寝ているチェギョンとシンとユルを残して、他の者は教室へと戻って行った。
「何で授業に戻んないの?」
「昨日の事を聞きたくて残りました。スアム文化財団で、宮絡みの何かがあったのでしょうか?」
「ああ、うん。大したことないよ。心配しないで」
「来週末、オペラ観劇の公務が入っています。その件で、何かあるんじゃないですか?」
「分かってんじゃん。ちょっとね、自信過剰の王族が、娘を通訳に使えって言ってきたらしい。叔母さんは断わったらしいんだけどね、もうゴリ押し?『王族に逆らったら、どうなるのか分からないのか?』とか?別にどうにもならないんだけどね」
「すいません」
「別に殿下が悪い訳じゃないから。世間を知らない王族がバカなだけ・・・ウビン情報だけど、確かに娘はフランスに留学してる。でも遊学に近いし、1年未満で帰国してる。きっと通訳できないから・・・殿下、そんなの付けられてどうする?」
「困ります!」
「だよね。でもきっと通訳する気満々で来るよ。それに殿下が公務で観劇するって、知らないうちに報道陣側に流れてるし・・・うちはオペラ興行とその日程は公表しただけ。間違いなく意図的だよね?スンレ叔母さん、殿下の公務の取材要請舞い込んで、キリキリしてる」
「申し訳ないです」
「ううん。本物を観劇する事は良い事だと思う。チェギョンやチェジュンの為に外国から招へいしたんだし・・・」
あまりにもスケールが違う英才教育に シンとユルは驚いた。
「何、驚いてるのさ?ジュンピョよりマシだから。中華食べるぞって香港まで連れて行かれたことあるし。彼女が泳ぎたいと言えば、俺たち全員日本の沖縄に拉致だからね」
「それって、学生時代の話ですか?」
「うん、高等部の頃。神話はプライベートジェット何機も保有してるから、発想に幅ができるよね」
(そういう問題か!?)
「話を戻しましょう。通訳の件ですが、どうにかなりませんか?」
「煩いからさ、一応、殿下の通訳してもらう。観劇の最中の説明は、舞台監督にしてもらう。でも招待した監督には失礼にならないようスアム側が用意した通訳を付ける」
「じゃあ、俺はどうしたら良いんですか?」
「きっと最初の挨拶でボロが出るさ。後は、考えなよ。≪宮は依頼していない≫とか≪役立たずが何の用?≫とか言い様があるでしょ。俺は関知してないけど、マスコミに余計な情報を入れてるかもしれないから用心した方が良いね」
「それは・・・皇太子妃候補と見合いとかですか?」
「当たり。何なら、ユル君と一緒に公務すれば?そうしたら、矛先変わるしね。クスクス」
「僕、嫌だからね。観劇するなら、楽しみたい。注目されながらの観劇なんて、絶対に無理!」
「俺だって嫌だ!」
「クスクス、まぁ、あの親父が秘策練ってるかもしれないし、今からピリピリしてると・・・ハゲるよ」
「ジフさん!ふざけないでください」
「ちょっと寝てるんだから、静かにしてよね」
「クスクス、本当に理事長は、シンに対してナチュラルですね」
「クス、俺、ソンジョおじ様とよくメシ食ってたしね。ジジイ3人とあの親父が、チェギョンにチン君のことを聞いて、それを肴に酒を飲んでたからね。他の人よりは親近感なるかな?」
「例えば、どんな?」
「ジフさん、言わないでくださいよ」
「だって・・・ああ、あのさ。住んでもらうマンション、一応ソングループの社員寮だから」
「「へ?」」
「表向きは高級マンションだけど、住人はソングループの裏の仕事をしてる人たち。マンション内、SPだらけだと思って。ユル君が住むフロアは、俺のダチ3人のセカンドハウス。24時間コンシェルジュ配置だから、食料品とか日用品など簡単な買い物は彼らに頼める。外出も連絡したら、送迎してくれるから。だから一人では絶対に出歩かないで。あと何か不審な人物を見かけたら、ファン君じゃなくマンション内のSP頼って。巻き込みたくないからね」
「あの家賃とか生活費は・・・」
「家賃は要らない。生活費は宮に請求する。昼の弁当は、殿下かチェギョンに頼みな」
「宮に請求するんですか?」
「うん。イギリスに送金してた分をこっちに回してもらう。親父曰く、ユル君が帰国した時点で送金ストップするって、ソンジョおじ様、恵政宮さまに言い渡してたらしいよ。コン内官さんも聞いてた筈だから、もう手続きしてるんじゃないの?だから近いうちに母親から連絡あるかもね」
「・・・はい」
「それとチョン議員は、親父がまず接触する。それまでこちらから連絡するの待って。念のため言っとくけど、現役政治家を後見人とか止めてね。政治的に利用される可能性あるからね」
「ハァ・・・頭の回転が早いと言うか、一晩でよくそんなに色々な事を考えつきましたね」
「そう?俺たち、小さい頃から用心しながらの生活だからね。あらゆる角度から想定して非常時に備える、このぐらい当たり前だけど?ジュンピョやウビンは、今も厳戒態勢で警護されてるよ」
「「????」」
(おいおい、この国ってそんなに物騒だっけ?俺が平和ボケしてるだけなのか?)
「クスクス、大財閥や大物政治家の子どもって、誘拐の対象になりやすいんだよね。流石に誘拐犯も皇族には手を出そうと思わないでしょ。特にジュンピョやウビンの家は、企業の買収や取引停止で恨みを買うことも日常茶飯事だしね。用心に越したことはないって話。ほとんどの人がセレブって憧れるけど、当事者たちは結構命がけだったりするわけ」
「ハァ、知りませんでした」
「当たり前。そんなの自慢にもならないし・・・だから殿下の友人3人も送迎付きでしょ?」
「そう言えばそうですね。じゃあ、チェギョンとガンヒョンも送迎付きですか?」
「ん~、基本的には、SP付けてバスか自転車」
「「へ?」」
「どちらも親の方針。俺らにはない普通の感覚?を持ってて欲しいってさ。イ家もシン家も結構慎ましい生活してるよ。但し、チェギョンは、状況による。宮に参内した翌日から、強制的に送迎付き。念のためね」
「あっ、進路!」
「うん。どうすんだろうね?美大ではないと思うんだけどね」
「・・・ジフさん、このままチェギョン、宮に連れ帰ってもいいですか?」
「はぁ?」
「一度も2人で話した事がないんです。帰りは送って行きますので、連れ帰らせてください」
「あのさぁ、シン・チェウォン抜きでチェギョン、見ることできる?」
「あの言っている意味が・・・」
「俺たちは、例え貧乏でも、チェギョン自身を見てくれ大事にしてくれる人に託したいと思ってる。特に親父は、宮の大変さを知ってるから、できる事なら断わりたいと思うよ」
「じゃ、どうして・・・」
「チェギョンがずっとチン君を想ってたから・・・それが一番だと思うよ。色々あるだろうけどね。だから親父やスアム、ソンヒョンとか関係なしで、チェギョンだけ見るって誓える?」
「俺・・・スアムやソンヒョンの後ろ盾をチェギョンに望んでいないです。政略結婚する訳じゃないし・・・それに俺、アジョシの娘と知らない1年前から、ずっとチェギョンを見てましたから。どうやったら話せるだろうって悩みもしてたんですからね」
「ハァ・・・俺、アジョシに怒られるかも・・・」
「じゃあ・・・」
「絶対10時までには帰してよ。寝ちゃうからね」
「はい!今すぐ、裏門に翊衛士を呼びます」
シンは、即行翊衛士に公用車を裏門に着けるよう指示すると、チェギョンを抱き上げ、宮に戻ってしまった。
唖然としているユルに ジフはクスクス笑った。
「チェギョンの死んだ爺さんの話だけど、昔も殿下がチェギョンにベッタリだったみたいだよ。『僕の可愛いチェギョンちゃん、ずっと一緒だよ』ってのが、口癖だったらしい。忘れてたけど、その想いが蘇ったのかもね」
「へぇ~、そんな事があったんですね」
「・・・ねぇ、父親の手紙読んで、どうだった?」
「えっ!?」
「俺の両親も5歳の時、事故死だったから。手紙貰って羨ましい半面、何か予感してたみたいで複雑な気分でさ。本人はどうなんだろうって。ゴメン、ちょっとした好奇心」
「・・・ビンゴです。予感していて手紙を残しておくとありました。正直、厳しい現実を見せられた気分ですね」
「さっき聞いたけどさ、本当に母親を切っていいの?」
「仕方ないと思います。父の手紙に 母は国母の器じゃなかった。絶対に宮と関わらせるなと書かれていました。父の判断は正しいと思います」
「そっか・・・」
「あの、これを」
出された紙を広げると、数名の名前が書かれていた。
「・・・恵政宮さまの協力者だね?」
「はい」
「全員、リストに載ってる人だね。でも絞れたから時間短縮できる。サンキュ」
「こちらこそ 宜しくお願いします」
ユルの辛い心情を思うと、ジフも気の利いた言葉は出てこず、肩に手を置いただけだった。