バカンスではなく、完全に部活動の合宿の雰囲気だった。
2日目にバーバラとボブも合流してきて、バレエの猛レッスンは部外者が声もかけられないほどの熱気だった。
それに引っぱられるように シン達も学祭に向けてダンスの猛練習に励んだ。
いや、鬼コーチのチェギョンに無理やり励まされた。
映像科の生徒だからビデオカメラは、1台ずつ持ってきている。
それを4方向にセットして、踊ればチェックをし、徹底的に振り付けを覚えさせられた。
シンとユルは、体を使って友人たちと1つのモノを作り上げていくことに いつしか夢中になっていた。
「シン、ユルは一緒に風呂入るのに、何でお前は入らないんだ?一度ぐらい一緒に入ろうぜ」
「・・・・・」
「シン、僕も初めて経験したけど、楽しいよ。入ろうよ。まさか、恥ずかしいとか言わないよね?」
「・・・分かった。一緒に入ろう」
シンは、全員が浴室に入ったのを見届けると、服を脱ぎだし、タオルをしっかり腰に巻きつけてから浴室に入っていった。
「・・・シン。温泉のエチケットを知らないのか?タオルは、湯船に漬けちゃいけないんだぜ」
「えっ!?や、やめろ!!」
抵抗虚しくギョンに腰に巻いたタオルを取られてしまったシンは、一瞬呆然と立ちすくんでしまったが、すぐに隠すように湯船に浸かった。
「「「!!!」」」
「シ、シン・・・お、おま、そういう趣味だったのか?」
「///断じて、違う!誤解するな!!」
「じゃあ、それ、どう説明するんだよ!?」
「・・・チェギョンだ。チェギョンにやられたんだ」
「「「はぁ~???!」」」
「一度、チェギョンが電話で長話してて退屈だったから、ちょっとイタズラしたんだ。その仕返しをされた。コン内官と公務の打ち合わせの電話をしてた時・・・珍しく積極的だなと思ってたら、除毛ムースを付けられてた。で、電話を掛け終わったら、こうなってた」
イン達は、その現場を想像して大爆笑してしまった。
「あははは・・・チェギョン、最高!!お前ら、一体、どんな性生活送ってんだよ!?」
「///至って普通だっつうの!」
「クスクス、シン、朝方まで励むのが普通なの?チェギョン、ヘジンが大声で話してても爆睡したままだったよ」
「///ユル!!・・・お前らは、チェギョンの事を知らないからだ。中途半端に愛したらどんな恐ろしい目に遭うか・・・」
「クスクス、例えば?」
「///・・・枕元で写メを撮った音が聞こえ、目を開けたら、俺の全裸写真をユルに送ろうとしてた」
「「ブハハハ・・・・」」
「クククッ・・・で、抱くときは、徹底的に気絶するまで抱くんだね。あはは・・・シン、お前たち、本当にいいカップルだよ」
「・・・ユル、それ、褒め言葉に聞こえないぞ」
ユル達がお腹を抱えて笑っていると、レッスンを早めに切り上げたボブとフレッドが大浴場に入ってきた。
『シン、みんな、どうしたんだい?楽しそうじゃないか?俺たちも仲間に入れてくれよ』
シンは必死で止めようとしたが、ユルがボブとフレッドにシンとチェギョンのエピソードを披露し、二人もお腹を抱えて笑った。
『クククッ、シン、大変そうだね。でもエルが幸せそうで本当に良かった。僕らは、そんな姿を見たことがなかったから安心したよ』
『フレッド・・・チェギョンは俺が幸せにするから安心してくれ。それより 今日はレッスン、もう終わったのか?』
『・・・いや、チェギョン一人、頑張ってる。おそらく気絶するまで踊るんじゃないか?』
「えっ!?」
『・・・シン、頼みがある。少しだけエルをエリー・シンに戻してくれないだろうか?』
「「「!!!」」」
『フレッド、どういう事?もう宮は婚姻に向けて動き出している。もうシン一人の独断では決められない』
『ユル、そうなのか?困ったな・・・ボブ、お前はどう思う?』
『・・・シン、今、エルは足掻いている。何か掴めそうで、掴めないって感じらしい。本人はサボり過ぎたと反省してるが、そうじゃない。新境地に一歩踏み込んだが、パートナーの俺がサポートしきれてないからだと思う』
『えっ、それって・・・』
『・・・シン、今のエルの画像をある人物に送っていいだろうか?彼らなら、エルの魅力を十分惹き出してくれるだろう。俺らは、一度でいいから、一皮剥けた大人のエルの演技が見たいんだ』
『・・・少し考えさせてくれないか?すまない、先に出る』
心配そうに見守るイン達にも気づかず、シンはそのまま大浴場を出ていった。
「シン・・・相当ショック受けたみたいだな・・・」
『ユル・・・君は、俺たちの申し出をどう思う?』
『僕は、何も言えないよ。ただチェギョンの完全回復が目の前まで来てたから、また1からと思うとシンは複雑だろうね。完全回復したら、即婚約発表する予定だったし・・・』
『・・・もうそこまで話は進んでいたのか?』
『うん。皇族の結婚は早いんだ。跡継ぎが必要だからね。早く世継ぎを生んで、国民を安心させるのもシンの義務なんだ』
『『えっ!?』』
『2人は知ってるんだね?チェギョンのこと・・・』
『・・・ああ。それをずっと悩んでたこともな。あれだけストイックな生活をしていたら、成長も止まって当たり前だったしな。だから、今回、エルが完全に女性の体になってるのを見て驚いた』
『あのボブさん、ストイックな生活って・・・24時間SPが付いてただけじゃないんですか?』
『食生活だよ。公演前は特に酷かった。1日一片のパンと野菜スープしか摂らずに1日中レッスンするんだ』
「「「!!!」」」
『エル、一度食べたら癖になりそうだって、肉は食わなかったよ。本当は、すごく食いしん坊なのよって笑ってた。だから、あんなにパクパク食べてるエルを見たのも俺たちは初めてなんだ。これも全部、シンのお蔭なんだね』
『・・・ユル、シンに【俺たちが身勝手だった。さっきの話は忘れてくれ】と、言ってくれないか?』
『分かった。一応、伝えるよ。僕、シンが心配だから、先に上がるね』
ユルは風呂から上がると、シンを探した。
シンは、レッスン室の隅で、一心不乱に踊っているチェギョンをジッと見つめていた。
「シン・・・ボブたちが、身勝手だった。さっきの話は忘れてくれってさ」
「・・・・・」
「シン?」
ユルは、ユルの言葉に何も答えることなくジッとチェギョンを見続けているシンを置いて、自室へと戻るしかなかった。
(シン・・・ここまで来たのにチェギョンを諦めるつもりなのか?)
翌朝、食堂でメンバーたちは、なかなか現れないシンとチェギョンをジッと待っていた。
その場にいなかったガンヒョン、ヘジン、ジュンギュも事情を聞き、シンを心配していた。
アンナもボブたちに聞いたのか、何も言わず二人が現れるのを待っている。
「みんな、遅くなってすまない。チェギョンは、まだ寝てるんだ。先に食べてしまおう」
「お、おぅ・・・皆、食べようぜ」
シンを気遣ってか、誰も口を開かず、朝食を口にしている。
そんな雰囲気を打ち破るかのように シンが口を開いた。
「イン、ギョン、ファン、頼みがある。今日の課題の時間、俺にくれないか?」
「そりゃ、構わないけど・・・何、するんだ?」
「チェギョンを撮る」
「「「シン!!」」」
「俺たちは、曲がりなりにも映像科の生徒だ。最高に綺麗に撮ってやろうぜ」
そう言って、笑ったシンの目は、少し赤かった。
(シン、何でそんな選択を・・・後で、本当に後悔しないのか?)