翌日、大統領官邸の青瓦台にチェウォンの姿があった。
チェウォンはパク大統領に訪問の理由とこれから行おうとしていることを説明し、大統領から了承を得た。
午前9時半、ス元皇太子殿下と親友だったイム・ガンホ議員が、大統領執務室に現れた。
イム・ガンホは先客であるチェウォンが気になったが、ソファーに座るや否や大統領に挨拶をした。
「大統領、急なお呼び出し、政局に何かあったのでしょうか?」
「ガンホヒョン、お久しぶりです。覚えておられませんか?昔、現陛下と一緒にス兄貴の秘蔵の酒をよくくすねてたチェウォンです」
「あ~、あの悪ガキチェウォンか!?懐かしいなぁ~、何年ぶりだ?」
「はい、兄貴が亡くなって以来ですから、13年ぶりです」
「もうそんなになるのか・・・で、なぜお前がここにいるんだ?」
「なぜって、俺が大統領に頼んで、ガンホヒョンを呼びだしてもらったからですよ」
「えっ!?どういうことだ?」
「ガンホヒョン・・・あなたは昔からリーダーシップがあった。だから、あなたから同志に手を引くように説得してもらえませんかね?」
「・・・何の話だ?」
「ソ・ファヨンと手を切れと言ってるんです」
「!!!」
チェウォンは、ファヨンのス銀行口座の写しをイム議員の前に置いた。
「ソ・ファヨンの息が掛っている同志を説得し、ガンホヒョンが引退してくれたら、他の同志たちは不問にしてもらうえるよう、大統領と掛け合いました。どうです?」
「・・・脅すのか?もし断ったら?」
「人聞きの悪い・・・これは、交渉です。賢いヒョンは断るようなことはしないと思いますが、もし断るなら、当然、すべて公にしますよ。これよりもっと詳細な情報を警視総監に渡すのもいいな。そうなれば、政界は混乱を招き、大事な親友の忘れ形見は生涯国外追放でしょうね」
「握りつぶしてやる」
「クスッ、あなたのどこにそんな力があるんです?俺には青瓦台も付いてるし、マスコミも俺が全部抑えましたよ」
「チェウォン・・・お前は一体何者だ?」
「・・・ガンホヒョンはただのス兄貴の学友だが、俺は幼き頃より自由に宮に出入りを許されている幼馴染ってヤツなんですよ。親父が、先帝の爺さんと親友だったもんでね」
「えっ!?」
「まだ分かりませんか?俺の親父は、シン・チェヨン。シンコンツェルンの創始者です。で、俺が、後を引き継いでます」
「!!!」
イム・ガンホは、自分たちの計画がすべて宮に筒抜けで、絶対に成功しないことを悟った。
「・・・ソ・ファヨンから、どんな嘘を吹き込まれたかは知らない。俺が知っているのは、ソ・ファヨンの所為でユルさまは皇位継承権の順位を下げられ、海外に行かされたという事だけ。先帝は、ソ・ファヨンがいる限り、ス兄貴の追尊はしてはならないと遺言に記されている」
「えっ!?」
「ガンホヒョンは、ユルさまを思って動いていただろうが、他の議員や財界の友人たちは違う。その証拠に多額の金が動いている。この状況でユルさまが皇位に就いたら、宮だけじゃない国はどうなると思うか、よく考えてほしい」
「・・・少し考えさせてくれないか?」
「断ると言ったら?これ以上、ユルさまを悩ませたくはない」
「チェウォン?まさかユルさまは・・・」
「ソ・ファヨンがしてきた悪事、全てご存じだ。俺が報告した。因みに俺が保護してる」
「・・・そこまで・・・」
「10時になった。イム・ガンホ氏、早く決断した方が良い。決断が遅ければ遅いほど、ご友人の会社は窮地に陥りますよ。まずは、一番経済界に影響しないところから・・・」
チェウォンは携帯を取り出すと、どこかに掛けだし、ガンホの同士の会社名を告げ、即切った。
チェウォンがニヤリと笑う隣で、大統領が顔面蒼白になっている。
「大統領書記官さん、すまないが、テレビで証券取引所の中継をつけてくれないか?」
「チェウォン、何を・・・」
「あなたが首を縦に振らないから、実力行使に出ただけです。お仲間の会社を1つ1つ潰して差し上げます。そうすれば、結果的にはあなた方の計画は頓挫するでしょうからね」
「そ、そんなことをすれば、この国の経済はどうなるか分かってるのか?!」
「ご心配なく・・・あなた方同志の会社が潰れても、我がシンコンツェルンは痛くも痒くもない。よって経済が揺らぐことはない・・・・はい、潰れたようですね。次は、どの会社にします?クスクス・・・」
携帯を弄りながら、会社名が書いたリストを机に置き、『どれにしようかな?』と楽しそうに指さしているチェウォンを見て、ガンホは完全に敗北した。
「チェウォン!!分かったから、止めてくれ!」
「・・・もっと早くにご理解すればよかったのに・・・では、書記官さん、イム・ガンホ氏が辞職届を書くそうですので、紙とペンの用意をお願いします」
「は、はい・・・」
書記官が紙とペンを用意している間、チェウォンは再び携帯を手にし、どこかに指示を出していた。
「チェウォン、お前がここまでするのはヒョン皇帝陛下の為か?」
「冗談でしょ。何で俺がヒョンの為に動くんです?国民の為ですよ。ユルさまが皇帝の座に就いたら、間違いなく宮は利権争いや企業の癒着が蔓延する。そんな宮の為に国民は税金を払いたくないし、ダークな宮を見たくない筈だ。今も、あなた方政治家の給料を払うのが嫌なようにね」
「「・・・・・」」
「・・・死んだス兄貴は、国民の為にも宮が安泰であることだと常々言ってた。あの世でス兄貴は、どんな思いでヒョン達の行為を見てたんでしょうね」
秘書官が紙とペンをイム・ガンホの前に置くと、チェウォンは腰を上げた。
そして去り際にもう一度振り返って、イム・ガンホに声を掛けた。
「ス兄貴の交通事故は、ただの運転ミスじゃなかった」
「えっ!?」
「事故死する前日、ス兄貴はソ・ファヨンに廃妃を言い渡していた。で、ソ・ファヨンを実家に送り届け、宮に戻る途中に事故が起こった。調べたら、ブレーキオイルが抜かれていた」
「「!!!」」
「この事実を知っているのは、先帝と事故の調査にあたった刑事と俺たち親子だけ。先帝のおじ様は、ユルさまの行く末を考え、真実を公開せずソ・ファヨンを海外に追放するに止めた。ガンホヒョン、これ以上ソ・ファヨンに関わるな。今日以降、ソ・ファヨンに関わった人間は、ス兄貴の敵として見なす。じゃあ、もう会う事の無いように願うよ。ガンホヒョン、元気で・・・」
チェウォンが出ていった大統領執務室は、何とも言えない空気が流れた。
一番最初に我に返った大統領補佐官が、イム・ガンホにペンを勧めた。
「・・・大統領、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?チェウォンとは、いつから・・・」
「代議士に初当選した時、ユン元大統領からチェヨン老を紹介された。だから、チェウォンが子どものころから知っている」
「そんな昔から・・・ですか」
「イム議員、ユン元大統領以降の歴代大統領は、シンコンツェルンの庇護を受けている。この意味が分かるか?【法の番人】シンコンツェルンに見放されたら、政局は混乱し国が潰れるということだ。チェウォンが言うとおり、君以外の代議士には、責任を追及しないようにしよう。あなたも代議士の端くれなら、もうとる道は一つしかないことは分かっている筈。今日中にすべて処理するように・・・」
「イム議員、早くお書きになって、退出をお願いします」
補佐官に促され、辞職届を書いたイム・ガンホは、そのまま記者会見を行い、辞職したことを発表した。
そのことに驚いた同志たちが続々とガンホの自宅に押し寄せたが、辞職した理由を聞き、集まっていたマスコミに無言を通して帰っていった。
一方、宮では、イム・ガンホの辞職記者会見の同時刻に、ソ・ファヨンと関係にあった王族たちは全員宮内警察に拘束させた。
そして夕方には、陛下と最長老の連名で招集がかかり、緊急王族会議が開かれ、拘束された王族たちの悪事が報告された。
「今回は、義誠君に害が及ばないよう内密に処理した。宮は、金で動くような忠誠心しかないような王族は必要ない。今後、王族たちの間で金品の授受があった場合、絶対に公にし、王族の必要性の是非を国民に問うことにする。皆のもの、そのつもりでいてくれ」
『『御意・・・』』
陛下が会議室から出ていくと、最長老は残った王族たちを見て溜め息を吐いた。
「お前たちは、本当に分かっておるのか?皇太子妃の座の為に金が動いておることも陛下はご存じじゃ。お前たちが王族の娘を推薦した時点で、陛下は動かれる。下手な小細工は止め、再度、宮に忠誠を誓うか、王族の称号を返上するか、そなたたちの良心に任せよう」
宋親会以外の王族たちは、最長老の言葉に顔色を変え、俯いてしまった。
(クククッ、これで王族たちは、おとなしくなるじゃろう。残る問題は、殿下の婚姻だけじゃな。チェウォンも頑固だからの・・・)