PTA総会当日、チェウォン以外のPTA役員が受付に立ち、参加保護者に総会の資料を渡し、会議室へ行くようにと案内した。
会議室では、チェウォンの腹心たちが、一人一人に社会見学の申し込み用紙を渡し、ここで記入してから体育館へ移動するように説明していた。
記入された申込用紙を受け取る役をしていたウソンは、希望職種を見て振り分けていたが、ある職種を記入した保護者には、総会後、再度ここに来てもらえるように伝えていた。
定刻より30分遅れで総会が始まり、例年通りの流れで会は進んでいく。
最後の規約の改正の是非を多数決で可決した後、チェウォンは壇上に立った。
「これでPTA総会ですべきことは終了しました。これよりPTA主催の社会見学の説明会をさせていただきたいと思います」
今まで興味なさげに座っていた保護者達が、一斉にチェウォンに注目しだした。
「芸術の道で食べていける者は、ほんの一握りです。私もですが、芸術高校を卒業した後、お子さんの進路が心配な親御さんは多いと思います。たまたま亡き父が顔の広い人だったので、あちこちに相談したところ、私の趣旨に賛同してくださる方がいらっしゃいましたので、企画してみました。社会見学の日付は、夏休みに1週間ほどを予定しています。見込みのある生徒はそのまま弟子入り、もしくは奨学生や特待生待遇で大学の推薦を受けられるよう交渉しました。ですから、帰宅されましたら、遊び半分でなく真剣に取り組むようお子さんにご説明してください。私からは、以上です。何かご質問はございますか?」
『すいません。具体的にどのような所で社会見学させていただけるのでしょうか?』
「音楽関係はスアム文化財団が抱えるオーケストラ。声楽に関しても有名な声楽家を紹介してもらいます。美術科は、デザインコース以外は陶芸家のソ・イジョン氏が責任もって各分野の芸術家を紹介してくれることになっています。あとデザイン・舞台芸術・映像関係は、神話グループが中心になって世話をしてくれることになっています。あと教育課程を希望している生徒さんにつきましては、少し考えさせてください。おそらく児童心理学や専門分野の講師を付けることになると思います」
チェウォンの話を聞いた保護者達は、ビッグネームがポンポン飛び出し思わず息を呑んだ。
「夏休みまでには、希望された生徒さん全員の受け入れ先を担任の先生を通じて必ずお伝えします。質問がなければ、総会はこれにて終了させていただきます。皆さん、お忙しいところありがとうございました」
PTA総会が終わり、保護者が続々と帰宅する中、ウソンに声を掛けられた保護者だけが、先程の会議室に戻ってきていた。
会議室には丁寧にも座る席が指定されており、子どもたちの名前が書かれた席に保護者は腰を下ろし、チェウォンが入ってくるのを待った。
チェウォンが腹心の部下たちと入室してくると、一瞬一点を凝視したが、すぐにウソンに話しかけた。
「こっちが指名した生徒の保護者たちは?」
「欠席のようです」
「分かった。そいつ等の子どもは、うちの傘下への縁故入社は認めない。リストを作って関連会社の社長に送れ」
「了解!」
この会話を聞いた保護者達は、緊張の度合いを強めた。
「お待たせいたしました。ここに集まっていただいた中でも前列に座っていただいた方にお聞きしたい。希望職種が【シンコンツェルン】とはどういう事でしょうか?シンコンツェルンは、企業名であり職種ではありません。また私が知る限り、シンコンツェルンは芸術関係には疎い企業です。本当にお子さん方がご希望されてるとは思えないのですが・・・」
『『・・・・・』』
「・・・お答えしていただけないようですね。あなた方は、シンコンツェルンの実態をご存知ない。うちは福祉事業がメインで、あと趣味で傘下企業の経営管理をしているだけです。まぁ、儲けが出るように多少は介入しますがね」
『『!!!』』
これには、会議室に集まった保護者全員が驚いてしまった。
「はっきりと申し上げますが、ビジネス関連の社員は、ソウル大・神話学園・成均館の経済学部をTOPクラスで卒業した者たちばかりです。ソウル芸術高校もそうレベルの低い学校ではないですが、ここから入社基準を満たすにはかなり厳しいと思います。申し訳ないが、あなた方の希望に副うことはできません。来週の月曜日まで、時間を差し上げます。今度はお子さんの希望に副う職種を記入して、担任まで提出してください。お帰りになって結構ですよ」
前列に座っていた保護者が肩を落として会議室を出ていくと、チュウォンは一人の母親に目を向けた。
「お待たせいたしました。ミン・ヒョリンさんのお母さんですね?」
「「「!!!」」」
「はい。あの旦那さまに言われ参りましたが、なぜ私は残されたのでしょうか?」
「お母さん、お嬢さんの事をどれ程ご存知ですか?お嬢さんは、あることが切欠で始業式以降、登校されておられません」
「えっ!?嘘っ・・・」
「本当です。後で担任の先生に確認を取っていただいても構いませんよ。不登校の原因はお嬢さんご本人ですが、切欠を作ったのはうちの倅なんです。ですから、説明させていただこうと、あなたの雇い主に連絡してお越しいただいたわけです」
「あの、どういう事でしょうか?」
「余計なお節介ですが、このままではお嬢さんはあなたの二の舞になりますよ」
「えっ・・・」
「将来、風俗を生業にするかシングルマザーの道を歩むという事です」
「「「!!!」」」
「失礼な!!うちのヒョリンに限って、そんな事はありません。舞踊科の特待生なんですよ」
「・・・芸術高校には特待生制度はありません。あるのは、学費を借り受ける奨学生制度だけです。ですが、お嬢さんは、それも受けておられません」
「そんな・・・」
「お母さん・・・お嬢さんの身なりを見て、おかしいとは思わなかったのですか?」
「それは、バレエスタジオの先生が可愛がってくださっていて買ってくださると・・・」
「それもあるでしょうが、被服費の大半は、そこにおられるカンコーポレーションのご子息のポケットマネーです」
「「「!!!」」」
「ついでに言うなら、入学金と1年次の授業料はバレエスクールの先生が支払っておられましたが、2年次の授業料と乗馬クラブの入会金はご子息が払っておられます。遊興費を含めれば、間違いなく2000万ウォン以上は彼が出していると思いますよ。彼は未成年者です。カン社長が、お嬢さんとあなたを相手取り訴訟を起こせば、あなたは払う能力があるのですか?」
「・・・・」
「私が気づいて警告したため、今年度の授業料は彼は出していませんが、すべてキャッシュだったようです。お嬢さんは、どこからお金を工面したのでしょうか?」
「・・・・・」
「お母さん、最初の話に戻りますが、お嬢さんはご自分の事をミン貿易の社長令嬢で皇太子殿下の恋人だと嘘を吐き、そこにいる方たちのご子息と他の生徒たちを見下していました。その嘘をうちの倅が暴露したため、プライドの高いお嬢さんは登校できないのでしょうね。朝から、バレエスタジオに通っておられます」
「・・・娘からは、殿下と仲良くさせていただいていると聞いていたのですが・・・」
「殿下の友人に貢がせて、殿下と仲良くお付き合いしてると?その考え自体、普通ではないと思いませんか?」
「・・・仰る通りです。あのどうすれば・・・」
「自業自得とはいえ、うちの倅が切欠を作ってしまったのは事実です。それで提案なんですが、バレエ留学されませんか?」
「えっ!?」
「スアム文化財団に、将来有望な芸術家の卵に留学を斡旋する制度があります。それを受けてみませんか?」
「急な話で、どうお答えしたらいいのか・・・少し考えさせていただけませんか?」
「構いません。ただこの国にいれば、甘い誘惑に誘われて犯罪に加担する恐れがあります。お早いご決断を」
「「「!!!」」」
「あの・・・それは、どういう・・・」
「企業秘密です。。。というのは冗談ですが、宮が絡んでいます。宮の怒りを買う前に国外に出た方が良い。そうでないと、一生お嬢さんに会えなくなりますよ。返事は、あなたの雇い主にしていただければ結構です。その後は、すべて私が手配しましょう」
「・・・はい」
「私の話は、以上です。お時間をお取りして、申し訳なかった。お引き取り下さい」
ヒョリンの母親が深々と頭を下げて出ていくと、チェウォンは一番後部座席に座っている保護者を睨みつけた。
「イ・ヒョン、てめぇ、ふざけてんじゃねぇぞ!!何で、ここにいんだよ!?」
「クククッ、やっぱりバレてたか・・・PTA会長殿、PTA総会に参加しに来たんだが、ダメだったか?」
「「「!!!」」」
笑いながら答えたのは、まぎれもなく皇帝陛下だった。