コン内官が翊衛士たちに合図を送ると、翊衛士たちは4人を床に跪かせた。
「宮中であなた方に怒りを感じていないのは妃宮さまだけで、皇族の方々は勿論、職員全員が憤っていることを覚えておきなさい。先程から見ていて、反省はしているようですが、あなた方はとうとう最後まで妃宮様に謝罪の言葉を口にされませんでしたね」
「「「・・・・・」」」
「もっと現実を見なさい。妃宮様は隠しておられましたが、イ・ガンヒョンさまがお家で愚痴られたのを聞いた最長老さまが陛下に報告されましたので、皇族方は全員以前からご存知だった。今まで妃宮様を想いを尊重していただけで、今日があなた方にとって最後のチャンスだったのに墓穴を掘ってしまったな」
「「「えっ!?」」」
「殿下は、あなた方に妃宮様を紹介した後、席を外されただろう」
「じゃあ、俺たちは試されてたんですか?」
「いいえ。殿下は、ご自分の話を聞いてあなた方が間違いに気づいてくれると信じておられました。しかしながら結果は・・・残念としか言いようがない」
「「「・・・・・」」」
御曹司達がやっと後悔し始めた時、一人の内官が部屋に入ってきて、コン内官に耳打ちしてきた。
「今日のパーティーに参加していた招待客たちが、閉会した途端、自社に電話を掛けだしたそうだ。君たちの父親の会社との取引停止を指示していたという報告だった」
「「「!!!」」」
「それからミン・ヒョリンさん、ユン・ヒスンさんから齎された情報だが、ミン社長は君を告訴すると息巻いておられるそうだ」
「えっ!?」
「何故、驚くのか理解できないが、君がミン貿易の娘を騙って、妃宮様を散々愚弄した結果、会社が傾いたのだから当然だと思うが?愚かな娘だ。君たちに言っておこう。数百年続いた李王朝を甘く見るから、こんな馬鹿げたことをしでかすんだ。今から、翊衛士に拘束されたままソウルに戻ってもらう。陛下が、明日両親と共に参内するように勅令を出された。ご両親には、もう連絡済みだそうだ。覚悟して帰宅しなさい。連れて行きなさい」
『御意・・・』
項垂れる4人を無理やり立たせ、連れ出していく翊衛士たちを見送ると、コン内官は自分も帰宮の準備に入るのだった。
(早くあのお二人を探さないと、飛行機に間に合わなくなるぞ。お部屋に籠ってなければ良いが・・・)
翌日、憔悴した面持ちで参内してきた御曹司達とその両親。
しかしミン・ヒョリン母子を見た瞬間、両親たちは憎悪むき出して睨みつけた。
『皇帝陛下、皇后さま、皇太子殿下のお成りです』
先触れがされ、全員が直立不動で頭を下げていると、もの凄いオーラを感じ、両親たちは冷や汗が出てきた。
「面をあげて、座りなさい。本日、呼び出した理由は、もう知っている事と思う。心優しい妃宮が、反省してくれたらそれで良い。たった一度の過ちで若者の将来の芽を潰さないでほしいと言ってきた。そんな妃宮だからこそ、私たちはお前たちを許せない」
「「「・・・申し訳ありません」」」
「宮には特有の法律『法度』があり、それを守ることで李王朝を守ってきた。その法度で、皇位継承者は住まいを同じにしてはいけないと決められている。よって太子は、私の兄が事故死して以来、一人暮らしだ。私たちがどれだけ辛い想いをして、幼子を女官に預けたか分かるか?自分たちの手でどれ程育てたかったか・・・だが如何せん、起床から就寝時間まで分刻みで決められてる私達にはどうする事も出来なかった。あなた方も事業で忙しかったとは思う。だが同じ屋根の下で暮らしていたら、例え5分でもご子息と話をする時間は持てた筈だ。放任主義とは名ばかりで、金だけ渡して後は無関心だったのではないか?」
陛下の問いかけに両親たちは、顔を上げる事が出来なかった。
「妃宮はそんな太子を理解し、幼き時から太子を支えてくれた。妃宮がいなかったら、今の太子はいなかっただろう。それぐらい太子にとっても宮にとっても妃宮は大切な宝物なのだ。私達が如何に憤っているか理解していただけただろうか?」
「「「・・・はい。誠に申し訳ございませんでした」」」
「さて次は、ミン・ヒョリン。君は、嘘を吐いてまで何がしたかったのだ?女手一つで必死で育ててくれたお母さんに後ろめたくなかったか?」
「・・・・・」
「ミン・ヒョリン嬢、陛下に嘘を申してはならぬ。正直に答えなさい」
俯いて黙っているヒョリンにコン内官が答えるよう促すと、重い口を開いた。
「私は、自宅がミン社長宅だと言っただけで、社長の娘だと肯定した事はありません。ただ家政婦の娘だと言わなかっただけです」
「・・・全く反省しておらぬようだな。太子と交際している振りや嘘を吐いたな?これは、どう申し開きするつもりだ?」
「それは・・・ただシンの傍にいたかった。それだけです」
「ミン・ヒョリンとやら、陛下の御前で太子を呼び捨てにするとは、そなたは常識がないのか?母である私でさえ名前を呼べぬのに・・・そなた、妻がいる太子の傍にいたかったと申すが、妃宮を口撃したなら己が妃宮になろうとしたとしか思えぬ。違うか?」
「そんなつもりは・・・自分では皇太子妃は認められないことは分かってます。だから、シンが廃位してくれたら一緒に留学しようと・・・」
「黙れ!!」
今まで黙って話を聞いていたシンは、余りにも自分勝手なヒョリンの考えに大声をあげてしまった。
「お前だったか・・・俺を廃位に追い込む為にネズミを放っただろ?」
「太子、どういうことだ?」
「パーティー会場に普段見かけない記者が入り込んでいました。翊衛士が拘束したところ、私が妃宮を無視して、秘密の恋人と一緒にいる筈だと密告があったので取材にきたと釈明したそうです」
部屋にいた全員が驚き、ヒョリンに目を向けると、ヒョリンは縋るようにシンを見ていた。
「シン、皇太子妃になりたい訳じゃないの。本当にただシンと一緒にいたかっただけなの。信じて」
「ふざけるな!!お前が俺をどう思おうが勝手だが、自分勝手な持論で俺を廃位に持ち込もうとしたことを理解しろと?!できるわけないだろ!!」
「・・・太子、落ち着け。ミン・ヒョリン・・・一つ聞くが、太子と一緒にと言ったが、留学費用はどこから捻出するつもりだったのだ?廃位になった息子に私は出すつもりはないぞ。私達は、税金で生活している身だからな。そしてそなたには、不敬罪と姦通罪で告訴する」
「えっ!?そんな・・・」
「何がそんなだ?宮を揺るがせ、国民の信頼を失うことになるんだ。当然であろう」
「・・・・・」
「陛下、申し上げます。この者は、宮が支援している留学制度に申し込みをしております」
「何!?コン内官、真(まこと)か?宮に対してこれだけ無礼を働いておきながら、認可してもらえると思ってたか?宮や私達をバカにするにも程がある。。。支援はしないが海外には行かせてやろう。但し、生涯、祖国の土を踏めると思うな」
「「!!!」」
「カン社長、チャン社長、リュ社長・・・騙された、知らなかったとはいえ、子息たちは太子失脚の片棒を担いでいた事は間違いない。本心は重罰に処したい位だが、妃宮が悲しむので何もせん。すでに社会的制裁は、受けているだろうしな。息子たちの処罰は、そなたたちに任せよう。但し、太子や妃宮と今後関わることは一切許さない。万が一、甘い処し方なら、妃宮の友人たちの親に頼んで、会社を潰させてもらう。特にカン社長、子息はその娘同様悪質極まりない。よく考えて、結論を出しなさい」
「「「・・・はい」」」
「最後になったが・・・ミン・ソヨン、苦労したな。そなたの事だ。一生懸命、娘を育てていただろう。残念だが、この自分勝手で傲慢な所は父親譲りのようだな」
「「「!!!」」」
「・・・陛下」
「陛下、ミン・ヒョリンの母親を御存じなのですか?父親も?」
「・・・ああ、知っている。」
「ソヨン・・・娘に国外追放を命じたが、そなたの考えを聞こう。どうすべきだと思う?」
「陛下の判断に間違いはないかと・・・御恩を仇で返してしまう形になり申し訳ありません。やはりご忠告通り、宮に災いを撒き散らすあの者達の血を残すのではありませんでした。後悔しております」
「オ、オンマ?」
「ソヨン・・・」
「娘は、何度話しても感謝する心、反省する心を持つ事はありませんでした。本来なら私も娘と一緒に付いていくべきでしょうが、それでは人間として娘は成長しないでしょう。一人で生活し、お金の有り難味が分かり、周りの人に感謝できるまで、私が国内に留まることをお許しください」
「オンマ!!」
「分かった。ソヨン、あの時は断わられたが今度は承諾してもらう。チェウォンには、話をつけてある。妃宮の実家に行け」
「「「「!!!!」」」」
『ヒョ~ン、もう出てもいいか?』
衝立の向こうからひょっこり顔を出したのは、シン・チェウォン。チェギョンの父だった。