進級テストの結果、大半の王族たちは王立学園から姿を消すことになった。
シンは、それを皇太后や陛下と正殿居間で見た最長老と皇后の記者会見で知った。
(この間の学力テストは、この為だったのか・・・)
最長老は一部の王族たちの愚行を国民に陳謝し、王族会を改革していくことを発表していた。
また皇后も 王族の家族を取り纏めることは自分の仕事であり、纏めきれなかったと反省の弁を述べた。
そして宮は、シンの妃候補など募ってはいないので、そのようなバカな発言をしている者を見ても取り合わないでほしいと話した。
「クスクス、皇后は、王族に対して大きな釘を刺しましたね」
「母上、なぜ私には一言も報告がなされなかったのでしょうか?」
「・・・ヒョン、もし報告したら、あなたならどうしましたか?」
「えっ・・・それは、それ相応の処分をしたと思います」
「いいえ。穏便にすまそうと、厳重注意ぐらいだったでしょう。そして国民から疎まれている宮のままだったでしょう。ミンは、シンに少しでもよりよい環境を作ろうと立ち上がりました。あなたも見習ったらいかがですか?」
「・・・・はい。申し訳ありません」
「いつまで油を売っているつもりですか?早く執務に戻りなさい」
「は、はい」
陛下が慌てて出ていく姿を見送った皇太后は、頭を横にゆっくりと振るのだった。
「シン、今回の措置で気兼ねなく友人が作れますよ」
「えっ!?」
「ミンは王族たちの愚かな行動の所為で、あなたが学校で一人で過ごしていることが許せなかったのです。これで少しは王立学園もマシになるでしょう。シンや、私達はいつもあなたの味方だということを忘れないでね」
「・・・はい」
いきなり味方だと言われても、今まで言葉と言う言葉を交わしたことがない皇后をシンは信じる気持ちにはなれないのだった。
シンから目を離した皇太后は、テスト結果が書かれた報告書に目を落とし、深い溜め息を吐いた。
「ハァ、ここまで酷いとは・・・シン、来年度中等部に進学できる王族やその親戚筋の娘は、この2名だそうです。いい子なら良いのですが・・・もし違うようなら、気をつけなさい」
リストを渡されたシンは、その名前を見て顔を顰めた。
(はぁ、どっちも最悪だな。。。)
「その顔を見れば、あまり好ましくないような子たちのようですね。まぁ、シンが気に入るような子が、そのうち現れるでしょう。それまで気長に待つことにしましょう。その時は、この婆に一番に教えてるのですよ」
「・・・はい」
王族の子どもたちが激減した王族学園。
中等部に進学し、男子生徒とは少し話すようになったシンだが、女子生徒たちとは一切関わりを持とうとはしなかった。
(王族の代わりに社長令嬢が幅を利かせだしたか・・・思ってた通りだったな。あのテスト、学校全体ですれば良かったんだ)
何事もなく退屈な日々を送っていたシンだったが、突然その平穏な生活は終わりを告げた。
朝の挨拶の為、正殿に向かうと、皇太后と皇后は難しい顔をし、陛下は困ったような顔をしていた。
「シン、おはよう。話があります。ミンや、話してお上げなさい」
「・・・??」
「はい。昨日、外命婦の集まりがありました。そこで一人の夫人が、娘と一緒に太子に挨拶がしたいと申し出てきました」
「は?何の挨拶ですか?」
「王立学園に入学できた王族の娘の2人のうちの一人です。その夫人が言うには、皇太子妃候補はもう自分の娘以外にはいない。婚姻する年齢になるまでに今からあなたと親交を深めたいそうです。確かに中等部に在籍する王族の女生徒は2名だけで、王族から妃を選ぶならその2人の内のどちらかになるでしょうね」
「!!!」
「話は最後まで聞きなさい。ですが、その夫人の娘は合格ラインぎりぎりの成績でした。教養だけでいえば、もう一人の方が上でしょうね。ですから、今日2組の母子と面談をします」
「なっ・・・!!」
「クスクス、シン、落ち着きなさい。本当に皇太子妃の器かどうか見極めるだけです。あなたの嫌なことはしません」
「そうですよ、シン。私も少し面白い趣向を凝らしてみました。それを活用するかどうかは、シンあなた次第です」
「・・・はい」
(皇太后さまの面白い趣向って何だよ?見極めるって・・・俺は、会うこと自体嫌なんだ!!)
時間になり、重い足取りで皇后さまと面談する部屋へと向かう。
そこは外命婦が集まる建物の一室で、シンは建物自体初めて足を踏み入れた。
部屋に入ると、すでに2組の母子が座っており、シンは皇太后と4人と向かい合うように座った。
(くさっ・・・ここは、拷問部屋か!?早く終わらせてほしい・・・)
自信満々で自己紹介している娘たちを シンは興味なさげにあさっての方向を向いて聞き流していた。
その時、先触れもなく障子張りの引き戸が開き、最高尚宮が制服を着た少女を伴って入ってきた。
「最高尚宮、その子は誰ですか?」
「皇后さま、申し訳ありません。この者は女官希望の娘でございます。皇太后さまは、挨拶のついでに皇后さまのお仕事ぶりを拝見させるようにとの仰せです。どうぞ私たちに構わず、お話をお続けになってください」
(あっ、あの時の!あの子、ビックリした顔で最高尚宮の顔を見てるぞ。また最長老に騙されたみたいだな。クククッ、皇太后さまの面白い趣向って・・・皇太后さま、ありがとうございます。目一杯、活用させていただきます)