先にチェギョンの部屋に戻ったシンとヒスンは、本棚を漁ることにした。
シンにとっては、宝の山のような本ばかりで時間を忘れて読み耽るのだった。
しばらくすると、ジテとチェギョンが時間差で戻ってきた。
「ただいま~。遅くなってゴメンね」
「ううん。チェギョン、忙しそうね」
「うん、オジジとちょっと話してきた。ヒスンの今後とか・・・」
「私の?」
「うん。アジョシから電話があって、警視総監自ら記者会見して国民の前で謝罪したらしいの。で、それに合せて、宮も最長老さまが会見をしたって。今、世間ではヒスンのコメントが欲しくて、施設にマスコミが押し寄せてるって・・・」
「えっ!?」
「ヒスン・・・大邱では、色々な意味でもう静かに暮らせないかもしれない。それとこの問題をこれ以上ヒスンの為にも宮の為にも引っぱりたくはない。それでもご両親と一緒に暮らした街を離れたくないと思うなら、私たちはヒスンを守る。でもできれば、ヒスンの事を誰も知らない街で生活してほしい」
「チェギョン・・・」
「よく考えてみて」
「チェギョン、もし生活を変えるならどこで暮らしたらいいの?」
「うん・・・私たちが考えてるのは、春川の養鶏所の施設。同い年の女の子がいてヒスンと気が合うと思うんだ」
「じゃ、今度は鶏の世話をするってこと?」
「うん、そうなるね。あとおじ様がテグム(大笛)の名手だから、伝統楽器の練習は結構ハードかも・・・近いうちにおじ様たちがここに集結してくるから、色々なおじ様たちと話してその中から選んでくれてもいい。正直、中学生のヒスンには難しい話だと思う。でも考えてくれるかなぁ?」
「チェギョンさん、ヒスンさんの選択の中にソウルの我が家も入れてもらえないか?」
「「えっ!?」」
「ヒスンさん、他の王族のような派手な生活はさせてあげられない。だが、皇后の実家ということでセキュリティーだけはしっかりしている。マスコミから逃げるために引っ越すなら、うちは最適だと思う。まさか王族が匿っているとは思わないだろうしね。どうか、選択の一つに入れてほしい」
「あの・・・どうして私にそこまで・・・」
「言葉は悪いが、乗りかかった船だ。何より心を痛めている妹が安心してくれるのが一番かな。それに私には息子がいるんだが、無口でね。だから君が来てくれたら家が明るくなるような気がしてね」
「おじ様・・・チェギョン、おじ様、私に少しだけ考える時間をください」
話が一段落した時、廊下からアジュマの声が聞こえ、隣室に布団を敷き出て行った。
が、アジュマが立ち去った気配がしなかった。
「・・・チェギョン、ひょっとしてアジュマ達は廊下で殿居をするのか?」
「あ、うん。落ち着かないよね・・・ちょっと着替えに戻っただけだしすぐに出ていくね。私がいなければアジュマ達もいなくなるから、シン君たちは気にせず寝て」
「バカ。何のために俺が来たと思ってんだよ。ちょっと待ってろ」
シンはそう言うと、廊下のアジュマ達に『大丈夫だから、安心して部屋に戻ってほしい』と伝えに行った。
当惑するアジュマ達。仕方なくチェギョンが廊下に出てきた。
「アジュマ、明日も準備がある筈です。私がいる限り、ここを離れられないなら、今からソウルに戻るしかありません」
『姫さま・・・』
「どうか部屋に戻ってください」
アジュマ達が渋々戻っていくと、シンはフゥ~と息を吐いた。
「さぁ、チェギョン、着替えて寝ようぜ」
「えっ!?」
「言っただろ?俺がいるから、大丈夫だ。一緒に寝よう」
不思議そうなヒスンとジテを見て、シンは苦笑いしながら『何でもない』という風に首を横に振った。
アジュマ達が置いていった寝巻に着替えたシンとジテは、布団が敷いてある隣室へと入っていった。
シンは気にすることなく、チェギョンの手を取ると一緒の布団に入り寝転んだ。
「シ、シン!!お前たちは一体・・・」
「伯父上、俺たちの事は気にしないで、ゆっくり休んでください。ほらチェギョン、お前も朝から疲れたろ。手繋いでやるから、早く寝ろ」
「うん、正直クタクタかも・・・おやすみ」
チェギョンは目を瞑ると、すぐに寝息を立てだした。
そんなチェギョンにつられるようにシン達も早々に眠りについたのだった。
しかし夜中にチェギョンの魘される声で、ジテとヒスンは目が覚め、飛び起きた。
チェギョンを心配そうに見ると、シンがギュッと抱きしめて背中をトントンとあやしていた。
「シン・・・チェギョンさんは、いつもこうなのか?」
「みたいです。何度も命を狙われていると聞きましたから・・・きっと寝込みを襲われて、首を絞められたんだと思います」
「「!!!」」
「今のところ、俺とユン・ジフのどちらかが添い寝すれば熟睡できるみたいです」
「ユン・ジフって・・・昨日、会議に出ていた・・・」
「ええ。だから、俺がしばらく付いていてやろうかと・・・宮は、チェギョンに大きな借りがありますからね」
「・・・分かった。チェギョンさんも落ち着いたみたいだし、お前も寝なさい」
「はい。おやすみなさい」
シンとヒスンの寝息が聞こえて来てもジテは眠る事ができなかった。
(何度もって・・・ファヨン妃だけではなかったということか。シン宗家の当主とは、そんなに危険な立場ということなのか?大体、宗家は王族会の長老職を兼任しているはずだが、シン宗家は入っていない。今まで噂でしか聞いたことがない幻の宗家。そのシン宗家が表舞台に出てきた。これは、何を意味するんだろう?)