皇后は、視線を最高尚宮から向かいに座る2組の母子に戻した。
「あなた方は、今日、こちらに来たのか分かっていますか?」
『はい♪』『はい、存じております』
「・・・それは、自分たちが皇太子妃に相応しいと考えていると思ってよいのか?」
『『はい・・・』』
「では、ホ・イジェからどの辺りが相応しいのか述べてみよ」
『はい。王立学園にそのまま進級できましたし、私の方がヘウォンより美人だからです』
その発言に隣に座る母子は、顔色を変えた。
「なるほど・・・ホ・イジェ、合格できたと言えどもそなたの成績は、合格ラインぎりぎり。今年度、入学してきた外部入学生はほぼ満点です。相当努力しないと進級は無理でしょうね。ですから、あなたの考えでは、たとえ綺麗でも1年後には皇太子妃に相応しくないとなります」
ホ母子は顔を真っ赤にして俯いてしまったが、反対にパク家の母子はニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「次、パク・ヘウォン」
『はい。私は、ほぼ満点で合格したはずです。いつも殿下の次にいい成績でした』
「・・・他には?」
『えっ!?』
「成績が良いだけなら、他にも皇太子妃に相応しい女性は大勢いる。せめて外国語が堪能ぐらい言ってほしいものです」
『///・・・・』
「ふぅ、気まずい空気になってしまった。パク・ヘウォン、一つ聞こう。将来、子どもをどのように育てたい?」
「えっ!?あ、はい。聡明で、殿下のような立派な皇太子になるよう育てたいです」
『そうなるには、どうするつもりなのです?』
「それは・・・乳母だけでなく、しっかりとした教育係を付けたら良いと思います」
その時、最高尚宮が隣に立つ少女の手をギュッと握ったのが、シンの視界に入った。
少女は一瞬驚いた顔をしたが、ムッとしたまま部屋を縦断し、次々と窓という窓を開け放っていった。
『ちょっと!いきなり窓を開けるとは、失礼ではないか!』
「すいません。あまりにも部屋の空気が悪かったものですから・・・香水、付けすぎです。皇后さまのお顔色、先程から相当お悪いですよ。まさか、お気づきではなかったのですか?」
『『えっ!?』』
「それから、少し私から質問してもよろしいですか?人類1/2の確率で女の子が生まれるんですが、女のお子さんができたらどうなさるんです?自分は産むだけで、その子も乳母と教育係を付けるんですか?」
『あっ・・・』
「子どもにこのような質問をされるのもおかしいとも思いましたが、この場合、愛情いっぱいかけて優しい子に育てたいが模範解答だと思います」
『///・・・・』
「それから、私も別会場でその学力テストなるものを受けました。すごく簡単でしたよ。あれなら、100点取って当たり前かと思います」
『///庶民の分際で、お黙り!!』
そう叫んだかと思うと、母親二人が立ち上がり、少女に掴みかかった。
「止めろ!!」
シンは咄嗟に立ちあがると、母親から少女を引き離し、自分の懐に入れた。
『『!!!!』』
「大丈夫か?」
「うん・・・助けてくれてありがとう。あなた、皇太子殿下だったのね。この間は、知らなくてごめんなさい」
「クスッ、構わない」
「太子、そのお嬢さんを知っているのですか?」
皇后に声を掛けられ、シンは少女を腕の中から解放した。
「・・・はい、皇后さま。最長老や皇太后さまの知り合いのようです。先日の学力テスト、僕も書筵堂でこの子と一緒に受けました。勿論、僕たちは中等部の入試問題ではなく高校部の入試問題でしたが・・・彼女は僕よりも早く終わって、隣で寝てましたよ。因みに彼女は満点でした」
『『!!!』』「「!!!」」
「信じられないですか?おい、その鞄の中、何が入ってるんだ?」
「えっ!?勝手に押し付けられたテキストと本だけど?」
「ちょっと見せて」
シンは、少女の鞄の中にあったテキストや本を机の上に置いた。
「おい、そこの二人。これは四書五経の一つ、孝経だ。皇太子妃に立候補するぐらいなら、これぐらいは理解してて当然だよな?ちょっと読んでみろ」
『『・・・・・』』
「何だ?読めないのか?なぁ、最長老の事だ。英語以外の外国語も習ってるだろ?何語だ?」
「ちょっと・・・話さないとダメ?すごく気まずいんだけど・・・」
「叶わない夢を見続けさせるほうが、あの人たちが可哀想だと俺は思うぞ。何か国語、話せるんだ?」
「・・・英語と日本語。あと今、フランス語を習ってる。次は、ドイツ語かイタリア語らしい」
『『!!!』』
「やっぱりな・・・サンキュ。最高尚宮のところに戻っていいぞ。」
シンはチェギョンが最高尚宮の許に戻るのを確認してから、ゆっくりと愚かな母子たちを睨んだ。
「ホント茶番だな。俺は5歳から英才教育を受け、中等部レベルの教養は身につけてる。中等部の間に高等部の知識と帝王学を学ぶ。当然だが、皇太子妃にも僕と同程度の教養は必要だ。悪いが、女官志望の彼女より劣る娘を僕は自分の隣に立たせるつもりはない!皇族の婚姻が早い事は俺以上にあんた達は知っている筈だ。あんたらの娘、間に合うのか?」
『『///・・・・・』』
「クスクス、シン、言葉が汚くなっていますよ。ですが、少々、驚きました。昔、私たちが子供の頃は、四書五経や伝統楽器の演奏は王族の嗜みの一つだったのですが・・・あなた方は、習わせておられないのですか?よくそれで皇太子妃に名乗りを挙げられたものです。ハン尚宮、この方たちがお帰りです。丁重にお見送りしてしてらっしゃい」
「かしこまりました。パク殿、ホ殿、お疲れさまでした。玄関までお見送りいたします。どうぞ」
意気消沈し出口に向かった4人だが、出口付近に立っていた少女に気がつくと、全員が態とぶつかって部屋から出ていった。
唖然としていた少女だったが、ぶつけられた肩を抑えながら、徐々に怒りで顔を紅潮させていった。
「クソジジイ、また私を嵌めたわね~~!!近くにいるんでしょ?出てきなさいよ!!」