最長老とコン内官を呼び出した皇太后と皇后は、場所を正殿居間へと移した。
そして最高尚宮とハン尚宮を残し、全員人払いをしてしまった。
皇后は、今日見てきた光景や聞いてきた国民の声を2人に話すと、反対に最長老に訊ねた。
「最長老殿、この事態を把握しておられなかったのか?」
「皇后さま、申し訳ありません。王族には口酸っぱく注意をしておりましたが、まさかその家族までそのような愚かな行為をしておるとは夢にも思いませんでした」
「皇太后さま、皇后さま、一番実態を把握している王立の学校関係者から詳しい事情をお聞きしたらいかがでしょうか?」
「・・・ではコン内官、今すぐ呼んでおくれ」
「御意」
コン内官が連絡をすると、すぐさま王立学園の理事長以下、手の空いていた数名の教師が参内してきた。
「理事長、時間を取らせてすまぬ。今日は、遠慮なく正直に話してもらいたい。王族の子どもたちの事だ。どのような生徒なのじゃ?」
「恐れながら、申し上げます。はっきり言って、何をしに来ているのか分からない生徒がほとんどでございます」
「「「えっ!?」」」
「皇太后さま、ここからは現場にいる私から説明させていただきます。私は中等部の数学の教師で生活指導を兼務しています。彼らは特権意識が高いようで、他の生徒たちを見下しています。授業態度も悪く、注意しようものなら『庶民の分際で、王族に意見をするつもりか!』と返ってくる始末です。当然、学力のレベルも低く、中等部と高等部は他の生徒に迷惑がかからないよう王族専用のクラスを作り、別カリキュラムを組んでいます」
「「!!!」」
「・・・そこまで酷いのですか・・・」
「はい、皇后さま。男子生徒はすぐに暴力を振るい、女生徒は化粧をし、授業中も鏡を見ている子が大半です。隔離するまでは、香水の臭いで近くにいる生徒が咳き込むことは日常茶飯事でした」
「「「・・・・・」」」
「勿論、王族の子どもたち全員ではありません。現に殿下は王族の子どもたちとは一線を引き、いつもお一人でおられます」
「では、初等部でもすでに問題になっているのですか?それと太子は、いつも一人でいるのですか?」
「皇后さま、私は初等部で6年生の学年主任をしています。今まで、何年も王族の子どもたちを見てきましたが、殿下の学年が一番酷いかもしれません」
「「「えっ!?」」」
「殿下が一言話せば、男子児童は学友気取りで生意気だ、女子児童も目障りだと袋叩きに遭うのです。特に女子児童は酷い。自分たちの中から皇太子妃が選ばれると豪語し、お互いを牽制しているように見えます。聡明な殿下ですから、他の児童たちに迷惑をかけないようお一人でおられることを選ばれたのだと思います」
「・・・酷過ぎる。理事長、保護者達には連絡をしておるのか?」
「学校だけでは指導しきれないと思い、家でもしっかり指導してほしいと何度か話をしましたが、どのご家庭も暖簾に腕押し状態で話になりませんでした。皇太后さま、お願いがございます。王族の特権である無条件入学を廃止していただきたい。このままでは、名門王立学園は名前だけの三流学校になってしまいます」
「・・・兄上殿、王族を抑えることはできますか?」
「他の長老衆と協力して、必ず抑えましょう。理事長、儂の管理不足じゃった。誠に申し訳ない」
「・・・理事長、今週の土曜日に王族たち全員に実力テストを受けさせることは可能ですか?」
「えっ!?」
「王立は、宮主導で国民の税金で運営している学校です。黙って見過ごすわけにはいきません。合格ラインに満たない王族の子どもたちは辞めさせましょう。他の生徒たちなら80点を採れるぐらいのテストを用意できますか?」
「そういうことなら、教師たちは喜んで用意すると思います。お任せください」
「最長老殿、ではよろしくお願いします」
「か、かしこまりました、皇后さま」
「今日は、言いにくいことを言ってくれて感謝します。また何かあった場合、遠慮なく報告してください。コン内官、あなたの携帯番号を理事長にお教えしてあげてください」
「かしこまりました、皇后さま」
王立の学校関係者が帰っていくと、皇太后と最長老は疲れてグッタリとしてしまった。
「最長老殿、のんびりしている暇はありませんよ。これは、氷山の一角だと思っています。この機会に王族の改革をされてはいかがですか?」
「・・・皇后さま、陛下抜きで話を進めるのも・・・一度、お伺いを立ててもよろしいでしょうか?」
「陛下には私から報告しておきます。ですから、心配せず早急に対処してください。皇太后さま、申し訳ありませんが、お先に失礼させていただきます」
「お疲れであった。部屋に戻って、ゆっくりしておくれ。ハン尚宮、皇后を頼みます」
ハン尚宮は皇太后に一礼をすると、皇后を支えるようにして居間を出ていった。
皇太后はその様子を心配そうに見送ると、最長老とコン内官の方に顔を向けた。
「兄上さま、コン内官、皇后にこれ以上負担をかけさせたくはありません。早急に対処してください」
「皇太后さま・・・いや、パクや、皇后さまはどこかお加減が悪いのか?」
「・・・今日、懐妊が分かったそうです。それと同時に妊娠の持続が難しいほど、体調が悪い事も判明したそうです」
「「!!!」」
「兄上さま・・・姑また女性としては、ミンには子どもを諦めて治療に専念してほしいと思っています。ですが、私たちは皇太后と皇后で、歴史ある宮・伝統をよりよい状態で後世に継いでいかねばなりません。ミンは、苦渋の選択で皇后の立場を優先しました。どうか、一刻も早く皇后が安心できる宮にして欲しいと思います」
「・・・陛下に報告をしないつもりか?」
「懐妊の話はするでしょうが、体調の方はしないでしょう。ヒョンの性格では、全てを受け入れることは無理でしょうから・・・大体、王族の腐敗もヒョンの性格が原因の一端だとは思いませんか?」
「お優しいと言うか平和主義だからな。確かに今日の事を報告しても 陛下なら王族たちに厳重注意されるぐらいだろう」
「だから、皇后が立ち上がり、私が動くのです。皇后は、シンの将来・行く末を心配しています。少しでもよい環境にして、皇位を継がせたい。今回の措置は、くだらない王族の娘が皇太子妃に名乗りを挙げられるのを阻止する為でしょう」
「・・・パクや、皇后さまはあの子の事をご存じないのか?」
「言っておりません。シンの相手は王族から選ぶつもりのようでしたから黙っていました。勿論、ヒョンにも話してはいません」
「そうか・・・」
「兄上さま、許嫁とは言わず、それとなくシンと引合わせてもらえませんか?できれば、皇后にも会わせたい」
「・・・考えよう」
「お願いします。今の皇后には、あの子の優しさが必要のような気がします」
皇太后に頼まれ、最長老は考え込んでしまった。
(あの殿下が、あのチェギョンをすんなり受け入れるだろうか・・・パクや、お前の知っているチェギョンはごく一部だ。ハァ・・・)