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シン・チェギョンという許嫁 第1話

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学校から戻ったシンは、コン内官の不在に気がついた。

「おかえりなさいませ」
「チェ尚宮、コン内官はどうした?」
「はい、午前中陛下に呼ばれ、そのままお姿が見えません」
「・・・分かった」

私室に入ったシンは、少し考えてから制服から普段着に着替えた。

(コン内官がいないなら執務もないだろうし、スーツ着なくても良いよな・・・久しぶりにカメラ雑誌でも読もうかな)

コーヒーを啜りながらカメラ雑誌に目を通していると、突然スマホが鳴り、キム内官に正殿に呼び出された。

(陛下が呼び出すなんて、何があったんだ?また身に覚えのない事で叱責されるのか・・・はぁ・・・)

うんざりしながら正殿に赴くと、居間にはハンカチで目頭を押さえている皇太后と見知らぬ男性と密談している陛下の姿があった。

「失礼します。お呼びと伺い参りました」
「・・・掛けなさい」
「・・・・・はい」

シンは一人掛けのソファーに座ったが、3人とも口を開こうとしなかった。

「あの・・・一体、僕は何のために呼ばれたのでしょうか?それにこちらの方は、どなたでしょう?」
「あっ、すいません。初めてお目にかかります。宮の顧問弁護士をしているイ・ジョンヒョンと申します。宜しくお願いします」
「はぁ」

弁護士と聞いてシンが戸惑っていると、陛下が皇太后に話しかけた。

「皇太后さま、もう解放してあげましょう」
「どうやって解放するのじゃ?」
「今すぐ別の女性と太子に婚姻をしてもらいます」
「えっ!?」
「別の女性とは誰じゃ?目的のためには手段を選ばぬ王族の子や例の娘は、絶対に認めぬぞ。そんな娘を入宮させるぐらいなら、李王朝の幕を下ろした方がマシじゃ」
「皇太后さま!!」
「「!!!」」
「諦めきれぬのじゃ。誰に聞いても悪い話は聞かぬ。じゃが太子がこれでは、王族から守ってくれぬだろうの。ハァ・・・八方塞じゃ」
「一体、何があったのですか?なぜ突然、僕の婚姻の話になるんですか?」
「殿下、私からご説明させていただきます。ある宮所縁の方が、全く身に覚えのない借金を背負いました。ガラの悪い連中に取り立てに遭うようになり調べてみますと、王族が絡んでいました。その王族には、年頃のお嬢様がいらっしゃいます」
「えっ!?皇太子妃の座欲しさの犯行なのですか?」
「はい、私どもはそう思っております」
「王族同士が潰しあいですか・・・」
「太子、被害者は亡き父上の親友だった人のご子息で民間人だ。そのご子息のお嬢さんこそ、先帝がお決めになった許嫁なんだ」
「は?」
「なぜ私達が芸術高校への進学を簡単に許したと思う?許嫁の彼女が進学を希望していると聞いたからだ。自然と知り合って、仲良くなってくれたらと思っていたんだ」

突然、許嫁の存在や陛下たちの想いを知らされ、シンは頭が真っ白になった。

「今回は父親だったが、お嬢さんは許嫁になった時から何度も命の危険に晒されている。交通事故、ひき逃げ未遂数回、駅のホームや歩道橋の階段から突き落とされたこともあった。そんな辛い経験をしているにも関わらず、前向きで明るいお嬢さんらしい。太子、お前の人生だ。好きな女性と婚姻してほしい気持ちはある。だが、今付き合っている女性を皇帝としても父親としても認める訳にはいかぬ。早々に手を切りなさい」
「えっ!?ちょっと待ってください。僕に付き合っている女性などいません!」
「ん?それは真か?」
「はい。一体、誰がそんなデマを流しているんですか?」
「・・・殿下、お言葉を返すようですが、芸術高校の全校生徒が舞踊科のミン・ヒョリン嬢を殿下の恋人だと認識しています」
「ヒョリン!?確かに友人のカン・インに紹介されましたが、僕にとってはインの友人と言う認識しかないです」
「それが事実だろうと、いつも同じ女性を傍に置いて、呼び捨てを許していたら、ミン・ヒョリン嬢が否定しない限り、殿下が否定されても誰も信じないでしょうね。残念ながら、ミン・ヒョリン嬢は殿下の恋人という立場を有効に使っている節があります」
「はぁ!?どうして一弁護士であるあなたが、そこまで詳しく知っているんですか?」
「それは、芸術高校に私の娘が在学していて、殿下たちをつぶさに見ているからです。娘が言うには、ミン・ヒョリン嬢は舞踊科では浮いた存在で、周りを見下した態度なので煙たがられているようです。その証拠に殿下と御曹司3人以外と話そうとしません。娘曰く、同性から嫌われる女にまともな女はいないだそうです」
「太子、父上はお前の許嫁に普通の会社員の娘を選んだぐらいだ。だから身分に拘るつもりはない。だが、相手によって態度を変えるような子はいただけない。これは皇族だからではなく、人として許せる行為ではない。これは分かるな?」
「・・・・はい」
「殿下、ではなぜ御曹司達以外と接触を持とうとされないのですか?殿下の態度が、御曹司達やヒョリン嬢の特権意識を助長させているのですよ」
「えっ!?」
「ここに報告書があります。これは娘の証言だけではなく、調査し、また他の生徒や先生方にも聞いて作成しました。東宮殿に戻ってから、じっくりとご覧になってください」

そっとシンの目の前に一冊の報告書が置かれた。
シンが報告書を手に取ろうとした時、廊下で待機していたキム内官が慌てて居間に入ってきた。

「陛下、大変です。チェギョンさまが階段下で倒れているのを発見したそうです。意識がないことから階段から落ちたと思われると連絡がありました」
「何だと!!」

話の途中だが、イ弁護士は席を離れ、廊下で誰かに連絡を取り出した。

「頭を打っている可能性がある為、只今救急車を呼んだそうです。王立病院に連絡を入れてほしいとのことでしたので、受け入れ要請をいたします」
「宜しく頼む。家族に連絡は?」
「翊衛士がすると思います」
「分かった」

キム内官が病院に連絡を入れていると イ弁護士が戻ってきた。

「イ弁護士、何か分かったか?」
「はい。放課後、居残って課題を仕上げていたそうです。絵筆を洗ってくると言って教室を出たまま戻ってこないので、探しに行ったら階段下で倒れていたそうです」
「不注意で落ちたという事はないのか?」
「間違いなく故意だと思われます。2階の教室で作業をしていたのに発見現場は一階でした。そして絵筆を洗っていた筈の水道は出っぱなしだったそうです。宮絡みかどうか分かりませんが、警察が来る前に今から学校に行って防犯カメラの映像を回収してまいります」
「すまぬが、宜しく頼む。病院には、コン内官に行かせよう」
「おそらく娘のガンヒョンが、同行して付き添っていると思います。詳しくは、娘からお聞きくださいとキム内官にお伝えください。では、お先に失礼いたします」

イ弁護士が部屋を出ていき、キム内官や陛下がその場であちこちに連絡を入れ出した。

「母上、とりあえず宮内警察預かりにしてもらいました。報告書を読む限り、恨みを買うような娘ではないですし、間違いなく宮が絡んでいると思います」
「可哀想に・・・こんなに続いたら、入宮の打診なぞ申し訳なくて出来ぬわ。太子、早急に誰かと婚姻をしておくれ。但し、噂になっておる娘ごは絶対に認めぬ。認めるぐらいなら、ヒョンの時代で李王朝の幕を下ろす」
「皇太后さま!!」
「シン、婚姻を先延ばしにしたいからと許嫁で妥協しようなどと不埒な事は思わぬようにな。これ以上、先帝が認めた娘を不幸にはしたくない」

皇太后の言い草にシンは、少し腹を立てた。

「皇太后さま、僕の許嫁は誰なのか教えてくれませんか?知り合ってもいないのに拒否することも同意することもできませんから・・・」
「・・・ヒョンよ、やはりイ弁護士の言う通りのようじゃな。自己中心的で周りに無関心すぎると見える」
「申し訳ありません、母上。太子、学校で2年間も何を習っていたのだ?周りをしっかり見ていたら、誰が許嫁か分かった筈だ。例え、許嫁だと分からずとも不思議に思った筈だ」
「えっ!?」
「許嫁には、翊衛士が日替わりで付いている。当然、東宮殿の翊衛士も中にいる。高校に入学してからは、非番の時自主的に警護してくれている者が多数いると翊衛士長から聞いている。まさか気づいていないとはな・・・」
「・・・・・」

全く気付かなかったシンは、何も言い返せず俯くしかなかった。

「太子も突然色々言われて戸惑っていることだろう。東宮殿に戻って、少し頭の中を整理しなさい」
「・・・はい。では失礼します」

目の前の報告書を手にすると、正殿居間を出て、東宮殿に戻った。

「チェ尚宮、コン内官以外誰も部屋に通すな。いや、東宮殿付きの翊衛士を一人、連れて来てくれ」
「???殿下付きの翊衛士なら誰でも宜しいのでしょうか?」
「・・・陛下か皇太后さまの命令で、女子高生の警護をしたことがある者を」
「・・・かしこまりました」

私室に入るとソファーに座り、シンはイ弁護士に渡された報告書を開いた。
そして読んで、友人達の信じられない振舞いと生徒達の想いを知り、何も知らなかった己の未熟さに肩を落とした。

「失礼いたします。殿下、ミン・ジホ翊衛士をお呼びしました」
「入ってもらってくれ」

入ってきた翊衛士は、シンの乗る公用車によく同乗していて見知った翊衛士だった。

「ミン翊衛士、許嫁のことを教えてほしい」
「・・・殿下、失礼ですが、私の名前をご存知でしたか?また東宮殿付きの翊衛士全員の名前をご存じでしょうか?」
「ごめん、顔は知っているが名前までは知らない」
「お嬢さんは、一度でも警護した翊衛士は全員顔も名前も覚えておられ、気さくに話しかけてくださる方です」

シンは、暗に自分との違いを責められた気がした。

「・・・他には?」
「明るくて、気配りができる優しい方です。先日、忙しいんだから私の送り迎えはもう良いよと仰られたので、なぜ問いかけますと、殿下のご結婚が近いんでしょ?と仰っていました。殿下の恋人とご友人達がそう話しているのを聞いたそうです」
「はぁ!?」
「お嬢さんは、殿下の許嫁だとはご存じありません。ご自宅の離れに我々が下宿しているので、妹可愛さに送迎をしてもらっていると思っておられます」
「知らないって・・・」
「因みにご家族もご存じないように思われます。そそっかしい娘をいつも面倒見てくれるお礼だと、毎日食事を用意してくださっています。恐縮する翊衛士には、先帝陛下にはお世話になったから恩返しができて嬉しいんだ。だから気にせず、実家のように振舞ってほしいと仰ってくださいます。皆さん、大らかで明るいご家族です」
「・・・そうか。名前は教えてもらえないのか?」
「恐れながら申し上げます。知ってどうされるおつもりですか?」
「それは・・・」
「本当に良いお嬢さんです。翊衛士は全員、苦難続きのお嬢さんには大好きな人と幸せな結婚をしてほしいと思っています。どうか義務でこのご縁を承諾されるのはお止めください。お願いします」

深々と頭を下げられ、シンは言葉に詰まってしまった。

「肝に銘じておこう。下がってくれ」

ミン翊衛士が部屋から出ていき、シンは益々落ち込んでしまった。

(許嫁の子が、これほどまでに翊衛士から好かれているなんて・・・自分と許嫁の違いが、警護でも気持ち的に違うらしい。俺のことは、きっと仕事だから警護しているんだろうな)

コン内官は、その日、シンの前に姿を現すことはなかった。






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