シンが公式にコメントを出し、温かく見守ってほしいと要請した為、マスコミは第一報は報道したが、それ以降は表面上は静観することにしたようだった。
しかし国民の興味は尽きる事がなく、経済誌に載ったジフ達の対談の所為で、シン家の面々に注目しだした。
「ジフ、お前達の所為だからな。全然、気晴らしができない。俺、窒息しそう・・・」
「クスクス、世間一般の大半の人は、家と職場の往復らしいよ」
「大体、世間は何で俺みたいなおっさんに興味持つんだ?あり得ないだろうが!」
「クククッ・・・親父の教え子たちが取材に答えたからね。もっとまともな講義していたら、ここまで興味持たれなかったんじゃないの?何なら俺たちが、数々のエピソードをマスコミに語ってあげようか?」
「勘弁してくれ!変人扱いされる」
「今更じゃん。もうこうなったら親父が取材に応じれば?それが一番だと思うよ」
「ハァ?・・・ヤダね。仕方ない、開き直るとするか・・・」
「そう、そう」
しかしチェウォンが開き直って普段の生活に戻り出した頃から、シンとチェギョンの政略結婚説が実しやかに流れ出した。
そして再び、チェウォンがマスコミの注目の的になってしまった。
『シン教授、お話を聞かせてください。シン教授は、宮に政略結婚を持ちかけられたんですか?』
「は?宮的に大学教授の娘のどこにメリットがあるのか、僕が教えてほしいですね。僕側にとってもこの縁談はデメリットでしかない」
『えっ!?』
「考えても分かるでしょ。もし結婚でもすれば、娘が後ろ指さされないよう僕達は言動に気を遣わなければならない。独身の甥も縁遠くなるでしょうし、何より僕の存在が気を遣わせることになることが耐えられない」
『ですが、お嬢さんは≪スアムの姫君≫ですよね?』
「それはあなた方が勝手に言っているだけでしょう。確かに僕の家内はユン・ソギョン元大統領の娘で、僕が逆玉の輿と言われても仕方ないですが、お義父さんから援助してもらった事はないです。住んではいませんが、今も家のローン払ってます。儒教社会のわが国では、娘は大学教授の娘でしかありません」
『えっ!?ですが・・・』
「父が先帝陛下と友人で、僕の知らない間にお互いの孫自慢から娘と殿下を遊ばせていたんです。気づいた時は手遅れで≪結婚の約束をした≫とか言うし・・・父が亡くなった時にこれ幸いと宮と縁を切った訳ですが、ソンジョおじさんが遺言を残してたそうで、僕としては不本意ですが認めざるを得なかっただけです」
『では、お二人のことを反対されていたのですか?』
「・・・僕は、小さい頃から皇族の皆さんの大変さをずっと見てきた人間です。だから娘を嫁がせたいと思った事は一度もないです」
『小さい頃からですか?』
「・・・皇族は、生まれ落ちた瞬間から女官の手によって育てられます。現皇太后さまは当時とても嘆かれたそうですが、どうすることもできなかったようです。で、母親のいない僕が孝烈殿下や現陛下の代わりにこっそりとよく面倒を見てもらっていました。おこがましいですが、皇太后さまと最高尚宮さまは僕にとって母のような存在です」
『ですが、陛下たちのご学友ではないですよね?』
「僕の方が年上ですから・・・それに先帝陛下と父は、僕を両皇子さまとは接触させたくなかったようです。勉強はできた方なんですけどね」
『教授は殿下の教育係をされていたようですが、殿下のことをどう思われていますか?』
「ん~、小さい頃から不憫なほど頑張っておられましたよ。だから父親になったつもりで宮廷内でいっぱい遊びました。殿下の口から娘の話が出た時はムカッとしましたが・・・今も心情的には変わらないですね。愛おしい半面、ムカッとします」
『では、今も反対をされているんですか?』
「・・・親は子供には勝てません。娘が幸せに笑ってくれていたら、僕は娘の選択を応援します。もう良いですか?」
このチェウォンのインタビューが報道を受け、今度は皇太后がテレビに出演した。
『皇太后さま、当番組に出演頂きありがとうございます』
「いいえ、ウォンが非難の矢面に立っていたので、助太刀しようと思ったまでです」
『ウォンと仰いますのは、シン・チェギョンさんの父親であるシン教授のことでしょうか?』
「ええ。ウォンが私のことを母のような存在だと言ってくれ、嬉しく思っています。ウォンは我が子以上に私に甘えてくれてましてね。あの当時は、本当に私にとって癒しの存在でした」
『そうなんですか。皇太后さまにとっても息子のような存在なのですね』
「ふふふ、確かに・・・ちょっと風変わりですが、情に篤い優しい子です。ここではっきり申し上げておきます。ウォンが娘を使って宮と縁を結ぼうと策略したなどと噂があるようですが、全くの出鱈目です。亡き夫が、孫の可愛いお強請りに遺言と言う勅書を残したからです」
『孫と言うのは皇太子殿下のことですよね?可愛いお強請りとは、どのようなことだったのでしょう?』
「≪チェギョンと結婚の約束をしました。だからチェギョンにも僕と同じように可愛い、可愛いしてくださいね≫。太子が4歳ぐらいの出来事です」
『おお、確かにお可愛らしいお願いですね。先帝陛下は、それで遺言を残されたのですね』
「ええ、そうです。最初の申し出の際、チェヨンさんには冗談としか受け取ってもらえず、ウォンには≪ジジイ、呆けたのか?孫バカも大概にしろ≫と一蹴されたので、遺言で遺したしたようです」
『シン教授は、その当時から反対されていたのですか?』
「反対と言うより、幼児の言葉を大の大人が真剣に捉えるな。大人は、前途ある子どもの将来を決めつけず見守ればいいんだと、夫はウォンに説教されたと苦笑いしていましたね」
『皇帝に説教ですか?』
「ふふふ・・・シン親子ぐらいでしょうね。先帝の頭を叩き、説教をしたのは・・・だからこそ先帝は、豪快で優しいシン親子と縁を結びたかったんだと思います。病に倒れてすぐ、シン・チェギョン嬢を太子イ・シンの許嫁とする。ただし、2人の想いが重ならなければ無効とすると遺言に遺したのです」
『そうだったのですか・・・』
「宮が諦められず、太子を芸術高校に進学させ、一度切れてしまった2人の縁を結ぼうとした。そして2人は再び想い合うようになった。これが事実であり、決してウォンは政略的な事を目論んでいないということを分かってほしい」
『皇太后さまのお言葉、国民は十分に理解したと思います。最後に一つだけ、豪快で優しいシン親子と仰いましたが、もしよろしければ何かエピソードをお聞かせいただけないでしょうか?』
「お話しできないことが多いのですが、そうですね・・・ウォンの教育方針は変わってましたね。ある日、2人で出かけ煤だらけで宮に戻ってきたことがありました。炭釜を訪れて、木炭の作り方を教わり貰ってきたそうです。そして宮内にある池のほとりでバーベキューをし、キャンプをしてましたね。夜は、寝ころびながら星座や神話の勉強をし、翌日は早朝から蓮が咲く音を聞いたそうです」
『失礼ですが、そんな事が宮内で許されるのでしょうか?』
「クスクス、ウォン以外そんな発想をする人間はいないでしょうね。ですが、大人に囲まれ委縮していた太子が、子供らしく振舞って笑っているのです。それに期待以上の学力も付いていたら、止められる訳がない。言っておきますが、ウォンは公私混同をするような子ではありませんよ。太子とチェギョンが再会して、大好きだった先生とチェギョンが親子だと太子は知り、驚いていましたから・・・」
『えっ、そうなのですか?国民は、益々シン教授の人柄に魅かれそうです。本日は、ありがとうございました』
チェウォンと皇太后のお陰で、シンとチェギョンの政略結婚説が払拭された。
しかし司会者の言葉通り、この座談会が放送されて以来、チェウォンは益々マスコミに追いかけられるようになってしまった。
「パクおばさん、ホント何の嫌がらせだよ。もう勘弁してってば・・・」
「クククッ、褒められて嫌がるのは、ウォンお前ぐらいじゃ。恥ずかしいエピソードを話されなかっただけでも感謝せぇ」
「///・・・・・」
「皇太后さま、アジョシのエピソード教えてください」
「坊主、黙れ!」
「ホホホ・・・チョン、色々あったのぉ」
「はい、皇太后さま。本屋に連れていけばヌード写真集を強請られ、先帝さまが高校入学祝は何が良いかと聞けば、祝い入らないから女性を教えてほしいと言って頭を叩かれていましたなぁ・・・」
「///チョンちゃん、止めて!俺がただのエロガキみたいに聞こえるだろ」
「ウォン、その通りではないか・・・」
「・・・ウォン、一つ聞くが、私が思春期に入った頃、私の枕元に如何わしい雑誌を置いた事はないか?」
「ん?ああ、置いたよ。ああいうエロ雑誌は友達と回し読みするんだけど、ヒョン君達は誰からも借りれないし、真面目だから侍従に買ってほしいとも言えないだろうと思って、親父にバレルまで何回か置いた。結構とっておきの置いたつもりだけど活用できた?」
「ウォン!お前と言う奴は!!」
「クククッ、最高尚宮、そう怒るな。そうか、ウォンだったのか・・・驚いたが、楽しませてもらったよ」
「陛下!陛下までウォンを甘やかさないでくださいませ」
「チョンちゃん、血圧上がるよ。でもさあの後、親父に風俗連れて行かれて、店で≪息子の初めてを貰ってやってください。ご指導宜しく≫なんて、親父頭下げるんだぜ。どれだけ恰好悪かったか・・・」
その光景を想像して、居間にいる者たち全員が爆笑してしまった。
「ヒョン君、何で笑ってるんだ?ヒョン君だって、俺と変わらないからね。坊主もだぞ」
「えっ!?アジョシ、どういう事?」
「親に童貞喪失日を知られてるってこと。俺は親父だけだけど、ヒョン君や坊主は後世まで活字で残るからね」
「「///なっ!」」
「フフフ・・・ウォン、忘れてはならぬ。殿下の喪失日と娘の喪失日は一緒ぞ。そして後世まで活字で残るからの」
「チョンちゃ~ん、忘れてたのに~(泣)」
「クククッ・・・アジョシ、墓穴掘ったな」
「うるせぇ!コンちゃん、坊主とチェギョンの事は日誌に書かないで。知りたくない」
「クスクス、一応聞いておく」
「バカ、そうじゃないって・・・あの日誌、暗行御吏は調べ物をする時利用するんだ。俺、結構熟読したもん。で、読んでたら分かるんだよ。ああ、あの時の子だなとか・・・娘や姉のそんなの知りたくないし。書くなら、息子に継がせないよ」
「・・・分かった。絶対に記入しないと約束しよう」
「サンキュ。ヒョンく~ん、いつの子か知りたかったらソンジョおじさんの日誌、読んでみなよ」
「クスクス、遠慮しておこう」
「そう、残念。坊主、書かれないと知ってサカるのは止めてね。俺、泣くからね」
「アジョシ・・・ホント馬鹿だね」
呆れるシンに チェウォンはニヤリと笑った。
「ウォン、そろそろ本題に入らぬか?」
「パクおばさんには、全部お見通しみたいだね。坊主、週一回芸校で補習を受けてもらう」
「えっ!?」
「コンちゃんが言ってた未修の帝王学を俺が講義する。宮に通う事は出来るだけ避けたいから、芸校で行いたい。俺も忙しい身だ。だから週一回で勘弁してほしい」
「あ、うん・・・」
「坊主、俺を信用してないだろ?ジフとその友達は、俺が英才教育で帝王学と危機管理術を教えたんだ。ちょっと過激だが完璧だろうが・・・コンちゃん、そういうことで坊主とユル君のスケジュール調整お願いね。俺としては、月曜日が希望」
「分かった。ウォン、礼を言う」
「坊主、ある程度の帝王学を身に着けていなければ、婚姻してもチェギョンを守る為にジフ達が動くことになる。そうなると再び政略結婚だと言われかねない。厄介な王族を巧く操縦して、国民の象徴となる。これが宮と皇族の存在する意義だ。俺が知り得る知恵を全て伝授する。覚悟しておけ」
「うん、お願いします」
「今からそんなに緊張しなくて良いって。親父の帝王学を俺風にアレンジした帝王学だし、まぁ楽しみにしててよ」
その言葉に最高尚宮が嫌そうな顔をし、その顔を見てチェウォンは不貞腐れたが、それ以外の者は大笑いしたのだった。
チェウォンの皇帝学は怖ろしく変わっていたが、シンとユルは納得しながら貪欲に吸収していったのだった。
(げっ、俺らの時より相当バージョンアップしてる。話している内容は変わらない気がするけど・・・本当に帝王学か?未来の宮を背負って立つ2人が、こんな講義受けてるなんて絶対に言えない)
蔭から講義を盗み見ていたジフは、首を振って深い溜め息を吐いたのだった。