シンの叫び声でシンの寝室に飛び込んだ職員たちは、シンが中年男性と床を一緒にしている姿に唖然と立ち尽くしてしまった。
その中で、唯一事態を把握できたコン内官は、職員たちを大丈夫だからと安心させ、全員下がらせた。
「ウォン・・・もっと普通の現れ方はできないのか?頼むから、正面から参内してくれ」
「コンちゃん、俺、正規に参内したことないし・・・それに面倒じゃん」
「・・・・・」
「坊主、俺に構わず早く着替えて、正殿に行け!コンちゃん、チョンちゃんに俺が来てること言っておいて」
「プッ、アジョシ、俺が言っておくよ」
「サンキュ。坊主が戻るまで、もう少し寝させて。久しぶりの徹夜はキツイ・・・」
「ウォン、寝る前に何か言う事があるだろ!?」
「コンちゃん、うるさい・・・とりあえず寝かせろ!」
チェウォンが布団を被って寝てしまったので、シンとコン内官は諦めて正殿に向かった。
遅刻した非礼を詫び、東宮殿でチェウォンが寝ている事を告げると、皇太后と最高尚宮が笑った。
「ホホホ・・・懐かしいのぉ。目覚めたら、シンのベッドに潜り込んでおったのだろ?」
「皇太后さま、なぜそれを・・・?」
「昔、私のベッドに潜り込んで、あの人にいつも怒られておったわ。おそらく夜通し情報を集めておったのじゃろう。もう少し寝かせておやり」
「はい、皇太后さま」
「太子、王族会議は10時からだ。それまでにウォンを起こして、連れてきてくれ」
「はい、陛下」
シンが東宮殿に戻ると、チェウォンはすでにソファーに座り、ボーッとしていた。
「アジョシ、もう起きたの?」
「ああ・・・すまん。濃い目のコーヒーを頼む。眠気で頭が起きてこない」
「コン内官、頼む」
「かしこまりました。殿下、朝食をお取りください。ウォン、お前も食堂に移動しろ」
「無理・・・眠い・・・坊主、俺の目の前にパソコンとここのプリンター繋げて。コンちゃん、飯なんか一食抜いても死なねぇから。それより昨日、爺さんの遺言を無視したバカを全員教えろ!それからコーヒー早く!」
「コン内官、アジョシの言うとおりに」
「かしこまりました」
チェウォンがコーヒーを飲んで目を覚ましている間に シンはチェウォンの持ってきたノートパソコンとプリンターを繋げ、コン内官は反対した王族をリストアップしてチェウォンに渡した。
目が覚めたチェウォンは、持参したアタッシュケースから大量にUSBが入ったボックスを取り出した。
「アジョシ、その大量のUSBは何だ?」
「俺の仕事道具。坊主、こっからリストアップされた王族の名前の入ったUSBを探せ」
「えっ!?」
「その中に俺が調べた王族たちの全てが入ってる。今日の王族会議に有効的に使え。但し、潰さない程度にな」
「何でさ?アジョシは、会議に出るんだろ?」
「出ねぇよ。今は裏の人間だし、俺が出てキレたらどうすんだ?間違いなく、王族会は潰れるぞ。こういう情報は、小出しにして取引するか宮に服従する程度の圧をかけるぐらいで良いんだ」
シンはチェウォンが言っている意味が分からなかったが、プリントアウトされた報告書を見て愕然とした。
「・・・分かったか?少し情報開示して改心すれば儲けものだし、もしダメなら坊主が皇帝になった時に切ればいい。全てオープンにして潰せば、恨まれるだけだ。国父たるもの寛大な心を持つ必要があるからな」
「・・・うん」
「まぁ、まだ難しいか?これが皇帝学であり、政治っつうもんだ。って、坊主、まだ帝王学習ってねぇの?コンちゃん、一体誰が坊主に皇帝学の講義してんだ?」
「それが・・・適任者が見つからなくて・・・」
「はぁ~?!コンちゃん、ボケたのか?そういう事は早く言えって!一番、大事だろうが!!」
「ウォン、お前が一番適任なんだが、してくれないか?」
「・・・俺、時間ねぇって!!でもちょっと考えるから、この事は保留させて」
「分かった」
「坊主もコンちゃんも とりあえずこの後の王族会議に集中しろ」
午前10時前、シンはコン内官を伴って、王族会議が行われる部屋に向かった。
会議室前で陛下が来るのを待ち、陛下と共に室内に入ると、最長老をはじめとする王族たちが一斉に立ち上がり頭を下げた。
陛下の合図で、全員が着席すると、陛下が口を開いた。
「昨日、今日と突然の王族会議、大義である。昨日の会議の話を聞いた。先帝の遺言に異議を唱える理由は何だ?異議を申し立てた者は、全員立ってもらおうか」
≪・・・・・≫
「最長老、誰が異議を唱えたのだ?」
「陛下、コン内官から誰が唱えたか聞いております。私からその者たちに質問してもよろしいでしょうか?」
「許そう。今から太子が、そなたらに聞きたいことがあるそうだ。率直に答えよ」
「申し訳ないが、若輩者の為、名前と顔が一致していない。だから名前を呼んだら、立ってもらいたい」
シンはそう断わって、10数名の名前を読み上げた。
「まずチャ氏、私がまだ若いという理由で貴方が一番に異議を唱えたとか・・・そうだな?」
「は、はい。恐れながら、殿下はもう少し交流の場を持たれ、色々な女性と知り合ってから決められても良いのではないかと思います」
「色々な女性?それは、そなた達のような王族の女性と言う事か?」
「先帝には申し訳ありませんが、遺言の女性は一般女性です。教養や品格が、我らとは違います」
「・・・教養と品格と申したな?では、聞こう。なぜ、そなた達の孫や娘が芸術高校の教育実習に応募して、選考試験を受けたのだ?教育学部でもないのにだ」
「えっ!?」
「選考試験は高2の我らも一緒に受け、満点が取れるぐらいのものだった。ここに試験結果がある。赤っ恥だと思うが公表しようか?それに教育実習の選考試験と面接だというのに 派手な服装と化粧で香水を付けてくるのが、チャ氏のいう品格なのか?」
≪・・・・・≫
「最長老、王族の品格は我ら皇族には理解ができぬもののようだ。まさかこのような者たちを私に推薦してくるつもりではないだろうな?」
最長老に話しかけると、シンはコン内官に試験結果が書かれた紙を最長老に持って行かせた。
最長老は、その結果を目にして、怒りでワナワナと震えだした。
「殿下、申し訳ありません。私の名にかけて、絶対にさせません」
「なら、いい。それからキム氏、私の許嫁は確かにそなたらが言う庶民だ。だが、そなたの娘よりは堂々と公言できるぞ」
「殿下、それはどういう事でございますか?」
「キム氏の娘は本妻の実子になっているが、DNA鑑定をした方がよさそうだ。本妻は、娘が生まれる以前から入院しており、ソウルには一度も戻ってきていない。今は春川で療養中らしいぞ」
≪!!!≫
「殿下、真でございますか?では、パーティーで同伴しておる女性は・・・」
「元家政婦で娘の母親だな。キム氏の妻は資産家の令嬢で、離婚する訳にはいかないようだ。だろ?キム氏・・・」
言い当てられたキム氏は、顔色を真っ青にして俯くしかなかった。
「ここにそなた達の行状を記した物がある。この行いが王族の品格・特権などとふざけた事を言ったり、開き直るなら、私にも考えがある。後ろ暗いことがある者は、覚悟しておけ。で、話を戻すが、私にどんな女性を紹介してくれるんだ?」
≪・・・・・≫
「最長老、婚姻したい女性がいると公言したのに まさか小・中学生の子を紹介してくれるとかじゃないよな?」
「私は、最初から異議はありませんので分かりかねます。今、立っておる者たち、殿下に相応しい女性はどこの王族の娘なんだ?まさか先程蔑んだ一般の女性ではないだろうな?」
≪・・・・・≫
「これ、黙ったままでは会議が進まぬ。何か申せ!」
「最長老、もう良い。法度も理解しておらぬ阿呆は王族会には要らぬ。今、立っておる者は、王族会から除名する」
≪えっ!?≫
「何を驚く?皇帝の言葉は絶対。ましてや先帝陛下の遺言に異議を唱えるなど言語道断。王族とは思えぬわ。最長老、手続きを取ってくれ。太子、お前が持っている奴らの悪行を宮内警察に届けよ」
「「御意」かしこまりました」
普段温厚でポーカーフェイスを崩さない陛下が激怒している事を 今にして王族たちはやっと気付いた。
「お前達が皇族の婚姻に異議を申し立てるなら、今後我々もお前たちの家族の結婚に口を出すことにする。そうだな・・・王族同士の婚姻は無効、即離婚とかどうだ?そして今後、政略結婚・見合いは禁止にしようか?クククッ・・・」
「陛下、申し訳ありません。昨日の決議案は取り下げます。どうかお怒りを鎮めてください。殿下も御不快な想いをさせてしまい大変申し訳ありませんでした」
最長老を始め全員が立ち上がり、陛下とシンに頭を下げて謝罪したのだった。
「最長老、怒ってはおらぬ。王族の立場・役割をしっかり把握してくれれば、我らは何も言わぬ。王族は、そなたらの子どもや子孫まで全員が、国民の模範になるようでないとならぬ。国民を見下すような阿呆は、毒にしかならん。考えが改められぬ者は、王族らしく法度に則って罰してやろう。クククッ・・・どんな罰か分からぬ者は、帰って法度を調べよ」
「クスッ、先帝が作られた最新の法度が守られていないとは情けない。最長老、私の婚姻は承認されたと思ってよいな?」
「勿論でございます。殿下、御婚約おめでとうございます」
≪おめでとうございます≫
「礼を言う。婚姻に関しては、私の18歳の誕生日で調整に入るつもりだ。皆もそのつもりでいてほしい」
≪は、はぁー≫
「クククッ、太子、おめでとう。正殿に戻ろうか」
「はい、陛下」
シンと陛下が会議室を出ていくと、翊衛士がシンが名指しした王族たちを拘束して連れ出していった。
最長老は、立場上難しい顔をしていたが、内心ではお腹を抱えて笑っていた。
(クククッ、間違いなく裏にウォンがおるな。これからの宮は、あやつがおる限り盤石じゃろう・・・)