チェギョンは、誰かに包まれ幸せな気持ちで朝を迎えた。
そして目が覚め辺りを見回すと、目の前にシンの寝顔があり、思わずのけ反ってしまった。
(な、な、何でシン君と寝てるの~~~!?)
チェギョンが身じろぎしたため、シンは無意識にチェギョンをギュッと抱きしめ直した。
「ちょ、ちょっとタンマ。シン君、起きて!」
「ん・・・チェギョン?」
「はい、私です。悪いけど、この腕を離してなぜこの状況になってるのか説明してちょうだい」
「眠い・・・今、何時?」
「何時って、気にするとこはそこ?!今、6時ちょっと前」
「はっ、起きないと!!チェギョン、おはよう。気分はどう?」
「おはよう。そうじゃなくて、どうして私はシン君と一緒に寝てたのかなぁ?」
「ああ、皆、事件の調査や事情聴取で忙しいみたいで、俺しか暇な奴がいなかったから預かった。ジフさんが、俺なら大丈夫だろうって・・・」
「ジフオッパが?」
「うん。さぁ、俺も起きて着替えないと・・・チェギョン、どうする?」
「着替え?あっ・・・私、制服のまま寝ちゃったの?どうせお泊りさせてくれるなら、パジャマに着替えさせてよね」
「ゴメン、そこまで気が回らなかった。俺の服、何か着るか?」
ベッドでゴソゴソと話していると、扉の向こうから遠慮がちにノックの音が聞こえた。
「殿下、チェギョンさま、よろしいでしょうか?」
「コン内官?どうぞ入ってきてください」
コン内官が、キャリーバックを持って部屋に入ってきた。
「殿下、チェギョンさま、おはようございます。殿下、今日の朝のご挨拶は中止になりました。その代り、午前10時より王族たちの不祥事の調査報告が正殿居間にて行われます。その報告会にチェギョンさまとご一緒にご出席されるようにとの事でございます」
「げっ、私もですか?」
「はい、是非ご出席されるようにと陛下より伝言でございます」
「はぁ・・・分かりました」
「それから、シン元内官の使いの者が来て、こちらをお預かりしました。着替えだそうです。あとチェギョンさまの朝食もお預かりいたしました。そちらは食堂にお持ちしておきました」
「分かりました。お手数をおかけいたしました」
「では、10時前にお迎えに参ります。それまでごゆっくりなさってください」
コン内官は一礼をすると、部屋から出ていった。
チェギョンは、コン内官が置いていったキャリーバックを広げると、深いため息を吐いた。
「はぁ・・・何で韓服が入ってるのかなぁ・・・ホント勘弁してほしい」
「チェギョン?韓服、一人で着れるか?何なら女官呼ぼうか?」
「それは大丈夫。でも頭がね・・・まぁ、適当でいっか。シン君、着替えよう」
チェギョンは、シンの事を気にすることなく制服をパッと脱ぎ捨てると韓服に着替えはじめた。
(おい、おい、チェギョンちゃん。お前には恥じらいってもんがないのか!?)
シンは、頭を振りながらクローゼットの中に消えるのだった。
スーツと韓服に着替えたシンとチェギョンは、食堂へと向かった。
チェギョンは、食堂に入った瞬間眉を顰め、頭を下げていた女官に声を掛けた。
「オンニ、私は招かねざる客なんでしょうか?」
「えっ、いえ・・・」
「では、庶民は皇族と同じテーブルで食事するだけでも有難く思えと言いたいのでしょうか?」
「あ、あの・・・決してそのようなことは・・・」
「じゃあこの配膳の仕方の意図は何ですか?私は今まで色々な所に御呼ばれしましたが、こんな扱いをされたのは初めてです。シン君、悪いけど帰る」
「えっ、チェギョン?」
チェギョンが食堂を出て行こうとした時、チェ女官がお茶を持って入ってきた。
「殿下、姫さま、おはようございます。いかがされましたか?」
「チェ女官、チェギョンが急に怒り出して・・・頼む。引き留めてくれ」
チェ女官はダイニングテーブルを見て、すぐにチェギョンの怒りを理解し、すぐに椅子の位置を移動させた。
「姫さま、申し訳ありません。食事は楽しく食べなければ栄養にならない。姫さまのお爺さまのお教えを失念しておりました」
「へ?オンニ?お爺ちゃんを知ってるの?」
「はい。私は慶州のリンゴ園出身で、ソウルに上京してきた際、1月ほど姫さまの家に居候させていただいておりました」
「そうなんだ・・・」
「昨日、私たちの上司である尚宮さまが拘束されたため、ここ東宮殿を取り仕切る者がおらず、女官たちは右往左往している状態です。どうか姫さまがご理解してくださり、お怒りを鎮めていただけませんか?」
「・・・分かった。私も怒ってゴメン。シン君、ご飯食べよう」
「あ、ああ・・・」
シンとチェギョンは長いテーブルの一角に肩を寄せ合って座り、チェギョンは重箱を広げた。
「げっ、アジョシ、朝から豪華すぎる・・・シン君も食べなよ」
「・・・ん?チェギョンの箸やスプーン、何か重そうだな。いつも持ち歩いてるのか?」
「ああ、これ?純銀なんだ。ヒ素系の毒物は、銀に反応するからね。念のため・・・因みに青酸系はアーモンド臭がするらしいから、その手の料理は食べない。さぁ、食べよう」
シンは事もなげに言うチェギョンに驚いたが、気を取り直し自分も何でも無いように振舞うのだった。
(毒物を混入されたことがあるんだろうな・・・チェギョンは俺よりも過酷な生活だったんじゃないか?)
「チェギョン、苦労してんだな」
「・・・有閑倶楽部の年寄りってさぁ、皆、一癖も二癖もある人ばっかりなのよ。スンホ爺ちゃんとか特にね。だからセキュリティーは万全なんだけど、その所為で使用人や料理人が狙われるのよ。お金で懐柔されて、盗聴器とかは昔は日常茶飯事だったんだ。過酷な環境で育つと余計な知恵というか生きる術が身に付くわけよ。特に家庭教師が、ジフオッパやウビンオッパ達でしょ?!あの人たちと一緒にいたら、性格歪むよぉ~♪ケラケラ・・・・」
「・・・・・」
(まだ12年しか生きてないけど、俺が今まで出会った人の中で、チェギョンが一番真直ぐで心がキレイな人間だ。恥ずかしくて言えないけど・・・)