オ秘書が、どんなに伝手を頼ってもシン会長にたどり着くことができなかった。
チャン社長は御曹司たちとの会話を思い出し、リュ電子とカンコーポレーションにアポを取ろうとしたが、秘書から先に繋がることはなかった。
(ギョンに頼むしかないか・・・)
その夜、いつもより早く帰宅したチャン・ヒョクは、ギョンを書斎に呼び出した。
「おかえりなさい。今日は、早かったんだね」
「ギョン・・・お前、またトラブルを起こしかけたな?」
「えっ!?俺、親父や校長の言いつけ通り、あのムカつく女たちには近づいてないぜ」
「ムカつく女たち?」
「ああ。俺に偉そうに言った女とその女を庇った女の事だよ。もっとムカつくのは、俺に愛想を尽かしたと離れてったファンが、シンと一緒にその女たちとつるみだしやがった」
「何?!殿下もか?」
「ああ。シンの従兄弟が編入してきて、その女たちと仲が良いんだ。貧乏人が俺を差し置いて、皇族とつるむなんて身の程知らずもいいとこだろ!?」
チャン社長は、ギョンが全く変わっていないことに落胆した。
「ギョン・・・このままなら、私はお前を勘当するしかなさそうだ」
「えっ!?・・・親父!?」
【トントン、旦那さま、リュ電子の社長さまが、面会したいとお越しです。入ってもらってよろしいでしょうか?】
「なに?リュ社長が?すぐに入ってもらえ!!」
【かしこまりました】
しばらくすると、リュ社長が家政婦に案内され、書斎へと入ってきた。
「はじめまして、リュ電子のリュ・スヨンです。突然、訪問して申し訳ない」
「チャン・ヒョクです。いいえ、私もあなたに会いたいと思っていましたので、丁度、良かったです」
「存じています。それにご用件も大体の察しはついています。ご子息の件ですね?」
「お恥ずかしいですが、その通りです」
「カン社長の社長秘書は、会長の右腕がしています。ですから、チャン社長が私たちにアポを取ったことを会長はご存じなのでしょう。私にあなたの話を聞いてきてほしいと連絡がありました」
「そうでしたか・・・実は、謝罪と礼を言いたいと思って、あなたにアポを取ってくれるよう頼もうと思っていました。お願いできないでしょうか?」
「無理でしょうね。私達傘下の者でも年に1回しか会われようとはしませんから・・・それに謝罪や礼より、社長はもっとすべきことがあるのではないでしょうか?」
「・・・ギョンのことですね」
「えっ!?俺?」
「君がギョン君かい?私やイン君のお父さんが、指摘された言葉を言おうか?君の学力は、神話学園に入学できるレベルではない。うちのファンでギリギリだそうだ」
「「!!!」」
「シンコンツェルンの傘下企業は、毎年2月に会長との面談があるんだ。年一回の事業報告と株主総会対策を検討するんだが、今回うちをマネジメントした担当者はご子息だったよ。本当に中学を卒業したばかりの子とは思えない程、しっかりされてた。ファンは、ご子息に触発されたのか、必死で勉強するようになった。ギョン君、君もご子息に会って指摘されたよね?少しは反省したかい?」
「・・・・・」
「はぁ~、まだまだのようだね。ギョン君、息子たちが会長に言われた言葉だ。【なぜ友人の暴言を注意しなかった?俺がマスコミを抑えなければ、カンコーポレーションもリュ電子も被害を被っていただろう。当然、宮が一番叩かれたろうけどね。意味が分からなければ、俺が君たちを庶民以下の生活に突き落としてあげるけど?】だ。この意味が分かるかい?」
「・・・いいえ」
「皇族は、国民の声に耳を傾け、国民を慈しみ、国民の手本にならなければならない。なのに君は殿下の傍で一般生徒に暴言を吐き続け、挙句の果ては暴力だ。これが世間にバレれば、国民は殿下にどんな感情を持つだろう?会長がマスコミを抑えなければ、宮廃止が叫ばれたかもしれないね。もしそうなったら、君はどう償うつもりだったんだ?」
「あっ・・・」
説明されて、ギョンはどれほどシンに迷惑をかけていたのか理解した。
「これは言っていいのか分からないが・・・学年末、君が事件を起こした時、殿下は学校を長期休んでいただろ?」
「はい・・・」
「殿下は、シン会長の家に居候しながら社会勉強されてたんだ。会長と皇帝陛下は、親友だからね」
「「!!!」」
「殿下、シンコンツェルンの懇親会に帰国したお嬢さんをエスコートして、お嬢さんと仲良く食事もされてたよ」
「えっ!?シンが女性と仲良くですか?信じられない・・・」
「幼馴染だそうだよ。私のカンだが、多分ご結婚されるんじゃないかな?」
「えっ!?では、ギョンは・・・」
「パーティーでお聞きになられたのですね。。。ギョン君が、また危害を加えるようなことがあれば、倒産だけでは済まないでしょう。ギョン君は、一生塀の中か国外追放になるでしょうね」
「・・・・・」
「お、親父?一生塀の中か国外追放って・・・アジョシ、俺、そんなに悪いことをしたのか?」
「詳しくは、お父さんに聞きなさい。チャン社長、会長にアポを取ることはできませんが、会える方法が一つだけあります」
「えっ!?それは、本当ですか?」
「ええ。ご子息が持ち帰るプリントをご覧になったことは?」
「・・・ありません。仕事が忙しかったもので、すべて家内に任せていました」
「チャン社長、来週あるPTA総会に出席なさい。話ができるかどうかは分かりませんが、確実に会えるでしょう」
「えっ・・・?!」
「仕事が忙しい?会長はPTA会長として壇上におられますから、会長の前でその言い訳が言えるなら言ってごらんなさい」
「「!!!」」
「ギョン君、シンコンツェルンの先代は、戦後の経済を支えた人だ。そして現会長は、経済の安定を目標にしておられる。だから、後継者としての君の資質を問題視されてるんだ。ファンやイン君同様、君に見込みがないと踏んだら、会長は間違いなくチャングループを合併・吸収されるだろうね。心を入れ替えなさい。では、私はこれで失礼させていただきます」
リュ社長を玄関まで見送ったチャン社長は、崩れるようにその場に跪いてしまった。
「親父!!俺の所為で、ゴメン。とりあえずリビングに行くから、俺に捕まって」
「・・・私の事はいい。それより今すぐ、学校で貰った手紙類を持ってきなさい」
「あ、うん。分かった」
何とか自力でリビングのソファーまで辿り着いたチャン社長は、使用人に妻を呼ぶように言った。
「あなた、お客様はお帰りになったの?」
「ああ・・・ヨボ、一つ聞きたい。学校からの手紙類や成績表をいつから見てないんだ?」
「・・・申し訳ありません」
「学校へ赴いたことはあったか?ずっと気になっていたんだ。なぜ学校の呼び出しが、家ではなく私のところに掛ってきたのか・・・ヨボ、放任主義と言いながら、ギョンに無関心なだけなんじゃないのか?」
「・・・・・」
チャン社長は、妻の態度を見て、深いため息を吐いた。
「ヨボ・・・毎日、出歩く暇があれば、ギョンに目をかけてくれないか?それが嫌なら、実家に戻りなさい」
「えっ!?」
「以前、言ったと思うが、ギョンの愚行で我が社は経営危機に陥っている。少しは反省したかと思っていたが、今日、話してみて失望したよ。来週、PTA総会があるらしい。私と一緒に参加しなさい」
「はい、ヨボ」
ギョンが手紙類を持ってリビングに入ってくると、チャン社長は全てくまなく目を通した。
その中の一枚をジッと見つめると、顔を覆うのだった。
PTA総会開催のお知らせ
ソウル芸術高校
PTA会長 シン・チェウォン
校 長 チェ・ドンウク
初夏の候、保護者の皆様には、益々ご健勝のこととお喜び申し上げます。
突然ではございますが、下記の要領で、PTA総会を開催したいと思います。
今年度に限り、希望者を募り、PTA主催の社会体験を行いたいと思います。
できる限り、お子さまと保護者のご希望の職種に派遣できるよう尽力させていただきます。
つきましては、参加ご希望の保護者の方は、必ず総会に出席していただくようお願いします。
申し訳ありませんが、総会までにお子さまと希望職種を相談なさっておいてください。
よろしくお願いいたします。
記
日 時 ○月○日(土) AM9:00~
場 所 芸術高校 体育館
「親父?このPTA会長が、ファンの親父さんが言ってた人か?」
「そうだ・・・ギョン、この国の一番の権力者は誰だか分かるか?」
「皇帝陛下だろ?」
「宮は国の象徴であって、国を動かす力はない。シンコンツェルンの会長は、表舞台に出てこようとはしない。だが、政財界に大きな影響を持っている。陛下とも親友というこは、宮にも力が及ぶんじゃないか?」
「そ、そんな凄い人が、芸校のPTA会長をしてるってか!?」
「そうだ。そしてお前は、彼に動向を監視されている。リュ社長が来る前に言ったこと、覚えているか?このままでは、お前を勘当するしかない」
「「あなた!!(親父!!)」」
「お前が暴力を振るった時に潰されてもおかしくはなかったんだ。なのに彼は私情を捨てて、我が社を助けてくれた。これ以上、彼に迷惑を掛けるわけにはいかないんだ」
「私情を捨てて、助けたって・・・どういう事だよ!?」
「彼は、お前が殴って怪我をさせた御嬢さんの父親なんだ」
「「!!!」」