翌日、寝ぼけ眼で起きてきたシンとチェギョンは、ソオン医女に言われ、皇后の診察に立ち会うことになった。
急遽作られた診察室は、急場しのぎで作られた物とは思えない程、完璧な診察室だった。
「へぇ、ソギョン爺ちゃんの診療所みたい」
「はい、参考にさせていただきました。来年、弟が里に戻ることになっていますので、丁度良かったと思います」
「ジニオッパには申し訳ないけど、オジジが心配なの。私からもよろしくと伝えておいてね」
「はい、姫さま。では、皇后さまの診察を始めたいと思います」
「何で俺らまで・・・」
「殿下、騙されたと思ってお付き合いください。では、皇后さま、ベッドに横になってくださいませ」
皇后が簡易ベッドに横になると、ソオンは大きくなったお腹を出した。
「すごい・・・ここに赤ちゃんが入ってるんだね」
「そうですよ」
ソオンは、皇后のお腹にゼリーのようなものを垂らすと、モニターと繋がった器具で伸ばしだした。
「殿下、姫さま、モニターをご覧ください」
「「あっ・・・」」
「許可を頂いたので、最新鋭の機械を取り入れました。分かりますか?赤ちゃんの顔、陛下と言うより皇后さま似のようですね」
「可愛い・・・シン君、可愛いね。弟かな?妹かな?」
「ふふ・・・皇后さまもお知りになりたいですか?」
「ソオン医女、私は2人も子どもを産んでいるのよ。シンがお腹にいた時と同じものが見えるのは私だけかしら?」
「お見それいたしました・・・姫さま、弟君のようよ。ほら、ここに可愛いのが映っているでしょう?」
「えっ、え!?か、可愛いのって、オチンチン?///」
「はい。私も3Dエコーで見るのは初めてだけど、ハッキリと見えてるわね。それから、この音は赤ちゃんの心音よ。小さいけど、力強く動いてるわ。はい、終了~」
お腹のゼリーを拭うと、服を整え、ソオンは皇后を起こした。
「一時期心配しましたけど、皇后さま、順調に成長されていますよ。もうご安心ください」
「これもソオン医女とチェギョンのお蔭よ。本当にありがとう」
「私は、おば様と遊びたかっただけ。毎日がこんなに楽しいなんて生まれて初めてかも・・・ちょっとシン君、ボッとしてないで、何か言ったら?」
「あ、うん。今まで実感なかったけど、本当に母上のお腹に赤ちゃんがいるんだなぁって・・・ちょっと感動した。ソオン医女、貴重なものを見せてくれてありがとう」
「私にではなく、お礼は皇后さまにお願いします。皇后さまがお許しにならなければ、実現できなかったのですから・・・」
「母上、ありがとうございます。元気な赤ちゃん、産んでくださいね」
「当たり前です。貴方の弟よ。子守りお願いね、お兄ちゃん♪」
「はい!」
シンとチェギョンは興奮が収まらず、昼食時にもウビンを相手に延々と話し続けた。
(何で俺が、胎児の話を聞かないといけないんだ?!俺としては、結果よりそこに至るまでの過程の方が興味あるし、好きなんだっつうの!)
昼食後のお茶を飲んでいると、チェギョンとウビンの携帯が同時に鳴った。
顔を見合わせ携帯を取る二人は、話を聞きながら徐々に顔が険しくなっていくのが分かった。
「えっ!?・・・・分かった。一旦、戻ればいいのね?」
「分かった。どうもチェギョンも戻るようだ。至急、ヘリを飛ばしてほしい」
同時に携帯を切ったチェギョンとウビン。
「水産加工業の爺さんの件だろ?」
「うん・・・」
「当事者はお前だ。お前は、ソングループに委託すると宣言するだけでいい。後は俺が取り仕切る」
「分かった・・・おば様、シン君、ちょっとソウルに戻ってきます」
「ええ、気をつけてね」
「チェギョン、俺も一緒に行こうか?」
「ううん。シン君は、おば様に付いていてあげて。すぐに戻ってくるから」
「分かった」
1時間もしないうちに 邸に隣接するヘリポートにヘリが到着し、チェギョンとウビンを乗せるとすぐに飛び立った。
「一体、何があったのかしら?」
『チェギョンが、莫大な遺産を手にしたんですよ。それも赤の他人のね』
「「えっ!?」」
皇后とシンが驚いて振り向くと、男の色気を滲ませた男がにこやかに立っていた。
「イジョンヒョン!!」
「ここが、憧れの扶余の里かぁ。。。やっと来れたぜ。皇后さま、初めてお目にかかります。ソ・イジョンと申します。シン、久しぶり」
「イジョンヒョン、どうしたの?」
「今日も偶々、ジフと一緒だったわけ。チェギョンの近況を聞いてたら、突然ジフに連絡が来て、扶余にヘリを飛ばすって言うからさぁ・・・慌ててジュンピョんちに行って、ヘリに乗せてもらってきた」
「そうだったんだ・・・で、さっきの話、一体どういうこと?他人の遺産を貰ったって・・・」
「詳しい話は、邸の中でしようぜ。皇后さまの体に負担が掛る」
邸に戻ると、イジョンの口から詳しい話を聞いた。
「病院で、チェギョンは手術で喉に管を通して呼吸してる爺さんと知り合ったらしい。爺さんにしたら、声が出なくても意思疎通できるチェギョンが嬉しかったみたいだ。息子夫婦は、見舞いにも来なかったらしいしな。爺さんは、優秀な弁護士と探偵をチェギョンに依頼したらしい。で、探偵に息子の嫁の調査、弁護士には遺言書の作成を依頼した」
イジョンは、そこまで話すとお茶を一口啜った。
「結果、嫁は息子の腹心の部下と結婚前から関係があり、孫はその部下の子だと判明した。爺さんは、自分亡き後の会社の行く末が心配で仕方なかったようだ。調査書を見た爺さんは、すぐに遺言書を書き換えた。『自分の財産は、SC財団にすべて移譲する』ってな」
「「!!!」」
「弁護士は、正道法律事務所の奴だったから、秘密裏に爺さんの会社をどうするか有閑倶楽部の面々が話し合いをしてたらしい。で、流通に精通してるソングループが傘下に入れることになったらしい。その爺さんが、今、危篤らしい。今日が峠だってさ。だから、アイツら戻ったんだ」
「「・・・・・」」
「チェギョンは、人が亡くなる間際によく呼ばれる。死にゆく人の最後の言葉を家族に伝えるためにな。喜ばれることもあれば、話によっては恨まれることもある。ホント可哀想な奴だよ」
チェギョンは、こんな事でも傷ついていたのかと思うと、シンと皇后は胸が痛んだ。
「さぁ、湿っぽい話はここまで。皇后さま、扶余のお宝はもう見ましたか?俺、それが見たくて潜りこんだんですよ。絶対、国宝級のお宝ばかりですよ。一緒に見に行きましょう」
「え、ええ・・・」
イジョンは、皇后をエスコートすると、アジュマに宝物庫まで案内させてしまった。
そして目を輝かせながら、皇后とシンに 一つ一つ分かり易く、ジョークを交えて説明していく。
(流石、イジョンヒョン、女の扱いに慣れてる・・・でも良く考えたら、俺の母親なんだよな。母上も何で頬を赤くしてんだよ!?妊婦だろうが・・・)