チェウォンやジフから何の連絡もなく、シンは仕方なく宮に戻ってきた。
宮に戻っても 今日一日を思い出し、ニマニマしていた。
(今日は、楽しかったなぁ。俺、学校が楽しいって思ったの初めてかも・・・)
「殿下、お帰りなさいませ」
「うん、ただいま。チェ尚宮、コン内官は?」
「所用ができたとかで、お出かけになりました。コン内官さまが、私が戻るまで陛下の執務室にてお待ちくださいとの事でございました」
「分かった。着替えたら向かいます」
シンは、着替えを済ますと陛下の執務室に向かった。
「シンです。只今、戻りました」
「入れ!太子、お帰り」
「・・・お一人ですか?」
「ああ、キム内官は、調べ物をしに行った。コン内官から話は聞いた。義誠君のことだ」
「宮は、ユルの帰国の事を把握していたのでしょうか?」
「いや、初耳だった。私が父上から聞いているのは、恵政宮が帰国をした時点で皇籍から抜けという事だけで、ユルについては帰国云々のことは聞いていない。しかし無断となるとな・・・誰か手引き・手配をした者がいる筈だ」
「陛下は、帰国の目的は何だと思われますか?」
「・・・疑いたくないが、悪い想像しかできない」
「まずは、協力者を探し出すのとユルに監視をつけるべきだと思います」
「今日、学校でユルの住所を聞いてきたようだ。思惑があるなら、向こうも宮の動きを警戒している筈だから無暗に動かない方がいい。ただ純粋な想いで帰国していたのに我々が疑っていたら、ユルが傷つくだろう。だから任せてほしいと言われたと報告してきた」
「チェギョンの父親であるシン・チェウォンアジョシです。今日、理事長室で会って話させていただきました」
「何と!真か!?」
「はい、陛下。本当に楽しい方で、心から宮と僕を心配してくれていました」
「チェギョンの許嫁の話はしたか?」
「クククッ、すいません。昨日の話の延長みたいですが、『まずは友達から始めて!心の準備があるから、すぐシちゃうとかは止めて!』と冗談ぽくですが、認めてくれました」
「クッ、ハハハ・・・本当に面白い人なんだな」
「陛下はお会いになった事はないのですか?学生の頃から出入りしていたと仰っていましたよ」
「ないな・・・訓育が始まって暫くしてから、ユルとは別に太子に専任の講師を付けると父上に聞いたが、それがシン先生の息子だとは教えてもらえなかった」
シンは、チェウォンから聞いた偽名の経緯を陛下に語った。
「そこまでして・・・父上が好きだから、ただそれだけで・・・シン家には足を向けて眠れないな」
「そうだ。僕の為に父兄参観してやると言って授業を見に来てくれたんです。結局は、先生にお願いされ講義されましたけど・・・それが授業と言う感じがしなくて、もうクラス中、抱腹絶倒の嵐でした。クスクス」
「クククッ、良かったな。太子が、そんなに楽しそうに学校の話を聞かせてくれたのは初めてだ。本当に楽しかったようだな」
「はい、陛下」
(でも先帝陛下は、天国で怒ってるかもな。その横でアジョシのお父さんが豪快に笑ってそうだ。。。)
『失礼します。コンでございます』
「入れ!」
コン内官は陛下の執務室に入り、一礼をした。
「只今、戻ってまいりました」
「会えたか?」
「はい、お会いしてまいりました。ですが、高齢のためお忘れの方が多いようで全て把握しきれませんでした」
「そうか・・・」
「コン内官、何を調べていたんだ?アジョシに依頼されたんだろ?」
「はい。義誠君さまの帰国に手を貸した協力者で、恵政宮さまか孝烈殿下と親交のあった人物です。当時ス殿下に仕えていた尚宮に聞きに行ってまいりましたが、空振りに終わりました」
「・・・明善堂は調べたか?伯父上に付いていた内官が書いた日誌を探せば、書いてあるだろ?」
「は!そうでした。すっかり失念しておりました。ですが、全くの手付かず状態で探すのは時間がかかるのかもしれません」
「へ?あそこ、学生時代から入り浸って整理したって、今日アジョシに聞いたけど?先帝陛下とお父さんに命令されたって・・・アジョシならすぐに探し出せると思う。来てもらえば?」
「それが、私も参内を依頼したのですが拒否されました。娘との許嫁の話が上がっている時に参内し、後々王族たちにバレたら厄介だから無理と言われました」
「・・・一理あるな。シン先生のご子息は、頭のキレる人のようだ」
シンは、心の中で、頭の線も切れてる人だと思った瞬間、自爆し爆笑してしまった。
「クククッ・・・すいません。本当に色々な意味でおかしい人だったので・・・コン内官も知ってますよね。変わった人なのは」
「軍では、真面目な好青年という印象でした。年下ですが、本当に随分助けてもらいました。休憩時間によく歴史や美しい宮の風景の話をしてくれて、勤勉で話術に優れている子でしたね」
「・・・あり得ない」
「ところで、キム内官の方はどうなりましたでしょうか?」
「全く連絡がないところを見ると、まだ探しておるのだろう」
「何をさがしているのですか?」
「亡き兄上が遺した覚書だ。コン内官が、父上の前で書いていたのを見たと言うのだ」
「確かに見ました。そして私に先帝は、遠い将来、必要になった時だけ陛下に渡せと仰いましたが、渡しては頂けませんでした。どこかにある筈なんですが・・・」
(・・・ス殿下・・・ユルの父上・・・スアジョシ・・・ん?何か・・・)
「ちょっと待って・・・昔、アジョシから聞いた気がする。その覚書のこと、アジョシも知ってるよね?ユルについてだよね?」
「はい。先帝、シン・チェヨン氏とウォンが同席していました」
「何だと!?太子、彼は何を言ったのだ?」
シンは、目をつぶって遠い昔を思い出していた。
≪坊主、ごめんな。アジョシの親父が倒れたんだ。だから親父の看病と子どもの面倒をみないといけなくなったんだ。もう宮には来れない。ホントごめん≫
≪泣くなって・・・寂しいかもしれないけど、もう暴君怪獣もいないし怖くないだろ?もしまた暴君怪獣が現れたら、アジョシが退治するお守りを宮に隠しておいた。2つ隠したから、それを探して、近くの大人に見せるんだ。宝探しだぞ?ワクワクして探せよ≫
「・・・もし暴君怪獣が現れたら、アジョシが隠したから探して大人に見せろ。2つ隠したからな・・・」
「「太子!・殿下!」」
「場所は・・・俺の秘密基地とアジョシの秘密基地・・・・あっ!!コン内官、キム内官を明善堂に向かわせろ!アジョシが秘密の扉を見つけたと言っていた。1つは、多分そこだ!」
「はい、殿下。失礼します」
コン内官は、執務室を出ると廊下でスマホを操作し出した。
「陛下、僕ももう1つを探してきます。失礼します」
シンは、法度も忘れ、執務室を飛び出していった。
「クククッ・・・宮で秘密基地だと!?シン・チェウォンは、宮で太子と何をしていたんだ?」
(アジョシと一緒に探検して見つけた俺の秘密基地・・・絶対にあそこだ)