チェジュンが自社ビルに向かうと、地下駐車場前にファンとインが所在なさげに立っていた。
「時間前に抜けてきたんだけど、待ったか?」
「あっ・・・い、いえ・・・」
「ユルヒョンの部屋借りっから、付いてきて」
エレベーターに乗ると、初めて来たインにこのビルの説明をしだした。
一旦1階で降り、奥の部屋に消えたチェジュンは、携帯を2台受け取り、待たせていたエレベーターに乗り込んだ。
勝手知ったるユルの部屋に入ると、2人にソファーを勧め、水のペットボトルを前に置いた。
「リュ・ファン、カン・イン、親父さんからどこまで聞いてきた?」
「詳しくは何も・・・ただチェジュン君が新しい携帯を用意してくれるから、インを連れてここに行けとだけ・・・」
「・・・カン・インは?」
「突然、黒服の男に携帯を没収されて、自宅まで連行された。帰宅した親父から、ファンが迎えに来たら一緒に出掛けろって。あと夏休みは、ここで修業することになったと聞きました」
「えっ!?」
「リュ・ファン、何、驚いてるんだ?アンタも一緒だ。ついでにチャン・ギョンも預かる」
「「!!!」」
「カン・イン・・・さっきの部屋で、初めてアンタの親父に会った。正直に言っていいか?親父さん、商売に向いてねぇ。夏休みにアンタに見込みがないと踏んだら、俺はあんた等親子を即切る。なぜなら、アンタの代になる時は、俺がシンコンツェルンを継いでいるからだ」
「・・・・・」
「リュ・ファン、アンタにはこの前言ったから、くどくど言わない。ただ言われて動くなら誰でもできる。将来、会社TOPに立つなら、考えて動き、また人を動かさないといけない。夏休みは、考えて動くことに徹すること。アンタの場合、TOPの器じゃないと踏んだら、将来は俺の下で生涯平社員として働いてもらう。ただし、それも大学は韓国大以上のレベルに入学し、主席に近い成績を修めることが条件だ」
「・・・が、頑張ります」
「厳しいとか思うなよ。俺たちには、末端の社員とその家族、数万人の生活を守る義務がある。アンタらが無能だと、その社員たちが犠牲になるんだ。俺の所為じゃないのに、逆恨みされたくないからな」
「「・・・はい」」
「それから、これ、新しい携帯だ。しつこいようだけどカン・イン、絶対にミン・ヒョリンにナンバーを教えるな!教えたと分かった瞬間、ジ・エンドだから・・・」
「・・・理由を聞いていいか?」
「理由?反対になぜアンタがそこまであの女に肩入れするのか、俺はそれが知りたいね。どう考えてもあの程度の女なら、一晩限りの遊びの女だぜ?ヒョン達の遊び相手は、もっとプロポーション良かったけどな」
「///なっ・・・!」
「そんなカッカするなよ。事実だろうが・・・アンタの質問に答える前にシンコンツェルンの事業形態をアンタはどこまで知ってるんだ?」
「・・・ほとんど知らない」
「自分がどんな御曹司か分からずに偉そうにしてたんだ。アンタのツレが、うちのヌナ達に向かって『身の程知らず』って言ったらしいけど、その言葉そっくり返してもらうよ」
「・・・・・」
「我がシンコンツェルンは、祖父が忠実で信頼できる部下たちに任せた会社の集合体だ。俺たち本社側の人間は、利益が出るようにその経営を監視してるだけだ。だが親父に言わせれば、こっちは趣味の域。メインの事業は、福祉活動だ。親父は、仕事の大半をそっち側に費やしてる」
「「!!!」」
「あと祖父さん同士、親父同士が親友という関係で設けられた宮担当。宮が安泰であるように常に見守り、いざという時にはそっと手を差しのべる完全ボランティア。陛下の兄貴が死んだ後、陛下を支えるために親父が侍従として無給で補佐したぐらい俺んちと宮は関係が深い。親父は、あんた達の事を早くからマークしていたようだ」
「「えっ!?」」
「当たり前だろ?アンタらは、シンヒョンにいい影響を与えるどころか評判を下げる毒のような存在だったからな」
「「・・・・・」」
「詳しい事は言えないが、宮は色々な陰謀が渦巻き、ある意味崩壊寸前だった。俺たちは一つ一つ陰謀を潰し、やっと少し落ち着いてきたところだ。潰した陰謀の繋がりを辿っていくと、ミン・ヒョリンが関係する人物に行き当たった」
「「!!!」」
「だからカン・イン、俺も親父もアンタに散々警告したんだ。ミン・ヒョリンが家政婦の娘だろうが、もし良いお嬢さんなら、親父は後見人に立候補して皇太子妃に推薦しただろう。陛下は、親父に頭が上がらないからな。だが実際は、令嬢の振りをして人を見下し横暴な振る舞い三昧。推薦してみろ。親父の人格は疑われ、今まで築き上げてきたものをすべて失う」
「何もそこまで・・・」
「ここまで言ってもまだ庇うのか?カン・イン、アンタが3年次の授業料を出していないことは知っている。だがミン・ヒョリンはキャッシュで払った。母親には特待生で授業料は免除されていると嘘を吐いてた。ミン・ヒョリンは、バイトをしていない。なら、一体どこで金を工面したんだ?」
「それは・・・」
「・・・皇太子妃になる条件として、生娘でなくてはいけない。もしくは純潔を皇太子に散らされた者だな。ミン・ヒョリンは、この時点でアウトなんだ」
「「えっ!?」」
「調べるのに苦労したが、ミン・ヒョリンはセレブご用達のコールガールをしていた。だから推薦したら、親父の人格が疑われ、求心力は落ちる。そんな女をシンヒョンに宛がおうとして、陰でシンヒョンを笑おうとしてたのか、カン・イン?シンヒョンは、皇太子だぞ。下手をしたら、国際問題になりかねない立場だ。いい加減、己の愚かさに気づけよ」
チェジュンに辛らつに指摘されたインは、もう己の情けなさに俯くしかなかった。
ファンは、そんなインにかける言葉もなく、哀れな友を見つめ続けた。
言いたいことを言い切ったチェジュンは、ソファーから立ち上がると窓際に立ち、窓を開け放った。
すると窓の外から元気な声や笑い声が聞こえてきて、チェジュンはクスクスと笑いだした。
「アンタら、ちょっとここに来て見てみろよ。面白いものが見えるぜ」
ファンは薄々分かっていたが、インは何か分からず窓際に立ち、下を見た。
((!!!!!))
2人の視界にはいったものは、シンとユルの水鉄砲の集中攻撃に対抗して、チェギョンが水道のホースで応戦していて、3人ともびしょ濡れ状態で笑っている。
そして、その姿を陛下やチェウォンがビール片手に笑いながら見ていた。
「あの3人は幼馴染だ。特にユルヒョンが渡英してすぐ、シンヒョンはうちでしばらく生活している。俺は赤ん坊だったから覚えてないが、その頃から2人はめちゃくちゃ仲が良かったらしい。あれが、本来のシンヒョンの姿だ。俺はあの顔しか見たことはないけどな」
「・・・チェジュン、2人は結婚するの?」
「どうだろうな・・・親父が猛反対してるんだ。おじ様はシンヒョンに押し倒して既成事実を作れと唆してるみたいだけどな、ディープキスしたって俺に報告するヒョンができると思うか?絶対に童貞だぜ。賭けてもいいぞ」
チェジュンの話を聞く限り、シンと関係を持ったというヒョリンの話は出鱈目で、自分たちは騙されていた。
シンの表情を見れば、自分たちが完全に勘違いをしていたんだと改めて反省することができた。
「・・・親父が二人を認めない理由は、おそらく俺だ。俺には、堂々と表舞台に立たせたいんだろうよ。正直、俺はどっちでもいいんだけどな。やることは、一緒だしさ」
淡々と自分の立場を受け入れているチェジュンを見て、器の違いを感じたインとファンは、チェジュンに全面降伏するしかなかった。
「週明け、チャン・ギョンに言っておけ。最長5年預かって資質を見極めるとチャン社長に親父は言ったが、本心は5年の間にチャングループの解体の準備をするつもりだと思う。流石にチャングループを倒産させれば、経済は混乱するからな。この夏休みに改心できなければ、親父は間違いなく動く。生半可な覚悟で来るなら、今すぐチャングループの後継から外れた方が、チャングループの名前だけは残るぞってな」
「「・・・・・」」
「もう一度言う。カン・イン、これが最後の警告だ。陰謀を潰された黒幕が、悪足掻きでヒョリンを利用しようとしている。絶対に巻き込まれるな!」
「!!!ヒョリンに忠告してやらないのか?」
「あの女が、アンタや俺らの忠告を素直に聞くと思うか?大体、善悪の分別がついている女が、シンヒョンを皇太子の座から引きずり下ろす話を何度も聞きに行くか?犯罪だっつうの!」
「「!!!」」
「親父が夏休みにアンタらを預かるのは、アンタらを犯罪に巻き込まれないよう守るためだ。だから俺も連絡がつかないよう携帯を替える手配をした。宮絡みの犯罪は、生涯服役か海外追放と決まっている。いいか、俺と親父の配慮を裏切るような真似は絶対にするなよ」
自分一人では何の力もなく、何もできない無力さを痛感したインは、チェジュンの言葉に頷くしかなかった。
(一流プリマを目指して踊っているヒョリンは、誰よりも輝いていたのに・・・シンを失脚させる計画に乗ろうなんて、今は一体何を目指してるんだ?)