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Channel: ゆうちゃんの日記
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前進あるのみ 第51話

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チェウォンは、アン医師に補足をしてもらいながら、スンレにチェギョンの病気の話をした後、別の医師に会いに行くと言って、帰るアン医師と共に王立病院へと出かけていった。
チェギョンの話を聞き、自分を責め、泣き続けているアジュマに ユルはそっと寄り添った。
 
「アジュマ、気分転換で僕に付き合ってください。ドライブしましょう」
「・・・ユルちゃん・・・」
 
憔悴しきっているスンレを助手席に乗せると、ユルは黙って車を走らせた。
チェギョンの事で頭がいっぱいだったスンレは、車が地下駐車場に入って、ふと我に返った。
 
「ユルちゃん、ここは・・・」
「チェギョンが住むマンションです。シンはきっと宮に連れ帰っている筈ですから会えませんけど、チェギョンの暮らしぶりだけでも見てみませんか?」
「・・・ありがとう。是非、見てみたいわ」
 
車を降りると、二人はハン内官から預かったカードキーを取り出し、エレベーターに乗り込んだ。
 
「このマンションはセキュリティーが厳重で、このカードキーがなければエレベーターにも乗れないんですよ。今日は、チェギョンの隣に住んでいるハン内官に借りてきました。普段はハン内官の奥さんであるパン翊衛士が、学校の送迎と夕飯の準備、あと出かけた時の護衛をしてくれています」
「そうなの?じゃあ、お礼言わなくっちゃね」
「アジュマ、ここです。あれ?鍵が開いている。パン翊衛士がいるのかな?」
 
扉を開け、中に入ったスンレは、リビングというよりレッスン室のような部屋を見て、愕然としてしまった。
 
「チェギョンは、本当にここに住んでいるの?」
「驚きましたか?寝室もベッドと机があるぐらいです。赤ちゃんがいるってことは、パン翊衛士がいるみたいですね。パン翊衛士、掃除してるの?」
 
ユルが声を掛けると、シーツを持ったパン翊衛士が寝室から出てきた。
 
「ユルさま・・・いらっしゃいませ。チェギョンは、先程殿下とご一緒に宮にお送りしました。何か御用でしたでしょうか?」
「うん、チェギョンの鞄、届けに来たんだ。パン翊衛士、こちら、チェギョンのお母さん」
「えっ!?はじめまして、パン・ソルミと申します」
「イ・スンレです。あの・・・チェギョンは、いつもあなたに部屋の掃除までさせているのでしょうか?」
「えっ!?い、いえ・・・今日は特別です。殿下より部屋の戸締りを頼まれましたので、来たついでにしておりました」
「・・・パン翊衛士、なんか怪しいんだけど?一旦、シンとチェギョンはここに戻ってきたんだよね?で、シーツを取り替えているってことは、そういうことなの?」
「・・・ユルさま、何の事でございましょうか?」
「パン翊衛士、隠してもダメだよ。血痕見えてるし・・・シン、やっと覚悟決めて、一線越えたんだね?」
「ユルさま・・・」
「えっ!?パン翊衛士さん、それは本当の事なのでしょうか?」
「奥様・・・立ち話は何ですので、とりあえずお茶をお出しいたします。ソファーにお掛けになって、お待ちください」
 
冷たいお茶を出した後、パン翊衛士は子どもを抱きながら、口を開いた。
 
「奥様は、チェギョンの事をどこまでご存じでしょうか?」
「摂食障害とそれに伴う低体温症を患っていると、先程、王立のアン医師より聞きました。あとバレエを辞めたいという事も・・・」
「初めて出会った時、チェギョンはこの子と同じ量のお粥しか食べられませんでした。それほど胃が小さくなっていました。でも食べることが好きなチェギョンは、直ぐに食べ過ぎて胃痛を起こしていました。学校で胃痛を起こされた時、ユルさまに私の存在がバレましたので、学校ではユルさまと殿下にお願いすることにしました」
 
スンレは、パン翊衛士が何を言いたいのか分からず、黙って聞くしかなかった。
 
「殿下が体調管理されるようになって、チェギョンは胃痛を起こすことなく順調に回復していたのですが、突然、胃痙攣を起こしたことがありました。ユルさまもご存知ですよね?」
「うん。シンがプロポーズした一週間後ぐらい後だったよね」
「はい。チェギョンは、女として生まれたからには女の幸せを掴みたいとよく言っていました。でもこのままでは、殿下の申し出を受けるわけにはいかなかったのです」
「あの、それは、一体・・・」
「倒れた後に聞きました。チェギョンは、ヨーロッパを転々としているうちに 気づけば月のものが来ていなかったそうです。気づいたのは、2年ほど前だと言っていました」
「「!!!」」
「アン医師より、体重が増えストレスを溜めなければ自然と復活すると言われたそうで、暴飲暴食をした結果、胃痙攣を引き起こしてしまったようです」
「パン翊衛士、シンはそれを知ってるの?」
「勿論でございます。自分の事を前向きに考えてくれている事が分かっただけでも嬉しいと仰っていました。そして薬ではなく、副作用のないホルモンバランスを整える薬湯を毎日ご用意され、チェギョンに飲ませておられます」
「殿下はそこまでチェギョンの事を・・・」
「奥さま・・・前振りはここまでにして今日のお話をさせていただきます。チェギョンはずっとバレエ漬けの日々だった所為で、かなり服装に無頓着なところがあります。帰国当初は、レオタードとジャージしか持っていませんでした」
「えっ!?うそ・・・」
「本当でございます。それに気づいた殿下が、チェ尚宮さまに頼んで普段着をご用意されました。ですが、男性ですので恥ずかしくて、下着までは注意することはできなかったと思われます。で、この暑さです。おそらく学校で上着を脱ごうとされたのではないでしょうか?」
「クスクス・・・当たり。シン、慌てて、連れ帰ったんだよね」
「帰宅してすぐ、殿下の怒鳴り声が聞こえました。『芸校は女子高じゃない!上着を脱ぎたいなら、ブラを付けろ!!もっと危機感を持て!!』だったと思います。それでもチェギョンさまは気になさることなく、ケラケラと笑われた後、殿下の前で平気で半裸になり、着替えはじめられたようで・・・」
「えっ!?じゃあ、シン、それで襲っちゃったの?」
「いいえ、少し懲らしめようと思われたようでございました。途中で止め、もう少し男という生き物を警戒しろと仰っていました。その後、いつか自分の許を飛び立つまでオッパとして、傍にいることを許してほしいと・・・」
「「えっ!?」」
「うちの主人曰く、バレエを辞めると言いつつ、バーレッスンを続けているチェギョンを見て、殿下はチェギョンがいつか自分の許を去るだろうと諦められてるのではないかと・・・」
「・・・確かにあの舞台を見た人間は、辞めるのは勿体ないと思うよね」
「話を戻します。殿下のお言葉にチェギョンがキレました。『俺の事を真剣に考えろとか、昔の約束を守ろうとか、全部、体の為を思って吐いた嘘だったのか?帰ってくれ』と。またチェギョンは、ストレスと緊張の毎日で殿下との思い出が心の支えだった。殿下に一目会いたくて帰国したと言って、泣いていたように思います。それを聞いて、殿下は一線を越える決意をされました。報告は以上です」
 
長い沈黙の後、ユルはパン翊衛士に疑問を投げかけた。
 
「ねぇ、何でそんなに詳細に知ってるわけ?ひょっとして盗聴器仕込んでるの?」
「クスクス・・・ユルさま、違います。確かにこの部屋は防音がしっかりしていますが、窓を開ければ防音の意味はありません。ベランダで洗濯物を取り込んでいたら、痴話喧嘩が始まってしまったのです。音をたてるわけにもいかず、ジッとしておりましたら始まってしまったものですから・・・その後すぐにコン侍従長さまより殿下への伝言を頼まれ、仕方なく事が終わるのを耳を澄ませて、待っておりました」
「プクククッ・・・パン翊衛士、お疲れさま」
「いいえ。これも仕事ですから・・・殿下は、初めての日ぐらいずっと一緒にいようと仰り、動けないチェギョンを抱き上げて、宮に連れ帰られました。奥さま、安心して殿下にお任せして大丈夫だと思います」
「・・・ええ、そうみたいですね。チェギョンは、私達親にも甘えることはない子でした。それが、殿下には心を許し甘えている。殿下には感謝しかありません。主人は分かりませんが、私はチェギョンの選択を応援したいと思います。パン翊衛士さん、これからもチェギョンをよろしくお願いします」
「奥さま、こちらこそよろしくお願いします」
「ユルちゃん、今日はここに連れて来てありがとう」
 
徳寿宮へ戻る車中のスンレは、行きとは違い何か吹っ切れたようで、笑顔が戻っていた。
 

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