廊下と離れの家の間のドアを開けた瞬間、シャワー直後のチェウォンによく似た少年と目があった。
完全にチェギョンが一人寝ているだけだと思っていたシンは、ビックリして固まってしまった。
「いらっしゃい?こっちはシン家で、ユン邸は向こうですよ?」
「お、お邪魔します?チェギョンはこっちだとジフさんに言われて、こっちに来たんだ。ひょっとして弟くん?」
「あ、はい。弟のチェジュンです。皇太子殿下っすよね?何で、ここに?」
「おじ様に熱出して寝込んでるって聞いたから、お見舞いに来たんだ。チェギョンは、2階かな?入ってもいい?」
「クスッ、どうぞ。俺、見た目は似てても中身は母親似っす。あんな曲者じゃないんで、緊張しなくて良いっすよ」
「あ、うん。ありがとう」
「2階の右側の部屋です。これ持って行ってください」
チェジュンからペットボトルを渡され、2階のチェギョンの部屋に向かった。
可愛い手作りの小物が溢れている部屋で、チェギョンはベッドで寝ていた。
シンはそっとベッドに近づくと、額に手を置き熱を計った。
「ん~・・・」
「ゴメン、起こしたか?」
「へ?・・・えっ!?・・・」
目を覚まし、シンの姿を見た途端、チェギョンは大きな目を見開いた。
「な、な、何で?」
「アジョシから熱出して寝込んでるって聞いたからお見舞いに来たんだ。下がったみたいだけど、どう?」
「だ、だ、大丈夫でしゅ!」
「クスクス、緊張しないで。言葉、噛んでるよ」
「は、はい・・・」
「昨日ね、ガックリ落胆して帰ったろ?で、気になっちゃって。本当は学校で話そうと思ってたんだけど、休みだったから家まで来ちゃいました」
「あの・・・意味が分からないんですけど?」
「俺、中等部の時にチェギョンと俺が一緒に写ってる写真を見せられて許嫁だって言われたんだ。すぐに一緒に遊んでた子だと分かった。で、高校は芸校を受ける筈だから行かないか?って皇太后さまに言われて、芸校を受験したんだ」
「嘘っ・・・私のため?」
「どっちかと言うと自分の為かな?許嫁を拒否するなら王族から選べって言われてね、俺、王立にいる女生徒、ホントうんざりするほど嫌だったんだ。それに元から芸校で映像の勉強をしたいと思ってたから、皇太后さまの提案は渡りに船だったんだ。入学してすぐにチェギョンを見つけたけど、どう声を掛けたらいいのか分からなくって、1年ずっと見てただけだった。昨日、言っただろ?中庭にいる君をよく見てたって・・・」
「///うん・・・」
「だから昨日、宮で会って、俺、ラッキーと思ったんだよね。話してても楽しかったし・・・なのにガックリして帰ったろ?ちょっとショックだったんだ」
「・・・ごめんなさい」
「ううん。あのさ、皇太子じゃなくて俺自身を見てくれない?許嫁云々はとりあえず置いておいて、チン君に再会してまた友達になったって思ってほしいんだけど、ダメ?」
「///・・・ダメじゃない」
「良かった♪断わられたら、どうしようと思った」
「そんな断わるなんて・・・私、チン君に再会するのが夢だったんですよ」
「ありがとうな。ねぇ、大丈夫なら、起き上がらない?///俺、距離感が掴めなくてヤバい」
「へ?」
「至近距離過ぎてポッポしたくなる。唇に・・・」
「///!!!」
チェギョンは飛び起きて、ベッドに座った。
「サンキュ。アジョシとジフさんに釘刺されてるから助かった」
「は?またバカな話でしょ。あの2人をまともに相手してたら疲れるから、適当に相手してください。特にアッパは雑で構わないから・・・」
「プッ・・・分かった。そうする。今日、学校で会ったけど、ジフさん以上に掴みどころのない人だよね」
「げっ、会ったの?変なこと言わなかった?」
「変なことかは分からないけど、ずっと笑いっぱなしだった」
「・・・間違いなく、それは変なことです。殿下、脳が冒されてますよ」
「プクク・・・そうかも。チェギョン、殿下は止めて!昔みたいに名前呼んで。呼び捨てでも良いよ」
「///えっ・・・じゃ、じゃあシン君で・・・」
「はい、合格♪あっ、そうだ。インが、ヒョリンの事謝りたいって言ってたよ」
「へ?何で?私こそ誤解させちゃって、ヒョリンに悪いことしちゃったって思ってるんだけど?断わり切れなくて、おば様に会いに行ってたから・・・やっぱり彼女としては、気悪いもんね。だからアッパとオンマに我が儘言って、顔を合わさないように引っ越しと転校をお願いしたんだけど、まさか2人とも同じ高校だと思わなかった」
「・・・・・」
「あっ・・・シン君、いつも一緒にいるよね?学校ではやっぱり近づかないようにするよ」
「いや、良いから。見かけたら話しかけて。俺もそうするからさ」
「えっ!?いやいや、それはマズイでしょ」
(この天然勘違い女、どうしてくれよう・・・)
「チェギョン、よく聞いて。騙されてたんだ。インは、面識はあったけど、ほとんど話した事はなかったそうだ。それが高校で再会して、ヒョリンの方から話しかけてきたって言ってた」
「えっ、えっ!?」
「キスは勿論、手をつないだ事もない。誓っていいって言ってたぞ。だから当然、それ以上の行為はあり得ない」
「じゃ、じゃあMサイズは誰と使ってたの?」
「グハッ・・・チェギョン、天然すぎるだろ。クククッ・・・腹痛い・・・」
「えっ、大変。胃薬、飲む?持ってこようか?」
「ブハハハハ・・・もう勘弁してくれ~・・・・」
お腹を抱えて笑い転げるシンとその横でキョトンとしてシンを見ているチェギョン。
それを呆れたような顔をして、チェジュンが開いたドアから見ていた。
「ヌナ、またおバカ発言したんだろ?殿下、さっき渡した水、飲んでください」
「クククッ・・・へ?チェギョンにだろ?」
「そんな訳ないでしょ。水飲んで落ち着かせるか、飲んでる最中に吹き出すか、どっちだろ?と考えて渡したに決まってるでしょ」
「チェジュン!!」
「プッ・・・チェジュンも立派にシン家の人間だね」
「お褒めに与り、ありがとうございます。ジフヒョンが、メシできたから来いってさ」
「チェギョン、大丈夫のようなら一緒に行こう」
「うん。オッパに報告しなくちゃ。早く行こう」
「うん」
(俺との事、報告するんだ。ホント従兄妹同士仲良いな・・・俺もユルとコンな関係だったら良かったのに・・・)
渡り廊下を通り、先程のリビングまで戻ると、チェギョンがジフに駆け寄った。
「オッパ、聞いて!エム君、あのMサイズ使ってなかったんだって!」
「「「ブハッ・・・・」」」
見目麗しい4人が、ワインを吹き出しながら豪快に笑いだした。
(おい、チェギョンちゃん、報告ってそっちかよ。それにインの事、しっかりM君って言ってるし・・・しっかしイケメン4人組の大爆笑、俺、初めてみた。迫力あるなぁ・・・)