狂喜乱舞する皇族とその姿を見て放心するシン家一同。
そんな中で、テレビ画面からはエンドレスで同じ映像が流れている。
『チェギョンや、爺の膝の上においで』
「うん♪・・・おじいちゃま、どうしたの?」
『チェギョン、シンは好きか?』
「うん、だいすき。チェギョンがよしよしするとわらってくれるから、まもってあげるねってやくそくしたんだ~」
『そうか。じゃあ、大きくなったらシンのお嫁さんになるか?』
「え~、アッパがね・・・アッパはおとこだから、オンマやチェギョンをまもるんだっていってるよ。
おおきくなったら、しんくんがチェギョンをまもってくれるの?」
『そうだ。今から勉強も運動もいっぱいして強い王子さまになるそうだ』
「じゃあ、しんくんのおよめさんになってもいいよ」
『本当か?この爺と約束したら、絶対に守らないといけないんだぞ』
「チェギョン、うそつきじゃないもん!やくそくはぜったいにまもるよ」
『よ~し、じゃあ指切りじゃ♪』
「うん♪」
「アジョシ、いい加減にしてくれ。こんなふざけたダビングをしたのは、一体誰なんだ?」
「はい。ダビングの指示を出されたのは先帝でございますが、加工したのは最長老さまのご子息でございます」
「アイツか・・・はぁ・・・」
「アッパ、ガンヒョンのアッパも知ってるの?」
「ああ、腐れ縁だ。何であの親父から、あんな軽い奴ができたのか未だに謎だ」
「クスクス、ガンヒョンのアッパが軽いって・・・何か想像つかない」
「知らなくていい。いいか、アイツには絶対に近づくなよ」
チェギョンが訳分からず頷くと、チェウォンは苛立ちの原因であるテレビの電源を切った。
「クスクス、陛下、殿下、そろそろ今後の日程について話し合いたいのですが・・・」
「おっ、そうだな。チェウォン、これから婚約発表をしてもいいか?」
「ふざけるな!発表したら、すぐに婚姻だろうが。少しは家族でゆっくりさせろ!」
「二人を婚姻させたら、毎日宮に遊びに来ればいいじゃないか?」
「できるか!民間人がツレの家のように宮に通える訳がないだろうが!」
「まぁ、私も公務があるし、不在の時もあるしな。だがな、母上も寂しい想いをしていたんだ。母上の為にも来いよ」
「なら、ヘミョンちゃんとファヨンさんとユル坊を帰国させたら良いだろう?そうしたら、おば様の負担が軽くなる。一気に賑やかになるぞ」
「そうだな・・・それも考えよう♪で、発表はいつがいい、太子?」
「えっ・・・僕としては今すぐでもOKです」
「シン君!!あのすいませんが、まだ頭が混乱しています。それに宮に嫁ぐには、それなりの教育が必要なんじゃないんですか?」
「チェギョン、最長老からその辺りは問題ないと報告がきておる」
「えっ?!意味が分からないのですが・・・アッパ?」
「最長老の親父まで噛んでたのか・・・おば様、ひょっとしてガンヒョンもグルですか?」
「ほほほ・・・人聞きの悪い。確かに昔、チェギョンとお友達になって、一緒に勉強してねとは言いましたが、グルだなんて。ねぇ?」
絶対にグルだ・・・ここにいる全員が、そう確信した。
「クスクス、グルなんですね。家庭教師の先生が怖いから、一緒に勉強してって・・・でも教えてもらうのは、全然学校では役に立たないものばっかりで、月謝を払ってるわけじゃないのにガンヒョンより私の方が熱心に指導されてました・・・私、先生に図々しい奴って嫌われているとずっと思ってました」
「おば様、親に内緒で、一体誰がチェギョンに訓育をしていたんです?」
「ふふ、長老たちです。自分の得意分野を担当してね。長老たちは、明るくて頑張り屋だと褒めてますよ」
「あああ、最初からその気満々だったんじゃないですか?チェギョン、良いか?これが宮の実態だ。皇族は、心許した者には、我が儘三昧、強引に周りを巻き込んでいくんだ。親父なんて先帝に、『あの土地をやるから孤児院を作れ』だぞ!?お蔭で、親父は孤児院のローンに追われ、俺が家を買うまでずっと借家暮らしだった」
「クスクス、アッパ、もう捕まったから諦めろって言ってるみたい。シン君、本当に私でいいの?」
「勿論!俺、チェギョンを思い出した時、飛び上がるほど嬉しかった。ただ懐かしいだけなのかとも思ったけど、やっぱり昔みたいにずっと一緒にいたいと思った。これからチェギョンを守れるようにもっと男らしくなる。だから、俺んとこに嫁いでこい」
「分かった。皇太后さま、陛下、よろしくお願いします」
「チェギョン、承諾してくれて礼を言う。私達と仲良く暮らそう♪太子、後は大人で話を詰めるから、チェギョンとチェジュンを連れて、東宮殿に戻りなさい」
「はい。チェギョン、チェジュン、行こう」
シンはチェギョンと手を繋ぎ、チェジュンに話しかけながら、東宮殿に案内した。
正殿とは違う洋館の東宮殿に入ると、チェジュンはやっと落ち着いたようだった。
お茶が用意され、一口飲むと、チェジュンはクスクス笑いだした。
「ヒョン、陛下ってテレビで見るのと大違い。かなりかっとんだ性格の人なんだね」
「いや、俺も初めて知って驚いた。2人の時はたまにニヤリと笑ったりするぐらいで、寡黙な人だと思ってた。俺だって、お義父さんにはビックリした。陛下にタメ口だし、面と向かって皇族の悪口を言うなんて、絶対にお義父さんだけだと思う」
「・・・ヒョン、間違いなくガンヒョンヌナも言うと思うぜ」
「確かに・・・陛下と皇太后さまの前で、最低と言われた」
チェジュンは、それを聞いてケラケラと笑い出した。
「ガンヒョンヌナ、最高だな。うちのデジが許嫁を辞退したら、間違いなくガンヒョンヌナが皇太子妃だったろうな。それはそれで笑える。クククッ・・・」
「チェジュン、勘弁してくれ!俺は、ガンヒョンを包み込めるほど器は大きくない。絶対に毎日凹んで、不眠に陥る自信がある」
「シン君、酷い・・・チェジュン、アンタもいい加減にしなさいよ。それよりあんた、シン君の事、『ヒョン』って・・・」
「別にいいじゃん。デジの旦那なら、俺のヒョンだろ?アッパなんか、陛下の事呼び捨てだったぜ?」
シンは、シン家の人たちが皇族を全く意識していないことに驚きより喜びの方が大きかった。
「チェギョン、俺に弟ができるんだな。俺も姉上がいるから、チェジュンとは気が合うかも・・・ヌナって、弟を子分だと思ってるとこがあるよな」
「ヒョン~、分かる~。やっぱ持つべきは、ヒョンだぜ♪」
「ふん、ヌナで悪かったわね。チェジュン、覚えてらっしゃい」
「クスクス、何かいいなぁ・・・俺、こんな会話したことなかったから、めちゃくちゃ新鮮。ホントお祖父さまには感謝だな」
「・・・シン君、皆さん、すごく喜んでくださってるのは嬉しいんだけど、皇后さまの事は本当にいいの?シン君、大丈夫?」
「チェギョン・・・」
「ヒョン、ちょっと待った!その話は、俺が帰ってからにしてくれ。ヒョンが本心を明かせるのは、ヌナの前だけだろうしな。またそうでないと困るし・・・」
「チェジュン・・・」
「じゃヒョン、また話そうぜ。ヌナ、施設に寄ってから帰るってアッパに言っといて」
「あ、うん。チェジュン、お願いね」
チェジュンは、チェギョンの言葉に頷くとそのまま部屋を出て行った。
「チェジュン、良いヤツだな。。。さっきの話だけど、あの人を母親と思ったことはない。小さい頃な、お祖父さまや皇太后さまが言う事とあの人が姉上に話すことが正反対で、俺は混乱した。だからお祖父さまに聞いたんだ。そうしたら、絶対にあの人の話に耳を傾けるな。これは皇帝命令だと言われた。それから間もなく、俺はお祖父さまの住む正殿に引き取られ、姉上は規律の厳しい全寮制のミッションスクールに留学していった。多分、洗脳しているあの人から引き離す為だったと思う。あの当時・・・ユル、覚えてるよな?」
「うん」
「あのユルより我が儘なお姫さまだった」
「げっ・・・」
「ユルは悪ガキだったけど、伯母様は俺とユルを分け隔てなく可愛がってくれる優しい人だった。伯父上が亡くなるまで、陛下も時間ができたらよく遊んでくれた。あの人を除く皇族で食事をしたり、団欒してたな。今から思えば、その時にはすでに夫婦関係は崩壊してたんだと思う」
「シン君・・・」
「伯父上が亡くなって、あの人が妃宮として入宮してから、ここ宮は変わっていった。俺は、チェギョンが来てくれるのだけが楽しみだった。でもチェギョンが来なくなって、裏切られた気分だった。で、殻に閉じこもってしまった」
「・・・ゴメンね」
「違う。チェギョンの所為じゃない。チェギョンが来なくなったのは、あの人の所為だと聞かされた」
「えっ!?」
「だから、あの人が廃妃になることに俺は賛成だし、今まで我慢してきた陛下には残りの人生を謳歌してほしいと思ってる。その為にも俺は早く独立したい。チェギョン、婚姻を急かすことになるけど了承してほしい」
「・・・分かった。すべてシン君に任せる」
「ありがとう。言った事なかったけど、5歳の時からチェギョンが好きだった。大事にする。ずっと一緒にいよう」
「うん♪」
シンは、本当に嬉しいんだと分かるぐらい満面の笑みを見せた。