目の腫れが引いたのか、やっとチェギョンはスプーンを目から離した。
「あれ?オンニ、まだいてくれたの?」
「はい・・・カク尚宮さまがおられないので誰の指示に従えばいいのか分からず、こちらでコン内官さまをお待ちしようかと・・・」
「じゃ座って、一緒にお話しましょうよ。ねぇ皇太子殿下の君、いいよね?」
「構わない。それよりその長ったらしい呼び方、止めてくれ。俺にも【イ・シン】という名前があるんだ」
「ん~、じゃシン君で♪シン君の許可が下りたよ。聞きたい事もあるし、オンニ座ってくれる」
「はい、では少し失礼させていただきます」
チェ女官が向かいのソファーに座ると、チェギョンはニッコリと笑った。
「まずは自己紹介。ソウル第一中学校1年のシン・チェギョンです。今日は狸に騙され、ここに来ました。宜しくお願いします」
「クスクス、チェギョン、狸じゃ誰か分からないって。チェ女官、最長老の事だ」
「えっ!?最長老さまは狸・・・なのですか?あっ、失礼しました。女官のチェです」
「オンニ、一つ聞いていいかなぁ。。。この部屋、何でガラス張りの扉なわけ?インテリア的にはオシャレだとは思うよ。でもこれじゃシン君、まったくプライベートがないよね?シン君は動物園で飼育されてる動物じゃないんだから、木製のドアに替えてあげるわけにいかないの?」
「私どもの一存では・・・コン内官さまにご相談されてはいかがでしょうか?」
「シン君、諦めてないで相談しなよ。嫌な事は嫌だって言わないと、胃に穴が開くよ」
「・・・なぁ、俺、そんな事今考えてなかったけど、どうして分かったんだ?」
「ん~・・・変態のアッパがいるから?」
「は?」
「うちのアッパ、ちょっと変わってるのよ。『男には、知られたくない秘密が1つや2つはあるもんだ。特に中学生になったら絶対だ。だからアッパの部屋には絶対に入るな!』って、絶対に入れてくれないのよね。あれは、絶対に如何わしい雑誌をコレクションしてるんだと思う。だから、シン君もそうかな?と思った。違う?」
「・・・如何わしい雑誌は持ってないが、監視されてるようで落ち着かないのは確かだ」
「あの・・・殿下がご就寝された後、公務を終えられた皇后さまが、扉の外から殿下をご覧になられているのを何度も見たことがございます。おそらく皇后さまへの配慮ではないでしょうか?」
「・・・・・」
「ほら・・・シン君、やっぱりめちゃくちゃ愛されてんじゃん。でもシン君もお年頃だもんね。。。そだ、電話貸して」
「電話?」
「うん♪ちょっと買い物に行ってくる。シン君も良かったら、一緒に行く?」
「えっ!?でも俺が行ったら・・・」
「ハァ、あのねぇ・・・シン君、公務してないから、自分が思うほど顔知られてないわよ。知ってるのは、宮と王立の学校関係者ぐらいじゃない?現に私、知らなかったし・・・」
「・・・行く!」
「ふふふ・・・じゃ、オンニ、電話貸して」
「ですが・・・」
「大丈夫よ。屈強なSPが3人付いてるし、連れていってもらおうとしてる人にもSPが付いてるから・・・オンニ、電話、電話。早くぅ~」
チェギョンは、チェ女官に携帯を借りると、アドレス帳を開き、番号をプッシュした。
『誰だ?』
「オッパ?チェギョンよ。お買い物に連れていってほしいの。迎えに来て♪」
『ハァ?どっちの家だ?』
「ちょっと待ってね。ここから一番近い入り口ってどこ?」
「東宮殿の正面玄関」
「東宮殿の正面玄関だって。ソンジェお爺ちゃんに嵌められて、今、宮にいるのよ」
『ハァ!?・・・分かった。取りあえず今から行くから、15分後に玄関前に出てこい』
「あっ、来るとき、私の部屋からミシン持って来てくれる?」
『無茶言うな!!とりあえず、今から行くから、待ってろ』
通話が終わり、チェギョンはご機嫌で、チェ女官に携帯を返した。
そして、シンから定規を借りると、椅子を移動させドアの寸法を測りだした。
「チェギョン、何してるんだ?」
「見て分からない?ドアの寸法を測ってるのよ。ここにカーテンをつけたら、少しはプライベートが確保できるでしょ?」
「えっ!?」
「普段は開けておいて、自分の時間が欲しい時は閉める。カーテンが閉まっていれば、オンニ達は部屋には入らない。それから皇后さまには、顔が見たい時には一声かけて、遠慮なく部屋の中に入ってきてもらおう。皇后さまも本当はそうしたいんだと思うしね。どう?」
「チェギョン・・・それなら我慢できる」
「じゃ、今からカーテン生地を買いに行くわよ。シン君、地味な私服に着替えて。中学生がスーツ姿って、普通あり得ないから・・・」
「分かった」
シンは、さっきの憂鬱な気分だったのが一気に吹っ飛び、いそいそとクローゼットのある寝室に入っていくのだった。
(チェギョンといると心が軽くなる。。。ずっと宮にいてくれたらいいのに・・・ん?)