チャングループのチャン・ヒョン社長は、経営が持ち直して安堵したが、一抹の不安も感じていた。
(坂道を転げるように悪化していったのになぜ急に落ち着いたんだ?何か大きな力が働いたとしか思えない。一体、誰が・・・?)
チャン社長は、ギョンの暴行騒動以後にチャングループと契約した会社を調べるように秘書に命じた。
数時間後、秘書が持ってきた報告書を見て、チャン社長は驚き、呆然としてしまった。
「オ秘書、これは何かの間違いじゃないのか?」
「いいえ、社長。私もそう思い、直接担当した社員に電話で確認を取りました。すべて、こちらからではなく、先方が手を差しのべる形で申し出てくれたとのことでした」
「こんな大企業ばかりがなぜ?・・・まさか合併・吸収?」
「・・・社長、今のところはそれはないかと・・・神話の秘書が、『マスコミの方は圧力を掛けておきました。ご安心ください』と、交渉後に言ったそうです」
「神話が、マスコミを抑えてくれたって!?」
「はい。社長・・・2日後、神話グループ主催のパーティーがあり、招待状が届いております。ご参加されますか?」
「・・・行こう。行って、彼らの真意を確かめなければ・・・スケジュールを空けてくれ」
「かしこまりました」
パーティー当日、チャン社長は、神話ホテルにオ秘書と共に向かった。
パーティー会場になる鳳凰の間には、すでに多くの招待客が来ており、お目当ての人物を探し当てることがなかなかできなかった。
しばらくすると、参加していた令嬢たちが色めきだってきたのが分かった。
「オ秘書、何事だ?」
「おそらく神話グループのご子息とそのご友人たちが会場に現れたのでしょう」
パーティー参加者の視線や動向を見ていたチャン社長は、ひときわ目立つ集団に気がついた。
(彼らが、あの有名な御曹司たちか?ギョンと全然違う・・・凄いオーラだ。ん?一人ギョンぐらいの子が混じっているな。あの子は誰なんだ?)
時間になったのか、神話社長カン・ヒスが会場に設置された壇上に上がり、挨拶をする。
盛大な拍手が送られ、カン社長が壇上を下りるのを待って、チャン社長は声を掛けた。
「カン社長、先日は、色々と便宜を図っていただき、ありがとうございました」
「・・・チャン社長、何か勘違いされておられるのでは?私は、神話学園の編入届の推薦者に署名しただけです。それも役に立たなかったようですが・・・」
「えっ!?では・・・うちを助けてくれたのは・・・」
「・・・ソウル支社は、息子に全権を与えていますので、私には分かりかねます。では・・・」
(では、ご子息が?確か、ご子息の友人にイルシム建設の子息もいたはず・・・御曹司たちが関わっているか・・・)
チャン社長は、オ秘書を伴い、神話グループの御曹司の許に向かった。
チャン社長が御曹司に近づくと、今まで社交辞令を繰り返していた御曹司が黙り、チャン社長を睨んできた。
そして御曹司に声を掛けようとすると、友人である御曹司たちが集結してきた。
チャン社長は、すごいプレッシャーを感じながらも 御曹司たちに言葉を交わそうと自分を奮起させた。
「ク専務、はじめまして。チャングループのチャン・ヒョクです」
「・・・ク・ジュンピョです」
「あの先日は、色々と便宜を図っていただきありがとうございました。お蔭でわが社は助かりました」
「好きでやったんじゃねぇ。親父に頼まれたから、仕方なくだ。俺だったら、この機会に完全に乗っ取ってたね」
「えっ!?」
「クスクス、ジュンピョ、少しは御曹司らしい言葉遣いしたら?社長さん、ビックリしてるよ」
「ジフ、うるせぇんだよ。チャン社長、礼を言うなら親父に言うんだな。親父の指示がなければ、俺は絶対に潰してた」
「・・・ク会長に会わせていただけますか?」
「はぁ?何で、うちのクソジジイが出てくんだよ!?クソジジイは、NYで病気療養中だ」
「へ?」
「ジュンピョ、お前が親父と言うから、ややこしくなるんだ。チェジュン、アポ取ってやったら?」
「イジョンヒョン、冗談でしょ。親父、出席すんの嫌がったから、俺が代理で来てんだぜ。欠席するわけにはいかないからな」
「えっ!?あの・・・あなたは・・・」
「申し遅れました。シンコンツェルン会長の息子のシン・チェジュンです」
「!!!で、では、シン会長が、うちを助けていただいたのですか?」
「結果的には・・・ですが、本当に助けたかったのは、罪のない社員たちだと思いますよ」
「・・・はい」
チャン社長は、息子と同年代の子どもに意見され憮然としたが、気を取り直してチェジュンに会長とのアポを取ってくれるように頼んだ。
「お断りします。例え、社長の伝言を伝えても頷くとは思えないからです」
「なぜ、君が断言するんだ?」
「・・・チャン社長、校長に『謝罪は要らない』と言われませんでしたか?謝罪を受ける気もない人間が、礼を言われたいと思いますか?」
「えっ!?」
「先日、用があって神話の制服で芸校に赴いたんです。ご子息は、神話の制服を着てるがバイトをしていると言った瞬間、殴りかかってきましたよ。全く反省しておられないみたいですね」
「そんな筈は・・・」
「ああ、俺、その場にいたけど事実ですよ。リュ電子とカンコーポレーションに倅が必死で抑えてたから、殴らずに済みましたがね。生徒が大勢いる玄関前で、暴力を振るおうとする。お宅のご子息は正気の沙汰じゃない」
「・・・申し訳ない」
「チャン社長、シンコンツェルンと神話は、ご子息が改心するか後継を外れるまで貴社を監視し、また問題が起こした時点でグループを解体・吸収するようすでにシュミレーションしています。」
「「!!!」」
「その事を念頭において、しっかりご子息を教育し直してください。では、俺はまだ挨拶が残っているので、お先に失礼します」
チェジュンがグループから離れ、人ごみに消えていくと、ジュンピョは呆然とするチャン社長に言い放った。
「チャン社長、チェジュンは神話学園でずっと主席で、中学から親父の仕事を手伝いだした。将来アイツは、俺らよりはるかに重い重責を担うシンコンツェルンの御曹司だ。またそれを本人も自覚し、日々精進している。お宅の息子と同じレベルだと思わない方が良い」
「・・・・・」
「リュ電子とカンコーポレーションの息子は、5年という期限を切られた。その間に改心しないと、身ぐるみ剥がされ放り出されるらしい。仕方ないよな。親友が親会社の令嬢に暴力振るったんだからな」
「ジュンピョ、お前、主催者側なんだから、いい加減早く挨拶回りしにいけ。俺らもすぐに行くから」
「分かったよ。じゃ、後は頼む」
ジュンピョが輪から外れると、イジョンとウビンも挨拶回りの為、人ごみに紛れていってしまった。
「チャン社長、スアム文化財団のユン・ジフです。シンコンツェルンは、俺の祖父の時代から【最後の良心】【法の番人】と呼ばれているのはご存知ですよね?シン会長は、人脈と人柄だけで、今では経済界だけでなく政界も動かせます。この間のイム・ガンホの電撃引退も彼が動いている可能性大です。ご子息の事件の時、彼は個人的にはチャングループを解体したかった筈です。でも この国の経済を考えてしなかっただけ。助けたというより、苦渋の選択というやつです。ですが、沈没すると分かっている船に人は乗せられません。ダメだと判断した瞬間、親父さんは引き鉄を引くでしょうね。あの人は、そういう人です。では、俺も失礼します」
その場に残されたチャン社長とオ秘書は、しばらく呆然と立ちつくしていた。
(シンコンツェルンの御曹司ともう一度話をしなくては・・・彼はどこにいるんだ?)
チェジュンを探していると、【鉄の女】カン・ヒスとにこやかに談笑しているのが目に入った。
(鉄の女が笑って、頭を下げた・・・カン・ヒスもあの御曹司に一目を置いているというのか?!)
チャン社長は、愚息との違いを見せつけられ、誰にも挨拶をすることなく会場を立ち去った。
車中、重苦しい空気の中、オ秘書が口を開いた。
「社長、今からでも遅くありません。伝手を探してアポを取りますから、シン会長に謝罪を・・・」
「・・・頼む」
(シン会長は、もう次世代に目を向けている。だから、ギョンの不甲斐無さが目に余ったんだろう・・・仕事を理由に放任していたことが悔やまれる。。。)