官と執務をする傍ら、シンはチェギョンと共に弟の世話をするのだった。
チェギョンはと言えば、シンの隣で黙々と皇后が記した育児日記に目を通したり、フラッと顔を出すジフやハギュンと話していた。

「チェギョン、ソングループの社長経由でキングダムの社長夫婦がチェギョンに会いたいと連絡してきた」
「えっ!?」
「何でも奥さんの方が絶対に会わないといけないと言ってるらしい」
「・・・分かった。どこに行けばいいの?」
「それが・・・お前が病院にいることを知ってるみたいで、是非王立病院で会いたいそうだ。このフロアーの待合室を借りよう」
「うん。手配お願いね」

シンは、チェギョンを不安そうに見つめるのだった。












選択 第60話

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指定した時間になり、チェギョンは心配するシンと一緒に待合室に向かった。
待合室は、皇族を見舞う王族の為の部屋で、落ち着いた調度品で囲まれていた。
チェギョンが『SC財団のシン・チェギョン』と名乗ると、明らかに社長と思われる男性は握手する手が震えていた。

「はじめまして、キングダム社長のチュ・ジュンウォンです。こちらが妻のテ・ゴンシルです」
「テ・ゴンシルです」
「・・・テヤン(太陽)?」
「「えっ!?」」
「ご主人が奥さまの事をそう呼んで、心配されてます。チュ社長、奥さまの能力が理解できるか分かりませんが、初めから否定するつもりはないです。私自身、こんなですから・・・」

チュ社長は、思っていたことをズバリ指摘され、何も言えなかった。

「時間が惜しいです。本題に入りましょう。テヤンさん、手を握らせてください。そしてそのままを伝えてください」

チェギョンは手を握ると、すぐに周りをキョロキョロしだした。
そしてみるみる涙が溢れだし、頬を伝って流れだした。

「チェギョン!」
「・・・シン君、テヤンさんは幽霊と交信できるみたい。ここにお爺ちゃんと先帝のお爺ちゃまがいるんだって」
「ええっ!?」
「テヤンさんは、態々お爺ちゃんたちの伝言を伝えに来てくれたそうよ」
「・・・チェギョン、信じるのか?」
「うん。初対面の人からシン君や私の黒子の位置まで指摘されたら、信じるしかないでしょ」
「・・・お爺さまたちは、何て?」
「先帝のお爺ちゃまは、私に宮を取り仕切れって・・・で、その横でお爺ちゃんが怒鳴ってる感じ?でもシン宗家の事はハギュンアジョシとチェジュンに任せて、宮を守ってやれって・・・」
「チェギョン・・・」
「・・・私には無理だよ。違う問題が増えるだけだもん」
「チェギョン、宮が人手不足なのは知ってるよな?俺が東宮殿でジュナの世話をすることになった。だから俺と一緒にジュナを育ててくれないか?母上もそう望んでおられただろ?」

テヤンと手を離したチェギョンの手をシンがギュッと掴んだ。

(それにチェギョンは、俺がいないと眠れないだろ?俺もチェギョンが一緒だと楽しいし、嬉しい。ダメか?)

しばらく考え込んでいたチェギョンだが、顔を上げると意志の強い目でシンを見た。

「シン君、宗家の了解を取るのに少し時間が欲しい。だからチェ尚宮オンニをジュナの専属にして、ここに来てもらって。オンニは子どもの扱いは慣れてるけど、乳児は分からない。だからシン君と一緒に慣れてもらって」
「分かった。でも宗家の了解って、チェギョンに必要ないだろ?」
「一族の関連施設から宮で従事してくれる人を集める。何度か頭に過ぎったんだけど、宮を乗っ取るつもりだと誤解されると困るからしなかったんだ。ジュナが退院するまでには、何とかする」
「チェギョン・・・」
「それに私が滞在すると、宮に危険が及ぶ可能性がある。だからもっとセキュリティーを上げないと・・・ハァ、面倒掛けるけど仕方ないか・・・」
「ひょっとしてイルジメの末裔か?」
「「!!!」」
「何、嬉しそうに聞いてんのよ。末裔かどうかなんて知らないわよ。私だって自分のルーツ、信じてないもの。でもヨンの家は、当主が代々イ・ギョムを名乗ってるのは確かね」
「うへっ・・・そのヨンって奴に会わせてくれよ」
「無理・・・その代り、翊衛士たちの技術向上に指導者を入れる」
「じゃあ、俺も武術をその人に習う。良いだろ?」
「ダメ!シン君を殺し屋にするつもりはない」
「こ、殺し屋って・・・」
「言ったでしょ?うちは、昔から色々な人を匿ってきた家系だって。ユン・ソギョン爺ちゃんの紹介でうちに来たらしい。優しくて良い人だよ。それに男前だしね」

韓国民なら知らない人がいない有名人の名前がチェギョンの口からポンポン出てくるのをチュ社長夫妻は、呆然と見ていた。

「すいません。ここで話したことは、絶対に口外しないでください。勿論、私の事もです。お願いします」
「勿論です。それに言っても誰も信じてくれないでしょう」
「クスッ、確かに・・・チュ社長、お礼をしたいのですが、何かお困りの事はありますか?」
「えっ!?それは事業の事ですか?」
「はい。ソングループ経由の紹介なら、スンホ爺ちゃんやウビンオッパとは顔見知りなんでしょ?」
「いえ、お忙しいみたいで、ソン・スンホ老にお会いしたことはありません」
「いいえ、相当な暇人です。爺ちゃんに会うように言っておきます。ショッピングモール開発で役立つと思います。今度、仁川にホテルと大型ショッピングモールが建設されます。参入できるよう口を利きましょうか?」
「えっ!?確か、神話とソンヒョングループが取り仕切ると聞きましたが、そんな事ができるのですか?」
「ちょっと待ってくださいね」

チェギョンが携帯で電話を掛けだすと、シンはクスクスと笑いだした。

「チェギョンは、神話のジュンピョヒョンを顎で使える奴です。ソンヒョングループのイ・ギチョル会長もチェギョンの庇護者ですから、簡単に話が通りますよ」
「えっ!?」
「チェギョンは、政財界の重鎮たちに溺愛され守られています。青瓦台も平気で電話して遊びに行くぐらいです。驚くのは、まだ早いですよ」
「ハァ、お待たせしました。ソンヒョンのイ・ジェインアジョシは明日。神話のク・ジュンピョは多忙らしく、とりあえず明後日でしか時間が取れないみたいです。申し訳ないですが、アイツに合わせてやってください。すいません」
「ククッ、チェギョン、また帰国命令だしたんだろ?」
「ふふ、当たり!超特急で仕事を今日中に仕上げて、飛行機に飛び乗っても明後日しか帰国できないって言われた」
「あ、あの・・・そこまでしていただいていいんでしょうか?こちらがお礼したいぐらいです」
「会いたかった人に会わせていただいたんです。これからも奥様に会わせていただけますか?それだけで十分です」
「勿論です。チェギョンさん、烏滸がましいですが、私もチェギョンさんの庇護者の一人にしてください。貴女の力になりたい」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

シンは、チェギョンの人脈がこうやって広がっていったことを知った。
チェギョンがテヤンと楽しそうに話しているのを シンとチュ社長は温かい眼差しで見つめた。

「それにしても殿下も器が大きいですね。うちのテヤンを見て、初めから信じて動じない人はあなた方が初めてだ」
「クスッ、チェギョンで慣れました。チェギョンの周りは、個性的な人ばかりですからね」
「確かに・・・僕なんて、まだ頭が混乱しています。イルジメなんて、架空の人物だと思ってましたからね」
「クス、彼女自体、扶余王朝の末裔です。貴女なら聞いたことがあるでしょ?彼女が、噂の扶余の姫君です」
「!!!・・・SC財団のある少女に嫌われたら、この国では生きていけない。財界の噂です。僕は、彼女がその少女とは知らず、ソン社長にアポを取ったので自己紹介の時、驚いてしまいました」
「クスッ、見てて分かりました。チェギョンは真直ぐで、誰であろうが間違っていると思ったら怒ります。陛下にも『ふざけんな!』って怒鳴ったぐらいです。チュ社長も言われないように気をつけて」
「・・・気をつけます。もしかして先般の王族の数々の不祥事は、彼女が暴露したのですか?」
「はい。チェギョンと彼女を庇護する有閑倶楽部の爺さんたちです。ご存知でしたか?ジョンド法律事務所もシン宗家の息が掛っています」

チョ社長は、疑問に思っていることを聞いてみることにした。

「チェギョンさん、一つ聞かせてください。SC石油の小売価格が、他所と比べると非常に安価なのはどうしてなのですか?」
「ああ・・・アラブの王様と知り合いになって、油田を貰ったんです。だから輸送料と人件費だけ確保できたら、あとは国民の皆さんに還元してます。勿論、儲けは少しぐらいあると思いますよ。一族とその関係者が生活できる分だけですけど・・・でも貰った所為で、命を狙われる立場になっちゃいましたけどね」

笑って答えるチェギョンに シンもチュ社長も言葉を掛ける事ができなかった。

(チェギョン、だからあちこちから守られてるのか?それに命を狙われてる事をサラッと言うな!)





選択 第61話

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それからのチェギョンは、ジュナの事はチェ尚宮とシンに任せ、寝るために病院に戻ってくる。
皇后は術後3日目に目が覚めたが、面会はガラス窓越しでしかできず、そこからジュナを見せる毎日だった。
シンとチェギョンは、ジュナが退院する前日、許可を取って皇后の病室に入った。

「明日、ジュナはお先に退院します。母上、先に戻って宮で待っています」
「おば様がお戻りになるまで、ジュナの事は任せてください」

シンが止めたにも拘らず、皇后は酸素マスクを外した。

「シン・・・ゴメンね」
「母上、俺は大丈夫です。ジュナの為にも早く元気になってください」
「ううん、ジュナには貴方とチェギョンがいる。私は、2人を信じてるわ。チェギョン、貴女にもゴメンね。大きな荷物を背負わせちゃった」
「おば様・・・そんなこと言わないで」
「チェギョン、私は貴女が大好きよ。どうかジュナを貴女のような子に育ててちょうだい」
「・・・おば様」
「シン、貴方の父上は優しくて弱い人なの。どうか支えてあげて」
「はい、母上」
「オンマ、疲れちゃった。少し寝るわね」
「・・・また来ます。チェギョン、行こう」

酸素マスクを皇后に装着すると、シンとチェギョンは病室を後にしたのだった。



イジュンを抱いて宮に戻ったシンとチェギョンは、皇太后が待つ正殿に向かった。
部屋には皇太后とヘミョンのみで、陛下の姿はなかった。

「ただ今、戻りました。皇太后さま、イジュンです」
「皇太后さま、しばらくお世話になります。よろしくお願いします」
「おお、シンや、イジュンを抱かせておくれ」
「はい、皇太后さま」

シンは、ジュナを皇太后に手渡すと、ヘミョンに訊ねた。

「姉上、陛下はジュナが退院することを知らないのか?」
「それが、一応伝えたんだけどね・・・・お母さまの事がショックみたいで部屋に籠られたままなの」
「・・・ありえない」
「チェギョン?」
「皇太后さま、差し出がましいですが、陛下に病院で皇后さまの看病をしていただいたらいかがでしょうか?できれば、泊まり込みで・・・」
「チェギョン、泊まり込みでと申すのか?」
「はい。皇帝なら、もっと周りの職員たちに配慮するべきです。このまま籠られていては、職員の士気に関わります。なら、病院で皇后さまの看病をしていただく方がよろしいかと・・・」
貴女、偉そうに誰に指図を
姉上!!
「シン君、良いの。ヘミョンさま、皇族だから特別だと思っていませんか?世間には、ガン患者を抱えている家族は山のようにいます。でも手術代・入院費・生活の為、皆、心配しながらも歯を食いしばって働いています。これが現実です。幸い宮は、お金の心配はありません。国民の税金で賄っているのですから・・・だからこそ陛下は、しっかりしないといけない立場だと自覚するべきです」

チェギョンの正論に ヘミョンはぐうの音も出なかった。

「付け加えさせていただくなら、愛する妻が命を懸けて産み落とした我が子の顔を見に来ないのは、なぜでしょうか?正直、私には理解できません」
「「「・・・・・」」」
「私は、親の愛情を知らずに育っていますので、正直よく分かりません。ですが、子どもを作る事だけが男の仕事だとは思っているのなら、女性への冒涜だと思います。そんな方が皇帝だと偉そうにしてほしくはありません」
「・・・・・」
「皇太后さま、明日より入る女官見習いの陣中見舞いに行ってきます。ついでにジュナも連れて、授乳もお願いしてきます」
「え、ええ。では、チェギョン、よろしく頼みます」

チェギョンは、皇太后からイジュンを受け取ると、正殿を出ていった。

「ふぅ・・・ヘミョン、もっと大人になりなさい。キム内官、今すぐヒョンを病院へ連れてお行きなさい」
「かしこまりました」
「・・・姉上、今度チェギョンに会ったら謝れよ」
「シン、貴方まで・・・」
「アイツの言った事は間違ってない。チェギョンな、目の前で実の祖父が刺殺されたんだよ」
「「えっ!?」」
「でも歯を食いしばってお祖父さんの葬儀を執り行い、一族の長に治まった後、倒れたそうだ。わずか10歳の時にね。それから一族を取り纏め、今は宮の再生にも手を貸してくれている。姉上、チェギョンに文句を言いたいなら、もっと実力を付けてから正論を言うんだな」
「・・・・・」
「皇太后さま、陛下の執務は僕が行います。皇后さまの公務は、皇太后さまと姉上にお任せしてもよろしいですね?」
「構わぬ。シン、迷惑を掛けます。よろしく頼みます」
「では、僕も東宮殿に戻り、コン内官とキム内官と打ち合わせすることにします」

シンが部屋を出ていくと、皇太后はヘミョンを不憫そうに見つめた。

「チェギョンは、イジュンの出生直後、チェギョンは母乳を分けてくれる妊婦を探して、ソウル中の病院を回って頭を下げてくれたの。入院費用の負担と退院後1ヶ月の静養先を確保すると言う条件を提示してね。そして何の見返りもなく、女官見習いを10名連れて来てくれたわ。ヘミョン、貴女はこの1週間、何をしていて?」
「おばあ様・・・」
「貴女もヒョンと同じ、イジュンの誕生を喜び、皇后の体調を嘆き悲しんだだけ。違う?」
「・・・いいえ」
「ヘミョン、自分を卑下することはありませんよ。あの子は別格です。生い立ちも環境も・・・でもシンは、チェギョンのお蔭で成長したわね。皇族としても人としても・・・貴女もそうなってくれると嬉しいんだけど・・・」
「おばあ様・・・私・・・」
「今は亡き先帝さまが、チェギョンは天使のような子だと仰っていましたが、私は宮の救世主だと思ってるわ。ヘミョン、宮はまだチェギョンの力を借りて再生途中なの。和を乱すような言動を続けるなら、皇籍から外れても構わぬ」
「皇太后さま!」
「・・・ヘミョン、我々皇族は、この宮を守る義務があるんじゃよ。自力では再生不可能まで腐敗させたのは、王族を統率できなかったそなたの父親であり、気づかなかった私や皇后じゃ。孫のそなたたちには申し訳ないとは思うが、何の関係もないチェギョンにだけ負担を掛けさせたくはない。いい加減、大人になってくれぬか」
「皇太后さま・・・心を入れ替え、精進します。申し訳ありませんでした」
















選択 第62話

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イジュン退院の翌日から、宮の雰囲気が一気に変わった。
東宮殿に従事する女官・内官が、チェギョンの一言で集められた。

「改めまして自己紹介いたします。こちらでイジュン親王様のお世話をしながら、居候することになりましたシン・チェギョンです。よろしくお願いします。イジュンさまのナニーとしてお願いがあります。イジュンさまに対して、同情したり不憫がらないでください」

チェギョンの言葉に一同は、驚きを隠せなかった。

「世間には、片親や両親の顔を知らずに育つ子は大勢います。イジュンさまは、お母さまは闘病中ですが、立派なご両親がいらっしゃいます。それにあなた方もいます。決して可哀想な子供ではありません。子どもは大人の同情心に非常に敏感です。過剰な同情は、優しさでも何でもありません。子どもの心を傷つけ、歪ませます。いい例が、私です」
『『!!!!!』』
「どうかお願いです。同情するなら、愛情をたっぷり注いであげてください。私からは以上です」

シンは、チェギョンの言葉に思わず涙が出そうになった。

「・・・俺からも一言。俺やイジュンを可哀想だと思う者は、東宮殿での従事を禁じる。コン内官、異動届が出たら即処理せよ」
「・・・かしこまりました」
「俺は、俺のように寂しい想いをジュナにはさせたくないし、子どもらしい子どもに育ってほしい。皇后さまもそう思っておられる。その為には、お前たちの協力が必要だ。親王だが、イ・イジュンという一人の人間として見てほしい。よろしく頼む」
『『かしこまりました、殿下』』

職員たちが解散した後、チェギョンはチェ尚宮だけ残した。

「オンニ、私が手が離せない時は、オンニにジュナを任せていいかしら?」
「勿論でございます」
「それから、私の事を『姫さま』とは呼ばないで、チェギョンと呼んで。だってヘミョンさまに悪いでしょ?」
「・・・考えが至りませんでした。申し訳ありません」
「できれば、敬語も止めてほしいな。だって私は居候の身なんだし・・・お願いね」
「・・・努力いたします」
「ハァ、オンニ、まだまだ固いよぉ~。シン君、午前中は執務をして、午後から私と勉強ね。離れてた間、どれだけサボってたか見てあげる」
「ゲッ、チェギョン!!」
「ふふふ・・・キムオッパ、新しく出来た翊衛士の事務所に案内してくれる?」
「は、はい~!!」
「じゃ、シン君、まったね~♪」

イジュンをチェ尚宮に預けて出ていったチェギョンの後ろ姿をシンは、溜め息を吐きながら見送るのだった。


一方、チェギョンは歩きながら、キム内官に気になっている事を聞いてみた。

「オッパ、宮はシン君とヘミョンさまの学業をどう思ってるの?」
「えっ、それは・・・殿下に関しましては、殿下の意志もありますが、登校せずにチェギョンさまと共に勉強されるお積りのようです」
「ハァ、やっぱり・・・で、ヘミョンさまは?」
「一応、王立に席を置かれましたが、一度も登校はしておられません。個人的な意見を言わせていただくなら、お二人とご一緒に勉強される方が良いのではないかと思っています」
「・・・ヘミョンさまは、いづれはご降嫁される身。色々な人と交流を持った方が良いと思うけど?」
「それは、チェギョン様のご友人を紹介してくだされば十分なのではないですか?降嫁先としても何の問題もありませんし・・・」
「あの人たちと付き合ったら、100%性格歪むわよ」

ケラケラと笑うチェギョンに キム内官は呆気にとられた。

「ハァ、ハギュンアジョシに相談するしかないか・・・ヘミョンさまは、午前中は何をなさっているの?」
「はい、今度出かける公務先の資料を読んでおられる筈です」
「・・・・・」
「あの、何か?」

キム内官の問いかけを無視し、チェギョンはハギュンに連絡を入れ、至急宮に来るよう指示を出したのだった。

「キムオッパ・・・そんな資料は、寝る前や公務先に着くまでの車中で熟読すれば十分よ。通信教育で速読技術を学んでもらって」
「は、はい!」
「この話は後ね。さぁ翊衛士の詰所の見学でもしますか・・・」



午後早い時間、シンとチェギョンが書筵堂にて勉強をしている頃、皇太后の住まい慈恵殿にハギュンの姿があった。
慈恵殿には、ヘミョンの他にコン内官とキム内官も呼ばれていた。

「ハギュンや、一体どうしたのだ?」
「皇太后さまにお伺いいたします。ヘミョンさまの学業はどうされるお積りですか?このままでは中卒ですよ」
「その事なのです・・・皇后の代行があるため、王立に一応席を置いたものの、行かせる気にならぬ。どうすれば良いのか悩んでおるのだ」
「ヘミョンさま、チェギョンには2年後に高校卒業資格認定の試験を受け、修能試験を受けさせます。目標は、一応ソウル大。殿下もおそらく同じ道を進まれるでしょう。ご一緒に勉強しますか?」
「・・・無理。あんな勉強、私には付いていけないわ」
「知っています。ですが、いくら皇女でも中卒はいただけません。神話学園に口を利きましょうか?」
「神話学園ですか?」
「ええ、全国から御曹司や令嬢が入学してくるのでセキュリティーは万全です。特別クラスは無理でも、あそこの普通科なら頑張れば付いていける筈です。勉強があまりお得意でないなら、帰国子女制度のあるお嬢さま学校への編入をお薦めします。いかがですか?」
「ハギュン、神話は一昔前まであまり良い噂は聞かなかったが、今はどうなのじゃ?」
「諸悪の根源は、チェギョンが改心させましたので、今は優秀な進学校になっています。今じゃ王立の方が評判は悪いですね」
「あの諸悪の根源って・・・」
「ああ、チェギョンが下僕のように扱き使っている御曹司達ですよ」
「「「!!!」」」
「彼らは、敷かれたレールに乗るのを嫌って大暴れでしたからね。そんなに嫌なら潰そうかのチェギョンの一言で、反抗期はジ・エンド。それ以来、神話は学園の改善に力を入れています。そうでないと、チェギョンの一言で潰れますからね」

ヘミョンは、チェギョンとの違いに落ち込むばかりだった。

「ヘミョンさま・・・チェギョンは、育った環境柄、強烈な後ろ盾が多くいる。またそれに奢ることなく努力もして、人脈を広げている。あの子と張り合おうなんて、思わない方が良い。落ち込むだけですよ」
「はい・・・」
「セキュリティーの事を考えれば神話がお勧めですが、皇女という特別待遇はありません。成績が悪ければ留年もします。レベルに付いていく自信がなくて、どうしても王立が良いなら少し時間をください。理事長を更迭し、強力な新理事長を据えます」
「ハギュン、理事長を変えるだけで変わるのですか?」
「ええ、変わるでしょうね。王族がいなくなった今、学校で幅を利かせているのは、神話に入る学力がない御曹司と令嬢です。だからソンヒョングループの会長を理事長に据えるだけで、間違いなく変わると思いますよ。クスクス」
「そんな事ができるのですか?」
「・・・簡単です。チェギョンを庇護する爺さんたちは、あらゆる分野の重鎮たちですからね。そして全員、チェギョンに甘い。チェギョンに言わせれば良いだけの事です」

もう開いた口が塞がらなかった。『次元が違う』。その一言に尽きた。

「ヘミョンさま、私も忙しい身です。ご決断されたら、コン内官を通じてチェギョンに言ってください。手配します」

そう言うと、ハギュンは慈恵殿を出ていった。


皇太后と話し合った結果、神話に通う事に決め、コン内官に伝言を頼んだのだった。



選択 第63話

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シンとチェギョンは、本当にイジュン中心の生活になった。
思考錯誤しながらの育児は、時には泣きそうになりながらもシンとチェギョンは充実した日々を送りだした。
勿論、頭の片隅には皇后の病状の事もあったが、2人には皇后を見舞う時間がなかった。
ところが、突然、事態が急変した。皇后が、全ての治療を止め、宮に戻ってきたのだ。
シンとチェギョンは、慌ててイジュンを連れて、皇后の寝室へと向かった。

「母上、どうして・・・」
「シン・・・言いたいことは分かっています。でも最期は、シンやジュナがいるここで迎えたかった」

シンは、皇后の言葉に必死で涙を堪えた。

「チェギョン、ハン尚宮から色々と聞いたわ。ありがとう。やっぱり貴女にジュナを任せて正解だったわ」
「おば様・・・なら、宮の事は私に任せて、安心して病院に戻ってください」
「いいえ、一番の心配事が病院にあったら、安心なんてできないわ」

皇后はそう話すと、ベッド脇に座る陛下を優しげに見つめた。

「話しましたよね?貴方は、私の夫ですが国父でもあるのです。この国の皇帝として宮を守り、国民の事を考えてください」
「ミン・・・」
「お願いです。どうか、私が安心して旅立てるよう 頑張ってくれませんか?」
「・・・私を置いて旅立つなんて言わないでくれ。もう一度、病院に戻って治療を受けよう。な?」

そんな2人の姿を見て、ヘミョンやハン尚宮たち、その場にいる職員たちは涙ぐんでいる。
チェギョンは、意を決して口を開いた。

「キムオッパ、陛下の執務の用意を」
「「「!!!」」」
「チェギョン、お母さまを愛するお父さまのお気持ちが分からないの?」
「・・・ええ、分かりません。陛下こそ皇后さまのお気持ちがお分かりになっておられないように思います。陛下がこのままなら、皇后さまは『主君を骨抜きにした悪女』として歴史に残るでしょうね。それでも良いんですか?」
「「「!!!」」」
「王族会の腐敗、執務・公務の放棄、全てが皇后さまの責任になるということです。命を懸けて愛する陛下の御子を生んだとしても陛下の寵愛を独占したいがためと湾曲されてしまう。それが、国民が学ぶ歴史です。陛下、本当に皇后さまを想うなら、執務をこなしてください。王族に弱みを見せてはいけません。未だに虎視眈々と権力を握ろうとしている王族はいます」
「・・・コン内官、俺の執務室から陛下に回せる案件をキム内官に渡せ」
「かしこまりました」
「陛下、チェギョンの言う事は間違ってはいません。母上に汚名を着せたくなければ、執務をこなしてください。キム内官、陛下を執務室へ」
「御意。さぁ、陛下、参りましょう」

キム内官に支えられ、陛下が部屋を出ていくと、皇后はシンとチェギョンに手招きをした。

「ありがとう。これからも私の代わりに陛下を叱咤激励してちょうだい。お願いね」
「「母上(おば様)・・・・」」
「それよりジュナを抱かせてくれない?この為に戻ってきたんだから・・・」

シンは、抱いていたイジュンをベッドに座っている皇后に渡した。
イジュンを受け取った皇后は、肩を震わせながらイジュンをギュッと抱きしめる。

「ジュナ、オンマよ。やっと抱いてあげられた。ミヤネ・・・」

涙を堪えたチェギョンは、誰にも告げずそっと部屋を抜け出すと、廊下に控えていたチェ尚宮に耳打ちした。

「オンニ、しばらくジュナと一緒に皇后さまの許に・・・少し外の空気を吸いに外に行ってきます」
「・・・チェギョン様、お一人でですか?誰か、付けます。少しお待ちください」
「大丈夫です。宮の外には行きません」

チェギョンの姿が見えなくなるまで見送ると、チェ尚宮は東宮殿付きの女官に連絡をして、イジュンの1日分の着替えや粉ミルクを皇后の部屋まで持ってくるように指示を出したのだった。

「チェ尚宮、チェギョンは?急に見えなくなったんだけど・・・」
「それが・・・外の空気を吸ってくると、先程出て行かれました。宮の外には行かないので、心配するなと・・・」
「・・・心当たりは?」
「申し訳ありません。」

深刻そうな2人の姿を見ていた女官見習いが、そっと近づいてきた。

「お話中、申し訳ありません。梅の樹にいます」
「梅の木?」
「はい、枝ぶりの良い梅の樹。おそらくチェギョンはそこにいます」
「貴女は、チェギョンの紹介で来た人ですか?」
「・・・殿下、チェギョンをお願いします」
「えっ!?」

女官見習いは、シンとチェ尚宮に一礼するとスッと離れていった。

「・・・チェ尚宮、彼女はどこの女官見習いだ?」
「申し訳ありません。私も初めて見る顔です」
「・・・じゃあ梅の老木は、知っているか?」
「はい。昔、義禁府だった建物の傍にあったような気がします」
「・・・行ってくる。ジュナを頼む」

正殿を出ると、シンは法度も忘れて元義禁府があった場所まで走った。

(いた!!)

チェギョンの姿を認めた瞬間、チェギョンがシンに気づき、梅の樹の枝が風もないのに大きく揺れた。

(今の何だ?)

「シン君、こんなとこまでどうしたの?」
「急にいなくなったら、心配するだろうが・・・頼むから、一人で行動するな」
「安全な宮の中だってば・・・ホント、ウビンオッパの心配性が移ったみたい。クスクス」
「・・・チェギョン、今、誰か一緒にいたか?」
「ううん・・・一人だったよ」
「そっか・・・それなら良い。東宮殿に戻ろう」

シンは、胸に過ぎる不安からかチェギョンの手を掴むと、ギュッと握ったのだった。

(チェギョン、どこにも行かないよな?)




選択 第64話

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シンとチェギョンは、時間を見つけては皇后を見舞い、色々な話をした。
そして皇后とイジュンの姿をカメラやビデオで撮り、記録として残していった。
また延命措置を望まない皇后の為、正殿に皇后担当の医師が詰めることになった。

「ジフオッパ・・・何で?」
「皇后さまの主治医の補佐。シン、しばらく東宮殿で泊めてよ」
「えっ!?部屋は余るほどあるけど、ベッド俺のしかないよ。まさか3人で寝るつもり?」
「俺は、それでも構わないけど?クスクス・・・そんな表情もできるようになったんだ。勝手にベッドここに運んでもらうよう手配したから気にしないで。チェギョン、久しぶりに一緒に寝よ♪」

ジフに遊ばれていることに気づいたシンは、笑おうとした顔が引き攣っていた。

「クスクス、シン、面白い・・・」
「ジフヒョン、俺をからかって、そんなに面白いか?」
「うん♪今回は、アンタの事を思って、俺、志願してきたんだけど?」
「えっ、俺の為?」
「そう・・・チェギョン、ここに座りな」
「うん♪」
「俺の知らない内に 大人の女性の仲間入りしたんだってね。おめでとう」
「///うん・・・ありがとう」
「チェギョンが大人の女性になる年頃なら、当然シンも大人の男性になる年頃だって事は分かるだろ?」
「えっ、まぁ・・・言われてみれば、そうだよね。シン君は、もう大人になったの?」
「///俺に振るな!!ジフヒョン、一体何の話してんだよ」
「保健体育。チェギョンは学校に通ってなかったからね。この手の話に疎いんだ。だから教えに来た」

シンは、ポカンとしてしまった。

「男は、朝起きたら、男性器が大きくなってるのは教えたよね?」
「うん。オッパが、オシッコしたら戻るんだって言ってたじゃん。実際、オッパ、いっつもそうだったし・・・シン君もそうだよ」
「クスクス、シンもそうなんだ」
「///・・・・・」

(何なんだ、この会話は・・・恥ずかしすぎるだろうが!!)

「あのさ、男は大人になると、男性器から小便以外のものが出るんだ。その時も大きくなる」
「オシッコ以外のもの?」
「うん、精子。女性の卵子と結合すれば、赤ちゃんになるもの」
「へぇ~~」
「でさ、その精子を出すのが厄介でさ。男性器を刺激しないと出ないし、元の大きさに戻らないんだ。もっと厄介なのは、若いと特に所構わず大きくなるんだ」
「///えっ、うそ・・・」
「ホント。俺は、その辺りが欠落してるからかなり淡泊だけど、普通の10代なら毎日刺激しないとダメみたい。ウビンとイジョンなんて、毎晩女使って出してたし・・・」
「///チェギョン、俺をそんな目で見るな!!」
「クスクス、シンはそんなふしだらな事はしない。自分で慰めて出すさ。だからさ、シンがその行為をしててもチェギョンは知らんぷりしてやりな」
「///うん、よく分からないけど、分かった。シン君、私に遠慮なく出してね」
「///チェギョン!!」
「クスクス、チェギョン、俺にコーヒー貰ってきてよ」
「は~い」

チェギョンがリビングを出ていくと、ジフはお腹を抱えて笑い出した。

「///ジフヒョン、朝っぱらから何の話をしてんですか!?」
「ごめん、ごめん。でもシンも辛いだろうなって思ってさ。風呂、一緒に入ってんだろ?ベッドも一緒だし、気になってたんだよね」
「今のところ、大丈夫ですよ」
「今はね。でもその内、必ず辛くなる。皇太子だろうが男だしね。俺たちみたいにただの排泄行為として女を抱くわけにいかないしさ」
「えっ!?」
「俺だって男だし、それなりに性欲はあるよ。ただ他の人に比べたら少ないだけ・・・シン、良い?相当な覚悟がない限り、チェギョンに手は出さないで」
「・・・分かってます」
「多分、アイツは俺と一緒で、結婚とか子どもとか考えてない。でも意志に反して、結婚も出産もしないといけない立場だ。シンと一緒でね」
「・・・・・」

気まずい雰囲気を破るかのように チェギョンがジフのコーヒーを持ってきた。

「ジフオッパ、お待たせ♪」
「サンキュ」
「・・・ジフオッパ、他にも話したいことがあるんでしょ?」
「うん。最近、ウビンの事避けてる?」

シンは驚いて、チェギョンの顔を見た。

「言ってる意味が分かんないんだけど・・・何でウビンオッパを避けてるって思ったわけ?」
「アイツ、あれでも繊細だからさ。毎日あった連絡がないからさ、凹んでる」
「それは、宮から出ることないからで・・・」
「本当にそれだけ?じゃ、いいや。今度、パーティーに参加ね」
「はぁ?!ジュナはどうすんの?」
「数時間ぐらいシンに面倒見てもらいなよ。それから毎週金曜日、スケジュール空けろって伝言頼まれた」
「はぁ、その毎週金曜って、一体何なの?」
「有閑倶楽部のメンバーとの勉強会兼体力作りだってさ。皆、チェギョンに会いたがってる。ジュナ連れて、出てこいってさ」
「・・・分かった。オッパ達に宜しく言っといて」
「ジフヒョン、その勉強会兼体力作りって、俺も参加していいか?」
「良いんじゃない?ジュンピョんちで会って、バスケしたんでしょ?俺は参加難しいけど、アイツらに言っとく」
「ねぇ、場所や時間は?」
「知らない。。。また連絡あるんじゃないの?」
「ハァ・・・オッパって、ホント連絡役には不向きだよね。これから連絡役は、ウビンオッパにしてちょうだい」
「クスクス、了解♪・・・ねぇ、ここからマジな話なんだけど、シン、皇后さまの体力があるうちに思い出づくりしな」
「「えっ!?」」
「覚悟が必要だって事。多分、この冬は越せない」
「そんな・・・何とかならないの?」
「手術した時点で半年って感じだったし・・・おそらく皇后さまは、妊娠が分かった時点で覚悟してたと思う。俺たちがバックアップするから、思い出づくりしなよ」

シンは、グッと唇を噛みしめながら、スマホを手にするのだった。

「コン内官、キム内官と一緒に東宮殿まで来てくれ。できれば、すぐに・・・」















選択 第65話

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シンは、コン内官とキム内官と共に皇族のスケジュールを見直し、全員がオフの日を作った。
そしてアドバイザーとしてジフを伴って、皇太后の許へ向かった。

「シンや、急にどうしたのです?ジフさんも一緒という事は、ミンに何かあったのですか?」
「いえ、そういう訳では・・・ただジフヒョンから、母上の調子がいい間に皆でどこかに行ってはどうかとアドバイスされたので、お誘いに来ました。皇太后さま、ご一緒にどこかに行きませんか?」
「それは、いい。皆のスケジュールはどうなっておる?」
「ちゃんと組み直しました。来週ですが、全員オフの日があります」
「きっとミンも喜ぶでしょう。シン、ミンの所に行きますよ」

皇后の寝室に入ると、ヘミョンと陛下もベッド脇に座っていた。

「ミン、失礼しますよ。今、シンが嬉しい報せを持ってきてくれたので来ました。来週、皆で遠出をしましょう」
「えっ、本当ですか?シン、大丈夫なの?」
「はい。ジフヒョンが行っても大丈夫だと太鼓判を押してくれました。だから一緒に行きましょう」
「嬉しい・・・あなた、皆で遠出ですって♪」
「良かったな。ところで太子、どこに行くんだ?」
「陛下、遠出に関して条件があります。皇后さまの負担にならないよう車で1時間前後の所でお願いします」
「1時間程度か。。。御用邸なら水原ぐらいしかないな。だが、あの坂や階段は、母上やミンにはキツイな。イジュンのベビーカーもあるし・・・」
「・・・シン、チェギョンなら条件に合う所を知ってるんじゃない?聞いてみたら?」
「あ、そうかも・・・頼んでみるよ」
「楽しみ~♪家族6人水入らずの旅行なんて初めてよ。今からワクワクしちゃう」

ヘミョンの言葉に 陛下以外は敏感に反応した。

「姉上、今、家族6人水入らずって言った?チェギョンは?」
「チェギョンは、家族じゃないじゃない。今回は、遠慮してもらいましょうよ」
「アンタ、バカ?本当に皇女なの?」
「えっ!?」
「文句があるなら、家族6人水入らずで行動してみろよ。行き先の手配もできないくせに偉そうなことを言うな!」
「なっ・・・!!」
「アンタさ、チェギョンの事、何だと思ってるわけ?それに翊衛士や女官も連れずに外出できるの?飯の用意もジュナの世話もあるのにさ。家族水入らずって、そういう事だろ?」
「・・・・・」
「やっぱ宮、潰すべきだったかも・・・シン、俺、チェギョン連れて帰りたい」
「ジフヒョン、ゴメン。姉上に代わって、俺が謝る。姉上は悪気があったわけじゃないんだ」
「尚更、性質が悪いでしょ。この人、翊衛士も女官もただの使用人か奴卑だと思ってるんじゃないの?皇族がこんな考えで、下の者や国民が慕ってくれると思う?俺は無理」
「・・・・・」
「TOPの一言は、周りに大きな影響を与える。特にシン、将来皇帝になれば、死罪を命じられる立場になる。声にする前に良く考えてから口にしな。これ、帝王学の基本だから。気分悪いから、俺、東宮殿に戻るね。それからアンタ、俺の前に二度と顔を出さないで」

ジフが部屋から出ていくと、全員がヘミョンを睨んだ。

「ごめんなさい」
「ヘミョン、貴女を留学させずにもっと手元で育てるべきだった。今更、後悔しても仕方ないけど・・・」
「お母さま・・・」
「・・・皇太后さま、有難い申し出ですが遠出は遠慮したいと思います」
「「ミン(母上)・・・」」
「ヘミョン・・・私の中ではチェギョンは娘で、大事な家族です。だから愛するジュナを託したの。貴女のその思慮のなさ、皇女としての資質に欠けているとしか思えない。私が元気なら座敷牢に閉じ込めたいぐらいだわ」
「ごめんなさい・・・」
「残念だが、ミンがそう言うなら仕方あるまい。ヘミョン、自分の部屋に戻って反省しなさい」
「・・・はい、おばあ様」
「陛下、貴方もいつまでも油を売ってないで執務室に向かいなさい!」
「は、はい」
「ミン、健やかに過ごせ。最高尚宮、慈恵殿に戻ります」
「御意・・・」

皇太后に続き、シンも皇后の事をハン尚宮に任せ、部屋を出たが、向かった先は東宮殿ではなくヘミョンの部屋だった。
ヘミョンがソファーで雑誌を捲っている姿を見て、シンはとうとうキレてしまった。

「ユン尚宮、アジョシがお前の事を役不足だと言い切った理由がようやく分かった。尚宮の務めができないなら、女官に降格するか、配置換えを申し出ろ!!」
「申し訳ありません」
「シン、ユン尚宮に当たるのは止めて。ちゃんと反省してるから・・・」
「それが、反省してる態度なのか?今ほど、姉上が憎く思ったことはない!俺が、なぜこの時期に旅行を言い出したと思ってるんだ!!」
「シン・・・?」
「完治して退院してきたわけじゃないことは、いくらバカでも分かるだろうが・・・これが、最後のチャンスだったんだ」
「えっ!?うそ・・・」
「最後に楽しい思い出を作れって、ジフヒョンが提案してくれたんだ。それをアンタがぶち壊した」
「ゴメン・・・本当にゴメン」

涙をボロボロ流しながら反省するヘミョンを見て、シンは溜め息を吐いた。

「姉上は我が儘で傲慢で、王立から排除された王族たちと同じだ。ホント見てて、吐き気がする。泣けば、許してもらえると思ってるのか?」
「・・・・・」
「一つ、聞いていいか?一度でもジュナのオムツ替えやミルクやりをしたことがあるか?」
「・・・ないわ」
「ハァ・・・チェギョンは、夜中泣き続けるジュナを何時間も抱いてあやしてるし、育児日記もつけてる。ジュナにとって、どっちが本当のヌナなんだろうな」
「それは・・・」
「それは、何だ?」
「チェギョンの仕事じゃない」
「仕事?宮は、13の少女を無償で働かせているんだ。労働基準法に反するよな。ジフヒョンの言うとおり、やっぱ潰した方が良かったのかもな・・・姉上、履き違えるなよ。宮が、13で立派にシン宗家を守っているチェギョンに『助けてくれ』と縋ってるんだ。その所為で、チェギョンの睡眠時間は間違いなく姉上の半分以下だ。皇族なら、もっと皇族らしい言動をしろ!!ユン尚宮、チェギョンの部屋と見比べて、この部屋で不必要だと感じた物は全部処分しろ!付いてこい!!」
「は、はい」

一人残されたヘミョンは、余りにも己が未熟すぎて涙も引っ込んでしまった。
なぜ周りの意見を素直に聞かなかったのか、押し寄せる後悔で押しつぶされそうだった。

(すべて驕りだった・・・役目も果たさず、ただ皇女と言うだけで自分は偉いと思っていた。人として欠けているのは、自分の方だった。お母さま、本当にごめんなさい)

この日を境に ユン尚宮はヘミョン付きの役職を解かれ、ヘミョンは皇太后預かりになり、慈恵殿に居を移すことに決まった。






選択 第66話

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引継ぎが終わったユン尚宮は、チェギョンの身の回りの世話をする私設秘書として東宮殿に放り込まれた。

「はぁ?シン君、ただの居候に尚宮って・・・いいわよ」
「キム内官の代わりだ。キム内官程期待できないが、扱き使ってやれ」
「キムオッパも私にしたら役立たずだったわよ!!オンニ、適当で構いません。よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ宜しくお願い致します」

有能なキム内官を無能呼ばわりするチェギョンが、ユン尚宮は信じられなかった。

「シン君、勝手に決めちゃったけど手配したから、旅行行ってきなよ」
「チェギョン・・・母上が断ったから、計画は白紙になったんだ。だから気持ちだけ受け取っておく。サンキュ」
「行かなかったら、一生後悔するよ。行った方が良い。おば様の説得は私がするから、ね?」
「チェギョンは?」
「私?私はお留守番してる」
「チェギョン!お前は、俺の大事な家族だ。。。お前だって、本心は行きたいんだろう?」
「・・・家族だから、残って宮を守ってる。これは、私にしかできない事だから。この機会に溜まってる宗家の仕事をやってしまうつもり。だからシン君、分かって?」
「チェギョン・・・」
「ほら、そんな顔しないの。同行する人も選定しておいた。翊衛士だけは、任せるね」

資料を受け取ったシンは、余りの用意周到さに驚いてしまった。

「チェギョン、東宮殿の職員全員連れていくって・・・大丈夫なのか?」
「失礼な・・・私は一人で何でもできます。ジフオッパもいるし、ちゃんと睡眠も取れる。だから安心して、いってらっしゃい。ほら、パクお婆ちゃまに報告してきなさいよ」

チェギョンに背中をぐいぐい押され、シンは渋々東宮殿を出ていった。
笑ってシンを見送ったチェギョンは、笑顔を引っ込めると以前隠されていた奥の部屋へと入っていった。
ユン尚宮は、黙ってチェギョンの後を付いていく。

「いる?」
『はい、姫さま』
「見つかった?」
『正殿に一人。皇后さま付きの女官が怪しいかと・・・』
「そう。予定通り、旅行に行ってもらえそう。準備は?」
『滞りなく・・・』
「あと一つ。東宮殿の料理人を手の者にしたい。もう餓死しそうよ」
『クスッ、食いしん坊は相変わらずね。ハギュンさまに相談します』
「お願い」

窓際に置かれたベッドに座って、姿の見えない女性と会話していたチェギョンを見て、ユン尚宮は固まってしまっていた。

「オンニ、この事は2人だけの秘密ね。安心して。こんな面倒な宮を乗っ取るつもりはないから」
「あの・・・お話していた方は・・・」
「・・・深く追求しないでほしい。オンニは何も見なかったし、聞かなかった。それができないのなら異動してくれる?」
「チェギョン様・・・」
「うちの家系は、幻の宗家。ずっと王朝の影で、ひっそりと数百年続いた家系なの。数百年続いているノウハウを宮で活かす。これが私がここにいる理由。オンニ、この辺りで納得してくれない?」
「・・・かしこまりました。チェギョンさまを信じます」
「ホッ、ありがとう」
「ところでチェギョン様、私は何をすればいいのでしょうか?」
「ん~・・・宮を巡回して、職員たちの悩みを聞いたり、問題点を探して、どんな些細な事でも私に報告する」
「えっ、そんな事でいいのですか?」
「李王朝の歴史は、皇族や王族だけで作られてると思う?オンニ達職員がいて、支持する国民がいるから成り立っているの。オンニ達が宮で働くことに誇りを感じてくれると、今回のような造反者は出ない。だから働きやすい環境を作ることがオンニの仕事。職員全員の相談窓口ね。私は、御爺ちゃんに連れられて3歳からしてるけど、決して楽な仕事じゃないよ」
「・・・頑張らせていただきます」
「そ・・・じゃ、頑張って」

ユン尚宮は、チェギョンの13歳とは思えぬ受け答えに、ヘミョンとの器の違いを感じたのだった。



皇族たちが旅行に出発する日。
チェギョンは、以前チャーターしたリムジンバスより豪華な車椅子で乗降できる2階建てリムジンバスを用意させていた。

「チェギョン、本当にありがとう」
「いいえ、宮は私に任せて楽しんできてください。それから同行する職員・翊衛士の皆さん、絶対に場所の特定や詮索はやめてくださいね。そして皆さんものんびりできることを祈っています」

リムジンバスが動き出すと、皇后はシンを呼んで、隣に座らせた。

「シン、チェギョンはどこに連れていってくれるって?」
「それが・・・行ってのお楽しみだとかで教えてくれませんでした。ただシン家所有だが絶対に傷つけるな、セキュリティーは完璧だから安心してくれとだけ・・・」
「なんだ、また古(いにしえ)の王妃ツアーをさせてもらえるのかと思っちゃった」
「扶余の里はソウルから3時間以上掛るので、他の場所でしょうね。それよりチェギョンは、何て母上を説得したのです?」
「・・・自分ではなく、シンやヘミョンの事を考えてほしいと言われたわ。一生後悔や罪悪感を持たせるより楽しい思い出を残してあげたくはないかって・・・チェギョンの優しさは、一体どこから来るのかしら?」
「ええ、本当に・・・」
「お祖父さんのチェヨンさんもそういう方でしたよ。クセが強くて敵の多い人たちが、唯一息が抜けるオアシス。今もチェギョンの周りに大勢いるでしょ?」
「確かに・・・おばあ様、おじい様もその一人だったのですよね?」
「ふふ、そうよ。『ソンジョが一番我が儘で厄介だ。パクさんが甘やかすからだ』と、チェヨンさんは笑っておられたわね。ヒョンは、チェヨンさんに会った事はないのかしら?」
「おそらくあの人だと思うのですが・・・太子が生まれた翌年、父上から太子を連れて夏の御用邸に来いと言われたことがありました。その時、太子と同じぐらいの女の子を連れた親子に会いました。今から思えば、あれがチェギョンだったのかもしれません」
「まさか、ヒョンもミンも知らなかったのか?その時のシンとチェギョンの写真が、何かの大賞を取ったのですよ」
「「「え~~~!!!」」」
「ご子息が応募したみたいで、しばらくビルの上で大きな看板になっていたわよ。お忍びであの人と見に行ったもの」
「全然、気づきませんでした。今からでも一度見てみたいです」
「・・・それは難しいかもしれませんね。チェヨンさんは、そのカメラマンのご子息を勘当されましたから・・・」

重苦しい空気が流れ出したバスが、停車し、扉が開いた。
翊衛士たちの後に一番に降り立ったシンが見たものは、梅園の中に佇む一軒の洋館だった。
洋館の玄関まで行くと、杖をついた男性が、シン達一行を出迎えた。

「ようこそ、いらっしゃいました。この梅園の管理を任されている者です。滞在中、ごゆるりとお過ごしくださいませ。中をご案内いたしましょう」

シンは、ふと思いついたことがあり、管理人に声を掛けた。

「もしかして、貴方はイ・ジェム氏ではありませんか?」
「太子、この方を知っているのか?」
「いいえ。チェギョン、扶余の里、梅園とくれば、連想される人は只一人です。貴方は、何代目に当たる方ですか?」
「クスッ、流石、姫さまのお眼鏡に適った人だ。侮れない。いかにも、遠い祖先があなた方と縁があった15代目イ・ジェムです。一梅枝(イルジメ)と言った方がよろしいかな?」
「「「!!!」」」
「・・・イ・ジェム氏、ご子息かお仲間が宮に出入りしていますよね?」
「やはり気づかれていましたか。修行不足で申し訳ない。我らは、姫さまを守る為に存在する者。あなた方が姫さまに牙を向けない限り、我らは何もしません。どうか気づいても知らぬ振りをしていてください。お願いします」

イ・ジェムが放つオーラに圧倒されそうだったが、そのオーラを物怖じともしない人がいた。

「まぁ~、あなたがイルジメの末裔なのね。扶余の里で古い文献を読んで、憧れてましたの。チェギョンに会わせてほしいってダメ元で言って、私が頼みましたの。これで、夢が一つ叶ったわ♪」

(母上、貴女は誰よりも大物です・・・)




選択 第67話

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皇族一行が出発してすぐ、宮にはチェギョンが呼んだと思われる男たちがやって来た。
キム内官とユン尚宮は、彼らを出迎えるとチェギョンの許に連れていった。

「誰もいないから、徹底的にお願いします。キムオッパは正殿、オンニは慈恵殿に案内してあげて」
「姫さま、一体何を・・・」
「キムオッパ、姫さまは止めてって言ってるでしょ。皆さんがいない内に徹底的に盗聴器、隠しカメラの捜索をするのよ。そうでないと安心して、住めないでしょうが・・・宮は、ホントつけ入る隙がありすぎる。TOPに仕えてる奴は危機管理能力が欠如しているボンクラだし・・・」
「チェギョンさま~(半泣)」
「・・・キムオッパ、捜索に皇后さま付きのイム女官を同行させて、捜索終了次第、ここに連れて来て」
「えっ、まさか・・・」
「そのまさかよ。。。時間が勿体ないわ。急ぎましょう」

落ち込むキム内官とユン尚宮は、正殿や事件殿に案内する為、東宮殿を出ていった。

「クククッ・・・チェギョン、苦労してるな。俺は東宮殿を捜索したらいいのか?」
「あっ、お世話になります。よろしくお願いします」
「了解。見つかったものは撤去するが、別に新しく設置する。いいな?」
「はい、お願いします」

男がシンの私室に入っていくと、入れ替わりにパビリオンにジフが出てきた。

「チェギョン、今の人、誰?」
「一族が送ってきた私の守り人だよ。翊衛士の武術指導とかもしてる。その道のプロみたい」
「・・・俺、あの人、見たことある気がする」
「うん。ソギョン爺ちゃんの口利きでうちに来た人みたいだよ」
「ふ~ん。俺、今日、する事がないから大学に戻るね」
「うん。明日には戻ってくるんでしょ?それまでには、快適な空間にしておくね」
「クス、期待してる」

慈恵殿の捜索はすぐに終わり、広い正殿の捜索を手伝うようだった。
ほぼ半日かけて捜索が終わり、キム内官とユン尚宮は一人の女官を連れて、東宮殿に戻ってきた。
東宮殿のシンの私室のソファーには、チェギョンとシン・ハギュン、そしてもう一人の男性が座っていた。

「お疲れさま。で、見つかった?」
「はい。正殿は、皇后さまの寝室と皆さまが集う居間、陛下の執務室に仕掛けられておりました」
「そう。女官のオンニ、座ってお話しましょうか」

連れて来られた女官は、顔色も悪く、心なしか震えている。

「単刀直入に言います。犯人は貴女よね?」
「・・・・・」
「チェギョン、元侍従の俺から話をしよう。アンタ、身言牌を甘く見てんじゃないか?破った者は当然だが、罰は家族にも及ぶ」
「えっ!?」
「法度は何百年も前に作られたものだ。昔なら、当然一族全員死罪だった。今は、刑は幾分軽くなったが、それでも秘密漏えいしたんだ。実家に家宅捜索は入るし、家族は事情聴取を受けるだろう。そして自宅には戻れない」
「嘘っ・・・・」

ここまでおとなしく聞いていた女官だが、急にブルブルと震えだした。

「言い訳を聞くつもりはない。アンタの部屋、調べさせてもらったら、山のようなブランド品が出てきた。女官の給料だけじゃ払えないから誘いに乗った。そんなところだろう」
「・・・誰に情報流してたの?」
「チェギョン、それは俺が調べた。皇后さまの後釜を狙っているみたいだ。ソイツの妹が,いかず後家で、最近、せっせとエステに通いだしてる」

話を聞いて、チェギョンが顔を真っ赤にさせて怒り出した。

「皇后さまが亡くなるのを楽しみに待っている輩がいるって事?」
「そういう事だな」
「オンニ、これが露見したら、皇后さまを溺愛してる陛下は相当お怒りになられるだろうね」
「そ、そんな思惑だとは、知らなかったの」
「どんな思惑だろうと、オンニがお金の為に情報を売ったんでしょ。言い逃れはできないと思うわよ」
「・・・ど、どうしたら・・・」
「良いかって?そんなの私に分かる訳ないじゃない。だってまだ13歳だもん」

『13歳』の言葉に ハギュンともう一人の男性は、プッと吹きだした。

「アジョシ達、ちょっと失礼なんじゃない?!」
「クククッ、すまん、すまん。おい、雇い主に電話しろ。俺が話をつけてやる」

女官が震える手で操作したスマホを 横から取り上げるとハギュンは耳に当てた。
スピーカーにしたのか、皆の耳にも呼び出し音が聞こえてくる。
もう一人の男が、ペン型の録音装置をハギュンに渡した。

『ヨボセヨ。イム女官、連絡を待っておったぞ。やっと皇后さまの容態が急変したのか?』
「・・・・・」
『おい、どうしたんだ?イム女官』
「残念ながら、イム女官ではありません。以前、王族会議でお邪魔したシン・ハギュンです」
『!!!』
「イム女官は、我々が拘束しました。このまま陛下の前に突き出してもよろしいでしょうか?」
『なな何の話だ?儂は、何も知らん』
「そうでしょうか?【ヨボセヨ。イム女官、連絡待っておったぞ。やっと皇后さまの容態が急変したのか?】これを一緒に提出したら、皇族の皆様はどう解釈されるでしょうね?」
『ま、待て、待ってくれ!』
「今日は、皇族の皆さんが不在ですので何もできません。ですから明日までに進退をお決めになってください。賢明なご判断をされたなら、皇族の皆さんには黙っていましょう」
『脅迫するのか?』
「ご冗談を。。。私は救済のつもりでお話したのですが?この事を話せば、先の王族たちと同じ運命を辿るのは必至ですからね。家族全員、無人島に放逐。耐えられますか?」
『・・・・・』
「では、失礼いたします」

ハギュンは通話を切ると、チェギョンに向かってニヤリと笑った。

「アジョシ、お疲れ。しっかし腹黒いね~♪」
「計算高いと言え!それよりチェギョン、この女官はどうすんだ?」
「う~ん、どうしたらいい?ここにキムオッパとオンニがいるから、宮は無理でしょ」
「うちも無理だぞ。金で裏切るような奴は、信用できないからな」
「宮に借金取りが来ても迷惑だし・・・キムオッパ、宮は退職金制度はあるの?」
「えっ、ありますが、イム女官は勤続年数が短いので小額かと・・・」
「オンニ、ブランド品を処分して借金を返してください。それでも返せきれない場合は、自己破産するしかない。アジョシ、ドンヒョクアジョシの事務所、紹介してあげて」
「その後は?」
「家族の許に帰るしかないでしょ。それで良い男の人と出会って恋愛するのも良いんじゃない?女官じゃなくなるんだからさ」
「クククッ、そうだな。おい、2度目はない。退官しても絶対に宮の事は勿論、チェギョンの事も口にするな。一生塀の中から出られないぞ」
「わわわ分かりました・・・」
「キムオッパ、オンニと一緒にブランド品の処分と借金の返済。ユン尚宮オンニは、寮に行ってオンニの荷造り。皆さんが帰ってくるまでに片を付けてしまおう」
「「・・・かしこまりました」」
「オンニ、ご家族の為にももう誤った道に走らないでね。お元気で・・・」

深々と頭を下げたイム女官とキム内官、ユン尚宮が部屋を出ていくと、ハギュンが後を追った。

「おい、言い忘れていたことがある。先帝が、『チェギョンを危険に晒す者は、死罪もしくは同等の罰を与えよ』と勅命を残してる。だから、あの子は国レベルで守られているんだ。命が惜しければ、口は閉じておけ。分かったな」
「は、はい」
「じゃあな」

ハギュンが踵を返すと、キム内官が歩みを促すようにイム女官の背を押した。

「今の話は事実だ。現に大統領警護官からマフィアまで、姫さまを守っている。国賓以上の待遇だと思って良い」
「ぜぜぜ絶対に喋りません。神に誓います」

(ユン尚宮は脅迫と思ってるだろうな。でも信じられないだろうが、事実だから仕方ない)












選択 第68話

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事実は、コン内官とチョン最高尚宮だけに知らされ、皇族たちにはイム女官は実家の都合で急遽退官したと報告された。
指示していた王族も表向きは健康上の理由として王族会を脱退し、ソウルを離れていった。
キム内官が内密に王族の土地家屋を調べたら、当然のようにSC財団の所有に代わっていた。

(恐るべしSC財団・・・チェギョンさまを怒らせたら、ソウルでは暮らせないということか・・・)

チェギョンの尽力で風通しがよくなってきた宮だが、皇后の体調は一泊旅行を境に徐々に悪化の一途を辿っていった。
痛みを取るモルヒネを投与され、皇后はイジュンを抱き、時間が許す限り家族との時間に費やした。
シンは、記憶だけでなく記録に残そうとそんな皇后にカメラを向けるのだった。
そして蝋燭が燃え尽きるかのように 皇后の命は静かに尽きた。

「ミン~~!!」
「お母さま~!!」

『御崩御なさいました』の医師の言葉の後、皇帝とヘミョンの絶叫が部屋に響き渡った。
イジョンを抱きながら皇后の最期を看取ったチェギョンは、廊下で控えていたコン内官と最高尚宮を東宮殿に付いてくるよう促した。

「コン内官アジョシ、これからの流れを教えてください」
「えっ!?」
「あの様子じゃ陛下もヘミョンさまも葬儀の采配は無理そうでしょ。部外者だけど、私が指示を出していいですか?一応、祖父で経験してるから役に立つと思います」
「チェギョンさま・・・」
「それから・・・このノート。皇后さまが書き残した先帝のおじいちゃまとユルアッパの葬儀の時の資料です。多分、皇后さまは私に取りしきれと仰りたかったのかもしれない」
「・・・分かりました。それでは、ご説明させていただきます」

一通り流れを聞いたチェギョンは、最長老を呼び出し、王族会のメンバー全員家族総出で葬儀の手伝いをするよう正論で説得した。

「王族だと偉そうに権利を主張するなら、義務も果たさないとね。主家の大事なんだから・・・王族のメンバーは、宮で雑用。外命婦の奥さまたちは、王族の食事の用意。ご子息達には、国賓の通訳兼おもてなし。任せてもいいかな?お爺ちゃんが不甲斐無いせいで、職員が減って人手不足なんだもん。協力してよね」
「ま、待ってくれ。通訳ができるほど外国語が堪能な奴がどのくらいおるのか、聞いてみないと答えられん」
「はぁ!?ホント中身のない王族だねぇ。。。ひょっとして四書五経や論語が読めない王族がいるんじゃないでしょうね?伝統を守る王族なのに子ども達に古典楽器も習わせてなかったみたいだし・・・」
「・・・面目ない」
「とりあえず確認して。足らない人員は、職員と私が何とかする」
「わ、分かった」
「ヘジャお婆ちゃん、当たり前だけど女性職員も全然足らないよね?うちの者に手伝わせようか?」
「えっ!?」
「アジョシから聞いた流れだとうちの祭祀よりも簡略化されてる。お爺ちゃんの時、ほぼ1週間寝ずの儀式が続いて、終わった時ぶっ倒れたし・・・このぐらいの儀式なら、うちの者で十分に役に立つと思う」
「・・・では、よろしく頼みます」
「分かった。ヘジャお婆ちゃんは皇太后さま、ハン尚宮オンニは陛下とヘミョンさまに付いてあげて」
「イジュン様はどうするつもり?」
「私とチェ尚宮オンニとユン尚宮オンニの3人で何とかするわ。シン君もいるし、何とかなるでしょ。コン内官アジョシ、男性職員への指示はアジョシにお任せします。あと国賓のホテルの手配は私がします。葬儀に参列する国賓のリストをください。それから可哀想だけど、シン君に陛下の代役を任せてください。精神的フォローは私がします」
「かしこまりました。チェギョンさま、殿下をよろしくお願いします」



≪コン内官の回想≫

チェギョンさまの采配とシン宗家の人たちの働きぶりは、実に見事だとしか言えなかった。
お蔭で、宮職員たちは接待と準備に専念でき、翊衛士も疲れを残すことなく、1ヶ月を乗り切れた。
その反対に 王族たちの情けなさは、目を覆うものだった。
外国語どころか英語が話せる子息はたった3人しか集まらず、宮職員だけでは対応できず、やはりチェギョンさまの勉強仲間が手を貸してくださった。
もっと驚いたのが王族方の食事の用意を任せた奥方たちで、葬儀や祭祀ではタブーのトウガラシやニンニク入りの料理を出して、最長老や長老衆を激怒させた。
この話を報告すると、チェギョンさまは、『これで、しばらく王族は大人しくなるわね』とニッコリと笑われた。
私は、チェギョンさまが本当に殿下と同じ年なのかと、思わず疑ってしまった。
でもこれが、シン宗家当主の実力なのかと同時に納得もした。
これだけの器が陛下にあったなら・・・声には出さないが、きっと多くの職員は思っていることだろう。

殿下もチェギョンさまに支えられ、泣き崩れる陛下の代わりに立派に喪主を務められたと思う。
抱っこ紐でイジュン様を抱え、国賓に挨拶を繰り返す姿は、国民の涙を誘うには十分だった。
しかし東宮殿に戻れば、チェギョンさまに抱きつき、涙を流しておられたとチェ尚宮が教えてくれた。
次期皇帝と言えども、まだ母が恋しい13歳の少年なんだと、改めて思った。
そして殿下を支えてくださったチェギョンさまには、感謝の言葉しか浮かばない。
だが、皇后さまを実母のように慕っておられたチェギョンさまは、大丈夫なのだろうか・・・
皇后さまが崩御されてから一度も涙を見せておられないチェギョンさまは、一体どこで泣かれているのだろう。



全ての儀式が終わった翌日、皇太后は家族全員を正殿居間に呼び出した。
チェギョンは抱いていたイジュンを皇太后に託し、部屋から出ていこうとしたが、皇太后が呼び止められた。

「ミンは、チェギョンも自分の娘だと思っていると常々言っていたわ。だからあなたもここにいてちょうだい」
「・・・はい」
「では、話をしましょうかね。無事、ミンを見送る儀式を終えることができました。シン、チェギョン、お疲れさま。そしてありがとう。。。今日、集まってもらったのは、ミンから預かっていたモノを渡す為です」
「「「!!!」」」
「何をそんなに驚いているのです?聡明でしっかり者のミンが、そなた達に何も残さず逝く筈がなかろう?」

皇太后は、ミンから預かっていた品物を陛下、ヘミョン、シン、チェギョンの前に置いた。

「ヒョンには、ミンの最期の遺作のネクタイ。見事な玄武が刺繍されておる。ヘミョン、シンには、そなた達が生まれた時に父が贈った宝石。イジョンには、父が動転していて贈ってくれなかったそうじゃ。ヒョン、今からでもミンへの感謝の印を買ってイジョンに渡しておやり」
「はい、母上」
「そしてチェギョン、これをそなたに。皇后が使っていたピニョじゃ」
「えっ!?こんなにたくさん・・・ですか?貰えません」
「・・・扶余の里では、韓服で過ごすらしいの。チェギョンの韓服姿は綺麗で、立ち居振る舞いも素晴らしいとミンは感心しておった。韓服を好まぬヘミョンに渡したところで、宝の持ち腐れじゃ。きっとチェギョンなら、大事に使ってくれる筈だと思い、私に託したのだと思う。ミンの気持ちじゃ、貰っておやり」
「・・・はい、お婆ちゃま。では遠慮なく、有難く頂戴します」

うん、うんと頷いた皇太后は、次にハン尚宮に目で合図を送った。
ハン尚宮は、各自の名前が書かれたUSBをこれも皇帝、シン、ヘミョン、チェギョンに手渡した。

「お渡ししましたのは、生前皇后さまが残されたビデオレターでございます」
「皇后は、私たちにメッセージまで残してくれてたのか?」
「左様でございます、陛下。皆さん、お一人でご覧になりたいかと思い、シン・ドンヒョク様に手伝っていただいて編集いたしました。そしてもう一つイジュン様の分でございますが、殿下、殿下にお預けしてもよろしいでしょうか?皇后さまは、小学生に上がるころに見せてほしいと仰せでした」
「・・・分かった。責任もって保管し、必ずジュナが理解できる年齢になった時に見せます」
「オンニ、なぜドンヒョクアジョシが手伝ったの?皇后さまとアジョシって、面識あった?」
「それは・・・USBをご覧になってください。そうしたら理由が分かられると思います」
「・・・分かったわ。オンニ、ありがとう」

一旦、シンと共に東宮殿に戻ったチェギョンだが、しばらくすると煙のように消えていた。

(チェギョン、一体、どこに行ったんだ?)









愚か者 前篇

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ここは、済州島の皇室リゾート。本日、皇太子イ・シンの誕生日パーティーが開催される。
皇太子妃シン・チェギョンは、夫イ・シンに気づかれないよう溜息をついた。

(はぁ・・・やっぱりあの人たちも来てるわよね。お願いだから、大人しててよね)

「妃宮、どうした?どこか具合が悪いのか?」
「えっ!?ちょ、ちょっと緊張してるだけよ。大丈夫」
「妃宮が知っている奴ばかりだし、何も緊張することはない。俺の隣で笑っておけ」
「うん」


シンとチェギョンが腕を組み、入場すると、会場中から拍手が起こった。

「本日は、お忙しい中、私の誕生日パーティーにお越しくださりありがとうございます。皆さん、すでにご存じだと思いますが、先月隣におりますシン・チェギョンと婚姻しました。まだまだ未熟な私たちではありますが、皇族として恥ずかしくないよう日々精進してまいりたいと思います。どうぞご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。これから妃宮と皆様の元に参り、お一人お一人に挨拶をしていこうと思います。どうぞお時間の許す限り、楽しい時間をお過ごしください」

シンはパーティー開始の宣言をし壇上を降りると、まず最初に最長老たちの元に向かった。
和やかな雰囲気の中、挨拶を続けているうちにチェギョンも固さが取れ、いつもの笑顔が戻ってきた。

「チェギョン、よく頑張ったな。もう緊張しなくていいぞ。後は、俺とお前の友達だけだ」
「う、うん・・・」

(そこが一番緊張するんだってば・・・シン君、ホント分かってないんだから・・・)

「「「シ~ン、誕生日おめでとう♪」」」
「シン、おめでとう」
「ありがとう。そうだ、お前たちに正式に紹介したことがなかったな。妃宮のシン・チェギョンだ」
「はじめまして。。。」
「こいつ、一人にすると危ないんだ。俺が公務でいない時は、お前たちも注意して見てやってくれ」
「い、い、いいよ。それに危ないって何よ!?失礼な・・・」
「クスクス・・・おっ、コン内官が呼んでる。妃宮、お前の友人のところに行っておいで。用を済ませたらすぐに行くから、大人しくしてるんだぞ」
「・・・はい、殿下」

シンが去っていくと、チェギョンはシンの友人たちに一礼をして踵を返した。
なのに友人の一人チャン・ギョンが前に立ち塞がり、チェギョンの行く手を遮ってしまった。

『おっと妃宮さま。どこに行くんです。少し俺たちと話をしましょうよ』
『おい、お前。恋人のヒョリンを押しのけて座った皇太子妃の座はどうだ?いい加減、その座に執着するのは止めたらどうだ?ホント図々しい奴だな』
『ちょっと止めなさいよ。妃宮様に失礼でしょ。クスクス・・・』
『はん、俺たちが何を言ってるのか庶民に分かる訳ないさ。庶民出の妃宮さま、英語、理解できますか?』

カン・イン、チャン・ギョン、ミン・ヒョリンの口からチェギョンをバカにする言葉が、英語で次々に繰り出される。
そしてもう一人の御曹司リュ・ファンは、その光景を笑いながらビデオ撮影していた。

「はぁ・・・ここは皇室リゾートなの分かってる?TPOを考えて話さないと・・・大会社の御曹司なんでしょ?」
「何だと!?」
「お願いだから、周りをよく見てちょうだい。ここは学校じゃないの。で、私は皇太子妃なの。チェ尚宮、少し席を外します」
「お供いたします」

チェギョンが尚宮を従えて去っていくと、インたちは周りの参加者から白い目で見られていることに気づいた。
居た堪れなくなった4人は部屋の隅に移動しようとしたが、チェギョンの友人たちに呼びとめられた。

「あなた達がここまで愚かだとは思わなかったわ」
「何だと!?」
「チェギョン、英語、理解できるわよ。ううん、英語だけじゃないわ。4ヶ国語ぐらい話せる筈よ」
「「「えっ!?うそ・・・」」」
「・・・嘘、吐くな!父親が無職の庶民がそんなに話せるわけがないだろうが!!」
「呆れた・・・あなた達、本当にセレブなの?チェギョンのアッパを知らないなんて・・・」
「「「えっ!?」」」
「・・・尹申(ユンシン)って聞いたことないでござるか?」
「ユンシン?あのキムチの老舗のか?なかなか手に入らないから、幻のキムチって言われてる・・・」
「チェギョンのオンマがユン・スンレ。アッパがシン・チェウォン。で、ユンシン。。。」
「「「!!!」」」
「加えて言うなら、亡くなったおじい様は、人間国宝の書道家。チェギョンのアッパも趣味で書や水墨画を嗜む程度だけど、かなりの腕前よ。よく韓展で賞を獲ってるわ。私たちや殿下は、子どもの頃からおじい様やおじさまに書や水墨画を習ってるの。クスクス・・・私たちとあなた達、どっちが庶民かしらね?」
「「「///・・・・・」」」
「あれだけチェギョンに暴言を吐いていたのに、今まであなた達が何故お咎めなしだったか分かる?チェギョンが私達や翊衛士のオンニたちに口止めしてたからよ。殿下のお友達だからって・・・」
「「「えっ!?」」」
「だから、私たちも宮には報告してないわ。。。ねぇ、最近、あなた達のお父様、お忙しくしてらっしゃらない?」
「クスクス・・・明日から、もっとお忙しくなりそうだけど?あなた達の所為でね」
「「「!!!」」」
「ミン・ヒョリン、何か他人事のように聞いているでござるな。ミン貿易が一番苦境に立たされているの知らないでござるか?」
「えっ!?うそ・・・」
「本当よ。ヒスンの家に政略結婚の打診が来たから、相当ダメージがあるんじゃない?」
「勿論、断わってもらったわよ。親友を虐めるい・も・う・とがいる家になんて嫁ぎたくないもの」
「チョンホオッパ、良い人なのにねぇ・・・」
「「「!!!」」」
「ガンヒョン、ミン貿易の御曹司、知ってるの?」
「オッパが留学するまで家庭教師してもらってたの。一つ聞いていい?同い年の妹がいるなら、普通会話の中に出てきてもおかしくないのに、ヒョリンの話を聞いたことがないの。あなた、ひょっとして愛人の娘なの?」
「「えっ!!」」

ギョンとファンが驚いて、ヒョリンに視線を移すと、ヒョリンは顔色を真っ青にしながら悔しそうに唇を噛んでいた。

「おい、ここを何所だと思ってるんだ!?場所を弁えろ!!」
「あなた達が仕掛けておいたくせに・・・自分たちが分が悪くなると、『場所を弁えろ』ですって。ホント愚かな人たちね。ヒスン、スニョン、チェギョンのケーキ、取りに行こう」
「OKでござるよ」
「さっきアッパから電話あったの。あなた達が崇めてるお姫様、ミン貿易の社長宅で家政婦として働いているアジュマの娘さんだそうよ。ミン社長とは血がつながっていない赤の他人ですって・・・じゃあね」

クスクス笑いながら去っていく3人を唖然として見送っていたが、我に返ったギョンはヒョリンを睨みつけた。

「ヒョリン、俺たちに話していたこと、全部嘘だったのか?」
「・・・・・」
「シンと恋人だったことも シンにプロポーズされたことも全部嘘だってぇのか?!」
「ギョン、声が大きい。周りから注目されてるんだ。言動に気をつけろ!」
「イン、お前、まさかヒョリンの素性、前から知ってたのか?俺達を騙してたのか?」
「・・・ギョン」

『そのようでございますね。それからカン・インさまの仰ることも一理ございます。皆様には、別室に移動していただき、パーティー終了後、詳しいお話を聞かせていただきます。おい、ご案内しろ』

声の方向に顔を向けると、数名の翊衛士を従えた老内官だった。
翊衛士に挟まれる形でパーティー会場を後にした4人は、一室に閉じ込められた。
翊衛士に監視される中、インたちは話することもままならず、不安に駆られるのだった。

どの位待ったのだろう、先程の老内官と尚宮を従えたシンとチェギョンが部屋に入ってきた。
緊張した雰囲気を破るかのように シンが口を開いた。

「パーティー会場にいた女官、翊衛士、内官からすべて聞いた。確かにヒョリンが、秘密の恋人だという噂があるのは聞いていた。でも根も葉もない噂だから放っておいたのだが、まさかお前たちまで信じてるとは思わなかった」
「シン・・・じゃあ、ヒョリンと付き合ってることは・・・」
「断じてない!!第一、噂が流れた時点で秘密とは言わない。俺は、お前たちには恋人の事を聞かれたら、正直に話してた筈だ。まさかヒョリンと勘違いしてるとはな・・・」
「じゃ、じゃあ、シンの恋人って・・・妃宮さまだったの?」
「チェギョン以外の誰がいるんだ?!可愛くて、一緒にいると楽しくて、とても落ち着くって話してただろ!?」
「「「・・・・・」」」
「誤解のないように言っておくが、俺はヒョリンとは1度しか話をしたことがないぞ」
「「「えっ!?」」」
「何故、そんなに驚くんだ?階段の踊り場からチェギョンを見ていたら、気づけばいつも俺の後ろに立ってたが、話をしたことはない。ストーカーのようで気味が悪かったが、インの女だから我慢してたんだ」
「うそだろ・・・」
「ギョン、何故信じない?インが貢いで磨いている女だと分かってて、俺が手を出すと思うか?大体、俺は5歳からチェギョン一筋だ。コン内官、あれを・・・」

驚くギョンとファンにコン内官と呼ばれた老内官が、ヒョリンに関する資料を手渡した。
その資料には、ヒョリンの素性から経済状況など、すべてが書かれていた。

「彼女たちが言ったことは本当だったんだ・・・」
「彼女たち?ガンヒョン達の事か?ガンヒョンは俺の再従兄妹で最長老の孫、おそらくヒスンとスニョンも元両班で大企業の令嬢だな。でないと、人間国宝直々に書が習えるわけない」
「「・・・・・」」
「今は21世紀で身分に拘る時代じゃない。だから俺の意思でお前たちの言う庶民のチェギョンを許嫁にし、婚姻した。だがな、チェギョンは俺と婚姻した時点で皇族になった。その皇族に向かって、お前たちは暴言を吐き続けたんだ。不敬罪で拘束されても文句は言わせない。ギョン、答えろ!何故、そんな事をした?」
「・・・宮から押し付けられた婚姻だと信じてた。ヒョリンがプロポーズされたのにと言ってたし、シンも宮の事情で急遽決まったって・・・」
「宮の内情を軽々と話せるわけがないだろうが・・・それからミン・ヒョリン、俺がいつ、お前にプロポーズした?」
「だってあの時・・・」
「あの時?俺がお前と話したのは、後にも先にも初めて会った日だけだ。こいつの事で悩んで、プチ家出したときだった。俺が、『夢を諦めることはできるか?』と聞いたら、お前は『できない』と即答だったよな?で、その後、俺はこう言った筈だ。『それでも最終的には、俺は夢を諦めて俺と一緒になってくれとアイツに言うんだろうな』 この会話で、どうやったら勘違いできるんだ?それも初対面だぞ!?どんな頭してるんだか・・・」
「・・・・・」
「なぜそんな悔しそうな顔をする?腹が立っているのは、俺の方なんだが?」
「だってずっと一緒にいたのは、私なのよ。シンを呼び捨てにするのも・・・」
「お前がストーカーのように付き纏ってただけだろ。高校入学前に婚約してから、俺と一緒にいたのはチェギョンだ。それに呼び捨てならガンヒョンもしてるぞ。TPOを知らないお前たちと同レベルと思われたくないと公の場では殿下と呼んでるがな・・・」
「///・・・・・・」
「・・・カン・イン、惚れた女を着飾りたい気持ちは分かる。だが、それだけで満足できるのか?俺には無理だ。全くもって理解ができない」
「・・・ヒョリンがいくらシンを好きでも俺の家でも認めないのに宮が認めるわけがないのも分かってた。だからせめて高校の3年間だけは、皇太子と共に過ごしたという思い出を作ってやりたかったんだ」
「ふざけんな!!だからって、チェギョンを攻撃し、傷つけてもいいと思ってるのか!!」
「・・・ごめん」
「シン君、私なら大丈夫だから・・・ね?お友達を罰するようなことはしないで、お願い」
「チェギョン・・・お前を侮辱したという事は、俺やお前を許嫁に決めた先帝をも侮辱したことになるんだぞ!はぁ・・・分かった」
「シン君♪」
「カン・イン、チャン・ギョン、リュ・ファン、友人だと思ってたが非常に残念だ。コン内官、こいつらの処分は陛下に一任することにする。これで良いか、チェギョン?」
「うん。私も一言だけ良い?あなた達の言動で一番傷ついたのは私じゃなくてシン君よ。なぜシン君の話に耳を傾けず、ヒョリンの話を鵜呑みにしたの?私は、それが悔しいかな」
「チェギョン・・・サンキュ。戻ろう。コン内官、後は任せた」
「御意」

手をつないでシンとチェギョンが部屋から出ていった途端、緊張を解した4人をコン内官は呆れたように見つめた。

(さて、私からも少しお仕置きが必要なようですね・・・)



愚か者 中編

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コン内官が翊衛士たちに合図を送ると、翊衛士たちは4人を床に跪かせた。

「宮中であなた方に怒りを感じていないのは妃宮さまだけで、皇族の方々は勿論、職員全員が憤っていることを覚えておきなさい。先程から見ていて、反省はしているようですが、あなた方はとうとう最後まで妃宮様に謝罪の言葉を口にされませんでしたね」
「「「・・・・・」」」
「もっと現実を見なさい。妃宮様は隠しておられましたが、イ・ガンヒョンさまがお家で愚痴られたのを聞いた最長老さまが陛下に報告されましたので、皇族方は全員以前からご存知だった。今まで妃宮様を想いを尊重していただけで、今日があなた方にとって最後のチャンスだったのに墓穴を掘ってしまったな」
「「「えっ!?」」」
「殿下は、あなた方に妃宮様を紹介した後、席を外されただろう」
「じゃあ、俺たちは試されてたんですか?」
「いいえ。殿下は、ご自分の話を聞いてあなた方が間違いに気づいてくれると信じておられました。しかしながら結果は・・・残念としか言いようがない」
「「「・・・・・」」」

御曹司達がやっと後悔し始めた時、一人の内官が部屋に入ってきて、コン内官に耳打ちしてきた。

「今日のパーティーに参加していた招待客たちが、閉会した途端、自社に電話を掛けだしたそうだ。君たちの父親の会社との取引停止を指示していたという報告だった」
「「「!!!」」」
「それからミン・ヒョリンさん、ユン・ヒスンさんから齎された情報だが、ミン社長は君を告訴すると息巻いておられるそうだ」
「えっ!?」
「何故、驚くのか理解できないが、君がミン貿易の娘を騙って、妃宮様を散々愚弄した結果、会社が傾いたのだから当然だと思うが?愚かな娘だ。君たちに言っておこう。数百年続いた李王朝を甘く見るから、こんな馬鹿げたことをしでかすんだ。今から、翊衛士に拘束されたままソウルに戻ってもらう。陛下が、明日両親と共に参内するように勅令を出された。ご両親には、もう連絡済みだそうだ。覚悟して帰宅しなさい。連れて行きなさい」
『御意・・・』

項垂れる4人を無理やり立たせ、連れ出していく翊衛士たちを見送ると、コン内官は自分も帰宮の準備に入るのだった。

(早くあのお二人を探さないと、飛行機に間に合わなくなるぞ。お部屋に籠ってなければ良いが・・・)



翌日、憔悴した面持ちで参内してきた御曹司達とその両親。
しかしミン・ヒョリン母子を見た瞬間、両親たちは憎悪むき出して睨みつけた。

『皇帝陛下、皇后さま、皇太子殿下のお成りです』

先触れがされ、全員が直立不動で頭を下げていると、もの凄いオーラを感じ、両親たちは冷や汗が出てきた。

「面をあげて、座りなさい。本日、呼び出した理由は、もう知っている事と思う。心優しい妃宮が、反省してくれたらそれで良い。たった一度の過ちで若者の将来の芽を潰さないでほしいと言ってきた。そんな妃宮だからこそ、私たちはお前たちを許せない」
「「「・・・申し訳ありません」」」
「宮には特有の法律『法度』があり、それを守ることで李王朝を守ってきた。その法度で、皇位継承者は住まいを同じにしてはいけないと決められている。よって太子は、私の兄が事故死して以来、一人暮らしだ。私たちがどれだけ辛い想いをして、幼子を女官に預けたか分かるか?自分たちの手でどれ程育てたかったか・・・だが如何せん、起床から就寝時間まで分刻みで決められてる私達にはどうする事も出来なかった。あなた方も事業で忙しかったとは思う。だが同じ屋根の下で暮らしていたら、例え5分でもご子息と話をする時間は持てた筈だ。放任主義とは名ばかりで、金だけ渡して後は無関心だったのではないか?」

陛下の問いかけに両親たちは、顔を上げる事が出来なかった。

「妃宮はそんな太子を理解し、幼き時から太子を支えてくれた。妃宮がいなかったら、今の太子はいなかっただろう。それぐらい太子にとっても宮にとっても妃宮は大切な宝物なのだ。私達が如何に憤っているか理解していただけただろうか?」
「「「・・・はい。誠に申し訳ございませんでした」」」
「さて次は、ミン・ヒョリン。君は、嘘を吐いてまで何がしたかったのだ?女手一つで必死で育ててくれたお母さんに後ろめたくなかったか?」
「・・・・・」
「ミン・ヒョリン嬢、陛下に嘘を申してはならぬ。正直に答えなさい」

俯いて黙っているヒョリンにコン内官が答えるよう促すと、重い口を開いた。

「私は、自宅がミン社長宅だと言っただけで、社長の娘だと肯定した事はありません。ただ家政婦の娘だと言わなかっただけです」
「・・・全く反省しておらぬようだな。太子と交際している振りや嘘を吐いたな?これは、どう申し開きするつもりだ?」
「それは・・・ただシンの傍にいたかった。それだけです」
「ミン・ヒョリンとやら、陛下の御前で太子を呼び捨てにするとは、そなたは常識がないのか?母である私でさえ名前を呼べぬのに・・・そなた、妻がいる太子の傍にいたかったと申すが、妃宮を口撃したなら己が妃宮になろうとしたとしか思えぬ。違うか?」
「そんなつもりは・・・自分では皇太子妃は認められないことは分かってます。だから、シンが廃位してくれたら一緒に留学しようと・・・」
「黙れ!!」

今まで黙って話を聞いていたシンは、余りにも自分勝手なヒョリンの考えに大声をあげてしまった。

「お前だったか・・・俺を廃位に追い込む為にネズミを放っただろ?
「太子、どういうことだ?」
「パーティー会場に普段見かけない記者が入り込んでいました。翊衛士が拘束したところ、私が妃宮を無視して、秘密の恋人と一緒にいる筈だと密告があったので取材にきたと釈明したそうです」

部屋にいた全員が驚き、ヒョリンに目を向けると、ヒョリンは縋るようにシンを見ていた。

「シン、皇太子妃になりたい訳じゃないの。本当にただシンと一緒にいたかっただけなの。信じて」
「ふざけるな!!お前が俺をどう思おうが勝手だが、自分勝手な持論で俺を廃位に持ち込もうとしたことを理解しろと?!できるわけないだろ!!」
「・・・太子、落ち着け。ミン・ヒョリン・・・一つ聞くが、太子と一緒にと言ったが、留学費用はどこから捻出するつもりだったのだ?廃位になった息子に私は出すつもりはないぞ。私達は、税金で生活している身だからな。そしてそなたには、不敬罪と姦通罪で告訴する」
「えっ!?そんな・・・」
「何がそんなだ?宮を揺るがせ、国民の信頼を失うことになるんだ。当然であろう」
「・・・・・」
「陛下、申し上げます。この者は、宮が支援している留学制度に申し込みをしております」
「何!?コン内官、真(まこと)か?宮に対してこれだけ無礼を働いておきながら、認可してもらえると思ってたか?宮や私達をバカにするにも程がある。。。支援はしないが海外には行かせてやろう。但し、生涯、祖国の土を踏めると思うな」
「「!!!」」
「カン社長、チャン社長、リュ社長・・・騙された、知らなかったとはいえ、子息たちは太子失脚の片棒を担いでいた事は間違いない。本心は重罰に処したい位だが、妃宮が悲しむので何もせん。すでに社会的制裁は、受けているだろうしな。息子たちの処罰は、そなたたちに任せよう。但し、太子や妃宮と今後関わることは一切許さない。万が一、甘い処し方なら、妃宮の友人たちの親に頼んで、会社を潰させてもらう。特にカン社長、子息はその娘同様悪質極まりない。よく考えて、結論を出しなさい」
「「「・・・はい」」」
「最後になったが・・・ミン・ソヨン、苦労したな。そなたの事だ。一生懸命、娘を育てていただろう。残念だが、この自分勝手で傲慢な所は父親譲りのようだな」
「「「!!!」」」
「・・・陛下」
「陛下、ミン・ヒョリンの母親を御存じなのですか?父親も?」
「・・・ああ、知っている。」
「ソヨン・・・娘に国外追放を命じたが、そなたの考えを聞こう。どうすべきだと思う?」
「陛下の判断に間違いはないかと・・・御恩を仇で返してしまう形になり申し訳ありません。やはりご忠告通り、宮に災いを撒き散らすあの者達の血を残すのではありませんでした。後悔しております
「オ、オンマ?」
「ソヨン・・・」
「娘は、何度話しても感謝する心、反省する心を持つ事はありませんでした。本来なら私も娘と一緒に付いていくべきでしょうが、それでは人間として娘は成長しないでしょう。一人で生活し、お金の有り難味が分かり、周りの人に感謝できるまで、私が国内に留まることをお許しください」
「オンマ!!」
「分かった。ソヨン、あの時は断わられたが今度は承諾してもらう。チェウォンには、話をつけてある。妃宮の実家に行け」
「「「「!!!!」」」」
『ヒョ~ン、もう出てもいいか?』

衝立の向こうからひょっこり顔を出したのは、シン・チェウォン。チェギョンの父だった。


選択 第61話

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それからのチェギョンは、ジュナの事はチェ尚宮とシンに任せ、寝るために病院に戻ってくる。
皇后は術後3日目に目が覚めたが、面会はガラス窓越しでしかできず、そこからジュナを見せる毎日だった。
シンとチェギョンは、ジュナが退院する前日、許可を取って皇后の病室に入った。

「明日、ジュナはお先に退院します。母上、先に戻って宮で待っています」
「おば様がお戻りになるまで、ジュナの事は任せてください」

シンが止めたにも拘らず、皇后は酸素マスクを外した。

「シン・・・ゴメンね」
「母上、俺は大丈夫です。ジュナの為にも早く元気になってください」
「ううん、ジュナには貴方とチェギョンがいる。私は、2人を信じてるわ。チェギョン、貴女にもゴメンね。大きな荷物を背負わせちゃった」
「おば様・・・そんなこと言わないで」
「チェギョン、私は貴女が大好きよ。どうかジュナを貴女のような子に育ててちょうだい」
「・・・おば様」
「シン、貴方の父上は優しくて弱い人なの。どうか支えてあげて」
「はい、母上」
「オンマ、疲れちゃった。少し寝るわね」
「・・・また来ます。チェギョン、行こう」

酸素マスクを皇后に装着すると、シンとチェギョンは病室を後にしたのだった。



イジュンを抱いて宮に戻ったシンとチェギョンは、皇太后が待つ正殿に向かった。
部屋には皇太后とヘミョンのみで、陛下の姿はなかった。

「ただ今、戻りました。皇太后さま、イジュンです」
「皇太后さま、しばらくお世話になります。よろしくお願いします」
「おお、シンや、イジュンを抱かせておくれ」
「はい、皇太后さま」

シンは、ジュナを皇太后に手渡すと、ヘミョンに訊ねた。

「姉上、陛下はジュナが退院することを知らないのか?」
「それが、一応伝えたんだけどね・・・・お母さまの事がショックみたいで部屋に籠られたままなの」
「・・・ありえない」
「チェギョン?」
「皇太后さま、差し出がましいですが、陛下に病院で皇后さまの看病をしていただいたらいかがでしょうか?できれば、泊まり込みで・・・」
「チェギョン、泊まり込みでと申すのか?」
「はい。皇帝なら、もっと周りの職員たちに配慮するべきです。このまま籠られていては、職員の士気に関わります。なら、病院で皇后さまの看病をしていただく方がよろしいかと・・・」
貴女、偉そうに誰に指図を
姉上!!
「シン君、良いの。ヘミョンさま、皇族だから特別だと思っていませんか?世間には、ガン患者を抱えている家族は山のようにいます。でも手術代・入院費・生活の為、皆、心配しながらも歯を食いしばって働いています。これが現実です。幸い宮は、お金の心配はありません。国民の税金で賄っているのですから・・・だからこそ陛下は、しっかりしないといけない立場だと自覚するべきです」

チェギョンの正論に ヘミョンはぐうの音も出なかった。

「付け加えさせていただくなら、愛する妻が命を懸けて産み落とした我が子の顔を見に来ないのは、なぜでしょうか?正直、私には理解できません」
「「「・・・・・」」」
「私は、親の愛情を知らずに育っていますので、正直よく分かりません。ですが、子どもを作る事だけが男の仕事だとは思っているのなら、女性への冒涜だと思います。そんな方が皇帝だと偉そうにしてほしくはありません」
「・・・・・」
「皇太后さま、明日より入る女官見習いの陣中見舞いに行ってきます。ついでにジュナも連れて、授乳もお願いしてきます」
「え、ええ。では、チェギョン、よろしく頼みます」

チェギョンは、皇太后からイジュンを受け取ると、正殿を出ていった。

「ふぅ・・・ヘミョン、もっと大人になりなさい。キム内官、今すぐヒョンを病院へ連れてお行きなさい」
「かしこまりました」
「・・・姉上、今度チェギョンに会ったら謝れよ」
「シン、貴方まで・・・」
「アイツの言った事は間違ってない。チェギョンな、目の前で実の祖父が刺殺されたんだよ」
「「えっ!?」」
「でも歯を食いしばってお祖父さんの葬儀を執り行い、一族の長に治まった後、倒れたそうだ。わずか10歳の時にね。それから一族を取り纏め、今は宮の再生にも手を貸してくれている。姉上、チェギョンに文句を言いたいなら、もっと実力を付けてから正論を言うんだな」
「・・・・・」
「皇太后さま、陛下の執務は僕が行います。皇后さまの公務は、皇太后さまと姉上にお任せしてもよろしいですね?」
「構わぬ。シン、迷惑を掛けます。よろしく頼みます」
「では、僕も東宮殿に戻り、コン内官とキム内官と打ち合わせすることにします」

シンが部屋を出ていくと、皇太后はヘミョンを不憫そうに見つめた。

「チェギョンは、イジュンの出生直後、チェギョンは母乳を分けてくれる妊婦を探して、ソウル中の病院を回って頭を下げてくれたの。入院費用の負担と退院後1ヶ月の静養先を確保すると言う条件を提示してね。そして何の見返りもなく、女官見習いを10名連れて来てくれたわ。ヘミョン、貴女はこの1週間、何をしていて?」
「おばあ様・・・」
「貴女もヒョンと同じ、イジュンの誕生を喜び、皇后の体調を嘆き悲しんだだけ。違う?」
「・・・いいえ」
「ヘミョン、自分を卑下することはありませんよ。あの子は別格です。生い立ちも環境も・・・でもシンは、チェギョンのお蔭で成長したわね。皇族としても人としても・・・貴女もそうなってくれると嬉しいんだけど・・・」
「おばあ様・・・私・・・」
「今は亡き先帝さまが、チェギョンは天使のような子だと仰っていましたが、私は宮の救世主だと思ってるわ。ヘミョン、宮はまだチェギョンの力を借りて再生途中なの。和を乱すような言動を続けるなら、皇籍から外れても構わぬ」
「皇太后さま!」
「・・・ヘミョン、我々皇族は、この宮を守る義務があるんじゃよ。自力では再生不可能まで腐敗させたのは、王族を統率できなかったそなたの父親であり、気づかなかった私や皇后じゃ。孫のそなたたちには申し訳ないとは思うが、何の関係もないチェギョンにだけ負担を掛けさせたくはない。いい加減、大人になってくれぬか」
「皇太后さま・・・心を入れ替え、精進します。申し訳ありませんでした」
















選択 第62話

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イジュン退院の翌日から、宮の雰囲気が一気に変わった。
東宮殿に従事する女官・内官が、チェギョンの一言で集められた。

「改めまして自己紹介いたします。こちらでイジュン親王様のお世話をしながら、居候することになりましたシン・チェギョンです。よろしくお願いします。イジュンさまのナニーとしてお願いがあります。イジュンさまに対して、同情したり不憫がらないでください」

チェギョンの言葉に一同は、驚きを隠せなかった。

「世間には、片親や両親の顔を知らずに育つ子は大勢います。イジュンさまは、お母さまは闘病中ですが、立派なご両親がいらっしゃいます。それにあなた方もいます。決して可哀想な子供ではありません。子どもは大人の同情心に非常に敏感です。過剰な同情は、優しさでも何でもありません。子どもの心を傷つけ、歪ませます。いい例が、私です」
『『!!!!!』』
「どうかお願いです。同情するなら、愛情をたっぷり注いであげてください。私からは以上です」

シンは、チェギョンの言葉に思わず涙が出そうになった。

「・・・俺からも一言。俺やイジュンを可哀想だと思う者は、東宮殿での従事を禁じる。コン内官、異動届が出たら即処理せよ」
「・・・かしこまりました」
「俺は、俺のように寂しい想いをジュナにはさせたくないし、子どもらしい子どもに育ってほしい。皇后さまもそう思っておられる。その為には、お前たちの協力が必要だ。親王だが、イ・イジュンという一人の人間として見てほしい。よろしく頼む」
『『かしこまりました、殿下』』

職員たちが解散した後、チェギョンはチェ尚宮だけ残した。

「オンニ、私が手が離せない時は、オンニにジュナを任せていいかしら?」
「勿論でございます」
「それから、私の事を『姫さま』とは呼ばないで、チェギョンと呼んで。だってヘミョンさまに悪いでしょ?」
「・・・考えが至りませんでした。申し訳ありません」
「できれば、敬語も止めてほしいな。だって私は居候の身なんだし・・・お願いね」
「・・・努力いたします」
「ハァ、オンニ、まだまだ固いよぉ~。シン君、午前中は執務をして、午後から私と勉強ね。離れてた間、どれだけサボってたか見てあげる」
「ゲッ、チェギョン!!」
「ふふふ・・・キムオッパ、新しく出来た翊衛士の事務所に案内してくれる?」
「は、はい~!!」
「じゃ、シン君、まったね~♪」

イジュンをチェ尚宮に預けて出ていったチェギョンの後ろ姿をシンは、溜め息を吐きながら見送るのだった。


一方、チェギョンは歩きながら、キム内官に気になっている事を聞いてみた。

「オッパ、宮はシン君とヘミョンさまの学業をどう思ってるの?」
「えっ、それは・・・殿下に関しましては、殿下の意志もありますが、登校せずにチェギョンさまと共に勉強されるお積りのようです」
「ハァ、やっぱり・・・で、ヘミョンさまは?」
「一応、王立に席を置かれましたが、一度も登校はしておられません。個人的な意見を言わせていただくなら、お二人とご一緒に勉強される方が良いのではないかと思っています」
「・・・ヘミョンさまは、いづれはご降嫁される身。色々な人と交流を持った方が良いと思うけど?」
「それは、チェギョン様のご友人を紹介してくだされば十分なのではないですか?降嫁先としても何の問題もありませんし・・・」
「あの人たちと付き合ったら、100%性格歪むわよ」

ケラケラと笑うチェギョンに キム内官は呆気にとられた。

「ハァ、ハギュンアジョシに相談するしかないか・・・ヘミョンさまは、午前中は何をなさっているの?」
「はい、今度出かける公務先の資料を読んでおられる筈です」
「・・・・・」
「あの、何か?」

キム内官の問いかけを無視し、チェギョンはハギュンに連絡を入れ、至急宮に来るよう指示を出したのだった。

「キムオッパ・・・そんな資料は、寝る前や公務先に着くまでの車中で熟読すれば十分よ。通信教育で速読技術を学んでもらって」
「は、はい!」
「この話は後ね。さぁ翊衛士の詰所の見学でもしますか・・・」



午後早い時間、シンとチェギョンが書筵堂にて勉強をしている頃、皇太后の住まい慈恵殿にハギュンの姿があった。
慈恵殿には、ヘミョンの他にコン内官とキム内官も呼ばれていた。

「ハギュンや、一体どうしたのだ?」
「皇太后さまにお伺いいたします。ヘミョンさまの学業はどうされるお積りですか?このままでは中卒ですよ」
「その事なのです・・・皇后の代行があるため、王立に一応席を置いたものの、行かせる気にならぬ。どうすれば良いのか悩んでおるのだ」
「ヘミョンさま、チェギョンには2年後に高校卒業資格認定の試験を受け、修能試験を受けさせます。目標は、一応ソウル大。殿下もおそらく同じ道を進まれるでしょう。ご一緒に勉強しますか?」
「・・・無理。あんな勉強、私には付いていけないわ」
「知っています。ですが、いくら皇女でも中卒はいただけません。神話学園に口を利きましょうか?」
「神話学園ですか?」
「ええ、全国から御曹司や令嬢が入学してくるのでセキュリティーは万全です。特別クラスは無理でも、あそこの普通科なら頑張れば付いていける筈です。勉強があまりお得意でないなら、帰国子女制度のあるお嬢さま学校への編入をお薦めします。いかがですか?」
「ハギュン、神話は一昔前まであまり良い噂は聞かなかったが、今はどうなのじゃ?」
「諸悪の根源は、チェギョンが改心させましたので、今は優秀な進学校になっています。今じゃ王立の方が評判は悪いですね」
「あの諸悪の根源って・・・」
「ああ、チェギョンが下僕のように扱き使っている御曹司達ですよ」
「「「!!!」」」
「彼らは、敷かれたレールに乗るのを嫌って大暴れでしたからね。そんなに嫌なら潰そうかのチェギョンの一言で、反抗期はジ・エンド。それ以来、神話は学園の改善に力を入れています。そうでないと、チェギョンの一言で潰れますからね」

ヘミョンは、チェギョンとの違いに落ち込むばかりだった。

「ヘミョンさま・・・チェギョンは、育った環境柄、強烈な後ろ盾が多くいる。またそれに奢ることなく努力もして、人脈を広げている。あの子と張り合おうなんて、思わない方が良い。落ち込むだけですよ」
「はい・・・」
「セキュリティーの事を考えれば神話がお勧めですが、皇女という特別待遇はありません。成績が悪ければ留年もします。レベルに付いていく自信がなくて、どうしても王立が良いなら少し時間をください。理事長を更迭し、強力な新理事長を据えます」
「ハギュン、理事長を変えるだけで変わるのですか?」
「ええ、変わるでしょうね。王族がいなくなった今、学校で幅を利かせているのは、神話に入る学力がない御曹司と令嬢です。だからソンヒョングループの会長を理事長に据えるだけで、間違いなく変わると思いますよ。クスクス」
「そんな事ができるのですか?」
「・・・簡単です。チェギョンを庇護する爺さんたちは、あらゆる分野の重鎮たちですからね。そして全員、チェギョンに甘い。チェギョンに言わせれば良いだけの事です」

もう開いた口が塞がらなかった。『次元が違う』。その一言に尽きた。

「ヘミョンさま、私も忙しい身です。ご決断されたら、コン内官を通じてチェギョンに言ってください。手配します」

そう言うと、ハギュンは慈恵殿を出ていった。


皇太后と話し合った結果、神話に通う事に決め、コン内官に伝言を頼んだのだった。


選択 第63話

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シンとチェギョンは、本当にイジュン中心の生活になった。
思考錯誤しながらの育児は、時には泣きそうになりながらもシンとチェギョンは充実した日々を送りだした。
勿論、頭の片隅には皇后の病状の事もあったが、2人には皇后を見舞う時間がなかった。
ところが、突然、事態が急変した。皇后が、全ての治療を止め、宮に戻ってきたのだ。
シンとチェギョンは、慌ててイジュンを連れて、皇后の寝室へと向かった。

「母上、どうして・・・」
「シン・・・言いたいことは分かっています。でも最期は、シンやジュナがいるここで迎えたかった」

シンは、皇后の言葉に必死で涙を堪えた。

「チェギョン、ハン尚宮から色々と聞いたわ。ありがとう。やっぱり貴女にジュナを任せて正解だったわ」
「おば様・・・なら、宮の事は私に任せて、安心して病院に戻ってください」
「いいえ、一番の心配事が病院にあったら、安心なんてできないわ」

皇后はそう話すと、ベッド脇に座る陛下を優しげに見つめた。

「話しましたよね?貴方は、私の夫ですが国父でもあるのです。この国の皇帝として宮を守り、国民の事を考えてください」
「ミン・・・」
「お願いです。どうか、私が安心して旅立てるよう 頑張ってくれませんか?」
「・・・私を置いて旅立つなんて言わないでくれ。もう一度、病院に戻って治療を受けよう。な?」

そんな2人の姿を見て、ヘミョンやハン尚宮たち、その場にいる職員たちは涙ぐんでいる。
チェギョンは、意を決して口を開いた。

「キムオッパ、陛下の執務の用意を」
「「「!!!」」」
「チェギョン、お母さまを愛するお父さまのお気持ちが分からないの?」
「・・・ええ、分かりません。陛下こそ皇后さまのお気持ちがお分かりになっておられないように思います。陛下がこのままなら、皇后さまは『主君を骨抜きにした悪女』として歴史に残るでしょうね。それでも良いんですか?」
「「「!!!」」」
「王族会の腐敗、執務・公務の放棄、全てが皇后さまの責任になるということです。命を懸けて愛する陛下の御子を生んだとしても陛下の寵愛を独占したいがためと湾曲されてしまう。それが、国民が学ぶ歴史です。陛下、本当に皇后さまを想うなら、執務をこなしてください。王族に弱みを見せてはいけません。未だに虎視眈々と権力を握ろうとしている王族はいます」
「・・・コン内官、俺の執務室から陛下に回せる案件をキム内官に渡せ」
「かしこまりました」
「陛下、チェギョンの言う事は間違ってはいません。母上に汚名を着せたくなければ、執務をこなしてください。キム内官、陛下を執務室へ」
「御意。さぁ、陛下、参りましょう」

キム内官に支えられ、陛下が部屋を出ていくと、皇后はシンとチェギョンに手招きをした。

「ありがとう。これからも私の代わりに陛下を叱咤激励してちょうだい。お願いね」
「「母上(おば様)・・・・」」
「それよりジュナを抱かせてくれない?この為に戻ってきたんだから・・・」

シンは、抱いていたイジュンをベッドに座っている皇后に渡した。
イジュンを受け取った皇后は、肩を震わせながらイジュンをギュッと抱きしめる。

「ジュナ、オンマよ。やっと抱いてあげられた。ミヤネ・・・」

涙を堪えたチェギョンは、誰にも告げずそっと部屋を抜け出すと、廊下に控えていたチェ尚宮に耳打ちした。

「オンニ、しばらくジュナと一緒に皇后さまの許に・・・少し外の空気を吸いに外に行ってきます」
「・・・チェギョン様、お一人でですか?誰か、付けます。少しお待ちください」
「大丈夫です。宮の外には行きません」

チェギョンの姿が見えなくなるまで見送ると、チェ尚宮は東宮殿付きの女官に連絡をして、イジュンの1日分の着替えや粉ミルクを皇后の部屋まで持ってくるように指示を出したのだった。

「チェ尚宮、チェギョンは?急に見えなくなったんだけど・・・」
「それが・・・外の空気を吸ってくると、先程出て行かれました。宮の外には行かないので、心配するなと・・・」
「・・・心当たりは?」
「申し訳ありません。」

深刻そうな2人の姿を見ていた女官見習いが、そっと近づいてきた。

「お話中、申し訳ありません。梅の樹にいます」
「梅の木?」
「はい、枝ぶりの良い梅の樹。おそらくチェギョンはそこにいます」
「貴女は、チェギョンの紹介で来た人ですか?」
「・・・殿下、チェギョンをお願いします」
「えっ!?」

女官見習いは、シンとチェ尚宮に一礼するとスッと離れていった。

「・・・チェ尚宮、彼女はどこの女官見習いだ?」
「申し訳ありません。私も初めて見る顔です」
「・・・じゃあ梅の老木は、知っているか?」
「はい。昔、義禁府だった建物の傍にあったような気がします」
「・・・行ってくる。ジュナを頼む」

正殿を出ると、シンは法度も忘れて元義禁府があった場所まで走った。

(いた!!)

チェギョンの姿を認めた瞬間、チェギョンがシンに気づき、梅の樹の枝が風もないのに大きく揺れた。

(今の何だ?)

「シン君、こんなとこまでどうしたの?」
「急にいなくなったら、心配するだろうが・・・頼むから、一人で行動するな」
「安全な宮の中だってば・・・ホント、ウビンオッパの心配性が移ったみたい。クスクス」
「・・・チェギョン、今、誰か一緒にいたか?」
「ううん・・・一人だったよ」
「そっか・・・それなら良い。東宮殿に戻ろう」

シンは、胸に過ぎる不安からかチェギョンの手を掴むと、ギュッと握ったのだった。

(チェギョン、どこにも行かないよな?)




選択 第64話

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シンとチェギョンは、時間を見つけては皇后を見舞い、色々な話をした。
そして皇后とイジュンの姿をカメラやビデオで撮り、記録として残していった。
また延命措置を望まない皇后の為、正殿に皇后担当の医師が詰めることになった。

「ジフオッパ・・・何で?」
「皇后さまの主治医の補佐。シン、しばらく東宮殿で泊めてよ」
「えっ!?部屋は余るほどあるけど、ベッド俺のしかないよ。まさか3人で寝るつもり?」
「俺は、それでも構わないけど?クスクス・・・そんな表情もできるようになったんだ。勝手にベッドここに運んでもらうよう手配したから気にしないで。チェギョン、久しぶりに一緒に寝よ♪」

ジフに遊ばれていることに気づいたシンは、笑おうとした顔が引き攣っていた。

「クスクス、シン、面白い・・・」
「ジフヒョン、俺をからかって、そんなに面白いか?」
「うん♪今回は、アンタの事を思って、俺、志願してきたんだけど?」
「えっ、俺の為?」
「そう・・・チェギョン、ここに座りな」
「うん♪」
「俺の知らない内に 大人の女性の仲間入りしたんだってね。おめでとう」
「///うん・・・ありがとう」
「チェギョンが大人の女性になる年頃なら、当然シンも大人の男性になる年頃だって事は分かるだろ?」
「えっ、まぁ・・・言われてみれば、そうだよね。シン君は、もう大人になったの?」
「///俺に振るな!!ジフヒョン、一体何の話してんだよ」
「保健体育。チェギョンは学校に通ってなかったからね。この手の話に疎いんだ。だから教えに来た」

シンは、ポカンとしてしまった。

「男は、朝起きたら、男性器が大きくなってるのは教えたよね?」
「うん。オッパが、オシッコしたら戻るんだって言ってたじゃん。実際、オッパ、いっつもそうだったし・・・シン君もそうだよ」
「クスクス、シンもそうなんだ」
「///・・・・・」

(何なんだ、この会話は・・・恥ずかしすぎるだろうが!!)

「あのさ、男は大人になると、男性器から小便以外のものが出るんだ。その時も大きくなる」
「オシッコ以外のもの?」
「うん、精子。女性の卵子と結合すれば、赤ちゃんになるもの」
「へぇ~~」
「でさ、その精子を出すのが厄介でさ。男性器を刺激しないと出ないし、元の大きさに戻らないんだ。もっと厄介なのは、若いと特に所構わず大きくなるんだ」
「///えっ、うそ・・・」
「ホント。俺は、その辺りが欠落してるからかなり淡泊だけど、普通の10代なら毎日刺激しないとダメみたい。ウビンとイジョンなんて、毎晩女使って出してたし・・・」
「///チェギョン、俺をそんな目で見るな!!」
「クスクス、シンはそんなふしだらな事はしない。自分で慰めて出すさ。だからさ、シンがその行為をしててもチェギョンは知らんぷりしてやりな」
「///うん、よく分からないけど、分かった。シン君、私に遠慮なく出してね」
「///チェギョン!!」
「クスクス、チェギョン、俺にコーヒー貰ってきてよ」
「は~い」

チェギョンがリビングを出ていくと、ジフはお腹を抱えて笑い出した。

「///ジフヒョン、朝っぱらから何の話をしてんですか!?」
「ごめん、ごめん。でもシンも辛いだろうなって思ってさ。風呂、一緒に入ってんだろ?ベッドも一緒だし、気になってたんだよね」
「今のところ、大丈夫ですよ」
「今はね。でもその内、必ず辛くなる。皇太子だろうが男だしね。俺たちみたいにただの排泄行為として女を抱くわけにいかないしさ」
「えっ!?」
「俺だって男だし、それなりに性欲はあるよ。ただ他の人に比べたら少ないだけ・・・シン、良い?相当な覚悟がない限り、チェギョンに手は出さないで」
「・・・分かってます」
「多分、アイツは俺と一緒で、結婚とか子どもとか考えてない。でも意志に反して、結婚も出産もしないといけない立場だ。シンと一緒でね」
「・・・・・」

気まずい雰囲気を破るかのように チェギョンがジフのコーヒーを持ってきた。

「ジフオッパ、お待たせ♪」
「サンキュ」
「・・・ジフオッパ、他にも話したいことがあるんでしょ?」
「うん。最近、ウビンの事避けてる?」

シンは驚いて、チェギョンの顔を見た。

「言ってる意味が分かんないんだけど・・・何でウビンオッパを避けてるって思ったわけ?」
「アイツ、あれでも繊細だからさ。毎日あった連絡がないからさ、凹んでる」
「それは、宮から出ることないからで・・・」
「本当にそれだけ?じゃ、いいや。今度、パーティーに参加ね」
「はぁ?!ジュナはどうすんの?」
「数時間ぐらいシンに面倒見てもらいなよ。それから毎週金曜日、スケジュール空けろって伝言頼まれた」
「はぁ、その毎週金曜って、一体何なの?」
「有閑倶楽部のメンバーとの勉強会兼体力作りだってさ。皆、チェギョンに会いたがってる。ジュナ連れて、出てこいってさ」
「・・・分かった。オッパ達に宜しく言っといて」
「ジフヒョン、その勉強会兼体力作りって、俺も参加していいか?」
「良いんじゃない?ジュンピョんちで会って、バスケしたんでしょ?俺は参加難しいけど、アイツらに言っとく」
「ねぇ、場所や時間は?」
「知らない。。。また連絡あるんじゃないの?」
「ハァ・・・オッパって、ホント連絡役には不向きだよね。これから連絡役は、ウビンオッパにしてちょうだい」
「クスクス、了解♪・・・ねぇ、ここからマジな話なんだけど、シン、皇后さまの体力があるうちに思い出づくりしな」
「「えっ!?」」
「覚悟が必要だって事。多分、この冬は越せない」
「そんな・・・何とかならないの?」
「手術した時点で半年って感じだったし・・・おそらく皇后さまは、妊娠が分かった時点で覚悟してたと思う。俺たちがバックアップするから、思い出づくりしなよ」

シンは、グッと唇を噛みしめながら、スマホを手にするのだった。

「コン内官、キム内官と一緒に東宮殿まで来てくれ。できれば、すぐに・・・」















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