シンは、コン内官とキム内官と共に皇族のスケジュールを見直し、全員がオフの日を作った。
そしてアドバイザーとしてジフを伴って、皇太后の許へ向かった。
「シンや、急にどうしたのです?ジフさんも一緒という事は、ミンに何かあったのですか?」
「いえ、そういう訳では・・・ただジフヒョンから、母上の調子がいい間に皆でどこかに行ってはどうかとアドバイスされたので、お誘いに来ました。皇太后さま、ご一緒にどこかに行きませんか?」
「それは、いい。皆のスケジュールはどうなっておる?」
「ちゃんと組み直しました。来週ですが、全員オフの日があります」
「きっとミンも喜ぶでしょう。シン、ミンの所に行きますよ」
皇后の寝室に入ると、ヘミョンと陛下もベッド脇に座っていた。
「ミン、失礼しますよ。今、シンが嬉しい報せを持ってきてくれたので来ました。来週、皆で遠出をしましょう」
「えっ、本当ですか?シン、大丈夫なの?」
「はい。ジフヒョンが行っても大丈夫だと太鼓判を押してくれました。だから一緒に行きましょう」
「嬉しい・・・あなた、皆で遠出ですって♪」
「良かったな。ところで太子、どこに行くんだ?」
「陛下、遠出に関して条件があります。皇后さまの負担にならないよう車で1時間前後の所でお願いします」
「1時間程度か。。。御用邸なら水原ぐらいしかないな。だが、あの坂や階段は、母上やミンにはキツイな。イジュンのベビーカーもあるし・・・」
「・・・シン、チェギョンなら条件に合う所を知ってるんじゃない?聞いてみたら?」
「あ、そうかも・・・頼んでみるよ」
「楽しみ~♪家族6人水入らずの旅行なんて初めてよ。今からワクワクしちゃう」
ヘミョンの言葉に 陛下以外は敏感に反応した。
「姉上、今、家族6人水入らずって言った?チェギョンは?」
「チェギョンは、家族じゃないじゃない。今回は、遠慮してもらいましょうよ」
「アンタ、バカ?本当に皇女なの?」
「えっ!?」
「文句があるなら、家族6人水入らずで行動してみろよ。行き先の手配もできないくせに偉そうなことを言うな!」
「なっ・・・!!」
「アンタさ、チェギョンの事、何だと思ってるわけ?それに翊衛士や女官も連れずに外出できるの?飯の用意もジュナの世話もあるのにさ。家族水入らずって、そういう事だろ?」
「・・・・・」
「やっぱ宮、潰すべきだったかも・・・シン、俺、チェギョン連れて帰りたい」
「ジフヒョン、ゴメン。姉上に代わって、俺が謝る。姉上は悪気があったわけじゃないんだ」
「尚更、性質が悪いでしょ。この人、翊衛士も女官もただの使用人か奴卑だと思ってるんじゃないの?皇族がこんな考えで、下の者や国民が慕ってくれると思う?俺は無理」
「・・・・・」
「TOPの一言は、周りに大きな影響を与える。特にシン、将来皇帝になれば、死罪を命じられる立場になる。声にする前に良く考えてから口にしな。これ、帝王学の基本だから。気分悪いから、俺、東宮殿に戻るね。それからアンタ、俺の前に二度と顔を出さないで」
ジフが部屋から出ていくと、全員がヘミョンを睨んだ。
「ごめんなさい」
「ヘミョン、貴女を留学させずにもっと手元で育てるべきだった。今更、後悔しても仕方ないけど・・・」
「お母さま・・・」
「・・・皇太后さま、有難い申し出ですが遠出は遠慮したいと思います」
「「ミン(母上)・・・」」
「ヘミョン・・・私の中ではチェギョンは娘で、大事な家族です。だから愛するジュナを託したの。貴女のその思慮のなさ、皇女としての資質に欠けているとしか思えない。私が元気なら座敷牢に閉じ込めたいぐらいだわ」
「ごめんなさい・・・」
「残念だが、ミンがそう言うなら仕方あるまい。ヘミョン、自分の部屋に戻って反省しなさい」
「・・・はい、おばあ様」
「陛下、貴方もいつまでも油を売ってないで執務室に向かいなさい!」
「は、はい」
「ミン、健やかに過ごせ。最高尚宮、慈恵殿に戻ります」
「御意・・・」
皇太后に続き、シンも皇后の事をハン尚宮に任せ、部屋を出たが、向かった先は東宮殿ではなくヘミョンの部屋だった。
ヘミョンがソファーで雑誌を捲っている姿を見て、シンはとうとうキレてしまった。
「ユン尚宮、アジョシがお前の事を役不足だと言い切った理由がようやく分かった。尚宮の務めができないなら、女官に降格するか、配置換えを申し出ろ!!」
「申し訳ありません」
「シン、ユン尚宮に当たるのは止めて。ちゃんと反省してるから・・・」
「それが、反省してる態度なのか?今ほど、姉上が憎く思ったことはない!俺が、なぜこの時期に旅行を言い出したと思ってるんだ!!」
「シン・・・?」
「完治して退院してきたわけじゃないことは、いくらバカでも分かるだろうが・・・これが、最後のチャンスだったんだ」
「えっ!?うそ・・・」
「最後に楽しい思い出を作れって、ジフヒョンが提案してくれたんだ。それをアンタがぶち壊した」
「ゴメン・・・本当にゴメン」
涙をボロボロ流しながら反省するヘミョンを見て、シンは溜め息を吐いた。
「姉上は我が儘で傲慢で、王立から排除された王族たちと同じだ。ホント見てて、吐き気がする。泣けば、許してもらえると思ってるのか?」
「・・・・・」
「一つ、聞いていいか?一度でもジュナのオムツ替えやミルクやりをしたことがあるか?」
「・・・ないわ」
「ハァ・・・チェギョンは、夜中泣き続けるジュナを何時間も抱いてあやしてるし、育児日記もつけてる。ジュナにとって、どっちが本当のヌナなんだろうな」
「それは・・・」
「それは、何だ?」
「チェギョンの仕事じゃない」
「仕事?宮は、13の少女を無償で働かせているんだ。労働基準法に反するよな。ジフヒョンの言うとおり、やっぱ潰した方が良かったのかもな・・・姉上、履き違えるなよ。宮が、13で立派にシン宗家を守っているチェギョンに『助けてくれ』と縋ってるんだ。その所為で、チェギョンの睡眠時間は間違いなく姉上の半分以下だ。皇族なら、もっと皇族らしい言動をしろ!!ユン尚宮、チェギョンの部屋と見比べて、この部屋で不必要だと感じた物は全部処分しろ!付いてこい!!」
「は、はい」
一人残されたヘミョンは、余りにも己が未熟すぎて涙も引っ込んでしまった。
なぜ周りの意見を素直に聞かなかったのか、押し寄せる後悔で押しつぶされそうだった。
(すべて驕りだった・・・役目も果たさず、ただ皇女と言うだけで自分は偉いと思っていた。人として欠けているのは、自分の方だった。お母さま、本当にごめんなさい)
この日を境に ユン尚宮はヘミョン付きの役職を解かれ、ヘミョンは皇太后預かりになり、慈恵殿に居を移すことに決まった。