ユン邸から戻る車中で、シンはコン内官に話しかけた。
「コン内官は、アジョシの話を聞いてどう思った?」
「・・・驚いたのが半分、納得したのが半分でしょうか?」
「驚いたのは分かるが、納得したとは?」
「はい。退役後、宮に入職した際、宮廷内部の建物の話をウォンがしていた事に気づいた時、高卒の子がなぜ知っているのかと初めて疑問に思いました。その疑問を忘れた頃、突然宮に現れて、儒教学者ではなく韓国史の准教授が殿下専属の講師になった時もおかしいと思いました。それに破天荒な講義をされてもお咎めがないことも・・・」
「確かに・・・」
「極めつけが、孝烈殿下がお亡くなった約2ヶ月後、ウォンは恵政宮さまに叱責をされ、翊衛士に拘束された時、助けを求められたのが顔見知りの私ではなく先帝でした。その際、先帝は自ら出向かれ、ファヨン妃の前で尋問をされました。そのウォンの証言と証拠が決め手になり、ファヨン妃は追放になりました。皇孫さまの講師とはいえ、あまりにも内部の事に熟知しているとずっと思っておりましたので、事実を聞き、やはりなと納得しました」
「・・・・・」
「殿下、差し出がましいようですが、チェギョンさまの事、どうされたいのですか?」
「もっと話がしたい」
「では、そのようになさいませ」
「いいのか?」
「勿論でございます。昨日の陛下のお言葉をお忘れですか?先帝陛下を始め皆さまが殿下の幸せをお望みで、職員全員が願っております。どうか明るい未来をお掴みになってください」
「うん。ありがとう・・・ところで、アジョシがユルに先に話したいことって何だと思う?」
「私も考えましたが、思い当りません。それよりも私は、キム内官の事が心配で・・・ちゃんと見つけたでしょうか?」
「ホントだ。すっかり忘れてた。もし見つからなかったら、俺も探すの手伝うよ。アジョシ曰く、≪名探偵シン君≫らしいからさ。クスクス」
ギョンが一目惚れしてからたった2日しか経っていないのに もっと経過していると思うぐらい自分の考えも宮も劇的に変わっていることに思わず苦笑が漏れる。
(見てるだけの膠着した1年だったのに ギョンの一目惚れという些細な切欠でこうも劇的に変わるとは思わなかった。忘れつつあった先帝の面影も今じゃ色々な表情が想像できるし・・・感情の起伏は激しかったけど、久しぶりに充実した日だったな)
翌日、2日連続睡眠不足で辛いシンだったが、昼休みを楽しみに学校へ向かった。
「おはよう、殿下」
「えっ、あ、うん、おはよう」
今まで遠巻きに見ていたクラスメート達が次々に挨拶してくれ、初めは戸惑ったが徐々に自然に挨拶を交わせてるように感じた。
そして「殿下、昨日帰ってから、PCで慶会楼見たよ。池も載ってて、プッ・・・ここかって思った」と話しかけてくれた生徒もいた。
(アジョシの講義の効果って、凄ぇ~~!)
「あの池さ、初夏になると睡蓮が綺麗に咲くんだ。その頃が、俺のお薦め時期かな?本当は、早朝が良いんだけどね」
「何で?」
「睡蓮の花は早朝に咲くんだけど、花が開く時≪ポン≫って音がするんだ。もうすぐ日の出って時間で、結構幻想的だったよ」
「「「へぇ~~」」」
「・・・殿下、勉強大変そうだね。ちょっと眼の下にクマができてる」
「えっ!?」
「俺ら、何も知らなくて・・・昨日の先生の話を聞いて、殿下って凄ぇ~って思ったんだ。また宮の話、聞かせてほしいんだ。宮の文句を言ってる奴を見たら反論しようなって、俺ら、皆で話したんだ。クラスメートの俺らなら、説得力があるだろ?だから、色々教えてほしい」
「・・・ありがとう」
『殿下、恋バナでもいいですよ』
誰か分からなかったが、自分の背後から聞こえてきた。
「クスッ、反対に俺らに皆の恋バナ聞かせてほしいな。ギョンが一目惚れしたんだけど、即フラれてさぁ」
「シン!俺は、フラれてねぇ~」
「クククッ、ギョン、嘘はいけないよ。ギョンね、初対面でいきなり、結婚を前提に付き合ってくださいって言ったらしいんだ。バカだろ?」
「「「グハッ・・・ありえねぇ~」」」
「だから、皆の経験談、失敗談でも良い。色々教えてほしい」
「殿下、気になる子がいるんですか?」
「///えっ、そういう訳ではないんだけど・・・俺、先生以外なら女官としか話した事がないんだよな。それも○○してくれとか・・・」
「殿下、それ、ダメダメじゃん。でも殿下って、黙っててもモテそうじゃん」
「それは、皇太子という肩書がモテてるだけで、俺自身じゃないだろ?俺も男だし、中身で勝負したいんだ」
「・・・何か感動した。俺、応援する。でもあの舞踊科の子は?昨日、警察が来てたみたいだけど、何だったの?」
『コラ~、もう予鈴なってるぞ。騒いでないで、席に就け!!』
始業のベルにも気づかず、クラスメート達と話をしていたことに気づいたシンは、ここで話を中断するのはマズイと思ってしまった。
「先生、すいませんが、僕に少し時間を貰えませんか?」
「えっ、殿下?ど、どうぞ」
「ありがとうございます。さっきの話の続きなんだけど、ギョンが一目惚れした子から初めてその噂聞いてビックリしたんだ。俺、話したこともなかったし・・・インに会いに来てると思ってたんだ」
「シン、俺からも話させてほしい。ヒョリンは、昔、俺んちで住み込みで働いていたアジュマの娘だったんだ。高校で再会して、俺には母親が会社社長と再婚が決まったから引っ越して、ここに入学できたと言ってたんだ。でも全部ウソだった。顔なじみ程度だったヒョリンは、シンに近づきたくて、俺を利用したことがここ2日で分かった。変な生徒が我が物顔で教室に入って来てて、気分悪かっただろ?みんな、ゴメンな」
インは、クラスメートに頭を下げた。
「僕もゴメン。僕らはもっと気軽に皆に話しかけるべきだった。シンがいるから、皆からは話しかけづらいもんね。さっきのシンの話じゃないけど、僕らと友達になって、色々教えてください」
「あー俺は、美術科に彼女や知り合いがいる奴、俺とハクチョウとの橋渡しを頼みます」
「ギョン、お前バカだろ?」
「シン、酷ぇ~!」
クラスメートから、思わず笑いが起きた。
「あのぉ、イ・シン君、僕からも質問いいですか?」
「あ、はい、先生」
「昨日、突然、宮内警察の方が見えられたのは、そのミン・ヒョリンのことなんでしょうか?」
「はい。今、警察に拘束されていると聞いています」
「「「!!!」」」
「皇族は、国民に誠実に接し、決して騙してはならないという考えから、嘘を吐いてはならないと一番最初に教えられました。ですから僕達皇族は、嘘を極端に嫌います。ミン・ヒョリンは、中学時代インの恋人だと嘘を吐き、インの幼馴染に暴行をして、更生施設に半年入所しています」
「「「え~~~!!!」」」
「その事実をインに隠して接触し、社長令嬢と偽り、僕の秘密の恋人だと吹聴していたようです。いくら僕や宮が否定しても彼女のような人は、きっと宮に引き裂かれたぐらい言いかねない。だから反省してもらうつもりで、僕に対する不敬罪で拘束しました。拘束した今でも反省する気配がないと、今朝報告を受けましたが・・・」
「そうだったのですか。実は、教師の中でも何の情報もなくて不安が広がってまして、今の説明すれば皆納得できます。ありがとうございました」
「いえ、こちらこそご迷惑おかけしました。僕の話は、以上です。貴重な時間、すいませんでした」
シンは担任に一礼をした後、ニヤリと笑ってインを見た。
「イン、昨夜、俺、会いに行ったんだ。そしたら、インにって自分達のを提供してくれて預かってきた。社交界デビューする前に調べて、Mサイズじゃないって証明しろってさ。残念な時は、俺のは特注サイズだって誤魔化せとのアドバイスも預かってきた。ホラよ」
シンは、おもむろにポケットから色んな種類の避妊具を取り出すと、インの手のひらに置いた。
「シン~~!!///お前、あの変人たちに簡単に染まってんじゃねぇよ!!仮にも皇太子だろうが・・・!」
「クスッ、学校では、一高校生イ・シンでよろしく♪」
シンのウィンクに女生徒は顔を赤くしてたが、男子生徒は話の内容が分かり大爆笑したのだった。
(殿下って、もっとお高くとまってるかと思ったけど、こんな人だったんだ・・・めちゃくちゃ面白いじゃねぇか)