ここは、済州島の皇室リゾート。本日、皇太子イ・シンの誕生日パーティーが開催される。
皇太子妃シン・チェギョンは、夫イ・シンに気づかれないよう溜息をついた。
(はぁ・・・やっぱりあの人たちも来てるわよね。お願いだから、大人しててよね)
「妃宮、どうした?どこか具合が悪いのか?」
「えっ!?ちょ、ちょっと緊張してるだけよ。大丈夫」
「妃宮が知っている奴ばかりだし、何も緊張することはない。俺の隣で笑っておけ」
「うん」
シンとチェギョンが腕を組み、入場すると、会場中から拍手が起こった。
「本日は、お忙しい中、私の誕生日パーティーにお越しくださりありがとうございます。皆さん、すでにご存じだと思いますが、先月隣におりますシン・チェギョンと婚姻しました。まだまだ未熟な私たちではありますが、皇族として恥ずかしくないよう日々精進してまいりたいと思います。どうぞご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。これから妃宮と皆様の元に参り、お一人お一人に挨拶をしていこうと思います。どうぞお時間の許す限り、楽しい時間をお過ごしください」
シンはパーティー開始の宣言をし壇上を降りると、まず最初に最長老たちの元に向かった。
和やかな雰囲気の中、挨拶を続けているうちにチェギョンも固さが取れ、いつもの笑顔が戻ってきた。
「チェギョン、よく頑張ったな。もう緊張しなくていいぞ。後は、俺とお前の友達だけだ」
「う、うん・・・」
(そこが一番緊張するんだってば・・・シン君、ホント分かってないんだから・・・)
「「「シ~ン、誕生日おめでとう♪」」」
「シン、おめでとう」
「ありがとう。そうだ、お前たちに正式に紹介したことがなかったな。妃宮のシン・チェギョンだ」
「はじめまして。。。」
「こいつ、一人にすると危ないんだ。俺が公務でいない時は、お前たちも注意して見てやってくれ」
「い、い、いいよ。それに危ないって何よ!?失礼な・・・」
「クスクス・・・おっ、コン内官が呼んでる。妃宮、お前の友人のところに行っておいで。用を済ませたらすぐに行くから、大人しくしてるんだぞ」
「・・・はい、殿下」
シンが去っていくと、チェギョンはシンの友人たちに一礼をして踵を返した。
なのに友人の一人チャン・ギョンが前に立ち塞がり、チェギョンの行く手を遮ってしまった。
『おっと妃宮さま。どこに行くんです。少し俺たちと話をしましょうよ』
『おい、お前。恋人のヒョリンを押しのけて座った皇太子妃の座はどうだ?いい加減、その座に執着するのは止めたらどうだ?ホント図々しい奴だな』
『ちょっと止めなさいよ。妃宮様に失礼でしょ。クスクス・・・』
『はん、俺たちが何を言ってるのか庶民に分かる訳ないさ。庶民出の妃宮さま、英語、理解できますか?』
カン・イン、チャン・ギョン、ミン・ヒョリンの口からチェギョンをバカにする言葉が、英語で次々に繰り出される。
そしてもう一人の御曹司リュ・ファンは、その光景を笑いながらビデオ撮影していた。
「はぁ・・・ここは皇室リゾートなの分かってる?TPOを考えて話さないと・・・大会社の御曹司なんでしょ?」
「何だと!?」
「お願いだから、周りをよく見てちょうだい。ここは学校じゃないの。で、私は皇太子妃なの。チェ尚宮、少し席を外します」
「お供いたします」
チェギョンが尚宮を従えて去っていくと、インたちは周りの参加者から白い目で見られていることに気づいた。
居た堪れなくなった4人は部屋の隅に移動しようとしたが、チェギョンの友人たちに呼びとめられた。
「あなた達がここまで愚かだとは思わなかったわ」
「何だと!?」
「チェギョン、英語、理解できるわよ。ううん、英語だけじゃないわ。4ヶ国語ぐらい話せる筈よ」
「「「えっ!?うそ・・・」」」
「・・・嘘、吐くな!父親が無職の庶民がそんなに話せるわけがないだろうが!!」
「呆れた・・・あなた達、本当にセレブなの?チェギョンのアッパを知らないなんて・・・」
「「「えっ!?」」」
「・・・尹申(ユンシン)って聞いたことないでござるか?」
「ユンシン?あのキムチの老舗のか?なかなか手に入らないから、幻のキムチって言われてる・・・」
「チェギョンのオンマがユン・スンレ。アッパがシン・チェウォン。で、ユンシン。。。」
「「「!!!」」」
「加えて言うなら、亡くなったおじい様は、人間国宝の書道家。チェギョンのアッパも趣味で書や水墨画を嗜む程度だけど、かなりの腕前よ。よく韓展で賞を獲ってるわ。私たちや殿下は、子どもの頃からおじい様やおじさまに書や水墨画を習ってるの。クスクス・・・私たちとあなた達、どっちが庶民かしらね?」
「「「///・・・・・」」」
「あれだけチェギョンに暴言を吐いていたのに、今まであなた達が何故お咎めなしだったか分かる?チェギョンが私達や翊衛士のオンニたちに口止めしてたからよ。殿下のお友達だからって・・・」
「「「えっ!?」」」
「だから、私たちも宮には報告してないわ。。。ねぇ、最近、あなた達のお父様、お忙しくしてらっしゃらない?」
「クスクス・・・明日から、もっとお忙しくなりそうだけど?あなた達の所為でね」
「「「!!!」」」
「ミン・ヒョリン、何か他人事のように聞いているでござるな。ミン貿易が一番苦境に立たされているの知らないでござるか?」
「えっ!?うそ・・・」
「本当よ。ヒスンの家に政略結婚の打診が来たから、相当ダメージがあるんじゃない?」
「勿論、断わってもらったわよ。親友を虐めるい・も・う・とがいる家になんて嫁ぎたくないもの」
「チョンホオッパ、良い人なのにねぇ・・・」
「「「!!!」」」
「ガンヒョン、ミン貿易の御曹司、知ってるの?」
「オッパが留学するまで家庭教師してもらってたの。一つ聞いていい?同い年の妹がいるなら、普通会話の中に出てきてもおかしくないのに、ヒョリンの話を聞いたことがないの。あなた、ひょっとして愛人の娘なの?」
「「えっ!!」」
ギョンとファンが驚いて、ヒョリンに視線を移すと、ヒョリンは顔色を真っ青にしながら悔しそうに唇を噛んでいた。
「おい、ここを何所だと思ってるんだ!?場所を弁えろ!!」
「あなた達が仕掛けておいたくせに・・・自分たちが分が悪くなると、『場所を弁えろ』ですって。ホント愚かな人たちね。ヒスン、スニョン、チェギョンのケーキ、取りに行こう」
「OKでござるよ」
「さっきアッパから電話あったの。あなた達が崇めてるお姫様、ミン貿易の社長宅で家政婦として働いているアジュマの娘さんだそうよ。ミン社長とは血がつながっていない赤の他人ですって・・・じゃあね」
クスクス笑いながら去っていく3人を唖然として見送っていたが、我に返ったギョンはヒョリンを睨みつけた。
「ヒョリン、俺たちに話していたこと、全部嘘だったのか?」
「・・・・・」
「シンと恋人だったことも シンにプロポーズされたことも全部嘘だってぇのか?!」
「ギョン、声が大きい。周りから注目されてるんだ。言動に気をつけろ!」
「イン、お前、まさかヒョリンの素性、前から知ってたのか?俺達を騙してたのか?」
「・・・ギョン」
『そのようでございますね。それからカン・インさまの仰ることも一理ございます。皆様には、別室に移動していただき、パーティー終了後、詳しいお話を聞かせていただきます。おい、ご案内しろ』
声の方向に顔を向けると、数名の翊衛士を従えた老内官だった。
翊衛士に挟まれる形でパーティー会場を後にした4人は、一室に閉じ込められた。
翊衛士に監視される中、インたちは話することもままならず、不安に駆られるのだった。
どの位待ったのだろう、先程の老内官と尚宮を従えたシンとチェギョンが部屋に入ってきた。
緊張した雰囲気を破るかのように シンが口を開いた。
「パーティー会場にいた女官、翊衛士、内官からすべて聞いた。確かにヒョリンが、秘密の恋人だという噂があるのは聞いていた。でも根も葉もない噂だから放っておいたのだが、まさかお前たちまで信じてるとは思わなかった」
「シン・・・じゃあ、ヒョリンと付き合ってることは・・・」
「断じてない!!第一、噂が流れた時点で秘密とは言わない。俺は、お前たちには恋人の事を聞かれたら、正直に話してた筈だ。まさかヒョリンと勘違いしてるとはな・・・」
「じゃ、じゃあ、シンの恋人って・・・妃宮さまだったの?」
「チェギョン以外の誰がいるんだ?!可愛くて、一緒にいると楽しくて、とても落ち着くって話してただろ!?」
「「「・・・・・」」」
「誤解のないように言っておくが、俺はヒョリンとは1度しか話をしたことがないぞ」
「「「えっ!?」」」
「何故、そんなに驚くんだ?階段の踊り場からチェギョンを見ていたら、気づけばいつも俺の後ろに立ってたが、話をしたことはない。ストーカーのようで気味が悪かったが、インの女だから我慢してたんだ」
「うそだろ・・・」
「ギョン、何故信じない?インが貢いで磨いている女だと分かってて、俺が手を出すと思うか?大体、俺は5歳からチェギョン一筋だ。コン内官、あれを・・・」
驚くギョンとファンにコン内官と呼ばれた老内官が、ヒョリンに関する資料を手渡した。
その資料には、ヒョリンの素性から経済状況など、すべてが書かれていた。
「彼女たちが言ったことは本当だったんだ・・・」
「彼女たち?ガンヒョン達の事か?ガンヒョンは俺の再従兄妹で最長老の孫、おそらくヒスンとスニョンも元両班で大企業の令嬢だな。でないと、人間国宝直々に書が習えるわけない」
「「・・・・・」」
「今は21世紀で身分に拘る時代じゃない。だから俺の意思でお前たちの言う庶民のチェギョンを許嫁にし、婚姻した。だがな、チェギョンは俺と婚姻した時点で皇族になった。その皇族に向かって、お前たちは暴言を吐き続けたんだ。不敬罪で拘束されても文句は言わせない。ギョン、答えろ!何故、そんな事をした?」
「・・・宮から押し付けられた婚姻だと信じてた。ヒョリンがプロポーズされたのにと言ってたし、シンも宮の事情で急遽決まったって・・・」
「宮の内情を軽々と話せるわけがないだろうが・・・それからミン・ヒョリン、俺がいつ、お前にプロポーズした?」
「だってあの時・・・」
「あの時?俺がお前と話したのは、後にも先にも初めて会った日だけだ。こいつの事で悩んで、プチ家出したときだった。俺が、『夢を諦めることはできるか?』と聞いたら、お前は『できない』と即答だったよな?で、その後、俺はこう言った筈だ。『それでも最終的には、俺は夢を諦めて俺と一緒になってくれとアイツに言うんだろうな』 この会話で、どうやったら勘違いできるんだ?それも初対面だぞ!?どんな頭してるんだか・・・」
「・・・・・」
「なぜそんな悔しそうな顔をする?腹が立っているのは、俺の方なんだが?」
「だってずっと一緒にいたのは、私なのよ。シンを呼び捨てにするのも・・・」
「お前がストーカーのように付き纏ってただけだろ。高校入学前に婚約してから、俺と一緒にいたのはチェギョンだ。それに呼び捨てならガンヒョンもしてるぞ。TPOを知らないお前たちと同レベルと思われたくないと公の場では殿下と呼んでるがな・・・」
「///・・・・・・」
「・・・カン・イン、惚れた女を着飾りたい気持ちは分かる。だが、それだけで満足できるのか?俺には無理だ。全くもって理解ができない」
「・・・ヒョリンがいくらシンを好きでも俺の家でも認めないのに宮が認めるわけがないのも分かってた。だからせめて高校の3年間だけは、皇太子と共に過ごしたという思い出を作ってやりたかったんだ」
「ふざけんな!!だからって、チェギョンを攻撃し、傷つけてもいいと思ってるのか!!」
「・・・ごめん」
「シン君、私なら大丈夫だから・・・ね?お友達を罰するようなことはしないで、お願い」
「チェギョン・・・お前を侮辱したという事は、俺やお前を許嫁に決めた先帝をも侮辱したことになるんだぞ!はぁ・・・分かった」
「シン君♪」
「カン・イン、チャン・ギョン、リュ・ファン、友人だと思ってたが非常に残念だ。コン内官、こいつらの処分は陛下に一任することにする。これで良いか、チェギョン?」
「うん。私も一言だけ良い?あなた達の言動で一番傷ついたのは私じゃなくてシン君よ。なぜシン君の話に耳を傾けず、ヒョリンの話を鵜呑みにしたの?私は、それが悔しいかな」
「チェギョン・・・サンキュ。戻ろう。コン内官、後は任せた」
「御意」
手をつないでシンとチェギョンが部屋から出ていった途端、緊張を解した4人をコン内官は呆れたように見つめた。
(さて、私からも少しお仕置きが必要なようですね・・・)