宮が抱えていた問題が片付き、拝観休日の日、朝の挨拶の時、シンのスマホにLINEが入った。
≪午前9時に勤政殿前に集合!水筒・懐中電灯持参≫
「陛下、9時に勤政殿前に集合だそうです。持ち物は水筒と懐中電灯だそうです。プククク・・・」
「ホホホ・・・ヒョンが水筒を斜め掛けにして遠足ですか?フフフ・・・」
「///母上、斜め掛けなどしません!しかし集合場所が宮廷内とは・・・」
「陛下も太子も早く戻って、朝食を摂った方が良いのでは?今日は、かなりの運動量になりそうですよ」
「そうだな。母上、ではお先に失礼します」
「ホホホ・・・チョンや、ヒョンのあのような顔を見るのは初めてじゃ」
「クス、はい、私もでございます。とても楽しみにされておられたのでしょう」
9時前、ヒョンが勤政殿前に行くと、もうすでに集合していた。
「陛下、おはようございます。まず紹介しますね。息子のチェジュン、隣がペク・チュンハ、でハン・ジョンジェです」
「君がジョンジェか・・・話には聞いていたが、本当に兄上に良く似てるよ。叔父のヒョンです。君に会えて嬉しいよ。宜しくね」
「は、はい」
「陛下~、プライベートならユル君も叔父さんでいい?」
「勿論だとも。ユル、叔父でいいぞ。太子も父と呼べ」
「おいおい、太子じゃなくて、シンでしょ。それから俺、宮ではウォンだから。チェジュンもジュンで省略して。後々、その方が便利だろうしね」
「分かった。そう呼ぶとしよう」
「じゃ、出発ね」
そこからはチェウォンの独壇場で、面白い史実を交えながらあちこち案内し、入り組んだ秘密の通路を探検していった。
「凄い・・・今まで、全然知らなかった」
「万が一、敵が攻めてきた時の王様の避難通路だと思うんだよね。迎賓館はソンジョおじさんの時代の建物だけど、戦後の混乱時だったから隠し部屋を作ったみたい。結局はパーティーで不審な人物がいないか、俺らが監視する場所になったけどね」
「アジョシ、何で昔教えてくれなかったんだ?」
「子どもだったから・・・教えたら家出してただろ?それに迷子になったら、俺一人で探さないとダメじゃん。面倒なこと嫌いだし」
「そこかよ!」
「ジュンとチュンハはしっかり覚えないとダメだけど、陛下たちは宮の歴史を後世に伝え残すという意味で覚える程度で良いと思う。ジョンジェは、パクおばさんに会いに来る時に忍び込む経路だけしっかり覚えて」
「はい!」
「じゃ、飯にしよう。坊主、昔、教えた内医院の薬草倉庫の場所、覚えてるか?」
「ん?ああ、覚えてる」
「そこに俺がせっせと運んだ荷物が置いてある。ユル君と一緒に取りにいって、水刺間に持ってきて」
「えっ!?親父、まさかあれをここでやるのか?」
「当然だろ?宮廷内で、一度はやってみたい飯盒炊爨だぞ!」
「「「!!!」」」
「久しぶりだなぁ~。じゃあ取ってくるから、水刺間の掃除頼むね」
シンがユルと一緒に荷物を取りに行くと、残りの一行は旧水刺間に向かった。
「おい、ウォン。シン殿下、久しぶりと言ってたぞ」
「ああ、昔、やったもん。だから、坊主は2回目だな。あの時は、火と水の大切さを教えたんだ」
「・・・あの頃、本当に大学の講師かと信じられなかったが、色々教えてたんだな」
「俺、体験学習派だから。体で覚えたら、結構忘れないもんだぜ。陛下、これ用意するもの。コンちゃんに頼んであるから、東宮殿に取りに行って」
「えっ!?」
「だって俺たち、忍び込んでる不審者だし~♪」
「プッ、分かった。ちょっと行ってくる」
陛下はメモを受け取ると、東宮殿に向かって歩いていった。
「さぁジョンジェ、ここの掃除をしよう」
「俺は、チュンハアジョシと枯れ木と枯れ葉集めだな」
「流石、我が息子。チュンハも宜しくね」
シンとユルが何往復もして荷物を運んだり、陛下が荷物を載せた台車を押してきたり、竈に火が点かず大騒ぎしながら、お得意の冷麺とチヂミを作り、全員で土の上に座り込み食べた。
「うめぇ~!やっぱり汗水たらして作ったら美味いな」
「クスクス、本当だね。僕、初めての経験かも・・・」
「私もだ。まさか自分がするとは思わなかったよ。いい経験になった」
「俺は、もう嫌だ!皆は1回だから言えるんだよ。1日3食これはキツイから。シン家の恒例行事は、これプラス井戸から水汲みと風呂沸かしがあるからね。真夏にこれは死ぬよ?良かったら、俺の代わりに体験する?」
「「遠慮する」」
「水臭い奴らだなぁ~。ジョンジェ、お前なら喜んでするよな?」
「絶対にしません!!」
「お前、何で神話学園辞めたんだよ。いたら、絶対扱き使ってやるのにさ・・・」
「俺、芸大に入ってよかった・・・」
「まぁ、今年の夏は、俺も忙しいし無理だな。ユル君の集中夏季講座だし。秋には公務デビューしような」
「げっ、頑張ります」
「・・・ウォン、チェギョンも夏休みから訓育を始めないか?」
「・・・ヤダ」
「アジョシ!」
「だって坊主、チェギョンに何も言ってないだろ?チェギョンから婚約の話なんて聞いたことないけど?」
「あっ・・・」
「えっ、シン、チェギョンに何も言ってないわけ?」
「クククッ、宮が空回りして暴走してるってか?笑えるな」
「シン、明日にでもしっかりチェギョンにプロポーズしてこい!!詰めが甘いにもほどがあるぞ」
「///すいません」
「坊主、前にも言ったが、チェギョンがOKなら何も言わない。2人で決めろ」
「ありがと、アジョシ。俺、これ食ったら、チェギョンに会いに行ってくる」
「ちょ、ちょっと待て!今から、プ、プロポーズしに行くのか?」
「そうだけど?」
「とりあえず、全員で後片付けが終わってからだ。で、チェギョンを宮に呼び出せ」
「へ?いいの?」
「あ、やっぱりダメ。いや、でも見たくないし・・・」
「親父、テンパってるぞ。少しは落ち着け!ちょっと頭の中を整理しような。で、何でシンヒョンが家に来たらダメなんだよ」
「だってプロポーズするんだぜ。OKだったら、絶対チューするよな?俺、そんなの見たくないし・・・」
「///覗く気か!!」
「まぁまぁ、シンヒョンも落ち着いて。じゃあ親父、宮にヌナを行かせたら良いじゃん」
「チェギョンがOKしたら、坊主、即押し倒して、解禁しそうじゃん」
「はぁ?するか!!」
「絶対?結婚まで禁欲皇子でいてくれる?気持ちいいけど、我慢できる?」
「「「ププププ・・・・」」」
「それは・・・///お前ら、笑うな!!」
「クククッ・・・親父、あんまり我慢させるといつか暴発すんじゃね?それもヌナ、可哀想だと思うけど?」
「だよな?俺、結婚して4年我慢した後で、ガッついたもんな」
「ガッついたのかよ。よくオンマ、壊れなかったな」
「だって俺、そんなに大きくないし、30前だったし・・・坊主、今から一緒に風呂入るぞ。確認させろ!」
「はぁ、バカか!?何で、未来の舅に見せなきゃなんないんだよ?」
「絶対、坊主のデカいもん。可愛いチェギョンが潰れたらどうすんだよ!?」
「潰れるか!!」
「クククッ・・・ヌナ、小さい時、大人になったら気持ちい事一杯しようねって言ったらしいじゃん」
「・・・言ってた。ついでにソンジョおじさんにも『今晩、頑張れ。約束よ』って言ってた」
「///クソ親父!シン・チェジュン!!一体、何の話をしてんだ!!」
「俺、やっぱり反対する。チェギョンにOKするなって言う」
「アジョシ、今更、何言ってんだよ!?少しは正気になれ」
「なってるから言うんだ!!」
もうシンとチェウォン以外は、お腹を抱えて息ができないぐらい笑い転げていた。
「クククッ・・・く、苦しい。ウォン、私がしっかり見張ってるから、チェギョンを宮に呼び出させてくれないか?」
「ヒョンく~ん、絶対だよ?坊主を解禁させないでね」
「ああ、させない。約束しよう」
「ククッ・・・ウォン、お前暗行御吏だったんだろ?元翊衛士の俺より宮の事を良く知っている筈だよな?」
「チュンハ、何が言いたい?」
「肝心な事を忘れてる。合房(ハッパン)・・・初めてが合房は可哀想だと思わないか?」
「あ~~~~!忘れてた~~~!!俺は、どうしたらいいんだ~~~!」
「アジョシ、いい加減にしろ!!チュンハ、お前も余計な事を言うんじゃねぇ!!」
チェウォンが頭を抱えて蹲る姿がおかしくて、またしても大爆笑が宮の片隅で起こった。
(シン教授、面白すぎるでしょ。それに息子のチェジュンもやっぱ曲者だよなぁ・・・)
(実に楽しい。太子がチェギョンと婚姻すれば、もっと楽しみが増えるぞ。これは早く婚姻させないと・・・)
(バカだ。。。)