怒涛の3日間が過ぎ去り、チェギョンは扶余の里に一時里帰りしていった。
たった3日間なのに チェギョンがいた存在感は、宮全体にすごい影響を与えていた。
特に職員の上に立つ長の付く役職の者は、考えさせられることが多かった。
その中でも多大な影響が受けたのは、長の付く職員ではないがキム内官とシンだった。
特にチェギョンの付き人をしているキム内官は、チェギョンから言われた雑用に追われ、東宮殿のシンの私室であくせくしていた。
「クスクス、チェギョンにまた無理難題を吹きかけられたのか?」
「はい。侍従の視点から見た宮の問題点や改善すべき点を10個以上挙げろと課題を言われまして、はぁ・・・それより僕がいたら、落ち着きませんよね。申し訳ありません」
「いいよ。今、侍従職を離れてるから、執務室や侍従の控室を使うわけにいかないんだろ?」
「ありがとうございます。実は、この課題、料理長や翊衛士長にも出していかれたので、今頃お2人も悩んでると思いますよ」
「クククッ、どんな風に改善されるのか楽しみにしていよう」
「殿下~~(泣)」
キム内官と机を並べて、シンも勉強をしようとしていると、突然部屋のドアが開いた。
「シン、ただいま~!今まで一人にしちゃってゴメンナサイね」
「ヌナ!!」
「公主さま、おかえりなさいませ」
「ただいま。えっと・・・シンの侍従って、コン内官じゃなかったっけ?異動になったの?」
「いや、コン内官は、今、広報部と一緒に陛下の公務日程について打ち合わせしてる。全国を回るらしい。彼は、本当は陛下付きの侍従でキム内官。シン元内官の代わりにチェギョンの付き人をしてるんだ」
「えっ、チェギョンの?」
「ヌナ、チェギョンの事知ってるの?」
「イギリスでそのシン・ハギュンさんに説教されて、帰国したの。彼からチェギョンの話を聞いたわ。でも信じられなくて・・・チェギョンって子、そんなに凄い子なの?」
「どんな話を聞いたか知らないけれど、話してると普通の子だよ。でも統率力や人心掌握力はスゴイ。人脈も想像を絶するし・・・キム内官、そうだろ?」
「へ?あ、はい。姫さまの携帯のメモリー登録を仰せつかったのですが、プライベート用の携帯のメモリーは正直指が震えました」
「えっ・・・」
「大統領を始めとする大物代議士に大企業の会長から御曹司、それに大物俳優や有名映画監督、幅広いジャンルの知り合いがおられるようです。アドレス帳には、普通に青瓦台とかありましたし・・・」
「昨日だっけ?チェギョンのお供で、青瓦台に行ったんだろ?」
「はい、大統領とも直接お会いし、私室の方でご家族と食事もご一緒してきました。僕、あんな緊張する食事は初めてでした」
「・・・凄すぎ」
「クスクス、自宅もユン元大統領の敷地内だし、そこでイルシムの会長と会って、話させてもらった。話してみたら、ホント普通のお爺さんだったよ」
「げっ、シンも知り合いなんだ」
「さっき連絡があったから、もうすぐその会長の孫が来るよ。ヌナ、紹介するね」
「・・・・・」
「ヌナ、どうかした?」
「ううん、何かシンが明るくなったなって・・・」
「そうか?でもそう感じるなら、チェギョンの影響かも・・・本当に一緒にいると、勉強になる」
「勉強って・・・彼女、学校に通ってないんでしょ?それでもできるの?」
「正直、俺は付いていくのに必死。大体、講義が普通じゃない。数学の教科書を開きながら、説明はフランス語なんだぜ。俺がフランス語をマスターしたら、語学をイタリアかドイツ語に変えるってさ。ヌナも一緒に勉強するか?」
「げっ、無理・・・」
「でも3年頑張ったらソウル大も夢じゃないってさ。俺も3年は無理だから、ソウル大はやっぱり無理だね・・・クスクス」
「ふぅ、あの子がそんな凄い子だったなんて・・・」
「クスクス、あの子って・・・ヌナ、チェギョンに会った事ないじゃない」
「・・・シン、覚えてないの?貴方が皇太孫になってすぐぐらいに 偶に女の事遊んでたじゃない。その子がチェギョンだって聞いたけど?いつもニコニコ笑ってて、シンと二人になったら話しだす子。覚えてない?」
「あっ、髪の毛を2つに括ってた子・・・あの子がチェギョン?」
「そうみたいね。思い出した?」
「うん、思い出した。そっか、あの子がチェギョンだったんだ」
シンが幼いころに思いを馳せていると、再びドアが開き、ウビンと見知らぬ男子生徒が入ってきた。
「よっ、お邪魔するよ」
「ウビンさん、いらっしゃい。チェギョンなら、里に帰っていませんよ」
「チェギョンを仁川空港まで送ってったから知ってる。今日は、そこのキム内官さんに用があったから来た」
「えっ、僕ですか?」
「そう。悪いけど、今、開いてるウィンドーを閉じて、俺にパソコンを貸してくれ。で、プリンターも繋いでほしい」
「は、はい」
キム内官がパソコンを操作している間に ウビンはシンに話しかけた。
「チェギョンの家庭教師、どうだ?付いていけそうか?」
「ははは・・・何とか・・・」
「一日、たった2時間程度だろ?コイツなんて半日だぞ。マシだと思うんだな。紹介するよ、カン・テジュン。警察に捕まった職員の息子。コイツ、チェギョンの一言で公立中学からいきなり神話の特進だぜ。救済じゃなく、完全に罰ゲームだし・・・」
「殿下、父が大変なことをしてしまい申し訳ありませんでした」
「えっ、いや、お父さんだけの所為じゃないと思ってる。チェギョンじゃないけど、君の将来が明るいものであることを祈ってます」
「あ、ありがとうございます」
「ウビンさん、俺も紹介するよ。俺の姉さん」
「イ・ヘミョンです」
「先程、空港でお見かけしましたから知っています。ソン・ウビンです」
「ヌナ、イルシムの会長のお孫さんだ」
「えっ!?」
「ウビンさん、何でチェギョンを空港に送ったんだ?里に戻ったんじゃないの?」
「ハギュンさんの帰国に合せて、仁川国際空港のヘリポートから里に戻ったんだ。で、送りがてら、用をいっぱい言いつけられた訳だ」
「クスクス、ご愁傷様」
「マジで、このままじゃ俺、単位落とすぞ。落としたら、宮が責任取ってくれよ」
「無理です!!」
「ククッ、冗談だ。だが、キム内官さんの働き次第で俺の人生左右するのはホント。俺の足を引っ張らないようチェギョンに仕えてね♪」
「げっ、頑張ります」
「チェギョン、乾燥機付きの洗濯機を置いてほしいんだってよ。どこに置けばいい?」
「せ、洗濯機ですか?」
「パンツは風呂ん時に洗えるけど、干す所がないってよ」
「女官に頼んでは・・・」
「居候だから、自分でできることはしたいんだってさ。それと殿下のクローゼットにチェギョンのスペース、作ってもいいか?嫌なら、ファンシーケースとチェストを持ってくるから、設置場所を考えてほしい」
チェギョンの意外な要望に宮の人間は、面食らってしまった。
「ジフんちのあの家でも居候だからって、普段着の洗濯は自分でしてるぜ。『親がいないお前たちは、巣立つまでに自分一人で生きる術をすべて覚えろ』ってのが、死んだ祖父さんの口癖だったらしい」
「それは、希望の家で育った子供たちに言った言葉で、姫さまにではないと思います」
「まぁな。でも実際、親とは行き来してないし、未成年のアイツが頼る相手は全部他人だ。早く独立したいんだと思うぜ。女なら、普通他人にパンツを洗われたくないんじゃねぇの?まぁ、長くても4ヶ月弱だ。我慢して置いてやれよ」
「キム内官、俺が許す。チェギョンが、ここでノビノビできるなら置いてやってくれ」
「・・・かしこまりました、殿下」
(後は衣装ケースか・・・クローゼットを一緒にすると、一緒に着替えることになるよな。何でチェギョンは、俺と一緒でも恥ずかしがらないんだ?ウビンさんに聞いてみるか)