ユルが母屋へと繋がる扉に手を掛けようとしたら、突然反対側から扉が開き、エプロン姿のチェウォンが現れた。
「あ、アジョシ、ただいま。丁度、母屋に挨拶に行こうとしていたんです」
「ユル君、お帰り。それから、チェジュンから聞いた。ファン君、いらっしゃい」
「突然、お邪魔してすいません」
「構わないよ。ユル君、シン君も早退したみたいだね。さっき携帯を鳴らしたら、庭から着信音が聞こえたよ」
「あはは・・・僕たちより先に。チェギョンのお見舞いみたいですね。アジョシ、シンも呼び出そうとされたんですか?」
「立ち話もなんだから、応接室に行こうか。。。ファン君も付いておいで」
「はい」
ユルとファンを応接室に残して、チェウォンは奥の部屋へと消えていった。
ファンは、いまだにチェウォンの姿が信じられず、半ば呆然としていた。
「クスクス、あれが、母屋でのアジョシだよ。でもこっちにきたら、ファンの知っているアジョシに変わる。覚悟しとけよ」
「あっ、うん」
チェウォンが戻ってくる前に シンが応接室に現れた。
「・・・ユル、何でファンがいるんだ?」
「それは、僕が連れ帰ってきたからに決まってるでしょ。クスクス、シン、チェギョンと進展したみたいだね。あそこ、僕の部屋から丸見えだから、もう少し場所は考えた方が良いよ」
「///えっ!?見、見てたのか?」
「うん、バッチリ♪ファンもね」
「///・・・ファン、誰にも言うなよ。それからアイツは俺のもんだから、絶対に触るな」
「クスッ、分かったよ」
【ガチャ】
「坊主、誰が俺のもんなんだ?俺は、認めてねぇぞ」
「///ア、アジョシ・・・と、ところで、俺を呼び出した理由は何だ?」
「お前の親父が来るからだ」
「「「え~~!陛下が!?」」」
「お前ら、煩い!このくそ忙しい時期に何で呼び出されなきゃならないんだ?用があるなら、お前が来いと言ったら、お忍びで来るらしい。ハァ、夏野菜の種まきをするつもりだったのに・・・」
「「「・・・・・」」」
シンを呼び出した理由にも驚いたが、宮からの要請を断った理由にシン達は唖然としてしまった。
「クスクス、ヒョンたち、大丈夫か?親父、俺も呼び戻されたって事は、また何かトラブルか?」
「さぁな・・・チェジュン、リュ・ファンを隣の部屋に連れていって、資料でも読ませておけ」
「了解!リュ・ファン、付いてきてくれ」
ファンは、チェジュンと隣の部屋に入ると、数冊のファイルを渡された。
「どこの会社の資料がいい?ダチの会社にするか?・・・リュ電子とチャングループの資料を置いておく。適当に読んでな」
「僕が読んでいいの?」
「・・・これから向こうで話されることは知らせるわけにはいかないんだろ?かなり物騒な話になるかもしれないし・・・国民には、宮は清廉潔白で崇高なもんだからな。そこのパソコンも使っていい。色々な角度から調べ、自分が経営するならどう改善するのか考えてみろ。じゃあな」
(物騒な宮のトラブルって・・・シン、大丈夫なのか?)
チェジュンが人数分のコーヒーを淹れたころに 皇帝ヒョンとキム内官が応接室にやって来た。
「太子、なぜいるんだ?」
「俺が呼んだんだ。宮のトラブルなら、事後報告するより知っておいた方が良い。で、何だ?」
「・・・チェウォン、そちらの二人は?」
「俺とス兄貴の倅だ。ヒョン、時間が勿体ない。早く話をしろよ」
「お、おい、今、兄上の倅って言ったか?じゃ、ユルなのか?」
「陛下、ご無沙汰しております。先日、帰国して、アジョシの家でお世話になっています」
「ヒョン、ユルさまの話は、後で話す。まずは、お前の話をしろ」
「あっ、そうだな。チェウォンがくれた情報で、企業と癒着していた王族は処分した。勿論、企業の社長もだ」
「知ってる。で?」
「あっ、うん。後の問題についてなんだが・・・」
ヒョンがチラチラとユルの顔を窺って、話すのを躊躇っていると、チェウォンが溜め息を吐いた。
「ヒョン、ユルさまは何もかもご存じだ。全てを承知で、お前やシンに協力すると言ってくださっている。いいから、話せ」
「・・・分かった。正直、どこから手を付けていいのか分からん。王族を先に処分してもトカゲの尻尾切りになりそうでな。何かいい案はないか?」
「・・・チェジュン、いい案だとよ」
「親父、俺かよ。。。陛下、陛下はどのような解決策を望んでおられますか?」
「できれば、公にはせず、内密に処分したい。勿論、王族は全員家名断絶するつもりだ」
「公にしないことは、僕も賛成です。下手をしたら、ユルヒョンにも害が及びかねないですからね」
「チェジュン、僕の事は気にしなくていい。母上を止められなかった僕の所為でもあるんだし・・・」
「ユルヒョン、親父に任せとけば大丈夫だ。親父、ファヨン妃と繋がっている政治家のリーダーを抑えてくれ。イム・ガンホだ」
「・・・イム・ガンホだけでいいのか?」
「イム・ガンホに犠牲になってもらう。リーダー的存在がいなくなれば、議会に持ち込まれる心配はない。念のため、イム・ガンホにこちらの持っている情報を開示して、仲間の政治家を説得させてもいい。あまり政界を混乱させるわけにはいかないだろうしな」
「・・・財界はどうするんだ?」
「当たり前だが、うちの系列と取引がある会社ばかりだった。ウソンが言うには、契約を打ち切っても何も困らないほどのチンケな会社らしい。親父がGOサインを出せば、すぐに契約解除するよう通達を出す」
ヒョンは、チェウォン親子の会話をただ茫然と聞いていた。
(流石、チェウォンの息子だな・・・太子の右腕としてほしい存在だ。娘との婚姻がダメでもチェジュンが手に入るなら、宮としてはOKかも・・・ん?チェウォンは、どこに電話を掛けてるんだ?)
「ヨボセヨ。ご無沙汰しております。シン・チェウォンです。実は、大統領に折り入ってお願いがございまして、連絡させていただきました。明日のご予定を空けていただきたい」
「「「!!!」」」
『・・・・・』
「ありがとうございます。では、明日の9時に伺います。あと申し訳ないのですが、9時半にイム・ガンホ議員に会えるようセッティングをお願いします。では、明日」
「チェ、チェウォン、今、どこに電話を掛けたんだ?」
「ヒョン、耳も悪くなったのか?青瓦台だ。パク大統領は親父が面倒を見てた奴だから、顔が利くんだ。チェジュン、お前は優秀だが詰めが甘いんだよ」
「親父・・・まさか・・・」
「ふふ・・・ジュンギ、俺。今、俺が動かせる金ってどれくらいある?」
『・・・・・』
「そう。じゃ、チェジュンから会社名聞いて、今から動いてくれ。決行は、明日だ。頼んだよ」
内線の電話を切ると、チェウォンは陛下の顔を見た。
「チンタラするのは性じゃない。明日、政財界は制圧してやる。ヒョン、お前も明日中にカタをつけるんだな」
「・・・ああ、分かった。チェウォン、恩に着る」
「ヒョン、もう一つの問題は、俺は動くつもりはないから、そのつもりで・・・」
「チェウォン!!それが、一番大事だろうが・・・娘の問題でもあるんだぞ」
「だから、うちの娘を巻き込むなと言ってるんだ。嫁は他で探せ」
「・・・アジョシ、俺、チェギョン以外と婚姻するつもりないから。いい加減、諦めて、俺にくれ」
「クスクス、だそうだ。チェウォン、折角来たんだ。チェギョン嬢に会わせてくれ」
「ハァ?断る!それでなくても寝込んでるのに・・・」
「ああ、アジョシ、チェギョンなら大丈夫みたいですよ。さっきシンが外に連れ出して、チュッチュしてましたからね」
「///ユル!!」
「坊主!!」
「クククッ、チェウォン、母屋に行こうか。いや~、スンレさんに会うのも久しぶりだなぁ~」
陛下は、チェウォンと肩を組むと、そのままエレベーターの中に消えていった。
「クスクス、陛下って、想像してたより楽しい方みたいだね」
「ユル・・・これも シン家の教育方針の賜物じゃないか?陛下もかなり色々経験させられたらしい。ユルもそのうち社会経験させられると思うぞ」
「チェジュンから話は聞いてる。大変そうだけど、面白そうだよね。ん?チェジュン、顔色悪いけど、どうしたんだ?」
「あっ、ううん。何でもない。おれちょっと隣の部屋に行って、リュ・ファンを呼んでくる」
シンとユルが不思議そうにチェジュンを見送っていると、入れ違いでファンが戻ってきた。
「ねぇ、一体、どんな話だったの?会長からの内線が切れた途端、向こうの部屋、急に緊迫した空気になっちゃって居づらかった~」
「ファン、アジョシの側近は何か言ってたか?」
「一人が、『親父さん、やっと動くみたいだ。マニュアル通り、今から動いてくれ』って。そしたら、全員があちこちに電話を掛けだして・・・チェジュンにも例の御曹司たちに電話を入れるように言ってた」
「シン・・・明日、母上の所為で、何社潰れるんだろうな。。。」
「ユル、お前の所為じゃないさ。良からぬ陰謀の片棒を担いだ奴らが悪いんだ。自業自得ってやつだ。ユル、この件は、俺やユルが前に出ない方が良い。後は、アジョシとチェジュンに任せよう」
「・・・うん」
シンとユルの会話を聞いて、ファンは何となく事情が分かった。
(先代のシン会長は、【最後の良心】と呼ばれ、経済界の番人のような人だったって、父さんが言ってた。じゃ、今もシンコンツェルンは、その役目を担ってるんだ。で、チェジュンは、もうその自覚をしているってことか・・・)