コン内官は、陛下の命令で 事情説明と協力要請の為、学校へと赴いた。
玄関前で御曹司たちの父親と合流すると、あらかじめアポと取っておいた校長室へと向かった。
学校側は、恐縮しつつもこれ幸いと御曹司たちの悪行を話し、反対に対処をお願いしてきた。
一緒に話を聞いていた父親たちは声を掛けるのが憚れるぐらい、ショックで項垂れていた。
(一応、殿下の前では大人しくしていたらしいが、あの御曹司たちがここまで悪かったとは・・・学校側も殿下がいたため、ずっと我慢していたのだろう。私がもっと気にかけていたら・・・申し訳ないことをした)
コン内官は校長に謝罪をすると、陛下の伝言として、皇太子であろうとも反社会的な行為をすれば罰せられるべきだ。肩書に拘らず罰則を与えてくれて構わないと話した。
この意見に父親たちも賛同し、息子たちにもう一度だけやり直すチャンスを与えてほしいと頭を下げた。
この言葉に校長は驚いていたが、しばらく考えた末、口を開いた。
「正直に言いますと、教師の大半はご子息たちはTOPに立つ器ではないし、当校の校風に合わないから退学してほしいと思っています。ですが、ここは教育の場です。本人たちが心から反省し、やり直したいと思っているのなら、受け入れるしかありません。ご子息たちは、日直・掃除の類を一切拒否し、したことがありません。1ヶ月間、日直とトイレ掃除をきっちりとできたなら、反省したと認めましょう。ご子息たちにやらせる事ができますか?」
社長たちは言葉に詰まっていたが、最後は必ずさせると言い、校長に礼を言っていた。
「公務で早退することもありますが、登校した際は、殿下にも日直業務とトイレ掃除をさせてください。私から陛下には報告しておきます。それから、これはお願いになるのですが、舞踊科のミン・ヒョリンさんについてです。彼女と殿下がお付き合いしている事実はなく、正直、彼女には宮も困っております」
コン内官がそう言うと、校長は驚いて、目を見開いていた。
「実際、学校から戻れば、殿下にはプライベートはありません。就寝されるまで必ず誰かが傍にいますし、全て報告が私と陛下に届くようになっています。ですが、一度もヒョリンさんの名前を報告書で見たことはなく、殿下も否定されています」
「で、ではあれは、ミン・ヒョリンの嘘だと仰るのですか?」
「はい。殿下はカン・イン君のGFだと認識し、会話したこともないと仰せでした」
「・・・信じられない」
「事実です。ですが、宮が動くとなると、彼女は不敬罪で宮内警察に収監することになります。ですので、彼女の対処は、学校側にお願いしたいのです」
「分かりました。では、早々に協議して、ミン・ヒョリンの処分を決めさせていただきます」
「お願いします。あと校内に翊衛士を入れたいと思います。当然、殿下だけでなく、御曹司たちの監視もついでに行わせていただきます。許可していただけないでしょうか?」
「えっ!?」
「決して、授業の妨害をするようなことはありません。ミン・ヒョリンさんが殿下に接触するのを阻止するだけです」
「分かりました。許可しましょう」
「学校側の配慮に感謝します。最後に美術科のシン・チェギョンさんに会わせていただきたいのですが・・・」
「美術科のシン・チェギョン・・・ですか?」
「はい。彼女には随分ご迷惑をお掛けしたようなので、謝罪したいと思いまして・・・」
「ああ、携帯事件の女生徒ですね。報告が来ています。申し訳ありませんが、授業中に呼び出すわけにはいきません。ゆっくりお話されたいなら、昼休みに学食に行かれたらいかがでしょうか?」
「分かりました。では少し所用を済ませて、昼休みの時間に再度来させていただきます。校長先生、お時間をお取りして申し訳ありませんでした」
玄関前で父親たちと別れたコン内官は、独断でミン貿易の自社ビルにやって来た。
受付で名刺を渡し、社長に面会を申し込むと、すぐに秘書がやって来て社長に会う事ができた。
社長には関係はないが、社長宅の家政婦の娘の行状を話し、宮が困っている事を伝えた。
社長は、あまりの話に最初は動転していたが、すぐに事実確認をして対処すると申し出てくれたので、コン内官はすぐに暇を告げた。
コン内官は、電話で陛下に報告すると、時間を合わせて再び学校の門を潜った。
最初に出会った生徒に場所を聞き、コン内官は学生食堂を目指した。
食堂に入り、チェギョンを探していると、何やら生徒たちが揉めている一角があった。
『私を誰だと思ってるの?!ミン・ヒョリンよ、ミン・ヒョリン!私が皇太子妃になったら、アンタなんて国外追放にしてやる!』
コン内官は、思わず喚き散らしている女生徒を凝視してしまった。
(あれが、問題のミン・ヒョリンか・・・確かにあれは酷い。ん?あれは、昨日のイ・ガンヒョンさん。クククッ、彼女と揉めているのか・・・見物したいのは山々だが、時間がないな。。。)
コン内官は、騒動を見ている生徒たちをかき分けて、対峙する女生徒たちの前に立った。
「他の生徒たちに迷惑が掛かっていますよ。そのぐらいにしたら、いかがですか?」
「あんた、誰よ?この私に意見するなんて、10年早いわ」
「あんた、家で年上の人は敬いなさいと習わなかったの?一体、家でどんな教育を受けてんのよ。令嬢とは思えないその態度、本当に社長令嬢なの?」
「大きなお世話よ!私に逆らったらどうなるか分かってるの?私には、シンと宮が付いてるのよ」
「・・・お嬢さん、つかぬ事をお聞きしますが、宮とはどこの宮の事でしょうか?」
「あんた、バカじゃないの?宮と言えば、皇帝陛下や皇太子殿下が住んでる所に決まってるでしょうが!」
「それでしたら、宮はお嬢さんには付いていません。よって貴女に逆らっても、何も起こりません」
「えっ!?」
「申し遅れました。私は、韓国皇室『宮』で侍従長をしておりますコンと申します。侍従とは皇族方の公私にわたって秘書的役割をする者で、私は皇太子殿下の侍従で、職員全員を統括をしております」
生徒たちから一斉にどよめきが起こり、コン内官が次に何を言うのか、みんな固唾を飲んで見守っている。
「ミン・ヒョリンさん、これ以上嘘を吹聴すると不敬罪で宮内警察に拘束しますよ。殿下は、貴女とは会話もしたことがないと噂を全否定されています」
「そんなバカな・・・」
「殿下は、いつも貴女の送迎をしていたカン・イン様が、貴女の恋人だと認識していたそうです。それから宮は、皇族が国民と目線の高さを合わせ、共に歩める方法を模索しております。ですから貴女のような女性を、絶対に認めることはありません」
コン内官の発言で、生徒たち全員がヒョリンに冷たい視線を浴びせた。
ヒョリンが顔色を真っ青にして黙ってしまうと、コン内官は向きを変え、ガンヒョンとその後ろにいるチェギョンに向かって一礼した。
「イ・ガンヒョンさま、昨日はお疲れさまでした。シン・チェギョンさま、昨日は挨拶できずに申し訳ありませんでした。お久しぶりでございます」
「へ?」
「チェギョンちゃん、コン爺です。覚えておられませんか?」
「あ~~!覚えています。いつも帰りにお菓子を持たせてくれたアジョシ!そうでしょ?」
「クスクス、はい、そうでございます。実は、チェギョンちゃんに挨拶とお願いをしにやって参りました」
「えっ、私にですか?」
「はい。放課後、宮に来ていただこうとお願いするつもりでしたが、この雰囲気ではこのままお連れした方が良いかもしれませんね」
コン内官にそう言われ、 チェギョンが周りを見回すと、生徒たちの好奇心いっぱいの視線があった。
「げっ!ア、アジョシ、何てことを・・・ガンヒョン、どうしよう」
「はぁ・・・鞄は私が持って帰ってあげるから、あんたはこのままコン内官さまと行きなさい」
「う、うん・・・」
「ガンヒョンさま、それには及びません。今、翊衛士に取りに行かせます。ガンヒョンさまもご一緒にいかがですか?ご自宅までお送りいたします」
「遠慮します。宮の公用車なんかで帰宅したら、お祖父さまに怒られます」
「クスクス、分かりました。パク翊衛士、頼む!」
後ろにいた翊衛士が食堂を出ていくと、コン内官は再びミン・ヒョリンに視線を向けた。
、
「ミン・ヒョリンさん、今日以降、殿下に接触することを、宮は認めることができません。勿論、宮の名を騙っての傲慢な振る舞いもです。今回は警告に留めますが、次に何か起こせば容赦はしません。肝に銘じておいてください。チェギョンちゃん、お待たせしました。行きましょうか」
「えっ、あ、あのお昼ご飯・・・」
「クスクス、大丈夫。宮で用意します。気を遣うなら、職員用の食堂でご一緒しましょう。ハンが会えるのを楽しみにしていましたよ」
「ハン?あっ・・・もしかしてお迎えに来てくれていたアジョシ?」
「クスクス、そうだよ。さぁ、行こうか」
コン内官がチェギョンを連れて食堂を出ていくと、食堂にいた生徒たちは蜂の巣を突いたように騒ぎだし、その視線は一気にガンヒョンに集まった。
(げっ!やっぱりチェギョンと一緒に帰った方が良かったかも・・・クスッ、ミン・ヒョリン、笑えるわ。コン内官さまも大きな釘を刺していったけど、私からも刺しておこうかしら?)
「ちょっと、自意識過剰女。あんた、嘘吐きすぎて、何が本当で何が嘘なのか分からなくなってるんじゃないの?案外、社長令嬢というのも嘘なんじゃないの?」
「///・・・・・煩い」
「ひょっとして図星?これからは、社会ルールに則った学生生活を送ることね。皆が迷惑する」
「・・・イ・ガンヒョン、貴女、一体何者?」
「何者でもないわ。強いて言うなら、貴女より宮に近い存在かしら?宮が動いたとなると、間違いなく御曹司達の家も動いてると思うわよ。お坊ちゃん達と連絡取れなくなってるんじゃないの?」
「えっ!?ウソ・・・」
「クスクス、後ろ盾のなくなったあんたが、今後どうするのか見物だわね。ヒスン、スニョン、待たせちゃってゴメン。時間なくなちゃったね。席、取っておいてくれた?急いで食べちゃおう」
「ガンヒョン、お腹が減ったでござるよ。早く食べるでござる」
ガンヒョンは、自分に向けられた視線を見事にヒョリンに向けさせ、その場を離れることに成功した。
(ざっとこんなもんよね。クスッ、携帯を必死に操作しても無駄よ。ホント、バカな女。。。それにしても外堀から埋められちゃって・・・チェギョン、一体これからどうするつもりかしら?)