シンが陛下と話している所に最長老がやってきた。
「最長老殿、お疲れ様です」
「陛下、この度はおめでとうございます。皇太后さまは、益々ご健勝のようでお喜び申し上げます」
「ありがとうございます」
「殿下も、お久しぶりでございます」
「ご無沙汰しております」
「パーティーが始まる前、ユン・ソギョン殿と孫にシン・チェギョン嬢とお話をいたしました。明るくて可愛いお嬢さんですな。皇太后さまより話は伺っております。殿下のお気持ちはお決まりになられましたか?」
「はい、先帝陛下の御心に感謝しています。彼女と添い遂げたいと思います」
「・・・かしこまりました。婚姻時期は高校の卒業式以降という事で、王族の取りまとめをしていきましょう」
「ありがとうございます。どうか宜しくお願いします」
「・・・いや最長老殿、来年の太子の誕生日でお願いします」
「え、陛下?!」
「チェギョンと再会してから、太子は見違えるほどしっかりしました。婚姻すれば、益々皇族として精進してくれるでしょう。ですから、早目に添わせてやりたいと思います」
「かしこまりました。では、そのように取り計らいましょう」
「ありがとうございます。陛下もありがとうございます」
「話は変わりますが、先程の出来事拝見させていただきました。あのような振る舞いを御前の前でしでかすとは・・・いやはや時代が変わったのか、王立も格が落ちましたなぁ」
「クククッ、最長老殿、時代は回るものです。兄上の時も凄かったですよ。お陰で私は、兄上の後ろでじっくり見極めて皇后を選べました」
「ホホォ、そうだったのですか。それは、孝烈殿下も大変だったでしょうな。ククク、殿下は別の意味でこれから大変でしょうな。あれが、府院君になるのですから・・・」
「えっ、最長老さまは、アジョシの事をご存じなのですか?」
「はい、よく存じ上げていますよ、あの父子のことは。チェウォンは昔から頭の回転が速い子で、人脈を作るのが上手かった。お陰で、王族の統率がよく執れました。ですが、頭がキレ過ぎるあまり少々可笑しな子でもありましたな」
「プククク、最長老さま、間違ってます。少々じゃなく、かなり可笑しいです」
「グハハハ・・・それでは、儂の前では少々猫を被っていたのかもしれませんな。おっ、チェギョン嬢がお色直しをされて出てこられましたな。これはまた初々しい・・・」
シンが、入口の方に目をやると、頬をピンクに染めて、大広間に入ってくるところだった。
そして何故か手には、梱包された薄くて四角い額縁のようなものを持っていた。
シンは、チェギョンに駆け寄ると、チェギョンの手からその荷物を取り、エスコートした。
「あのね、皇太后さまのお誕生日プレゼントなの。受け取ってもらえるかなぁ?」
「プレゼント?用意してくれてたんだ。直接、皇太后さまに渡せばいい。行こう」
「うん」
シンは、チェギョンと皇太后の前に行くとプレゼントを渡した。
「チェギョンから、皇太后さまへの誕生日プレゼントだそうです。良かったら、開けて見せてくれませんか?」
「あの、人に差し上げる程の絵じゃないんですが、自分の中では会心の出来なんです。皇太后さまの為にお描きしたので、良かったら飾ってください」
チェギョンの絵に興味を持った陛下や皇后、最長老まで、皇太后の周りに集まってきた。
皇太后が、後ろに控えていた最高尚宮に梱包を解くように言うと、傍にいた女官が丁寧に包装を解いた。
「「「!!!」」」
「これは・・・チェギョン、ありがとう。本当に嬉しい。この絵は生前のあの人そのもの。チェヨンさんと話していた時、よくこんな顔で笑っておられた。。。チェギョン、なぜこんな絵が描けるのじゃ?」
「へへ、家にあった写真を見て描きました。何枚か残っていて、一番いい笑顔のお爺ちゃまを選んだつもりです」
「チェギョン、今度あの人の写真を見せておくれ。こういう自然体の写真は宮にはないからのぉ」
「はい、是非」
「チェギョン、素晴らしい絵を母上にありがとう。私も生前の父上を思い出したよ」
「いえ、陛下。こんな未熟な絵で、却って申し訳ないです。あっ、皇后さま、以前お話しした絵をお持ちしました。宜しかったら、目につかない所にでも飾ってください」
「プッ・・・チェギョン、それ変だから。仮にも特別賞受賞作品だろ?」
「ダメ!あの絵を見ると、真夏の悪夢が蘇るのよ」
「「プクククッ・・・」チェギョン、ありがとう。では寝室に掛けるようにしましょう。なら、貴女の目に触れる事はないわ」
「はい、是非、そうお願いします」
「チェギョン、行こう。ユルも一緒に下でスィーツ食べないか?さっきチェギョン、食べ損ねたからさぁ」
「じゃ、僕もご相伴にあずかろう。皇太后さま、また遊びに来させていただきます。では・・・」
シンとユルに挟まれてチェギョンは、嬉しそうにスィーツに目掛けて行った。
皇太后、陛下、皇后の3人が、ある想いを胸に優しい眼差しで見つめていた事をシン達は知らなかった。
(近い将来、あの3人が宮を支えて行くだろう・・・楽しみじゃのぉ)
3人でワイワイ話している内に、気づけば閉会の時間になっていた。
チェギョンは、ジフとソギョンを探すが見つからない。慌ててスマホで連絡を取ろうとして絶句した。
「チェギョン、どうした?」
「ボケジジイに置いて行かれた。はぁ、着替えた韓服もあるのに・・・オッパ、探さなくちゃ」
「チェギョンさま、ジフさまでしたら、『先に東宮殿で待ってる』との事でございます」
「「はぁ?」ご、ゴメンね、シン君」
「クククッ、構わない。俺、あのナチュラルな感じ好きだし・・・たまに頭叩きたくなるけどね」
「アハハ・・・同感。私、シン君待ってるから、後で連れて行ってくれる?」
「OK。賢くしてるんだぞ」
シンは、チェギョンを会場で待たせて、参加者に挨拶するため出口へと向かった。
シンの後姿を見送って、振り返ると今さっきまでいたユルの姿がどこにもなかった。
(あれ?ユル君、どこ行ったんだろう?まさか、帰っちゃった?)
チェギョンは、手持無沙汰になり恐縮する女官たちと一緒に会場の後片付けをし始めた。
(ケーキ、勿体ないなぁ・・・オンニたちの口に入ったらいいのに・・・)
「チェギョン、お待たせ。後片付け、手伝ってくれてたのか?」
「うん。ボーッと突っ立って待ってるの居心地悪くって・・・」
「そっか。じゃあ、戻ろうか。みんな、お疲れさま。お先」
『殿下が明るくなった』と噂で聞いていた女官たちは、その原因が分かり、チェギョンと手を繋いで戻って行く後姿を微笑ましく想い見送った。
東宮殿に戻り、シンの私室に足を踏み入れると、ソファーでジフが寝ころんでいた。
「オッパ、どこで寝そべってるのよ!?」
「ん?ソファーだけど?」
「クスクス、この宮で寛いでいただけて何よりです。俺、ちょっと着替えてきます」
シンがクローゼットに消えると、チェギョンが思い出したように声をあげた。
「あーー!着替えた韓服、置いてきちゃった。取りに行かないと・・・」
「ああ、あれ?多分、親父が持ち帰ってるんじゃない?忘れてても宮がクリーニングしてくれるんじゃない。大丈夫だって」
「それ、どう大丈夫なのよ?!それよりアッパ、来てたの?」
「うん。親父なら、人目に付かず宮に入りこむぐらい朝飯前じゃないの?さっきの会場にもいたみたいだし・・・」
「えっ、そうなの?」
「招待状のないユル君があの場にいたんだ。監視の盲点もしっかり把握してるんじゃないの?」
「そんなでいいの、宮?」
「さぁ?俺、宮関係者じゃないし・・・」
シンは、きっと暗行御吏しか知らない抜け穴があるのかもしれないと、着替えながら話を聞いていた。
シンがクローゼットから出てくると、チェギョンはジフに凭れながらウツラウツラしていた。
(まさか、また盛ったんじゃ・・・)
「チェギョン、連れて帰ってあげるから安心して寝な」
「ぅん・・・zzzzz」
「そんな目で見ないで。絵を仕上げるのに睡眠時間削ってたからだし・・・」
「あっ、そうなんですか・・・」
「まぁ、安定剤を少し入れたけどね」
「やっぱり盛ってるじゃないですか!!」
「クスクス、報告をしないとね。ヤン建設、規模は縮小されるけど倒産までは追い詰めない。仲間の令嬢たちの家も同じかな?あとパソコン、借りたから」
「パソコンを?それは良いですけど、何をしたんですか?」
「ん?王立の理事長にさっきの動画、送ってあげた。『王立自慢のお嬢様たち』って、subにコメント入れて、ちゃんと俺の名前と連絡先付けて送ってあげた。俺って親切だよね」
「・・・それ、親切なんですか?」
「王立学園に傷をつけた学生を教えてあげたんだよ!?私立の学校は、経営が大変なんだって。噂一つで入学者数変わるからね。きっとあの学生達、退学もしくは放校だよね。クスクス・・・」
「ジフさんのお仕置きは流石ですね。ある意味、感心します」
「ありがと。で、今からお嬢様の尋問だと思うけど、今後公の場に出入り禁止希望」
「公の場とは?」
「各界のパーティーや音楽・演劇鑑賞、あと展示会や発表会の類。シン君や俺らが関わる可能性のある所!我が儘お嬢は、チェギョンを逆恨みしそうでしょ」
「よく分かりますね」
「ジュンピョの彼女が、昔よくヤラれてたからね。徹底的に排除するまで、続いたんだよね」
「徹底的に排除って・・・めちゃくちゃ怖いんですけど?」
「うん?結婚したら落ち着けばいいのに パーティーで罵倒したから、実家と婚家に圧力を掛けただけ。離婚して勘当になったらしいと噂で聞いたけど、あとは知らない」
(やっぱりこの人たちを敵に回すのは、回避しないと・・・)
「じゃ、俺、チェギョン連れて帰るから・・・」
「あの、さっき聞こえたんですが、宮に抜け道があるんですか?」
「さぁ、俺は知らない。でも歴史からいって、1つぐらいあるんじゃない?ユル君に聞いてみな。じゃあね」
ジフは、チェギョンを抱き上げると、東宮玄関に向かって去って行った。
(ホント、あの環境でチェギョンはまっすぐ育ったよな。ある意味、スゴイかも・・・)
その後、陛下と令嬢たちを尋問した結果、チェギョンを排除して、シンと接触するつもりだった事が分かった。
シンが憮然としていると、陛下がクスクスと笑いだした。
「君たちのような者は、いつの時代にもいるものだな。少し懐かしく感じたよ。今は亡き兄上は、君たちのような見かけだけを磨き、競っている女性を毛嫌いしていた。勿論、私もだが、太子が友人を貶めた女性と笑って談笑すると思ってたのか?成人しておるのに浅はかとしか言いようがない。君たちに人生の先輩から一言。親の地位、財産をアテにせず、自分の足で立てるようになりなさい」
陛下はそう言って、ジフが希望した処分プラス携帯没収の上、軍の下働き5年を言い渡した。
「5年、誰の手も借りずに生活できたら、自立できるだろう。軍から戻っても実家暮らしや親の援助は許さない。自分で、公の場に出なくてもいい結婚相手も見つけなさい。皇太后さまの祝賀パーティーでの愚行、宮を甘く見ておらぬか?チェギョンが許しても、私達は許さない」
(陛下、こぇ~~!親子共々、顔真っ青だし・・・まぁ、刑務所に入るよりマシだと思うんだな)