緊急王族会議を開いた最長老は、王立学園の実情を語り、長老衆や王立学園に子供を通わせていない王族たちを味方に付け、今週末に学力テストを行い、合格ラインに満たない王族の子どもたちは王立学園から去る案を認めさせた。
土曜日、シンはいつものように勉強の為、コン内官を従えて書筵堂に向かった。
部屋に入ると、いつもの講師ではなく、王立の教師が待っており、シンはコン内官の顔を見た。
「今日は講義ではなく、学力テストを受けていただきます。勿論、初等部のではなく、中等部のレベルのテストでございます」
「殿下、おはようございます。今日は試験官として参内いたしました。9時開始ですので、時間までしばらくお待ちください」
「・・・・・」
試験開始までボーっとしていると、外が何やら騒がしくなってきた。
「お爺ちゃん、一体、ここはどこなのよ!?」
「クククッ、少しは静かにせんか」
「失礼しますよ。先生、すまんが、この子も一緒に受けさせてくれんか?」
「は、はい・・・あの、ですが、ここにはお嬢さんに適したテストは用意してございませんが・・・」
「構わん、構わん」
「ちょ、ちょっと待ってください。お爺ちゃん、テストって何の事?私を嵌めたわね!!どこが息抜きしに行こうよ」
「日頃の成果を知りたいと思っただけじゃ・・・あとで、妹に会わせてやるから頑張りなさい」
「パクお婆ちゃま?じゃ、頑張る!!」
シンは、最長老と少女の会話に驚いて、思わず2人を見入ってしまった。
すると視線を感じたのか、少女がシンの方を見た。
「あら?あなたもこの狸に騙された口?見たことのない人よね?お爺ちゃん、今度、有閑倶楽部に来る人?」
「いや、チェギョンさえ良かったら、一緒に勉強してはどうかと思ってな。ここは、お前が好きそうな本がいっぱい置いてあるぞ。どうじゃ?」
「はぁ!?勉強は嫌いだって言ってるでしょ!!絶対にヤダ!!」
「あの・・・そろそろお時間ですので・・・君、試験を受けるなら、早く座りなさい」
試験官である教師は、時間が気になり、チェギョンの腕を掴むとシンの隣に座らせた。
(至って普通で王族の娘のようには見えないが、誰なんだ?・・・まさか王立に入学してくるのか?これ以上、厄介な子はゴメンだ・・・)
「ハァ、お爺ちゃん、しっかり紹介してくれる?この人、完全に誤解してるじゃん。アジョシ、ソウル第3小学校6年のシン・チェギョンです。確かに王族の娘でもありませんし、至って普通です。それから、王立に入学するつもりはありませんから、厄介な事は起こりません。これで、いいですか?」
「えっ!?」
教師は少女に心の中を見透かされ、思わず狼狽してしまった。
「それから、すご~く神経質なんです。ですから、私に触らないでくださいます?」
「クククッ、チェギョン、すまなんだ。先生、この子は親友の忘れ形見でな。儂や仲間が後見しておる。テストは受けさせるが、王立に通わせようとは思っておらん。安心しなされ。それから、今の生活を維持したいなら、この子には触れない方が良い。儂からの忠告だ」
「は、はい・・・では、始めさせていただきます」
「クソジジイ、勝手に親を殺すな!一応、揃ってるっつうの!!」
(最長老が後見している子?皇太后さまをパクお婆ちゃんと呼ぶほど親密な関係って・・・一体、どんな子なんだ?それより先程の先生の狼狽ぶりからして、あの発言は的を得ていた?ひょっとしてエスパー?)
テストが目の前に置かれ、試験が始まった。
中等部のテストだと聞き、シンは少し緊張したが、意外とスラスラと解けたのでホッとした。
試験開始から30分もしない内に、隣の席から寝息が聞こえてきた。
「クククッ、寝てしもうたわい。問題が簡単すぎたようじゃな。コン内官、すまんが起こして、皇太后さまの許に送り届けてくれんか?寝ておる時は大丈夫だ。まぁ、お前さんなら、儂と違うて疾しい事もないじゃろう?」
「・・・クスッ、かしこまりました」
「先生、模範解答を持って来ておるなら、採点してもらえんか?それから、この子の事は誰にも話さんように頼む」
「は、はい・・・」
コン内官が少女を書筵堂から連れ出す頃、シンも解答用紙を全問埋める事ができた。
「最長老・・・少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「殿下、試験は終わりましたかな?おそらく聞かれるだろうと思い、お待ちしておりました。あの子の事ですか?」
「はい」
「殿下、あの子に興味が沸きましたかな?公立小学校に通っている普通の子ですが、殿下と似たような境遇の子です」
「えっ!?」
「感受性が高いのか、相手の考えていることが理解してしまう。試験官殿、先程の狼狽ぶりからするとチェギョンの言った事は図星だったようじゃな」
「///申し訳ありません」
「構わん。あの子はこういう事に慣れておるし、気にしておらん。そなたも気にせんでいい。但し、他言無用じゃ」
「・・・(ゴクッ)かしこまりました」
「試験官殿、あの子の採点が済んだなら、退出してもらって構わん。もう他の先生の許に戻りなさい」
「では、失礼させていただきます」
教師が出ていくと、最長老は話の続きをしだした。
「殿下、その能力の所為で、あの子は壁を作って人を寄せ付けようとしません。儂が知っている限りでは、あの子が心を許したのは、死んだ祖父と友一人だけです」
「・・・ご両親は?先程、健在だと零していましたが・・・」
最長老は口を閉ざし、辛そうに首を横に振るだけだった。
「では、なぜあの子をここに連れて来たのですか?」
「殿下は恵まれているという事を知ってもらいたかったからです。お心を開きさえすれば、立派なご両親に祖母がいて、忠誠心の塊のようなコン内官が傍にいることに気づかれる筈だからです」
「・・・あの子にはいないと?最長老がいるではありませんか?」
「最長老の職務は、清廉潔白なだけでは務まりません。本当に汚れなき人間でなければ、あの子の傍にはいられません。裏を返せば、あの子が心を許す人間は絶対に信頼できる。私は失望させたくはありませんし、あの子もその辺りを察しているのか、必要以上には私達には近づきません。。。殿下、案外、あの子と気が合うかもしれませんよ」
「えっ!?」
「殿下、あの子と話がしたいなら、コン内官を通じて連絡をください。参内させましょう。コン内官が戻ってきたようですので、私もこれで失礼させていただきます。お時間をとって、申し訳なかった」
コン内官が戻ってくると、最長老はコン内官の肩をポンポンと叩き、書筵堂から出ていった。
「殿下、お待たせいたしました。午前の予定は、もうございません。午後からのフェンシングの時間まで、どうぞ東宮殿でお過ごしください」
「・・・分かった」
シンは腰を上げようとした時、少女の答案用紙がそのまま机に置き忘れていることに気づいた。
何気なく答案用紙をひっくり返して見てみると、全ての回答に丸が付いていた。
(このテスト・・・中等部のおそらく2年~3年のレベルだ。俺より英才教育が進んでいるのか?確か、俺と同じ小6だと言っていたよな?コン内官は、あの子の事を知っているのだろうか?)