夕方、チェギョンは、ヒスンを里に残し、シンとジテと一緒にヘリでソウルに戻ってきた。
ヘリが降り立ったのは、滑走路もある広大な敷地内で、少し離れたところに大きな邸宅も見えた。
ウビンとハギュン、そしてシンが見知らぬ男性の3人が、チェギョン達を出迎えた。
「おかえり。待ってたぞ」
「アジョシ、今週は週末まで何の予定もなかった筈だけど?」
「まだ後始末が残ってるだろ!?」
「ハァ?もう私の手を離れたんじゃないの?ハギュンアジョシ、アジョシもそう思ってたでしょうが・・・」
「・・・俺の意志じゃない。爺さんたちだ」
「ハァ?それこそ意味が分からないんだけど?」
「ここで立ち話もなんだから、とりあえず一室を借りた。部屋で話をしよう」
チェギョン達は、邸宅に向かう道を歩きながら話だし、シンとジテはその後ろを付いていく形になった。
(ここは、ソウルなのか?一体、どこなんだ?)
「ウビンさん、ここは誰かの私有地なんですか?」
「ん?ここか?ここは、俺のダチでもある神話グループの邸宅だ」
「「えっ!?」」
「クククッ・・・昔、親から理不尽な婚約を迫られて窮地に陥ってたのを小学生だったチェギョンが助けたんだ。それ以来、神話の会長は勿論、俺のダチもチェギョンには頭が上がらないし、ここも顔パスみたいだな」
「顔パスって・・・」
「おそらくチェギョンが行けない場所はないと思うぞ。アイツは青瓦台も平気で遊びに行くからな」
「あっ、この間のSP・・・君、確か、大統領警護官だと言ってたね」
「ええ、宮にイルシムの若い衆を入れる訳にはいかないでしょ。だから、ジフの祖父さんが青瓦台に依頼したんですよ。ところでユ教授、シン宗家の里はいかがでしたか?スゴイ田舎なんでしょ?」
「素晴らしいの一言だった。できれば、ずっと居たいぐらいだったよ」
「実は、俺は一度も行ったことがないんですよ。この週末、先代の祭祀だそうです。同行できればと思ってるんですけどね。宮の祭祀がどんなのか知らないですけど、シン宗家のは時代絵巻の様でそれは圧巻らしいですよ」
「えっ、じゃ、呼び戻されなければ、私も参列できてたのか?ん~、すごく残念だ」
「クスクス、ユ教授、宮が存続できるか問題になっているのに呑気すぎませんか?」
「クスッ、正直、私にとって宮は妹の嫁ぎ先という感覚でしかない。ただ妹に迷惑を掛けないようにと自制はしてるがね」
「流石、皇后さまのお兄さんだけある。チェギョンが気に入るわけだ」
ウビンに案内され、邸宅の一室に足を踏み込むと、チェギョンは分厚い報告書に目を通していた。
シンとジテは少し離れたソファーに座り、チェギョン達を見ていた。
「ハァ、やっぱりここじゃ解決できそうにないわね」
「当たり前だ。爺さんたちが参内しろと仰せだからな」
「その前に・・・シン君、皇位を継ぐ気、ある?」
「えっ!?」
「出会ってからずっとシン君から感じてたことは、宮から逃げ出したい。自由がほしいだったわ。シン君が継ぐのが嫌なら、望みを叶えてあげる。どうしたい?」
「俺は・・・」
「チェギョン、皇太子といえどもまだ中学生だ。そんな選択をさせるなんて酷すぎるだろ。それに話が飛びすぎだ。せめて分かるように説明してやれよ」
「説明は、弁護士のドンヒョクアジョシの方が得意でしょ。任せるわ」
「お前というヤツは・・・殿下、国民は以前から傲慢な王族に対して嫌悪感を持ち、その所為で宮にも不信感を持っていました。今回の不祥事を全て公表すると、国民は宮の廃止を訴えるでしょう。ハッキリと言えば、国の上層部ではすでに宮が崩壊後の青写真もできています」
「「!!!」」
「ですが、チェギョンは殿下の意志を尊重するべきだと言っています。申し訳ないが、我々は、現陛下は殿下が成人するまでの中継ぎと考えています。殿下が宮をお継ぎする意思がないなら、このまま何もせず傍観しようと思います」
「殿下、一つだけ言っておきます。宮が崩壊したとしても貴方には元皇太子という肩書が残り、今と変わらない不自由な生活のままでしょうね」
「ハギュンアジョシ、言い過ぎだよ。でもシン君、アジョシの言う事はあながち間違ってないかも。。。伝統を守る為に行事の遂行は義務付けされるし、名前が知られている分、安全確保のために私より行動範囲は狭いだろうね」
「・・・チェギョン、一つ聞いていいか?投げ出したくなることはないのか?」
「あるよ。でも投げ出したら、きっと一生後悔すると思うんだよね。だから生きている間は、一生懸命生きるつもりだよ。残りの人生、どれくらいあるか分からないけれど、頑張って、残していく人たちに今より良い環境を作ってあげたいと思ってる」
「「「チェギョン・・・」」」
「あ~、もう私の話は終わり。で、シン君、どうしたい?」
「正直、皇太子になって良かったことは一度もない。譲れるものなら譲りたいぐらいだ。でも理不尽な理由で、今の立場を剥奪されたくはない。それにチェギョンの言うように逃げて、後で後悔はしたくない。皆が俺にできると言うなら、精進していきたい」
「分かった。ハギュンアジョシ、宮の侍従長さんに連絡できる?」
「退官して、どれだけ経ったと思ってるんだ?俺が知ってるのは、宮内の総務部の電話番号だけだ」
「私が、妹に掛けましょうか?ミンから、侍従長に代わらせましょう」
「ん~・・・ジテおじ様、やっぱり止めておきます。こういう事は、第三者の方が冷静に対処できると思います。ドンヒョクアジョシ、アジョシが信頼できる公認会計士や税理士を宮に集めて、徹底的に調べて」
「おい、勝手にそんな事していいのか?」
「市民オブズマンとして、宮を徹底調査する!そう公表すれば、国民は納得する。あと不祥事を起こした王族たちに対して、国民を代表して訴訟を起こす。血税を貰っておきながら、悪行を働いていたんだから当然でしょ」
「おい、訴訟を起こしてもアイツらに賠償金を払う能力はないと思うぜ」
「家屋敷を売ってもらうわよ。どうせソウルにいられないでしょうし、下手に財産があればまた欲を出すかもしれないでしょ。一石二鳥よ」
「チェギョン、鬼だな。分かった、すぐに宮に集結するよう手配しよう。これから、宮に行くのか?」
「行きたくないけど、仕方がないでしょ。シン君、お待たせ。送っていくわ」
シンは呆気にとられながらも頷くと、ジテと共に席を立った。
チェギョンを先頭にドンヒョクとハギュンが電話を掛けながら歩く後ろを シンとジテはウビンと共に玄関に向かった。
「殿下、アンタの選択は間違いじゃないが、相当、覚悟がいるぞ。今から気を引き締めることだな」
「はい」
シンは、自分の下した選択は安易だったんじゃないかと急に不安になってきた。
(チェギョンからすれば、こんな不祥事ばかりの宮は最低なんだろうな。チェギョンは、一体、宮をどう改革していくんだろう?)