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Channel: ゆうちゃんの日記
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前進あるのみ 第52話

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用事を済ませたチェウォンが戻ってきて、賑やかな夕食が始まった。
ユルは、チェウォンと漫才のように言いあう父親に驚いたが、そんな父親を見て、楽しくてしかなかった。
夕食後、父親二人は書斎に場所を移して酒を飲み始め、ユルはスンレと一緒に客間に4組の布団を運び、敷いた。
 
「アジュマ、先にお風呂にどうぞ」
「私は、ちょっと厨房をお借りして、呑兵衛二人のためにおつまみを用意するわ。ユル君、お先のどうぞ」
「じゃあ、先に入ってきますね」
 
風呂で汗を流し、さっぱりしたユルは、父親たちに一言声を掛けようと書斎に向かった。
ドアをノックしようとした時、二人の会話が聞こえ、思わず手を止めてしまった。
 
「チェウォン、今回の帰国の目的は、本当にビザの更新だったのか?」
「・・・スンレは、そのつもりだったろうな」
「じゃあ・・・」
「ああ、アメリカに帰化するつもりで必要な書類を取得しにきた。チェギョンのもな」
「チェウォン!」
「ス、落ち着け。申請はしていない。一旦、保留だ。チェギョンに対して親らしいことをしたことがない俺らが、勝手に決めていい問題じゃないことに気づいた。電話とメールのやり取りだけで、チェギョンは元気だと信じていた自分が恥ずかしいよ」
「仕事が忙しかったんだ。仕方ないだろう」
「それでもスンレに様子を見に行かせ、マネジメントする信頼できる人を付けるべきだった。そうしたら、あそこまで衰弱する事も無かったろう」
「ストーカーとパパラッチのことか?」
「それだけじゃなかったようだ。パートナーを盗られたと思い込んだ自称彼女の団員から執拗な嫌がらせを受け、チェギョンを出演させたい演出家が一人のSPを買収し拉致・監禁したらしい・・・今日、カルテを見て初めて知った」
「・・・だから、あれが名誉や賞賛なら私は要らないか・・・」
「だろうな・・・ス、シン坊とチェギョンは、どんな感じなんだ?」
「シンは、本当にチェギョンを大事にしてるよ。俺が見に行ったときは、膝の上に座らせ薬湯を飲ませてたな。その後、客を放置したまま、抱き上げて散歩しに行った。相変わらず振り回されているが、そんな自分が嫌いじゃないらしい。可愛くて仕方がないそうだ」
「そうか・・・ス、俺たちは明日アメリカに戻るよ」
「えっ!?」
「正直、チェギョンに会わす顔がないし、問題は俺の中にある。少し俺に時間をくれないか?と、上皇さまに伝えてくれ。きっと上皇さまが、一番乗り気だろうからな。クククッ・・・」
「確かに。。。上皇さまに、そう伝えておこう。なぁ、やっぱり俺の所為か?」
「知らなかったんだ、お前の所為じゃない。ただ分かった時点で、ファヨンさんに真実は告げるべきだったとは思うけどな。皇太子妃のプレッシャーが、あそこまで変えてしまったんだろうな。今から思えば、あの人も可哀想な人だな。なぁ、チェギョンもファヨンさんと同じ運命を辿るような気がしてならないんだ。あのカルテを見る限り、妊娠は難しいと思う」
「大丈夫だ。シンはすべてを承知でチェギョンを望んでいるし、一緒に治そうと励ましてもいる。俺とは違う」
「・・・シン坊は、いい男になったな。ヒョンと大違いだ。ミン妃は、元気にしてるか?きっとあの人も俺と同じ勘違いをしてるはずだから気になるんだ」
「勘違いとは?」
「これだよ」
 
チェウォンは、財布を取り出すと、そこから一枚の写真を取り出した。
 
「これは・・・まさかチェギョンは、ファヨンと知り合いなのか?」
「みたいだな。イギリスでは、整体と気分転換を兼ねて、友人とヨガに通っているらしい。一緒に写っているお前の息子にそっくりな人は、そのヨガの先生の恋人らしい。俺は、今日、息子に会うまでヒョンとの子だと思ってた」
「・・・コイツだったのか・・・昔、東宮殿の翊衛士をしてた奴だ。退官したのは知っていたが・・・彼女が幸せそうで良かったよ」
「ス・・・大丈夫か?なぁ、息子は、この事を知っているのか?」
「俺とファヨンでは、AB型のユルは生まれないからな。学校で遺伝の勉強をしたときに聞かれて、正直に話した。道徳上、皇位継承権は放棄したが、お前は私が育てた自慢の息子だと説明した」
「そうか・・・悩んだろうが、本当に真っ直ぐに育ったな。特に笑顔がいい。もっと自慢して歩いてやれ」
「勿論、そうするつもりだ」
 
ユルは、とうとう声を掛けそびれてしまい、部屋に引き返そうと踵を返したところで、目を見張った。
 
「アジュマ・・・」
「ユルちゃん、部屋で私と少しお話しましょうか?」
 
スンレに手を引かれ、部屋に戻ってきたユルは、俯いて顔を上げることができなかった。
 
「ユルちゃん、ご両親の離婚の理由は知ってる?」
「・・・母の浮気ですね」
「う~ん、ちょっと違うかな?ス殿下ね、ファヨンさんに出会う前に病気で高熱が一週間以上続いたことがあるの。婚約が決まった時、うちの主人が冗談で生殖機能があるか調べてみろって言ったんですって。で、ス殿下、念の為って調べたらしいの。で、ないことが分かったの」
「えっ!?」
「その時には、もう婚約を発表した後でね。さっきの話では、殿下はファヨンさんに真実を話せなかったみたいね。。。ファヨンさん、本当に可愛い人だった。でも皇太子妃に対する世継ぎのプレッシャーは相当なものだったはず。特に後から結婚したヒョン殿下の方は、すぐに妊娠されたし。それも立て続けに・・・自分を守るには、皇太子妃として虚勢を張るしかなかったんじゃないかしら?それに不妊治療もしてたはず。自分に問題がないのにできない。それで殿下を疑ったのかもしれないわ。だから、一概にファヨンさんだけが悪いわけじゃないと私は思うわ」
「アジュマ・・・」
「ファヨンさんの懐妊が発表された時、私たちはアメリカにいたんだけど、主人は一人ですぐに帰国したわ。アメリカに戻ってきてすぐ、主人は私の出産を待ってス殿下の傍にいてやりたいから帰国するって。帰国してすぐユルちゃんが生まれたの。ス殿下は、全てを胸の内にしまって、ファヨンさんとユルちゃんの3人で幸せに暮らすつもりだったの。皇太子を廃位してね。でもファヨンさんは反対したの。皇太子妃で在りつづけ、あなたを皇帝の座に就けようと思ってた。皇太子妃のいう座が、ファヨンさんを狂わせてしまったのね。これが、離婚の真相」
「・・・・・」
「あなたを手元に置いたのは、あなたとファヨンさんを守るため。ファヨンさんと一緒に海外追放になったら、一生あなたは不義の子、ファヨンさんは世紀の悪女として生きることになったと思うわ。殿下は、上皇さまにも真実を告げていないわ。知っているのは、当事者と私たち夫婦だけ。どうか殿下を許してあげてちょうだい。本当に悩んで出した結論だと思うから・・・」
「はい、僕にとっても父さんは自慢の父ですから」
「・・・ユルちゃん、あなたは私にとって息子同然よ。何かあったら、必ず相談してちょうだい」
「アジュマ、ありがとう」
「・・・ユルちゃん、今日だけ私の息子になってくれない?チェジュンは、ずっと機械に繋がれていて、一緒に寝る事ができなかったの。それだけが心残りで・・・」
「アジュマ・・・ええ、一緒に寝ましょう」
 
電気を消し、隣同士の布団に入ると、ユルはそっとスンレの手を握った。
隣の布団から、声を押し殺した嗚咽が漏れてくる。
 
「ユルちゃん、ありがとう。チェギョンは、ヨガの先生があなたのお母さんだとは知らないわ。でもかなり懇意にしてたみたい。気になるようなら、チェギョンに連絡先を聞きなさい」
「・・・・・」
「ユルちゃん、おやすみなさい」
 
(アジュマ、母の温もりを知らない僕にもアジュマは母のような人です。色々悩みは尽きないけれど、今日だけはアジュマの温もりに浸って寝よう・・・アジュマ、おやすみなさい)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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