パーティーシンクが付いたカウンターには、手軽に抓めるオードブルからスペアリブ、グリルチキンなど所狭しと並んでいた。
その中で、少し違和感のある料理があった。
「オッパ、チヂミとトンチミ(水キムチ)だけ違和感あるんだけど?」
「ああ、それ?何かさ、アジョシが用意してたやつ。殿下に食べてもらいたかったみたいだよ」
「・・・懐かしいな。昔、水刺間(スラッカン)と呼ばれる調理場で、一緒に竈に火をつけて作ったんです。トンチミ?これも実験だと言って、色んな塩を使って作ったなぁ。結局、国産の大粒の塩が一番って二人で結論を出したんだった」
「殿下、あんただったのかぁ、荒塩作りの原因・・・」
「げっ、忘れもしない、海水汲みと運搬。あれ、マジできつかったなぁ・・・」
「えっ!?」
「俺ら全員、強制的におっさんのゼミに参加させられたわけ。俺、軽トラや漁船に乗ったの初めて。絶対にもう乗る機会ねぇし、乗らねぇ」
「クスクス、あの時さぁ、軽トラの後ろにSPが乗ったベンツが何台も続いて、異様な光景だったよね」
その想像をしてしまったシンは笑いだし、チェギョンとチェジュンは苦笑した。
「ジフヒョン、がっつり食べたいのにご飯系がないんだけど・・・」
「アジョシが殿下に〆に冷麺を食べさせたいみたいでさ、何が良いのか分からないから、まだ作らせてない。麺類以外で何がいい?ピザ、リゾット、白飯・・・」
「俺、リゾット!トリュフの入ったヤツ」
「OK。殿下とチェギョンは?」
「じゃあ、リゾットで・・・」
「私は、ピザにする。シン君、半分こしよう」
「クスッ、いいよ」
「ん、分かった。コン内官さんは、白米の方がいい?」
「いえ、私は・・・」
「多分、アジョシは何か掴んでくる筈だから、食べながら帰ってくるの待ちなよ」
「では、冷麺を頂きたいので、少しずつ抓ませていただきます」
「了解」
部屋の隅で聞いていたメイドが、部屋を出て行った。
「シン君、オッパの家、アップルタイザーとペリエしかないんだ。さっき飲んだビッテルの方が良かったら取ってくるけど?コン内官さんは、ミネラルウォーターの方がいいですよね?」
「はい、できれば普通の水の方がありがたいです」
「じゃ、俺、何本か持ってくるよ」
「チェジュン、お願い」
「俺はペリエにする」
「オッケー!」
チェギョンが冷蔵庫からペリエを2本持ってくると、イケメン4人組がシンとチェギョンを見て、ニヤニヤしている。
鈍感チェギョンは気づかないが、シンはその視線が気になって仕方なかった。
チェジュンが戻ってきて、全員で乾杯してから、パーティーのような食事が始まった。
「なぁ、さっきから気になってんだけど2人進展したわけ?チェギョン、『シン君』なんて呼んじゃってるし」
「子どもの頃から呼んでるし、別に変わんないでしょ」
「昨日は、確か殿下って呼んでたよね?」
「・・・オッパ、嫌い」
「クスクス、とりあえず友達から始めます。チェギョン、ジフさんに休憩用の部屋のカギを貰ったんだ。昼休み、そこで一緒に弁当を食べよう」
「へ?あ、うん、いいよ。でも2人で?」
「そのほうが嬉しいけど、多分イン達が付いてくると思う」
「えっ!?ひょっとしてヒョリンも来る?」
「いいや、来ない。ウソに気づいて怒ってたし、俺も舞踊科で恋人のフリされてて、もう関わるつもりもない」
「そっか・・・じゃあ、私も友達連れて行くね」
そんな会話の中、2人の横でチェジュンは、黙々と食事をしていた。
「おい、おい、チェジュンは無関心かよ!?実の姉の事なのにドライすぎない?心配じゃねぇの?」
「ヒョン達のように野次馬根性的な感情はないよ。ずっとチン君、チン君と連呼してるヌナを見てきたしね、夢が叶って良かったなと思ってる。殿下だって聞いた時は驚いたし、無理だって思ったからね」
「そんなもん?もしチェギョンが宮に嫁いでもそんな冷静でいられる?」
「はん、もう一つ肩書きが増えるだけだろ?学校では、もう元大統領の孫ってことも 親父が変人ってこともバレてるし、神話の御曹司と仲が良くて、ソンヒョンと親戚だと態々暴露しに来た人もいるしな。今更だね」
「スマン、チェジュン。急にババアの代わりに会食することになって、どんな人かリサーチしたかったんだよ。でもサンキュウな。総帥に電話して、俺の事話しておいてくれただろ?お陰で話がスムーズにできた」
「因みにこのぐらいの会話は驚かないよ。俺、ジュンピョヒョンの暑苦しい求愛活動 見てるからね」
「「「グハッ・・・そりゃ、そうだ」」」
「///チェジュン!!」
(俺と一緒で、チェジュンも学校でジロジロ見られてるのか・・・大変だな)
「殿下は、注目を集めるだけだけど、俺の場合、生徒の親達が媚売りにくるからね。爺さんや叔父さんやヒョン達に会わせてくれって・・・」
「マジ?」
「うん。面倒だから校内にSP入れる許可もらった。因みに親父には誰も会わせろとは言わない」
「ブハッ・・・俺が言うかも・・・」
「変わってんね~、殿下」
「クククッ、何か安定のチェジュンって感じだな。じゃあジフの方、ヤキモキするんじゃね?」
「俺?確かに傍にいてくれると、何かと便利だし・・・婚約とかは勘弁してほしいかな」
「確かにお前、パーティーのパートナーにチェギョン、連れてくるもんな」
「うん。従兄妹だからスキャンダル報道にもならないし、虫除けにもなるし、一石二鳥だろ?」
「プッ、コイツ、見合いの席にチェギョン連れて行ったんだぜ」
「「「はぁ~~!?」」」
見事にシン、ジュンピョ、イジョンの声がハモった。
「クスクス、ウビン、あの時はサンキュウな。助かった」
「あれぐらい何の事はない。で、上手くいったのか?」
「ああ、チェギョンの天然ぶりが大いに助かった。笑いを抑えるのに苦労したけどね」
「へ?私、何かした?オンニ、大丈夫かなぁ・・・」
「大丈夫って、見合い相手、何かあったのか?」
「うん。体調悪そうだったんだよね。急に青くなったと思ったら、汗かきだして、心配してたら今度は真っ赤になってね。気づいたら、いなかったの。先に帰っちゃったみたい。きっと挨拶もできないぐらい体調悪かったんだよ」
チェギョン以外の全員が、ジフが誘導したチェギョンに天然発言に怒って帰ったんだと理解した。
「それとも何か気に障ること言ったかなぁ?」
「いいや、全然。悪巧みが得意な人だったから、気にする事ないよ」
「えっ!?」
「あの人ね、俺との2ショット写真を撮らせようと、写真雑誌のカメラマン仕込んでたんだ」
「げっ・・・綺麗な人だったのに・・・そんなことするの。何か信じられなくなりそう」
「クス、全身整形だけどね」
「え~~~!じゃあ、あの会話マズイじゃん。やっぱり怒って帰ったんじゃない!!」
「俺、あの時、言ったでしょ。原形を留めない位いじってる人は、結婚対象外だって。やんわり断ってたんだよ。だから帰って行ったの。チェギョンの所為じゃないから」
チェギョン以外の全員が、≪どこが、やんわりなんだ!?≫と思ったことは、チェギョンには内緒♪