驚愕の表情の4人を見て、ガンヒョンは溜め息を吐いた。
「あなた達もあの女に騙されてたってこと?一体、どこの社長令嬢って偽ってたわけ?」
「俺さぁ、後妻ってのも知らなかったから、そのまま受け取ってたけど、デパート経営してるって聞いたような気がする。イン、お前、何か知ってるだろ?」
「多分、ソンヒョンデパート。前を通った時、母親のお陰で安く買えるようになったって言ってた」
「はぁ~~!?」
ガンヒョンは、一際大きな声を上げると、おもむろにスマホを取り出し、電話を掛けだした。
「アッパ?ちょっと聞きたいんだけど、ヒョンジンおばさん、いつ離婚したの?今、仁川の実家から病院に通勤してる訳?聞いてないんだけど?」
「だよね。じゃあ、テヒョンが性転換したとか、テハおじさんがヒョンジンおばさんと同時進行してた女性がいたとかはない?」
「寝惚けてなんかいないわよ。うちの学校にテハおじさんの娘で皇太子殿下の恋人だって、言い触らしてる女生徒がいるのよ。中学の時、チェギョンを虐めてた首謀者の子!」
「カン家を追放された母子の足取りを把握してなかったアッパの落ち度だね。ハラボジが知ったら、大激怒もんだと思うけど?じゃ、詳しい話は帰ってからするわ。忙しいのにゴメンね」
相手の会話は分からなかったが、ガンヒョンの話しぶりから、間違いなくヒョリンが嘘を吐いていた事は理解できた。
「今の話で分かったと思うけど、アッパとソンヒョンデパートの社長は従兄弟同士で、その奥さんは私のオンマの実家で育っててオンマとは親友の間柄なの。それとこれは憶測なんだけど、ヒョリン、ここで深窓の社長令嬢を装うつもりだったと思う。テハおじさんの姓って『ミン』だもの。地方都市ならバレないかもだけど、ここではムリでしょ。事実、美術科の連中はみんな知ってるし・・・ホント浅はかよね。これで、もういいかしら?」
「待って、待って。あのさ、カンコーポレーションが探ってもそのチェギョンさん一家の行方が分からなかったらしいんだけど、チェギョンさんのお父さんって凄い人なの?インは大学教授って聞いたって言ってたんだけど・・・」
「その通りよ。強いて言うなら、娘を溺愛しすぎて危ない親父ね。カンコーポレーションが行方を攫めなかったのは、うちのアッパとチェギョンの母方のお爺さんが隠したからだと思うわ。でも流石、宮よね。シン一家の足取りをちゃんと掴んでるんだもの」
「「「ええっ!?」」」
「・・・君はどこまで知ってるんだ?」
「最初に言ったでしょ?うちは遠縁の親戚で、直接おじさまに話を聞いて、チェギョンを守ってほしいって頼まれたって・・・おそらく殿下が知らない事まで知っているわ」
「それは・・・今も命を狙われてるって事か?」
「「「!!!」」」
「それは分からないわ。ただ虐めてたヒョリンのグループにアッパの系列会社の社員の子がいたの。アッパが問い詰めたら、チェギョンに目立つ所に傷を付けろと依頼されて、お金を受け取ってた事が分かったの」
「・・・王族か?」
「当たり。王族たちは宮にネズミを相当放ってると、アッパ達は思ってるみたいよ。身言牌だっけ?もうあって、ないようなものなんじゃないの?」
「ねぇ、ガンヒョン。何でそんなに宮の事に詳しいの?身言牌なんて言葉、宮関係者しか知らない筈なんだけど・・・」
「チェギョンの亡くなったお爺さんが教えてくれたのよ。王立学園大の学長を務めてて、先帝が亡くなるまで陛下や殿下の講師をしてたって聞いてるけど?因みにおじさんはソウル大学の教授だったけど、今はセキュリティーのしっかりした大学で教鞭を振るってる。噂じゃ、講義が面白くて人気の講座らしいわよ。ああ、さっき言い忘れたけど、チェギョンは何も知らないし、これからも知らせるつもりはないから。これは、シン家、うち、おばさんの実家のユン家で話し合って決めたって」
その時、ガンヒョンのスマホから着信音が鳴り、発信者の名前を確認したガンヒョンは、ゲッって呟いてから電話に出た。
「オッパ?私に電話なんて、珍しいわね。ひょっとしてもう連絡がいったの?」
「どこって・・・まだ学校だけど?本館の非常口を出たところ」
「はは、そうとも言うわね。今ね、例の御曹司たちと会談中な・・!」
通話の最中に突然、非常扉が開き、携帯を耳にあてた男性が飛び出してきた。
「オッパ!びっくりした」
「びっくりしたのは、こっち。一人で男と対峙って・・・ホント勘弁して。それから何で隠してたのさ。この学校にいるなら、せめてガンヒョンが報告してよ。俺、爺さんに怒鳴られたんだけど?」
「えっ、知らなかったの?」
「誰かまで聞いてなかったし。今、爺さんから電話もらって確認した。奨学金まで貰ってんじゃん。マジ勘弁してって感じ。今から平倉洞のイ家に全員集合だって。送って行くから庇ってよね」
「ウソっ・・・オッパ、ハラボジが出てきたなら、私もアッパも間違いなくオッパ側の人間だから・・・」
「ところでさぁ、そこで突っ立てる4人って、王立から来た御曹司たち?皇太子殿下って、どの人?」
「はぁ・・・相変わらず、無関心の塊みたいな人だね。左から2番目の人が殿下よ」
「男が野郎に興味持ってどうするのさ?気持ち悪い・・・殿下、はじめまして。ユン・ジフです。一応、祖父の代理でこの学校の理事長職に就いてます」
「イ・シンです。あのぉ・・・どういうご関係なんでしょうか?」
「ガンヒョンとですか?また従兄妹です。僕とガンヒョンの爺さんの嫁が姉妹なんです」
「あの・・・ヒョリンはどうなるんでしょうか?」
「はぁ?この期に及んで、あの女の心配?カン・イン、頭おかしいんじゃないの?」
「クククッ、ガンヒョン、間違っちゃいないけどもう少しオブラートに包んで。女の子なんだからさ。俺の見解としては、学業を真面目に取り組んでるなら、学校としては処分しない。問題は、奨学金なんだよね。間違いなく母親は解雇だろうし、2大企業に迷惑かけた家政婦なんて、誰も雇わないよね。それにソンヒョンとスアムを敵に回したんだよ?ソウルに住む場所があるとは思えないしね。奨学金の返済能力、やっぱりないよね」
「間違いなくないわね。働き口も住居もない。学校に通ってる場合じゃないかもね」
「・・・う~ん、宮次第では娘は当面住む場所は見つかるかも・・・殿下の秘密の恋人、未来の皇太子妃?間違いなく不敬罪適用されるんじゃない?殿下、どうなの?」
「取り調べで危険人物と見なされば、生涯塀の中か檻の付いた病院でしょうね」
「「「!!!」」」
「そっか・・・あのさぁ、今更なんだけど、何でガンヒョン、この4人と話してんの?美術科と映像科が接点を持たないよう俺がどれだけ苦労したか分かってんでしょ?」
(授業のコマ割り、理事長が操作してたら、接点が持てなくて当然か・・・もしかして俺の所為か?)
「あ、あの・・・俺、チャン・ギョンと言います。俺がガンヒョンさんに一目惚れしてしまって・・・」
ギョンが説明してる最中に 理事長が吹き出し、お腹を抱えて笑いだした。
「チャングループの坊ちゃんは、チャレンジャーだね。ダメ、腹痛ぇ~」
「オッパ!!」
「だって、そうじゃん。一癖も二癖もある一族だよ!?直情型のイ家、裏表の激しいユン家、天然爆弾炸裂のシン家。どこがまともなのさ」
「否定はできないけど、シン家と一緒にされるのは心外だわね」
「クククッ、あそこは普通じゃない。死んだ爺さんも叔父さんもね。でもそのDNAを色濃く受け継いだのが、チェギョンだから。殿下、先に謝っとく。チェギョン、中国人と結婚するつもりらしいから」
「は?」
「子どもの頃さ、舌足らずで可愛かったんだよね。『オッパ、わたち、チン君と結婚の約束ちたの』って言うからさ、俺、何も聞かされてなかったから、中国人の陳君と結婚するなら中国語覚えないとなって言っちゃったんだよね。『じゃあ、勉強する』って、今じゃ中国語ペラペラ・・・」
「はぁ~!?何で誰も否定しなかったんですか?」
「外国語を覚えることは悪い事じゃないでしょ。それに一族全員、反対だからね。先帝の爺ちゃんが死んでから、SPを付けないと危なくて外出させられなかったんだ。学校で大怪我してからは、24時間体制でSP付けてるし・・・」
「「「!!!」」」
「ねぇ、いい加減、ガンヒョン連れ帰っていい?殿下も翊衛士があそこで待ってるけど?」
「・・・・・」
「シン家の意向は、今話した通り。これ以上、説明する事はない。それでも詳しく聞きたいなら、俺かガンヒョンの爺さんにさせて。二人なら簡単に参内できるだろうしね」
「えっ、お爺さんですか?」
「うん。ソンヒョンのイ・ギチョルとユン・ソギョンが、ガンヒョンと俺の爺さんだから。ガンヒョン、帰ろ」
「「「「!!!」」」
ガンヒョン達2人が裏門付近に止まっていた外車に乗りこんで去って行くのを、4人は呆然と見送るのだった。