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Channel: ゆうちゃんの日記
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選択 第50話

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明け方に部屋に戻ってきたチェギョンは、シンの布団にもぐりこむと、すぐに寝息を立てだした。
心配で熟睡できなかったシンは、チェギョンの寝顔を見ながら溜め息を吐いた。

「クスクス、幸せそうな顔をして寝ちゃったわね」
「母上まで起きてしまわれましたか・・・ホントにこいつは・・・まだ夜が明けるには時間があります。もう少し寝ましょう」
「ええ、そうね。シンも安心したでしょ。ゆっくり寝なさい」

(バ、バレてる・・・)


数時間後、眠い目をこすりながら、シンはチェギョンからそっと腕枕を外し、布団から出た。
そして皇后の着替えを待って、朝食を摂るため、部屋を出た。

『ミンさま、シン坊ちゃま、おはようございます』
「おはよう。ごめんなさい、少し寝過ごしたみたい」
『お気になさいますな。姫さまが原因だと皆知っております。今、朝食をお持ちいたします』

この邸の者は、皇后の事は『ミンさま』、シンの事は『シン坊ちゃま』と、気づけばそう呼んでいた。
目の前で毒見をしている女性に 皇后は話しかけた。

「一つ聞いていいかしら?チェギョンは、夜通し何をしていたのかしら?」
『ふふ、夜までは内緒でございます。姫さまは、ミン様に喜んでもらうんだと張り切っておいででした。どうか黙って、夜までお待ちください。。。すべて大丈夫でございます。お待たせしました。どうぞお召し上がりください』
「ありがとう・・・何か分からないけれど、楽しみに待つわね。シン、朝食をいただきましょうか」
「はい、母上」


チェギョンが何を考えているのか気になったが、当のチェギョンはまだ夢の中で聞きだす事ができない。
シンは、チェギョンが起きるまで、書庫から見つけてきた昔の文献を読むことにした。
実は、皇后も見つけてきた文献に嵌り、かなりの時間読書に費やしていた。

「母上は、今、何を読んでおられるのですか?」
「ソオン医女のご先祖、内衛府の長をしていたミン・ジョンホの回想録。内衛府とは、王の警護をしていた今でいう翊衛士みたいね。そして女性初の王の主治医になった大長今(テジャングム)の夫でもある人。当時の陰謀やチャングムの苦難も書かれてる恋愛小説ね。王の女だった女官との禁断の恋・・・もう涙なくして読めないわ」
「はは・・・すごい嵌りようで・・・」
「そういうシンは、何を読んでいるの?」
「イ・ギョムが書き残したものです。義賊、一梅枝(イルジメ)も晩年はこの里で生活していたみたいですね」
「えっ!?シン、私もそれ読みたいわ。読み終わったら教えてね」
「クスクス、はい。でもソオン医女がいるなら、きっと一梅枝の子孫も実在するんでしょうね」

皇后と本の話を講じていると、チェギョンが身じろぎしだした。

「おい、寝坊助。目が覚めたか?」
「はぁぁぁ・・・うん。よく寝た。おば様、シン君、おはようございます」
「チェギョン、おはよう」
「この不良娘。昨夜は、どこに行ってたんだ?」
「へへ・・・山の中、駆け回ってた。今晩、良かったら一緒に行く?」
「今日も行くのか?」
「ご希望とあらば。ところでおば様と何を話していたの?」
「あのな・・・この里には、一梅枝の子孫もいるんじゃないかって話をしてたんだ。実際、どうなんだ?」
「う~ん、里にはいないけどいるよ。でも事実かどうかは誰も分からないんだよね。凄く身軽な奴だけどね」
「奴って、年が近い男なのか?」
「うん。機会があったら紹介するね。でもあんまり期待しないで。恐ろしく人見知りだから・・・」

一梅枝の子孫に会えると知ったシンは、興奮してしまってもうチェギョンの言葉が何も耳に入らなかった。

「ハァ、聞いちゃいないよ。だから、絶対合わせるとは言ってないってば・・・」
「クスクス、チェギョン、今はいくら言っても無駄よ。放っておきなさい」
「ですね(苦笑)」




夕食が済み、辺りが暗くなってくると、チェギョンは再び姿を消した。
しかし今日は、軽そうな段ボール箱を持って、すぐに戻ってきた。

「チェギョン、一体、何なの?」
「へへ・・・この時期限定、シン宗家の古の王妃体験ツアーのクライマックスです。まぁ、黙って見ててください」

チェギョンは、部屋の隅に置かれている昔の行燈に火を入れ、部屋の電気をすべて消した。
行燈の明かりのみの薄暗い部屋は、まさに400年前に逆戻りしたようだった。
チェギョンが座っている辺りからガサゴソと音がすると、小さな光がいくつも飛び出してきて部屋中に散らばった。
点滅を繰り返す光の一つが、シンや皇后の体に止まる。

「ホタル・・・!?」
「ふふ、正解。素敵でしょう?」
「ああ、母上、綺麗ですね」
「ホント、凄いキレイ・・・昔の王妃は、とても風流だったのね」
「それは、ちょっと違うかも・・・昔、お祖父ちゃんにしてもらったのを再現しただけなんです。可哀想なんで、そろそろホタルを逃がしますね」
「ええ、チェギョン、ありがとう」
「チェギョン、ちょっと待ってくれ。カメラにおさめたい」
「いいわよ」

シンが窓辺でカメラを構えると、チェギョンは窓を開け放った。
すると蛍は水の在り処が分かるのか、吸い込まれるように窓から出ていく。
皇后も窓際までくると、名残惜しそうにホタルを見送るのだった。

「おば様、これ、見てください。本当はこれが見てもらいたかったの」
「まぁ・・・」
「これは、ホタルブクロという野草の一種なんです」

ミンは、窓際に置かれた点滅する鉢植えを持ち、顔の近くまで持っていった。
シンは、月明かりの中で微笑む皇后に思わずシャッターを切った。

「花の中にホタルを入れてあるのね・・・チェギョン、ありがとう。この光景は、一生忘れないわ」
「喜んでいただけて良かったです。苦労した甲斐がありました」
「昨夜は、ホタルの捕獲に忙しかったのね」
「へへへ・・・この時期、裏山はいっぱいホタルが飛ぶんです。私も昨日久しぶりに見て興奮しちゃった」
「チェギョン、俺も見たい!連れていってくれ」
「げっ、マジですか・・・」
「マジだ!!伯父上やウビンヒョンも連れていって、見せてやろうぜ」
「それはいいけど・・・オッパは、ミスマッチじゃない?絶対にネオンの光の方が似合うよ」

チェギョンの表現は的を得ていて、皇后もシンも声をあげて笑ってしまった。

「チェギョン、残念だけど、私はパスさせてもらうわ。でも来年は、私も是非見に連れていってちょうだいね」
「はい、おば様。来年は、絶対に見に行きましょうね。約束ですよ。じゃあ、シン君を連れていってきま~す」

賑やかに二人が出ていくと、部屋は急に静かになった。
皇后は、2人がいなくなってもしばらく窓際から離れず、月を見ていた。

「失礼いたします。ミン・ソオンでございます」
「ソオン医女、どうかいたしましたか?」
「今晩、皇后さまがお一人になられるので、姫さまより宿直(とのい)を言いつかりました」
「・・・ソオン医女、チェギョンの優しさと気配りはどこから来るのかしら?」
「恐れながら、もって生まれた才能ではないかと思われます」
「そうね・・・ソオン医女、この私が来年の約束をしてしまったわ」
「皇后さま・・・」
「最後の最後まで、絶対に諦めたりしません。どうか私に協力してちょうだい」
「勿論でございます」
「それから万が一の場合は、以前話した通りに。皇太后さまには了承は得ました。ハン尚宮と貴女で説得してちょうだい」
「・・・かしこまりました」
「休みます。貴女も布団で休んでちょうだい。シンとチェギョンはいつも一緒に寝るから、大丈夫よ」

皇后は、布団に体を横たえると、静かに目を瞑った。

(先帝が、なぜたった7歳の少女にシンと宮を託されたのか、チェギョンを知れば知るほどよく分かる。若干13歳で、国母の器を十分兼ね備えている。チェギョンは、崩れゆく宮の為に天が遣わした天使。この可愛い天使がこれ以上傷つかないよう最後の力を振りそぼって動かなければ・・・)




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