翌朝、シンは、陛下たちにペク王族の思惑とスアム側の考えを報告し、学校へ行くため正殿を後にした。
「クスクス、やはり愚かよのぉ。ヒョン、阿呆な王族は要らぬと思わぬか?」
「要りませんね。放置すれば、宮に傷が付くことになりましょう。しかし未遂では、苦しい言い訳を言い続けるでしょう。太子には悪いが、マスコミの前で失態を犯してから処分する事にしましょう」
「陛下、太子は大丈夫でしょうか?」
「今の太子なら、大丈夫だろう。くだらん娘に現をぬかせば、間違いなくチェギョンは逃げて行くぞ。私達の息子は、そこまで愚かではない。ミン、安心していなさい」
「はい、陛下」
「クスクス、昨日、シンは寝ているチェギョンを連れ帰ってきたようじゃ。陛下の息子とは思えぬ積極さよのぉ。息子の爪の垢でも飲んだらどうじゃ?」
「///母上!!」
問題は何一つ解決していないのに 何処までも呑気な皇太后と皇太后に振り回されている陛下だった。
学校に登校したシンは、いつもの部屋にユルを呼び出した。
シンは、自分が帰ってからユルがどうなったのか自分なりに心配していたのだ。
「クスクス、心配って、今更?う~ん、多分 大丈夫」
「多分?」
「改めて理事長がセレブな人って実感したよ。マンションに着くと、理事長の秘書の方が待ってて、全部手続きしてくれたんだ。部屋に入って、またビックリでさ。間取り的には3LDKなんだけど、あり得ないぐらい広いリビングなんだよね。真中にグランドピアノがドンと置かれてるのに全然余裕でソファーセットが置けるスペースあるし・・・」
「・・・セカンドハウスって言ってたよな?」
「他の人はね。秘書さんに聞いたけど、ジフさんとチェギョンの音楽室兼家庭教師との勉強部屋らしい。で、家具らしいものがキングサイズのベッドと机しか無くてさ、秘書さんに高級家具のカタログ見せられて選びましょうだって。思わずお任せしますって言っちゃったよ。今日、帰るのがちょっと怖いんだけど・・・」
「・・・凄すぎて想像できない」
『あんた達、またサボってんの?ホントいい加減にしないと、留年させるよ』
「ジフさん、おはようございます」
「はよ。ユル君、部屋どう?狭くない?」
「とんでもない!広すぎて、却って落ち着かないぐらいです」
「そう?あそこ、2階が社員食堂になってるの聞いた?ウビンに頼んで、利用できるようにしたから。利用時間は、朝の6時から夜0時まで。で、3階がトレーニングルーム。こっちも使用可だから。よくチェジュンが使ってるから会うかもね」
「ありがとうございます」
「ねぇ、俺もシン君て呼んでいい?ユル君て呼んでるのに殿下じゃ居心地悪いでしょ?」
「はい、その方が俺も嬉しいです」
「クス、昨日の話、チェギョンに聞いたよ」
「///えっ!?」
「ホント、チャレンジャーだよね。何であんな天然ボケボケ娘が良いのやら・・・」
「そこが一番の魅力なんですけどね。何より俺を一高校生として見てくれるのが良いです」
「たったそんなこと?アイツ、誰の孫だと思ってんの?ソンジョおじ様の膝の上で遊び、歴代の元大統領たちに可愛がってもらって育った子だよ!?今更、皇族で緊張もないでしょ」
思わず、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「それにあの親父、爺さんが大統領の頃、青瓦台の桜の下で酒盛りをした強者だしね」
「「はぁ?」」
「アポなしでやって来て、門前の警備員に酒瓶を見せて、親父の名前を出して『遊びにきました』って言ったらしいよ」
「「プクククッ・・・・」」
「そんな親父の娘だし、度胸は据わってて当然だと思うよ。ああ、そうだ。宮と調整した。公務、昼の公演に変更。世間知らずのおバカな令嬢ならドレスで登場するんじゃない?」
「まさか・・・」
「たまに財界のパーティーでも場違いな王族企業の奥方や令嬢がいるんだよね。周りの失笑も気づかないおめでたい人たち・・・クスクス」
「皇族として、恥ずかしいです」
「うん。でもそういう輩を排除するか、指導していく立場だからね。頑張って」
「はい、頑張ります」
「あと、ユル君の方ね、企業家の方は圧力を掛けてもらった。手を引かないと潰すってね。政治家は俺と爺さんが、近日中に話しするから」
「ありがとうございます」
「この前にジャーナリストの事、言ってましたよね?どうなりました?」
「ウビンがジュンピョに言ってた人?ジュンピョ、裏からコッソリできるタイプじゃないから、即南米の特派員に抜擢して飛ばしたみたい。きっと一生、戻ってこれないよね。クスクス」
あまりにも豪快な対処方法に 思わず目を見開いてしまった。
(この人たちを敵に回したら恐ろしい事になるぞ。間違いなく宮は潰れるな・・・)
シン達4人は、チェウォンの講義以降、徐々に気楽に話ができるクラスメートが増えてきた。
特にギョンは、美術科に友達がいるクラスメートを拝み倒して、美術科の生徒を紹介してもらうまでになっていた。
「シ~ン、頼む!」
「イヤだ」
「まだ何も言ってないだろうが!ガンヒョンさんの友達にシンの隠れファンがいるんだ」
「隠れファンって・・・プププ」
「ファン、黙ってろって!その友達にシンを会わせるって約束しちまって・・・頼む、一緒に美術科に行ってくれ」
「シン、ガンヒョンの友達なら、チェギョンとも友達の筈だ。校内で堂々と話せる切欠になるじゃね?」
「だよね。ギョンと二人で不安なら、僕たちも一緒に行くよ」
「・・・そうだな。色んな人と話さないと、芸校に来た意味ないもんな。ギョン、いつでもいいぞ」
「やった!実は、2時間目終了後に映像科と美術科の間の渡り廊下で待ち合わせしてるんだ」
「もう決定事項かよ。ギョン、シンが嫌がったらどうする気なんだ?」
「へ?それは、チェギョンに頼むつもりだった」
「はぁ?ギョン、お前、チェギョンと仲良く話す間柄なのか?」
「おう、ガンヒョンさん以外は、みんなフレンドリーな連中だぜ」
「ギョン・・・そう言う事は報告しないと・・・ほら、シンが機嫌を損ねちゃったじゃん。僕、知らないよ」
「へ?俺、何か悪いことした?」
「シン、ギョンはガンヒョンさん以外眼中にないから仕方がない。無害だと思って諦めろ!」
2時間目終了後、ギョンに腕を引っ張られ、渡り廊下に行くと、向こうからチェギョンを含むグループがやってきた。
「スニョン、ヒスン、こっち、こっち♪」
「ギョン君!ホントに殿下だ。約束通り、ガンヒョン連れてきたわよ」
「サンキュ。ガンヒョンさん、今日、昼休み、中庭で一緒に過ごしていいですか?」
「クスクス、ガンヒョン、過ごしてあげなさいよ。殿下、ユン・ヒスンです」
「私は、キム・スニョンです。実は、二人とも家族全員、皇族の皆さんのファンなんです」
「あ、ありがとう」
「クスクス、シン君、握手してあげてくれない?そうしたら、ヒスンとスニョン、ギョン君の味方になるみたいよ」
「チェギョン!あんたは黙ってなさい!!」
「チェギョンが言うなら・・・はい」
シンが、右手を出すと、緊張しながらもヒスンとスニョンは手を握った。
「あ、あの、殿下とチェギョンって、お知り合いなんですか?」
「ああ、ちょっとね。チェギョン、ガンヒョンが中庭で過ごすなら、お前はどうすんだ?」
「どっちでもいいよ♪」
「チェギョン、裏切ったらもう数学教えないわよ」
「げっ、中庭に行く」
「クククッ、じゃ、俺も中庭に行こう。一緒にユルも連れてこいよ」
「うん、分かった。ヒスン、スニョン、学校では皇太子じゃなく、イ・シン君だから。キャーキャー言わないであげてね」
「「は~い」チェギョン、あとから殿下との関係、教えなさいよ」
「え~~~!!」
今日の昼休み、シンの中庭デビューが決まった。