仁川国際空港からの帰り、シンは憮然として後部座席に座っていた。
「シン、アジョシに認めてもらったのに何でそんなに不機嫌なんだ?」
「・・・何で、アジュマはユルの事、私の息子って言ったんだ?俺が息子になるんだっつうの」
「クスクス・・・シン、拗ねるなって。僕も昨日知ったんだけど、僕とチェギョンって乳兄弟なんだってさ」
「乳兄弟~~!?」
「そう。うちの両親、僕が生まれてすぐに別居・離婚しただろ?で、帰国したアジョシ達は、僕が離乳するまで1年ほど徳寿宮に住んでたってさ。だから、アジュマは僕を息子のように思ってくれてるみたい。理解してくれた?」
「・・・ああ」
「言っておくけど、僕の所為じゃないからね。ところで、チェギョンへの言い訳、考えた?どうする?」
「・・・急な来客があって、ユルと宮に戻ったと言うしかないだろうな。バレたら、俺が説明するよ」
「分かった。じゃあ、その方向で・・・」
二人を乗せた公用車が学校に着くと、もう4時間目が終わる時間だった。
ユルは一旦自分のクラスに行って、チェギョン達を迎えに行くことにし、シンはそのまま特別室へと向かった。
シンが特別室に入り、エアコンをつけ、弁当を広げていると、にわかに廊下が騒がしくなってきた。
(クスッ、心配してたけど、チェギョン、元気そうだな。。。)
しかし部屋に入ってきたチェギョンを見て、シンは思わず駆け寄った。
「チェギョン、どうした?寒気するのか?エアコン、切った方が良いか?」
「へ?全然、大丈夫だよ」
「??じゃあ、なんでスパッツ穿いてるんだ?」
「あっ、これね。ちょっと事情があってね。それよりお腹減った。お弁当食べたい」
「事情?・・・とりあえず食べよう。お前らも座れよ」
シンの心配性ぶりに苦笑しながら、イン達もいつもの席に座ると弁当を食べだした。
シンは、いつもと変わらないチェギョンにホッとしながらも 何か引っかかるものを感じていた。
(ん?いつもより食べる量が少ない?やっぱ昨日の疲れが残ってるのか?)
弁当を食べ終わると、チェギョンはおもむろに制服のスカートを脱ぐと、床にベタッと座りストレッチしだした。
「チェギョン?。。。ガンヒョン、チェギョン、急にどうしたんだ?」
「あのね・・・長休みにヘジンが美術科に来たのよ。発表会のオーディションがあるんだって。先生から主役を目指してみないかって言われたみたいで、チェギョンにコーチを頼みに来たの」
「・・・・・」
「ちょっと殿下、眉間に皺が寄ってる。ひょっとして反対するとか?」
「・・・チェギョン、ちょっとおいで」
「へ?う、うん」
チェギョンが隣に座ると、シンは自分の腕の中に閉じ込めた。
「チェギョン、ガンヒョンから聞いた。またヘジンのコーチするのか?」
「うん♪ヘジン、高校最後の公演だから頑張りたいんだって。。。だから、応援することにしたの。明日からレッスンするんだけどね、最近、サボり気味だったから私もやらないと・・・だから、当分、宮には遊びに行けない。シン君、ゴメンね」
「チェギョン、辞めるんだろ?なのに 何で・・・」
「シン君・・・実は、トラブルで公演は中止になったんだけど、契約で今年いっぱい拘束されてるんだよね。ひょっとしたらお呼びが掛るかもしれないから、一応レッスンだけはしておかないとダメなんだ。黙っててゴメン」
「チェギョン・・・」
「でもね、先方に連絡先教えてないんだ。だから、このままフェードアウトできたらいいなって・・・」
チェギョンがレッスンを止めない理由が分かったシンは、ギュッと腕に力を入れた。
「チェギョン、もういい。分かったから・・・もし声が掛っても絶対に無理なダイエットはするな。それから、夏休みは宮で過ごして、体調を元に戻すよう努力すること。レッスンはしても良いが、これだけは譲れない。約束できるか?」
「うん、分かった。シン君、ありがとう」
「じゃ、体動かしてきな」
「うん♪」
チェギョンはシンから離れると、床に座り込み、柔軟体操をし始めた。
それを見ていたガンヒョンやヒスン達は、チェギョンの体の柔らかさにしきりに感心している。
そんな中、ファンが小声で話し始めた。
「シン・・・当分、チェギョンに会えないのにやけに簡単に許したね。前みたいにチェギョン不足になって、不機嫌オーラ出さないでよ」
「・・・アイツが宮に来ないなら、俺がマンションに行けばいいだけだからな」
「「「はぁ~??」」」
「やっとここまで順調に回復してきたんだ。また振り出しには戻りたくない。今が肝心なときなんだ」
「クスッ、シン、正直に言いなよ。チェギョンなしじゃ、もう寝れないってさぁ」
「///ユル、煩い!!」
「で、シン。チェギョンの親父さんに会ったのか?だから、朝、いなかったんだろ?」
「・・・ああ、空港でな。昔のまんまのアジョシだった。『チェギョンを頼む』って言ってくれた」
「えっ!?じゃあ、認めてもらえたってこと?」
「多分な・・・あとは、チェギョンの体調が戻るのを待つだけだ。だから、手を抜きたくない。少しでも早く体調を戻して、プロポーズする」
「「!!!」」
「シン、頑張れよ」
「勿論だ。という訳で、ユル、お前んとこの内官、チェギョンちのカードキー持ってたよな?俺にくれって頼んでくれ」
「え~!僕が頼むの?・・・ハァ、分かったよ。帰ったら貰って、東宮殿に届けるよ」
「サンキュ」
シンは、友人たちに宣言したことで、また一歩前に進めたような気がするのだった。